従業員の未払い残業代請求における企業側の反論の重要ポイントを弁護士が解説

従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき反論とは?

会社経営をして従業員を雇用している場合、よくあるトラブルの1つが「未払い残業代トラブル」です。

実際に咲くやこの花法律事務所でも、労務・労働問題の弁護士への相談の中で多いトラブルの1つが「残業代トラブル」です。
会社の未払い残業代については、法律上、以下のペナルティが定められています。

未払い残業代に関する法律上ペナルティ

ペナルティ1:付加金制度

裁判所で未払い残業代が悪質と判断された場合、本来の残業代の額と同額までの範囲で「付加金」というペナルティの意味合いを持つ金銭の支払いを命じられます。

ペナルティ2:遅延損害金制度

残業代については、在職中は「6%」、退職後は「14.6%」「遅延損害金」がつきます。

 

このように、従業員と未払い残業代トラブルが裁判になれば、「付加金」、「遅延損害金」等が加わり、本来の残業代の額の倍額以上の支払いを命じられるリスクがあります。更には、管理職からの未払い残業代請求では、高額の支払い命令にもつながる可能性もあります。

実際に未払い残業代請求で企業側が敗訴すると、以下のように高額の残業代支払いを命じられています。

未払い残業代請求の事例の主な企業側敗訴判決

1,康正産業事件
(平成22年2月16日鹿児島地方裁判所判決)

事案の概要:

飲食店の店舗責任者による残業代請求

裁判の結論:

企業側敗訴額「732万円」


2,エイテイズ事件
(平成20年3月27日神戸地方裁判所尼崎支部判決)

事案の概要:

衣料品メーカーの課長による残業代請求

裁判の結論:

企業側敗訴額「719万円」


3,育英舎事件

(平成14年4月18日札幌地方裁判所判決)

事案の概要:

学習塾経営会社の営業課長による残業代請求

裁判の結論:

企業側敗訴額「360万円」

今回の記事では、裁判になればリスクが大きい従業員の未払い残業代請求をめぐるトラブルについて、「会社側はどのように反論していけばよいのか?」を、企業側の勝訴判例の分析などを参考にあげながら、見ていきたいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

 

1,今回の記事を読めばわかる要点

●従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき反論方法を弁護士が解説。
1,従業員が主張している労働時間に誤りがある。
2,残業を禁止していた。
3,管理監督者であり、残業代が発生しない。
4,固定残業手当により残業代は支払い済みである。
5,残業代について消滅時効が完成している。

●【PICK UP!】管理職の残業代に関する法律上のルールについて。

●企業側勝訴判例の分析でわかる!管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントを弁護士が解説
1,「労務管理上の重要な権限」があったことを主張する。
2,「経営方針の決定に関与する立場」にあったことを主張する。
3,「出退勤が自由」であったことを主張する。
4,「残業代を支払わなくても問題がないような待遇」を受けていたことを主張する。

●【PICK UP!】営業職や外回り社員の残業代に関する法律上のルールについて。

●企業側勝訴判例の分析でわかる!営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントを弁護士が解説。
1,直行直帰が多く、就業時間管理が困難であったことを主張する。
2,会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったことを主張する。
3,事後的にも会社に行動スケジュールを報告させていなかったことを主張する。
4,社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったことを主張する。
5,社外業務に就業時間管理をする者を同行させていなかったことを主張する。

 

2,従業員から未払い残業代を請求された場合に検討すべき反論方法を弁護士が解説

従業員から未払い残業代を請求された場合に、それが適切な請求であるときは、すみやかに支払わなければなりません。

一方、従業員からの請求が過大な請求であるときは、会社側において適切な反論をする必要があります。
会社が検討すべき主な反論は、以下の通りです。

従業員から未払い残業代を請求された場合に検討すべき5つの反論

反論方法1:
従業員が主張している労働時間に誤りがある。

反論方法2:
残業を禁止していた。

反論方法3:
管理監督者であり、残業代が発生しない。

反論方法4:
固定残業手当により残業代は支払い済みである。

反論方法5:
残業代について消滅時効が完成している。

以下で順番に見ていきましょう。

 

2−1,
反論方法1:従業員が主張している労働時間に誤りがある。

従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき5つの反論の1つ目は、「従業員が主張している労働時間に誤りがある」という反論です。

これは、「従業員が残業をしたとして請求している時間が、実際の労働時間以上に過大に請求されている」ということを根拠とする反論です。

この反論を認めた裁判例としては、例えば、以下のようなものがあります。

従業員が主張している労働時間に誤りがあることを理由とする会社の反論を認めた裁判例

裁判例1:
アイスペック・ビジネスブレイン事件
(平成19年4月6日大阪地方裁判所判決)

裁判の結論:

請求額約230万円に対し、裁判所は請求を認めず、残業代0円と判断しました。

事案の概要:

本件は人材派遣会社の事業部長の役職にあった従業員が退職後に未払い残業代を請求した事件です。

従業員の請求:

従業員はタイムカードの打刻時間を労働時間として未払い残業代を請求しました。

会社側の反論:

会社は、「タイムカードの打刻時間中に、この事業部長が自分が経営しようとする会社の準備行為に多くの時間を充てていた」と反論しました。

裁判所の判断:

裁判所は、会社の反論を認めて、従業員の残業代請求を認めませんでした。


裁判例2:

コンビニエンスストア運営会社事件
(平成26年8月26日東京地方裁判所判決)

裁判の結論:

約288万円の請求を約243万円に減額

事案の概要:

本件はコンビニエンスストアを運営する会社の従業員が退職後に未払い残業代を請求した事件です。

従業員の請求:

従業員はタイムカードの打刻時間を労働時間として未払い残業代を請求しました。

会社側の反論:

会社は、「従業員は勤務時間中、少なくとも毎日1時間は喫煙休憩をとっていたからその時間は未払い残業代の計算から除外されるべきだ」と反論しました。

裁判所の判断:

裁判所は、従業員が通常の休憩時間のほかに1日1時間程度の喫煙休憩をとっていたことを認め、その時間を残業代の計算から除外することを認めました。

 

このように、従業員がタイムカードの打刻時間中、業務と無関係なことを行っていたり、休憩をしていたケースでは、その時間分の残業代は認めないという反論が可能ですので、検討してみましょう。

