労災申請の方法や手続きの流れがわからず困っていませんか?
労災事故が発生したときや業務に起因して病気になったとき、従業員は労災保険から補償を受けることができます。
労災の申請の手続きの概要は以下の通りです。
- 1.労災保険給付の請求書をダウンロードする。
- 2.請求書を作成して労働基準監督署長に提出する。会社を通じて提出することも、被災者が直接提出することも可能。
- 3.労働基準監督署長により調査が行われ、労災認定されると保険給付を受けることができる。不支給決定が出た場合は不服があれば審査請求をすることができる。
会社は、被災した従業員が自分で労災の申請手続きをすることが難しい場合、適切に手続きを行うことができるように手助けすることが義務付けられています(助力義務)。
会社の担当者が労災申請に不慣れで初動を誤ったり手続きに手間取ったりすると、従業員にも会社にとっても不利益が生じてしまいます。また、労災申請にも時効があり、時効が過ぎると請求できなくなることにも注意が必要です。
この記事では、基本的な労災申請の流れについてわかりやすくご説明します。この記事を最後まで読んでいただくことで、労災申請の方法や手続きの流れ、注意すべき点などを理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
最初に労災の申請をはじめとする労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
従業員に労災が発生した場面は、会社と従業員との間でトラブルが発生しやすい場面の1つです。また、労災請求のタイミングでは従業員とのトラブルがなくても、後日、補償をめぐってトラブルに発展することもあります。
そのため、労災請求の手続きや、従業員に対する補償の問題は、迅速に、かつ細心の注意を払いながら正しい対応をする必要があります。
労災発生時は、自己流で進める前に初期段階で労災に強い弁護士に相談し、自社の方針に誤りがないかどうか、どういった点に注意すべきかなどをご確認していただくことが必要です。
労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安などは、以下の記事で解説していますので参考にご覧ください。
▶参考情報:労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
また、咲くやこの花法律事務所の労災トラブルに関する解決実績は以下をご参照ください。
▼労災の申請に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,労災申請とは?
業務中や通勤中の事故等でケガが発生したときは、労災保険により補償を受けることができます。また、業務に起因して病気になったときも、労災保険により補償を受けることができます。
そして、労災から補償を受けるには、申請手続きが必要です。労災保険の制度内容の全般的な知識をはじめ、労災保険の補償の種類や内容などについては、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもあわせてご参照ください。
2,労災申請の手続きと流れについて
以下では、労災申請時に必要な手続きの流れの全体像を説明した上で、「怪我や病気で治療中の給付」「治療後も障害が残ったときの給付」「死亡したときの給付」「定期健康診断等で一定の異常があったときの給付」など、労災保険の給付の種類やそれぞれの請求の流れや方法について具体的に解説していきます。
それでは、順番に見ていきましょう。
(1)労災申請手続きの全体像
労災保険には、療養補償給付(治療費)や休業補償給付など、様々な種類の保険給付があります。
給付の種類ごとに申請期限などが異なりますが、基本的な申請の流れは以下のとおりです。
1,基本的な申請の流れ
1.従業員が労災発生を会社に報告する
労働災害が起きた場合、被災した従業員はまず会社に事故を報告します。
2.労災の請求書を労働基準監督署長に提出する
その後、労災保険給付の請求書を作成して労働基準監督署長へ提出します。これは会社を通じて提出することも、従業員が直接労働基準監督署長に提出することも可能です。
会社を通じて提出する場合、会社の担当者は、労災給付の請求書を作成する際に必要になるので、以下の内容を記録しておくようにすると良いでしょう。
- 被災従業員の氏名
- 労災発生日(病気の場合は診断を受けた日)
- 労災発生の状況を確認した人の名前
- 怪我や病気の部位や状態
- 受診した医療機関
3.労働基準監督署長において調査が行われる
請求書提出後は労働基準監督署長により、労災に該当するかどうかの調査が行われ、労災に認定されると保険給付を受けることができます。
一方、労災に該当しないという不支給決定が出た場合、その決定に不服があれば、管轄労働局に対して審査請求をすることができます。
なお、労災申請した後に行われる労働基準監督署長による調査の内容については、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
労災保険給付の申請手続きとは別に、従業員から労災の報告を受けた会社は、労働基準監督署長に対する報告義務が生じることがありますので注意が必要です。
この点については、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(2)どのような保険給付があるのか?
