こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
従業員に対する残業代の支払いに不安をかかえていませんか?
残業代を正しく支払っていない場合、従業員との間で未払残業代請求などの労使トラブルになるだけでなく、労働基準法違反して労働基準監督署から是正勧告を受けたり、刑事事件として立件されて罰則を受けたりする可能性があります。
そして、残業代を正確に計算して正しく支払うためには、労働時間や休日についての労働基準法による規定について理解する必要があります。また、固定残業代制度や裁量労働制、年俸制などの制度を採用する場合は、それぞれ残業代を支給する必要の有無や、どのように支給するかについて正しく理解しておく必要があります。
この記事では、残業代の適切な支払いのために知っておくべきルールや残業代の計算方法について具体的に解説します。この記事を最後まで読んでいたただくことで、残業代をどのような場合にどのように計算して支給するべきかについてよく理解していただくことができます。それでは見ていきましょう。
従業員に対して残業代を適切に支給していない場合、未払残業代請求などの労使トラブルの原因になります。訴訟になってしまうと会社にとっても負担が大きくなりますので、従業員や退職者から未払い残業代を請求されたときは、訴訟になる前に早急に弁護士に相談して対応することが重要です。咲くやこの花法律事務所でも未払い残業代請求をうけた事業者向けに弁護士が専門的なサポートを提供していますのでぜひご相談ください。
▶参考情報:未払い残業代トラブルに強い使用者側弁護士への相談サービスについては、以下をご参照ください。
また、未払い残業代請求への反論方法については、以下の記事でも解説しています。こちらもご覧ください。
▶参考情報:未払い残業代を請求されたら?従業員への企業側の反論方法を弁護士が解説
▶参考情報:未払い残業代トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決事例は以下をご参照ください。
・退職者から残業代請求された企業から相談を受け、約480万円の請求を3分の1以下に減額できた成功事例
※この記事内で紹介している労働基準法の根拠条文については、以下をご参照ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,残業代とは?
残業代とは、所定労働時間(就業規則等で定められた就業時間。いわゆる「定時」をいいます)を超えた労働に対して支払う賃金のことです。残業代には、法内残業に対する賃金と時間外労働の割増賃金、休日労働の割増賃金・深夜労働の割増賃金があり、これらを全てあわせて一般に残業代と呼ばれます。
(1)残業と残業代の意味
会社は、労働基準法で定められた上限を超えない範囲で、就業規則や雇用契約書などによって従業員の労働時間を定めることができます。この就業規則や雇用契約書などによって定めた労働時間のことを「所定労働時間」といいます。この「所定労働時間」は「定時」とも呼ばれることがあります。そして、この所定労働時間を超えた労働のことを「残業」といい、それに対して支払う賃金のことを「残業代」といいます。
この「残業」には、法内残業と時間外労働(法定外残業)があります。また、休日や深夜に残業が行われる場合もあります。これらに対して支払われる賃金すべてを「残業代」と言うことが多いですが、残業の種類によって計算方法や労働基準法上の扱いが異なります。以下でそれぞれの違いをみていきましょう。
(2)法内残業と時間外労働の割増賃金
労働基準法では、労働時間の上限を1日8時間・週40時間と定めています(労働基準法32条)。これを「法定労働時間」といい、この法定労働時間を超える労働のことを「時間外労働」といいます。「時間外労働」に対しては割増賃金を支払うことが法律上義務付けられています(労働基準法37条1項)。
一方、法定労働時間の範囲内ではあるものの会社の所定労働時間を超えた労働のことを「法内残業」といいます。 「法内残業」に対しても、就業規則等に特段の規定がない限り、賃金を支払う必要があります。大星ビル管理事件という有名な事件の最高裁判決でこの点が判示されています。(▶参報:大星ビル管理事件判決(最高裁判所判決平成14年2月28日) )
例えば、1日7時間×週5日が所定労働時間の場合、残業を1時間しても法定労働時間内なのでこの部分は法内残業です(下の図の緑の部分)。残業が1時間を超えた部分のみが時間外労働になります(下の図の赤の部分)。
▶参考情報:労働時間と残業時間についての労働基準法上のルールは以下で解説していますのでご参照ください。
(3)休日の労働
会社の休日には、労働基準法35条によって定められた「法定休日」と、会社が独自に定める「所定休日」とがあります。従業員を法定休日に労働させた場合、「休日労働」となり、割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条1項))。