▶参考:未払い残業代の裁判例について

未払い残業代トラブルについては、労務分野の中でもトラブルが多い分野のひとつです。従業員を雇用している経営者には全員関わる内容です。そのため、実際に発生している「未払い残業代の裁判例」なども参考にご覧になってください。

 

2−2,
反論方法2:残業を禁止していた。

従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき5つの反論の2つ目は、「会社は残業を禁止していた」という反論です。

この反論が認められた裁判例として以下のものがあります。

残業を禁止していたことを理由とする会社の反論を認めた裁判例

神代学園事件
(平成15年12月9日東京地方裁判所判決)

裁判の結論:

学園が残業禁止命令を出した後の残業代の請求を認めませんでした。

事案の概要:

本件は音楽の専門学校を運営する学校法人の従業員が退職後に未払い残業代を請求した事件です。

従業員の請求:

従業員は、「残業禁止命令が出た後も、仕事量から定時に終業できる状況ではなかった」と主張して、タイムカードの打刻時間を労働時間として未払い残業代を請求しました。

会社側の反論:

学校法人は、「教務部の従業員に対して時間外労働をせず、終業時刻後に残務がある場合は管理職に引き継ぐことを命じていた」として、残業禁止命令を出した後の残業は会社の指示によるものではないと主張しました。

裁判所の判断:

裁判所は、「使用者の具体的な残業禁止命令に反して、業務を行ったとしても、これを労働時間と解することは困難である」として、残業禁止命令後の残業代の請求を認めませんでした。

 

このように、会社が残業を禁止し、かつ、終業時刻後に残務がある場合の処理まで指示していたようなケースでは、「残業していたとしても会社の指示によるものではなく残業代は発生しない」と反論することが可能ですので、検討してみましょう。

一方、「形式的には残業を禁止しているが事実上残業を黙認していたケース」や、「残業許可制を採用しているが事実上無許可の残業を黙認していたケース」では、「残業代は発生する」と判断されていますので、注意が必要です。

 

2−3,
反論方法3:管理監督者であり、残業代が発生しない。

従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき5つの反論の3つ目は、「管理監督者であり、残業代が発生しない」という反論です。

但し、管理監督者における未払い残業代請求トラブルについては、場合によっては一般従業員の未払い残業代請求以上に多額の支払いを命じられるリスクが高いことなどから、この後の目次テーマで詳しく取り上げていますので、ここでは簡単に主なポイントだけご説明いたします。

労働基準法は41条で「監督若しくは管理の地位にある者」(一般に「管理監督者」と言われます)については、割増賃金の対象としないことを定めているため、管理監督者に該当する場合は法律上、残業代は発生しません。

この「管理監督者であり、残業代が発生しない」という会社の反論を認めた事例として以下のものがあります。

裁判例で管理監督者であるとする会社の反論を認めた職種の例

1,医療法人で看護師の求人業務を自身で行う権限を有していた人事課長
2,年商約13億円の旅行クラブ運営会社の総務を統括していた総務局次長
3,タクシー会社で従業員中、最高額の給与を支給され、多数の乗務員を指導する立場にあった営業次長
4,証券会社において支店を統括する立場にあった大阪支店長
5,自動車修理会社において、営業部所属従業員9名の管理業務を担当していた営業部長
6,理美容室5店舗を経営する会社でナンバー2の地位にあった総店長

 

このように従業員を指導する立場にある管理職については、「管理監督者」にあたるとして、残業代が発生しないと判断した裁判例があります。

管理職からの残業代請求の場合は、「管理監督者にあたり、労働基準法41条により残業代が発生しない」旨の反論を検討しましょう。なお、管理監督者であっても深夜割増賃金は支払う必要がありますのでこの点にも注意する必要があります。

会社が管理監督者からの未払い残業代請求を受けた場合に、具体的に「どのように反論していく必要があるのか?」について、この後、企業側の勝訴判例の分析をもとに企業側の反論の重要ポイントを詳しくご説明しておりますので、そちらも合わせてご覧下さい。

 

2−4,
反論方法4:固定残業手当により残業代は支払い済みである。

従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき5つの反論の4つ目は、「固定残業手当により残業代は支払い済みである」という反論です。

「定額残業代」あるいは「みなし残業手当」などの名称で、固定残業手当を毎月支給している会社については、「固定残業手当の支給によりすでに残業代が支払い済みである」という反論が可能です。
固定残業手当の支払いを根拠とする会社の反論を認めた事例として以下のものがあります。

固定残業手当の支払いを根拠とする会社の反論を認めた事例

事案の概要:

廃棄物収集・運搬の事業を経営する会社の従業員9名が残業代を請求した事件です。

裁判の結論:

従業員9名の請求額がそれぞれ「85万円~272万円」であったのに対し、これを「6万円~97万円」にそれぞれ減額しました。

従業員の請求:

従業員は、「会社は毎月の残業代が固定残業手当の額を超えた場合にその差額を支給しておらず、そのような固定残業手当の定めは無効である」として、固定残業手当は残業代の支払いにあたらないと主張しました。

会社側の反論:

会社は、「毎月45時間分の割増賃金について金額を明示して固定残業手当の制度を採用しており、その制度は有効であり、毎月45時間分の残業代は支払い済みである」として反論しました。

裁判所の判断:

裁判所は、固定残業手当の制度の有効性を認め、「毎月45時間分の残業代は支払い済みである」と判断しました。
なお、固定残業手当については、「就業規則や契約書での定め方」、「制度の運用方法」、「手当の金額の決め方」について十分な注意が必要です。

 

これらの点に十分留意せずに制度設計したために、固定残業手当の制度自体が裁判所で無効と判断されて会社側が敗訴するケースが相次いでいます。

▶参考:固定残業手当の制度設計についての解説

上記でご説明してきたとおり、固定残業手当については制度設計が正しくなければ、トラブルになった際に裁判で無効と判断されてしまいます。そのため、「固定残業手当の制度設計に関する注意点」はこちらに詳しく記載していますので、ぜひあわせてご確認ください。

 

2−5.
反論方法5:残業代について消滅時効が完成している。

従業員から未払い残業代を請求された場合に会社が検討すべき5つの反論の5つ目は、「残業代について消滅時効が完成している」という反論です。

残業代については、給与支払日の翌日から起算して「2年」で消滅時効にかかります。
具体例を挙げてご説明すると次の通りです。

残業代の消滅時効についての考え方の例

例えば、毎月末締め翌月10日払いで月給を支払う会社では、残業代についても毎月末締め翌月10日払いとなります。

そのため、平成28年4月分の残業代は平成28年5月10日が支払日となりますので、平成30年5月10日の経過で2年が経過し消滅時効が完成します。消滅時効の完成を理由とする会社の反論を認めた事例は多くあります。

