最近、ECサイトの売買についての相談が増えています。
ECサイトを売買する場合、注意しなければならないことがいくつかあります。
今日はそのうちでも、見落としがちな問題点について書いてみたいと思います。
他社のECサイトを譲り受ける場合、譲り受けた会社は従来のサイト名をそのまま使い続けることが通常です。
従来のサイト名を使い続けなければ、サイトのお客様にとまどわせることになりますし、SEOの面でもマイナスになるかもしれません。
A社がB社からB社が運営するサイトを譲り受けた場合の問題点を考えてみましょう。
サイトの譲渡の日より前にB社がそのサイトで販売した商品について、後日欠陥があったことが発覚し、サイトを譲り受けた後にA社に対し、 商品欠陥についてのクレームがあったというような場合、A社はどのように対応しなければならないでしょうか。
当然、A社としては、「それはB社が販売した商品についてのクレームだから弊社では責任はとれません。
損害の賠償や代金の返金はB社に請求してください。」と言いたいところです。
しかし、ここで注意しなければならないのが、商法17条という法律です。
商法17条1項は、「営業を譲り受けた商人が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、 譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。 」としています。
サイトを譲り受けたA社が以前のサイト名をそのまま使用していた場合、 本来B社が対応しなければならない損害賠償義務についてもこの条文によってA社が責任を負担させられる可能性があります。
サイトの譲り受けがあったことは、外部からはわかりにくいことが多いです。
そこで、お客様としては現在サイトを運営している会社に対し、返金等を求めたいという期待するのが通常であり、 そのような期待を法律上保護しなければならないという要請が働くのです。
ECサイトのサイト名は厳密に言えば、上の条文の「商号」にはあたらない場合が多いのですが 、この条文は最近適用場面が拡大する傾向にあり、サイト名についても適用される可能性が十分あります。
このようなことから、ECサイトを譲り受け、サイト名を変更せずにそのまま運営する場合、ECサイトの新しい運営者は、 以前の運営者に対するクレームや損害賠償責任について共同で責任を負担させられるリスクがあります。
これを回避するには、サイト上の運営者の表示をすみやかに訂正するだけでなく、ECサイトの顧客に対し、ECサイトを自社が譲り受け、 サイトの運営者が変わったことを通知しておくことが必要です。
もちろんこの通知はメールでもオーケーです。
ECサイトの売買にはそのほか多くの落とし穴があります。
売買価格は高額化していますから、買った後でこんなつもりじゃなかったということにならないように、 事前に弁護士にチェックを依頼されることをお勧めします。
著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
価格:3,080円