こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
会社による解雇が不当だとして従業員が会社を訴えるケースが増えています。では、どのような場合に、「不当解雇」となるのでしょうか?正当な解雇との違いはどういったところになるのでしょうか?
不当解雇とは、正当な理由のない解雇や、法律で解雇が禁止されている場面における解雇、就業規則の手続きを無視した解雇などをいいます。例えば、新卒採用した従業員について十分な指導をしないまま能力不足であるとして解雇したり、経営者の好き嫌いで従業員を解雇するなどといったケースは不当解雇の典型例です。
今回は、不当解雇と正当な解雇との違いをわかりやすく解説します。あわせて、不当解雇で訴えられた場合の会社側の対処のポイントや裁判での解決の実情についてもご説明します。この記事を最後まで読んでいただくことで、解雇が不当解雇になる条件を理解し、また、従業員から不当解雇であると言われてトラブルになったときの会社側の対応を万全なものにすることができるはずです。
それでは、見ていきましょう。
なお、解雇に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に詳しく解説していますのでこちらもあわせてご参照ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,不当解雇とは?
- 2,不当解雇になる条件とは?
- 3,労働基準法などへの違反で不当解雇になるケース
- 4,就業規則違反で不当解雇になるケース
- 5,裁判で不当解雇と判断されるとどうなるのか?
- 6,不当解雇と判断されたときに会社が支払う損害賠償額や慰謝料額について
- 7,会社が不当解雇で訴えられたときに弁護士に相談するタイミングについて
- 8,不当解雇裁判での会社の守り方
- 9,不当解雇トラブルに関する弁護士費用
- 10,不当解雇の事件に関する判例
- 11,労働者が不当解雇で会社を訴える場合の裁判の勝率
- 12,不当解雇の裁判で会社側が支払う解決金の相場
- 13,労働者側は不当解雇を労基署やハローワークに相談できる?
- 14,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
- 15,不当解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら
- 16,【関連情報】不当解雇に関する解雇のお役立ち記事一覧
1,不当解雇とは?
「不当解雇」とは、合理的な理由のない解雇や、法律で解雇が禁止されている場面における解雇、就業規則の手続きを無視した解雇などをいいます。裁判で「不当解雇である」と判断された場合は、解雇後も雇用契約が継続していることを判決で確認され、会社は解雇時にさかのぼって賃金の支払を命じられることが通常です。
日本では「不当解雇」かどうかを最終的に判断するのは裁判所です。そして、日本では、従業員の解雇は簡単には有効と認められません。そのため、会社が従業員を解雇した場合に、裁判所で「不当解雇」であると判断されるケースは多数に上っています。しかし、一方で、「不当解雇」にならない「正当な解雇」と認められるケースも当然多く存在します。
「不当解雇」と「正当な解雇」の区別をしっかり見極めることが重要です。
2,不当解雇になる条件とは?
不当解雇になるケースの中で一番多いのが、労働契約法により無効とされる解雇です。「労働契約法」の「第16条」という条文に次のように記載されています。
この条文は、おおまかに言えば、単に経営者が解雇すべきだと思うだけでは解雇は認められず、「社会一般の目から見てどうしても解雇しなければならない事情があり、かつその事情が客観的にも確認できる場合に限り、正当な解雇理由と認められる」という意味です。
こういった条件を満たさない解雇は、不当解雇となります。
以下では具体的な場面ごとにどのようなケースが不当解雇になるのかを見ていきたいと思います。
(1)能力不足、成績不良を理由とする解雇の場面
不当解雇に該当するケース
- 新卒入社や未経験入社の社員について十分な指導をしないまま能力不足だとして解雇するケース
- 経験者採用の社員について不合理な成績評価に基づき能力不足だとして解雇するケース
不当解雇にならないケース
- 新卒入社や未経験入社の社員について十分な指導を尽くしたが改善の見込みがないため解雇するケース
- 経験者採用の社員について採用時に前提としていた能力より明らかに下回ることが判明したことを理由に解雇するケース
新卒入社や未経験入社の社員については、裁判所は、能力の不足や成績不良があっても、会社が指導すれば改善する可能性がある場合は、不当解雇と判断しています。つまり、十分指導しないまま成績が悪いからといって解雇すると不当解雇になります。
一方、即戦力として稼働することが期待される経験者として入社した社員については、正当な解雇と認められる場面が広くなっています。裁判所は、経験者として採用された従業員の能力が、採用時に前提としていた能力より明らかに下回ることが採用後に判明したという事情があれば、会社からの指導が十分とはいえなくても、正当な解雇と認める傾向にあります。
これはそもそも、会社からいろいろ指導を行わなくても活躍できる即戦力として採用しているためです。ただし、経験者であっても、「成績不良」とした会社の評価に不合理がある場合は、不当解雇と判断されています。
例えば、その経験者に明らかに難しい商材の営業をさせているのに、他の商材を扱う営業職と比較して売上が上がらないことを理由に解雇するようなケースでは、会社の成績評価が不合理であるとして不当解雇と判断される可能性があります。
(2)協調性の欠如を理由とする解雇の場面
不当解雇に該当するケース
- 協調性の欠如について、会社が十分な指導や人間関係の調整を行っていないケース
- 上司との相性が悪くトラブルを起こすが、会社が相性の良い部署を探すための配置転換を行っていないケース
不当解雇にならないケース
- 他の従業員と協調せず、業務に重大な支障が生じていて、本人への指導や配置転換によっても協調性の欠如が改善されないケース
協調性がないことを理由とする解雇の場面では、まず、他の従業員との協調性が不可欠な仕事であるとか、あるいは少人数の職場であるなどの事情により、協調性が重要な業務内容、職場環境であることが、解雇が正当と認められる条件になります。
そのうえで、他の従業員と協調せず、業務に重大な支障が生じていて、本人への指導や配置転換によっても改善されない場合は、解雇は正当と認められます。一方、会社が職場内の調整や指導を行わないまま、解雇したときは、不当解雇と判断されます。
協調性がない従業員の解雇については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
(3)頻繁な遅刻や欠勤を理由とする解雇の場面
不当解雇に該当するケース
- 会社が遅刻や欠勤に対してなんら指導をしないまま解雇するケース
- 遅刻や欠勤の程度が重大といえないケース
不当解雇にならないケース
- 3ヶ月の間に15回の遅刻と21回の早退をし、会社の指導にも従わなかったケース(大阪地方裁判所平成13年8月24日判決)。
頻繁な遅刻や欠勤を理由とする解雇では、その欠勤や遅刻について正当な理由がなく、かつ、会社が懲戒処分をするなど適切な指導をしていることが正当な解雇と認められるための条件になります。会社による適切な指導の後も、頻繁に欠勤や遅刻を繰り返している場合は、裁判所でも正当な解雇と認められます。
一方、これらの条件を満たさないときは不当解雇と判断されます。
▶参考情報:欠勤が多い社員の解雇や頻繁な遅刻など勤怠不良を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧下さい。
(4)業務命令に従わないことを理由とする解雇の場面
不当解雇に該当するケース
- 業務命令が退職に追い込む目的や嫌がらせ目的のもので正当なものといえないケース