ここでは、その1例として、以下の裁判例をご紹介します。

消滅時効の完成を理由とする会社の反論を認めた裁判例

個別指導塾事件
(平成27年2月13日東京地方裁判所判決)

裁判の結論:

未払い残業代の請求額「約221万円」を「約80万円」に減額

事案の概要:

個別指導塾を経営する会社で常勤講師として勤務していた従業員が退職後に未払い残業代を請求した事件です。

従業員の請求:

従業員は出勤簿の記載に基づき労働時間を算定し、約221万円の残業代を請求しました。

会社側の反論:

会社側は反論の1つとして、従業員の請求する残業代の一部についてすでに消滅時効が完成していることを主張しました。

裁判所の判断:

裁判所は会社の消滅時効の主張を認め、請求額約221万円のうち、時効期間が経過していない約80万円についてのみ支払いを命じました。

 

このように、未払い残業代の一部または全部について、消滅時効が完成している場合は、消滅時効完成を根拠とする反論が可能ですので検討してみましょう。

ここまでは、会社が従業員から未払い残業代を請求された場合の5つの反論方法をご紹介してきました。

冒頭でご説明した通り、未払い残業代の請求トラブルが裁判に発展すると、本来の金額の倍額以上の支払いリスクがあります。裁判前に適切な反論を加えて解決することが非常に重要ですので、しっかりとおさえておきましょう。

 

3,【PICK UP!】管理職の残業代に関する法律上のルールについて。

ここからは、一般従業員の未払い残業代請求以上に多額の支払いを命じられるリスクが高い、「管理職からの未払い残業代請求」についてピックアップしてご説明していきたいと思います。

最初に、前提として、管理職の残業代に関する「法律上のルール」についてご説明しておきたいと思います。

管理職の残業代に関する法律上のルール

ルール1:
労働基準法上の管理監督者に該当すれば、管理職には時間外割増賃金、休日割増賃金は発生しない。

ルール2:
労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、「経営者と一体的な地位にある従業員」かどうかを基準に裁判所が判断する。

以下で順番に見ていきましょう。

 

ルール1:
労働基準法上の管理監督者に該当すれば、管理職には時間外割増賃金、休日割増賃金は発生しない。

労働基準法は41条で「監督若しくは管理の地位にある者」については、時間外割増賃金、休日割増賃金の対象としないことを定めています。

そのため、管理職から未払い残業代請求があった場合に、「監督若しくは管理の地位にある者にあたる」という反論ができれば、未払い残業代請求に対する強力な反論になります。

ルール2:
労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、「経営者と一体的な地位にある従業員」かどうかを基準に裁判所が判断する。

労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、最終的には裁判所が判断します。

注意しなければならないのは、社内で「管理職」と扱われていても、裁判所で「管理監督者」にあたると判断されるとは限らないという点です。裁判所は、「経営者と一体的な地位にある従業員に限り管理監督者に該当する」という判断基準をとっており、明確な線引きはありません。

管理職から未払い残業代請求があった場合、企業側では「経営者と一体的な地位にある従業員だから管理監督者に該当する」という反論をしていくことになります。

まずは、管理職の残業代に関する法律上のルールとして、上記2点をおさえておきましょう。

 

4,企業側勝訴判例の分析でわかる!管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントを弁護士が解説

上でご説明した通り、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、「経営者と一体的な地位にある従業員かどうか」を基準に判断されます。

この判断基準を企業側勝訴判例の分析をもとに、もう少し具体的にみると、以下の点が重要な判断基準とされています。

労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかの判断基準

判断基準1:
管理職に「労務管理上の重要な権限」があったか。

判断基準2:
管理職が「経営方針の決定に関与する立場」にあったか。

判断基準3:
管理職の「出退勤」が自由であったか。

判断基準4:
管理職が「残業代を支払わなくても問題ないような待遇」を受けていたか。

 

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論も、この4つの判断基準を踏まえて行う必要があります。
具体的な反論ポイントは、4つの判断基準に対応して、以下のようになります。

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイント4つ

反論ポイント1:
管理職に、「労務管理上の重要な権限」があったことを主張する。

反論ポイント2:
管理職が、「経営方針の決定に関与する立場」にあったことを主張する。

反論ポイント3:
管理職の「出退勤が自由」であったことを主張する。

反論ポイント4:
管理職が「残業代を支払わなくても問題ないような待遇」を受けていたことを主張する。

 

以下では、「管理監督者に該当する」と裁判所が判断した企業側勝訴判例の分析結果を参考に、反論ポイント「1」から「4」についてさらに具体的に見ていきたいと思います。

 

4−1,
反論ポイント1:「労務管理上の重要な権限」があったことを主張する。

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの1つ目は、「管理職に、労務管理上の重要な権限があったことを主張する。」という点です。

「管理監督者」に該当するかどうかが問題になった裁判のうち企業側が勝訴した事件では、いずれも、裁判所は、「管理職に労務管理上の重要な権限があったこと」を管理監督者に該当すると判断する根拠としてあげています。

企業側勝訴判例で、「労務管理上の権限」についてどのような判断がされているかを見ると次のようになっています。

企業側勝訴判例による「労務管理上の権限」についての判断

企業側勝訴判例1:
徳洲会事件(昭和62年3月31日大阪地方裁判所判決)

事案の概要:

大手医療法人の人事課長について、管理監督者に該当すると判断した事例。

裁判所の判断:

人事課長に以下の通り従業員の採用、配置に関する重要な権限があったことを1つの根拠として、管理監督者に該当すると判断しました。

労務管理上の権限の内容:

1,従業員採用の決定権限:
看護師の募集業務全般を担当し、一般の看護師については自己の判断により採用を決定していた。

2,従業員配置の決定権限:
一般の看護師については自己の判断により配置する権限があった。


企業側勝訴判例2:

センチュリー・オート事件(平成19年3月22日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

自動車修理会社の営業部長について、管理監督者に該当すると判断した事例。

裁判所の判断:

営業部長に以下の通り従業員の管理、採用に関する重要な権限があったことを1つの根拠として、管理監督者に該当すると判断しました。

労務管理上の権限の内容:

