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特別支配株主の株式等売渡請求とは?株式を強制的に買いあげる制度を解説!

従業員にうつ病など精神疾患の兆候が出たときに会社がとるべき対応
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

会社が成長してくると、会社内部で対立が起こってしまうことがあります。その一つの典型例が、大株主である社長と少数株主の対立です。

この対立の解決のために有効な手段は、社長が少数株主から株式を買い取ってしまうことです。

そのため、「社長の経営方針に反対する少数株主から株式を買い取りたい」、「一緒にやってきた取締役が退任することになり、取締役が保有している株式を買い取りたい」というご相談がよくあります。

少数株主からの株式の買い取りについては、平成27年5月に新しい制度として「株式等売渡請求」がスタートし、今までよりもスムーズに株式の買い取りが可能になりました。

今回は、この新制度の「株式等売渡請求制度」についてご説明したいと思います。

 

▶【参考情報】株式等売渡請求に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績については以下をご参照ください。

スクイーズアウトの価格決定申立の裁判を起こされ請求額の約3割で解決した事例

 

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1,【平成27年5月新設】
大株主が少数株主から強制的に株式を買い取れる「株式等売渡請求制度」とは?

平成27年5月に新設された大株主が少数株主から強制的に株式を買い取ることができる制度は、「特別支配株主による株式等売渡請求制度」と呼ばれる制度です。

特別支配株主による株式等売渡請求制度では、90%以上の株を保有している株主(特別支配株主)が、適切な価格を提示して、少数株主の株式を買い取ることを通知した場合に、一方的に株式を買い取ることができます。

そもそも、少数株主から株式を買い取る場合、まずは少数株主に買い取りを提案し、少数株主が株式の売却やその代金について了解すれば、買い取ることが可能です。

話し合いによる株式の買い取りについては以下の記事をご参照ください。

 

 

しかし、実際には、少数株主が株式の売却を拒むケースや、代金について折り合いがつかないケースがあり、必ずしも、少数株主との話し合いがまとまるとは限りません。

そこで、従来から利用されてきた方法として、「全部取得条項付種類株式」という制度を利用して少数株主から株式を強制的に買い取る方法がありました。

しかし、この方法は、株主総会の特別決議が必要で、手続きが面倒であるというデメリットがありました。

これに対し、平成27年5月に新設された、「特別支配株主による株式等売渡請求制度」では、以下のメリットがあります。

 

(1)特別支配株主による株式等売渡請求制度の2つのメリット

 

  • 1,少数株主の同意がなくても強制的に株式を買い取ることができること。
  • 2,株主総会決議が必要なく手続きが簡単なこと。

 

そして、この制度を利用することができるのは、90%以上の株式を保有している株主に限られ、「特別支配株主」と呼ばれます。

まずは、90%以上の株を保有している場合に、簡単な手続きで少数株主から株式を強制的に買い取ることができる制度が新設されたという点をおさえておきましょう。

 

2,「特別支配株主による株式等売渡請求制度」の手続きの流れ

次に、「特別支配株主による株式等売渡請求制度」により、株式を強制的に買い取る手続きの流れをご説明します。

「特別支配株主による株式等売渡請求制度」は以下の4ステップです。

 

手続き1:
特別支配株主が、株式の取得日、買取代金の額等を決めて、会社に株式売り渡し請求をすることを通知する。

手続き2:
株式等売渡請求について、会社の承認を得る。

手続き3:
会社が少数株主に対して、株式の取得日の20日前までに、特別支配株主から売渡請求がされ、会社が承認したことを通知する。

手続き4:
「手続き1」で会社に通知した「取得日」に、株式が少数株主から特別支配株主に移転する。

 

以下で順番に詳しくご説明します。

 

手続き1:
特別支配株主が、株式の取得日、買取代金の額等を決めて、会社に株式売り渡し請求をすることを通知する。

特別支配株主は、少数株主から株式を取得する日、買付代金の額、買付代金支払いのための資金確保の方法等を決める必要があります。

このときに、注意しなければならないのは、「すべての少数株主に対して売渡請求をしなければならず、一部の少数株主だけをターゲットに売渡請求することはできない」という点です。

