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労働基準法における残業とは?残業時間の上限など時間外労働のルールを解説

労働基準法における残業とは?残業時間の上限など時間外労働のルールを解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
残業についての労働基準法による規制を正しく理解しておくことは非常に大切です。

残業については、労働基準法上、時間外労働の上限や割増賃金の支払いなど、様々な規制が設けられています。労働基準法に定められたこれらのルールに違反すると、従業員とトラブルになったり、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、刑事事件として立件されて罰則を受けたりする可能性もあるため、企業の経営者や担当者は正しい知識を持っておくことが重要です。

最近では、以下のようなケースも話題になりました。

 

事例1:着替え時間についての残業代の集団提訴事案

令和5年12月22日、神戸地方裁判所は、日本郵便の職員44人が制服に着替える時間が労働時間として認められず残業代が支払われないのは不当だとして日本郵便に訴訟を提起した事案について、職員のうち40人の着替え時間は労働時間であるとして残業代の支払いを命じました。

 

事例2:タクシー会社運転手による集団提訴事案

令和6年に、福岡西鉄タクシーの運転手ら87人が会社に2億円超の割増賃金の支払いを求めて提訴したことが報道されました。

 

この記事では、残業の定義、残業時間の上限、時間外労働に対して支払う割増賃金などについて具体的に解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、残業についての労働基準法によるルールをよく理解していただくことができます。それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

残業については労働基準法による様々なルールが定められています。残業時間の管理や残業代の支払いが適切にできていないと労使トラブルの原因になってしまう可能性があります。ルールを正しく理解して、適切な労務管理をする必要があります。

咲くやこの花法律事務所では残業時間の管理や残業に関連した就業規則の整備、未払い残業代トラブルへの対応について事業者向けに弁護士が専門的なサポートを提供しています。お困りの際はぜひご相談ください。

 

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▶参考情報:労働問題に強い弁護士への相談サービス

 

※参考:この記事内で紹介している労働基準法の根拠条文については、以下をご参照ください。

「労働基準法」の条文はこちら

 

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1,労働基準法における残業とは?

労働基準法における残業とは?

残業とは、所定労働時間(事業者が就業規則や雇用契約書などで定めた労働時間)を超える労働を指します。ただし、労働基準法では残業という用語は使われておらず、残業時間について定めた規定もありません。労働基準法は1日8時間、週40時間を超える労働を時間外労働と呼び、この時間外労働について規制を設けています。

 

(1)残業と時間外労働の違い

前述の通り、労働基準法には残業そのものについての規制はなく、残業のうち時間外労働についての規制がおかれています。では、残業と時間外労働はどう違うのでしょうか?

まず、労働基準法では労働時間は原則として1日8時間・1週40時間以内とされています(労働基準法32条)。この1日8時間・週40時間の上限は「法定労働時間」と呼ばれます。そして、残業のうち、この法定労働時間を超える労働のみが時間外労働として労働基準法における規制の対象になります。

 

▶参考情報:労働基準法における労働時間のルールは、こちらをご参照ください。

労働時間とは?労働基準法など5つのルールをわかりやすく解説

 

例えば、就業規則や雇用契約書などで始業時刻が9時、終業時刻17時、休憩1時間と定められている場合、所定労働時間は7時間です。この場合、1時間の残業をしても法定労働時間内なので時間外労働にはなりません。この部分の残業は「法内残業」と呼ばれます(下の図の緑の部分)。残業が1時間を超えた部分のみが時間外労働になります(下の図の赤の部分)。所定労働時間は事業者や職種によってさまざまなので、労働基準法では所定労働時間を超える残業を規制するのではなく、1日8時間、週40時間を超える時間外労働を規制しているのです。

 

▶参考:所定労働時間が9時から17時までの労働者が19時まで勤務した場合の残業について

所定労働時間が9時から17時までの労働者が19時まで勤務した場合の残業について

 

(2)時間外労働についての労働基準法による規制

労働基準法は、事業者は原則として労働者を法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させてはならないというルールを設けています(労働基準法32条)。ただし、このルールには例外があり、法定労働時間を超えれば一切労働させることができないわけではありません。事業者は労働者の過半数代表と労使協定を締結して労働基準監督署長に届け出ることで、法定労働時間を超えて労働者を労働させることができます(労働基準法36条1項)。この労使協定は、労働基準法36条に根拠規定があることから、「36協定(サブロク協定)」などと呼ばれます。このように原則としては法定労働時間を超えるのはダメだけれども、36協定を締結していれば例外的に法定労働時間を超える時間外労働をさせても良いというルールになっているのです。

 

▶参考情報:36協定については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

36協定とは?違反したらどうなる?制度の内容と罰則について

 

2,残業時間は一カ月に何時間まで?労働基準法による時間外労働の上限規制とは?

