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アルバイトやパートも労働基準法の適用あり!労働時間や有給などルールを解説

アルバイトやパートも労働基準法の適用あり!労働時間や有給などルールを解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
労働基準法におけるアルバイトやパート社員に関する雇用のルールについて正しく理解できていますか?

労働基準法は労働者の保護を目的とした法律であり、正社員のみならず、アルバイトやパート社員などの非正規労働者にも適用されます。事業者はアルバイトやパート社員の雇用についても労働基準法を遵守しなければいけません。

しかし、なかには「アルバイトなら割増賃金を支払わなくていい」「パート社員に有給休暇はない」など、ルールを勘違いしているケースも見られます。

この記事では、労働基準法におけるアルバイトやパート社員の労働時間、有給休暇、解雇、割増賃金などのルールをご説明します。

労働基準法におけるルールを勘違いしていたために、アルバイトやパート社員とトラブルになったり、気付かないうちに労働基準法に違反してしまっていたということがないように、ルールを正しく理解することが大切です。

この記事を最後まで読めば、労働基準法におけるアルバイト・パート社員に関するルールを詳しく知ることができます。それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

労働基準法に沿った労務管理ができていないと、アルバイト・パート社員との間で労使トラブル・訴訟トラブルに発展するおそれもあります。また、労働基準法違反は労働基準監督署からの是正勧告の対象となり、刑事罰の対象にもなります。

咲くやこの花法律事務所では、アルバイト・パートの労務管理に関するご相談を事業者の立場に立ってお受けしています。アルバイト・パートの就業規則や雇用契約書の整備、その他労務管理に不安がある方はぜひご相談ください。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の労働問題・労務分野における解決実績の一部を以下で紹介しています。ご参照ください。

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1,アルバイト・パートとは?

アルバイト・パートとは?

アルバイトやパートは、法律に正式な定義がある用語ではありません。一般的には、パート社員とは、正社員よりも労働時間が短い従業員を指すことが多く、アルバイトとは正規雇用されていない学生や若者を指すことが多いです。アルバイト・パートと呼ばれる労働者は、通常の労働者(正社員)に比べて1週間の所定労働時間が短いことが多く、その場合は、パートタイム・有期雇用労働法で定義されている「短時間労働者」にあたります。

また、アルバイト・パート社員の雇用は雇用契約の期間の定めのない無期雇用と、1年間などの雇用期間を定めて雇用する有期雇用に分かれています。令和3年に厚生労働省が実施した「パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、「無期雇用パートタイムを雇用している」企業は51.4%、「有期雇用パートタイムを雇用している」企業は27.1%と、無期雇用パートタイムを雇用する企業の方が多くなっています。

 

 

2,労働基準法におけるアルバイト・パートに関する規定

労働基準法は「労働者」に適用される法律です。そして、労働基準法第9条により、「労働者」とは以下の通り定義されています。正社員だけでなく、アルバイトやパート社員も「労働者」に含まれ、労働基準法が適用されます。

 

▶参考情報:労働基準法第9条

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

まれに「アルバイトだから割増賃金を支払わなくてもいい」「パート社員に有給休暇はない」といった勘違いをしているケースも見られますが、これらは誤りです。アルバイトやパート社員には適用されないと誤解されがちな条文には、以下のようなものがあります。

 

(1)労働条件の明示(労働基準法第15条)

労働基準法第15条により、従業員を採用する際は、事業者は賃金、労働時間その他の労働条件を明示することが義務付けられています。アルバイトやパート社員を採用する際も労働条件を明示する必要があります。

 

▶参考情報:労働基準法第15条の労働条件明示義務については以下をご参照ください。

労働条件の明示義務とは?労働基準法15条の明示事項やルール改正を解説

 

(2)労働時間(労働基準法第32条)

事業者は、従業員を1日8時間、週40時間を超えて就業させてはならないとされています。ただし、事業者が従業員代表との間で36協定と呼ばれる労使協定を締結したときは、この時間を超えて就業させることができます。アルバイトやパート社員にも同様のルールが適用されます。