1,従業員の管理の権限:営業部所属8名の出欠勤の調整、出勤表の作成などの管理業務を行っていた。
2,従業員の採用に関する権限:自らの判断で代表者に人員の補充を求めて代表者がこれに応じて新規従業員を募集、採用したことがあり、新規従業員の募集にあたっては代表者による採用面接に立ち会って代表者に意見を述べていた。

 

企業側勝訴判例3:
姪浜タクシー事件(平成19年4月26日福岡地方裁判所判決)

事案の概要:

タクシー会社の営業次長について、管理監督者に該当すると判断した事例。

裁判所の判断:

営業次長に以下の通り従業員の管理、指導、教育に関する重要な権限があったことを1つの根拠として、管理監督者に該当すると判断しました。

労務管理上の権限の内容:

1,従業員の管理の権限:200名余りのタクシー乗務員を他の2名の営業次長とともに管理していた。
2,従業員の指導、教育業務:点呼業務や乗務員に対する指導、新人教育などの業務を行っていた。


企業側勝訴判例4:

日本ファースト証券事件(平成20年2月8日大阪地方裁判所判決)

事案の概要:

証券会社の大阪支店長について、管理監督者に該当すると判断した事例。

裁判所の判断:

証券会社の大阪支店長として、従業員の採用、配置、人事考課に関する重要な権限があったことを1つの根拠として、管理監督者に該当すると判断しました。

労務管理上の権限の内容:

1,従業員採用の権限:大阪支店における中途採用者の採否の決定を行っていた。
2.従業員配置の権限:大阪支店内において組織変更の決定を行っていた。
3,従業員の人事考課の権限:大阪支店内の係長以下の人事考課を決定していた。


企業側勝訴判例5:

ことぶき事件(平成20年11月11日東京高等裁判所判決)

事案の概要:

理美容業の5店舗を経営する会社のナンバー2について管理監督者に該当すると判断した事例。

裁判所の判断:

労務管理上、従業員の指導・教育に関する重要な権限があったことを1つの根拠として、管理監督者に該当すると判断しました。

労務管理上の権限の内容:

理美容業の5店舗を経営する会社のナンバー2として、5名の店長を統括する立場にあった。

 

このように、いずれの企業側勝訴判決でも、管理職として労務管理上の重要な権限があったことが、「管理監督者」と認める重要な根拠とされています。

そのため、企業側の反論ポイントとしては、管理職が労務管理上の重要な権限を有していたことについて、詳細な主張を行うことが必要です。

具体的な主張のポイントは以下の通りです。

労務管理上の権限についての主張のポイント

1,従業員採用の決定権限があったか。
2,従業員配置の決定権限があったか。
3,従業員に対する人事考課の権限があったか。
4,従業員の出退勤の管理など、従業員の管理業務を行っていたか。
5,従業員への指導・教育業務を行っていたか。

 

なお、採用や人事考課について、必ずしも最終的な権限を有していなければ、「管理監督者」として認められないわけではないということに注意しておきましょう。

「企業側勝訴判例2:センチュリー・オート事件」では、営業部長からの残業代請求訴訟において、「最終的な人事権はなかったが、人事の決定に営業部長の意向が反映されていた」として、管理監督者であると判断されています。

このように最終的な決定権限がなくても、決定の過程で意見を聴かれ、それが反映される立場にあれば、「労務管理上の重要な権限があった」として、管理監督者と認められる余地があることをおさえておきましょう。

 

4−2,
反論ポイント2:「経営方針の決定に関与する立場」にあったことを主張する。

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの2つ目は、「管理職が、経営方針の決定に関与する立場にあったことを主張する。」という点です。

実際に上でご紹介した企業側勝訴判例で、「経営方針の決定への関与」についてどのような判断がされているかを分析すると次のようになっています。

企業側勝訴判例による「経営方針の決定への関与」についての判断

企業側勝訴判例2:
センチュリー・オート事件(平成19年3月22日東京地方裁判所判決)

経営会議やリーダー会議にメンバーとして参加していた。

企業側勝訴判例3:
姪浜タクシー事件(平成19年4月26日福岡地方裁判所判決)

経営協議会にメンバーとして参加していた。

企業側勝訴判例4:
日本ファースト証券事件(平成20年2月8日大阪地方裁判所判決)

責任者会議に出席し、大阪支店の経営状況の総括を提示していた。

企業側勝訴判例5:
ことぶき事件(平成20年11月11日東京高等裁判所判決)

理美容業の5店舗を経営する会社のナンバー2として、毎月の店長会議に代表者と共に出席し、各店舗の改善策について代表者から意見を聴かれていた。

 

特に、「経営にかかわるメンバーのみで開催される会議への出席」という事情があれば、管理監督者として認められやすくなる傾向にありますので、この点を主張していくことは重要なポイントです。

 

4−3,
反論ポイント3:「出退勤が自由」であったことを主張する。

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの3つ目は、「管理職の出退勤が自由であったことを主張する。」という点です。

前出の5つの企業側勝訴判例で、「出退勤の自由」についてどのような判断がされているかを見ていきましょう。

企業側勝訴判例による「出退勤の自由」についての判断

企業側勝訴判例1:
徳洲会事件判決(昭和62年3月31日大阪地方裁判所判決)

タイムカードの打刻を義務付けれられていたけれども、出勤日における実際の労働時間は自由裁量により決定することができた。

企業側勝訴判例2:
センチュリー・オート事件(平成19年3月22日東京地方裁判所判決)

タイムカードを打刻していたが、遅刻、早退等を理由として基本給が減額されることはなかった。

企業側勝訴判例3:
姪浜タクシー事件(平成19年4月26日福岡地方裁判所判決)

出退勤時間について指示を受けることはなく、会社に連絡の上、出先から直帰したり、遅れて出勤することもあった。

企業側勝訴判例4:
日本ファースト証券事件(平成20年2月8日大阪地方裁判所判決)

一般社員と異なり、出退勤時刻の自己申告を義務付けられておらず、出欠勤や出退勤時間は管理されていなかった。

企業側勝訴判例5:
ことぶき事件(平成20年11月11日東京高等裁判所判決)

理容業の店舗の営業時間にあわせて出退勤していたが、このことは、管理業務のかたわら、顧客に対する理美容業務も担当していたことからくる合理的な制約であり、管理監督者であることを否定する理由にはならない。

 