- 業務命令の趣旨や必要性について会社が十分な説明をしておらず、十分な説明をすれば業務命令に従う可能性が残されていると判断されるケース
不当解雇にならないケース
- 会社の正当な業務命令に従わず、かつ、今後も従わない意思を明確にしているなど、改善が期待できないケース
業務命令に従わないことを理由とする解雇では、会社の正当な業務命令に従わず、かつ、今後も従わない意思を明確にしているなど、改善期待できないことが、正当な解雇と認められる条件になります。
一方で、まだ改善の余地があったり、そもそも業務命令自体の正当性がない場合は、不当解雇と判断されます。
(5)転勤の拒否を理由とする解雇の場面
●不当解雇に該当するケース:
- 重度の障害がある家族を介護する従業員であるなど、従業員側に転勤が極度に困難な事情があるケース(札幌高等裁判所平成21年3月26日判決など)。
- そもそも転勤をさせる業務上の必要がなく、退職に追い込む目的で転勤を命じ、転勤拒否を理由に解雇したケース
●不当解雇にならないケース:
・業務上必要のある転勤命令に対して、従業員が合理的な理由なく拒否するケース
転勤の拒否を理由とする解雇は、まず、会社に転勤を命じる権限があることが就業規則や雇用契約書で明記されていることが、正当な解雇と認められるための前提条件になります。そのうえで、転勤を命じることが業務上必要であり、会社が転勤を命じるにあたり、単身赴任手当の支給や社宅の提供などの配慮を行っているにもかかわらず転勤に応じない場合は原則として正当な解雇となります。
転勤拒否をめぐるトラブルについては、以下の記事でも詳しく解説していますので合わせてご参照ください。
(6)パワハラを理由とする解雇の場面
●不当解雇に該当するケース:
- パワハラについて過去に指導や注意を受けたことがない従業員を、パワハラ行為があった1回目から解雇するケース(大阪地方裁判所平成10年5月13日判決など)
●不当解雇にならないケース:
- パワハラについて過去に懲戒処分を受けた従業員が、さらにパワハラを繰り返す場合に解雇するケース
パワハラを理由とする解雇については、過去にもパワハラについて懲戒処分歴がある従業員がさらにパワハラを繰り返したことが、正当な解雇と認められるための条件になります。
パワハラが1回目の場合は、解雇するのではなく、「減給」や「出勤停止」、「降格処分」などより軽い「懲戒処分」にとどめておく必要があります。
パワハラを理由とする解雇については以下の記事でも詳しく解説していますので合わせてご参照ください。
(7)経営難による人員整理のための解雇の場面
●不当解雇に該当するケース:
- 人員削減の必要性があるとして解雇しながら、一方で新規採用をしているケース
- 従業員や労働組合との協議を十分にせずに解雇するケース
●不当解雇にならないケース:
- 人員削減の客観的な必要があり、解雇以外の手段をすでに尽くしていて他に手段がなく、解雇対象者を客観的な基準で選んだうえで十分な話し合いを行って人員整理するケース
経営難や事業部廃止などによる人員整理のための解雇の場合は、以下の4点を考慮して解雇の正当性が判断されます。
- 1,余剰人員が生じ、人員削減の必要性があるかどうか
- 2,解雇以外の経費削減手段(新規採用の募集の停止、契約社員の雇止めや希望退職者の募集など)をすでに尽くしたといえるかどうか
- 3,解雇対象者が経営者の好き嫌いなどではなく、客観的な基準で選ばれているかどうか
- 4,解雇について従業員や労働組合との協議が十分されているかどうか
人員整理のための解雇については以下の記事でも詳しく解説していますので合わせてご参照ください。
▶参考情報:整理解雇とは?企業の弁護士がわかりやすく解説
3,労働基準法などへの違反で不当解雇になるケース
ここまで労働契約法違反で不当解雇とされる場合についてご説明しました。そのほかに、労働基準法やその他の法律に違反したことを理由に、不当解雇と判断されるケースがあります。
具体的には以下のケースです。
(1)業務上の病気やけがで休業する期間とその後30日間の解雇
従業員が仕事が原因で病気やけがになったケース(労災のケース)については、労働者保護の立場から、病気やけがの治療のために仕事を休む必要がある期間とその後30日間については、解雇が禁止されています。(労働基準法第19条1項)
▶参考情報:労働基準法第19条1項
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
・参照元:「労働基準法」の条文はこちら
上記の例外として、業務に起因する病気やけがで治療のために休業中であっても、治療開始から3年がたてば会社が一定の補償を支払うことにより解雇することが認められています。この点については以下の記事で詳しくご説明していますので合わせてご参照ください。
▶参考情報1:労災で休業中の従業員の解雇について解説
▶参考情報2:「従業員の病気を理由とする解雇」について詳しく解説!
(2)産休期間中とその後30日間の解雇
女性従業員について、労働者保護の立場から、産休取得中とその後30日間については、解雇が禁止されています。(労働基準法第19条1項)
(3)労働基準監督署に会社の法律違反を申告したことを理由とする解雇
残業代未払いや違法残業などの法律違反を労働基準監督署に申告したことを理由に従業員を解雇することは禁止されています。(労働基準法第104条2項)
▶参考情報:労働基準法第104条2項
第百四条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
② 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
・参照元:「労働基準法」の条文はこちら
(4)女性従業員の妊娠・出産を理由とする解雇
男女雇用機会均等法第9条2項により禁止されています。
▶参考情報:男女雇用機会均等法第9条2項
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
・参照元:「男女雇用機会均等法」の条文はこちら
(5)労働組合に加入したことあるいは労働組合活動を行ったことを理由とする解雇
労働組合法第7条により禁止されています。
▶参考情報:労働組合法第7条
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
・参照元:「労働組合法」の条文はこちら
(6)育児休業制度を利用したことを理由とする解雇
育児介護休業法第10条により禁止されています。
▶参考情報:育児介護休業法第10条
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
・参照元:「育児介護休業法」の条文はこちら
(7)介護休業制度を利用したことを理由とする解雇
育児介護休業法第16条により禁止されています。
▶参考情報:育児介護休業法第16条
第十六条 事業主は、労働者が介護休業申出をし、又は介護休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
・参照元:「育児介護休業法」の条文はこちら
これらの場合も、法律違反の解雇として不当解雇となります。
4,就業規則違反で不当解雇になるケース
就業規則で定められた手続きを踏まずにされた解雇も「不当解雇」となります。
具体的には以下のようなケースです。
(1)懲戒処分について懲戒委員会で審議することが就業規則に定められているケース
→ 懲戒委員会を開かないで懲戒解雇すると不当解雇になります。
(2)懲戒処分をするときは従業員の弁明(言い分)を聴くことが就業規則に定められているケース
→ 弁明を聴かないで懲戒解雇すると不当解雇になります。
このように、就業規則に「懲戒処分」や「懲戒解雇」について、懲戒委員会で審議するとか弁明を聴くなどといった手続きが定められている場合、それを守らずに懲戒解雇すると「不当解雇」となります。
懲戒委員会について、正しい進め方など詳しい解説は以下の記事を参考にご覧ください。
5,裁判で不当解雇と判断されるとどうなるのか?
