会社経営のリスクの中で、起こりやすいトラブルのひとつが以下のような代金未払い、売掛金未払いのトラブルです。
- 工事案件における工事代金未払いのトラブル
- 商品販売の場面の売掛金回収のトラブル
- サービス提供後の料金未払いトラブル
- 医療機関の医療費未払いトラブル
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所でも例えば以下のような債権回収のご相談を受け、実際に解決してきました。
- 施主と連絡がとれず未払いになっていた内装工事費について工事業者の依頼を受けて全額回収した事例
- 相手の会社の銀行預金を差し押さえた結果、債権全額の回収に成功した事例
- 鞄の販売業者の未払い代金の回収について弁護士が依頼を受け公正証書を作成した事例
今回は筆者の経験も踏まえて、債権回収を成功させるためのポイントについてわかりやすくご説明します。
この記事でもご説明しますが、債権回収はスピードが勝負です。債務者の経営状態が悪化してからでは、回収は難しくなります。「支払を待ってくれと言われた」など危険な兆候がある場合は、すぐに弁護士に相談し、必要な準備を進めることが、債権回収成功の最も重要なポイントです。債権回収に不安がある場合は、早めに咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
▶【関連動画】西川弁護士が「債権回収の重要ポイントを弁護士が解説【売掛金の入金がない時どうする?】」について詳しく解説中!
▶【関連情報】債権回収に関する情報は、以下の関連情報もあわせてご覧下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,債権回収とは?
債権回収とは、金銭債権を実際に債務者に支払わせるための債権者側の活動をいいます。債権回収の対象となる「金銭債権」とは、相手(債務者)に対して、金銭の支払いを求めることができる権利のことをいい、商品を売った場合に代金の支払いを求める権利や、工事をした場合に工事代金の支払いを求める権利がこれにあたります。これを実際に支払わせるための活動が債権回収です。
(1)債権回収が問題になる場面
相手(債務者)との関係に特に問題が生じていない場面では、債権者から債務者に請求書を送れば支払期限までに支払われるということが通常です。
しかし、以下のような場面では、実際にどのようにして金銭を支払わせるかが大きな問題となります。
- 相手(債務者)と連絡がとれなくなった場合
- 「お金がないので少し待ってくれ」と言い出した場合
- 不合理なクレームをつけて支払いを拒否する場合
- 相手(債務者)が不渡りを出した場合
- 相手(債務者)の経営状態が悪化している場合
この記事では、商品代金の未払いや、工事代金の未払いなど企業の債権回収を念頭に解説しますが、債権回収は、個人間のお金の貸し借りなどの場面で個人間でも生じます。
個人間の債権回収でも、重要なポイントは同じですので、この記事でご説明することを参考にしていただくことができます。
2,交渉による債権回収の進め方
債権回収には、大きく分けると、相手との「交渉」により回収する方法と、訴訟などの「法的手段」により回収する方法があります。
訴訟などの法的手段を取る場合は、費用や労力の面でハードルがあるため、通常は、まずは、相手との交渉による回収の努力をし、それでも支払がされない場合に、法的手段による回収に進むことになります。以下では、まず「交渉」による債権回収の進め方についてご説明したいと思います。
(1)「内容証明郵便」を送る際のポイント
債権回収のためのアクションとして、最初に行うことが多いのが、相手方への内容証明郵便の送付です。
内容証明郵便は、「期限までに支払いがなければ訴訟等の法的手段をとること」などを記載して、後日その郵便を送付したことを証明できる形式で送付することにより、相手にプレッシャーをかけ、支払を促す方法です。
以下で重要となるポイントを解説します。
▶参考情報:内容証明郵便の制度や効力については以下の記事をご参照ください。
1,内容証明郵便の送付方法について
内容証明郵便は弁護士に依頼せずに、自社で送ることもできます。しかし、自社で内容証明郵便を送っても、迫力がなく、効果もないことが多いです。弁護士に依頼して、弁護士の名前で送ることがより効果的となります。
また、自己流で送った内容証明郵便の内容が不適切な場合、その内容が記録として残ってしまうため、あとの回収行為に差し支えることがあります。自社で内容証明郵便を送る場合でも必ず弁護士に相談し、事前にチェックを受けておくことが必要です。
