社内で不祥事が判明したとき,セクハラなどの不祥事を起こした者に対して厳しい対応をするのは当然です。
ただ部下が不祥事を起こしたことを理由に上司に対して懲戒処分するかどうかは,慎重に考えなければいけません。
新潟地方裁判所平成22年11月11日判決は、五泉市税務課職員が外出勤務中にセクハラをしたことに関連して、その課の課長補佐であった者を部下に対する監督不十分を理由に戒告処分にした事件です。
裁判所は、この課長補佐について、部下の監督が不十分であるとは言えず、課長補佐の権限・立場からセクハラ事件を防ぐことは難しかったとして、戒告処分を無効と判断しました。
会社において部下に対する監督責任が問題になることはよくありますが、監督不十分を懲戒処分の対象とする場合は、慎重な判断が必要です。
懲戒処分とすると、本件の戒告のように特に経済的な不利益がない処分であったとしても、従業員が撤回を要求して裁判を起こしたり、労働組合に加入して団体交渉を申し込んでくることがあります。
会社として必要な戒告処分はするべきですが、その判断にあたっては、従業員から撤回を要求された場合に裁判所で戒告処分が有効であると判断してもらえるかどうかを常に念頭に置く必要があります。
本件では、セクハラを受けた被害者が上司に対して相談できる環境をつくっていなかったということが、課長補佐に対する戒告処分の主な理由とされています。
たしかに、いつでも相談できる環境を作ることは上司の責任範囲のひとつですが、このような抽象的な理由で戒告処分をするのは法的には困難です。
相談できる環境を作ることができるように指導し、場合によってはその達成の程度を人事考課の対象とすることはできますが、戒告処分については、具体的な本人の落ち度がなければ、無効とされてしまいます。
部下に対する監督不十分を理由に上司を懲戒する場合は、具体的に上司がどのように行動していれば問題を防げたのかを検討する必要があります。
その答えが出ないときは、部下本人に対する懲戒処分はともかく、その上司に対する懲戒処分は控えるべきです。
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著者:弁護士 池内 康裕
発売日:2019年03月05日
出版社:清文社
ページ数:52ページ
価格:400円