労働審判制度の手続の流れと解決金の相場、会社側弁護士費用の目安について【トラブル事例付き解説】

労働審判制度について

今回は、「不当解雇トラブル」や、「未払い残業代トラブル」を解決する制度として毎年「約3500件」もの申立てがある「労働審判制度」についてご説明したいと思います。

労働審判制度は、「第1回期日で、概ね、解決案の内容が決まる」という、非常にスピーディーな手続です。

そのため、労働審判制度の手続の流れについて十分に把握しておき、適切な時期に十分な対応をしなければ、自社の主張を通すことができません。そして、労働審判制度で会社から従業員に支払う「解決金」は、会社側の対応の仕方によって、「200万円」以上の差が出ることも珍しくありません。

今回は、労働審判制度の手続の流れと解決金の相場についてご説明し、あわせて会社側弁護士費用の目安についてなど、「労働審判制度についてのお役立ち情報」をご紹介したいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

●最初にチェック!労働審判制度の概要について
●労働審判制度の手続の流れ
●労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応のポイント
●労働審判の答弁書作成のポイント
●答弁書のポイント1:未払い残業代トラブルのケース
●答弁書のポイント2:不当解雇トラブルのケース
●答弁書のポイント3:契約社員の雇止めトラブルのケース
●答弁書のポイント4:セクハラ(セクシャルハラスメント)トラブルのケース
●答弁書のポイント5:パワハラ(パワーハラスメント)トラブルのケース
●労働審判制度の解決金の相場について
●労働審判制度の会社側弁護士費用の目安について
●労働審判の会社側弁護士の選び方のポイントについて

 

最初にチェック!
労働審判制度の概要について

まず、「労働審判制度の手続の流れ」のご説明に入る前に、労働審判制度のお役立ち情報の一つ目として「労働審判制度の概要」について確認しておきたいと思います。

労働審判制度とは?

『労働審判制度は、「不当解雇トラブル」や「未払い残業代トラブル」など、従業員と会社のトラブルを通常の裁判より簡略的な手続で解決する裁判所の手続です。』

この労働審判制度は、平成18年4月から開始され、平成18年度は「1200件」程度の申し立てでしたが、その後利用が急増し、平成21年度以降は毎年全国でおおむね「約3500件」程度、申し立てがされています。

不当解雇トラブルや未払い残業代トラブルを解決する裁判上の手続としては、「労働審判」とは別に「通常訴訟」があり、通常は労働者側がどちらの手続をとるか、選択することになります。

近年では、労働審判の件数は、通常訴訟の件数を上回っており、裁判所で不当解雇トラブルや未払い残業代トラブルを解決するための制度としては、労働審判が主流になってきています。
「労働審判」と「通常訴訟」の違いについて要点を整理すると以下のようになります。

労働審判と通常訴訟の違い

●労働審判

期間:短期間(平均70日程度)
手続:簡略的な手続
効果:最終的な強制権限がなく、労働審判の結果に対していずれかから異議が出れば通常訴訟に移行する。

●通常訴訟

期間:長期間(1年程度)
手続:正式な訴訟手続き
効果:最終的な強制権限がある。

 

このような比較を見ても、労働審判が通常の裁判よりも簡略的な手続であるという点をご理解いただけると思います。

なお、労働審判制度が利用されるトラブルの内容としては、「解雇・雇止めのトラブルが約45%」、「残業代をはじめとする賃金関係のトラブルが約39パーセント」を占めています。

以上、労働審判制度についてまずは概要をおさえておきましょう。

 

労働審判制度の手続の流れ

それでは、次に、労働審判制度のお役立ち情報の二つ目として「労働審判制度の手続の流れ」について見ていきましょう。

「労働審判制度の手続の流れ」は通常、以下の通りです。

労働審判制度の通常の手続の流れ

1,従業員側が裁判所に申立書を提出
2,裁判所から会社に申立書が郵送される
3,会社は指定された期日までに答弁書や反論の証拠を提出
4,第1回期日:裁判官や労働審判員が出席した当事者に直接質問するなどして審理
5,第2回期日・第3回期日:裁判所からの調停案の提示と双方の検討
6,調停がまとまらない場合は審判に進む

以下で順番に見ていきましょう。

 

1,従業員側が裁判所に申立書を提出

労働審判制度の手続は、通常は、従業員側が裁判所に「労働審判手続申立書」を提出することで開始されます。

2,裁判所から会社に申立書が郵送される

従業員側から裁判所に労働審判手続申立書が提出されると、裁判所から会社に申立書が郵送されます。

この段階で裁判所から第1回の期日を指定されます。裁判所から申立書が会社に届いてから、第1回の期日まで「約1か月」程度の期間があることが通常です。

3,会社は指定された期日までに答弁書や反論の証拠を提出

裁判所からは第1回の期日の1週間程度前までに、答弁書を提出するように指定されます。

会社は、指定された期日までに答弁書や反論の証拠を提出する必要があります。

4,第1回期日:裁判官や労働審判員が出席した当事者に直接質問するなどして審理

期日は、裁判官1名と労働審判員2名で行われます。その他従業員本人とその弁護士、会社側から社長や管理者と会社側弁護士が出席するのが通常です。

第1回期日では、裁判官や労働審判員が、従業員本人や、会社側で出席した社長や管理者に直接質問するなどして審理を行います。

この第1回期日で、「解決のおよその方向性が決まる」ため、第1回期日までには入念な準備をして臨むことが必要です。

▶参考:労働審判員とは?

労働審判は、裁判官1名のほか、労働審判員2名が加わった3名で担当されます。この「労働審判員」は、最高裁判所が労働紛争に精通した民間人から任命することになっています。 労働審判を担当する労働審判員2名のうち1名は、労働組合等が推薦する労働者側の労働審判員、もう1名は使用者団体等が推薦する使用者側の労働審判員です。 ただし、いずれの労働審判員も労使どちらかの立場に立つわけではなく、中立の立場で労働審判を担当します。

 

5,第2回期日・第3回期日:裁判所からの調停案の提示と双方の検討

第2回期日あるいは第3回期日では、裁判所から調停案が提示され、調停案の内容で合意できるかについて、裁判所から従業員側、会社側の双方に検討を求められることが通常です。

6,調停がまとまらない場合は審判に進む

以上の手続きを経て裁判所からの調停案の内容で合意に至らないときは、「労働審判」に進みます。
この場合、裁判所から「労働審判」という形で解決案が提示されます。

この「労働審判」の解決案は提示された翌日から2週間以内に、従業員側、会社側のいずれからも異議申し立てがなければ、確定します。

一方、この期間中に従業員側、会社側のいずれからから異議申し立てがあれば、「労働審判」として出された解決案は効力を失い、通常訴訟に移行します。

 

以上が、労働審判制度の手続の流れです。

特に、「第1回期日で解決のおよその方向性が決まる」という点をおさえておきましょう。

 

労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応のポイント

では、労働審判の申し立てがあった場合、会社側はどのように対応していけばよいのでしょうか?
以下では、労働審判制度のお役立ち情報の三つ目として、「労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応のポイント」をご説明したいと思います。

「労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応のポイント」としては、以下の4つのポイントをおさえておきましょう。