 

▶参考情報:労働時間に関するルールについては以下をご参照ください。

労働時間とは?労働基準法など5つのルールをわかりやすく解説

 

(3)割増賃金(労働基準法第37条)

1日8時間、週40時間を超えて就業させた場合、事業者はアルバイトやパート社員であっても時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。また、休日労働については休日労働の割増賃金、深夜労働については深夜労働の割増賃金を支払う義務があります。

 

 

(4)有給休暇(労働基準法第39条)

アルバイトやパート社員であっても、条件を満たせば有給休暇が付与されます。詳しくは「3,アルバイトやパートにも有給休暇はある」で解説します。

 

(5)休憩(労働基準法第34条)

アルバイトやパート社員であっても、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与える必要があります。

 

▶参考情報:休憩時間に関する労働基準法のルールは以下で解説していますのでご参照ください。

労働基準法34条の休憩時間!必要な時間など法律上のルールを解説

 

(6)減給(労働基準法第91条)

懲戒処分としての減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また総額がその賃金支払期における賃金の総額の10の1を超えてはならないという制限があります。

 

▶参考情報:懲戒処分としての減給については以下で解説していますのでご参照ください。

減給とは?法律上の限度額は?労働基準法上の計算方法などを解説

 

(7)解雇予告(労働基準法第20条)

アルバイトやパート社員であっても、解雇する際は、原則として30日前の予告、または解雇予告手当の支払いが必要です。ただし、日雇いの場合や2か月以内の雇用の場合、季節的業務で4か月以内の雇用の場合は、この義務の対象外となることがあります(労働基準法第21条)。

 

▶参考情報:労働基準法第20条についてや、解雇予告、解雇夜予告手当については、以下で解説していますのでご参照ください。

労働基準法第20条とは?条文と内容についてわかりやすく解説

解雇予告とは?わかりやすく徹底解説

解雇予告手当とは?計算方法、支払日、所得税、源泉徴収票の処理を解説

 

また、解雇については、単に予告すればよいというわけではなく、労働契約法により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とされることに注意が必要です(労働契約法第16条)。この点もアルバイトやパート社員にも適用されます。

 

▶参考情報:どのような場合に正当な解雇理由といえるかについて以下で解説していますのでご参照ください。

正当な解雇理由とは?15個の理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説

 

3,アルバイトやパートにも有給休暇はある

事業者が有給休暇を与えなければならないのは正社員だけではありません。アルバイトやパート社員であっても、以下の2つの条件を満たせば、有給休暇の権利が発生します。

 

  • 6か月以上継続勤務していること
  • 初年度は入社後6か月間、その後は直近1年間の出勤率が8割以上であること

 

ただし、週の所定労働日数が4日以下のアルバイトやパート社員の場合は、正社員とは異なり、所定労働日数に応じて、正社員よりも少ない下の表に記載した日数の年次有給休暇が付与されます。

週以外の期間で所定労働日数が定められている、1年間の所定労働日数が216日以下のアルバイトやパート社員も同様です。これを「比例付与」といい、労働基準法施行規則第24条の3第3項で規定されています。

 

▶参考:週の所定労働日数が4日以下のアルバイトやパート社員の有給休暇の日数

週所定労働日数 1年間の所定労働日数 雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
4日 169日~216日 7 8 9 10 12 13 16
3日 121日~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73日~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48日~72日 1 2 2 2 3 3 3

 

▶参考情報;有給休暇については下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

有給休暇とは?労働基準法第39条に基づく付与日数や繰越のルールなどを解説

 

▶参考情報:情報労働基準法施行規則第24条の3第3項

法第三十九条第三項の通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数は、同項第一号に掲げる労働者にあつては次の表の上欄の週所定労働日数の区分に応じ、同項第二号に掲げる労働者にあつては同表の中欄の一年間の所定労働日数の区分に応じて、それぞれ同表の下欄に雇入れの日から起算した継続勤務期間の区分ごとに定める日数とする。