一方、従業員を所定休日に労働させた場合は、「休日労働」にはならないので割増賃金を支払う必要はありません。ただし、所定休日に労働させた結果、週の労働時間が40時間(法定労働時間)を超えることがあります。その場合、超えた部分は「時間外労働」となり、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。また、所定休日の労働のうち、週の労働時間が40時間を超えない部分については法内残業となり、通常は、法内残業に対する賃金を支払う必要があります。
▶参考情報:休日や休日労働についての労働基準法上のルールは以下で解説していますのでご参照ください。
(4)深夜労働
残業が深夜(22時から翌5時までの間)に及んだ場合、この時間帯の労働については「深夜労働」の割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条4項)。
▶参考情報:労働基準法37条
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
・参照元:労働基準法の条文はこちら
2,「残業代の計算」割増率や計算方法についての労働基準法によるルール
「1,残業代とは?」で説明したとおり、残業には「法内残業」と「時間外労働」、「休日労働」、「深夜労働」があります。「時間外労働」、「休日労働」、「深夜労働」については、残業代の計算はこのような残業の種類ごとに分けて行う必要があります。それぞれの計算方法やルールについて見ていきましょう。
(1)法内残業
法内残業については、労働基準法による割増賃金の支払い義務はありません。就業規則等に特段の規定がない限り、法内残業については以下の計算式のように残業した時間分の賃金を支払うことになります(昭和23年11月4日基発1592号)。
この「通常の労働時間についての1時間あたりの賃金」は、一般的には、割増賃金の算定のもととなる1時間あたりの賃金額とすることが多くなっていますが、法律上の明確な規定はありません。明確なルールが無いと給与計算の際に困りますので、計算方法を就業規則や賃金規程に定めておくことが適切です。賃金の計算については就業規則に必ず定める必要がある絶対的必要記載事項とされています。
▶参考情報:就業規則の絶対的必要記載事項については以下を参照してください。
(2)時間外労働・休日労働・深夜労働
時間外労働・休日労働・深夜労働については、割増賃金の支払いが労働基準法により義務付けられています(労働基準法37条1項、4項)。
割増賃金の計算式は以下のとおりです。
●時間外労働の場合
1時間あたりの賃金額 × 時間外労働の時間数 × 割増率 = 割増賃金
●休日労働の場合
1時間あたりの賃金額 × 休日労働の時間数 × 割増率 = 割増賃金
●深夜労働の場合
1時間あたりの賃金額 × 深夜労働の時間数 × 割増率 = 割増賃金
時間外労働の算定の基礎となる「1時間あたりの賃金額」は、労働基準法や労働基準法施行規則で具体的な計算方法が定められており、月給制の場合は以下の通りです。
また、割増率は、労働基準法37条1項、4項で以下のとおり規定されています。
- 時間外労働(1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えた労働)→ 25%以上
- 時間外労働が月60時間を超えたときの超えた部分 → 50%以上
- 法定休日の労働 → 35%以上
- 深夜(22時から翌5時までの間)の労働 → 25%以上
▶参考情報:残業時間や割増賃金の計算方法の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
3,固定残業代(みなし残業代)とは?
「固定残業代」とは、毎月の残業時間にかかわらず、定額の残業代を支払う制度をいいます。残業代の見込み額を固定額で支給する制度ですが、実際の残業時間に応じて計算した残業代が固定残業代の額を超えた場合は、その超過額も支払う必要があります。「みなし残業代」、「定額残業代」などということもあります。
固定残業代制やみなし残業代制を導入することで、毎月の給与計算の管理がしやすくなる、求人広告を出す際などに給与が高いことをアピールできる等のメリットがあります。
一方で、固定残業代やみなし残業代を導入する際に制度設計が正しくできていないと、従業員から未払い残業代の請求を受けて訴訟になったときに、裁判所から固定残業代部分を残業代の支払いを認めてもらえないことがあるというデメリットもあります。そのため、固定残業代やみなし残業代の制度を検討する際は、必ず事前に弁護士に相談したうえで導入してください。
▶参考情報:固定残業代(みなし残業代)については以下の記事で詳しく解説しています。
ぜひご覧ください。
4,裁量労働制の場合でも残業代は出るのか?