36協定を締結した場合でも、労働基準法上、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間までと定められています(労働基準法36条4項)。

ただし、これにも例外があり、労使間で「特別条項付きの36協定」を結んでいれば、通常予見することのできない業務量の大幅な増加などの臨時的な特別の事情がある場合には、月45時間・年360時間を超えて時間外労働させることができます(労働基準法36条5項)。この場合も時間外労働は無制限ではなく、労働基準法で定められた以下の上限を守らなければなりません(労働基準法36条5項、6項)。

 

  • 時間外労働が1年間に720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1か月あたり80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6回が限度

 

▶参考情報:この残業規制(時間外労働に対する規制)の詳細は、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

新しい残業規制とは?残業の上限と違反時の罰則について解説

 

▶参考情報:労働基準法36条4項、5項、6項

第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

(省略)

④ 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
⑤ 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。
⑥ 使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。
二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること。
三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

3,残業時間にも休憩は必要?労働基準法による休憩のルール

労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないと定められています(労働基準法第34条1項)。

 

▶参考:労働基準法により与えることが義務付けられる休憩時間

労働時間 必要な休憩時間
~ 6時間 なし
6時間1分 ~ 8時間 45分以上
8時間1分~ 1時間以上

 

このようなルールになっている結果、従業員を残業させる場合に、休憩時間を与える必要が生じることがあります。ここまで 例えば以下のようなケースです。

 

(1)1日の所定労働時間が7時間で休憩時間が45分の従業員が、1時間30分残業した場合

残業したことで1日の労働時間が8時間30分になるため、45分の休憩時間では足りず、追加で少なくとも15分の休憩時間を与える必要があります。

 

(2)1日の所定労働時間が4時間30分で休憩なしの従業員が、2時間残業した場合

残業したことで1日の労働時間が6時間30分になるため、少なくとも45分の休憩時間を与える必要があります。

なお、労働基準法による休憩時間のルールは、1日の労働時間が8時間を超える場合までしか定められていません。そのため、例えば残業により1日の労働時間が12時間になった場合でも、すでに1時間の休憩時間を与えている場合は改めて休憩を与える義務はありません。ただし、上で説明したのはあくまでも最低限必要な休憩時間です。従業員の健康維持等のために、残業時に追加の休憩時間を与えることも問題ありません。

 

▶参考情報:労働基準法における休憩時間のルールについては以下で解説していますのでご参照ください。

労働基準法34条の休憩時間!必要な時間など法律上のルールを解説

 

4,妊娠中の従業員や産後1年を経過しない従業員の残業について

労働基準法では、産前産後の従業員の残業について規制を設けています。

妊娠中や産後1年を経過しない従業員からの請求があった場合、事業者は、時間外労働や休日労働をさせることができません(労働基準法66条2項)。

また、妊娠中や産後1年を経過しない従業員からの請求があった場合は、深夜労働をさせることもできません(労働基準法66条3項)。さらに、変形労働時間制を適用している場合でも、妊娠中や産後1年を経過しない従業員からの請求があれば、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働させることはできません(労働基準法66条1項)。

このように妊娠中の従業員や産後1年を経過しない従業員の時間外労働等は一律に禁止されているのではなく、あくまで従業員本人から請求があった場合には時間外労働等をさせることができないという規制になっています。

 

▶参考情報:労働基準法66条1項、2項、3項

第六十六条 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。
② 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
③ 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

5,時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金・割増率について

労働者に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて時間外労働をさせた場合は、割増賃金の支払いが必要になります。