2,債権回収の内容証明郵便に記載する項目
内容証明郵便を送る際は、次のような内容を記載しましょう。
- 1,督促する債権の金額とその根拠
- 2,支払期限
- 3,支払先の振込口座
- 4,期限までに支払いがなければ訴訟等の法的手段をとること
- 5,訴訟の際は、債権金額だけでなく遅延損害金や弁護士費用も請求に加えること
そのうえで、「今後一切の連絡は弁護士宛てにお願いします。」ということを記載して、交渉窓口が弁護士になったことを明記しましょう。
▶参考情報:内容証明郵便の雛形(ひな形)例(建設会社が工事代金の支払を督促するケース)
弁護士から内容証明郵便を送ることで、「期限までに支払いがなければ訴訟等の法的手段をとること」や、「訴訟の際は、債権金額だけでなく遅延損害金や弁護士費用も請求に加えること」の記載が現実性があるものになり、債務者に最後の警告をすることが可能になります。
3,対応窓口を弁護士に一本化することの重要性
債務者に内容証明郵便を送った後は、対応窓口を弁護士に一本化しましょう。弁護士から内容証明郵便を送付しても、債務者が弁護士にではなく、債権者に直接連絡してくることがあります。
- 「債務者から債権者に直接電話をして、支払えない事情を伝えてくる。」
- 「『◯月◯日まで待ってくれ』など、期日変更のお願いなどの連絡をしてくる。」
このような場合には、「本件については、弁護士に依頼していますので弁護士に連絡してください。」と、電話を切ることが必要です。ここで、自社で電話対応をしてしまいますと、債務者は弁護士に比べて話しやすい債権者のほうに連絡してくるようになり、弁護士からの督促がうまくいかなくなります。
内容証明郵便を送った後は、債務者から直接連絡があっても取り合わないことが大切になりますので、注意しましょう。
咲くやこの花法律事務所における内容証明郵便による債権回収の解決実績の一部を以下で掲載していますのでご参照ください。
(2)分割支払いの和解をする場合のポイント
内容証明郵便を送った結果、債務者が「一括では支払えないため分割にしてほしい。」と、申し出てくることがあります。この場合、既に支払いが遅れていますので、分割で支払うという債務者の申し出を安易に信用するべきではありません。
以下の点に注意しましょう。
注意点1:
まずは、分割にすれば、本当に支払いができるのか、決算書を提出させて、債務者の資金状況や売り上げ入金の見込みを確認することが必要です。
注意点2:
実際に支払いの意思があることを確認するためには、期限を切って、債権金額の一部だけでも入金を求め、入金が確認できてから、分割に応じるということも検討すべきです。
注意点3:
「分割の和解に応じるのがよいのか」、それとも「訴訟などの手段により一括で支払わせるのがよいのか」も慎重に検討が必要です。一度、分割の合意書を作成してしまうと、期限通り払われている限りは、一括払いを求めることができなくなりますので、要注意です。
注意点4:
分割に応じる場合は、具体的な支払回数、支払期限を記載した「合意書」を必ず作成しなければなりません。
注意点5:
支払期間があまりにも長くなりすぎると、現実に支払いを受けられる可能性が低くなりますので、支払期間は長くても3年までにするのがポイントです。
1,分割の合意書にいれておくべき条項
分割の合意書を作成するときは、以下のような条項を入れておくことが大切です。
1.期限の利益喪失条項
分割金の支払いを1回でも遅れた場合は、残金を一括で支払わなければならないことを定める条項です。
この条項がないと、分割金の滞納があった場合も、滞納があった分しか請求ができず、残りの額はその分についての分割払いの期限が来るまで請求できません。滞納があった場合も一括の請求ができないことになり、その後の回収に苦労することになりますので、分割払いを認める際は、必ず、期限の利益喪失条項を入れておきましょう。
2.遅延損害金条項
分割金の支払いが遅れた場合のペナルティーとして、遅延損害金の条項を入れておくべきです。
遅延損害金の選択肢としては、以下のようなものがあります。
3.連帯保証条項
分割払いの支払いが遅れた場合には連帯保証人にも請求できるように、連帯保証人を確保しておくことをお勧めします。
なお、2020年4月の民法改正により一部の連帯保証については極度額(限度額)の設定が義務付けられましたが、債権回収の場面で作成する分割払いの合意書では、通常、連帯保証人の極度額(限度額)を設定する必要はありません。