このように、いずれの企業側勝訴判決でも、出退勤の自由について触れており、この点が「管理監督者」と認められるか否かの重要なポイントの1つとなっていることがわかります。

上記の判例も踏まえ、「出退勤の自由」に関する主張のポイントとして、以下の点をおさえておきましょう。

「出退勤の自由」に関する主張のポイント

1,タイムカードを打刻していただけでは出退勤の自由がなかったことにはならない。

「企業側勝訴判例1」、「企業側勝訴判例2」でタイムカードを打刻していたけれども、管理監督者として認められていることからもわかるとおり、タイムカードを打刻していただけでは出退勤の自由がなかったことにはなりません。

タイムカードを打刻していても、欠勤や遅刻について給与が減額されなければ出退勤の自由があったと言えるので、その点を主張することが必要です。

2,管理者が現場業務も担当している場合には、店舗の営業時間にあわせて出退勤していても、管理監督者であることを否定する理由にはならない。

「企業側勝訴判例5」で、店舗の営業時間にあわせて出退勤していた管理職について管理監督者と認められていることからもわかるとおり、管理職が現場業務も担当している場合に店舗の営業時間にあわせて出退勤することは、管理監督者であることを否定する理由にはなりません。

 

このように、管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論では、管理職の出退勤が自由であったことを具体的に主張していくことが反論のポイントとなります。

 

4−4,
反論ポイント4:「残業代を支払わなくても問題がないような待遇」を受けていたことを主張する。

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの4つ目は、「管理職が残業代を支払わなくても問題がないような待遇を受けていたことを主張する。」という点です。

こちらについても、前出の5つの企業側勝訴判例で、「管理職の待遇」についてどのような判断がされているかを見ていきましょう。

企業側勝訴判例による「管理職の待遇」についての判断

企業側勝訴判例1:
徳洲会事件判決(昭和62年3月31日大阪地方裁判所判決)

残業代が支給されない代わりに、責任手当や特別調整手当が支給されていた。

企業側勝訴判例2:
センチュリー・オート事件(平成19年3月22日東京地方裁判所判決)

給与支給額は代表者、工場長2名に次ぐ高い金額であった。

企業側勝訴判例3:
姪浜タクシー事件(平成19年4月26日福岡地方裁判所判決)

給与支給額が取締役を除く従業員の中で最高額であった。

企業側勝訴判例4:
日本ファースト証券事件(平成20年2月8日大阪地方裁判所判決)

月額80万円以上の給与が支給されていた。

企業側勝訴判例5:
ことぶき事件(平成20年11月11日東京高等裁判所判決)

店長手当として他の店長の3倍にあたる月額3万円の支給を受けおり、給与の総額も他の店長の1.5倍程度であった。

 

このように、いずれの企業側勝訴判例でも、「管理職としてふさわしい待遇がされていたかどうか」について触れており、待遇面が管理監督者かどうかの判断に影響を与えることがわかります。

上記の判例も踏まえて、管理職の待遇に関する主張については、以下のポイントをおさえておきましょう。

「管理職の待遇」に関する主張のポイント

1,残業代が支払われない代わりに、十分な役職手当等が支給されていたことを主張する。
2,従業員中で、給与の支給額が上位から何番目であったかを主張する。
3,管理職が他の一般従業員と比較して、高額の給与を得ていたことを主張する。

 

このように、管理職として十分な給与が支払われていたことを他の従業員と比較しながら具体的に主張・立証することが、企業側の反論のポイントとなります。

以上、会社が管理職から未払い残業代を請求された場合の4つの反論のポイントをご紹介しました。

 

5,【PICK UP!】営業職や外回り社員の残業代に関する法律上のルールについて。

続いて、管理職だけでなく、営業職や外回り社員についても残業代のトラブルになるリスクが高い職種です。
そこで、ここからは、「営業職や外回り社員からの未払い残業代請求」についてピックアップしてご説明していきたいと思います。

最初に、前提として、営業職や外回り社員の残業代に関する「法律上のルール」についてご説明しておきたいと思います。

営業職や外回り社員の残業代に関する法律上のルール

ルール1:
営業職や外回り社員も会社がタイムカードなどにより就業時間を管理して、残業代を支払わなければならないことが原則である。

ルール2:
「ルール1」の例外として、営業職や外回り社員について社外で活動することが多いために「就業時間の管理が難しい場合」には、「事業場外のみなし労働時間制」の適用が可能である。

ルール3:
「事業場外のみなし労働時間制」を適用する場合は、その対象となる従業員については原則として、残業代の支払いは必要ない。

ルール4:
「事業場外のみなし労働時間制」を適用できるかどうかは、「就業時間の管理が難しい場合」にあたるかどうかを基準に裁判所が判断する。

 

以下で順番に見ていきましょう。

ルール1:
営業職や外回り社員も会社がタイムカードなどにより就業時間を管理して、残業代を支払わなければならないことが原則である。

会社は従業員の就業時間を管理する義務があり、このことは原則として、営業職や外回りの社員についても同じです。

つまり、営業職や外回りの社員についてもタイムカードを打刻させるなどの方法によって就業時間を管理しなければならないことが原則です。その上で、就業時間が1日あたり「8時間」、1週あたり「40時間」を超える場合は、残業代を支払わなければなりません。

ルール2:
「ルール1」の例外として、営業職や外回り社員について社外で活動することが多いために「就業時間の管理が難しい場合」には、「事業場外のみなし労働時間制」の適用が可能である。

営業職や外回りの社員について、「訪問先への直行直帰が多い」などの事情により、会社で就業時間を管理することが難しいことがあります。

このような場合には、労働基準法上、例外として会社はルール1の就業時間管理義務を免除されます。
これが、「事業場外のみなし労働時間制」と呼ばれる制度です。

ルール3:
「事業場外のみなし労働時間制」を適用する場合は、その対象となる従業員については原則として、残業代の支払いは必要ない。

事業場外のみなし労働時間制を適用する場合は、その対象となる従業員については原則として、所定労働時間労働したものとみなされます。そのため、時間外割増賃金(残業代)の支払いは原則として必要ありません。

ただし、「事業場外のみなし労働時間制」を適用する場合でも、以下のケースでは例外的に残業代が発生します。

●「事業場外のみなし労働時間制」を適用する場合でも、例外的に残業代が発生するケース

ケース1:
深夜労働、休日労働の場合

深夜労働、休日労働に対する割増賃金は、事業場外のみなし労働時間制を採用している場合も発生します。

ケース2:
業務を遂行するために通常、所定労働時間を超えて就業することが必要となる場合

事業場外のみなし労働時間制を適用するときは、原則として所定労働時間労働したものとみなされるため、残業代が発生しませんが、通常、所定労働時間内に仕事が終わらないような事情があるときは、通常かかる時間について残業代を支払う必要があります。

