解雇予告手当の計算については、いざ計算するとなると迷うことも多いのではないでしょうか?
計算を間違っていたり、金額の根拠に関する本人への説明があいまいだったりしたことが原因で、解雇した従業員とのトラブルに発展するケースが増えています。
この記事でご説明するルールさえきちんとおさえておけば正しい解雇予告手当の計算が可能です。
▶【参考情報】解雇トラブルに関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。
▶【関連情報】解雇予告手当に関連して、こちらも合わせて確認してください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,解雇予告手当とは?
「解雇予告手当」とは、従業員に対して解雇日の30日以上前に解雇を予告することなしに、従業員を解雇する場合に、労働基準法により支払いが義務付けられている金銭をいいます。従業員を解雇する場合は、解雇日の30日前に解雇を予告することが原則ですが、この予告をせずに従業員を解雇する場合は、解雇予告手当の支払いが義務付けられています。
例えば、解雇を伝えた当日に解雇する場合(「即日解雇」といいます)は、その従業員の平均賃金の「30日分」を支払わなければなりません。
また、例えば、解雇日の10日前に解雇を予告した場合は、30日から10日を差し引くことができ、平均賃金の「20日分」を支払えばよいことになっています。
この解雇予告手当のルールを整理すると以下の通りです。
(1)解雇予告手当のルールのまとめ
解雇を言い渡す日 | 解雇予告手当の支払額 |
解雇日の当日に解雇を言い渡す場合 | 平均賃金の30日分を支払う |
解雇日の1日前から29日前に解雇を言い渡す場合 | 予告期間が30日に足りなかった日数分の平均賃金を支払う |
解雇日の30日以上前に解雇を言い渡す場合 | 支払う必要がない |
このように解雇を言い渡す日によって、「解雇予告手当の支払いが必要な日数が異なること」をおさえておきましょう。なお、懲戒解雇の場合で、「労働基準監督署の除外認定」という制度を利用する場合、解雇予告手当を支払う必要はありません。
▶参考情報:懲戒解雇の場合の「労働基準監督署の除外認定」制度について
上記でご紹介した、懲戒解雇の場合で、「労働基準監督署の除外認定」という制度を利用する場合の詳しい解説については、以下の記事で基準や手続きなど詳しく解説していますのでご参照ください。
2,解雇予告手当の計算方法
次に、「解雇予告手当の計算方法」についてご説明したいと思います。
解雇予告手当は、「平均賃金」に「予告期間が30日に足りなかった日数」をかけることで計算することができます。
そのため、「平均賃金」の計算方法が重要になります。解雇予告手当を計算する際に必要な「平均賃金」を計算するためには、次の4つのステップを順番に行う必要があります。
- Step1:解雇日の直前の賃金締切日から3か月の間に対応する賃金の総額を計算します。
- Step2:解雇日の直前の賃金締切日から3か月間の総日数を計算します。
- Step3:「Step1で計算した賃金の総額」÷「Step2で計算した総日数」を計算します。
- Step4:「Step3の計算結果」が最低額を下回らないかを確認します。
以下で順番に見ていきましょう。
Step1:
解雇日の直前の賃金締切日から3か月の間に対応する賃金の総額を計算します。
例えば、毎月末締めの翌月10日払いという給与体系の場合、5月10日に解雇したケースでは、解雇日の直前の賃金締切日は4月末日になります。
そこで、そこからさかのぼって3か月間にあたる2月1日から4月30日までの期間について、解雇した従業員の賃金の総額を計算します。
ここでいう「賃金の総額」とは、源泉所得税や社会保険料を控除する前の賃金の3か月分の合計額です。
ただし、この3か月の間に支払われた賃金であっても、以下のいずれかにあたるものは、賃金の総額の計算には入れないこととなっています。
「賃金の総額」の計算から除外される賃金
- 1.労災により休業中の期間に対応する給与
- 2.産休、育休、介護休暇中の期間に対応する給与
- 3.会社都合により休業中の期間に対応する給与
- 4.試用期間に対応する給与
- 5.賞与などの臨時に支払われた賃金
まずは、これらの点を踏まえて、解雇日の直前の賃金締切日から3か月の間に対応する賃金の総額を正確に計算することが必要です。
Step2:
解雇日の直前の賃金締切日から3か月間の総日数を計算します。
次に、解雇日の直前の賃金締切日から3か月間の総日数を計算します。
前述の例では、「2月1日から4月30日」までの総日数を計算します。うるう年でない場合、「2月が28日」、「3月が31日」、「4月が30日」ですので、合計で「89日」になります。