労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応の4つのポイント

ポイント1:
労働審判が開かれる裁判所の確認

ポイント2:
労働審判の第1回期日の確認

ポイント3:
労働審判の答弁書の提出期限の確認

ポイント4:
早急に答弁書作成にとりかかる

以下で順番に内容を見ていきましょう。

ポイント1:
労働審判が開かれる裁判所の確認

労働審判の申し立てがあった場合、裁判所から会社に申立書が郵送されます。
この申立書には、「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」という書面が同封されています。
どこの裁判所で労働審判が行われるかは、この書面に記載されていますので、まずは、裁判所がどこかを確認しましょう。

▶参考:労働審判の管轄について

「管轄」とは、「どの事件をどの裁判所で審理するのか」という裁判所の事件配分をいいます。
この「管轄」によって、「労働審判が実際にどの裁判所で開かれるのか」が決まります。

労働審判の管轄は、労働審判法2条で定められています。それによると、従業員が退職後に企業に対して労働審判を起こすという通常のケースでは、従業員は、企業側の本社所在地の地方裁判所だけでなく、従業員が退職時に就業していた事業所の住所地の地方裁判所等にも、労働審判を申し立てることができます。

 

このように従業員が退職時に就業していた事業所の住所地の地方裁判所等を選択することができますので、多数の支社や支店がある企業は注意する必要があります。

例えば、東京に本社がある企業に関する労働審判でも、たまたま、労働審判を起こした従業員が退職時に就業していた事業所が福岡であったという場合、従業員が福岡のほうが便利であれば、福岡で労働審判の申立てがされることになります。

この場合、会社側としては労働審判のために福岡まで出向かなければなりません。
このような場合に備えて、就業規則等であらかじめ労働審判や通常訴訟の場合の裁判所を合意により決めておくことも1つの方法です。

ポイント2:
労働審判の第1回期日の確認

申立書に同封される「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」には、第1回期日の日時も記載されています。

そして、期日には、労働審判を申し立てた従業員の上司や場合によっては社長などの会社関係者も出席することが必要です。
そのため、労働審判の第1回期日を確認し、出席予定者の当日の予定をおさえておきましょう。なお、第1回期日に要する時間は通常は2時間程度です。

ポイント3:
労働審判の答弁書の提出期限の確認

申立書に同封される「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告書」には、答弁書の提出期限が記載されています。

この期限までに裁判所に答弁書を提出することが必要ですので確認しておきましょう。

ポイント4:
早急に答弁書作成にとりかかる

申立書が会社に届いてから、答弁書の提出期限までは、3週間程度しか期間がないことが通常です。

この期間中にできるかぎり、充実した答弁書を作成して提出することが、労働審判で会社側の主張を認めてもらうための重要なポイントです。そのため、申立書が届いたら早急に弁護士に答弁書作成を依頼することが必要です。

 

以上、労働審判の申し立てがあった場合の会社側の対応のポイントとして、4つのポイントをおさえておきましょう。

 

労働審判の答弁書作成のポイント

次に、労働審判制度のお役立ち情報の四つ目として、「労働審判の答弁書の作成のポイント」についてご説明したいと思います。

この点については、以下の5つのケースをとりあげてご説明します。

答弁書のポイント1:
未払い残業代トラブルのケース


答弁書のポイント2:
不当解雇トラブルのケース


答弁書のポイント3:
契約社員の雇止めトラブルのケース


答弁書のポイント4:
セクハラ(セクシャルハラスメント)トラブルのケース


答弁書のポイント5:
パワハラ(パワーハラスメント)トラブルのケース

以下で順番にみていきましょう。

 

労働審判の答弁書のポイント1:
未払い残業代トラブルのケース

まず、「未払い残業代トラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイントについてご説明します。

「未払い残業代トラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイント

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

ポイント2:
未払い残業代に関する反論のポイント

ポイント3:
付加金請求に関する反論のポイント

ポイント4:
遅延損害金に関する反論のポイント

以下で順番に内容を見ていきましょう。

 

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

労働審判の答弁書は「従業員側の請求に対する反論」として作成するものです。

そのため、まずは従業員が何を請求しているのかを正確に把握しましょう。

未払い残業代トラブルの労働審判で請求されることが多いのは、「未払い残業代」、「付加金」、「遅延損害金」の3つです。

このうち、どれが請求されているかは、労働審判手続申立書に「申立ての趣旨」として記載されていますので、まずは、「申立ての趣旨」を確認して、何が請求されているのかを正確に把握することが必要です。

ポイント2:
未払い残業代に関する反論のポイント

未払い残業代に関する反論の方法は、ケースによってさまざまですが、主なものは以下のとおりです。

未払い残業代に関する反論方法

反論方法1:
従業員が主張している労働時間に誤りがある。

反論方法2:
残業を禁止していた。

反論方法3:
管理監督者であり、残業代が発生しない。

反論方法4:
固定残業手当により残業代は支払い済みである。

反論方法5:
残業代について消滅時効が完成している。

これらの反論内容については、下記で詳細を解説していますので、合わせて参照してください。

▶参考:従業員の未払い残業代請求における企業側の反論の重要ポイント!

 

ポイント3:
付加金請求に関する反論のポイント

付加金制度は、残業代を含む賃金の未払いについて、未払い額とは別に裁判所が制裁金の支払いを命じることができる制度です。

労働基準法上、未払いの賃金額と同額までを限度として、裁判所は企業に対して付加金の支払いを命じることができるとされています。労働審判でも従業員側から付加金が請求されることがありますが、ここでポイントとなるのは、労働基準法114条で、付加金の支払いを命じることができるのは、「裁判所」であるとされている点です。

労働審判は、場所は裁判所で行われますが、厳密には裁判官だけでなく労働審判員も加わった「労働審判委員会」が行うものです。そのため、この「労働審判委員会」は厳密な意味での「裁判所」にあたらず、付加金の支払いを命じることはできませんので、その旨を指摘することが付加金請求に対する反論のポイントとなります。

ポイント4:遅延損害金に関する反論のポイント

「遅延損害金」とは、本来残業代を支払うべき日に支払わなかったことによる損害の賠償として法律上支払いを義務付けられている金銭です。

未払い残業代については、原則として以下の利率による遅延損害金を支払う必要があります。

未払い残業代についての遅延損害金について

1,本来残業代を支払うべき日の翌日から退職日までの期間については、年6%の遅延損害金
2,退職日の翌日以降の期間については年14.6%の遅延損害金

 

ただし、このうち、「2」の退職日の翌日以降の年14.6%の遅延損害金の支払いについては、「未払い残業代の額について合理的な理由により裁判所で争っている場合」については、適用されません。

そのため、退職日以降の年14.6%の遅延損害金の支払いについては、「仮に未払い残業代があるとしても、その額について合理的な理由により裁判所で争っている」ことを理由に、14.6%の遅延損害金の適用外であることを主張することが反論のポイントとなります。

未払い残業代トラブルのケースの答弁書作成のポイントとして以上の4つをおさえておきましょう。

 

労働審判の答弁書のポイント2:
不当解雇トラブルのケース

次に、「不当解雇トラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイントについても見ていきたいと思います。

以下の点をおさえておきましょう。

「不当解雇トラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイント

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

ポイント2:
復職請求に関する反論のポイント

ポイント3:
バックペイの請求に関する反論のポイント

ポイント4:
慰謝料請求に関する反論のポイント

以下で順番に内容を見ていきましょう。

 

