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契約書の「合意管轄条項(専属的合意管轄)」の記載方法、交渉方法

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  • 合意管轄に関する契約条項について

    契約書でよく目にする「合意管轄に関する契約条項」。

    正しい「記載方法」や「交渉方法」を把握している人は意外に少ないかもしれません。
    合意管轄に関する契約条項は、契約相手と万が一裁判になった場合に、裁判にかかる費用や労力に大きな影響を及ぼします。

    自社に不利な合意管轄条項や不適切な合意管轄条項を入れてしまうと、例えば取引相手から代金を支払ってもらえなくても、裁判を断念せざるを得ないケースすらあります。

    今回は、「契約書における合意管轄裁判所の条項の記載方法と交渉方法について」、できる限りわかりやすく弁護士がご説明したいと思います。

     

    今回の記事で書かれている要点(目次)

    1,合意管轄とは?
    2,合意管轄条項の重要性
    3,契約書における合意管轄条項の記載方法について
    3-1,専属的合意管轄と付加的合意管轄の違い
    3-2,「専属的合意管轄」合意管轄条項の記載事項
    3-3,専属的合意管轄」合意管轄条項の記載例
    4,合意管轄条項についての相手方との交渉方法について
    4-1,契約書はできる限り自社で作ることが重要
    4-2,自社が契約書を作成し取引相手に提案する場合のポイント
    4-3,取引相手が作成した契約書の合意管轄条項についての交渉のポイント
    5,【補足】契約書以外での合意管轄条項の活用場面
    5-1,就業規則における合意管轄条項の定め方
    5-2,利用規約における合意管轄条項の定め方

     

    1,合意管轄とは?

    まず、本題のご説明に入る前に、「合意管轄とはなにか」を確認しておきましょう。

    「合意管轄」とは、取引相手との間で代金不払いトラブルや損害賠償請求トラブルが発生し、裁判により解決しなければならない場合にそなえて、「どこの裁判所で裁判を行うか」を合意で決めておくことをいいます。

    「どこの裁判所で裁判を行うか」についてのルールのことを「管轄」と言いますが、この管轄を契約書などにより、取引相手との合意で決めるのが、「合意管轄」です。

    合意管轄の制度は、民事訴訟法第11条第1項に、「当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」として定められている法律上の制度です。

     

    2,合意管轄条項の重要性

    では、契約書の合意管轄条項は、「実際のビジネスの場面でどのような影響があるのでしょうか?」ここでは、合意管轄条項の重要性についてご説明したいと思います。

    合意管轄条項の重要性は、以下の2点を考えるとわかりやすいです。

    合意管轄条項の重要性についての解説

    1,もし、契約書に合意管轄条項を設けなければ、どのような問題が生じるか?
    2,もし、契約書の合意管轄条項が自社に不利な内容であれば、どのような問題が生じるか?

     

    以下で順番にご説明したいと思います。

    1,もし、契約書に合意管轄条項を設けなければ、どのような問題が生じるか?

    まず、「もし、契約書に合意管轄条項を設けなければ、どのような問題が生じるか」を考えてみましょう。

    ●ケース1:
    大阪にある自社が、東京の取引相手から商品を購入する契約をしたケース

    上記のようなケースで、契約書に合意管轄条項を設けていなければどのような問題が生じるでしょうか?

    取引後、商品に不具合があることが発覚して、自社が取引相手に代金の支払いをしなかったところ、相手から代金を請求する裁判を起こされたケースを前提にご説明したいと思います。

    【具体的なケース事例】

    ・自社:

    買主(大阪本社)

    ・取引相手:

    売主(東京本社)

    ・トラブル内容:

    商品に不具合があり、取引相手に支払いをしなかったところ、相手から代金を請求する裁判を起こされたケース

    ・契約書の合意管轄条項:

    設定なし

    このケースでは、取引相手は相手の本社所在地である東京で訴訟を起こすことが可能です。その結果、自社は大阪にあるにもかかわらず東京で裁判に対応することが必要になります。

