全額回収率アップには必須!債権回収の際に知っておくべき正しい仮差押えの進め方

仮差押え手続きの方法
会社経営や店舗経営をしていると、以下のような債権回収の悩みを経験することがあります。

「商品を売ったのに支払いをしてくれない。」
「工事をしたのに支払いをしてくれない。」

このような債権回収に関するトラブルは、会社経営にはつきものであり、「咲くやこの花法律事務所」の企業法務でももっとも相談の多いジャンルの一つです。

債権回収に関するトラブル対応策として、以前の記事で具体的な対応策をご紹介しておりますので、経営者の方は是非、読んでみてください。

▼債権回収に関するトラブル対策についてはこちら
「絶対に損をしない!ここだけは抑えておきたい債権回収率アップのための5つのポイント!」の記事へ

債権回収の回収率アップのためには、スピード対応が必要となりますが、最初に以下の方法が効果的です。

「弁護士から債務者宛てに内容証明郵便を送って、支払いを督促する。」

しかし、それでも支払いをしないという場合は、債務者に対して訴訟に進まなければなりません。このようなケースで、訴訟の前に強力な手段の一つとして「仮差押え」という手続きがあります。
「仮差押え」は、訴訟の前に債務者の財産を凍結してしまい、処分できなくする手続きです。
今回は、全額回収率を少しでもアップさせるための「仮差押えの正しい進め方」についてご説明したいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

●なぜ全額回収率をアップできるのか?仮差押えの圧倒的な効力について
●全額回収率を確実にアップさせるための「正しい仮差押えの進め方」
●仮差押えの際に事前に検討しておくべき5つの重要ポイントとは?

 

なぜ全額回収率をアップできるのか?仮差押えの圧倒的な効力についてご紹介

全額回収率アップさせるための仮差押えですが、この仮差押えも正しい手続きで実施しなければなりません。今回、仮差押えの方法についてお話する前に仮差押えをすると、「なぜ、全額回収率をアップできるのか?」を知っておくことで、正しい手続きの方法をイメージしやすくなりますのでご説明いたします。まず、以下のことを理解しておくことが大切です。

「訴訟で勝訴すること」=「債権回収の成功」にならない場合がある。

【1,訴訟で勝訴=債権回収成功ではない】

訴訟で勝訴すれば、裁判所から債務者に判決正本と呼ばれる文書が送られます。
判決正本の内容は、裁判所が債務者に対して支払いを命じる内容になっています。
しかし、訴訟で勝訴した場合でも、債務者にその金額を支払うだけの財産がなければ、債務者としても支払いができません。
その結果、支払いが実行されず、勝訴判決は無駄になってしまう可能性もあります。

このようなことを防ぐために、訴訟を起こす前に、債務者がもっている財産を処分できないように凍結してしまう手続きが「仮差押え」です。

【2,勝訴後に債務者に「払えない」とは言わせない仮差押えの効果】

訴訟の前に「仮差押え」の手続きをすることで、勝訴した後になって債務者に「財産がないから払えない」と言わせず、完全に支払いをしてもらうことが可能になります。

・銀行預金の仮差押え
債務者に銀行預金があれば、これを「仮差押え」することで預金を引き出すことができないようになります。

そして、訴訟で勝訴した後に、債権者は、その銀行から直接預金の支払いをうけることで、債権を回収することができます。

・不動産の仮差押え
債務者に不動産があるのであれば、これを「仮差押え」することで債務者が不動産の名義を移転したり、
新しく担保に入れたりすることができないようになります。
そして、訴訟で勝訴した後に、債権者は不動産を競売にかけて、その代金から債権を回収することができます。

・債権の仮差押え
債務者に取引上の債権があれば、これを「仮差押え」することで、債務者はその債権について支払いを受けることができなくなります。

例えば、A社が債務者に売却した商品の売買代金を回収する場合に、債務者も商品を転売して利益をあげている場合には、債務者は転売先に対して売買代金債権をもっています。

この場合に、この債務者の売買代金債権について「仮差押え」の手続をすれば、転売先から債務者への代金の支払いを停止させることができます。そして、訴訟で勝訴した後に、債務者の転売先から直接支払いを受けることで、A社の債権を回収することができます。