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

従業員側の請求に対する反論の答弁書を作るためには、まず、従業員が何を請求しているのかを正確に把握しておく必要があります。

不当解雇トラブルの労働審判では、一般的に、「復職請求」、「バックペイの請求」、「慰謝料請求」の3つのうち、1つまたは複数が請求されることがほとんどです。

この3つのうち、どれが請求されているかは、労働審判手続申立書に「申立ての趣旨」として記載されていますので、まずは、「申立ての趣旨」を確認して、何が請求されているのかを正確に把握することが必要です。

ポイント2:
復職請求に関する反論のポイント

復職請求とは、「解雇は不当で無効なので、現在も従業員であることの確認を求める」という請求です。

復職請求に対する反論としては、「解雇は正当である」という解雇の正当性に関する主張が必要になります。
解雇の正当性について主張すべき内容は、ケースバイケースとなりますが、主なケースごとのポイントは以下の通りです。

解雇の正当性について主張すべき内容の具体例

1,能力不足による解雇の場合

「能力不足」の事実として、過去の具体的なミスの内容や成績不良の事実と、それに対して会社が再三指導しても改善されなかった事実を主張することがポイントとなります。

2,協調性欠如による解雇の場合

「協調性欠如」の事実として、過去の同僚、上司、部下とのトラブルの具体的な内容と、それに対して会社が再三指導しても改善されなかった事実を主張することがポイントとなります。

3,従業員の横領や不正による解雇の場合

本人が行った横領や不正行為の具体的内容を、証拠を挙げて主張することがポイントとなります。

4,病気を理由とする欠勤による解雇の場合

病気により就労不能であり、合理的な休職期間を経ても復職が困難であることを主張することがポイントとなります。

 

これらの「解雇の正当性について主張すべき内容」についておさえておきましょう。

ポイント3:
バックペイの請求に関する反論のポイント

バックペイの請求とは、「解雇は不当で無効なので、解雇により支払いがされなかった給与をさかのぼって支払うことを求める」という内容の請求です。

「さかのぼって支払う」という意味で、「バックペイ」(back pay)呼ばれます。

バックペイは不当解雇であることを前提とする請求ですので、これに対しても、解雇の正当性を主張して反論することが基本となります。

また、バックペイに関しては、仮に不当解雇であっても、他社に就職して給与を得ている場合は、その点を主張して減額を求めることができます。

そこで、万が一不当解雇と判断された場合に備えて、労働審判を申し立てた従業員が他社に就職してすでに給与を得ている場合は、その事実を主張することも重要なポイントとなります。

ポイント4:
慰謝料請求に関する反論のポイント

慰謝料請求とは、「不当解雇により被った精神的苦痛に対する賠償」を求めるものであり、バックペイとは別のものです。

この慰謝料請求も不当解雇であることを前提とする請求ですので、これに対しても、解雇の正当性を主張して反論することが基本となります。

また、慰謝料請求については、「万が一、不当解雇であるとしても慰謝料までは支払い義務がない」という主張も可能です。

例えば、東京地方裁判所平成18年9月29日判決は、「(解雇が不当解雇で無効であったとしても)不法行為を構成するかどうかはさらに慎重に検討を要するものである」としたうえで、「(解雇が)不法行為を構成するほど悪質であるとまでは評価できない」として慰謝料は認めていません。

そこで、万が一不当解雇と判断された場合に備えて、これらの判例も踏まえた反論もしておくことが必要です。

 

不当解雇トラブルのケースの答弁書作成のポイントとして以上の4つをおさえておきましょう。

 

労働審判の答弁書のポイント3:
契約社員の雇止めトラブルケース

続いて、「契約社員の雇止めトラブルのケース」に関する労働審判の答弁書作成のポイントについて見ていきたいと思います。

まず、「契約社員の雇止め(やといどめ)」とは、有期雇用契約で採用した契約社員について、会社が契約を更新せずに、雇用契約の期間満了により雇用を終了することを言います。

そして、「契約社員の雇止めトラブル」とは、会社が契約社員に対して、雇用契約の期間満了により雇用の終了を通知した際に、契約社員が「雇止めは不当である」として、会社に雇止めの撤回等を求めて労働審判を起こすケースです。

この「契約社員の雇止めトラブルのケース」に関する労働審判の答弁書作成のポイントとしては、以下の点をおさえておきましょう。

「契約社員の雇止めトラブル」に関する労働審判の答弁書作成のポイント

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

ポイント2:
復職請求に対する反論のポイント

ポイント3:
バックペイの請求に対する反論のポイント

ポイント4:
正社員との待遇格差を理由とする賠償請求に対する反論のポイント

以下で順番に内容を見ていきましょう。

 

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

従業員側の請求に対する反論の答弁書を作るためには、まず、従業員が何を請求しているのかを正確に把握しておく必要があります。

契約社員の雇止めトラブルの労働審判では、一般的に、「復職請求」「バックペイの請求」の2つが請求されることがほとんどです。また、最近は、この2つに加えて、「正社員との待遇格差を理由とする賠償請求」がされることも増えてきました。

これら3つのうちどれが請求されているかは、労働審判手続申立書に「申立ての趣旨」や「申立ての理由」として記載されていますので、まずは、「申立ての趣旨」や「申立ての理由」を確認して、何が請求されているのかを正確に把握することが必要です。

以下では「復職請求」、「バックペイの請求」、「正社員との待遇格差を理由とする賠償請求」の3つについて、労働審判における具体的な反論内容を順番に見ていきます。

ポイント2:
復職請求に対する反論のポイント

まず、「復職請求に対する反論のポイント」です。

「復職請求」とは、「雇止めは不当で無効なので、現在も従業員であることの確認を求める」という請求です。

この請求は「労働契約法第19条」という法律の条文を根拠とするものですので、反論にあたっては、労働契約法第19条をよく理解しておくことがまず必要です。

▶参考:労働契約法第19 条の解説

労働契約法第19条は、一定の場合に契約社員について、雇用契約の期間満了による雇止めを認めないというルールを定めています。

労働契約法第19条の内容は、以下の通りです。

▶参考:労働契約法第19条

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 

このようにかなり複雑な条文ですが、労働契約法第19条を要約すると、「1,有期雇用契約が過去に反復して更新され、実質的に見て正社員と変わらない場合」「2,雇用契約が更新されるものと契約社員が期待することについて合理的な理由があった場合」には、「3,合理的な理由のない雇止めを認めない」というルールを定めています。

そのため、「契約社員の雇止めトラブル」に関する労働審判において、復職請求がされた場合には、企業側としては以下の3点を反論する必要があります。

「契約社員の雇止めトラブル」の労働審判における復職請求に対する反論

反論1:
雇止めした契約社員との雇用契約が「実質的に見て正社員と変わらない場合」とはいえない。

反論2:
雇用契約の更新について契約社員に期待をもたせるような事情はなかった。

反論3:
雇止めについて合理的な理由がある。

 

以下ではこの3つの反論についてさらに具体的な内容を解説していきたいと思います。

反論1:
雇止めした契約社員との雇用契約が「実質的に見て正社員と変わらない場合」とはいえない。

前述のとおり、「有期雇用契約が過去に反復して更新され、実質的に見て正社員と変わらない場合」には、契約社員といっても実質的には正社員と同じであり、その場合、雇止めは、正社員の解雇と同じように、「合理的な理由がなければ違法」と判断されていまいます。

