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【判例ニュース】下ネタ等の言葉のセクハラを理由に男性管理職を出勤停止、降格させることの適法性について最高裁判決

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  • セクハラに関する判例

    事件の概要

    労務管理の分野でも、センシティブで対応が悩ましいのが、「セクハラ」の問題です。

    平成26年度に厚生労働省労働局に寄せられたセクハラの相談件数は「1万3604件」にのぼっており、事業主としても基本的な対応を確認しておく必要があります。

    「セクハラ」には、大きく分けて、以下の2つがあります。

    ●「言葉によるセクハラ」=性的な冗談や下ネタ、嫌がらせなど。
    ●「身体接触を伴うセクハラ」=お尻を触る、胸を触るなど。

    このうち、「言葉によるセクハラ」が社内で行われた場合に、事業主としては加害者となった従業員に対してどのような処分をすることが妥当なのでしょうか?
    この点については、平成27年2月26日に注目の最高裁判決が出ましたので、今回はこの判例をご紹介します。

    この事件は、大阪の水族館「海遊館」に勤務する男性管理職が、女性従業員に対して、性的な冗談や下ネタなどの「言葉によるセクハラ」を続けていたことについて、海遊館が男性管理職を「出勤停止10日の懲戒処分」をしたうえで降格させたところ、男性管理職が懲戒処分が不当であるとして、「海遊館」に対して訴訟を起こした事件です。

    その概要は以下の通りです。

    海遊館セクハラ事件の概要

    概要1:
    男性管理職は、女性派遣社員が執務室において1人で勤務している際に、自分の不倫相手に関する性的な事柄や自分の性欲等についての卑わいな内容の発言を、1年余りの間、執拗に繰り返していました。

    【セクハラ発言の概要】

    ●自分の不倫相手の話をし、不倫相手とその夫との間の性生活の話をした。
    ●「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」などと複数回発言した。
    ●「この前、カー何々してん。」と言い、女性派遣社員に「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。

    概要2:
    海遊館(事業主)は、女性派遣社員からセクハラ被害の申告を受けたため、男性管理職に、女性派遣社員の被害申告の内容を書面に記載して交付し、申告内容を認めるかどうかの回答を求めました。

    概要3:
    これに対して、男性管理職は、「自身の度を越えた言葉を話したことはあります」、「自身のバカげた話をした際に、話題を振ったと思います」などと記載した回答書を提出し、被害申告があった発言内容について、明確に認めることも、明確に否定することもしませんでした。

    概要4:
    事業主は、男性管理職に対して、報告書を踏まえて事情聴取を行い、出勤停止10日の懲戒処分をするとともに、この管理職を降格させました。

    これに対して、男性管理職が、セクハラの事実はなく懲戒処分は無効であると主張し、出勤停止期間中に支払われなかった賃金の支払いと、降格前の地位への復帰等を求めて、事業主を訴えたのが本件訴訟です。

     

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    今回の注目の判例記事の目次

    ●判例について
    ●裁判における争点
    ●最高裁判所の見解について
    ●ワンポイントチェック!「判例から学ぶ!セクハラ被害があったときの懲戒処分の注意点」

     

    判例について

    第2審の大阪高等裁判所は、セクハラの事実はあるが出勤停止処分や降格は重すぎるとして、出勤停止、降格を無効と判断しました。これに対して、最高裁判所は、事業主がした出勤停止処分、降格を適法と判断し、事業主側を勝訴させました。

     

    裁判における争点

    一般に、懲戒処分は、軽いほうから、「戒告」→「減給」→「出勤停止」→「降格」→「懲戒解雇」の順となっており、会社は従業員の問題行為の程度に応じた適切な処分をしなければなりません。

    「出勤停止」の懲戒処分は、従業員を一定期間出勤させないことにより社内的に懲戒処分を明確にする効果があるうえ、出勤停止期間中無給となることから、「戒告」や「減給」に比較して重い懲戒処分です。

    第2審の大阪高等裁判所は、本件においては、以下の2点を理由に出勤停止処分は重すぎると判断しました。

    第2審の大阪高等裁判所の出勤停止処分が重すぎると判断した理由

    理由1:
    女性派遣社員がセクハラ発言について明確な抗議をしておらず、男性管理職がそのような発言も許されていると誤信したという側面があること。

    理由2:
    男性管理職がセクハラ発言について事前に事業主から個別に注意や指導を受けたことがなかったこと。

    そこで、セクハラ被害者がセクハラ発言に対して明確な抗議をしておらず、また、セクハラ加害者が事前に事業主から個別に注意を受けたことがない場合であっても、事業主として出勤停止という重い懲戒処分を行うことができるかが問題となりました。

     

    最高裁判所の見解について

    最高裁判所は、以下の点を理由にあげて、本件で事業主がした出勤停止10日の懲戒処分やそれに伴う降格が重すぎるとは言えず、適法であると判断しました。

    最高裁判所が出勤停止、降格を適法と判断した理由

    理由1:
    事業主が、日ごろから、セクハラ防止のために従業員らに文書を配布して注意喚起したり、セクハラ防止のための研修に参加させるなどの取組を行っていたにもかかわらず、今回のセクハラ行為が行われたこと。

