【注目の判例ニュース/商品販売トラブル】ウィルス対策ソフトのインストールにより発生した損害の賠償請求事案で、利用規約の規定を根拠に請求を退けた裁判例をご紹介

ウイルス対策ソフトの損害賠償請求の裁判例

事件の概要

今回は、ウィルス対策ソフトのインストールより、PCが作動しなくなり、損害が発生したとして、PCユーザーがウィルス対策ソフト販売会社に対して「約1000万円」の損害の賠償を請求した事件(平成26年2月18日東京地方裁判所判決)についてご紹介したいと思います。

この事件では、裁判所は、ユーザーがインストールした際に同意した利用規約の規定を根拠に、ユーザーからの損害賠償請求を退け、会社を勝訴させました。

ソフトウェアやアプリの利用規約の作成にあたっても参考になる内容になっていますので、ぜひチェックしてみてください。
事件の概要は以下の通りです。

事件の概要 について

概要1:

この事件は、PCユーザーがA社のウィルス対策ソフトのインストールより、PCが一定期間作動しなくなり、損害が発生したとして、A社に対して損害の賠償を請求した事案です。

概要2:

ユーザーは、まず、A社のウィルス対策ソフトのお試し版を1か月間試用した後、他社製品も試用し、その後、A社のウィルスソフトの正規版を5280円で購入してインストールしたところ、PCが作動しなくなるトラブルが発生しました。

A社はサポートセンターにおいて、ユーザーにウィルス対策ソフトの再インストールを指示するなどの対応をしましたが、結局、このユーザーが他社のウィルス対策ソフトの使用に切り替えるまで、全部で6回にわたり、PCが作動しなくなるトラブルが発生しました。

概要3:

これについて、ユーザーが、A社に対して、復旧に要した作業時間分の自身の人件費として約108万円、87日間ウィルス対策ソフトによる保護のない状態でPCを使用せざるを得なかったことに対する慰謝料として870万円の合計「約1000万円」の損害の賠償を請求したのが本件訴訟です。

このような経緯が、本件の訴訟の概要になります。

 

今回の判例記事の目次

●判例について
●裁判における争点
●最高裁判所の見解について
●判例における結論まとめ
●【ワンポイントチェック!】判例から学ぶ!ソフトウェアやアプリの利用規約作成時の注意点

 

判例について

この事件で、東京地方裁判所は、ユーザーがソフトウェアをインストールした際に同意した利用規約の文言を根拠に、ユーザーからの損害賠償請求を認めませんでした。

 

裁判における争点

この裁判における争点は以下の2点です。

PCユーザーがウィルス対策ソフト販売会社に対して「約1000万円」の損害の賠償を請求した裁判の2つの争点

争点1:

損害賠償額の上限などを定めたソフトウェアの利用規約にユーザーが拘束されるか。
争点2:

本件ソフトウェアに瑕疵があったといえるか。

以下で具体的な内容を見ていきたいと思います。

争点1:
損害賠償額の上限などを定めたソフトウェアの利用規約にユーザーが拘束されるか。

本件のウィルス対策ソフトは、インストール時にPC画面上に使用許諾契約の内容(以下、「利用規約」といいます)が表示され、同意ボタンをクリックすることでインストールが開始する仕組みになっていました。

そして、利用規約には、ソフトウェア販売会社のユーザーに対する損害賠償について、ソフトウェアの販売価格を上限とする旨の条項など、ユーザーの権利行使を制限する内容の条項が盛り込まれていました。

これについて、ユーザーは「ソフトウェアをインストールするためには使用許諾契約書に同意せざるを得ないため、やむを得ず同意ボタンを押さざるを得なかった」などと主張して、「同意ボタンのクリックは強制されたものであるから、ユーザーは利用規約に拘束されない」と主張しました。