週所定労働日数 一年間の
所定労働日数
雇入れの日から起算した継続勤務期間
六箇月 一年六箇月 二年六箇月 三年六箇月 四年六箇月 五年六箇月 六年六箇月
以上
四日 百六十九日から二百十六日まで 七日 八日 九日 十日 十二日 十三日 十五日
三日 百二十一日から百六十八日まで 五日 六日 六日 八日 九日 十日 十一日
二日 七十三日から百二十日まで 三日 四日 四日 五日 六日 六日 七日
一日 四十八日から七十二日まで 一日 二日 二日 二日 三日 三日 三日

・参照元:「労働基準法施行規則」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

4,アルバイトやパート社員の休憩時間

休憩時間に関するルールは、労働基準法第34条で定められており、事業者は労働者に対し、「労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えること」が義務付けられています。この規定もアルバイトやパート社員を含む全ての労働者が対象となります。

よって、アルバイト・パートについても、正社員と同様に、労働時間が6時間を1分でも超えれば休憩時間を与える必要があります。

一方、労働時間が6時間以内であれば法的には休憩時間を与える必要はありません。例えば、始業が9時で終業が15時の場合、昼食のためのお昼休憩を与えることが通常ですが、6時間の労働になるため、法律上はお昼休憩を与えなくても違法ではありません。

 

▶参考情報:労働基準法における休憩時間のルールについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

労働基準法34条の休憩時間!必要な時間など法律上のルールを解説

 

5,高校生のアルバイトについては時間の制限がある

18歳未満の労働者を22時~翌朝5時までの深夜時間帯に働かせることは、労働基準法第61条により、原則として禁止されています。違反した場合は使用者に対し6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第119条1項)。

そのため、一般に、高校生のアルバイトは、22時以降に就業させることができないと理解されています。ただし、厳密には、高校生であるかどうかではなく、年齢で判断されるため、高校生でも18歳以上である場合は、上記の制限はありません。

 

▶参考情報:労働基準法第61条

使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。

 

▶参考情報:労働基準法第119条1項

次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第六項、第三十七条、第三十九条(第七項を除く。)、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

6,バイトやパートの掛け持ちの場合は労働時間管理に注意が必要

アルバイトやパート社員が勤務先を掛け持ちしている場合は労働時間管理に注意が必要です。以下で解説したいと思います。

まず、法定労働時間については、アルバイトやパート社員についても、正社員と同様に原則として1日8時間、週40時間と定められています(労働基準法第32条)。これを超えて就業させる場合は、36協定の締結と時間外労働割増賃金の支払いが必要です。

そして、バイトやパートの掛け持ちの場合は、時間外労働割増賃金の計算にあたって、掛け持ちしているバイトやパートの労働時間を通算する必要があります。労働基準法38条にこのことが定められています。具体的な考え方は以下の通りです。

まず、自社と掛け持ち先の他社の所定労働時間を通算します。その結果、法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後からその労働者を採用した事業者において、法定労働時間を超える部分が時間外労働になります。

例えば、自社のアルバイトの所定労働時間が1日5時間、掛け持ち先の他社の所定労働時間が1日4時間の場合、合計9時間となって8時間を超えます。この場合に、そのアルバイトを自社が先に雇用したのであれば、掛け持ち先の他社が1時間分の時間外労働割増賃金の支払義務を負います。一方、同様に、自社のアルバイトの所定労働時間が1日5時間、掛け持ち先の他社の所定労働時間が1日4時間の場合でも、そのアルバイトを自社が後に雇用したのであれば、自社が1時間分の時間外労働割増賃金の支払義務を負います。

そして、掛け持ち開始後は、上記のような所定労働時間の通算に加えて、自社における残業と掛け持ち先における残業を、その残業が行われた順に通算して、自社における法定労働時間を超える部分があれば、その超える部分も、時間外労働になります。