 

「事業場外のみなし労働時間制」を適用する場合は、上記2つのケースを除いて残業代の支払いは必要がないという点をおさえておきましょう。

ルール4:
「事業場外のみなし労働時間制」を適用できるかどうかは、「就業時間の管理が難しい場合」にあたるかどうかを基準に裁判所が判断する。

労働基準法上、事業場外のみなし労働時間制が採用できるのは、「従業員の労働時間を算定し難いとき」に限られます。

そのため、営業職や外回りの社員であるからといって事業場外のみなし労働時間制を適用できるわけではなく、「労働時間を算定し難いとき」にあたること、つまり、「タイムカードなどによる就業時間の管理が難しい場合にあたること」が、事業場外のみなし労働時間制を採用するために必要です。

そして、「就業時間の管理が難しい場合」にあたるかどうかを最終的に判断するのは裁判所です。

そこで、営業職や外回り社員から未払い残業代請求の裁判が起こされた場合は、企業側では「就業時間の管理が難しい場合にあたり、事業場外のみなし労働時間制を適用できる場面である」という反論をしていくことになります。

まずは、営業職や外回り社員の残業代に関する法律上のルールとして、上記4つのルールをおさえておきましょう。

 

6,企業側勝訴判例の分析でわかる!営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントを弁護士が解説

前項でご説明した通り、「事業場外のみなし労働時間制」が適用できる場面に該当するかどうかは、「就業時間の管理が難しい場合にあたるかどうか」を基準に裁判所が判断します。

この判断基準を企業側勝訴判例の分析をもとに、もう少し具体的にみると、以下の点が重要な判断基準とされています。

営業職や外回り社員の「就業時間の管理が難しい場合にあたるかどうか」の判断基準

判断基準1:
勤務スタイルが直行直帰であったかどうか。

判断基準2:
会社が、営業職や外回り社員に対して、事前に行動スケジュールの指示をしていたかどうか。

判断基準3:
会社が、営業職や外回り社員から、事後的に行動スケジュールの報告を受けていたかどうか。

判断基準4:
営業職や外回り社員に対して、社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていたかどうか。

判断基準5:
営業職や外回り社員の社外業務に就業時間管理をする者が同行していたかどうか。

 

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論も、この5つの判断基準を踏まえて行う必要があります。

具体的な反論ポイントは、5つの判断基準に対応して、以下のようになります。

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイント5つ

反論ポイント1:
直行直帰が多く、就業時間管理が困難であったことを主張する。

反論ポイント2:
営業職や外回り社員に対し、会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったことを主張する。

反論ポイント3:
営業職や外回り社員が事後的にも会社に行動スケジュールを報告していなかったことを主張する。

反論ポイント4:
営業職や外回り社員に対して、社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったことを主張する。

反論ポイント5:
営業職や外回り社員の社外業務に就業時間管理をする者を同行させていなかったことを主張する。

 

そして、裁判所は、「就業時間の管理が難しい場合にあたるかどうか」をかなり厳格に判断しており、「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と裁判所が判断して企業側が勝訴した判例はごくわずかです。

以下では、数少ない企業側勝訴判例の1つである、「ヒロセ電機事件(平成25年 5月22日東京地方裁判所判決)」の分析を通じて、反論ポイント「1」から「5」についてさらに具体的に見ていきたいと思います。

 

6−1,
反論ポイント1:直行直帰が多く就業時間管理が困難であったことを主張する。

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの1つ目は、「直行直帰が多く時間管理が困難であったことを主張する」という点です。

顧客や営業先への直行直帰が多い場合、タイムカードなどによる就業時間管理が困難であることが多く、裁判所に「事業場外のみなし労働時間制」を認めてもらうための1つの事情といえます。

この点については、実際に「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断されて企業側が勝訴した「ヒロセ電機事件」の裁判例を題材に見ていきましょう。
ヒロセ電機事件の概要は以下の通りです。

企業側勝訴判例:ヒロセ電機事件

(平成25年 5月22日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

ヒロセ電機株式会社は電気機械器具の製造や販売を事業とする東証一部上場企業です。

この事件は、ヒロセ電機株式会社の従業員の1人が退職後に未払い残業代が存在するとして、会社に対して「約185万円」の残業代を請求する裁判を起こしたケースです。

争点:

本件では、この会社の従業員の出張あるいは直行直帰の日の残業代について、「事業場外のみなし労働時間制」が適用できるかが、争点の1つとなりました。

裁判所の判断:

裁判所は「会社が、従業員の出張あるいは直行直帰の日に事業場外のみなし労働時間制を適用したことは正当である」と判断し、企業側を勝訴させ、従業員の残業代請求を認めませんでした。

この事件では、会社がそもそも、出張や直行直帰の日にのみ事業場外のみなし労働時間制を適用していました。

そのため、裁判所もこれらの日については、会社において従業員の就業時間を管理することが困難であったと認め、会社が事業場外のみなし労働時間制を適用したことは正当であると判断しています。

 

一方で、就業時間管理が困難な場合にあたらないとして「事業場外のみなし労働時間制が適用できない」と判断された企業側敗訴判例としては次のようなものがあります。

企業側敗訴判例1:大東建託事件

(平成13年 9月10日福井地方裁判所判決)

事案の概要:

大東建託株式会社は、建築工事の請負や不動産売買などを事業とする東証一部上場の株式会社です。

この事件は、大東建託の営業職従業員の1人が退職後に未払い残業代が存在するとして、会社に対して残業代を請求する裁判を起こしたケースです。

裁判所の判断:

裁判所は「直行直帰は原則としてなく、始業時間・終業時間はタイムカードによって管理把握されていた」として、「就業時間の管理が難しい場合」にあたらないことを理由に、事業場外のみなし労働時間制の適用を認めず、会社に残業代の支払いを命じました。

 

このように、「直行直帰が多く時間管理が困難であったかどうか」が、事業場外のみなし労働時間制を裁判所に認めてもらえるかどうかの判断の分かれ目になります。

また、厚生労働省の通達でも、「事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外に指示通りに業務に従事し、その後事業場に戻る場合」には、時間管理が困難とはいえず、「事業場外のみなし労働時間制は適用できない」とされています。