ただし、この3か月間に以下のいずれかに該当する期間がある場合は、その期間の日数は総日数には入れないことになっています。
「総日数」から除外される日数
- 1.労災により休業中の期間の日数
- 2.産休、育休、介護休暇中の期間の日数
- 3.会社都合により休業中の期間の日数
- 4.試用期間中の日数
Step3:
「Step1で計算した賃金の総額」÷「Step2で計算した総日数」を計算します。
次に、割り算をして、「Step1の計算により得られた賃金の総額」÷「Step2の計算により得られた総日数」を計算します。
Step4:
「Step3の計算結果」が最低額を下回らないかを確認します。
最後にStep3の計算結果が法律で定められている「平均賃金の最低額」を下回らないかどうかの確認が必要です。なお、この「平均賃金の最低額」のルールは時給制の従業員、日給制の従業員、出来高払制その他請負制の従業員にのみ適用され、月給制の従業員には適用されません。
この平均賃金の最低額は、以下の計算式で計算することができます。
平均賃金の最低額の計算方法
平均賃金の最低額=「Step1の計算により得られた賃金の総額」÷「解雇日の直前の賃金締切日から3か月間の解雇した従業員の出勤日数」×0.6
平均賃金の計算結果の解説
Step3で計算した金額が「Step4」で計算した金額を上回るときは、「Step3」で計算した金額が解雇予告手当における「平均賃金」となります。
また、Step3で計算した金額が「Step4」で計算した金額を下回るときは、「Step4」で計算した金額が解雇予告手当における「平均賃金」となります。
以上により、計算した「平均賃金」に日数をかけると解雇予告手当の金額が計算できます。解雇予告手当の計算を正確に行うことは、解雇した従業員との間の無用なトラブルを避けるためにも重要ですのでおさえておきましょう。
3,解雇予告手当の端数処理
解雇予告手当の計算結果で、小数点以下の端数が出た場合は、四捨五入してよいことになっています。この点は、労働省(当時)の通達で定められています(昭和63年3月14日基発第150号)。
4,解雇予告手当と所得税
では、解雇予告手当について所得税の源泉徴収は必要なのでしょうか?
結論からいうと、解雇予告手当の支払いの際は、解雇予告手当の金額の「20.42%」に当たる額を源泉徴収します。
解雇予告手当については「退職所得」として「源泉徴収をすること」が義務付けられているためです。
なお、厳密には、会社から本人に「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求めて、提出された場合はより正確な税金の計算をするのが正しいです。
しかし、実際には、解雇予告手当を支払う場面では、本人から「退職所得の受給に関する申告書」が提出されないケースがほとんどですので、「20.42%」を源泉徴収する処理で問題はありません。
5,解雇予告手当の支払日
解雇予告手当の支払日については、厚生労働省の通達で「解雇の申し渡しと同時に支払うべきである」とされています。
具体的には以下の通りとなります。
(1)解雇予告手当の支払時期
解雇を言い渡す日 | 解雇予告手当の支払時期 |
解雇日の当日に解雇を言い渡す場合 | 解雇の日に支払う |
解雇日より前に解雇を言い渡す場合 | 解雇を言い渡した日に支払う |
上記が法律上のルールにはなりますが、現実には、解雇予告手当を最後の給与の支払と一緒に支払っているケースも少なくありませんし、そのような扱いで特段の問題は生じません。
ただし、解雇予告手当の支払が遅れると、解雇した従業員との間でトラブルが生じ、それが、不当解雇トラブルに発展することもありますので、注意が必要です。
6,解雇予告手当と源泉徴収票
解雇予告手当は退職所得にあたりますので、「退職所得の源泉徴収票」を作成し、退職後1か月以内に解雇した従業員に送付することが必要です。
書式や記載方法については以下のページを参照してください。
7,まとめ
今回は、解雇予告手当の計算方法と支払日、所得税の源泉徴収についてご説明しました。
解雇予告手当の手続きを正確に行うことは、解雇がトラブルに発展しないようにするためにも非常に重要ですのでおさえておきましょう。
8,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、解雇に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。
咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