民法改正に伴う連帯保証人制度の変更については以下をご参照ください。
4.合意管轄条項
支払いが遅れた場合は裁判になる可能性があります。こちらに便利な裁判所でできるように合意管轄の条項を付けておきましょう。
▶参考情報:分割の合意書の雛形
※上記の画像は、「分割の合意書」のサンプル画像です。
以下より「分割の合意書」フォーマットをダウンロードしていただけます。
万が一、分割の支払いが滞ったときは、すぐに債務者の財産を差し押さえることができるように、公正証書を作成したり、裁判所で即決和解(訴え提起前の和解)の手続きを利用する方法もあります。
▶参考情報:具体的な即決和解(訴え提起前の和解)の手続きは、裁判所のWebサイトをご覧ください。
ただし、これらの方法は費用と時間がかかりますので、まずは、分割の合意書を作成した後で、費用対効果を考えて検討するとよいでしょう。
また、債務者が売掛金や工事代金請求権などの債権を持っている場合は、その債権を債権譲渡担保にとることで支払いの確実性を高めることができます。
債権譲渡担保については以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
3,法的手段による進め方
ここまで交渉による債権回収についてご説明しました。
一方、内容証明郵便を送ったうえでの交渉でも支払を得られないときは、法的手段による債権回収に進むことになります。
法的手段による債権回収は、「訴訟」(通常訴訟)が王道ですが、そのほかにも「少額訴訟」や「支払督促」などの制度も検討できることがあります。また、訴訟などの前段階として行っておくべき「仮差押え」や「訴訟」などの後に支払を実現する手段である「強制執行(差押え)」についても検討が必要です。
以下で詳しくご説明します。
【参考】法的手段による債権回収の流れ
法的手段による債権回収の流れは、以下の手順を参考にしてください。
- 手順1:仮差押え(民事保全)
- 手順2:通常訴訟 or 少額訴訟 or 支払督促
- 手順3:強制執行(差押え)
それでは、各手順ごとに以下で詳しく解説していきます。
(1)仮差押え(民事保全)
まず、訴訟などの前段階として検討するべき「仮差押え」についてご説明します。「仮差押」は、訴訟の前に債務者の財産をいわば凍結してしまい、処分できなくする手続きです。
このようにして債務者の財産を事前に確保しておかなければ、訴訟で勝訴したとしても、そのときに債務者に財産がなく、支払いを得られないリスクがあります。仮差押えをしておけば、訴訟で判決を得た後に、支払いがされない場合、仮差押えしていた財産から強制的に支払を得ることが可能になります。
仮差押えは「民事保全」とも呼ばれます。
仮差押え(民事保全)の活用例としては以下のようなケースがあります。
1,仮差押え(民事保全)の活用例
ケース1:
銀行預金を仮差押えすることにより判決後に預金から回収を得る
債務者の銀行預金の仮差押えをすれば、裁判所の決定により債務者は仮差押えされた預金を引き出すことができなくなります。
この場合、最終的に裁判に勝訴すると、債権者はこの預金から債権を回収することができるようになります。
ケース2:
債務者の不動産を仮差押えすることにより判決後不動産を売却して回収を得る
債務者の不動産を仮差押えをすれば、裁判所の決定により、債務者は不動産を売却することができなくなります。
最終的に裁判に勝った場合に、債権者はこの不動産を不動産競売にかけて債権を回収することができます。
このような仮差押えをするために、裁判所に申立書を提出して裁判所から「仮差押決定」をもらわなければなりません。
2,仮差押えの検討の対象となる債務者の財産の例
仮差押えの申し立ての場面では、債務者の「どの財産を仮差押えするか?」について、裁判所に提出する申立書に記載しなければなりません。
仮差押えを検討する財産については、以下のようなものが検討対象となります。
- 銀行預金
- 不動産
- 生命保険
- 自動車
- ゴルフ会員権
- 債務者が個人であれば、勤務先から支給される給与
- 債務者が事業者であれば、取引上の債権
- 債務者が事業者であれば、金庫内の現金や店舗の現金
など
何を仮差押えするのかは、相手がどのような資産をもっていそうかについて、想像をめぐらし、相手の事業内容も踏まえて柔軟に考えることが必要です。
咲くやこの花法律事務所の解決実績の1例として、店舗を経営する相手方への工事代金の回収の場面で、相手方がショッピングモールに入居した際に預けていた預り金債権を仮差押えした事例を以下で紹介していますのでご参照ください。