「不当解雇にあたる場合」は、法律上、「解雇が無効」となります。
「解雇が無効となる」ことの具体的な意味は、以下の2つです。
(1)従業員を復職させなければならない
「解雇が無効となる」というのは、「解雇ははじめからなかったのと同じことになる」という意味です。つまり、解雇された従業員と会社は現在も雇用契約が続いていることになります。
その結果、会社は従業員を復職させ、給与の支払いを再開する義務を負います。
(2)解雇期間中の給与をさかのぼって支払わなければならない
会社は解雇の後、当然、解雇した従業員に給与を支払っていません。しかし、不当解雇と判断されると、解雇ははじめからなかったのと同じことになるので、「会社が従業員を解雇した後、従業員に給与を支払わなかった期間」について、さかのぼって、会社は従業員に給与を支払う義務を負います。
このように、解雇が不当解雇であると判断された場合、会社は「従業員を復職させ、給与の支払いを再開すること」と「解雇後の従業員に給与を支払わなかった期間についてさかのぼって給与を支払うこと」を義務付けられます。
このうち、後者の「解雇後の従業員に給与を支払わなかった期間についてさかのぼって給与を支払うこと」については、「バックペイ」と言われます。
▶参考情報:参考情報:「バックペイ」とは?
バックペイ(back pay)とは「さかのぼって支払う」という意味です。
例えば、会社が従業員を解雇して、従業員が不当解雇だとして会社に裁判を起こした場合、裁判は通常1年半くらいかかります。
そして裁判の結果、不当解雇だということになれば、会社は「解雇後の従業員に給与を支払わなかった期間についてさかのぼって給与を支払うこと」、つまり、1年半分の給与を支払うことを命じられるのです。このバックペイの支払いが、会社にとって、不当解雇の裁判が大きなリスクとなる1つの原因です。
バックペイについて計算方法や目安となる相場など、以下の参考記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
6,不当解雇と判断されたときに会社が支払う損害賠償額や慰謝料額について
裁判所で解雇が不当解雇と判断された場合に会社が支払うことになる金銭には、以下の2つがあります。
- バックペイ
- 損害賠償(慰謝料)
このように2種類あるのですが、区別せずに、すべてひとくくりに「損害賠償」あるいは「慰謝料」と理解されているケースもあります。
しかし、「バックペイ」は「損害賠償(慰謝料)」とは意味が異なりますので、以下では「バックペイ」と「損害賠償(慰謝料)」にわけてご説明したいと思います。
(1)バックペイについて
バックペイとは、前述のとおり、「解雇後の従業員に給与を支払わなかった期間についてさかのぼって給与を支払うこと」です。
バックペイの金額の基本的な計算式としては以下の通りです。
1.バックペイの金額の計算式
バックペイの金額=「解雇後、解雇した従業員に給与を支払わなかった期間の日数」×「解雇時点における1日あたりの給与額」
※解雇された従業員が、解雇期間中に他社から給与を得ていた場合は、一定の計算方法のもとで、その他社から得た給与の一部をバックペイから差し引くことができます。
上記の計算式からもわかるように、「バックペイ」の金額は、「解雇後、解雇した従業員に給与を支払わなかった期間」の長短により、大きくかわってきます。前述した通り、会社が従業員を解雇して、従業員が不当解雇だとして会社に裁判を起こした場合、裁判は通常1年半くらいかかります。解雇した従業員の給与が「40万円」の場合、1年半という期間を前提とすれば、バックペイの金額は「720万円」となります。
参考までに過去の裁判事例において企業が支払いを命じられたバックペイの金額の例をあげると以下のとおりです。
2.過去の裁判事例における「バックペイの金額例」
判例1:
東芝事件(東京高等裁判所平成28年8月31日判決)
- 解雇から判決までの期間:約12年
- 裁判所の判断:約5200万円の支払い命令
判例2:
三井記念病院事件(東京地方裁判所平成22年 2月 9日判決)
- 解雇から判決までの期間:約2年9か月
- 裁判所の判断:約1700万円の支払い命令
判例3:
日産センチュリー証券事件(東京地方裁判所平成19年 3月 9日判決)
- 解雇から判決までの期間:約14か月
- 裁判所の判断:約700万円の支払い命令
このように、裁判例でも解雇から判決までの期間が長くなるにつれて支払いを命じられる額が大きくなっていることがおわかりいただけると思います。長引けば長引くほど、不当解雇と判断されたときの支払額が増えることが、不当解雇トラブルの大きな特徴です。
(2)「損害賠償(慰謝料)」について
裁判所で解雇が不当解雇と判断された場合には、バックペイとは別に会社が損害賠償(慰謝料)の支払いを命じられることもあります。
ただし、裁判所で解雇が不当解雇と判断された場合であっても、バックペイと別に「損害賠償(慰謝料)」の支払いを命じられることはまれであり、バックペイの支払い命令のみになるケースのほうが多いです。
これは、そもそも、慰謝料というのは「解雇による精神的苦痛」に対して支払われるものですが、裁判所が、「通常はバックペイが支払われることにより解雇による精神的苦痛は解決しており、バックペイの支払いによってもおぎなえないような特別の精神的苦痛があった場合にのみ、損害賠償(慰謝料)の支払いを命じる」という考え方をとっているためです。
過去に不当解雇について「損害賠償(慰謝料)」の支払いが命じられたケースとしては以下の例があります。
過去に不当解雇について「損害賠償(慰謝料)」の支払いが命じられたケース
- 1,自ら従業員を勧誘して他社から自社に転職させたにもかかわらず短期間で解雇したケース
- 2,従業員の正当な権利に基づく行動(労働基準監督署への相談や育児休暇の取得など)を理由に解雇したケース
- 3,根拠のない解雇理由を第三者に公表し、解雇された従業員の名誉を損なわせたケース
それぞれのケースに該当する判例として以下のようなものがあります。
1.自ら従業員を勧誘して他社から自社に転職させたにもかかわらず短期間で解雇したケース
判例1:
ニュース証券事件(東京地方裁判所平成21年1月30日判決)
・事案の概要:
証券会社が自ら勧誘して競合他社を退社させて採用した従業員を営業成績不振を理由に3か月で解雇したケース
・裁判所の判断:
裁判所は不当解雇と判断し、バックペイのほかに慰謝料150万円の支払いを命じました。
・判断の理由:
裁判所はバックペイとは別に慰謝料の支払いを命じた理由として、「自ら勧誘して競合他社を退社させて採用したにもかかわらずわずか3か月ほどで成績不振を理由に解雇したことは性急にすぎること」などをあげています。
このように、自ら従業員を勧誘して他社から自社に転職させたにもかかわらず短期間で解雇するケースでは、慰謝料の支払いが命じられることがあります。
2.従業員の正当な権利に基づく行動(労働基準監督署への相談や育児休暇の取得など)を理由に解雇したケース
判例2:
東京自転車健康保険組合事件(東京地方裁判所平成18年11月29日判決)
・事案の概要:
健康保険組合が事業の不振を理由に従業員を解雇したケース
・裁判所の判断:
裁判所は不当解雇と判断し、バックペイのほかに慰謝料100万円の支払いを命じました。
・判断の理由:
裁判所はバックペイとは別に慰謝料の支払いを命じた理由として「解雇については事業の不振が本当の理由ではなく、従業員が労働基準監督署や労働局に相談したことが理由であると考えられること」をあげています。
このように、従業員の正当な権利に基づく行動(労働基準監督署への相談や育児休暇の取得など)を理由に解雇したケースでは、慰謝料の支払いが命じられることがあります。
3.根拠のない解雇理由を第三者に公表し、解雇された従業員の名誉を損なわせたケース
判例3:
アサヒコーポレーション事件(大阪地方裁判所平成11年3月31日判決)
・事案の概要:
十分な証拠がないのに従業員を横領を理由に懲戒解雇し、さらに、それを得意先等にも書面で通知したケース
・裁判所の判断:
裁判所は不当解雇と判断し、バックペイのほかに慰謝料150万円の支払いを命じました。
・判断の理由:
裁判所はバックペイとは別に慰謝料の支払いを命じた理由として、「十分な証拠がないのに軽率に懲戒解雇をし、それを得意先等にも通知していること」をあげています。
このように、根拠のない解雇理由等を不必要に第三者に公表し、解雇された従業員の名誉を損なわせたケースでは、慰謝料の支払いが命じられることがあります。
以上、不当解雇に関する事件の損害賠償額や慰謝料額について解説しました。
「不当解雇と判断された場合に会社が支払わなければならない金銭には主にバックペイと慰謝料があること」、「このうち慰謝料については特別な場合にのみ支払いを命じられること」の2点をおさえてきましょう。
また、不当解雇の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説していますのでこちらをご参照ください。
7,会社が不当解雇で訴えられたときに弁護士に相談するタイミングについて
続いて、「会社が不当解雇で訴えられたときに弁護士に相談するタイミング」についてご説明したいと思います。
結論から言えば、解雇した従業員から不当解雇の主張を受けたらできる限り早く弁護士に相談してください。裁判になるのを待つべきではありません。
その理由は以下のとおりです。
(1)不当解雇の主張を受けたらできる限り早く弁護士に相談すべき理由
まず、前述のとおり、裁判所で解雇が不当解雇と判断された場合に会社が支払うことになる金銭には、「バックペイ」と「損害賠償(慰謝料)」の2種類がありますが、その中でもバックペイが主な部分を占めます。そして、バックペイについては、前述の通り、「解雇から日がたてばたつほど、支払額がふくらむ点」に特徴があります。
できる限り早く、裁判になる前の段階で弁護士に相談することによって、裁判になる前に解雇トラブルを解決することができ、仮に不当解雇と判断されるようなケースであっても会社の支払額を最小限にとどめることができます。
(2)「解雇前に弁護士に相談する」のがベストなタイミング!