そこで、損害賠償額の上限などを定めたソフトウェアの利用規約にユーザーが拘束されるか否かが、争点となりました。

争点2:
本件ソフトウェアに瑕疵があったといえるか。

ユーザーは、PCが動かなくなるという事態が本件ソフトウェアの瑕疵によるものであると主張しました。

これに対して、ソフトウェア販売会社は、本件のソフトウェアは「現状のままで使用を許諾すること」を利用規約に定めており、本件ソフトウェアに瑕疵があったとはいえないと反論しました。

そこで、本件ソフトウェアに瑕疵があったといえるかが、争点となりました。

 

裁判所の見解

裁判所は、「本件ユーザーからの損害賠償請求を認めるかどうか」について次の通り判断しました。

裁判所の判断の結論

結論1:

損害賠償額の上限などを定めたソフトウェアの利用規約にユーザーは拘束される。

結論2:

本件ソフトウェアに瑕疵があったということはできない。

裁判所は上記2つの結論に至る判断の理由として、以下の点をあげています。

結論1:
「損害賠償額の上限などを定めたソフトウェアの利用規約にユーザーは拘束される。」についての判断の理由

理由1:

ユーザーは他社のウィルス対策ソフトを使用することも可能であった中で、本件のソフトウェアを選択して使用したのであるから、強制的に利用規約に同意させられたということはできない。

理由2:

ソフトウェアはその性質上、あらゆる環境下で正常に作動することを保証することは困難であり、「損害賠償額の上限を購入価格までとしたことが不合理である」ということはできない。

結論2:
「本件ソフトウェアに瑕疵があったということはできない。」についての判断の理由

理由1:

本件ソフトウェアの利用規約には、「本件ソフトウェアを現状のまま使用許諾する。」とあるため、本件ソフトウェアの仕組みについては特段の事情がない限り、「瑕疵」とはいえない。

理由2:

本件ソフトウェアの利用規約には、「本件ソフトウェアがどのようなパソコン環境の下でも正常に作動することを保証するものではない。」と定められていることから、PCが作動しなくなる現象が生じたことについて直ちにソフトウェア販売会社の責任を認めることはできない。

このような理由で、「ユーザーからの損害賠償請求を認めない」と判断したのが本件の裁判所の見解です。

 

判例における結論まとめ

このように、本件の判決は、ユーザーがインストール時に同意のクリックをした利用規約の有効性を認め、本件ソフトウェアに瑕疵はなく、ソフトウェア販売会社はユーザーに対して損害賠償責任を負わないと結論付けました。

 

【ワンポイントチェック!】
判例から学ぶ!ソフトウェアやアプリの利用規約作成時の注意点

以下では、本件の裁判例を踏まえて、「WebサイトやPC画面上で利用規約を締結する場合のポイント」と、「利用規約の内容に関するポイント」についてご説明しておきたいと思います。

1,WebサイトやPC画面上で利用規約を締結する場合のポイントについて

ソフトウェアやアプリの使用契約については、紙媒体での契約書の作成ではなく、WebサイトやPC画面上で利用規約を表示する形式をとることが多くなっています。

この点、経済産業省が定める「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、ユーザーがWebサイトやPC画面上の利用規約に拘束されるためには、以下のいずれかの方法をとることが、要求されています。

【WebサイトやPC画面上の利用規約により契約するために必要な方法】

方法1:

取引の申込みの前に利用規約への同意クリックを要求する方法

方法2:

取引の申込み画面(例えば、購入ボタンが表示される画面)にわかりやすく利用規約へのリンクを設置する方法

 

「1」または「2」のいずれかの方法をとれば、紙媒体での契約書を作成していなくても、WebサイトやPC画面上で契約を成立させることができます。

本件の裁判例の事例では、「1」の方法を採用していました。

一方で以下のようなケースについては、効力が認められない可能性があり、注意が必要です。

【WebサイトやPC画面上の利用規約について効力が認められない可能性があるケース】

ケース1:

Webサイトの目立たない場所に利用規約が掲載されているにすぎず、また利用規約への同意クリックも要求されていないケース

ケース2:

重要な事項に関連して利用者に有利な内容をWebサイト中で強調し、同じ事項について不利益な条項を説明しないケース

ケース3:

重要な事項に関連して利用者に有利な内容についてはわかりやすく記載されているのに、同じ事項について不利益な内容は難解な表現で記載されているケース

 

自社のサービスについて、WebサイトやPC画面上で利用規約に基づき契約する方法を採用しておられる会社は、上記を踏まえ、利用規約の表示方法に問題がないか、チェックしておきましょう。

次に、利用規約の内容に関するポイントについてみていきましょう。

2,利用規約の内容に関するポイント

本件では、利用規約に概ね以下の3点が盛り込まれており、これが裁判所でソフトウェア販売会社の責任を否定した大きな根拠となりました。

【本件でソフトウェア販売会社の責任を否定する根拠となった利用規約の内容のポイント】

ポイント1:

「本件ソフトウェアを現状のまま使用許諾する。」旨の条項

ポイント2:

「本件ソフトウェアがどのようなパソコン環境の下でも正常に作動することを保証するものではない。」旨の条項

ポイント3:

「本件ソフトウェアに関する一切の損害賠償は、購入価格を上限とする。」旨の条項

 

上記の「現状のままの使用許諾」、「非保証」、「損害賠償の上限」の3つの項目は、利用規約の内容に関する基本的なポイントですのでおさえておきましょう。

なお、ポイント3の損害賠償の上限規定については、消費者契約法との関連に注意が必要ですので、以下で補足したいと思います。

【補足】損害賠償の上限規定に関する消費者契約法上の注意点

損害賠償の上限規定に関する消費者契約法上の注意点として以下の点をおさえておきましょう。

注意点1:

事業者と消費者の取引に関する利用規約では、事業者が一切責任を負わない旨の規定は無効となる。

注意点2:

事業者と消費者の取引に関する利用規約では、損害賠償の額に上限を設けても、事業者の故意、重過失による損害については、上限規定が適用されない。

 

以下で、順番にご説明します。

注意点1:
事業者と消費者の取引に関する利用規約では、事業者が一切責任を負わない旨の規定は無効となる。

事業者が利用者に負担する損害賠償については、利用規約で「一切責任を負わない。」、「いかなる責任も負わない。」旨の規定がされることがあります。

事業者間の取引に関する利用規約ではこのような規定も問題がありませんが、事業者と消費者の取引に関する利用規約では、消費者契約法8条1項1号、3号、5号により、「消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」は無効とされています。

そのため、「一切責任を負わない」旨の利用規約を設けても、消費者契約法により無効とされ、結果的に、損害賠償額の上限がなくなってしまい、事業者側に不利益な結論をもたらす可能性が高くなることに注意しておきましょう。

注意点2:
事業者と消費者の取引に関する利用規約では、損害賠償の額に上限を設けても、事業者の故意、重過失による損害については、上限規定が適用されない。

事業者と消費者の取引に関する利用規約では、損害賠償の額に上限を設ける規定についても、消費者契約法8条1項2号、4号により、事業者の故意、重過失による損害については、上限規定が適用されないことになっています。

整理すると以下の通りです。


●「事業者の通常の過失による損害」の場合

損害賠償の額の上限規定の適用あり

●「事業者の故意、重過失による損害」の場合

損害賠償の額の上限規定の適用なし

 

このように、賠償額の上限規定を設けても、故意あるいは重大な過失による損害については、上限規定は適用されませんので、注意が必要です。

以上の2点を損害賠償の上限規定に関する消費者契約法上の注意点としておさえておいてください。

最後に、本件は、PCユーザーが「5280円」で購入したウィルス対策ソフトについて、「約1000万円」もの損害賠償を求められた事例です。

最近の消費者からのクレームでは、このような不合理かつ高額の損害賠償を求められるケースも珍しくなくなっていますので、利用規約の作成については常に万全の整備をしておくように心がけてください。

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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2016年9月27日

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