裁量労働制の場合は、実際の労働時間にかかわらず、労使協定や労使委員会の決議において設定されたみなし労働時間の分の給与が支払えばよいことになります。そのため、みなし労働時間を所定労働時間と同じにすれば、残業代の支払義務が発生しないようにすることも可能になります。しかし、裁量労働制を採用していても残業代を支払わなければならない場合があるので、注意が必要です。.
(1)裁量労働制とは?
裁量労働制とは、一定の専門性のある裁量性の大きい業務に従事する労働者について、実際の労働時間にかかわらず、労使協定や労使委員会の決議に定めた労働時間数だけ労働したものとみなす制度です。労働基準法38条の3、38条の4で定められています。
裁量労働制を適用する場合、事前に労使協定や労使委員会の決議において「みなし労働時間」を設定します。実際の労働時間がこの「みなし労働時間」より長い場合も短い場合も、この時間だけ働いたとみなして給与が支払われます。
例えば、一日のみなし労働時間が8時間である場合、6時間働いても10時間働いても、8時間働いたという扱いになります。ただし、裁量労働制は、どのような職種でも適用できるわけではありません。業務の性質上、会社が労働時間や業務の進め方を具体的に指示することが難しい業務に限り、裁量労働制の対象になります。具体的には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、その概要は以下の通りです。
1,専門業務型裁量労働制
業務の性質上、その進め方などを大幅にその業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、時間配分等に関して会社が具体的な指示をすることが難しいと認められる専門的な業種が対象になります。新商品や新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、新聞や出版物の記事の取材・編集など、20の業務が対象業務に指定されています。
2,企画業務型裁量労働制
事業運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析等の、その進め方などを大幅にその業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があり、時間配分等に関して会社が具体的な指示をすることが難しいと認められる業務が対象になります。
▶参考情報:裁量労働制については詳しくは以下をご覧ください。
(2)裁量労働制でも残業代が出る場合があります
裁量労働制では、実際の労働時間にかかわらず、労使協定や労使委員会の決議において設定されたみなし労働時間の分の給与が支払えばよいことになります。例えば、所定労働時間が1日8時間の場合に、みなし労働時間を8時間に設定すれば、実際の労働時間にかかわらず、時間外労働の割増賃金は発生しないことになります。
ただし、裁量労働制でも残業代を支払わなければならない場合もあります。具体的には以下の3つです。
- 1,みなし労働時間が所定労働時間を超える場合
- 2,深夜労働をさせた場合
- 3,休日労働をさせた場合
順番に見ていきましょう。
1,みなし労働時間が所定労働時間を超える場合
法定労働時間を超えるみなし労働時間を設定することもできます。ただし、法定労働時間を超えるみなし労働時間を設定した場合、超過分について残業代を支払う必要があります。
たとえば、1日の所定労働時間が8時間の従業員について、みなし労働時間を9時間と設定した場合、1時間は法定労働時間を超える「時間外労働」となります。そのため、時間外労働の割増賃金を支払わなければなりません。
2,深夜労働をさせた場合
裁量労働制でも、22時から翌5時までの時間帯の労働は「深夜労働」として扱われます。そのため、深夜労働に対する割増賃金の支払いが必要です。
たとえば、1日のみなし労働時間を8時間と設定している場合に、裁量労働制の従業員が13時から23時まで働いたとき、労働時間は8時間とみなされますが、22時から23時までの労働は「深夜労働」になるため、1時間分の深夜割増賃金を支払わなければなりません。
3,休日に労働させた場合
通常は、裁量労働制によりみなし労働時間働いたものとみなされるのは所定労働日のみです。そのため、休日の賃金については、別に考える必要があります。
まず、裁量労働制の従業員が法定休日に働いた場合、その時間分の「休日労働」に対する割増賃金の支払いが必要になります。一方、法定休日ではなく、会社が独自に定めた所定休日に労働した場合は、週の労働時間が40時間(法定労働時間)を超えた部分が「時間外労働」となり、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。また、週の労働時間が40時間を超えない部分については法内残業となり、就業規則等に特段の規定がない限り、法内残業に対する賃金を支払う必要があります。
5,管理職に残業代は出ない?管理監督者と管理職の違いとは?