    裁判は基本的に大阪から弁護士が東京まで出張して対応することになるケースが多いでしょう。

    一般的に、大阪の弁護士が東京まで出張する場合、交通費や日当として、1回あたり「10万円」くらいの費用がかかってしまいます。この出張を3回行うとすると、それだけで「30万円」の弁護士費用がかかることになってしまいます。また、弁護士以外に会社の関係者が証人等として裁判に出廷しなければならないこともあり、その場合も東京に出張する費用と労力がかかってしまいます。

    このように、契約書に合意管轄条項を記載していなかった場合、取引相手から遠方の裁判所で訴えられると、裁判の対応に多額の費用や多大な労力がかかってしまうという問題が生じるという点をおさえておきましょう。

    2,もし、契約書の合意管轄条項が自社に不利な内容であれば、どのような問題が生じるか?

    次に、「もし、契約書の合意管轄条項が自社に不利な内容であれば、どのような問題が生じるか」を考えてみましょう。

    ●ケース2:
    自社が取引相手に商品を売却したが相手が代金を支払わずに、相手に対して代金の支払を求める裁判を起こすケース

    このケースで、契約書の合意管轄条項が合意管轄を東京地方裁判所とするような自社に不利な内容になっていた場合にどのような問題が生じるでしょうか?

    【具体的なケース事例】

    ・自社:

    売主(大阪本社)

    ・取引相手:

    買主(東京本社)

    ・トラブル内容:

    取引相手が商品代金を支払わず、相手に対して裁判を起こすケース

    ・契約書の合意管轄条項:

    東京地方裁判所で合意管轄する内容の契約条項あり。

    このケースのように、東京地方裁判所で合意管轄する内容の契約条項が設けられている場合、自社は大阪にあるにもかかわらず東京で裁判を起こす必要が出てきます。

    すると、前述の事例と同様に、弁護士が東京まで主張することになり、その日当や交通費がかかりますし、弁護士以外に会社の関係者が証人等として裁判に出廷しなければならない場合にも東京に出張する費用と労力がかかってしまいます。

    これらの費用や労力を考えると、特に請求額が数十万円と少額の場合、請求額よりも裁判に要する費用のほうが大きくなりかねず、最悪のケースでは裁判を断念して泣き寝入りせざるを得ないということにもなります。

     

    これらの2つのケースからもわかるように、合意管轄条項を設けていなかったり、あるいは自社に不利益な内容で設けてしまっている場合、契約相手と裁判になった場合に、裁判のために多額の費用や多大な労力がかかることになります。

    その意味で契約書の合意管轄条項は大変重要です。

    契約書に適切な合意管轄条項を設けておけば、裁判にかかる費用は労力を最小限にすることができ、比較的少額の請求でも裁判を起こしやすくなることが、合意管轄条項のメリットになります。

     

    3,契約書における合意管轄条項の記載方法について

    それでは、合意管轄条項の重要性について踏まえていただいたうえで、今回の記事のテーマの1つである、「合意管轄条項の記載方法」についてご説明したいと思います。

    今回ご説明する点は以下の3つです。

    合意管轄条項の記載方法について解説

    3-1,専属的合意管轄と付加的合意管轄の違い
    3-2,合意管轄条項の記載事項
    3-3,合意管轄条項の記載例

    以下で順番に見ていきましょう。

     

    3-1,専属的合意管轄と付加的合意管轄の違い

    まず、合意管轄には、「専属的合意管轄」「付加的合意管轄」があります。

    そして、結論から言うと、契約書に合意管轄条項を記載するときは、「専属的合意管轄」であることを明記しておく必要があります。

    以下で両者の違いを見ていきましょう。

    「専属的合意管轄」とは:

    専属的合意管轄とは、合意管轄条項で記載した裁判所のみに限定し、それ以外の裁判所への提訴を認めない合意管轄のしかたです。

    「付加的合意管轄」とは:

    付加的合意管轄とは、合意管轄条項で記載した裁判所のほかに、民事訴訟法に基づいて決められる裁判所への提訴も認める合意管轄のしかたです。

    これらの点を表にまとめると、以下の通りです。

    ●専属的合意管轄と付加的合意管轄の違い
    専属的合意管轄と付加的合意管轄の違いの表

    このように、「付加的合意管轄」では、契約書の合意管轄条項で指定した裁判所以外にも裁判を起こすことができてしまう結果、予想外に遠方で裁判に対応せざるを得なくなるケースを防ぐことができません。

    そのため、契約書の合意管轄条項を記載する際は、「専属的合意管轄」であることがはっきりわかるような記載方法をしておきましょう。

     

    3-2,「専属的合意管轄」合意管轄条項の記載事項

    それでは、専属的合意管轄であることを明記することが重要という点をおさえたうえで、「合意管轄条項の記載事項」について見ていきましょう。

    記載事項は以下の4点です。

    契約書の合意管轄条項の記載事項

    記載事項1:
    「第一審についての合意管轄」であることの記載

    記載事項2:
    「専属的合意管轄」であることの記載

    記載事項3:
    どのようなトラブルについて合意管轄条項を適用するかの記載

    記載事項4:
    合意管轄する裁判所の記載

     

    以下で順番に見ていきましょう。

    記載事項1:
    「第一審についての合意管轄」であることの記載

    民事訴訟法第11条1項は、「第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」としています。ここでは、「第一審に限り」とある点がポイントです。

    日本は第一審の裁判に不服がある場合、第二審、第三審での裁判ができる「三審制」と呼ばれる制度を採用していますが、そのうち、合意管轄で指定することができるのは第一審についてのみです。

    そのため、契約書の合意管轄条項にも「第一審についての合意管轄」であることを記載することが必要です。

    記載事項2:
    「専属的合意管轄」であることの記載

    これについては、先ほどの項目でご説明しました。
    専属的合意管轄であることの記載をしておくべきです。

    記載事項3:
    どのようなトラブルについて合意管轄条項を適用するかの記載

    民事訴訟法第11条2項は、「前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。」としています。

    「前項の合意」とは「合意管轄」のことを指しています。つまり、合意管轄条項は「一定の法律関係に基づく訴えに関して」しなければ効力が生じません。

    そのため、合意管轄条項には、「どのようなトラブルについて合意管轄条項を適用するか」を明記しておく必要があります。

    ▶参考:どのようなトラブルについて合意管轄条項を適用するかの記載例

    例えば、

    「本契約に関する一切の紛争は、大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。」

    という合意管轄条項であれば、「本契約に関する紛争」という「一定の法律関係に基づく訴えに関して」合意管轄がされているので有効です。

    一方、

    「甲乙間の一切の紛争は、大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。」

    という合意管轄条項は、「一定の法律関係に基づく訴えに関して」合意管轄がされているとはいえず、無効であると考えられますので注意しておきましょう。

    記載事項4:
    合意管轄する裁判所の記載

    最後に、「もし、取引相手とトラブルが発生して裁判になった時にどの裁判所で裁判を行うか」についての記載が必要です。

    この部分が合意管轄条項のメインの部分の記載です。

     

    以上、契約書の合意管轄条項の4つの記載事項を確認しておいてください。

     

    3-3,「専属的合意管轄」合意管轄条項の記載例

    それでは、続いて、実際に「合意管轄条項を契約書に記載する場合の記載例」をご紹介したいと思います。

    以下では、下記の4つの記載例をご紹介します。

    合意管轄条項の4つの記載例について解説

    記載例1:
    自社に有利な合意管轄条項の記載例

    記載例2:
    公平性を重視した合意管轄条項の記載例

    記載例3:
    簡易裁判所での審理も念頭に置いた合意管轄条項の記載例

    記載例4:
    英語での合意管轄条項の記載例

     