そこで、雇止めトラブルにおける復職請求に対する反論としては、「実質的に見て正社員と変わらない場合とはいえないこと」を主張して反論する必要があります。

この反論にあたってポイントとなる主な点として以下の2点があげられます。

1.更新の手続に関する反論のポイント

雇用契約の更新の際に、面談などを行って、更新の可否や更新後の待遇を実質的に審査していることを主張して、「実質的に見て正社員と変わらない場合とはいえないこと」を主張しましょう。

また、次のような資料があれば労働審判に証拠として提出しましょう。

・更新の際に雇用契約書を作り直している場合は、毎回の雇用契約書
・ 更新の可否を判断する面談時のメモが残っている場合はそのメモ

これらの資料は、更新について実質的な審査をしていたことを示す有用な資料となります。

▶参考:契約社員の雇用契約書を作成する際に必ずおさえておきたい5つのルール【雛形有り】

 

2.仕事の内容に関する反論のポイント

正社員と契約社員の仕事内容が異なる場合は、「そもそも臨時の仕事のために採用されており、正社員とは業務内容が異なること」や「採用時も臨時の仕事のための採用であることを説明していること」を主張して、「実質的に見て正社員と変わらない場合とはいえないこと」を主張しましょう。

 

以上が、反論1の「雇止めした契約社員との雇用契約が実質的に見て正社員と変わらない場合とはいえない。」についての具体的な反論内容の骨子になります。

反論2:
雇用契約の更新について契約社員に期待をもたせるような事情はなかった。

反論1に成功して、「実質的にみて正社員と変わらない場合にはあたらない」と判断されても、「雇用契約の更新について契約社員に期待をもたせるような事情があった。」と判断されれば、雇止めは、正社員の解雇と同じように、「合理的な理由がなければ違法」と判断されてしまいます。

そこで、雇止めトラブルにおける復職請求に対する反論としては、「雇用契約の更新について契約社員に期待をもたせるような事情はなかったこと」も主張していく必要があります。

そして、この点については、採用の際に採用担当者から「最初は契約社員だが1年間頑張れば正社員になれる」とか「1年契約だが特別な事情がなければ更新される」などと言われたことが「雇用契約の更新について契約社員に期待をもたせるような事情」の典型例になります。

そこで、採用担当者から採用時に上記のような雇用契約の更新を期待させるような発言をしてないかをヒアリングしたうえで、更新について期待を持たせるような発言がなかったことを主張して、労働審判で反論してくことが必要です。

反論3:
雇止めについて合理的な理由がある。

仮に上記の「反論1」あるいは「反論2」が通らずに、契約社員との雇用契約が「実質的に見て正社員と変わらない場合」あるいは「雇用契約の更新について契約社員に期待をもたせるような事情があった場合」にあたると判断されたとしても、「合理的な理由があれば雇止めは可能である」というのが裁判所の考え方です。

そこで、「反論1」あるいは「反論2」が通らなかった場合に備えて、雇止めが合理的な理由によるものであることも反論しておきましょう。

雇止めが合理的な理由によるものであることの主張の内容は、「労働審判の答弁書のポイント2:不当解雇トラブルのケース」の中で「解雇の正当性について主張すべき内容の具体例」として挙げた内容と同じです。

具体的には雇止めの理由に応じて以下のような内容を主張していくことになります。

雇止めの合理性について主張すべき内容の具体例

1,能力不足による雇止めの場合

「能力不足」の事実として、過去の具体的なミスの内容や成績不良の事実と、それに対して会社が再三指導しても改善されなかった事実を主張することがポイントとなります。

2,協調性欠如による雇止めの場合

「協調性欠如」の事実として、過去の同僚、上司、部下とのトラブルの具体的な内容と、それに対して会社が再三指導しても改善されなかった事実を主張することがポイントとなります。

3,従業員の横領や不正による雇止めの場合

本人が行った横領や不正行為の具体的内容を、証拠を挙げて主張することがポイントとなります。

4,病気を理由とする欠勤による雇止めの場合

病気により就労不能であり、合理的な休職期間を経ても復職が困難であることを主張することがポイントとなります。

 

このように雇止めの理由に応じて、その合理性や正当性を主張していくことが、反論3の「雇止めについて合理的な理由がある。」の具体的な反論内容になります。

ここまでは、「契約社員の雇止めトラブル」に関する答弁書作成のポイントのうち、復職請求に関する反論のポイントをご説明しました。「反論1」、「反論2」、「反論3」としてご説明した具体的な反論の内容をおさえておきましょう。

ポイント3:
バックペイの請求に対する反論のポイント

バックペイの請求とは、「雇止めは不当で無効なので、雇止めにより支払いがされなかった給与をさかのぼって支払うことを求める」という内容の請求です。

バックペイは「労働契約法第19条により雇止めが認められないケースであること」、つまり復職請求が認められるケースであることを前提とする請求ですので、まずは復職請求に対して緻密な反論を行うことが、バックペイの請求に対する反論にもなります。その内容は先ほどの項目でご説明した通りです。

また、復職請求に対する反論と共通する部分とは別に、バックペイの請求に関する固有の反論内容もあります。

それは、バックペイの請求については、仮に不当な雇止めであって復職請求が認められるケースと判断されたとしても、契約社員が雇止めの後に他社でのアルバイトなどにより給与を得ている場合は、その点を主張して減額を求めることができる点です。

そこで、万が一「労働契約法第19条」により雇止めが認められないケースであると判断された場合に備えて、労働審判を申し立てた契約社員が雇止めの後に他社でのアルバイトなどにより給与を得ている場合は、その事実を主張することも重要なポイントとなります。

バックペイの請求に対する反論については、「復職請求に対して緻密な反論を行うことが、バックペイの請求に対する反論にもなること」、「労働審判を申し立てた契約社員が雇止めの後に他社でのアルバイトなどにより給与を得ている場合は、その事実を主張すること」の2点をおさえておきましょう。

ポイント4:
正社員との待遇格差を理由とする賠償請求に対する反論のポイント

正社員との待遇格差を理由とする賠償請求とは、雇止めになるまでの在職中の期間の契約社員としての労働条件について、正社員の労働条件と比べて格差があったことは不当であるとして、正社員との給与の差額等を請求するものです。

この請求は、労働契約法第20条により、「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」が定められていることに基づくものですので、反論にあたっては、労働契約法第20条をよく理解しておくことがまず必要です。

▶参考:労働契約法第20 条の解説

労働契約法第20条は、有期雇用契約で採用した契約社員の労働条件と正社員の労働条件の間に格差がある場合に、その差が、仕事の内容や責任の程度、配置転換の範囲等を考慮して、不合理なものであってはならないとするものです。

労働契約法第20条の条文自体は、やや複雑な内容ですが、次のようになっています。

▶参考:労働契約法第20条

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

この労働契約法第20条のルールは、契約社員であることを理由に不合理に低い労働条件を設定することを禁止したものですが、裏を返せば、有期雇用契約で採用した契約社員の労働条件と正社員の労働条件の間に格差がある場合も、その格差が、正社員と契約社員の間の「仕事の内容や責任の程度、配置転換の範囲等の違い」によるものであり、合理的なものであれば適法であるということです。