このように、訴訟で勝訴した時に全額債権を回収するためには、訴訟の前に仮差押えの手続きを取っておくことが極めて有効な手段になります。

 

全額回収率を確実にアップさせるための「正しい仮差押えの進め方」

全額回収率アップさせるための仮差押えですが、この仮差押えも正しい手続きを知っておかなければ実施できません。

最初に仮差押えの流れについてのご説明になります。

【仮差押えの正しい手続きの流れ】

ステップ1:裁判所への申立
ステップ2:裁判所での審理
ステップ3:担保の供託
ステップ4:仮差押え決定
ステップ5:仮差押えの執行

●ポイント解説●
「ステップ1:裁判所への申立」〜「ステップ5:仮差押えの執行」までの流れは、通常、約1週間程度で行ってしまうことが理想です。

そして、「ステップ5:仮差押えの執行」まで終えて、はじめて債務者の預金を凍結したり、債務者に不動産の名義の移転を禁止したりという、
仮差押えの効力が生じますので、覚えておきましょう。

【仮差押えの正しい手続きの流れのご説明】

ステップ1:裁判所への申立

仮差押えの手続きは、裁判所に仮差押申立書を郵送することからスタートします。
弁護士に委任する場合は、これらの書類は基本的には弁護士が作成します。
この申立書には、下記のような書類を添付します。

<仮差押えの申立書に添付する書類>
(1)請求債権目録
(2)債権の仮差押えの場合は、仮差押債権目録、不動産の仮差押えの場合は、物件目録
(3)債権があることを示すための資料(「疎明資料」といいます【以下、補足1】
(4)債権者が法人の場合は、債権者の資格証明書
(5)債務者が法人の場合は、債務者の資格証明書
(6)債務者の本社所在地の登記簿謄本
(7)保全の必要性についての債権者の陳述書【以下、補足2】
(8)弁護士に委任する場合は委任状
【補足1:債権があることを示すための資料(「疎明資料)」について】

債権があることを示すための疎明資料については、債権があることを示すための疎明資料ついては、「回収する債権に関する契約書」と、「債権の金額がわかる書類」を準備する必要があります。

具体的には、以下の通りです。

(1)回収する債権に関する契約書

・売買代金の回収であれば売買契約書
・請負代金の回収であれば請負契約書

(2)債権の額がわかる書類 

・発注書と発注請書
・債権額が記載された個別契約書
・債務残高確認書
・分割払いの合意書

このような書類は、原本を提出するのがベストです。

【補足2:保全の必要性についての債権者の陳述書について】

「保全の必要性についての債権者の陳述書」とは?
裁判所に対して訴訟の前に債務者の財産について仮差押えをして、債務者の財産の処分を禁止しておく必要があることを説明する文書です。

下記のような内容を記載します。

(1)債権の期限がすでに過ぎており、支払いが遅れていること
(2)債権者から債務者に何度も督促をしていること
(3)督促に対する債務者の対応状況
(4)現在も債務者が支払いをしていないこと
(5)債務者の資金繰りの悪化をうかがわせるような事情があればその事情
(6)債務者の財産を訴訟の前に仮差押えの手続きをしておかなければ、訴訟で勝訴しても支払われない恐れがあること

これらの内容を弁護士が依頼者からヒアリングして、弁護士が下書きを作成し、それを依頼者が確認して署名捺印するという方法で「陳述書」を作成するのがよいでしょう。

2,裁判所での審理

裁判所への申し立てをすると、裁判官が仮差押えの可否を審理します。
具体的に、審理の対象となるのは以下2点になります。

(1)請求債権の有無
(2)保全の必要性

裁判官から「仮差押えの決定」をもらうためには、「請求債権」がありそうだと認められ、かつ「保全の必要性」もあるという判断がされる必要があります。

このうち、「請求債権の有無」は、債権者が主張しているような債権が実際にあるかどうかを裁判所が検討します。
この点は、前述の疎明資料として提出した「契約書」や「債務残高確認書」などをもとに判断されます。

