従業員が仕事でミスをして会社に損害が発生した場合、会社は被った損害を従業員に請求できるでしょうか。
今回はこの問題について解説したいと思います。
この問題に関する裁判例として平成23年10月31日の「エーディーディー事件」を紹介します。
X会社は、コンピューターシステム及びプログラムの企画・設計・受託等を業務としており、取引先から販売管理システムの改良業務を受託していました。
従業員Yは、この改良業務を担当するチームの責任者の地位にありました。
この業務にあたっては、納品されたシステムに不具合が見つかり、取引先から指摘を受けて修正、しかしまた不具合が見つかる、ということが相次ぎました。
不具合の原因は、主にY自身やチームメンバーによるミスでした。このようなミスが続いたため、取引先はX会社との取引を徐々に減らし、結果X会社の売り上げが減少しました。
X会社はこの売上減少はYの職務怠慢によるものとして、Yに対して2000万円を超える損害賠償を請求しました。
結論から言えば、裁判所はX会社の請求を認めず、従業員Yは売上減少分を賠償する必要はないと判断しました。
裁判所は、会社の従業員に対する請求を認めない理由として、従業員のミスが原因となって顧客を失ったとしても、そのようなことは「取引関係にある企業同士で通常に有り得るトラブルなのであって,それを労働者個人に負担させることは相当ではない」としています。
この判決は妥当であり、取引関係で起こる一般的なトラブルについて発生した損害を従業員個人に請求するのは筋違いであると言わざるを得ません。
業務上のミスで受注を逃した、営業の目標が達成できなかった、納品前の検査が不十分で不良品を納品してしまった、などというトラブルは、いずれもこの範疇に入ります。
一方で、従業員が会社の車両で交通事故を起こして車両が破損した、従業員が振込先を間違えて会社に損害を与えたというようなケースは、過失であっても従業員に損害の賠償を求めることができることがあります。
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著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
価格:3,080円