さらに、言えば、もし可能であれば、解雇する前の段階で、弁護士に相談することがベストです。
解雇する前に弁護士に相談すれば、「解雇した場合に不当解雇と判断されるリスクの程度」、「解雇前に集めておくべき証拠」、「解雇前に行っておくべき手続き」等について弁護士にアドバイスを受けることができ、不当解雇と判断されるリスク自体を回避することができるからです。
8,不当解雇裁判での会社の守り方
では、不当解雇として訴えられた場合に会社としてはどのように対処していけばよいのでしょうか?
以下で「不当解雇裁判での会社の守り方」についてご説明していきたいと思います。
(1)不当解雇裁判の裁判手続きの流れ
「不当解雇裁判での会社の守り方」をご説明する前に、まず、不当解雇で訴えられた場合の裁判手続きの大まかな流れを確認しておきましょう。不当解雇の裁判は、「地位確認訴訟」と呼ばれます。
その流れは、以下の通りです。
●地位確認訴訟の手続きの流れ
- 1,訴状が届く
- 2,裁判所での主張
- 3,証人尋問
- 4,裁判所からの和解案の提示
- 5,判決
裁判の手続きは、会社に「1,訴状が届く」ことから始まります。その後、「2,裁判所での主張」のところで、従業員側、会社側がお互いの主張を書面で出し合います。双方の主張がおおむね尽きた段階で、「3,証人尋問」の手続きに進みます。また、証人尋問と前後して、それまでの主張を踏まえた「4,裁判所からの和解案の提示」があることが通常です。そして、和解ができなければ、「5,判決」です。
以下では、「不当解雇裁判での会社の守り方」として、上記の流れに沿って、「訴状が届いたらまずしなければならないこと」をご説明したうえで、「裁判所での主張の段階」、「証人尋問の段階」、「和解案の提示の段階」の各段階ごとに、会社側が裁判を有利に進めるために理解しておいていただきたいポイントをご説明します。
(2)不当解雇で訴えられたら「まずしなければならないこと」とは?
従業員から不当解雇で訴訟を起こされた場合、以下の2つの点が「会社を守るために、まずしなければならないこと」になります。
●会社を守るためのポイント
- 1,すぐに訴状の内容を確認すること
- 2,従業員の解雇トラブルに精通した企業法務に強い弁護士に相談すること
上記の2つのポイントについて、詳しくご説明していきます。
1.すぐに訴状の内容を確認すること
従業員が会社を不当解雇で訴えた場合、訴訟が起こされてから3週間から4週間ほど経過すると、裁判所から会社に訴状が送られてきます。
訴状の中で、特に重要なのは、訴状の「請求の趣旨」という部分です。通常は訴状の1ページ目か2ページ目あたりに「請求の趣旨」という項目があるはずです。
ここに解雇された従業員が訴訟で会社に請求している内容が書かれています。
(1)地位確認訴訟における訴状の「請求の趣旨」の確認のポイント
訴状の「請求の趣旨」には、典型的には以下のような内容が書かれています。
- 1,原告が、被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
- 2,被告は、原告に対し、●●●●●円およびこれに対する本訴状送達日の翌日から支払い済みまでの年6分の割合による金員を支払え。
- 3,被告は、原告に対し、毎月●日限り●●●●円およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
- 4,訴訟費用は被告の負担とする。との判決及び第2項、第3項について仮執行の宣言を求める。
この場合、解雇された従業員は、この訴状で、会社に対して4つの請求をしています。
まずは、従業員が何を請求しているのかを正確に理解することが大切ですので、以下では上の例で挙げた4つの請求の意味を順番に説明します。
第1項:原告が、被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
上記の部分は「地位確認請求」と呼ばれるものです。
これは、「解雇は無効だから、今も自分は従業員だ。会社に復職させてください。」という意味の請求です。
第2項:被告は、原告に対し、●●●●●●円およびこれに対する本訴状送達日の翌日から支払い済みまでの年6分の割合による金員を支払え。
これは、「バックペイの請求」です。
「会社がした解雇は無効であり、解雇後に会社が賃金を支払わなかったのはおかしいので、今まで支払わなかった分をまとめて支払ってください」という内容になります。
「バックペイ」については、この記事の「6−1,バックペイについて」の項目で詳しく説明していますので確認してください。
第3項:被告は、原告に対し、毎月●日限り●●●●円およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
これは、「将来の賃金請求」です。
「解雇は無効で自分は今も従業員だから、訴訟を起こした後は、毎月給料日に解雇以前と同じ給与を支払ってください」という請求です。
第4項:訴訟費用は被告の負担とする。
最後は、「訴訟費用の請求」です。
「訴訟のために従業員が裁判所に納めた印紙代などの費用は会社で負担してください」という請求です。
このうち、特に注目していただきたいのは、第1項の「地位確認請求」が含まれているかどうかです。
「地位確認請求」は前述のとおり、「復職を求める」という意味の請求です。従業員がすでに別の職についているなどの事情により復職を求めない場合は、「第1項」の「地位確認請求」はされません。
しかし、「地位確認請求」がされている場合は、単にお金の問題ではなく、「敗訴すれば従業員を復職させる義務を負うことになる」という点を理解して訴訟に対応していく必要があります。
(2)訴状に同封されている書類の確認のポイント
裁判所から届いた封筒には、訴状と一緒に「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」という書面が同封されています。
この書面に、以下の内容などが記載されています。
- 1,出廷しなければならない裁判所の名前
- 2,第1回の裁判期日の日時
- 3.答弁書の提出期限
「答弁書」とは、「訴状に対する反論書面」のことです。そして、「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」に書かれた「答弁書の提出期限」までに、裁判所に「答弁書」を提出しなければなりません。
2.従業員の解雇トラブルに精通した労働問題に強い弁護士に相談すること
訴状の内容を確認したら、従業員の解雇トラブルに精通した労働問題に強い弁護士に相談に行きましょう。答弁書の提出期限までに、内容の充実した答弁書を提出できるように、訴状が届いたらできる限り早く弁護士に相談することがポイントです。
弁護士への相談の際、資料として、以下の書類をもって弁護士に相談することをお勧めします。
- 1,不当解雇で訴えてきた従業員の履歴書
- 2,従業員との雇用契約書
- 3,就業規則
- 4,解雇通知書
その他、従業員を解雇する理由となった従業員の問題行動について、簡単に時系列でまとめたものを持参すると、相談がスムーズです。
弁護士の専門分野もさまざまですので、解雇のトラブルに精通した弁護士で、かつ企業法務に強い会社側の立場に立って活動している弁護士に相談しましょう。
不当解雇で訴えられた場合に会社側で十分な対応をするためには、労働法の理解だけでなく、企業経営やマネジメント、経営の哲学についての理解が必要です。
このような点にも理解のある弁護士に依頼できればベストです。
このように、会社に訴状が届いたら、まずは従業員が請求している内容を正確に理解し、同時に、従業員の解雇トラブルに精通した弁護士にできるだけ早く相談することが、会社を守るための最初の重要なポイントです。
(3)会社を守るための「裁判所での主張」のポイント!