▶未払い設計料や工事代金の回収依頼を受け、施主のショッピングモールに対する預り金債権を仮差押えできた成功事例
また、「仮差押え」については、以下の記事でさらに詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
(2)通常訴訟
仮差押えをした後は訴訟を起こすことが原則です。訴訟は、債務者が債権者に対して法的な支払い義務を負うかどうかを裁判所に判決で判断してもらう手続です。
債務者に支払を命じる判決が出された後、支払がされなければ、債権者側は次のステップである執行手続に進むことが可能です。
ただし、実際には、判決に至るまでの段階で、裁判所から和解の提案がされ、支払金額や支払方法(分割払いの回数や金額など)を取り決めた 「和解調書」を作成して、訴訟手続きを終了することも多くなっています。
通常訴訟の手続きについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
(3)少額訴訟
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる手続です。
少額訴訟の手続きは、1回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする手続ですが、債務者側から希望が出れば、通常訴訟に移行します。そのため、債務者側から、支払金額などについて異議が出そうな債権の回収について少額訴訟を起こしても通常訴訟に移行することが多く、少額訴訟を選択することはあまり適切ではありません。
一方で、債権者側から異議が出る見込みがなく、金額が60万円以下であれば少額訴訟も選択肢の1つになるといえるでしょう。
なお、少額訴訟も通常訴訟と同じように判決が出された後、支払がされなければ、債権者側は次のステップである強制執行に進むことが可能です。
少額訴訟の手続きについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
(4)支払督促
支払督促は、債権者側の申し立てにより、裁判所が債務者に支払いを督促する手続であり、債権回収の場面で、訴訟のかわりに活用されることがあります。
裁判所に行かなくても必要書面を裁判所に郵送することにより手続をすることができます。そして、債務者側から特に異議が出されなければ、支払を命じる判決を得たのと類似の効力を得ることができ、強制執行に進むことができます。
ただし、支払督促については、債務者側から異議が出された場合、通常訴訟に移行し、債務者側の住所地の裁判所で審理が行われることになります。
そのため、特に遠方の債務者に対して支払督促の手続きをすると、遠方の裁判所で通常訴訟に移行してしまい、裁判所への出廷が大変になるリスクがある点に注意して利用する必要があります。
支払督促について詳しくは以下の解説記事を参考にご覧ください。
(5)強制執行(差押え)
強制執行(差押え)は、典型的には、訴訟で判決を得たが、債務者が支払をしない場合に、債務者の財産から強制的に支払いを得る手続きです。
強制執行の際に差し押さえる債務者の財産としては、以下のようなものが想定されます。
- 銀行預金
- 不動産
- 取引上の債権
- 生命保険
- 自動車
- ゴルフ会員権
- 債務者が個人であれば、勤務先から支給される給与
- 債務者が事業者であれば、取引上の債権
- 債務者が事業者であれば、金庫内の現金や店舗の現金
強制執行はいわば債権回収の最終段階であり、債権回収に関する仮差押えや訴訟も、この最終段階である強制執行を想定したうえで行う必要があります。
強制執行(差押え)については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
また、差押え(強制執行)の手続きを利用した、咲くやこの花法律事務所の解決事例として、以下の事例を掲載していますのであわせてご参照ください。
4,債権回収に入る前におさえておくべきポイント
ここまで債権回収の具体的な進め方についてご説明しましたが、債権回収に入る前の準備段階の注意点についてもご説明しておきたいと思います。
(1)「早め!早め!」の行動スタートが債権回収率アップにつながる
債権回収は「時間」との戦いであることを強く意識しておきましょう。債権回収に向けたスタートを切るのが早ければ早いほど、債権の確実な回収につながります。
- 「あれ?支払予定日に入金されていない。」
- 「支払予定日を遅らせてほしいと取引先が連絡してきた。」
