今回は、持病のある従業員の健康管理上の注意点についてお話したいと思います。
従業員が持病を悪化させた場合でも,労災と認定されて会社が責任を負う場合があります。
国・川口労基署長事件(東京高判平成24年1月31日)は,パン・洋菓子製造販売を事業とする会社で、係長として勤務していた男性が、自宅でぜんそくの発作で死亡したことについて、その遺族が、死亡は過労死であり労災であるとして裁判所で労災としての認定を求めた事件です。
この係長にはぜんそくの持病があり、裁判では、係長が亡くなったのは、持病によるものであり、過労とは関係がないのではないかという点が議論になりました。
しかし、結論として、裁判所は、係長は過労により持病のぜんそくを悪化させて亡くなったとして、過労死・労災であると判断しました。
会社の規模が大きくなってくると、持病を抱えながら働く従業員も当然出てきます。そのような場合、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
① まずは、法律上義務づけられている健康診断をきちんと行うことが大切です。
法律上、健康診断が義務づけられているのは、健康診断で従業員の不調を早期に知り、残業を減らしたり、負荷の少ない業務に担当替えをするなど必要な配慮をするためです。
この事件の会社は夜勤交代制をとっており、この係長も夜勤のシフトに入ることがありました。このように深夜の業務を含む場合は、法律上6ヶ月に1回の健康診断が義務づけられています。
② 持病がある従業員については健康上の配慮が必要かどうかを確認しなければなりません。
本件では、残業が平均して月88時間に及んでいた上、夜勤のシフトに入ることも多く、また、東京への異動を命じられ単身赴任生活となっていたことなどが、ぜんそくを悪化させた原因であると判断されました。
残業が月80時間を超えるとそれが原因で健康を害する危険があると考えられており、残業は月80時間未満になるように配慮しなければなりません。
また、夜勤や単身赴任などは、健康に対する負荷が大きく、持病を持つ従業員について、夜勤や単身赴任を命じるときは、それが持病を悪化させないかどうか、医師の意見を聴くなどして十分に配慮する必要があります。
③ この判決では、亡くなった係長が、亡くなる前年にぜんそくで医師から入院を命じられたが、仕事を休めないことを理由に長期の入院を断り、4日で退院したということが指摘されています。
このとき、きちんと入院治療していれば、事件を防ぐこともできたのかもしれません。
従業員が治療が必要になったときに、休みたいとは言えないような社風になっていないかどうかも点検が必要です。
従業員の健康管理、夜勤のシフトや労災をめぐるトラブルでお困りの方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。一緒にトラブルを乗り切っていきましょう。
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著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
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