例えば、自社での所定労働時間が1日5時間、掛け持ち先での所定労働時間が1日2時間の場合、労働者が1日のうち、まず掛け持ち先で1時間の残業をし、その後、自社で1時間の残業をしたときは、合計の労働時間が1日9時間となります。この場合、後から行われた自社における1時間分の残業が時間外労働となり、自社が1時間分の時間外労働割増賃金の支払義務を負うことになります。

このように、掛け持ち先の労働時間も踏まえて割増賃金の計算をする必要があるため、アルバイトやパートについて掛け持ちの勤務先があるかどうかを把握し、他にも勤務先がある場合はその労働時間について申告させ、適切に把握しておく必要があります。

 

 

▶参考情報:労働基準法第32条

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 

▶参考情報:労働基準法第38条1項

労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

7,休むときに代わりを探すよう頼むのは違法?

アルバイトやパート従業員が有給を申請したり、急な病気などで休む際に、「休むなら代わりを探してほしい」と頼むのは違法なのでしょうか?

事業者には従業員に対し、業務に関する指示命令を出す権利(業務命令権)があります。ただし、業務命令はなんでも認められているわけではなく、労働契約法第3条5項において業務命令権の濫用は禁止されています。

そもそも代替要員を探すのは事業者の責任であることからしても、休む際に代替要員を従業員自身で確保するよう強制したり、代替人員が見つからなかったからといって休むことを認めないといった対応は業務命令権の濫用と判断される可能性があります。

 

▶参考情報:労働契約法第3条5項

労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

・参照元:「労働契約法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

一方で、アルバイトやパート社員は、所定労働日は、休暇の権利がない限り、出勤する義務を負い、自由に休めるわけではないことにも注意が必要です。

例えば有給休暇の権利がまだ発生していない場合や、有給休暇を使い切っている場合に、所定労働日を欠勤することについては、事業者の承認が必要です。また、有給休暇の申請については、申請があった日に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、事業者は有給休暇取得日を他の日に変更することを求めることができます(労働基準法39条5項)。これを時季変更権といいます。時季変更権については、以下で解説していますので参照してください。

 

▶参考情報:有給休暇の時季変更権とは?わかりやすく解説

 

8,当日キャンセル(シフトカット)をする場合は休業手当を支払う必要がある

事業者側の都合で従業員のシフトを減らす場合(シフトカット)、事業者はその日の賃金を支払う必要があるのでしょうか?

 

(1)キャンセル(シフトカット)について

この点については、就業規則雇用契約書において一旦シフトが決定した後も、事業者側の都合でこれを変更することができる権限が事業者に与えられている場合は、ルールにのっとってシフトを変更すれば、事業者は休業手当等の支払義務を負わないことが原則です。

一方、そのようなシフト変更権限が事業者にない場合は、従業員が請求権を放棄しない限り、その日の賃金の全額を支払う必要があることが通常です。この点に関連して、労働基準法は、賃金の6割分の休業手当支払義務を定めています(労働基準法第26条)。これはアルバイトやパート社員についても適用される条文です。しかし、多くの場合、事業者はこの6割分の休業手当を支払えば足りるわけではなく、賃金全額の支払義務を負います。民法536条2項により、事業者の責めに帰すべき事由によって従業員が就業できなくなったときは、事業者は賃金の支払を拒むことができないとされているためです。

 

(2)事業者側都合での早上がりについて

事業者側都合での勤務を当初の予定より早く切り上げさせる「早上がり」についても、上記のシフトカットと同じことがあてはまります。就業規則や雇用契約書において一旦シフトが決定した後も、事業者側の都合でこれを短縮することができる権限が事業者に与えられている場合は、ルールにのっとってシフトを短縮すれば、事業者は休業手当等の支払義務を負わないことが原則です。一方、そのようなシフト変更権限が事業者にない場合は、従業員が請求権を放棄しない限り、早上がりした時間について賃金の全額を支払う必要があることが通常です。

 

▶参考情報:労働基準法第26条

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

▶参考情報:民法第536条2項

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

・参照元:「民法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

9,パート社員にも忌引き休暇を与える必要がある?