また、「株式の取得日」も特別支配株主が決めることができますが、「手続き3」のステップで、取得日の20日前までに会社は少数株主に対する通知をする必要があることから、その分の余裕をもって取得日を設定しておくことが必要です。

なお、「買取代金」については、公正なものであることが必要です。算定の方法を会社に通知しなければなりませんので、税理士や公認会計士に算定してもらいましょう。

 

手続き2:
株式等売渡請求について、会社の承認を得る。

取締役会がない会社では、代表取締役の承認を得ることになります。取締役会がある会社では、取締役会の承認を得ることになります。

このように、代表取締役の承認あるいは取締役会の承認で済むため、株主総会を招集するなどの面倒な手続きは必要ありません。

ただし、会社は、買取請求の内容が相当であると判断して承認した理由を書面に記載して、会社に備え付ける必要があります。

 

手続き3:
会社が少数株主に対して、株式の取得日の20日前までに、特別支配株主から売渡請求がされ、会社が承認したことを通知する。

会社は、少数株主に対して、特別支配株主が指定した取得日の20日前までに、特別支配株主から売渡請求がされ、会社が承認したことを通知します。

このときに、会社は少数株主に対して、特別支配株主の氏名、住所、買付代金の額などもあわせて通知しなければなりません。

そして、会社は、本社所在地に株式等売渡請求の内容について記載した書面を備え置き、少数株主から閲覧の請求があれば、閲覧させることが義務付けられています。

 

手続き4:
「手続き1」で会社に通知された「取得日」に株式が少数株主から特別支配株主に移転する。

特別支配株主が決めて会社に通知した「取得日」が来た時点で、代金の支払いを待たずに、株式が移転します。

あとは、特別支配株主から少数株主に代金の支払いをすることになります。

このように、買い取られる側になる少数株主の同意がなくても、スピーディーに買い取りができることが「特別支配株主による株式等売渡請求制度」の特徴です。

この制度では、買取代金についても、特別支配株主が決めることができます。

買取代金に不満がある少数株主は、裁判所に価格決定の申立ができますが、その場合であっても、株式の買い取りの効果は取得日に発生しており、あとは代金額の問題が生じるにすぎません。

ただし、あまりにも不当な代金額で売渡請求をすると、裁判所が買い取りの効果を認めなかったり、売渡請求を承認した代表取締役に対して損害賠償請求がされることもあります。

この点は、注意点として、おさえておきましょう。

 

3,少数株主から株式を買い取る具体的なメリットについて

少数株主から強制的に株式を買い取ることができる新制度についてご説明しましたが、最後に、少数株主から株式を買い取ることで「どのようなメリットがあるか?」を確認しておきたいと思います。

少数株主から株式を買い取るメリットの主な点は、以下の2点にあります。

 

  • メリット1:少数株主から株式を買い取っておくことにより、株主総会開催の手間が省ける。
  • メリット2:少数株主から株式を買い取っておくことにより、将来の訴訟リスクを減らせる。

 

これらの点について、順番に見ていきましょう。

 

メリット1:
少数株主から株式を買い取っておくことにより、株主総会開催の手間が省ける。

たとえば、取締役の役員報酬については、毎年、事実上社長が決めてしまうという会社も多いと思います。

しかし、法律上は、役員報酬の金額は、定款に記載がない限り株主総会の決議が必要です。そして、現実には、全株主に同意書を提出してもらって株主総会を省略する方法をとられている会社も多いと思います。

この「株主総会を省略する方法」は、会社法でも認められている適法な方法ですが、株主全員が同意することが必要です。

そのため、仮に、社長に反対派の少数株主がいれば、株主総会を省略することができません。そうすると、開催の2週間前までに、少数株主を含む株主全員に対し、法律上の形式に沿った招集通知を送ったうえで、株主総会を開かなければなりません。