割増賃金の金額は、通常の賃金に割増率を乗じて算定します。割増率は就業規則等で定めるものですが、労働基準法によって時間外労働の割増率は通常の賃金の25%以上とすることが義務付けられています(労働基準法37条1項)。また、時間外労働が1か月に60時間を超える場合は、60時間を超えた時間分の割増率は50%以上とする必要があります(労働基準法37条1項ただし書)。

 

  • 時間外労働の割増率 → 25%以上
  • 時間外労働が月60時間を超えたときの60時間を超える時間についての割増率 → 50%以上

 

また、休日労働、深夜労働についてもそれぞれ以下の割増率以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。

 

  • 休日労働の割増率 → 35%以上
  • 深夜労働の割増率 → 25%以上

 

一方、所定労働時間を超えていても法定労働時間を超えていない残業(法内残業)は「時間外労働」にはあたらないため、法律上、割増賃金を支払う必要はありません。

 

▶参考情報:割増賃金については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

割増賃金とは?労働基準法第37条や時間外・休日・深夜の計算方法を解説

 

▶参考:労働基準法37条1項

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

6,深夜の残業についての労働基準法による規制

労働基準法上、午後10時から午前5時までの間の労働を「深夜労働」といいます。この深夜労働の時間帯に残業をする場合に、労働基準法によってどのような規制があるかをみていきましょう。

 

(1)深夜労働については割増賃金を支払う必要がある

前述の通り、深夜労働に対しては、通常の賃金の25%以上の割増率で計算した割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条4項)。また、時間外労働については、通常の賃金の25%以上(時間外労働が月60時間を超えるときは50%以上)の割増率で計算した割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条1項)。

深夜の残業は深夜労働であると同時に時間外労働にもあたることが多いでしょう。このように深夜労働が時間外労働にも該当する場合は、深夜労働に対する割増賃金と時間外労働に対する割増賃金の両方を支払わなければなりません。

つまり深夜の残業が時間外労働にあたる場合は、通常の賃金の50%以上(時間外労働が月60時間を超えるときは75%以上)の割増率で計算した割増賃金を支払う必要があるのです。

例えば、時給1000円で所定労働時間が9時から18時まで(休憩1時間)の従業員の場合、支払わなければならない賃金は以下のとおりになります(時間外労働が月60時間以内の場合)。

 

▶参考:時給1000円で所定労働時間が9時から18時まで(休憩1時間)の従業員の場合の割増賃金について

時給1000円で所定労働時間が9時から18時まで(休憩1時間)の従業員の場合の割増賃金について

 

(2)18歳未満の労働者に深夜労働をさせることはできない

事業者は、交替制で勤務する満16歳以上の男性を除いて、満18歳に満たない労働者に深夜労働をさせることはできません(労働基準法61条1項)。

 

(3)産前産後の労働者は深夜労働を拒否することができる

事業者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性が請求した場合は、その労働者に深夜労働をさせることはできません(労働基準法66条3項)。

 

7,残業時間は何分から?労働時間は1分単位で管理する必要がある

労働基準法では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなくてはならない」と定められています(労働基準法24条1項)。これを、賃金全額払いの原則といいます。

労働時間を15分単位や30分単位で管理して端数を切り捨てることは、この「賃金全額払いの原則」に反するため、原則として違法です。時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金の対象となる時間数は、原則として端数を切り捨てずに、1分単位で計算しなければなりません。

 

(1)割増賃金の時間数は原則として1分から数える

時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金も賃金の一部なので、賃金全額払いの原則が適用されます。つまり、その対象時間も原則として1分単位で管理する必要があります。

従業員に1分でも時間外労働させた場合、事業者は、それに対する割増賃金を支給しなければなりません。これは労働基準法による義務であるため、就業規則や賃金規程で変更することはできません(労働基準法37条1項)。

 

(2)1か月毎に通算して計算する場合は例外が認められる

上記のとおり、時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数は、原則として1分単位での管理が必要です。ただし、1か月の割増賃金を通算して計算する場合は、その時間の端数処理について以下の取り扱いが厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発第150号)によって例外的に認められています。

 

▶参考情報:1か月の割増賃金を通算して計算する場合の端数処理の例外

1か月間の時間外労働の合計時間数の1時間未満の端数 端数処理の方法
30分未満 切り捨て
30分以上1時間未満 1時間に切り上げ

 