労働基準法の労働時間や休憩、休日に関する規定は、「管理監督者」には適用しないと定められています(労働基準法41条)。そのため、「管理監督者」に該当する労働者には、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払う義務はありません。
▶参考情報:管理職の残業代については、以下の記事でも詳しく解説していますのでご参照ください。
では、「管理監督者」とはどのような立場の者でしょうか。
労働基準法における管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者のことをいいます。企業内で管理職の立場にある従業員すべてが、労働基準法上の管理監督者に当てはまるわけではありません。管理監督者に該当するかどうかは、職務内容や責任と権限、勤務態様等の実態によって判断されます。
具体的には、以下の4つの基準を満たす者のみが、労働基準法における「管理監督者」に該当します。
(1)労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるをえない重要な職務内容を有していること
労働条件の決定やその他の労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していなければ管理監督者とはいえません。
(2)労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるをえない重要な責任と権限を有していること
経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。「課長」等の肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が小さく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するだけの役割であれば管理監督者とはいえません。
また、たとえば、「店長」という肩書であっても、その店舗に所属するアルバイト等の採用に関する責任や権限が実質的にない場合や、その店舗の勤務シフトの作成や所定時間外労働を命じる責任と権限が実質的にない場合は、管理監督者とはいえません。
(3)現実の勤務態様が労働時間等の規制になじまないものであること
管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が求められるので、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要があります。労働時間等について厳格な管理をされているような場合は管理監督者とはいえません。たとえば、遅刻や早退等をした場合に賃金が控除されたり、人事考課でマイナスの評価がついたりする場合は、労働時間等について厳格に管理されていることになります。このような扱いの者は管理監督者とはいえません。
(4)給与や賞与等について、その地位にふさわしい待遇がされていること
管理監督者は、その職務の重要性から、給与、賞与、その他の待遇において、一般労働者と比較して、相応の待遇がなされていない場合は管理監督者とはいえません。また、事案にもよりますが年収600万円を下回る場合、管理監督者と認められる可能性は極めて低くなるといえるでしょう。
上記で説明した管理監督者の条件を満たす管理職は、労働基準法による労働時間、休憩、休日等に関する規制の対象外となります。この場合、時間外労働や休日労働という概念がなくなるため、時間外労働の割増賃金や休日労働の割増賃金の支払義務の対象とはなりません。
なお、深夜労働に関する規定(労働基準法第37条4項)は管理監督者にも適用されます。管理監督者に該当する管理職であっても、22時~翌5時の時間帯に労働した場合は、深夜労働に対する割増賃金を支払う義務がありますので注意しましょう。
▶参考情報:管理監督者制度については以下の解説もご参照ください。
管理職を管理監督者として扱い、割増賃金の支払対象外としてよいかどうかをめぐっては、上記の通り判断基準が必ずしも明確とはいえず、労使間でもトラブルになりやすい点です。
社内において管理職として扱われている場合であっても、法律上の管理監督者にあたるとは限りません。管理監督者として扱う場合は、必ず事前に弁護士に相談し、法的に管理監督者にあたるかどうかを確認することが必要です。
▶参考情報:労働基準法41条
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
・参照元:労働基準法の条文はこちら
6,年俸制の場合は残業代は出ない?
年俸制とは、あらかじめ賞与等も含めた一年間の総支給額を定めてから、これを月々に分割して支給する賃金の支払形態のことをいいます。
では、年俸制の場合には、残業代を支給する必要はあるのでしょうか?
