システム開発や運送業など労働集約型の事業ではどうしても長時間残業が増えてしまうケースがあります。長時間残業が多い会社では、どのような点に注意しなければならないでしょうか。
東京高等裁判所平成24年3月22日判決は,ソフトウェア開発などを事業とする会社で、システムエンジニアとして勤務していた従業員が、ある日突然出勤せず、河川敷でビールなどをラッパ飲みして亡くなっていたのが発見された事件です。
この従業員の遺族は、死亡は会社の業務が過重であったことが原因だとして、会社に対して損害賠償を求めました。
これに対して、裁判所は、この従業員が亡くなる前の2ヶ月間、いずれも月100時間を超える残業をしていたことから、過重な業務により精神疾患を発症して、過度の飲酒行為に及んだため、亡くなったとして、会社に約1億円もの損害賠償を命じました。
この判決で注意しなければならないのは、この従業員は生前、一度も精神疾患と診断されたことがなく、また、会社に体調不良を訴えたことも特になかったという点です。
裁判所はそれでも、会社は1億円もの損害賠償義務があるとしました。
この判決から、会社経営にあたっては以下の点を注意しなければならないといえるでしょう。
① 毎月80時間を超えて残業していた従業員が亡くなった場合、業務の過重が原因だったと認定する傾向にあります。
まずは、残業が80時間を超えないように管理することが大切です。
この判決のケースでは2ヶ月連続で残業時間が月100時間を超えており、早急に残業を減らすことが必要でした。
会社としては、急に業務量が増えた場合に対応するために、日頃から業務委託先の確保をしておいたり、あるいは派遣会社からの派遣について検討をしておく必要があります。
また、場合によっては新件の受注を控えたり、進行中の案件について納期を延期してもらうなどして、80時間を超えるような残業が続く状態が早急に解消できるように配慮する必要があります。
② 今回の事件では、亡くなる前の月から、職場でも元気がない様子が気付かれるようになっていたということが指摘されており、こういった変化をフォローする仕組みができていなかったことも使用者としては反省しなければならない点の1つです。
③ またこの判決は、従業員から特段の体調不良の申し出がなくても、長時間の残業をしていた従業員が亡くなってしまった場合は、会社が損害賠償責任を負う可能性があることを示しています。
その金額も約1億円にのぼっており、企業の規模によっては経営を左右する金額となりかねません。
万一の時に備え、使用者賠償責任保険に加入しておくことは必要不可欠といえます。
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著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
価格:3,080円