そのため、契約社員の雇止めトラブルにおいて、正社員との待遇格差を理由とする賠償請求がされた場合には、以下のような反論を検討する必要があります。

正社員との待遇格差を理由とする賠償請求に対する反論

反論1:
契約社員と正社員の労働条件の差は、「仕事の内容」の違いによるものであり合理的なものである。

反論2:
契約社員と正社員の労働条件の差は、「責任の程度」の違いによるものであり合理的なものである。

反論3:
契約社員と正社員の労働条件の差は、「配置転換の範囲」の違いによるものであり合理的なものである。

 

この3つの反論が、正社員との待遇格差を理由とする賠償請求に対する主な反論内容となりますのでおさえておきましょう。

 

労働審判の答弁書のポイント4:
セクハラ(セクシャルハラスメント)トラブルのケース

次に、「セクハラトラブルのケース」に関する労働審判の答弁書作成のポイントについて見ていきたいと思います。

「セクハラトラブルのケース」に関する労働審判の答弁書作成のポイントについては、以下の点をおさえておきましょう。

「セクハラトラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイント

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

ポイント2:
セクハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論のポイント

ポイント3:
セクハラについての会社の事後対応をめぐる慰謝料請求に対する反論のポイント

ポイント4:
セクハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求に対する反論のポイント

以下で順番に内容を見ていきましょう。

 

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

従業員側の請求に対する反論の答弁書を作るためには、まず、従業員が何を請求しているのかを正確に把握しておく必要があります。

セクハラトラブルの労働審判では、一般的に以下の3つのうち、1つまたは複数が請求されることがほとんどです。

・セクハラ行為に関する慰謝料
・セクハラについての会社の事後対応をめぐる慰謝料
・セクハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求

 

この3つのうち、どれが請求されているかは、労働審判手続申立書に「申立ての趣旨」や「申立ての理由」として記載されていますので、まずは、「申立ての趣旨」や「申立ての理由」を確認して、何が請求されているのかを正確に把握することが必要です。

以下では上記3つの請求について、具体的な内容を順番に見ていきます。

ポイント2:
セクハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論のポイント

まず、「セクハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論のポイント」を見ていきましょう。

「セクハラ行為に関する慰謝料請求」とは、「飲食を共にした際に無理やりキスをされた」とか「社内で性的な風評を流された」などのセクハラ行為自体による精神的苦痛について慰謝料を求める請求です。

セクハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論としては、以下のような反論があります。

セクハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論

反論1:
被害者が主張するようなセクハラの事実は存在しない。

反論2:
被害者が主張しているような行為は不法行為には該当しない。

反論3:
セクハラ行為があるとしても会社は責任を負わない。

 

以下ではこの3つの反論についてさらに具体的な内容を解説していきたいと思います。

反論1:
被害者が主張するようなセクハラの事実は存在しない。

セクハラの被害申告があった場合には、社内でも加害者に事情聴取するなどしてセクハラの事実の有無を調査する必要があります。

そして、セクハラで加害者とされた従業員が被害申告された事実を否定しているケースで、会社としても「セクハラの事実がない」、あるいは「疑わしい」と思われる場合は、労働審判でも「被害者が主張するようなセクハラの事実は存在しない」という反論をする必要があります。

この場合、反論にあたってポイントとなる点として以下の2点があげられます。

「被害者が主張するようなセクハラの事実は存在しない」旨の反論をする際のポイント

1.被害者の社内調査の際の被害申告の内容と労働審判で主張している被害内容に矛盾がないか。

社内調査時のセクハラ被害申告の内容と、被害者が労働審判で主張しているセクハラ被害の内容を比較した場合に、その内容の重要部分に矛盾がある場合は、被害者の主張が虚偽であり、実際にはセクハラ行為がなかったことを基礎づける重要なポイントとなります。

2.セクハラ被害があったとされる後の被害者の行動が、セクハラ被害の主張と矛盾していないか

セクハラ被害があったとされる後に、被害者が加害者と行動を共にしていたり、あるいは親しいメールのやり取りをしている場合は、被害者が主張しているようなセクハラ行為がなかったという主張を基礎づける重要なポイントとなります。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:東京地方裁判所(平成24年 4月26日判決)

事案の概要:

女性従業員がキスを強制されるなどのセクハラ被害があったと主張して会社にセクハラ行為による慰謝料等を請求した事案です。

裁判所の判断:

裁判所は、女性従業員がセクハラ被害にあったと主張する時期の後も、加害者と主張する男性社員に対して親しげな調子でメールを何回も送ったり、食事をともにしたり、ボクシングの試合観戦に共に出かけるなどしていたことを指摘して、セクハラの事実を認めませんでした。

 

このように、セクハラ被害があったとされる後の被害者の行動が、セクハラ被害にあった者の行動として通常考えられないものである場合、裁判所でもセクハラ行為の存在は認められない傾向にあります。例えば、セクハラ被害にあったとされる時期以後も被害者と加害者が親しいメールのやり取りを続けている場合は、メールの内容を証拠として労働審判で提出することも有用です。

以上、「被害者が主張するようなセクハラの事実は存在しない。」と反論していく場合のポイントをおさえておきましょう。

反論2:
「被害者が主張しているような行為は不法行為には該当しない」という反論

不適切な言動であっても被害者が不快に思えばすべてセクハラとして、慰謝料が発生するわけではなく、一定の限度を超えたもののみが慰謝料の賠償の対象となります。

被害者が主張する事実自体はあるとしても、その内容が軽微で慰謝料を支払うほどの違法性はないという場合は、「被害者が主張しているような行為は不法行為には該当しない」という反論をしていくことになります。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:横浜地方裁判所(平成17年7月8日判決)

事案の内容:

この裁判例は、管理職が女性職員と食事を共にした際に、自分の忙しさを説明する内容として、「あのころは忙しさのピークで、家に帰ってもチンポが立たなくってな。女房がにじり寄ってくるんだけど駄目なんだ。」などと卑猥な発言をしたことがセクハラに該当するとして、女性職員が慰謝料を請求した事案です。

裁判所の判断:

裁判所は、卑猥で不適切な発言があったこと自体は認められるが、その後同様の発言が繰り返されていないことなどから、典型的なセクハラとまでは評価できないなどとして、被害者からの慰謝料請求を認めませんでした。

 

このように、被害者が主張しているセクハラ行為が、客観的に見て軽微なものであれば、不法行為には該当せず慰謝料は発生しない旨の反論が可能です。

反論3:
セクハラ行為があるとしても会社は責任を負わない。

そもそも、セクハラ行為については本来、加害者個人が責任を負うべきあり、法律上、会社がセクハラについて慰謝料の支払い義務を負うのは、「セクハラ行為が事業の執行について行われた場合」に限られます。

そこで、会社の業務と無関係にセクハラ行為が行われた場合は、「加害者によるセクハラ行為があるとしても会社は責任を負わない」という反論が可能です。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:津地方裁判所(平成9年11月5日判決)

事案の概要:

この事案は、病院に勤務していた女性職員が、深夜勤務中に病院内の休憩室で仮眠していた際に、男性職員から胸や腰を触られるなどしたセクハラ行為について、女性職員が病院を経営していた協同組合に慰謝料を請求した事案です。

裁判所の判断:

裁判所は、このセクハラ行為は加害者の個人的な行為であり、「業務を契機としてなされたものではない」として、病院を経営していた協同組合に対する慰謝料請求を認めませんでした。

 

また、次のような裁判例もあります。

▶裁判例:東京地方裁判所(平成25年9月25日判決)