実際に裁判がスタートすると、少なくとも最初の6ヶ月程度は、「従業員側」、「会社側」の双方が書面でお互いの主張を出し合うことが続きます。
訴状に対して、会社側が「答弁書」で反論し、それに対して従業員側が書面で再反論し、会社側がさらに再々反論する・・・、という繰り返しです。
この書面による主張の場面で、解雇トラブルを勝ち抜くためのもっとも重要なポイントは、「解雇した従業員の問題点について、できる限り詳細で具体的な主張をすること」にあります。
以下では、どのような点に重点をおいて主張をしていけばよいかをご説明します。
1.裁判所での主張のポイント
解雇した従業員の問題点を具体的に主張する前提として、会社の事業内容や従業員が担当していた業務の内容をわかりやすく説明する必要があります。
具体的には、以下の通りです。
- 1,会社の事業内容
- 2,売り上げ規模
- 3,解雇した従業員の入社前の経歴
- 4,解雇した従業員の入社後の経歴
- 5,解雇した従業員の役職
- 6,解雇した従業員の担当していた業務の内容
これらについて、わかりやすく書面に主張をまとめ、裁判所に理解してもらう必要があります。その上で、解雇の原因となった従業員の問題点を「できるかぎり詳細かつ具体的に」主張することになります。
▶参考情報:解雇の原因となった従業員の問題点の主張について
例えば、従業員の能力が不足していたために解雇したという場合に「仕事の段取りが悪い上に、事務作業にミスが多く、いくら注意しても改まらなかった」とか、「営業成績が悪く、6か月連続で最下位で、新人よりも成績が悪かった」などというような抽象的な主張をしただけでは、裁判所は解雇を正当と認めることはありませんので注意が必要です。
従業員の能力不足が原因で生じた問題点について、以下のようなことを時系列に沿って詳細に述べていくことが必要不可欠です。
- 1,いつ問題が生じたか?
- 2,どういう場面で問題が生じたか?
- 3,どういう問題が生じたのか?
- 4,その問題が生じた原因はなにか?
- 5,その問題に会社としてどのように対処したか?
- 6,会社として問題が生じたことについて「いつ、誰が、どのように」その従業員を指導したか?
- 7,指導に対して従業員はどのように対応したか?
書面の証拠があればベストですが、書面の証拠がなかったとしても、証言で立証することは十分可能です。そのため、まずは書面の証拠の有無にかかわらず、できるだけ詳細に具体的事実を主張することが大切です。
このように、解雇の原因となった従業員の問題点について具体的かつ詳細な主張をすることが、会社を守るために重要なポイントです。労力と気力がいる作業にはなりますが、これができれば裁判所で解雇の正当性を認めてもらう余地が十分に出てきます。
上記では、解雇を正当なものと認めてもらうための反論についてご説明しましたが、万が一、不当解雇と判断されてしまった場合に備えておくことも必要です。具体的には、不当解雇と判断されてしまった場合に支払を命じられるバックペイの額を最少にするための反論も行っておきましょう。 特に、解雇した従業員が解雇後に別の企業に再就職しているケースでは、再就職後に得た賃金の一部をバックペイの金額から差し引いてもらうことが可能です。 また、一部の判例では、再就職により従業員が復職の意思を失っているとしてバックペイの金額を限定したものもあります(令和元年9月18日東京地方裁判所判決、平成9年8月26日東京地方裁判所判決等)。従業員に復職の意思がないと思われる場合は、このような判例を踏まえて反論していきましょう。
(4)会社を守るための「証人尋問」のポイント!
次に、「従業員側」、「会社側」の双方の主張が概ね出揃うと、裁判の手続きは「証人尋問」に進みます。
「証人尋問」は、従業員本人や会社側の証人を裁判所で尋問して、会社側の主張と従業員側の主張が食い違う事実関係について裁判所がどちらを信用するかを決める手続きです。
証人尋問では、「証人の人選」と「事前の準備」が、大切なポイントです。
この大切なポイントについて、以下でご説明いたします。
1.証人の人選のポイント
証人尋問では、解雇された従業員の問題点を立証することが目的です。この目的にあったベストな証人を人選することが重要なポイントです。
通常は、解雇された従業員の直接の指導担当であった上司が、解雇された従業員の問題点を一番詳しく話をすることができます。そのため、直接の指導担当であった上司を証人とすることが多いです。解雇された従業員を指導していた立場の人が複数人いるときは、人選が必要になります。
その場合、以下の点をよく検討して証人を人選しましょう。
- 1,従業員の問題点について具体的な内容をよく記憶している人物かどうか?
- 2,従業員の問題点を裁判所にわかりやすく説明できる人物かどうか?
- 3,従業員の問題点を一方的に攻撃するのではなく、「従業員を懸命に指導したがうまくいかなかった」という点を謙虚さをもって説明できる人物かどうか?
話が長くて説明がわかりにくい人物は証人には向きません。また、解雇された従業員に対して嫌悪の感情を持っている人物は、裁判所でも、感情的な面が出てしまい、裁判所から単なる好き嫌いで解雇したのではないかと誤解される危険がありますので、避けたほうがよいです。
従業員の問題点を一方的に攻撃するようなタイプの人物も、裁判所に従業員が不合理に解雇されたという印象を与えかねませんので、避けることが賢明です。
2.証人尋問の事前の準備のポイント
尋問にあたっては、弁護士が証人に質問する内容を事前に決めて、打ち合わせを行うのが通常です。
この打ち合わせで、以下の点を確認しましょう。
- 1,裁判所にも理解ができるように、わかりやすく質問に答えることができているか?
- 2,質問の答えを覚えてしまい、記憶に基づかない不自然な答えになっていないかどうか?