このような場面で、取引先が自社の債権を期限までに支払えなかったということは、その取引先は他の債権者に対しても、支払いが遅れている可能性が高いです。
また、その取引先は、今後の財務内容が悪化する可能性があり、場合によっては倒産する可能性もあります。
債権回収は、多数の債権者がいる中で、債務者の残された資産の中から「誰が早く回収を得るか?」という、早い者勝ちの競争です。
債権回収の対象になるような債務者は、そもそも経営がうまくいっていないことがほとんどですから、「債務者の残された資産」は、時間が経過するにつれてどんどん減っていきます。
そのため、特に債権の金額が大きい場合(目安として100万円以上)は、以下のいずれかのケースにひとつでも当てはまるものがあれば、すぐに弁護士に相談して対応を検討する必要があります。
債権回収についてすぐに弁護士に相談するべきケース
- 債権が支払予定日までに支払われていない。
- 債務者側から支払期限の延長を依頼された。
- 債務者との連絡がつながらなくなった。
- 支払期限の直前に債権者が、言いがかり的な不当なクレームを主張してくる。
- 債務者について、支払いが遅れているという噂が広まっている。
このように、債権回収は「スピード」が重要となりますので、できるだけ早い段階で動き出しましょう。
(2)債権回収の準備では「契約書」を確認する
債権回収の準備として特に重要になってくるのが、その債権について、「契約書」の有無と内容を確認することです。
以下では、「契約書がある場合のチェックポイント」と「契約書がない場合に取得するべき残高確認書」についてご説明します。
契約書もなく、残高確認書も取得できない場合は、債権回収にかかる費用や、労力が非常に大きなものになる可能性がありますので、これらの点を準備しておくことは重要です。
1,契約書がある場合に確認しておくこと
契約書がある場合は、雛形やコピーではなく、相手と自社の捺印がある原本を必ず確認しましょう。
また、契約書のチェックポイントは以下の通りです。
1.「契約書の当事者名が請求先と一致しているか?」
契約書の当事者名が請求先と一致していない場合は、今後、誰に対する請求をしていくかをよく検討する必要があります。
「契約書に署名捺印している相手方が、これまで請求書を送付していた請求先と一致しているか?」をよく確認しましょう。
取引上の便宜のために、請求書を契約書に署名捺印している相手方ではなく、相手方から支払の委託を受けた第三者に送付しているケースがあります。
このような場合は、本来、契約上の支払義務を負うのは、これまで請求書を送付していた第三者ではなく、契約書に署名捺印している相手方になります。
そのため、内容証明郵便の送付や訴訟手続きは、契約書に署名捺印している相手方に対して行う必要があります。
2.「契約書に支払期限が記載されているか?」
債権の支払期限がまだ来ていない場合には、原則として、支払期限が来るまでは、内容証明郵便の送付などはできません。
契約書上の支払期限を確認したうえで、「いつのタイミングで」、「どのような債権回収の行動を」とるのかを検討する必要があります。
3.「期限の利益喪失条項があるか?」
期限の利益喪失条項が契約書の中に含まれているかいないかで、「債権の全額が請求できるか」、それとも「支払期限に遅れている分しか請求できないか」が変わってきます。
「期限の利益喪失条項」とは、例えば3月分、4月分、5月分の代金がある場合に、3月分が遅れれば、まだ支払期限が来ていない4月分、5月分も一括で支払わなければならないということを債務者に義務付ける条項です。
例えば、「債務の弁済を一回でも遅延したときは、乙は甲に対するすべての債務について期限の利益を喪失し、残債務全額をただちに支払わなければならない。」などのように規定されていることが多いです。
4.「連帯保証人がいるか」
連帯保証人がいる場合は、債務者本人に請求するのと並行して連帯保証人にも請求していくことが可能になります。
5.「裁判所の合意管轄の条項があるか」
合意管轄条項とは、契約書の最後によく記載されている、「本契約についての紛争は、東京地方裁判所を専属的合意管轄とする」といった内容の条項です。
遠方の裁判所が「専属的合意管轄」として規定されている場合は、裁判をするための費用が大きくなる可能性がありますので、それを踏まえて、できるだけ裁判外での交渉を目指すなど、債権回収の方法を検討する必要があります。
