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労災で休業中の従業員の解雇について解説

労災で休業中の従業員の解雇について解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

労災で休業中の従業員への対応にお困りではないでしょうか?

今回は、労災で休業中の従業員の解雇について、「解雇制限の制度」や「打切補償制度」など、各制度の概要をわかりやすくご説明します。

それでは見ていきましょう。

 

最初に労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。

 

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」
労災で休業中の従業員の解雇は、「解雇」の中でも企業として特に慎重さが求められる場面です。

例えば、大阪地方裁判所平成24年4月13日判決は、労災で休職中の従業員を解雇した企業に約640万円の支払いをしたうえで従業員を復職させることを命じています。

対応を誤ってこのようなトラブルにならないように、必ず解雇の前に弁護士にご相談ください。

 

▶参考:労災や解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績はこちらをご参照下さい。

 

▼労災の解雇対応について今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

また労働問題に強い顧問弁護士をお探しの方は、以下を参考にご覧下さい。

【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら

【大阪の企業様向け】顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約)について詳しくはこちら

 

 

1,労災で休業中の従業員については法律上の解雇制限がある。

業務によるけがや病気の治療のために休業している従業員については、休業中とその後30日間は、解雇が原則として禁止されれています(労働基準法第19条1項)。

 

▶参考情報:労働基準法第19条1項

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

・参照:「労働基準法第19条」の条文はこちら

 

なお、労災といっても、従業員側の過失が大きいケースもありますが、このルールは従業員側の過失が大きいケースも含めて適用されます。

ただし、このルールが適用されるのは、治療のために休業している従業員のみであり、業務上のけがや病気があっても休業せずに仕事をしている従業員には適用されません。

解雇制限については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

2,労災で休業中の従業員の解雇が可能な場面とは?

実際には労災で休んでいるといっても、そもそも労災が従業員の過失によるケースもあれば、治療が終わった後特に理由なく出勤しないケースもあります。

このような場合に、企業としては、前述のとおり、解雇の制限があることとの関係で、対応に困ることもあるのではないでしょうか?

労災で休業中の従業員の解雇が可能になるのは以下の場面です。

 

(1)治癒した後30日以上経過した場合

まず、労災による病気やけがについて治癒した場合は、その後30日たてば解雇制限は適用されません。

 

▶裁判例:

例えば、裁判所は、業務上の交通事故で負傷し、約5年半もの間通院した後に復帰したが、再度通風等で入院する事態となったトラックドライバーについて、解雇を有効と判断しています。

この事件で裁判所は、すでに交通事故による負傷が治癒した後30日が経過していて解雇制限は適用されないと判断しています(名古屋地方裁判所平成元年7月28日判決)。

 

なお、この場合の「治癒」とは病気やけがが治ったという意味ではなく、病気やけがについて必要な治療が一通り終わったこと(症状固定の段階)を言います。

そのため、病気やけがの結果、後遺障害が残っているケースでも一通りの治療が終わった時点で「治癒」に該当し、30日たてば解雇制限の適用がなくなります。

 

(2)通勤災害の場合

次に、通勤中の事故によるけがで休んでいる場合も、解雇の制限は適用されません。

通勤中の事故には労災が適用されますが、業務上の事故と違って会社に責任がないため、解雇制限は適用されないのです。

通勤中の事故による休業は、私傷病(労災でない普通の病気やけが)と同様に、就業規則で定められている休職期間の間、自宅で療養してもらい、休職期間が満了しても復職できない場合は、解雇することが可能です。

休職期間満了による解雇については以下の記事で詳しく解説していますので合わせてご参照ください。

 

 

(3)契約社員の雇止めの場合

業務上の病気やけがで休業している契約社員を雇止めする場合にも、解雇の制限は適用されません。

ただし、契約社員の雇止めについては、雇止め法理(労働契約法第19条)による制限があることに注意する必要があります。

「契約社員の更新手続きがルーズで実質的に見て正社員との雇用契約と同視できる状態にある場合」や「契約社員が雇用契約の更新を期待することについて無理もないといえるような事情がある場合」には、会社は合理的な理由がない限り、契約社員を雇止めすることはできません。

雇止め法理については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

(4)打切補償を支払った場合

次に、業務上の病気やけがで休業して治療中の従業員が、治療開始後3年が経過しても治療が終わらないときは、企業はその従業員の平均賃金の1200日分を支払うことによって、その従業員を解雇することが認められています。