「年俸の金額は一年間の業績に対する評価として設定しているので、残業をしたとしても、その分の賃金も年俸に含まれている」と考えれば、残業代を支払う必要がないように思えます。しかしこれは誤りです。年俸制を採用している場合でも、労働基準法上の割増賃金の支払が必要です。
年俸制はあくまで賃金の支払形態の一種にすぎず、労働基準法によって定められた法定労働時間や法定休日等に関する規定の対象外になるものではありません。法定労働時間を超えて働いた場合は時間外労働に対する割増賃金を、法定休日に働いた場合は休日労働に対する割増賃金を、深夜に働いた場合は深夜労働に対する割増賃金を通常通り支払う必要があります(労働基準法37条)。
7,アルバイトやパートの残業代
会社は、アルバイトやパート従業員に対しても、所定労働時間を超えて労働させた場合は残業代を支払わなければなりません。就業規則等に特別の規定がない限り、アルバイトやパート従業員がシフトで決められた時間を1分でも超えて働いた場合は、その分の残業代を支給する必要があります。
アルバイトやパートの残業代の計算方法は、フルタイム勤務の労働者と基本的に同じです。
所定労働時間を超えた法定労働時間以内の残業(法内残業)に対しては、就業規則等に特別の規定がない限り、通常の労働時間についての賃金で計算した残業代を支払う必要があります。また、法定労働時間を超えた残業(時間外労働)に対しては割増率25%以上で計算した割増賃金が、法定休日の労働に対しては、割増率35%以上で計算した割増賃金の支払いが義務付けられています。さらに、22時から翌5時の深夜帯に労働させた場合は、それが所定労働時間内かどうかにかかわらず25%以上の割増率で計算した割増賃金の支払いが必要です。
8,公務員の残業代は出ない?
では、公務員には残業代が支払われないのでしょうか。
国家公務員と地方公務員、それぞれについてみていきましょう。
(1)国家公務員の残業代
国家公務員には原則として労働基準法が適用されません(国家公務員法附則第6条)。
▶参考情報:国家公務員法附則第6条
労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、船員法(昭和二十二年法律第百号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、じん肺法(昭和三十五年法律第三十号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和四十二年法律第六十一号)並びにこれらの法律に基づく命令は、職員には適用しない。
国家公務員の賃金の支払いや労働時間等に関しては、国家公務員法やその他の法令によって規定されています。
一般職の国家公務員の残業代に関しては、「一般職の職員の給与に関する法律」によって、正規の勤務時間を超えた時間に対する「超過勤務手当」、休日勤務に対する「休日給」、夜勤に対する「夜勤手当」等を支給すると定められています。
▶参考情報:一般職の職員の給与に関する法律 第十六条
第十六条 正規の勤務時間を超えて勤務することを命ぜられた職員には、正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対して、勤務一時間につき、第十九条に規定する勤務一時間当たりの給与額に正規の勤務時間を超えてした次に掲げる勤務の区分に応じてそれぞれ百分の百二十五から百分の百五十までの範囲内で人事院規則で定める割合(その勤務が午後十時から翌日の午前五時までの間である場合には、その割合に百分の二十五を加算した割合)を乗じて得た額を超過勤務手当として支給する。
1.国家公務員の残業代(超過勤務手当)の計算方法
国家公務員の残業代(超過勤務手当)の計算方法は次のとおりです。
勤務1時間あたりの給与額は次のとおり算出します(一般職の職員の給与に関する法律19条)。
支給割合は一般職の職員の給与に関する法律16条から18条や人事院規則によって、以下のとおり定められています。
- 正規の勤務時間が割り振られた日(主に平日)の超過勤務:125/100
- 上記以外の日の超過勤務:135/100
- 超過勤務が1か月60時間を超えたときの60時間を超えた分の勤務:150/100
(2)地方公務員の残業代
一方、一般職の地方公務員については、原則として労働基準法が適用され、時間労働・休日労働・深夜労働についての割増賃金支払義務の対象となります(地方公務員法58条3項)。
そして、地方公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件については、地方公共団体の条例によって定めるものとされています(地方公務員法24条5項)。給与に関する条例には、時間外勤務手当、夜間勤務手当及び休日勤務手当に関する事項を規定することになっています(地方公務員法25条3項4号)。これらは、一般の労働者に対する残業代に相当するものです。よって、地方公務員の残業代については、それぞれの地方公共団体の条例を確認する必要があります。
9,残業代が未払いだとどうなる?請求の時効はあるのか?