また、「保全の必要性」は、裁判所が訴訟の前に債務者の財産を仮差押えして、財産の処分を禁止しておく必要があるかどうかを審理します。

この点は、前述の「保全の必要性についての債権者の陳述書」をもとに判断されます。裁判官が資料が足りないと判断したときは、資料の追加提出を指示されますので、その場合は追加提出にスムーズに対応することが必要です。

東京地方裁判所や大阪地方裁判所では裁判官が弁護士と裁判所で面談し、資料が足りないときは面談の場で裁判官から資料の追加を指示されるのが通常です。地方の裁判所では面談は行われずに、裁判官から弁護士に電話などで、資料の追加を指示するのが通常です。

3,担保の供託

「裁判所での審理」をクリアすれば、裁判官から、仮差押えの決定の前に担保として納めなければならない担保金の額が伝えられます。

債権者は決定された担保の額を法務局に供託します。
裁判所は法務局の供託証明書で債権者が担保を供託したことを確認します。
裁判所から担保の額が伝えられてから、通常は7日以内に供託しなければなりませんので、資金を事前に確保しておくことが必要です。

4,仮差押え決定

「担保の供託」が済めば、裁判所が「仮差押決定」を出します。

5,仮差押えの執行

「仮差押え決定」が出れば、これをもとに「仮差押えの執行」に移ります。

この「仮差押えの執行」は、仮差押えをした財産について、裁判所の決定に基づき、実際にその処分を禁止するための手続きです。不動産の仮差押えの場合は、債務者の不動産に仮差押えをしたことを示す登記をします。これにより、債務者はその不動産の名義を移転することができなくなります。

債務者の預金債権を仮差押えした場合は、裁判所から銀行に仮差押決定書を送達して、銀行が債務者に対して預金の支払いをすることを禁止します。これにより、債務者は預金を引き出すことができなくなります。「仮差押えの執行」が終わってから、裁判所が仮差押決定書を債務者に送達します。この段階ではじめて債務者は自分の財産について、仮差押えがされたことを知ることになります。

以上が、仮差押えの手続きの流れになります。

仮差押えの手続きは、作成する書類の内容が専門的で裁判官の面談などもあるため、実際には弁護士に委任して進めるのがよいでしょう。
但し、弁護士に委任しても、資料を集めたり、担保金を準備することは必要ですので、以下の点に注意しましょう。

・弁護士が裁判所で追加資料を指示されたら、すぐに準備できるように、仮差押の手続中は、弁護士とスムーズに連絡をとれるようにしておきましょう。

・裁判所で追加資料を指示されたら、スムーズに資料を提出できるように、仮差押をする債権についての資料の原本を整理しておきましょう。

・担保の供託を指示されたらすぐに出金できるように資金を事前に確保しておきましょう。

また、仮差押えの手続きを進めていることを債務者に知られると、債務者が仮差押えの決定が出る前に預金を下ろしてしまったり、不動産の名義を移転してしまう恐れがあります。

そのため、仮差押えの手続きが終わるまでは、秘密にしておくことも忘れないで下さい。

 

仮差押えの際に事前に検討しておくべき5つの重要ポイントとは?

このように仮差押えは、勝訴した場合の債権の回収を確実にするために有効な手段ですが、仮差押えの手続きを実施にあたっては、以下の5点を検討しておく必要があります。

【ポイント1:債権を証明できる証拠があるかを確認すること】

仮差押えの手続きでは、裁判所に、債権者が主張する金額の債権が、「実際に存在する」ことの証拠を提出することが必要です。
売買代金の回収であれば、債権者が主張する額の売買代金債権が、「実際に存在する」ことの証拠を提出することが必要です。
請負代金の回収であれば、債権者が主張する額の請負代金債権が、「実際に存在する」ことの証拠を提出することが必要です。
契約書が作られておらず、債権の金額についても証拠がないという場合は、まずは、下記のような資料を揃えることから始めなければなりません。