事案の概要:

この事案は、男性上司により職場の女性更衣室で行われた盗撮行為について、盗撮された女性従業員が会社に慰謝料等の請求をした事案です。

裁判所の判断:

裁判所は、盗撮行為は、事業とは無関係であり、また上司としての権限や地位を利用したものともいえないことを理由に「事業の執行につき行われたと認めることはできない」として会社に対する慰謝料請求を認めませんでした。

 

このように、セクハラ行為が会社の事業と無関係に行われ、また上司としての権限や地位を利用して行われたものでないときは、「セクハラ行為があるとしても会社は責任を負わない」ことを指摘して反論していきましょう。

ポイント3:
セクハラについての会社の事後対応をめぐる慰謝料請求に対する反論のポイント

会社には、セクハラが起こったときに正しい事後対応を行うことが法律で義務付けられています。(男女雇用機会均等法第11条)

そのため、セクハラトラブルに関する労働審判では、セクハラ行為自体についての慰謝料の請求とは別に、セクハラについての会社の事後対応に問題があったとして、会社の事後対応について慰謝料が請求されることがあります。

このような、セクハラについての会社の事後対応をめぐる慰謝料請求については、会社が正しい事後対応を行ったことを主張して反論することになります。

具体的には、以下のような措置を会社が事後対応として行ったことを主張しましょう。

会社のセクハラの被害申告後の事後対応として主張するべき措置の内容

1,配置転換等により、被害者と加害者を隔離したこと。
2,被害者、加害者の双方からの事実関係のヒアリングと調査を実施したこと。
3,会社がセクハラの事実が認められると考えた場合は、加害者に対する適切な懲戒処分を行ったこと。
4,セクハラ防止に関する研修を行うなど、再発防止措置を実施したこと。

 

セクハラについての会社の事後対応をめぐる慰謝料請求については、会社が上記のような正しい事後対応を行ったことを主張して反論することになります。

ポイント4:
セクハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求に対する反論のポイント

「セクハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求」は、セクハラが原因で被害者が休職あるいは退職せざるを得なかったとして、休職あるいは退職により本来得ることができたはずの給与が得られなかったことを理由に、給与相当額を請求するケースです。

このような逸失利益の請求については、「休職や退職の原因がセクハラを原因とするものではないこと」を主張して反論していくことになります。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:東京地方裁判所(平成18年 5月12日判決)

事案の概要:

この事案は、女性従業員が胸を触る、スカートの上から股間付近を触るなどのセクハラ行為により退職を余儀なくされたとして、退職後再就職までの間の逸失利益を請求した事件です。

裁判所の判断:

裁判所は、セクハラ行為の存在については認められるが、セクハラ行為から1年以上たってからの退職であることや、セクハラとは別にこの被害女性の勤務成績不良が退職の原因であった可能性もあることなどから、セクハラ行為が原因で退職したとはいえないとして、逸失利益の請求を認めませんでした。

 

このように「セクハラから退職まで期間が空いている場合」や、「セクハラが退職を余儀なくさせるほど強度のものだったとはいえない場合」、あるいは、「セクハラ以外に退職の原因があったと推測されるケース」では、退職の原因はセクハラではないことを主張して、逸失利益の請求に反論していくことが必要です。

以上、「セクハラトラブルのケース」に関する労働審判の答弁書作成のポイントについてご説明しました。

 

労働審判の答弁書のポイント5:
パワハラ(パワーハラスメント)トラブルのケース

次に、「パワハラトラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイントについても見ていきたいと思います。

以下の点をおさえておきましょう。

「パワハラトラブルに関する労働審判のケース」に関する答弁書作成のポイント

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

ポイント2:
パワハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論のポイント

ポイント3:
パワハラによる精神疾患罹患を理由とする治療費の請求に対する反論のポイント

ポイント4:
パワハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求に対する反論のポイント

以下で順番に内容を見ていきましょう。

 

ポイント1:
何が請求されているかを正確に把握する。

従業員側の請求に対する反論の答弁書を作るためには、まず、従業員が何を請求しているのかを正確に把握しておく必要があります。

パワハラトラブルの労働審判では、一般的に以下の3つのうち、1つまたは複数が請求されることがほとんどです。

・パワハラ行為に関する慰謝料
・パワハラによる精神疾患罹患を理由とする治療費の請求
・パワハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求

 

この3つのうち、どれが請求されているかは、労働審判手続申立書に「申立ての趣旨」や「申立ての理由」として記載されていますので、まずは、「申立ての趣旨」や「申立ての理由」を確認して、何が請求されているのかを正確に把握することが必要です。

以下では上記3つの請求について、具体的な内容を順番に見ていきます。

ポイント2:
パワハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論のポイント

まず、「パワハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論のポイント」を見ていきましょう。

「パワハラ行為に関する慰謝料請求」とは、パワハラに該当するような「暴言や侮辱」、あるいは、「仕事の取り上げ」、「退職の強要」などのパワハラ行為自体による精神的苦痛について慰謝料を求める請求です。

パワハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論としては、以下のような反論があります。

パワハラ行為に関する慰謝料請求に対する反論

反論1:
「被害者が主張するようなパワハラの事実は存在しない」という反論

反論2:
「被害者が主張しているような行為は不法行為には該当しない」という反論

反論3:
「パワハラ行為について被害者の態度も一因になっている」という反論

具体的な反論の内容としては以下の通りです。

 

反論1:
「被害者が主張するようなパワハラの事実は存在しない」という反論

パワハラの被害申告があった場合には社内でも加害者にヒアリングするなどしてパワハラの事実の有無を調査する必要があります。

そして、パワハラについて加害者とされた従業員が被害申告された事実を否定しているケースで、会社としても「パワハラの事実がない」と思われる場合は、「被害者が主張するようなパワハラの事実は存在しない」という反論をする必要があります。

反論にあたっては、加害者とされている従業員(上司)から事実関係を詳細にヒアリングし、その結果を、時系列にまとめて、答弁書に記載することが、まず重要になります。

それに加えて、「労働審判の前の段階で被害者から会社に申告されたパワハラの内容」と「労働審判で被害者が主張しているパワハラの内容」の間に矛盾がないかについて、検証が必要です。

労働審判の前の段階で被害者から会社に申告されたパワハラの内容と、被害者が労働審判で主張している内容を比較した場合に、その内容の重要部分に矛盾がある場合は、被害者が主張しているようなパワハラ行為がなかったという主張を基礎づける重要なポイントとなります。

反論2:
「被害者が主張しているような行為は不法行為には該当しない」という反論

叱責や退職勧奨がすべてパワハラになるわけではなく、一定の限度を超えた不法行為のみが慰謝料の賠償の対象となります。

業務上必要な指導は、仮に被害者の立場からは「過度な叱責」と受け取られたとしても、パワハラには該当せず慰謝料は発生しません。

また、退職勧奨についても、過度に執拗であったり、あるいは「退職しなければ解雇する」などの退職強要につながる発言を伴わない場合は、パワハラには該当せず慰謝料は発生しません。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:東京地方裁判所(平成21年10月15日判決)

事案の概要:

この事案は、病院の事務総合職として採用された従業員が、職場で不当な叱責などのパワハラにより精神疾患に罹患したとして、病院に対して損害賠償請求をした事件です。

裁判所の判断:

裁判所は、叱責はこの従業員のミスが原因であるとしたうえで、「従業員を責任ある常勤スタッフとして育てるため時には厳しい指導をしたことが窺われるが、当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまる。」として不法行為には該当せず、慰謝料も発生しないと判断しました。

 

このように、被害者が主張しているパワハラの内容として主張している叱責や退職勧奨が、正当な指導や通常の態様による退職勧奨であれば、不法行為には該当せず慰謝料は発生しない旨の反論が可能です。

反論3:
「パワハラ行為について被害者の態度も一因になっている」という反論

パワハラに該当しうる行為があったとしても、その原因の一端が被害者の態度にもあるという場合は、その点を指摘して、反論することが必要です。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:広島高等裁判所松江支部(平成21年5月22日判決)

事案の概要:

この事案は、従業員が、上司から大声で罵倒された行為がパワハラに該当するとして、上司に秘密で録音した録音テープを証拠として提出するなどして、会社に慰謝料の請求をした事案です。

裁判所の判断:

一審の裁判所は会社に「慰謝料300万円」の支払いを命じました。

しかし、広島高等裁判所は、上司が大声を出し人間性を否定するかのような不相当な表現を用いて叱責した点については不法行為にあたるが、その原因としては、叱責の途中、被害者がふて腐れて横を向くなどの不遜な態度を取り続けたことが多分に起因しているなどとして、慰謝料額を10万円に減額しました。

この裁判例の事案では、上司に秘密で録音した録音テープが裁判所に証拠として提出されました。

このようにパワハラの被害を主張する者が、上司に秘密で録音を行い、その際に、わざと上司の怒りをあおり、叱責を誘発して、パワハラの証拠として労働審判に提出することは、珍しいことではありません。

 

このようなケースでは、上司が、感情的な発言をするに至った原因は、パワハラの被害を主張する者の態度や誘発行為にある点を指摘して、反論することが必要です。

ポイント3:
パワハラによる精神疾患罹患を理由とする治療費の請求に対する反論のポイント

パワハラによる精神疾患を理由とする治療費の請求とは、パワハラが原因で精神疾患に罹患し、通院せざるを得なかったとして、通院に必要となった治療費を会社に請求するケースです。

このようなパワハラによる精神疾患を理由とする治療費の請求については、以下のような反論をしていくことになります。

パワハラによる精神疾患罹患を理由とする治療費の請求に対する反論内容

反論1:
パワハラ行為の内容が精神疾患を発症させるほど強度のものではない。

反論2:
精神疾患の罹患はパワハラではなく、別のストレスが原因である。

具体的な反論の内容としては以下の通りです。

 

反論1:
パワハラ行為の内容が精神疾患を発症させるほど強度のものではない。

パワハラ行為があったとしても、継続的なものではなく一時的なものである場合や、パワハラの内容が精神疾患を発症させるようなものではない場合はその旨を指摘して反論していきましょう。

反論2:
精神疾患の罹患はパワハラではなく、別のストレスが原因である。

パワハラ被害による精神疾患の罹患を訴える従業員について、精神疾患の原因となるような別の要因がなかったかを検討し、別の要因があればその点を指摘して反論していきましょう。

例えば、以下のようなことがないかチェックすることが重要です。

精神疾患の原因となるようなチェックポイント

・本人や家族の事故や病気
・過去の精神疾患の罹患歴
・離婚
・借金その他経済的な困難
・家族の死亡
・仕事上の重大なミス
・取引先からの強いクレーム

 

これらの出来事が、心療内科への通院の直近に起こっているときは、少なくともパワハラ以外の要素も精神疾患の罹患の原因になっていると思われますので、その点を指摘して反論することが必要です。

ポイント4:
パワハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求に対する反論のポイント

「パワハラによる休職あるいは退職を理由とする逸失利益の請求」は、パワハラが原因で休職あるいは退職せざるを得なかったとして、休職あるいは退職により本来得ることができたはずの給与が得られなかったことを理由に、給与相当額を請求するケースです。

このような逸失利益の請求については、「休職や退職の原因がパワハラを原因とするものではないこと」を主張して反論していくことになります。

この点については以下の裁判事例が参考になります。

▶裁判例:鳥取地方裁判所米子支部(平成21年10月21日判決)

事案の概要:

この事案は、上司による度を越えた叱責などのパワハラ行為により、退職を余儀なくされたとして、退職により得ることができなかった定年までの給与に相当する額の逸失利益を会社に請求した事案です。

裁判所の判断:

裁判所は、この従業員が通院した心療科の診療録には職場での叱責によるストレスの記載だけでなく、家庭生活によるストレスについての記載もあることや、パワハラの内容が重篤な症状を引き起こすほど強度の内容でないことなどを指摘して、逸失利益の請求を認めませんでした。

 

このようにパワハラが退職を余儀なくさせるほど強度のものだったとはいえない場合、あるいは、パワハラ以外に退職の原因があったと推測されるケースでは、退職の原因はパワハラではないことを主張して、逸失利益の請求に反論していくことが必要です。

パワハラトラブルのケースの労働審判の答弁書作成のポイントとして以上の3つをおさえておきましょう。

 

労働審判制度の解決金の相場について

では、次に、労働審判制度のお役立ち情報の五つ目として「労働審判制度の解決金の相場」についてみていきましょう。

まず、「解決金」とは何か、ということからご説明したいと思います。

労働審判制度の解決金とは?

『労働審判制度の解決金とは、労働審判が申し立てられた、不当解雇トラブルや未払い残業代トラブルの解決のために、会社側から労働審判を申し立てた従業員に支払う金銭のことです。』

金銭の内容は、未払賃金であったり、慰謝料であったりと様々ですが、「解決のために支払う金銭」という意味で「解決金」と呼ばれます。

ここでは、最も労働審判の申立件数が多い、「解雇・雇止め関連のトラブルの解決金の相場について」ご説明したいと思います。以下では、「正社員の解雇に関し、解雇された従業員から不当解雇であるとして、労働審判の申立があったケース」を想定して、ご説明したいと思います。

「正社員の解雇に関し、解雇された従業員から不当解雇であるとして、労働審判の申立があったケース」の解決金の相場は概ね以下の通りです。

「正社員の解雇に関し、解雇された従業員から不当解雇であるとして、労働審判の申立があったケース」の解決金の相場

●解雇に正当性があると判断された場合:

従業員の給与の0~2か月分程度

●不当解雇であると判断された場合:

従業員の給与の6~10か月分程度

 

あくまでも目安ではありますが、上記のように、「解雇に正当性があると判断された場合」と「不当解雇であると判断された場合」で解決金の相場が異なってきます。

例えば月給30万円の従業員ですと、「解雇に正当性があると判断された場合」と「不当解雇であると判断された場合」では、「200万円」近く金額が異なることになり、「解雇に正当性があると判断してもらえるかどうか」が極めて重要なポイントとなります。

なお、どのような場合に解雇に正当性があると判断されるのかについて、例を挙げると以下の通りです。

【重要】解雇に正当性があると判断されるケースの例

・能力不足による解雇の事例:

「能力不足の事実」と「それに対して会社でも指導してきたが改善されなかった事実」について、会社側で十分な主張と資料を提出できた場合。

「能力不足による解雇について」は、以下の記事も参考にしてください。

▶参考:能力不足の従業員を解雇する前に必ず確認しておきたい5つのポイント

 