会社が労働基準法上支払義務がある割増賃金を支払わないでいると、労働基準法違反として労働基準監督署から是正勧告を受けたり、従業員や退職者から未払い残業代を請求されるなどのトラブルにつながります。
また、未払い残業代については、在職中は3%、退職後は14.6%の遅延損害金も支払わなければなりません。さらに、未払い残業代請求訴訟において、裁判所に割増賃金の不払いが悪質であると判断された場合、割増賃金の額と同額までの範囲で「付加金」の支払いも命じられることがあります。
このように、残業代の未払いについては、さまざまなペナルティが科されます。
なお、未払い残業代の請求には時効があります。給与支払日の翌日から起算して3年で消滅時効にかかります(労働基準法附則143 条3項。ただし、給与支払日が令和2年3月以前の残業代については2年で消滅時効にかかります)。そのため、裁判になった場合、過去3年分の請求がされることが多くなっています。
未払い残業代請求の裁判を起こされ会社側が敗訴すると、本来支払うべきだった3年分の残業代に遅延損害金や付加金が加わり、本来の倍以上の金額を命じられるおそれがあります。日頃から、残業代を適切に支払い、未払い残業代トラブルを起こさないように会社の整備を進める必要があります。
10,残業代にかかる税金・社会保険料と年末調整
残業代は所得税の課税対象となる給与所得です。労働者が納める所得税などの税金の金額は、会社が支払う基本給や賞与のほか、残業代(残業手当)や職務手当、住宅手当などの各種手当が該当する給与所得の合計額をもとに計算されます。そのため、支給される残業代の金額が高額であるほど、所得税の金額も高くなります。また、残業代についても会社は所得税を源泉徴収する必要があります。まれに労働者側から残業代について税金が引かれるのはおかしいという疑問が言われる例もありますが、残業代についても源泉徴収することが法律上の義務です。そして、残業代も年末調整の対象になります。
▶参考情報:残業手当と所得税の関係については以下もご参照ください
また、社会保険料も残業代の金額によって変わります。厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料などの社会保険料の金額は、「標準報酬月額」をもとに計算されます。「標準報酬月額」とは、毎年4月から6月までの3ヶ月間における給与などの報酬の平均額のことをいいます。標準報酬の対象となる報酬には、基本給のほか、残業手当、家族手当、住宅手当等の各種手当が含まれます。そのため、支給される残業代の金額が高額であるほど、社会保険料の金額も高くなります。
▶参考情報:社会保険料の算定のもとになる標準報酬月額についての考え方は以下もご参照ください。
11,職場の飲み会と残業代
職場の飲み会に参加した時間について残業代は出ないのかということもよく問題にされます。
法律上、労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間のことをいいます(▶参考情報:平成12年3月9日最高裁判所第一小法廷判決・三菱重工長崎造船所事件)。
職場の飲み会や懇親会は、一般的には業務終了後の慰労の場であり、基本的には使用者の指揮命令下とは評価されません。従って、労働時間には当たらないのが原則です。ただし、飲み会や懇親会であっても、顧客の接待を伴うものであったり、あるいは業務に関する情報交換を伴うもので、事実上欠席が困難なものについては労働時間と評価される可能性があるでしょう。労災認定についての判断ではあるものの、職場内の飲み会を労働時間として評価した例として、高松高等裁判所判決令和2年4月9日等があります。
12,残業代に関して弁護士に相談したい方はこちら(企業側専門)
咲くやこの花法律事務所では、残業代の支払いについての相談や固定残業代制度などの導入、従業員との未払い残業代トラブルの解決等、その他残業代に関する様々な問題について、事業者側の立場に立って専門的なサポートを提供してきました。
以下では咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。
(1)未払い残業代トラブルに関する弁護士へのご相談
咲くやこの花法律事務所では未払い残業代の請求を受けてお困りの企業からのご相談を承っています。
未払い残業代問題について実績の豊富な弁護士がご相談をお受けし、「支払いが必要か否かについて」や「必要な支払額について」判断し、お客様の未払い残業代トラブルについての解決の道筋を示します。
咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)未払い残業代に関する従業員との交渉
咲くやこの花法律事務所では、裁判になる前の段階から、従業員からの未払い残業代請求について、弁護士への交渉の依頼を承っています。
ご依頼いただいた後は、弁護士が企業側の立場で従業員からの請求に対して反論をして従業員と交渉し、未払い残業代トラブルを解決します。