- 3,証言の内容が、これまでの主張や提出した書証に矛盾していると裁判所から受けとられるおそれがないかどうか?
さらに、過去の記憶が十分でなければ、具体的な証言ができません。
以下のような当時の記録について、十分に目を通し、証人尋問までに、その従業員を解雇に至った経緯について記憶を喚起しておきましょう。
- 1,従業員を指導する目的で送ったメールのやりとり
- 2,従業員が業務について報告した業務月報
- 3,従業員の面談記録
- 4,従業員が過去に提出した始末書
- 5,会社から従業員に交付した指導書
証人尋問の前に、解雇された従業員の同僚や上司からのヒアリングを再度行い、記憶を喚起することも有効です。
このように、証人尋問では、「適切な人選をすること」と、「事前に十分な準備をすること」が、会社を守る上で重要なポイントとなります。
(5)解雇トラブルを「和解」で解決する場合のポイント!
これまでご説明してきた「従業員の解雇トラブル」において、証人尋問の前のタイミング、あるいは証人尋問の後のタイミングで、裁判所から和解案の提示があるのが通常です。
和解の場合は、「会社が支払う和解金の額」がもっとも重要なポイントとなります。また、「和解にあたり、会社側として必要な和解条項を盛り込んでもらうこと」も重要なポイントです。
以下では、この2点について説明します。
1.会社が支払う和解金の額についての交渉のポイント
裁判所から提示される和解案の内容は、会社が一定の「和解金」を支払うことで従業員が退職に合意する内容であることが最も多いです。そのため、「会社が支払う和解金の額についての交渉」が重要なポイントになります。
和解にあたり会社が支払う金銭については「慰謝料」等と呼んでいる人も多いですが、正確には「和解金」と呼びます。和解金の額については、裁判官から「和解案」という形で提案があることが多いです。
通常は以下の3つの要素により、裁判官からの「和解金」の提案額が決まってきます。
●和解金の金額を決める要素:その1
「会社側の解雇がやむを得ない合理的なものであったことを裁判所でどの程度説明できたか?」
裁判所が解雇はやむを得なかったという心証であれば、和解案で示される和解金の額は低くなります。
●和解金の金額を決める要素:その2
「解雇された従業員の給与の額」
和解金の金額は、通常、解雇された従業員の給与の●か月分という考え方で計算されます。そのため、給与の額が高ければ和解金の額は高くなる傾向にあります。
●和解金の金額を決める要素:その3
「解雇された従業員の解雇後の失業の期間」
失業の期間が長ければ、従業員からみて解雇による損害が多額になるため、和解金の額が高くなる傾向にあります。逆に、従業員が解雇後に別の仕事に就いたようなケースでは、従業員からみて解雇による損害は小さく、和解金の額は低くなる傾向にあります。
この3つの要素の中でも、特に和解金の額に重要な影響を及ぼすのは、「その1」の「会社側の解雇がやむを得ない合理的なものであったことを裁判所でどの程度説明できたか」という要素です。
これによって、和解金は1ヶ月分の給与額程度で済むこともあれば、2年分程度の高額になることもあります。そのため、和解案が出るまでの段階で、「会社を守るための裁判所での主張のポイント」で書いたように、解雇した従業員の問題点についてできる限り詳細で具体的な主張をしておくことが、和解を有利に進めるための最大のポイントとなります。
上記の「和解金の金額を決める要素:その3」に関連して、解雇した従業員がその後、別の仕事に就いていないかどうかも、和解の前に確認しておくことが必要です。
この点を忘れてしまうと、従業員が解雇後に別の仕事に就いていたとしても、和解案で、別の仕事に就いたことによって従業員の損害が小さくなっていることを考慮してもらえず、結果として和解金の額が高くなってしまいますので、注意が必要です。
2.会社側として必要な和解条項を盛り込んでもらうための注意点
和解金以外にも、会社側として必要な和解条項を和解の中に盛り込んでもらう交渉をしておきましょう。
例えば、和解にあたって以下のような内容を忘れないようにしましょう。
(1)口外禁止条項:
和解金の額などが他の従業員に伝わらないように、和解の内容を口外してはならない旨の条項を裁判所にいれてもらうこと
(2)誹謗中傷禁止条項:
従業員が和解後に会社の悪口を言いふらすなどの事態を避けるため、お互いに誹謗中傷を禁止する内容の条項をいれてもらうこと
3.和解では冷静に損得を見極める
会社としては解雇した従業員に「和解金」を支払うことは、意に沿わないことも多いと思います。
しかし、一審で勝訴したとしても、さらに二審、上告審(三審)まで裁判が続く可能性があることや、その場合の弁護士費用を考えれば、和解により裁判を解決して紛争に終止符をうつことも十分検討に値します。実際にも、不当解雇に関する訴訟になる事件のうち約半数が、判決まで至らずに和解により解決しています。
事前に解雇した従業員の問題点についてできる限り詳細で具体的な主張をしたうえで和解に臨み、裁判所から和解案の提示があれば、その後の裁判手続の負担も含めて冷静に損得を検討することが、和解交渉の重要なポイントになります。
9,不当解雇トラブルに関する弁護士費用
弁護士に依頼する際は、弁護士費用も気になるところだと思います。以下では、会社側、労働者側にわけて説明したいと思います。
(1)会社が不当解雇トラブルの解決を弁護士に依頼する場合の弁護士費用
不当解雇トラブルは、入社してから解雇までの長期にわたる従業員の問題点が議論の対象となる事が多く、弁護士としても労力面での負担が大きい事件の1つです。
会社側から不当解雇トラブルについて依頼を受ける場合の弁護士費用は弁護士によってさまざまですが、筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では概ね以下のような費用を設定しています。
1,裁判になる前に依頼していただき弁護士による交渉で解決する場合の弁護士費用
- 着手金:30万円+税~
- 報酬金:解決時に30万円+税~
2,労働審判が申し立てられて会社側で対応する場合の弁護士費用
- 着手金:45万円+税~
- 報酬金:労働者の請求額、事案の難易等を踏まえて委任契約書に基づき設定
3,地位確認訴訟が起こされ会社側で対応する場合の弁護士費用
- 着手金:50万円+税~
- 報酬金:労働者の請求額、事案の難易等を踏まえて委任契約書に基づき設定
(2)労働者側の弁護士費用
労働者側の弁護士費用も、弁護士によって様々であり、一律ではありません。少数派ではあるものの、着手金をもらわずに成功報酬制をうたう弁護士もいます。
例えば、不当解雇トラブルについて相談料は無料、着手金も原則無料で対応し、解決時に回収額の30%程度を報酬金とするような費用体系の法律事務所もあります。ただし、このような費用体系をとりつつも、弁護士のその事案についての稼働時間が一定時間を超えると着手金が発生する内容になっていたり、着手金は無料だが事務手数料の支払いを要する内容になっていたり、解決時の報酬金に最低額が設定されているといった、完全成功報酬制とはいえない例もあります。