正社員、パート社員などの雇用形態にかかわらず、労働基準法上、事業者には忌引き休暇を与える義務はありません。忌引きの場面で有給休暇等により対応させても違法ではありません。

ただし、就業規則において、忌引き休暇を定めたときは、忌引き休暇を与えることが、事業者の義務になります。そして、就業規則で忌引き休暇を定める場合に、正社員とアルバイト・パート従業員で取扱いに差異がある場合は、同一労働同一賃金ルールに注意が必要です。正社員とアルバイト・パート社員の間で、忌引き休暇の有無や日数、賃金支給の有無等について差異を設けることが直ちに違法となるわけではありませんが、差異が不合理なものであれば違法になります(パートタイム・有期雇用労働法8条)。

 

▶参考情報:同一労働同一賃金ルールについては以下をご参照ください。

同一労働同一賃金とは?企業側で必要な対応について解説【2020年施行】

 

10,アルバイトが休めないのは違法

労働基準法第35条では、労働者に対して毎週少なくとも1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないと定められています。この「労働者」にはアルバイトやパート社員も含まれているため、アルバイトであっても休ませないのは違法です。違反した場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。

ただし、事業者が従業員代表者との間で36協定と呼ばれる労使協定を締結した場合は、休日であっても36協定で定めた範囲内で就業させることが可能です。

 

▶参考情報:休日に関する労働基準法上のルールについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

労働基準法で定められた休日とは?年間休日の日数は最低何日必要か?

 

▶参考情報:労働基準法第35条

・使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

11,パート・アルバイトが辞めるときのルール

次に、パート・アルバイトが辞めるときのルールについてご説明します。退職するときは、退職願を提出したうえで、事業者の承認を得ることによって、退職することが原則ですが、事業者の承認が得られない場合でも、従業員は以下のルールにより退職することができます。

 

(1)無期雇用のアルバイト・パート社員の場合

無期雇用のアルバイトやパート社員の退職については以下の民法第627条1項のルールが適用されます。事業者の承認を得ずに退職する場合、退職の2週間前に事業者に通知する必要があります。

 

▶参考情報:民法第627条1項

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

・参照元:「民法」の条文はこちら( e-Gov法令検索)

 

(2)有期雇用のアルバイトやパート社員の場合

1年契約などの期間を定めて雇用される有期雇用のアルバイトやパート社員については、「やむを得ない事由」がなければ契約期間の途中に事業者の承認を得ずに退職することができません(民法第628条)。ただし、労働基準法附則第137条により、契約期間の初日から1年経過後は、事業者に申し出ることによりいつでも自由に退職できるとする暫定措置が設けられています。

 

▶参考情報:退職についてのルールは、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

労働基準法に定められた退職のルールについて詳しく解説

 

12,パートにも健康診断を受けさせる義務はあるか?

事業者は常時使用する労働者については、年に一度定期健康診断を実施する必要があります(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第44条)。正規・非正規問わず、「常時使用する労働者」であれば対象となります。

 

「常時使用する労働者」とは、具体的には以下の条件を満たす労働者を指します(平成19年10月1日基発第1001016号)。

  • ① 無期契約労働者、あるいは1年以上の長さで雇用契約をしているか、既に1年以上引き続いて雇用している者。
  • ② 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上である者。

 

上記の条件を満たす場合、パートやアルバイトにも健康診断を受けさせる義務が生じます。なお、「② 1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上である者。」の条件を満たさない場合でも、労働時間数が一週間の所定労働時間の概ね2分の 1 以上になる労働者には、健康診断を実施することが望ましいとされています。

なお、健康診断の費用については、健康診断の実施は事業者の義務であることから、事業者が負担すべきものとされています。

 

▶参考:労働安全衛生法第66条

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

・参照元:「労働安全衛生法」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

▶参考:労働安全衛生規則第44条

事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 既往歴及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰かくたん検査
五 血圧の測定
六 貧血検査
七 肝機能検査
八 血中脂質検査
九 血糖検査
十 尿検査
十一 心電図検査

・参照元:「労働安全衛生規則」の条文はこちら(e-Gov法令検索)

 

13,パート・アルバイトにも社会保険に加入させる必要はあるか?