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●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●未払い残業代トラブルの際の従業員との交渉:着手金15万円程度+税~
(3)未払い残業代に関する団体交渉、労働審判、労働裁判への対応
未払い残業代のトラブルが団体交渉や労働審判、労働裁判に発展するケースもあります。咲くやこの花法律事務所では、団体交渉への同席や、労働審判の対応、労働裁判の対応に豊富な実績があり、企業のお客様からのご依頼を積極的に承っています。未払い残業代トラブルは、問題が長期化するほど企業側の支払額が多くなってしまいます。従業員から請求を受けた段階ですぐにご相談いただくことが、問題をスムーズに解決するための重要なポイントです。
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●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●未払い残業代トラブルの際の団体交渉対応:着手金30万円程度+税~
●未払い残業代トラブルの際の労働審判対応・裁判対応:着手金45万円程度+税~
(4)固定残業代やみなし残業代導入に伴う制度設計、就業規則作成のご相談
固定残業代やみなし残業代の制度を導入してもそれが裁判所で認められず、多額の残業代支払いを命じられる裁判例が相次いでいます。そのため固定残業代・みなし残業代に関する制度の設計や就業規則、賃金規程の作成は必ず弁護士のチェックを受けておく必要があります。咲くやこの花法律事務所では、固定残業代に関するトラブルに詳しい弁護士が、制度設計、就業規則作成、賃金規程作成のご相談を承ります。裁判になった際に裁判所が着目する点をおさえた制度設計が可能になります。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(5)顧問弁護士サービスのご案内
咲くやこの花法律事務所では、事業者の労務管理全般をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しています。
未払い残業代トラブルを起こさないためには、労使協定や就業規則、雇用契約書等を適切に整えたうえで、日頃の労働時間管理体制も整えることが重要です。平時から顧問弁護士のサポートを受けながら、これらの整備に取り組むことが大切です。また、顧問弁護士がいれば、トラブルが発生してしまったときも、初期段階で弁護士に相談して専門的な助言を受け、早期に解決することが可能になります。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
(6)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのご相談はこちら
弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方(労働者側)からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
13,まとめ
今回は、残業代について、残業代の支払いのルールや計算方法等をご説明しました。
残業には、法内残業や時間外労働、休日労働、深夜労働の種類があり、事業者が従業員に残業をさせた場合、労働基準法の定めにしたがって残業代を支払う必要があります。特に、時間外労働や休日労働や深夜労働については、通常の賃金に割増率を加算した割増賃金を支払わなければなりません。
また、固定残業代制度を採用している場合や、裁量労働制あるいは年俸制を採用している場合も、残業代を支払うことが必要になる場面があることに注意が必要です。
残業代を支払わないと従業員との間でトラブルになるだけでなく、労働基準監督署から是正勧告を受けることもあります。そのような事態を未然に防ぐためにも、日頃から顧問弁護士に相談して、適切な労務管理を整備していくことが重要です。
また、未払い残業代の支払いについてトラブルになったときは、早い段階で弁護士に依頼して対応することが、会社にとってのダメージを最小限に抑えることにつながります。咲くやこの花法律事務所でも、未払い残業代に関する問題に精通した弁護士が、企業側の立場に立って専門的なサポートを提供していますので、ぜひご利用ください。
14,【関連】残業代に関するその他のお役立ち記事
この記事では、「残業代とは?労働基準法のルールや計算方法、未払いのリスクについて」について、わかりやすく解説しました。残業代には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連するお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・36協定とは?違反したらどうなる?制度の内容と罰則について
・労働基準法第24条とは?賃金支払いの5原則について詳しく解説
記事更新日:2024年12月17日
記事作成弁護士:西川 暢春
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