(1)回収する債権に関する契約書

・売買代金の回収であれば売買契約書
・請負代金の回収であれば請負契約書

(2)債権の額がわかる書類

・発注書と発注請書
・債権額が記載された個別契約書
・債務残高確認書
・分割払いの合意書

【ポイント2:裁判所に預ける担保を確保することが必要】

仮差押えの手続きをするには、裁判所に「担保」を預ける必要があります。
これは、裁判所が「仮差押えの決定」をしたものの、後で債権者が敗訴した場合に備えて、債務者が「仮差押えの決定」により被る損害の賠償にあてるための一定額を、予め「担保」として債権者に預けさせるものです。

「担保」の金額は裁判所が決定しますが、目安として、仮差押えをしようとして請求する債権の額の約10%〜30%程度になります。「担保」は、原則として仮差押えをした後に、債権者側が債務者に対して訴訟を起こし、訴訟で勝訴したあとに、裁判所から返金されることになります。

つまり、訴訟期間中は、ずっと担保を裁判所に預けておかなければならないのです。
訴訟は長い場合には1年以上必要となりますので、その期間、担保として預けたお金は他の用途には使えません。
このように、仮差押えにあたっては、現金を担保として裁判所に預けることになりますので、そのための資金を確保することが必要です。

【ポイント3:訴訟にかかる期間や費用を検討しておくことが必要】

仮差押えをした後は、以下のような流れになり、通常は訴訟に進むことが必要になります。

1,仮差押え
2,訴訟
3,勝訴判決
4,回収

このように、仮差押えをした後は、通常は訴訟を起こさなければなりません。
そのため、訴訟までを踏まえて、必要な期間や弁護士費用を予め検討しておく必要があります。

【ポイント4:仮差押えの申立をする裁判所を確認することが必要】

仮差押えの申立をどこの裁判所に出せばよいのかを確認しておくことが必要です。
通常は債権者側の所在地を管轄する裁判所で申し立てが可能ですが、回収する債権に関する契約書で債務者側の所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所として規定している場合は、債務者側の所在地を管轄する裁判所で申立をしなければならないこともあります。

【ポイント5:債務者の本社が所在する不動産の登記簿謄本を取得することが必要】

仮差押えを申し立てると、裁判所から、債務者の本社が所在する建物の登記簿謄本の提出を求められます。
そして、債務者の本社が所在する不動産が債務者の自己所有の場合は、裁判所は債権の仮差押えは認めず、不動産の仮差押えに切り替えるように指示してくることがほとんどです。

これは、債権の仮差押えをすると、債務者は取引先に仮差押えをされたことを知られて大きなダメージを受けることがありますので、「債務者所有の不動産があれば、まず不動産を仮差押えするように」という裁判所の配慮によるものです。
そのため、もし債権の仮差押えを検討している場合は、特に早めに登記簿謄本を取得し、債務者の本社が所在する不動産の所有名義を確認する必要があります。

そして、債務者の本社が所在する不動産が債務者名義の場合は、申立の内容を不動産の仮差押えに切り替える必要がありますので、覚えておきましょう。

 

まとめ

今回は、全額回収率アップの有力な手段である「仮差押え」について、以下のご説明をいたしました。

●なぜ、仮差押えが有効な手段なのか?
●仮差押えの正しい手続きの進め方とは?
●事前に検討しておくべきポイントとは?

訴訟を起こす前に正しい方法で仮差押えすることで、債権回収の確実性が格段にあがることは、私たち企業法務の専門家である弁護士だからこそわかることです。仮差押えには、担保金の準備、資料の準備、陳述書の作成等、さまざまな準備が必要で面倒な手続きではありますが、その労力に見合うだけの効果はあると考えます。

会社を経営している経営者の皆様、体験してからでは遅いため、予め、債権回収についての知識は深めておきましょう。

 

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