以前は、遠方の裁判所であっても実際に出廷しなければならないケースが多く、裁判所が遠方であることは相応のデメリットがありました。しかし、最近では、裁判のIT化が進み、遠方の裁判所に実際に出廷するケースが大きく減りました。そのため、遠方の裁判所での裁判を回避する必要性は以前と比べればかなり薄れていています。
以上、契約書について解説しましたが、発注書と発注請書があるといった場合も、契約書がある場面と同視することができます。
発注書や発注請書について前述した「1~5」の点を確認しておきましょう。
2,契約書がない場合は残高確認書の取得が重要
契約書がない場合は、相手が支払義務を否定してきた場合に、相手が支払義務を負うことや、相手が支払義務を負う金額をどのようにして証明するかを検討しておく必要があります。
以下のような場面では、支払義務や支払金額について債務者と合意した書類がないことが、その後の仮差押えの手続きや裁判等で、通常以上の労力や費用がかかる原因になる可能性があります。
- 取引基本契約書は締結されているが、具体的な代金額を記載した書類が作成されていない場合
- 具体的な代金額については見積書に記載があるだけで、債務者が捺印した書類が作成されていない場合
- 代金については口頭やメールで約束していて、正式な書面がない場合
このような場合、債権回収のアクションに移る前に残債権の金額について、下記のような「残高確認書」を債務者に記載してもらい、証拠として活用できるようにしておくことが重要です。
▶参考情報:残高確認書サンプル
※上記の画像は「残高確認書のサンプル」です。
以下より「残高確認書」フォーマットをダウンロードしていただけます。
5,債権回収の代行を弁護士に依頼するメリット
債権回収の準備段階では、債権回収を自社で行うか、それとも弁護士に依頼するかということも検討事項になります。
この点に関して、債権回収の代行を弁護士に委託することについてどのようなメリットがあるのかということをご説明したいと思います。
(1)相手に対する心理的圧力をかけて支払いを促す
内容証明郵便のところで解説した点と重なりますが、交渉段階では、相手にプレッシャーをかけ、支払を促すことが重要になります。具体的には、支払がされない場合は訴訟等の法的手段をとることを明確に伝えることにより、支払を促すことになります。
そして、これは、弁護士が行うことで初めて真実味があり、相手にプレッシャーをかけることができます。
(2)弁護士間の話し合いにより回収が可能になるケースもある
自社が弁護士に依頼して内容証明郵便を債務者に送ったことをきっかけに、債務者側にも弁護士に委任するというケースも多くみられます。相手に弁護士がつくということは決して債権回収にとってデメリットではありません。
債務者との直接の話し合いがうまくいかない場合でも、債務者側の弁護士との交渉により、合理的な支払約束、支払計画を取り付けることができ、裁判をせずに、債権回収に至ることも少なくありません。
(3)裁判、強制執行を見据えた戦略を立て、債権回収率をアップすることができる
前述の通り、弁護士に依頼することにより、交渉による解決が期待できる可能性が上がる一方で、交渉が決裂した場合や、債務者側が内容証明郵便を無視する場合の対応もあらかじめ考えておく必要があります。
裁判による債権回収で重要なことは裁判に勝つということではなく、勝ったうえで実際に回収するということです。裁判に勝っても、支払がされないケースは決して少なくありません。
そのため、交渉段階から、裁判後の強制執行も見据えた戦略を立て、交渉と並行して、強制執行できそうな相手の財産の有無を調査する必要があります。そのうえで、裁判前の仮差押えの準備を進めることが、債権回収率を上げるためには非常に重要になってきます。
交渉段階から弁護士に債権回収の代行を委託することにより、このような法的手続きまで見据えた債権回収戦略を立てることが重要です。
▶参考情報:債権回収の相談や代行を弁護士に依頼すべきかどうかについては、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
6,債権回収を委託する場合の弁護士費用
債権回収を弁護士に委託する場合の弁護士費用については、弁護士ごとに異なります。弁護士の費用は、以下のような点を考慮して見積もられることが多くなっています。
債権の額
回収の対象となる債権の額が大きい場合、債権回収の弁護士費用もその分高額になることが通常です。
債権についての資料の有無
回収する債権について契約書がないなど、資料が不足している場合は、債権額の立証や支払義務の根拠づけに労力を要し、その分、弁護士費用が高額になるケースがあります。
弁護士が行う回収行為の内容