    それでは、順番に見ていきましょう。

    記載例1:
    自社に有利な合意管轄条項の記載例

    例えば、自社の本拠地が大阪にあり、顧問弁護士なども大阪にいる場合は、大阪の裁判所を専属的合意管轄裁判所としておくことが、自社にとって、通常はもっとも有利です。

    その場合、記載例としては以下のようになります。

    ▶参考:上記の具体的な記載例

    第●条 合意管轄
    本契約に関する一切の紛争は、大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

     

    記載例2:
    公平性を重視した合意管轄条項の記載例

    契約において自社が契約相手から「仕事をもらう側」である場合は、「記載例1」のような自社の都合を優先した合意管轄条項の記載では、契約相手が了解しない可能性があります。

    そのような場合は、公平性を重視して、以下のような記載も可能です。

    ▶参考:上記の具体的な記載例

    第●条 合意管轄
    本契約に関する一切の紛争は、被告の本社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

     

    このような記載をした場合、「被告の本社所在地」つまり「訴えられた側の近くの裁判所」で裁判をすることになります。「訴えた側が出向く」というルールであり、公平性を重視した内容であるため、取引相手の了解も得られやすくなるメリットがあります。

    記載例3:
    簡易裁判所での審理も念頭に置いた合意管轄条項の記載例

    合意管轄条項において、以下のように、簡易裁判所での審理も念頭においた定め方をすることも可能です。

    ▶参考:上記の具体的な記載例

    第●条 合意管轄
    本契約に関する一切の紛争は、大阪簡易裁判所または大阪地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

     

    このように定めた場合、請求額が140万円以下の比較的少額の事件については、大阪簡易裁判所で審理されることになります。
    簡易裁判所は、比較的少額の事件を扱うことを前提に、地方裁判所での審理よりも簡略的な手続で審理が行われます。

    そのため、少額の事件については、簡易裁判所で審理してもらえるように、上記のような合意管轄条項を設定することも1つの方法です。

    記載例4:
    英語での合意管轄条項の記載例

    最近は、英語で契約書を作らなければならないことも多いと思います。英語で合意管轄条項を記載する場合は、以下のような記載例になります。

    ▶参考:上記の具体的な記載例

    Article ● Jurisdiction
    Osaka District Court shall be the court of exclusive jurisdiction by agreement in the first instance over any and all disputes arising out of or related to this Contract.

    上記英文の日本語訳は以下の通りです。

    第●条 合意管轄
    大阪地方裁判所は、本契約から生じ又は本契約に関連して生じるすべての紛争において、第一審の専属的合意管轄裁判所となる。

     

    以上、契約書における合意管轄条項の記載方法についておさえておきましょう。

     

    4,合意管轄条項についての相手方との交渉方法について

    続いて、この記事の2つ目のテーマである、「合意管轄条項についての相手方との交渉方法」についてご説明したいと思います。

    今回ご説明する点は以下の3点です。

    合意管轄条項についての相手方との交渉方法の3つのポイント

    4-1,契約書はできる限り自社で作ることが重要
    4-2,自社が契約書を作成し取引相手に提案する場合のポイント
    4-3,取引相手が作成した契約書の合意管轄条項についての交渉のポイント

     

    以下で順番に見ていきましょう。

     

    4-1,契約書はできる限り自社で作ることが重要

    「合意管轄条項についての相手方との交渉方法」としてまず重要なことは、「契約書はできるかぎり自社で作る」ということです。

    契約書を作るのは手間と時間がかかりますが、契約交渉を有利に進めるためには、取引相手に契約書案を作ってもらってそれに対して交渉していくのではなく、自社で契約書案を作成し取引相手に提案することが重要です。

    契約書を自社で作成することによって交渉の主導権を握ることができます。また、契約書を自社で作成する際に自社に有利な合意管轄条項を定めていても、取引相手が修正を求めてこないケースもあります。そのため、まずは、契約書はできるかぎり自社で作ることが重要になるのです。