このように、1か月における時間外労働の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合には、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げて扱うことができます。休日労働の時間数、深夜労働の時間数についても同様の処理が認められています。なお、常に切り捨てで計算する端数処理の方法は認められていませんので注意しましょう。

 

8,看護師の残業について

看護師の残業時間についても、ここまでご説明してきた労働基準法の規制が適用されます。看護師については、「早出残業」や「オンコール待機時間」「宿直勤務」などを残業時間と扱うべきかどうかをめぐってトラブルになる例も少なくありません。「早出残業」や「オンコール待機時間」を残業時間とは認めない裁判例も多いですが、以下では、残業時間であると認めて支払いを命じた最近の事例をご紹介します。

 

(1)看護師の早出残業が残業時間にあたるとされた例

 

さいたま地方裁判所判決令和4年7月29日

看護師が前時間帯勤務者からの申し送りの前にすべきとされた準備業務を始業後に始めたのでは間に合わず、早出残業していたと主張して、病院に残業代を請求した事案です。裁判所は、上長はこの看護師が始業前に準備業務をしていることを知っていたと考えられるがやめるよう指導した形跡がなく、黙示の指揮命令があったとして、病院に早出残業の残業代の支払いを命じました。

 

(2)オンコール待機の時間が残業時間にあたるとされた例

 

横浜地方裁判所判決令和3年2月18日(アルデバラン事件)

介護施設で勤務する看護師に緊急事態に備え、就業時間外や休日も当番制で携帯電話を常時もたせ、呼び出し時の駆けつけを義務付けていた事案です。裁判所は、16回に1回程度、実際に駆け付けがあり、当番時間中の待機場所の指定なく、外出も可能だとしても、当番時間中、労働からの解放が保障されていたといえないとしました。施設外での待機の時間も労働時間であるとして、1千万円超の支払を命じました。

 

9,管理職の残業時間について

管理職が、労働基準法上の管理監督者にあたる場合は、時間外労働や休日労働についての労働基準法による規制が適用されません(労働基準法41条2号)。そのため、管理監督者の残業時間には、法律上の上限はありませんし、時間外労働・休日労働の割増賃金も発生しません。

ただし、管理監督者についても健康管理のために、タイムカード等の客観的な方法により労働時間の状況を把握し、週40時間を超える労働時間が月80時間を超える場合は、医師による面接指導を行うことが事業者に義務付けられています(労働基準法66条の8、66条の8の3)。また、管理監督者についても深夜労働の割増賃金は発生します(▶参考:最高裁判所判決平成21年12月18日・ことぶき事件)。

なお、労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかは、①その労働者に実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責・権限が付与されていたか、②出退勤の自由があるなど、自身の裁量で労働時間を決めて勤務することが認められていたか、③給与等に照らし管理監督者にふさわしい待遇がなされていたかという点を総合的に考慮して判断されます(東京高等裁判所判決平成30年11月22日・コナミスポーツクラブ事件等)。社内で「管理職」として扱われていても、労働基準法における管理監督者にあたるとは限らないことに注意する必要があります。

 

10,どのような場合に法律違反になるのか?罰則はあるのか?

ここまで、残業についての労働基準法上のルールを説明してきましたが、労働基準法には、それぞれの規定に違反した場合の罰則も定められています。具体的に見ていきましょう。

 

(1)時間外労働をさせたことについての労働基準法違反

事業者が、従業員の過半数代表者との間で36協定を締結して労働基準監督署長に提出することなく、従業員に時間外労働をさせた場合は労働基準法32条違反になります。この場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。

また、36協定を提出していても、前述のとおり、時間外労働には法律上の上限があります。この上限を超えて残業させると労働基準法32条、36条6項違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。

 

(2)割増賃金を1分単位で管理することについての法律違反

時間外労働の時間数を1分単位で管理せず、15分や30分単位で管理して端数を切り捨てている場合、「賃金全額払いの原則」を定めた労働基準法24条1項の違反になります。この場合、30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。

 

(3)割増賃金の支払いについての法律違反

従業員に時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合は、それぞれ所定の割増率によって増額された賃金を払う必要があります(労働基準法37条1項)。これに違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。

 