社会保険の加入は正社員のみと勘違いされることも多いですが、パート・アルバイトでも、下記の①か②のどちらかの条件を満たす場合は社会保険の加入義務があります。

 

  • ① 一週間の所定労働時間あるいは1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3以上の労働者であること
  • ② 以下の条件を満たす一週間の所定労働時間あるいは1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3未満の労働者
    ・週の所定労働時間が20時間以上
    ・月額賃金が8.8万円以上
    ・2か月を超える雇用の見込みがある
    ・学生ではない(休学中や夜間学生は加入対象)
    ・従業員数が101~500人の事業場に勤務している(※2024年10月からは従業員数が51~100人の事業場に勤務する従業員も対象になります)

 

加入義務の対象になる場合、たとえ労働者が社会保険の加入を拒否しても必ず加入させる必要があります。違反した場合、事業主に6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科せられるおそれがあります(健康保険法第208条、厚生年金保険法102条)。

また、年金事務所の立ち入り検査等により未加入であることが発覚し、強制的に加入手続きを取られた場合は、過去2年間の未納分の社会保険料を徴収されるケースもあります。

 

14,労働基準法に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所ではアルバイトやパート社員の労務管理に関するご相談をお受けしています。以下では、咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。

 

(1)アルバイト・パート社員の労務管理に関するご相談

アルバイト・パート社員については、無期転換ルールや同一労働同一賃金ルール、雇止め法理への対応など、正社員の労務管理とは異なる取り組みが必要です。また、就業規則や雇用契約書の整備にあたっても、正社員とは異なる留意点があります。咲くやこの花法律事務所では、以下のご相談を事業者側の立場で承っています。

 

  • アルバイト・パート社員の労務管理に関するご相談
  • アルバイト・パート社員との労務トラブルに関するご相談
  • アルバイト・パート社員の解雇、雇止めに関するご相談
  • 就業規則や雇用契約書の整備に関するご相談

 

咲くやこの花法律事務所の人事労務分野に関する弁護士への相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(2)顧問弁護士サービス

咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに人事労務分野全般をサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。人事労務分野ではトラブルが起こってから対応するのではなく、日頃から整備してトラブルを予防していくことが大切です。日頃から顧問弁護士によるサポートを受けることで、労使トラブルの予防やトラブル発生時の早期解決を実現することができます。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下で詳しく説明していますのでご覧ください。

 

 

(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームより受け付けております。お気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

 

15,まとめ

この記事では労働基準法におけるアルバイト・パート社員の雇用に関するルールについてご説明しました。

労働時間、休日・休憩時間、解雇については、アルバイトやパート社員にも正社員と同じルールが適用されます。一方で、有給休暇や有期雇用の場合の退職については、正社員とは異なるルールが定められています。気付かないうちに法令違反をしてしまっていたということがないよう、ルールをきちんと把握して対応することが大切です。

咲くやこの花法律事務所でも、アルバイトやパート社員の労務管理について多くの事業者からご相談をお受けして、サポートしてきた実績があります。お困りの際は早めにご相談いただきますようにお願い致します。

 

16,【関連】労働基準法に関するその他のお役立ち記事

この記事では、「アルバイトやパートも労働基準法の適用あり!労働時間や有給などルールを解説」について、わかりやすく解説しました。労働基準法には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する労働基準法のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

労働基準法における残業とは?残業時間の上限など時間外労働のルールを解説

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労働基準法による解雇のルールとは?条文や解雇が認められる理由を解説

労働基準法施行規則とは?2024年4月の改正についても詳しく解説

【2024年最新版】労働基準法の改正の一覧!年別に詳しく解説

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記事更新日:2024年11月26日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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