▶成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例
9,解雇予告手当てに関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による、問題社員の解雇に関する企業向けサポート内容についてご説明したいと思います。
咲くやこの花法律事務所のサポート内容は以下の通りです
- (1)解雇予告通知、その他解雇の進め方についてのご相談
- (2)解雇や退職勧奨の際の面談の立ち会い
- (3)解雇後のトラブルに関する交渉、裁判
以下で順番に見ていきましょう。
(1)解雇予告通知、その他解雇の進め方についてのご相談
「咲くやこの花法律事務所」では、問題社員についての解雇予告通知、その他解雇の進め方についてのご相談を企業から常時お受けしています。
具体的には以下のような項目について、各企業からご相談をいただいています。
- 解雇予告通知書や解雇理由書の作成に関するご相談
- 解雇前の証拠収集に関するご相談
- 解雇した場合のリスクの程度に関するご相談
- 解雇の具体的な方法に関するご相談
- 懲戒解雇か普通解雇かの選択に関するご相談
- 即日解雇か予告解雇かの選択に関するご相談
- 解雇後の手続きに関するご相談
特に、事前に解雇した場合のリスクの程度を弁護士にご相談いただき、対策を練っておくことは非常に重要です。
自社でよく検討しているつもりでも、思わぬところに落とし穴があることが常ですので、必ず解雇前にご相談いただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の解雇問題に強い弁護士への相談料
- 初回相談料:30分5000円+税
(2)解雇や退職勧奨の際の面談の立ち会い
「咲くやこの花法律事務所」では、企業のご要望に応じて、解雇や退職勧奨の際の面談への立ち会いも行っております。
解雇の問題に精通した弁護士が立ち会うことで自信をもって解雇を進めることが可能になります。また、弁護士が面談内容を記録することにより、後で「言った、言わない」の問題になることを防ぐことができます。
咲くやこの花法律事務所の解雇問題に強い弁護士への相談料や立ち会い費用
- 初回相談料:30分5000円+税
- 弁護士による立ち会い:10万円程度~
(3)解雇後のトラブルに関する交渉、裁判
「咲くやこの花法律事務所」では、解雇した従業員とのトラブルに関する交渉や裁判のご依頼も常時承っています。
解雇した従業員が不当解雇であるとして復職を求めたり、会社に金銭を請求してくるという場面では、弁護士が従業員との交渉を会社に代わって行います。解雇トラブルに精通した弁護士が交渉にあたることで、御社に最大限有利な内容での解決が可能です。
また、解雇トラブルが裁判に発展してしまった場合においても、咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに精通した弁護士がこれまでの豊富な経験を生かしてベストな解決に導きます。
問題が深刻化する前のスピード相談がポイントです。解雇トラブルでお困りの方は、早めに「咲くやこの花法律事務所」までご相談下さい。
咲くやこの花法律事務所の解雇問題に強い弁護士への相談料や解雇トラブルの対応料金
- 初回相談料:30分5000円+税
- 解雇トラブルに関する交渉:20万円程度~
- 解雇トラブルに関する裁判:40万円程度~
10,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
解雇予告手当てに関する相談や解雇に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるサポート内容については「労働問題に強い弁護士への相談サービス」をご覧下さい。
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12,【関連情報】解雇予告手当に関するお役立ち記事一覧
今回の記事では、「解雇予告手当の計算方法、支払日、所得税、源泉徴収票の処理」についてご説明しました。
解雇予告手当てに関しては、今回ご紹介したように正しい知識を理解しておかなければならず、方法を誤ると重大なトラブルに発展したりなど、大きなトラブルにつながる可能性もあります。
そのため、それらのリスクを防ぐためには、今回ご紹介した「解雇予告手当の計算方法や支払日」は必ずおさえておきましょう。この他にも解雇予告手当に関して合わせて確認しておきたい解雇に関連するお役立ち情報を以下でまとめておきますので、合わせてご覧ください。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年2月14日