映像制作会社などを経営されている会社からご相談をよくお受けするのが、「写真撮影や映像撮影の場合に、他人の著作物を意図せず取り込んでしまう場合がある」という点です。
たとえば、
①写真を撮影した際に、その写真の背景に第三者が著作権を有するポスターや絵画が写り込んでしまった場合。
②音楽が流れている会場で撮影した映像を自社ホームページに掲載したところ、映像の中に会場の音楽を取り込んでしまう場合
などがそれにあたります。
これについては、非常に難しい問題です。
結論から言えば現時点ではこのような写り込みのある写真や映像の公開、配布等は控えられることをお勧めします。
類似の事例で裁判になったケースがあります。このケースは室内照明器具の宣伝用のカタログを撮影する際に、撮影に使用された和室に掛けられていた書を小さく取り込んでしまったことから、この書の著作者がカタログの制作会社に対し、著作権侵害に基づく損害賠償を請求したという事例です。
この事件では、東京高等裁判所は、カタログの写真からは、問題の書の細部の微妙な表現まで読み取ることができないことなどを理由に著作権侵害にはならないと判断しました。
したがって、たとえば上の①の事例ではポスターや絵画の細部まで克明に撮影されているとは言えない場合であれば、著作権侵害にはならないとの判断は十分にあり得ます。
また、②の事例でも、音楽が明瞭に聞き取れるわけではない場合は、著作権侵害にはならないと考えることができるかもしれません。
しかし、現段階ではまだ判例が固まっておらず明確でないこと、著作権を侵害したとしてクレームを受けること自体会社にとっては損害になることからすれば、このような写り込み、取り込みのある写真や映像の公開、使用は控えておかれるのが望ましいといえます。
この「写り込み」の問題に関しては、法律関係を明確にするため、法律の改正の必要も議論されていますので、進展がありましたら、またこのブログに記載したいと思います。
著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
価格:3,080円