・協調性欠如による解雇の事例:

「協調性欠如の事実」と「それに対して会社でも指導してきたが改善されなかった事実」について、会社側で十分な主張と資料を提出できた場合。

・横領や暴力などを理由とする解雇の事例:

横領や暴力について、会社側で十分な主張と資料を提出できた場合。

一方で、不当解雇と判断されるケースについても、例を挙げると以下の通りです。

【重要】不当解雇であると判断されるケースの例

・能力不足による解雇の事例:

能力不足の事実について会社側で十分な主張と資料を提出できなかった場合。
能力不足があるが、それに対して会社側で必要な指導をしないまま解雇したと判断された場合。

・協調性欠如による解雇の事例:

協調性欠如の事実について会社側で十分な主張と資料を提出できなかった場合。
協調性欠如があるが、それに対して会社側で必要な指導をしないまま解雇したと判断された場合。

・横領や暴力などを理由とする解雇の事例:

裁判所が、横領や暴力の事実があるか疑わしいと判断した場合。

・従業員が組合に加入したことや未払い残業代の支払いを求めたことなどを理由として解雇したと判断された場合。

・従業員が妊娠したことや、育児休暇、介護休暇を請求したことなどを理由として解雇したと判断された場合。

そして、「解雇に正当性があると判断された場合」と「不当解雇であると判断された場合」のどちらにあたるかは、第1回期日で決まることがほとんどです。

そこで、第1回期日までに、会社側で十分な主張と資料を準備することが、会社が労働審判で自社の主張を認めてもらうためのもっとも重要なポイントとなるのです。

以上、ここでは、「労働審判の解決金の相場」についておさえておきましょう。

 

労働審判制度の会社側弁護士費用の目安について

続いて、労働審判制度のお役立ち情報の六つ目として、労働審判制度において、「会社が弁護士に依頼する際の会社側弁護士費用の目安」についてご説明します。

弁護士の費用は各弁護士が決めることになっており一律の基準はありません。
しかし、会社が弁護士に労働審判の対応を依頼する際の一般的な弁護士費用は、以下の通りです。

会社が弁護士に労働審判の対応を依頼する際の弁護士費用【一般的な目安】

一般的には「80万円~100万円程度」が目安です。

この点については、少し古い資料ですが、日本弁護士連合会が2009年に弁護士に実施したアンケートの結果が参考になります。

アンケート結果では、解雇トラブルに関する労働審判の会社側弁護士費用については、以下のように回答した弁護士が最も多くなっています。

●日本弁護士連合会による弁護士へのアンケートの結果

着手金:

30万円程度 46.1%
50万円程度 18.8%

報酬金:

30万円程度 25.0%
50万円程度 33.2%

以上のように、「着手金」、「報酬金」については、全体の6割程度の弁護士が、「30万円」程度あるいは「50万円」程度と回答しており、着手金と報酬金をあわせると、概ね、「80万円~100万円」程度となることが一般的です。

なお、正確には上記のアンケート結果は、労働審判制度と似た労働仮処分手続の場合の弁護士費用ですが、同じアンケートで、回答弁護士の7割程度が、労働審判制度の場合も同程度の弁護士費用と回答しています。また、弁護士によっては、上記以外に、裁判所への出廷回数に応じた日当等の費用が必要になることもあります。

依頼にあたっては、着手金、報酬金以外の金銭的負担がないかどうかを事前に弁護士に確認しましょう。

 

労働審判の会社側弁護士の選び方のポイントについて

最後に労働審判制度のお役立ち情報の七つ目として、労働審判に強い弁護士の選び方のポイントを確認しておきましょう。

労働審判に強い会社側弁護士の選び方のポイントとしては、以下の3点をおさえておきましょう。

労働審判に強い会社側弁護士の選び方のポイント

ポイント1:
労働事件に精通した弁護士であること

ポイント2:
会社側の立場で経営を理解してくれる弁護士であること

ポイント3:
第1回期日に出席できる弁護士であること

以下で順番に見ていきましょう。

ポイント1:
労働事件に精通した弁護士であること

労働審判では、申立書が会社に届いてから3週間程度で充実した答弁書を裁判所に提出しなければなりません。

これは、通常の訴訟と比べると非常にタイトなスケジュールです。

そのため、労働審判の依頼を引き受けてから、労働関係の判例を調べるというような方法では、十分な対応ができないことがあります。日ごろから労働事件を扱い、労働事件に精通した弁護士を選ぶことが大前提となります。

ポイント2:
会社側の立場で経営を理解してくれる弁護士であること

労働審判の分野では、一般に、労働者側の弁護士と会社側の弁護士にわかれており、「労働者側も会社側も扱う」という弁護士はまれです。

そのため、会社が労働審判に強い弁護士を選ぶ場合、会社側の立場で経営を理解してくれる会社側の弁護士を選ぶことも重要なポイントです。

また、顧問弁護士であれば会社側の立場で経営を理解してくれますので、自社に顧問弁護士がいて、顧問弁護士が労働事件に精通していれば、顧問弁護士に相談や対応を依頼するのも一つの方法です。

●参考●

正しい顧問弁護士の選び方について

 

ポイント3:
第1回期日に出席できる弁護士であること

弁護士を選ぶ場合は、第1回期日に出席できる弁護士かどうかにも注意が必要です。

「労働審判制度の手続の流れ」のところでご説明した通り、第1回期日は裁判所から一方的に指定される形で決まります。

そして、労働審判では、裁判官だけでなく民間出身の労働審判員の予定も踏まえて期日が決められていることから、いったん指定された期日を会社側の都合で変更することはなかなか認められません。

そのため、弁護士を選ぶ際は、その弁護士が第1回期日に出席できるかどうか確認しておくことが必要です。

 

労働審判に強い弁護士の選び方として、上記3項目をおさえておきましょう。

 

まとめ

今回は、企業の労務関係のトラブルで多数を占める「不当解雇トラブル」や、「未払い残業代トラブル」を解決する制度として毎年「約3500件」もの申立てがある「労働審判制度について」のお役立ち情報をピックアップしました。

まず、「労働審判制度の概要」についてご説明し、その後、「労働審判制度の手続の流れ」、「会社側の対応のポイント」、「答弁書作成のポイント」、「解決金の相場」、「会社側弁護士費用の目安」についてご説明しました。 そのうえで、最後に、「労働審判の会社側弁護士の選び方」のポイントについてもご説明しました。

労働審判は、「第1回期日で、概ね、解決案の内容が決まる」という、非常にスピーディーな手続です。

労働審判の申立書が会社に届いた場合は、迅速に対応する必要がありますので、すぐに弁護士にご相談いただくことが重要です。

咲くやこの花法律事務所でも、年間を通して多くの労働審判に関する会社側のご相談をいただいており、労働審判制度の経験豊富な弁護士がスピーディーに対応しております。

●参考:咲くやこの花法律事務所の労働審判における解決実績もご参考にしてください。

解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の支払いで解決をした事例。

従業員に対する退職勧奨のトラブルで労働審判を起こされたが、会社側の支払いなしで解決した事例



万が一、労働審判についてお困りの事がありましたら、労務問題に強い咲くやこの花法律事務所の弁護士への相談をオススメします。

 

企業法務におけるお悩みは、企業法務に強い弁護士へ。「咲くやこの花法律事務所」へご相談下さい。

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2017年02月06日

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