ケースによっては、内容証明郵便を送る前に仮差押えをする、あるいは財産の調査をするなど、内容証明郵便以外の手段から回収行為をスタートしたほうが良い場面もあります。
その場合は、実際に行う内容に応じた弁護士費用の見積もりになります。
(1)咲くやこの花法律事務所の債権回収に関する弁護士費用の目安
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、債権回収については、おおむね以下の費用を目安とさせていただいたています。
1,交渉による債権回収を委託する場合の費用
着手金(ご依頼にあたり事前にいただく弁護士費用)
15万円+税程度~
※請求額を参考に、事案の難易、時間及び労力、事件の見通し、事件処理のための特別の調査・研究の必要、事件に要する期間、その他の諸般の事情を考慮して定めています。そのため、個別の事案によって大きく異なります。着手金の額をあらかじめ見積り、委任に関する契約書を作成致します。
報酬金
回収額の4%~20%+税程度
※獲得した経済的利益の額、時間及び労力、事件の見通し、事件処理のための特別の調査・研究の必要、事件に要する期間、その他の諸般の事情を考慮して定めています。そのため、個別の事案によって大きく異なります。報酬金のパーセンテージをあらかじめ見積り、委任に関する契約書を作成致します。
2,訴訟による債権回収を委託する場合の費用
着手金(ご依頼にあたり事前にいただく弁護士費用)
30万円+税程度~
※請求額を参考に、事案の難易、時間及び労力、事件の見通し、事件処理のための特別の調査・研究の必要、事件に要する期間、その他の諸般の事情を考慮して定めています。そのため、個別の事案によって大きく異なります。着手金の額をあらかじめ見積り、委任に関する契約書を作成致します。
報酬金(回収ができた場合にいただく費用)
回収額の4%~20%+税程度
※獲得した経済的利益の額、時間及び労力、事件の見通し、事件処理のための特別の調査・研究の必要、事件に要する期間、その他の諸般の事情を考慮して定めています。そのため、個別の事案によって大きく異なります。報酬金のパーセンテージをあらかじめ見積り、委任に関する契約書を作成致します。
咲くやこの花法律事務所の債権回収の代行サービスは以下のページをご覧ください。
7,時効について
債権回収については、時効にも注意する必要があります。
2020年4月の民法改正により、債権は原則として5年で消滅時効にかかることになりました。時効間際の債権については時効になる前に、以下のような時効を停める措置(時効更新措置)をとる必要があります。
時効更新措置の例
- (1)債務者に対して訴訟を起こす
- (2)裁判所に支払督促の申し立てをする
- (3)債務者に債務があることを認める書面を出してもらう(債務の承認)
- (4)債務者に債務の一部を弁済してもらう(一部弁済)
これらの時効更新措置をとった場合、それまでに経過した時効期間をリセットすることができます。
例えば、支払期限から4年10ヶ月が経過したところで、債務者に債務の一部を弁済してもらった場合、それまでの時効期間がリセットされ、弁済を受けた日からまた新たに5年間の時効期間が開始することになります。
なお、内容証明郵便を送るだけでは、6か月間だけ時効が延長されるだけで、上記のような時効の更新はされません。内容証明郵便を送付してから6か月が経つまでに、訴訟を起こすなどの時効更新措置をとらなければ、消滅時効にかかってしまいますのでご注意ください。
売掛金の時効期間については以下の記事でより詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
2020年4月の民法改正により以下のように民法上の用語が変更になりました。
この記事では改正後の用語に基づき解説しています。
- (改正前の用語)時効の中断→(改正後の用語)時効の更新
- (改正前の用語)時効の停止→(改正後の用語)時効の完成猶予
8,債権回収会社について
債権回収会社は、他社の債権回収の代行を業務として行うことを特別に許可された会社です。「サービサー」とも呼ばれます。
本来、債権回収の代行は弁護士にのみ認められていますが、債権回収会社は「債権管理回収業に関する特別措置法」により、弁護士法の特例として、一定の場合に債権回収の委託を受けることが認められています。
▶参考情報:債権管理回収業に関する特別措置法の概要は、以下の法務省のWebサイトをご参照ください。
ただし、債権回収会社への債権回収の委託については以下の点に注意することが必要です。