    もちろん、自社から弁護士に依頼して作成してもらってもかまいません。ただし、弁護士に作成を依頼することは費用がかかるので、できあがった契約書は自社で「契約書の雛形(ひな形)」として保存して社内で共有し、別の取引でも活用するなどの工夫をしましょう。

     

    4-2,自社が契約書を作成し相手方に提案する場合のポイント

    それでは、「自社が契約書を作成し取引相手に提案する場合のポイント」について見ておきましょう。

    ご説明したい点は以下の3つです。

    自社が契約書を作成し相手方に提案する場合のポイント

    ポイント1:
    自社に有利な合意管轄裁判所の選び方

    ポイント2:
    裁判所の支部を合意管轄裁判所とするケース

    ポイント3:
    合意管轄条項を設けないほうがよい場合

     

    以下で順番に見ていきましょう。

    ポイント1:
    自社に有利な合意管轄裁判所の選び方

    まず、自社に有利な合意管轄裁判所の選び方ですが、例えば、自社の本拠地が神戸であれば、「神戸地方裁判所」を合意管轄裁判所とすることが通常は自社にもっとも有利です。

    ただし、以下の点に注意しておきましょう。

    ▶参考:自社に有利な合意管轄裁判所の選び方の注意点

    注意点1:
    自社を移転する予定があるケース

    自社を移転する予定があるケースでは、現在の本拠地を基準に合意管轄を決めることが将来的には自社にとって不利になる可能性があります。

    その場合は、「●●株式会社の本店所在地を管轄する地方裁判所」などと記載すれば、移転にも対応することができます。「●●株式会社」のところに自社の社名を入れることになります。

    注意点2:
    自社の登記簿上の本店と現在の本拠地が異なるケース

    自社の登記簿上の本店と現在の自社の本拠地が異なるケースは少し注意が必要です。

    例えば、「自社の本拠地を神戸から大阪に移転したが、登記簿上の本店所在地は神戸のままになっている」というようなケースです。

    このようなケースで、前述のように、「●●株式会社の本店所在地を管轄する地方裁判所」などと記載してしまうと、神戸地方裁判所で合意管轄したことになってしまいます。

    このようなケースでは「大阪地方裁判所」と裁判所名を記載して合意管轄することが適切です。

    注意点3:
    自社が依頼している弁護士の所在地が自社の本拠地と離れているケース

    このケースは、例えば、自社は神戸を本拠地としているが、顧問弁護士は大阪の弁護士に依頼しているというようなケースです。

    もし、取引相手とトラブルになり裁判になった場合に、裁判に出廷するのは、ほとんどの場合、弁護士のみです。

    その場合の、弁護士費用の節約も合意管轄の目的の1つですので、自社が依頼している弁護士の所在地が自社の本拠地と離れているケースでは、弁護士の所在地を基準に合意管轄したほうがよいケースもあります。

     

    以上、自社に有利な合意管轄裁判所の選び方についておさえておきましょう。

    ポイント2:
    裁判所の支部を合意管轄裁判所とするケース

    次に、裁判所の支部を合意管轄裁判所とするケースを見ていきましょう。

    結論からいうと、裁判所の支部を合意管轄裁判所とすることはできません。

    例えば自社の本拠地が大阪府堺市にあるというケースであっても、「大阪地方裁判所堺支部」を合意管轄裁判所とすることはできません。この場合は、「大阪地方裁判所」を合意管轄裁判所として記載するべきです。

    この点については、まず、裁判所の支部の制度について説明しておく必要があります。

    ▶参考:「裁判所の支部の制度」について

    まず、裁判所は、北海道を除き、1つの都道府県に1つあるという扱いになっています。例えば、大阪府には大阪地方裁判所がありますし、愛知県には名古屋地方裁判所があります。

    ただし、実際には、例えば、大阪地方裁判所には、「本庁」と呼ばれる大阪市内の裁判所のほかに、大阪府堺市に「堺支部」、大阪府岸和田市に「岸和田支部」と呼ばれる支部があり、そこでも裁判を行っています。

    参照:大阪地方裁判所の管内の裁判所についてなどをご覧下さい。

     