いずれにしても、不当解雇トラブルについて労働者側で依頼を受ける弁護士の中には、金銭を回収した時に弁護士費用を報酬金として受領することで、初期費用をおさえた費用体系を採用する弁護士も少なくありません。
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、労働問題について会社側でのみ依頼をお受けしており、労働者側からの依頼はお受けしておりません。
10,不当解雇の事件に関する判例
次に、過去の不当解雇トラブルの裁判例で、実際にどのような理由で不当解雇と判断されているのかをご紹介します。
以下の4つのケースにわけてみていきたいと思います。
- (1)勤務成績不良を理由とする解雇事例
- (2)病気やけがによる欠勤を理由とする解雇事例
- (3)従業員による横領を理由とする解雇事例
- (4)会社の経営難を理由とする解雇事例
(1)勤務成績不良を理由とする不当解雇事例
勤務成績不良を理由に従業員を解雇したケースで、裁判所が不当解雇と判断した例としては、以下の判例が参考になります。
判例1:
セガ・エンタープライゼス事件(平成11年10月15日東京地方裁判所決定)
事案の概要
ゲーム機メーカーが、勤務成績不良を理由に従業員を解雇したケースです。
裁判の判断
裁判所は、「従業員に適切な指導をすれば、勤務成績が改善する余地があったのに、十分な指導をせずに解雇した」と判断し、不当解雇であると判断しました。
このようにセガ・エンタープライゼス事件では、会社が十分な指導をせずに解雇したことが、不当解雇と判断された理由となっています。
勤務成績不良や能力不足による解雇事例で、裁判所に解雇が正当と認めてもらうためには、以下の2つの点が大きなポイントとなりますのでおさえておきましょう。
- ポイント1:勤務成績が不良であった事実を裁判所にわかりやすく説明すること
- ポイント2:会社が十分な指導をしてきたが成績が改善されなかったことを裁判所にわかりやすく説明すること
なお、勤務成績不良や能力不足を理由とする解雇した際に、裁判において不当解雇として敗訴しないためには、解雇する前の会社の対応が重要なポイントになります。そのため、以下の記事も必ずチェックしておきましょう。
(2)病気やけがによる欠勤を理由とする解雇事例
病気やけがによる欠勤を理由に従業員を解雇したケースで、裁判所が不当解雇と判断した例としては、以下の判例が参考になります。
判例2:
東芝事件(東京高等裁判所平成28年8月31日判決)
事案の概要
東芝が、うつ病により休職中の従業員について、休職期間を終えても復職できなかったことを理由に解雇したケースです。
裁判所の判断
裁判所は、この従業員がうつ病を発症した原因は会社の長時間労働にあるとして、長時間労働が原因でうつ病を発症して治療中の従業員を解雇することは不当解雇であると判断しました。
このように東芝事件では、病気の原因が会社での長時間労働にあると判断されたことが、不当解雇と判断された理由になっています。
うつ病の従業員の解雇については、以下の記事でも詳しく解説していますので合わせてご覧下さい。
病気やけがによる欠勤を理由とする解雇事件で裁判所に解雇が正当と認めてもらうためには、以下の2つの点が大きなポイントとなりますのでおさえておきましょう。
- ポイント1:病気やけがの原因が会社の業務によるものでないことを主張すること
- ポイント2:休職期間を経ても復職の見込みがないと判断できるケースであることを裁判所にわかりやすく説明すること
病気やけがによる欠勤を理由とする解雇した際に、裁判において不当解雇として敗訴しないためには、解雇する前に確認しておくべき注意点があります。この点については、以下の記事で解説していますのでチェックしておきましょう。
(3)従業員による横領を理由とする解雇事例
従業員による横領を理由に従業員を解雇したケースで、裁判所が不当解雇と判断した例としては、以下の判例が参考になります。
判例3:
社会福祉法人事件(東京地方裁判所平成22年9月7日判決)
事案の概要
社会福祉法人が事務長として勤務していた従業員について、横領を理由に解雇したケースです。
裁判の判断
裁判所は、横領の事実は、認められないとして、不当解雇と判断しました。
このように、社会福祉法人事件では、横領の事実を会社側が立証できなかったことが、不当解雇と判断された理由になっています。
横領による解雇について、裁判所に解雇が正当と認めてもらうためには、「解雇した従業員が横領をした事実を証明すること」が大きなポイントとなります。横領の事実の証明は、本人に事情聴取をしたうえで、本人に横領を認める書面を作成させて証拠とすることが原則です。
しかし、本人が横領を認めない場合は、客観的の書類から、「横領の事実」と「他に犯人がいないこと」を立証する証拠を十分に集めておくことが必要です。
従業員の横領を理由に解雇した際に、裁判において不当解雇として敗訴しないためには、解雇する前に確認しておくべき注意点があります。この点については、以下の記事で詳しく解説していますのでチェックしておきましょう。
(4)会社の経営難を理由とする解雇事例
会社の経営難を理由とする解雇(いわゆる「リストラ」)は、法的には「整理解雇」と呼ばれます。
会社の経営難を理由に従業員を解雇したケースで、裁判所が不当解雇と判断した例としては、以下の判例が参考になります。
判例4:
興和株式会社事件(大阪地方裁判所平成10年1月5日決定)
事案の概要
派遣会社が派遣先との契約解除による業務縮小により、従業員を整理解雇したケースです。
裁判所の判断
裁判所は経営難によるリストラの必要性自体は認めましたが、この会社が希望退職者の募集を行わずに整理解雇に踏み切ったこと、解雇にあたり従業員との十分な話し合いをしていないことなどを指摘して、不当解雇と判断しました。
このように、興和株式会社事件では、整理解雇の前に希望退職者の募集を行わなかったことや解雇について従業員との間で十分な話し合いをしていないことが、不当解雇と判断された理由となっています。
経営難による解雇については、裁判所に解雇が正当と認めてもらうためには、以下の4つが大きなポイントとなります。
- ポイント1:経営難によるリストラの必要性を裁判所にわかりやすく説明すること
- ポイント2:役員報酬の削減や希望退職者の募集、新規採用の停止など、会社が行った「解雇以外の経費削減努力」について説明すること
- ポイント3:従業員の中から解雇対象者を選定する際に、一定の選定基準を設けたうえで、公平に判断したことを説明すること
- ポイント4:解雇にあたり、従業員や労働組合に対する説明、話し合いを十分に行ったことを説明すること
この4つのポイントは「整理解雇の4要素」とも呼ばれ、会社の経営難を理由とする解雇の場合に裁判所で一般的に重要視されているポイントですのでおさえておきましょう。
11,労働者が不当解雇で会社を訴える場合の裁判の勝率
では、労働者が解雇が不当解雇であると主張して会社に対して地位確認訴訟を起こした場合、統計的にはどのくらいが勝訴しているのでしょうか?