このような株主総会開催の手間を踏まなければ、役員報酬を決めることができなくなり、大変面倒です。

そして、「役員報酬の決定」の例でご説明しましたが、実際には、株主総会決議が必要な事項は、「決算の報告」、「役員の選任」など多岐にわたります。

少数株主から株式を買い取っておくことは、「役員報酬の決定」、「決算の報告」、「役員の選任」などのために、株主総会を開催しなければならなくなる手間を省くことができるというメリットがあるのです。

 

メリット2:
少数株主から株式を買い取っておくことにより、将来の訴訟リスクを減らすことができる。

社長は代表取締役として、株主に対して責任を負っています。そのため、不適切な経営によって会社に損害を与えたときは、株主から訴訟を起こされるリスクがあります。

たとえば、以下のようなケースです。

 

事例1:
代表取締役が自社商品を不当に安く売却したとして、株主から訴えられ、9400万円の損害賠償を命じられた事例(昭和58年2月18日名古屋地方裁判所判決)

 

事例2:
代表取締役が、競合他社の経営も行っていたとして、株主から訴えられ、1627万円の損害賠償を命じられた事例(平成19年10月25日名古屋地方裁判所判決)

 

事例3:
代表取締役が株主総会を開催しないで役員賞与を支払ったことについて、株主から訴えられ、約669万円の損害賠償を命じられた事例(平成12年6月22日東京地方裁判所判決)

 

その他、グループ企業の支援のために自社の資金を使ったなどのケースでも、自社にとってみれば損害となる可能性が高く、訴訟リスクを抱えることになります。

社長の方針に反対する少数株主から株式を買いとっておくことは、このような将来の訴訟リスクを減らすことができるというメリットもあるのです。

少数株主からの株式の買取により、株主が社長だけになれば、「株主から訴えられるリスク」を気にする必要はなくなります。

 

上記の2つのメリットを踏まえると、買い取り代金の出費をともなっても、社長に反対派の少数株主の株式は買い取っておいたほうがよいケースが多いといえます。

 

4,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へ問い合わせる方法

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6,まとめ

今回は、平成27年5月に新設された、「特別支配株主による株式等売渡請求制度」についてご説明しました。また、少数株主から株式を買い取っておくことにどのようなメリットがあるかについてもご説明しました。

「特別支配株主による株式等売渡請求制度」は、90%以上の株を保有している株主だけに可能な制度です。90%に満たない株主であっても、株主の3分の2以上の賛成が得られれば、手続きがやや複雑にはなりますが、「全部取得条項付種類株式」という制度を利用して少数株主から株式を強制的に買い上げることも可能です。

まず、自社の株主構成を再度確認したうえで、今回ご説明した、少数株主から株式を買い取っておくことのメリットも踏まえて、株式の買い取りを進めるかどうか考えていきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

このほか、現在、行方不明であったり連絡がとれない株主がいる場合は、その株主の株式を会社が買い取ってしまう制度も会社法上存在します。「所在不明株主の株式売却制度」と呼ばれます。この制度は、この記事でご紹介した「特別支配株主による株式等売渡請求制度」と違い、90%以上の株を保有していない場合でも利用できます。

「所在不明株主の株式売却制度」については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

所在不明株主の放置はリスク大!3つの解決方法をわかりやすく解説

 

7,【関連情報】株式に関するその他のお役立ち記事一覧

今回の記事では、「特別支配株主の株式等売渡請求とは?株式を強制的に買いあげる制度を解説」についてご説明しました。

またこの他にも株式に関連したお役立ち情報も以下でまとめておきますので、合わせてご覧ください。

 

株式譲渡契約書を解説!作成時の注意点やひな形利用の危険性について

スクイーズアウトとは?進め方や具体的な方法3つを解説。

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事更新日:2022年8月29日
記事作成弁護士:西川 暢春

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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