    このように、基本的には、「本庁」と呼ばれる都府県の県庁所在地にある裁判所とは別に、同じ都府県内の他のいくつかの都市にも裁判所の支部が設けられています。

    そして、合意管轄においては、支部の裁判所を指定して合意管轄することはできないというルールになっています。そのため、自社の本拠地が大阪府堺市にあり、大阪地方裁判所堺支部が最も便利だとしても、支部を合意管轄裁判所として契約書に記載することはできません。

    「支部」はいわば、大阪地方裁判所という1つの裁判所の出張所のようなイメージであり、本庁で裁判をするか出張所で行うかは裁判所が決めることであり、当事者は指定することができないとされているのです。

    このように、裁判所の支部を合意管轄裁判所として指定することはできないというルールを理解しておきましょう。

    ポイント3:
    合意管轄条項を設けないほうがよい場合

    自社で契約書を作成する場合に、契約書に合意管轄条項を設けることを避けたほうがよい場合もあります。

    自社で作成した契約書に自社に有利な合意管轄条項を記載したことがきっかけとなって、取引相手から逆に取引相手に有利な遠方の裁判所を指定する合意管轄条項の記載に修正することを求められてしまうことが予想されるようなケースです。

    特に自社が「仕事をもらう側」である場合は、取引相手から修正を求められると断れないことが多いと思います。

    このようなケースでは合意管轄条項を契約書にあえて記載しないことも検討しましょう。

     

    以上、自社が契約書を作成し相手方に提案する場合のポイントをご説明しました。これらは、自社で契約書を作成する場合には必ずおさえておくべきポイントですので、覚えておきましょう。

     

    4-3,取引相手が作成した契約書の合意管轄条項についての交渉のポイント

    次に、「契約書案を取引相手が作成した場合に、契約書の合意管轄条項について修正の交渉をする場合のポイント」について、以下の2点を見ておきましょう。

    取引相手が作成した契約書の合意管轄条項についての2つの交渉ポイント

    ポイント1:
    公平性を重視した合意管轄条項を提案する。

    ポイント2:
    削除するという選択肢も検討する。

     

    以下で順番にご説明していきます。

    ポイント1:
    公平性を重視した合意管轄条項を提案する。

    取引相手が作成した契約書案に合意管轄条項が記載されている場合、通常は、取引相手に都合の良い合意管轄条項になっているはずです。

    これについて、修正を求める交渉をする場合は、自社と取引相手とのパワーバランスも意識しなければなりません。

    自社がどちらかというと「仕事を頼む側」である場合は、取引相手に対する修正要望として、自社にとって最も便利な裁判所での合意管轄に修正するように提案することも可能でしょう。

    一方で、自社がどちらかというと「仕事をもらう側」である場合は、自社にとって最も便利な裁判所での合意管轄への修正はなかなか応じてもらえないかもしれません。

    その場合は、前述の記載例でご説明した「公平性を重視した合意管轄条項」を採用し、例えば、「本契約に関する一切の紛争は、被告の本社所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。」などという記載を提案することが1つの方法になります。

    ポイント2:
    削除するという選択肢も検討する。

    合意管轄条項について交渉が難しい場合、削除してしまうということも1つの選択肢です。

    取引相手の要望に応じて遠方の裁判所で合意管轄してしまうくらいなら、合意管轄条項を削除して、合意管轄条項なしの契約書にしておいたほうが、自社にとって有利です。

     

    以上、契約書案を取引相手が作成した場合の、合意管轄条項についての交渉のポイントをご説明しました。

     

    5,【補足】契約書以外での合意管轄条項の活用場面

    自社の従業員や退職者との労務トラブルを想定して「就業規則において合意管轄条項を設けておくこと」は、一定のメリットがあります。

    ▶参考:「弁護士が教える就業規則の作成方法」について

    合意管轄条項を設けておくことの解説とは別に、自社の従業員や退職者との労務トラブルを想定して「正しい就業規則の作成方法」の全体を理解しておくこともおすすめします。こちらについては「弁護士が教える就業規則の作成方法」の記事も確認しておきましょう。