企業側の反論ポイントとしては、「直行直帰が多く時間管理が困難であったこと」を主張することがポイントとなりますのでおさえておきましょう。

 

6−2,反論ポイント2:会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったことを主張する。

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの2つ目は、「営業職や外回り社員に対し、会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったことを主張する」という点です。

直行直帰が多い勤務スタイルであっても、会社が営業職や外回り社員に対して、「いつ、営業先を訪問して、いつまで営業先で仕事をするのか」などの具体的な行動スケジュールを指示している場合は、「就業時間の管理が難しい場合」にはあたりません。

そこで、「営業職や外回り社員に対し、会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったことを主張する」ことが重要なポイントとなります。

この点について、前述の企業側勝訴判例であるヒロセ電機事件で、以下の通り判断されています。

ヒロセ電機事件における裁判所の判断

ヒロセ電機事件で、裁判所は、「会社が従業員の社外での業務について、訪問先や訪問目的については指示をしていたが、具体的に何時から何時までにいかなる業務を行うか等のスケジュールについてまで詳細な指示をしていなかったこと」を「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断した理由の1つとして指摘しました。

このように、ヒロセ電機事件では、「会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったこと」が裁判所が「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断した理由の1つになっています。

 

これに対して、企業側敗訴判例としては次のようなものがあります。

企業側敗訴判例2:阪急トラベルサポート事件

(平成26年1月24日最高裁判所判決)

事案の概要:

株式会社阪急トラベルサポートは旅行のサポートなどを事業とする株式会社です。

この事件は、阪急トラベルサポートの海外旅行添乗員の1人が未払い残業代が存在するとして、会社に対して残業代を請求する裁判を起こしたケースです。

裁判所の判断:

裁判所は、事業場外のみなし労働時間制の適用を認めず、会社に残業代の支払いを命じました。

裁判所は、その理由として、以下の点を指摘しています。

●裁判所が事業場外のみなし労働時間制の適用を否定した2つの理由

理由1:
ツアーの旅行日程があらかじめ確定されていたこと。

理由2:
旅行日程の変更が必要となる場合には会社に報告して指示を受けることが求められていたこと。

これらの事情から、裁判所は、海外旅行添乗員は会社から事前に行動スケジュールの指示を受けており、「就業時間の管理が難しい場合にあたらないと判断しました。

 

このように、「会社から事前に行動スケジュールの指示をしていたかどうか」も、「事業場外のみなし労働時間制を裁判所に認めてもらえるかどうか」の判断基準の1つとなります。

企業側の反論ポイントとしては、「会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったこと」を主張することがポイントとなりますのでおさえておきましょう。

 

6−3,
反論ポイント3:事後的にも会社に行動スケジュールを報告させていなかったことを主張する。

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの3つ目は、「営業職や外回り社員が事後的にも会社に行動スケジュールを報告していなかったことを主張する」という点です。

会社が事前に行動スケジュールの指示をしていない場合でも、事後的に営業職や外回り社員から「いつ、営業先を訪問して、いつまで営業先で仕事をしたのか」などの具体的な行動スケジュールの報告を受けている場合は、「就業時間の管理が難しい場合」にはあたりません。

そこで、「営業職や外回り社員が事後的にも会社に行動スケジュールを報告していなかったことを主張する。」ことが重要なポイントとなります。

この点については、前述の企業側勝訴判例であるヒロセ電機事件でも以下の通り判断されています。

ヒロセ電機事件における裁判所の判断

ヒロセ電機事件で、裁判所は、「従業員の出張や直行直帰の場合に、事後的にも何時から何時までどのような業務を行っていたかについて会社に具体的な報告をさせていないこと」を「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断した理由の1つとして指摘しています。

 

これに対して、企業側敗訴の判例では、営業職や外回り社員に会社が事後的に行動スケジュールを報告させていたことを、事業場外のみなし労働時間制を適用できないと判断した理由にあげている裁判例がほとんどです。

たとえば、前の項目でご説明した、「企業側敗訴判例2:阪急トラベルサポート事件」では、以下の点が指摘されています。

阪急トラベルサポート事件における裁判所の判断

阪急トラベルサポート事件では、裁判所は、以下の2点を指摘して、「会社が従業員に事後的に行動スケジュールを報告させていたから就業時間の管理が難しい場合にあたらない」と判断して、事業場外のみなし労働時間制の適用を否定しました。

●裁判所が、事業場外のみなし労働時間制の適用を否定した2つの理由

理由1:
ツアーの終了後、会社が添乗員に対し、添乗日報によって詳細かつ正確な報告を求めていること。

理由2:
添乗員からの報告の内容については、ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を会社が確認することができたこと。

 

このように、会社が事後的に営業職や外回り社員に行動スケジュールを報告させていたかどうかも、事業場外のみなし労働時間制を裁判所に認めてもらえるかどうかの判断基準の1つとなります。

企業側の反論ポイントとしては、「営業職や外回り社員が事後的にも会社に行動スケジュールを報告していなかったこと」を主張することがポイントとなりますのでおさえておきましょう。

 

6−4,
反論ポイント4:社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったことを主張する。

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの4つ目は、「営業職や外回り社員に対して、社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったことを主張する」という点です。

営業職や外回り社員であっても、携帯電話等を通じて会社から具体的な指示を受けながら仕事をする場合は、具体的な指示が及んでいる以上、「会社が就業時間を管理することが可能である」と判断されるためです。

この点については、前述の企業側勝訴判例であるヒロセ電機事件でも以下の通り判断されています。

ヒロセ電機事件における裁判所の判断

ヒロセ電機事件で、裁判所は、「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断する理由として、以下の2点を指摘しています。

●「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断する2つの理由

理由1:
従業員が1人で出張先に行き、業務遂行についても、自身の判断で行っていること。

理由2:
従業員が作業中、常に携帯電話を所持していたとしても、電話で指示を受けながら業務に従事していたとは認められないこと。

 

このように、ヒロセ電機事件では、「社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったこと」が裁判所が「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断した理由の1つになっています。

一方で、企業側敗訴判例としては、以下の例があります。

企業側敗訴判例3:不動産会社の判例

(平成26年1月24日最高裁判所判決)

事案の概要:

この事件は、自社物件の仕入れなどを担当していた不動産会社の営業本部長が未払い残業代が存在するとして、会社に対して残業代を請求する裁判を起こしたケースです。

裁判所の判断:

裁判所は、事業場外のみなし労働時間制の適用を認めず、会社に残業代の支払いを命じました。

裁判所は、その理由として、「会社が営業本部長の外回りの営業時間にも、携帯電話で連絡を取り合い、営業活動の進捗状況や成果等を報告させていた」ことを挙げ、就業時間の管理が困難であったとはいえないと判断しています。

 

このように、社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったかどうかも、事業場外のみなし労働時間制を裁判所に認めてもらえるかどうかの判断基準の1つとなります。

また、厚生労働省の通達でも、「事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」には、時間管理が困難とはいえず、「事業場外のみなし労働時間制は適用できない」とされています。

企業側の反論ポイントとしては、「会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったこと」を主張することがポイントとなりますのでおさえておきましょう。

 

6−5,
反論ポイント5:社外業務に就業時間管理をする者を同行させていなかったことを主張する。

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求に対する企業側の反論ポイントの5つ目は、「社外業務に就業時間管理をする者を同行させていなかったことを主張する」という点です。

例えば、直行直帰の営業であっても、上司が同行するようなケースでは、上司が営業職の就業時間を把握することができますので、「就業時間の管理が難しい場合」にはあたりません。

この点、前述の企業側勝訴判例であるヒロセ電機事件でも以下の通り判断されています。

ヒロセ電機事件における裁判所の判断

ヒロセ電機事件で、裁判所は、「出張や直行直帰の場合に、時間管理をする者が同行しているわけでもないので、労働時間を把握することはできないこと」を「事業場外のみなし労働時間制が適用できる」と判断した理由の1つとして指摘しています。

 

このように、営業職や外回り社員の社外業務に就業時間管理をする者を同行させていなかったかどうかも、事業場外のみなし労働時間制を裁判所に認めてもらえるかどうかの判断基準の1つとなります。

また、厚生労働省の通達でも、「何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーのなかに労働時間の管理をする者がいる場合」には、時間管理が困難とはいえず、「事業場外のみなし労働時間制は適用できない」とされています。

企業側の反論ポイントとしては、「社外業務に時間管理をする者を同行させていなかったこと」を主張することがポイントとなりますのでおさえておきましょう。

以上、会社が営業職や外回りの社員から未払い残業代を請求された場合の5つの反論のポイントをご紹介しました。

 

7,まとめ

今回は、裁判になればリスクが大きい従業員の未払い残業代請求をめぐるトラブルに関する会社側の反論について、企業側の勝訴判例の分析などを参考にあげながら、以下の反論の方法を弁護士がご紹介いたしました。

会社が従業員から未払い残業代を請求された場合の反論の5つの方法

反論方法1:
従業員が主張している労働時間に誤りがある。

反論方法2:
残業を禁止していた。

反論方法3:
管理監督者であり、残業代が発生しない。

反論方法4:
固定残業手当により残業代は支払い済みである。

反論方法5:
残業代について、消滅時効が完成している。

 

更に、場合によっては一般従業員の未払い残業代請求以上に多額の支払いを命じられるリスクが高い、「管理職からの未払い残業代請求について」をピックアップし、ご説明いたしました。

管理職からの未払い残業代請求に対する企業側の反論のポイントは以下の通りです。

反論ポイント1:
「労務管理上の重要な権限」があったことを主張する。

反論ポイント2:
「経営方針の決定に関与する立場」にあったことを主張する。

反論ポイント3:
「出退勤が自由」であったことを主張する。

反論ポイント4:
「残業代を支払わなくても問題がないような待遇」を受けていたことを主張する。

 

管理職からの未払い残業代請求を受けた事例では、管理監督者であるかどうかによって、結論が大きく異なってきます。

上記4つのポイントについて、万全の主張、立証をすることが、管理職の未払い残業代請求トラブルを自社に有利に解決する重要なポイントとなりますのでおさえておきましょう。

次に、残業代に関し、トラブルになりやすい「営業職や外回り社員からの未払い残業代請求」についても、ピックアップしてご説明しました。

「営業職や外回り社員からの未払い残業代請求」に対する企業側の反論のポイントは以下の通りです。

反論ポイント1:
直行直帰が多く、就業時間管理が困難であったことを主張する。

反論ポイント2:
会社から事前に行動スケジュールの指示をしていなかったことを主張する。

反論ポイント3:
事後的にも会社に行動スケジュールを報告させていなかったことを主張する。

反論ポイント4:
社外業務中に携帯電話等を通じて会社から具体的な指示をしていなかったことを主張する。

反論ポイント5:
社外業務に就業時間管理をする者を同行させていなかったことを主張する。

 

営業職や外回り社員からの未払い残業代請求を受けた事例では、上記5つのポイントについて、万全の主張、立証をすることが、重要なポイントとなりますのでおさえておきましょう。

また、上記5つのポイントに基づいて反論できないようなケース、例えば、「会社が営業職や外回り社員に社外業務中の具体的なスケジュールを指示しており、事後報告も詳細にさせているようなケース」では、事業場外のみなし労働時間制を採用せずに、時間通りの残業代を支払う必要がありますので、注意が必要です。

 

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未払い残業代の問題が団体交渉や労働審判、労働裁判に発展するケースもあります。咲くやこの花法律事務所では、これらの団体交渉への同席や、労働審判の対応、労働裁判の対応に豊富な実績があり、企業のお客様からのご依頼を積極的に承っております。

 

未払い残業代トラブルは、長引けば長引くほど企業側の支払額が多くなるうえ、問題が長期化すると団体交渉や労働審判への対応も必要になってしまいます。未払い残業代について従業員から請求を受けた段階ですぐにご相談いただくことが、問題をスムーズに解決するための重要なポイントです。

▶参考:未払い残業代トラブルに強い弁護士に早めの相談するには?

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また、未払い残業代トラブルは、上記の通り「団体交渉」や「労働審判制度」も深く関わってきます。こちらの二つの重要なポイントについては、以下で詳しく弁護士が解説していますので、合わせてご確認下さい。

▶参考:団体交渉については、「ユニオン・労働組合との団体交渉の注意点と弁護士に相談するメリット、弁護士費用を解説

▶参考:労働審判制度については、「弁護士が教える労働審判について

 

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記事更新日:2017年4月11日
記事作成弁護士:西川 暢春

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