    理由2:
    男性管理職は、管理職としてセクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、自らセクハラ発言をしていること。

    理由3:
    言葉によるセクハラが1年余りにわたり繰り返され、その内容も極めて露骨で卑わいであること。

    理由4:
    被害を受けた派遣社員は、セクハラが一因となって退職していること。

    また、最高裁判所は大阪高等裁判所が出勤停止処分は重すぎるとした理由づけについても、以下の通り反論して、否定しています。

    最高裁判所の「大阪高等裁判所が出勤停止処分を重すぎる」と判断した理由についての反論

    反論1:
    被害者から明確な抗議がなかったという点は、被害者がセクハラについて強い嫌悪感を抱いていても、職場の人間関係を考慮して抗議しないことは十分ありうることで、懲戒処分を軽くする理由にはならない。

    反論2:
    事前に事業主から個別に注意や指導を受けたことがなかったという点については、加害者は事業主のセクハラ防止の方針を十分認識可能であったうえ、本件のセクハラが秘密裡に行われており個別に注意する機会がなかったのだから、懲戒処分を軽くする理由にはならない。

    このように、最高裁判所は、本件では、加害者が被害者から明確な抗議や、事業主からの個別の指導を受けたことがなかったとしても、出勤停止処分をしたことは適法であると判断しました。

     

    ワンポイントチェック!
    「判例から学ぶ!セクハラ被害があったときの懲戒処分の注意点」

    今回の最高裁判所の判例から知っておくべき重要ポイントとして、以下の3点をおさえておきましょう。

    セクハラ被害があったときの加害者従業員に対する懲戒処分の注意点

    ポイント1:
    セクハラの被害申告を受けたときは、すみやかに加害者から事情聴取を行い、懲戒処分を行う。

    ポイント2:
    加害者に対する懲戒処分は、軽すぎず、重すぎない適切な処分とすることが必要。

    ポイント3:
    懲戒処分を行う際は、事前におよその目安をおさえておく。

    以下、上記の3つのポイントについて順番に詳しくご説明します。

    ポイント1:
    セクハラの被害申告を受けたときは、すみやかに加害者から事情聴取を行い、懲戒処分を行う。

    セクハラの被害の申告があったときは、加害者から事情聴取を行い、セクハラが事実であれば、加害者に対して懲戒処分を行うことが必要です。

    正式な対応を避け秘密裡にすませることは、セクハラを会社として黙認したことになり、会社の責任を問われることになりますので、絶対にやめましょう。

    ポイント2:
    加害者に対する懲戒処分は、軽すぎず、重すぎない適切な処分とすることが必要。

    加害者に対する懲戒処分は、事案に応じて、軽すぎず、重すぎない、適切な処分とすることが必要です。

    懲戒処分が軽すぎると社内的にセクハラに対する厳正な態度を示すことができない一方、重すぎると加害者から裁判で争われて損害賠償などを命じられるおそれがあります。本件で、最高裁判所は、管理職が長期間にわたり執拗にセクハラ発言を繰り返したようなケースでは、出勤停止等の重い懲戒処分が可能であることを明らかにしました。一方で、仮に本件について事業主が懲戒解雇を選択していれば、裁判所は懲戒解雇は重すぎるとして、解雇を無効と判断した可能性が高いと思われます。

    別の判例では、取締役が、酒席において女性従業員の肩を抱くなどしたり、日ごろから胸の大きさを話題にするなどのセクハラ発言を繰り返していたという事例で、会社がこの取締役を懲戒解雇したことについて、処分が重すぎるとして無効と判断したものがあります。
    参考判例:(東京地方裁判所平成21年4月24日判決)

    セクハラについての懲戒処分を行うに当たっては、具体的な行為の悪質性、加害者の立場等を考慮して、軽すぎず、重すぎないバランスのとれた処分をしなければならないことをおさえておきましょう。

    ポイント3:
    懲戒処分を行う際は、事前におよその目安をおさえておく。

    「軽すぎず、重すぎない適切な処分」をするために、懲戒処分を行う際は、事前に懲戒処分のおよその目安を確認しておくことが必要です。

    ●セクハラの加害者に対する懲戒処分についてのおよその目安

    目安1:
    「言葉によるセクハラ」で常習的なものでない場合

    ▶ 「戒告」あるいは「減給」にとどめるのが妥当。

    目安2:
    「言葉によるセクハラ」であっても、管理職など本来セクハラ防止に向けて努力すべき立場の者が長期にわたり執拗にセクハラ発言を繰り返し職場環境を悪化させたような場合

    ▶「出勤停止」が妥当。

    目安3:
    「言葉によるセクハラ」であっても、一回懲戒処分を受けた後もセクハラ発言を繰り返し、再度の懲戒処分を行う場合

    ▶「出勤停止」または「懲戒解雇」を検討することが適切。

    目安4:
    胸を触った、無理やりキスをしたなどの、強制わいせつ的なセクハラ行為の場合

    ▶懲戒解雇が妥当。平成17年1月31日東京地方裁判所判決も、このような強制わいせつ的なセクハラ行為については懲戒解雇を適法と判断しています。

    懲戒処分は就業規則に定められている中から選ぶ必要がありますが、どれを選択するかは、上記の点を目安として慎重な検討が必要であることを覚えておきましょう。

     

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