    特に従業員が退職後に「未払い残業代の請求」をしてきたり、解雇後に「不当解雇」の裁判を起こしてくるケースでは、場合によっては従業員の自宅や実家、帰省先などの住所の裁判所で裁判を起こしてくることが想定されます。

    例えば、大阪の会社が従業員を解雇したところ、従業員が高知県にある実家に戻って高知で裁判を起こしてくるなどというケースです。

     

    このように、遠方での裁判に対応を余儀なくされるケースを避けるためには、「就業規則に合意管轄条項を入れておくこと」も検討しましょう。

    就業規則に合意管轄条項を入れる場合の記載例

    第〇条 合意管轄
    会社と従業員の雇用関係に関する一切の紛争は、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄とする。

     

    就業規則に合意管轄条項を入れる場合の記載例は上記を参考にしてください。

     

    5-2,利用規約における合意管轄条項の定め方

    自社がクラウド型サービス、マッチングサービス、レンタルサーバなどのインターネット上のサービスを事業としている場合は、クライアントとの間で、契約書ではなく利用規約を作成しているケースも多いと思います。

    その場合は、利用規約について合意管轄条項を定めておくことが重要です。

    ▶参考:「弁護士が教える利用規約の作成方法と注意点」について

    就業規則に続き、利用規約においても合意管轄条項を定めるにあたり、まずは利用規約の作成方法について全体的に正しい知識を知っておく必要があります。そのため、これについては「弁護士が教える利用規約の作成方法と注意点」をご参考にして下さい。

     

    インターネット上のサービスはクライアントが全国にいるケースも多く、サービスについて不具合などのトラブルがあれば、各クライアントの住所に近い裁判所で裁判を起こされることになりかねません。

    このように、遠方での裁判に対応を余儀なくされるケースを避けるためには、利用規約において合意管轄条項を入れておくことが必要です。

    なお、合意管轄条項は書面を作らない方法、例えば、「インターネット上に合意管轄条項を入れた利用規約を掲載し、クライアントにそれに同意してサービスを申し込んでもらうという方法」でも問題ありません。

    利用規約についてはインターネット上に掲載して同意してもらう方法のほうが便利なことも多いと思いますので検討してみてください。

    利用規約に合意管轄条項を入れる場合の記載例は下記を参考にしてください。

    利用規約に合意管轄条項を入れる場合の記載例

    第〇条 合意管轄
    弊社と利用者の本サービスの利用に関する一切の紛争は、弊社の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄とする。

     

    以上、就業規則と利用規約における合意管轄条項の定め方についてご説明しました。その他、あまりないケースですが、契約書に合意管轄条項を入れ忘れた場合に、覚書やメールで合意管轄をするということも可能です。

     

    まとめ

    今回は、取引トラブルの場面で、裁判の労力や費用に重要な影響を及ぼす「合意管轄条項」についてご説明しました。

    まず最初に、合意管轄の意味と重要性についてご説明したうえで、契約書における合意管轄条項の記載方法についてご説明しました。次に、合意管轄条項についての取引相手との交渉方法についてもご説明しました。最後に、補足として、就業規則や利用規約など、契約書以外での合意管轄条項の活用場面についてご説明しました。

    合意管轄条項は、すべての契約書において問題となりうる重要なチェックポイントの1つです。ぜひ、契約書の作成や契約交渉に生かしてみてください。

    なお、自社で作成した契約書において「合意管轄条項」の内容に不安がある場合などは、トラブルが発生する前にリスク対策として、「契約書の作成やリーガルチェックに強い弁護士」が揃う「咲くやこの花法律事務所」までご相談下さい。

     

    「合意管轄条項」に関してのご相談は契約書に強い「咲くやこの花法律事務所」までお問い合わせ下さい。

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    記事作成弁護士:西川 暢春
    記事作成日:2017年3月15日

     

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