(1)回収を委託することができる債権に制限がある
債権回収会社に回収を委託できる債権は、法律で定められた一定の債権(「特定金銭債権」といいます)に限定されています。
具体的には以下のようなものがあります。
- 1. 金融機関等が有する貸付債権
- 2. リース・クレジット債権
- 3. 資産の流動化に関する金銭債権
- 4. ファクタリング業者が有する金銭債権
- 5. 法的倒産手続中の者が有する金銭債権
- 6. 保証契約に基づく債権
(2)資格業者であることを確認する必要がある。
弁護士を取締役に入れるなど、一定の条件を満たし、国の許可を受けた会社だけが、債権回収会社として合法的に債権回収業務を行うことを認められています。
令和2年8月の時点で、国の許可を受けているのは、「76社」です。
▶参考情報:債権回収会社の一覧は、以下の法務省Webサイトをご参照ください。
債権回収代行会社に債権回収を委託する場合は、必ず、許可を受けた会社であることを確認する必要があります。
(3)債権回収会社に依頼する場合の問題点
債権回収会社に依頼する場合、前述の通り、回収の委託法律で定められた一定の債権に限られています。
一般の会社の売掛金については、「証票等を利用する自社販売契約に基づいて生じる金銭債権」について、債権回収会社に回収を委託することができるとされていますが、自社の売掛金が「証票等を利用する自社販売契約に基づいて生じる金銭債権」に該当するかどうかの確認が必要になります。
これに対し、弁護士への債権回収の依頼であれば、債権の種類を問わず、債権回収全般を委託することが可能です。また、債権回収会社による債権回収は、支払いを求める通知書を送り、それでも支払いが得られなければ訴訟を起こすという、定型的な処理になっています。
しかし、このような定型的な債権回収では、回収率を上げることが難しいことが多いのが実情です。
債権回収率を上げるためには、回収を弁護士に委託し、債務者の状況や業種、これまでの交渉経過などを踏まえて個別の事案ごとに債権回収に向けた戦略を立ててもらったうえで、それを実行することがベストです。
9,債権回収に関して弁護士に相談したい方はこちら
ここまで債権回収の具体的な方法や、消滅時効の問題、弁護士への委託のメリットや費用などについてご説明してきました。
最後に咲くやこの花法律事務所」で債権回収について行うことができるサポート内容をご紹介します。
サポートの内容は以下の2点です。
- (1)債権回収に関する相談、回収のための戦略の立案
- (2)弁護士による債権回収の代行
以下で順番にご説明したいと思います。
(1)債権回収に関する相談、回収のための戦略の立案
咲くやこの花法律事務所では、債権回収の問題でお困りの企業の方のために、債権回収に関するご相談を常時、承っております。
債権回収の手法には、この記事でご紹介した「内容証明郵便での督促や仮差押えの手続き」や「訴訟」のほか、「債権譲渡を利用した手法」や「先取特権」という制度を利用する方法や「債権者破産」を利用する方法など様々な手段があります。
債権回収の経験豊富な弁護士が、個別の事情を踏まえて、回収のためにベストな戦略を立案します。
(2)弁護士による債権回収の代行
債権未払いの問題は弁護士による対応をしなければ回収が困難であるケースがほとんどです。
咲くやこの花法律事務所では、弁護士による債権回収の代行のサポートを行っており、多数のご依頼をいただいております。
弁護士がこれまでの経験も踏まえ、内容証明郵便による督促、仮差押え、訴訟、強制執行、債権譲渡、先取特権の利用など、様々な手法を駆使して債権回収を行うことで、債権回収率のアップが可能になります。
また、債権回収では、他社よりも早く回収行為をスタートし、迅速に回収にかかることがとても重要です。
現在、取引先などと債権回収に関するトラブルを抱えている企業様がいらっしゃいましたら、早めに、債権回収に強い弁護士がそろう咲くやこの花法律事務所にご相談下さい。
10,咲くやこの花法律事務所の弁護士へ問い合わせる方法
現在、債権回収でお困りの企業様は、下記からできるだけ早めにお問い合わせください。
「工事案件における工事代金の未払いトラブル」、「システム開発の受託業務おける納品後の開発費未払いトラブル」、「サービスやモノなどの販売後、それらの料金の未払いトラブル」など、咲くやこの花法律事務所の債権回収に強い弁護士によるサポートは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年1月31日