これを打切補償といい、労働基準法第81条に定められています。

打切補償については、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

 

 

この制度については、打切補償の金額が1200日分と高額であることが難点です。

仮に月給40万円の従業員であれば、およそ1600万円になります。

 

(5)傷病補償年金の支払いを受けている場合

労災で重い障害が残った場合に、その従業員に労災から年金を支給する制度があります。これを傷病補償年金といいます。

従業員が治療開始後3年以上経過した時点でこの傷病補償年金の支払いを受けている場合は、十分な補償を受けていると理解され、労災で治療のために休業中の従業員であっても解雇が認められています。

ただし、この年金が支給されるのはかなり重い障害の場合のみです。

例えば、両手の手指を全部失った場合や、言葉がしゃべれなくなった場合に、この年金が支給されます。

傷病補償年金については、下記の労災年金の解説記事や厚生労働省のページが詳しいのであわせてご参照ください。

 

 

(6)やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合

やむを得ない事情により事業の継続が不可能になった場合は、労働基準監督署長の認定を受ければ、労災で休業治療中の従業員を解雇することもできるとされています(労働基準法第19条1項但書)。

この「やむを得ない事情」は、天災などをいうとされ単に経営難によって事業の継続ができなくなった場合は該当しません。

 

(7)定年退職の場合

就業規則に定めた定年に達した場合は、労災で休業中であっても、定年退職したと扱うことが可能です(大阪地方裁判所岸和田支部昭和36年9月11日判決)。

 

3,労災や解雇トラブルに関する解決実績

咲くやこの花法律事務所では、労災や解雇のトラブルに関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。

咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。

 

 

4,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に労災のトラブルについての咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。

 

  • (1)打切補償や解雇に関するご相談
  • (2)労災にあった従業員からの損害賠償請求についての対応のご相談

 

以下で順番に見ていきましょう。

 

(1)解雇や打切補償に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では労災により休職中の従業員の解雇に関する企業からのご相談をお受けしています。

労災で休業中の従業員への補償や解雇については対応を誤ると重大な訴訟トラブルをかかえることになります。

補償の提示や解雇の予告の前に必ず弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

咲くやこの花法律事務所には、労災や解雇の問題について、企業側の立場に立って問題を解決してきた弁護士がそろっており、事案の内容に応じたベストな解決策を提示することが可能です。

また、すでにトラブルになってしまっているケースでも、弁護士が窓口となって従業員との交渉にあたることでトラブルを早期に解決することが可能です。裁判などの大きなトラブルに発展する前にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●解雇や打切補償に関する交渉:着手金20万円+税程度~

 

(2)労災にあった従業員からの損害賠償請求についての対応のご相談

咲くやこの花法律事務所では労災にあった従業員から企業に対して損害賠償請求がされた場合の対応についても企業からのご相談をお受けしています。

咲くやこの花法律事務所には、労災の損害賠償請求について、企業側の立場に立って問題を解決してきた実績があり、事案の内容に応じたベストな解決策を提示することが可能です。

トラブルが大きくなる前に、咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●労災に関する損害賠償請求についての交渉:着手金20万円+税程度~

 

5,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

労災の解雇対応に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるサポート内容については「労働問題に強い弁護士のサポート内容」のページをご覧下さい。

また、今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

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7,まとめ

今回は、労災で休業中の従業員の解雇について、まず、解雇が原則として禁止されているという基本的なルールをご説明しました。

そのうえで、法律上解雇が可能な場合として以下のケースをご紹介しています。

 

  • 治癒した後30日以上経過した場合
  • 通勤災害の場合
  • 契約社員の雇止めの場合
  • 打切補償を支払った場合
  • 傷病補償年金の支払いを受けている場合
  • やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合
  • 定年退職の場合

 

貴社の従業員対応の参考になれば幸いです。

 

8,【関連情報】労災に関するお役立ち関連記事

この記事では、「労災で休業中の従業員の解雇について」をわかりやすく解説いたしました。労災に関しては、その他にも知っておくべき情報が多数あり、正しく知識を理解しておかねければ対応方法を誤ってしまいます。

そのため、以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

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注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事作成弁護士:西川暢春
記事更新日:2023年5月23日

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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