このように、労働基準法違反には懲役や罰金等の罰則が定められていますが、基本的には、労働基準法違反が発覚すると、まず労働基準監督署による調査が行われます。その結果、違反が認められた場合は、労働基準監督署から是正勧告が行われ、会社がこの是正勧告に従わない場合に、刑事事件として立件されて罰則を受けることになります。是正勧告を受けた場合は、速やかに適切な対応をする必要があります。

 

▶参考情報:労働基準法に違反した場合にどうなるかについては以下の記事で詳しく説明していますのでご参照ください。

労働基準法違反とは?罰則や企業名公表制度について事例付きで解説

 

11,残業や残業時間に関して弁護士に相談したい方はこちら(使用者側の相談のみ)

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所では、事業者側の立場にたって、残業に関する従業員との紛争予防やトラブル解決について専門的なサポートを提供してきました。以下では咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。

 

(1)残業代請求に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、従業員から未払い残業代を請求されたときの交渉や訴訟に発展した場合の対応等のご依頼を承っています。

未払い残業代に関するトラブルは、解決までに時間がかかればかかるほど事業者側の負担が大きくなることが通常です。従業員や退職者から請求を受けたときは、できるだけ早い段階で弁護士にご相談いただき、訴訟になる前に解決してしまうことが、事業者にとって利益になる場合がほとんどです。(▶参考情報:未払い残業代を請求されたら?従業員への企業側の反論方法を弁護士が解説

咲くやこの花法律事務所は、労働問題の専門家として残業代に関する交渉や訴訟の対応に豊富な実績があります。お困りの場合は咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

▶参考情報:未払い残業代トラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決実績の一部を以下で紹介していますのでご参照ください。

退職者から残業代請求された企業から相談を受け、約480万円の請求を3分の1以下に減額できた成功事例

退職した従業員による残業代未払い請求のケースで、支払金額を請求額の半額程度に減額に成功した事例

 

(2)残業時間の管理に関するご相談

従業員の残業時間を正しく把握することは労務管理の基本です。また、時間外労働、休日労働については36協定の届出を適切に行うことも非常に重要です。

咲くやこの花法律事務所では、これらの人事労務のテーマについて事業者からのご相談を多くお受けしてきました。残業時間の管理等に関してお困りの方は、咲くやこの花法律事務所の人事労務に精通した弁護士にご相談ください。

 

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(3)顧問弁護士サービスのご案内

咲くやこの花法律事務所では、事業者の人事労務全般をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しています。

残業時間の管理や残業代の支払いについては、労使協定や就業規則、雇用契約書等を適切に整備しておくことが重要です。従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも、顧問弁護士のサポートを受けながら、日頃から労務管理体制を整備していきましょう。また、顧問弁護士がいれば、トラブルが発生してしまったときも、初期段階で弁護士に相談して専門的な助言を受けることができます。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。

 

 

(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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12,まとめ

この記事では、労働基準法における残業や時間外労働のルールについて解説しました。

事業者が従業員に時間外労働をさせるには、事前に従業員の過半数代表との間で36協定を締結して労働基準監督署長に届け出ることが必要です。時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。ただし、特別条項付きの36協定を結んだ場合は、この上限を超えることができます(ただしそれにも上限があります)。

また、従業員に時間外労働をさせた場合は、その時間について割増賃金の支払いが必要です。この計算にあたって、時間外労働の時間数は1分単位で管理しなければなりません。

このほかにも時間外労働については労働基準法によって様々なルールが定められています。労働時間の管理や残業代の支払いが正しくできていないと、従業員との間でトラブルに発展して事業者にとって大きな負担が生じるおそれがあります。

咲くやこの花法律事務所では、人事労務の分野で多くの事業者に対して専門的なサポートを提供しています。残業時間や残業代に関するお困りごとがありましたら、咲くやこの花法律事務所の弁護士にぜひご相談ください。

 

13,【関連】残業など労働基準法に関するその他のお役立ち記事

この記事では、「労働基準法における残業とは?残業時間の上限など時間外労働のルールを解説」について、わかりやすく解説しました。労働基準法には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する労働基準法のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

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労働条件の明示義務とは?労働基準法15条の明示事項やルール改正を解説

【2024年最新版】労働基準法の改正の一覧!年別に詳しく解説

労働基準法施行規則とは?2024年4月の改正についても詳しく解説

 

記事更新日:2024年7月17日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    著者:弁護士 西川 暢春
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