この点については正式な統計は見当たりませんが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「解雇無効判決後の原職復帰の状況に関する調査研究」(平成17年8月)が参考になります。
この研究の中では、地位確認請求訴訟について、労働者側弁護士、使用者側弁護士にアンケート調査が行われています。それによると、判決が確定して終結した労働者76人のうち、51人が解雇無効(労働者勝訴)、24人が解雇有効(使用者勝訴)であったとされています(1人は無回答)。これによれば、労働者側が勝訴している割合は67%程度ということになるでしょう。
※ただし、調査の件数が少ないこと、古い調査研究であること、判決によらずに和解で終結している事案が多いと思われること等に留意する必要があります。また、そもそも、個別の事案において労働者側の請求が認められるかどうかの見込みについては、当然ですが、その事案における労働者の問題の程度や会社側の対応の妥当性、それを基礎づける証拠の有無等によるものであり、このような調査結果が参考になるものではないことにも留意してください。
▶参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構の「解雇無効判決後の原職復帰の状況に関する調査研究」は以下を参照してください。
12,不当解雇の裁判で会社側が支払う解決金の相場
労働者が解雇が不当解雇であると主張して会社に対して地位確認訴訟や労働審判を起こす事案では、判決まで至らずに、和解により解決する例が多くなっています。和解の場合、会社側は紛争を終わらせることと引き換えに相応の解決金の支払いを余儀なくされることが通常です。
この和解の場合に事業者側が支払う解決金については、令和4年の調査結果によると、労働審判における解決金の平均値は285万円、地位確認訴訟における和解の場合の解決金の平均値は613万円とされています(ただし、地位確認請求のみの事案だけでなく未払い残業代や損害賠償請求をあわせて行っている事案も含む平均値)。
解決金の金額分布について以下の通り調査結果が公表されています(青い棒グラフが労働審判における解決金の額、赤い棒グラフが地位確認訴訟における和解の際の解決金の額)。このように解決金の額は事案の内容に応じて5万円未満から2000万円以上まで大きな差があるものの、おおまかにいえば、地位確認訴訟の場合のほうが、労働審判の場合に比べて、事業者が支払う解決金が高額化する傾向にあることがわかります。
・出典元:解雇に関する紛争解決制度の現状と労働審判事件等における解決金額等に関する調査について(pdf)
13,労働者側は不当解雇を労基署やハローワークに相談できる?
労働者は不当解雇を労基署やハローワークに相談することはできるのでしょうか?
これについては、相談すること自体はできても、労働基準監督署やハローワークが不当解雇について労働者からの相談を受けて事業者に指導をしたり、事業者を調査することは通常ありません。
これについて順番にご説明したいと思います。
(1)労働基準監督署について
労働基準監督署は、労働基準法の実施に関する事項を担当する行政機関です。これに対し、不当解雇トラブルの多くは、労働基準法違反が問題になるのではなく、「2,不当解雇になる条件とは?」でご説明したように、労働契約法上解雇が無効となるかどうかが問題になるため、労働基準監督署の権限の範囲外と理解されます。
ただし、「3,労働基準法などへの違反で不当解雇になるケース」でご説明した通り労働基準法違反で不当解雇とされる事案もあるので、これについては労働基準監督署による調査、指導等の対象となります。
(2)ハローワークについて
ハローワークは、雇用保険の業務をはじめとする就職困難者の支援を行う機関であり、不当解雇について労働者からの相談を受けて事業者に指導をしたり、事業者を調査する権限はありません。ただし、従業員が「自己の責めに帰すべき重大な理由」により解雇されたときは、雇用保険の受給において不利益に扱われるというルールがあるため、その限度でハローワークによって解雇理由の調査がされることはあります。
14,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、解雇に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
・問題のある従業員を解雇したところ不当解雇の主張があったが、交渉で金銭支払いなしで退職による解決をした事例
・元従業員から不当解雇として労働審判を起こされ最低限の支払いで解決をした事例
・元従業員からの解雇予告手当、残業代の請求訴訟について全面勝訴した事案
15,不当解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による、解雇に関する企業向けサポート内容についてご説明したいと思います。
咲くやこの花法律事務所の弁護士による、解雇に関する企業向けサポート内容は以下の通りです。
- 解雇前の事前相談
- 解雇の際の面談の立ち合い
- 解雇予告通知書や解雇理由書の作成、発送
- 解雇後のトラブルに関する交渉、裁判
以下で順番に見ていきましょう。
(1)解雇前の事前相談
「咲くやこの花法律事務所」では、問題社員(モンスター社員)についての解雇の事前のご相談を企業から常時お受けしています。
▶参考情報:「問題社員(モンスター社員)」について詳しくは以下をご覧下さい。
具体的には以下のような項目について、各企業からご相談をいただいています。
- 解雇前の証拠収集に関するご相談
- 解雇した場合のリスクの程度に関するご相談
- 解雇の具体的な方法に関するご相談
- 解雇の具体的な注意点のご相談
- 懲戒解雇か普通解雇かの選択に関するご相談
- 解雇後の手続きに関するご相談
事前に自社でよく検討しているつもりでも、思わぬところに落とし穴があることが常ですので、必ず解雇前にご相談いただくことをおすすめします。
弁護士費用
●初回相談料:30分5000円+税
(2)解雇の際の面談の立ち合い
「咲くやこの花法律事務所」では、企業のご要望に応じて、解雇の際の面談への立ち合いも行っております。
解雇の問題に精通した弁護士が立ち会うことで自信をもって解雇を進めることが可能になりますし、解雇する従業員に対して会社の毅然とした態度を示すことができます。
弁護士費用
●初回相談料:30分5000円+税
●面談費用:時間や面談場所への距離に応じて、10万円~20万円+税程度
※別途、事案の内容に応じた着手金、報酬金が必要になることがあります。
(3)解雇予告通知書や解雇理由書の作成、発送
「咲くやこの花法律事務所」では、解雇の場面で重要な書面になる「解雇予告通知書」や「解雇理由書」の作成と発送についてもご依頼を受けています。
解雇の問題に精通した弁護士が、解雇の場面から書面作成に携わることによって、万が一、裁判等に発展した時のことも見越した書面作成が可能になります。
弁護士費用
●初回相談料:30分5000円+税
●書類作成費用:5万円~10万円+税程度
(4)解雇後のトラブルに関する交渉、裁判
「咲くやこの花法律事務所」では、解雇した従業員とのトラブルに関する交渉や裁判のご依頼も常時承っています。
解雇した従業員が不当解雇であるとして復職を求めたり、会社に金銭を請求してくるという場面では、弁護士が従業員との交渉を会社に代わって行います。
解雇のトラブルをきっかけに、団体交渉の申し入れがあったり、や「労働基準監督署の調査」が行われるときも、弁護士が同席して交渉することが可能です。
さらに、解雇によるトラブルが、労働審判や解雇訴訟に発展した場合もこれまでの豊富な経験を生かしてベストな解決に導きます。
「咲くやこの花法律事務所」には、これまで「問題社員の解雇や解雇後のトラブル対応」について、解決実績と経験が豊富な弁護士がそろっています。
解雇トラブルでお困りの方は、早めに「咲くやこの花法律事務所」までご相談下さい。
弁護士費用
●初回相談料:30分5000円+税
●弁護士による交渉の着手金:30万円+税程度~
●弁護士による裁判対応着手金:45万円+税程度~
(5)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに関するサポート内容は、「労働問題に強い弁護士への相談サービス」のこちらをご覧下さい。
また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
16,【関連情報】不当解雇に関する解雇のお役立ち記事一覧
この記事では、「不当解雇とは?正当な解雇との違いを事例付きで弁護士が解説」について詳しく説明してきました。社内で解雇トラブルが発生した際は、不当解雇かどうかの判断はもちろん、解雇を検討する初動の段階からの正しい対応方法を全般的に理解しておく必要があります。
そのためにも今回ご紹介した不当解雇に関する知識をはじめ、他にも解雇に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連する解雇のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・正当な解雇理由とは?解雇理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説
・労働基準法による解雇のルールとは?条文や解雇が認められる理由を解説
・懲戒解雇とは?事例をもとに条件や進め方、手続き、注意点などを解説
・正社員を解雇するには?条件や雇用継続が難しい場合の対応方法を解説
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記事更新日:2024年9月3日
記事作成弁護士:西川 暢春
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