労災申請の手続きでは、そもそもどのような場面でどのような給付が受けられるのかを知っておくことも重要です。
労災保険の給付は、大きく分けて以下のものがあります。
1,怪我や病気で治療中の給付
療養補償給付、休業補償給付、傷病補償年金、介護補償給付
2,治療後も障害が残ったときの給付
障害補償給付(障害補償年金、障害補償一時金)、介護補償給付
3,死亡したときの給付
遺族補償給付(遺族補償年金、遺族補償一時金)、葬祭料
4,定期健康診断等で一定の異常があったときの給付
二次健康診断等給付
詳細については、以下の表をご参照ください。
なお、表にある「複数業務要因災害」とは、副業、兼職等で複数の事業者で雇用されている従業員について、複数の事業の業務が要因となって怪我や病気が発生した場合のことをさします。
▶参考:労災保険給付等の一覧
・参照元:厚生労働省「労災保険給付の概要(pdf)
労災保険から給付される各補償の金額はいくらくらいなのかについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(3)保険給付ごとの請求の流れ
それでは、全体像を踏まえたうえで、それぞれの保険給付ごとに請求の流れを見ていきましょう。
1,療養補償給付請求の流れ
治療関係の請求は、療養補償給付と呼ばれます。
療養補償給付については、労災病院や労災指定病院を受診した場合と、それ以外の病院を受診した場合で請求・受給の流れが異なります。
なお、業務災害の場合は療養補償給付、通勤災害の場合は療養給付と呼ばれますが、支給の内容は同じです。
ア:労災病院、労災指定病院を受診した場合(療養の給付の請求)
労災指定病院を受診した場合は、被災従業員が病院の窓口で治療費を支払う必要はありません。
受診した医療機関へ労災の請求書を提出すれば、医療機関が労働基準監督署長へ請求手続きを行います。
労災指定病院は厚生労働省のウェブサイトで調べることができます。
イ:労災指定病院以外を受診した場合(療養の費用の請求)
労災指定病院以外の医療機関を受診した場合は、被災従業員は一旦治療費を全額支払います。このとき、健康保険を使うことはできません。
支払後に、労働基準監督署長へ請求書と治療費の領収書を提出し、労災認定後に立替えた治療費の金額の給付を受けることになります。
▶参考:療養補償給付請求の流れフロー図
・参照元:厚生労働省「労災保険 請求(申請)できる保険給付等」(pdf)
療養補償給付(療養給付)に関して全般的に詳しく解説した記事や、請求手続きについては厚生労働省ホームページも参考になりますので、以下もご参照ください。
労災事故による怪我や病気の治療に、健康保険を使うことはできません。誤って健康保険を使ってしまった場合は、受診した医療機関に労災による傷病だったことを伝えて、労災保険へ切り替えてもらいましょう。
なお、病院によっては労災への切り替え手続きをしてもらえない場合があります。その場合は、健康保険組合に連絡して、被災従業員自身で切り替えの手続きを行うことになります。切り替えには手間がかかるので、最初から健康保険を使わないよう注意する必要があります。
労災病院に関して、手続きや支払いについて詳しくは以下の記事でも解説していますのでご参照ください。
2,休業補償給付請求の流れ
労働災害による怪我や病気が原因で休業して賃金の支払いを受けられない場合は、休業4日目から休業補償給付が支給されます。
なお、業務災害の場合は休業補償給付、通勤災害の場合は休業給付と呼ばれますが、支給の内容は同じです。
「休業補償給付支給請求書」(通期災害の場合は「休業給付支給請求書」)を労働基準監督署長に提出し、調査の結果、労災認定がされれば休業補償が支給されるという流れです。
休業した全ての期間分をまとめて請求することも、期間を区切って請求していくこともどちらも可能です。
ただし、まとめて請求する場合は、時効に注意が必要です。
時効については、「3,労災申請手続きの期限」で解説します。
▶参考:休業補償給付請求の流れフロー図
・参照元:厚生労働省「労災保険 請求(申請)できる保険給付等」(pdf)
休業補償給付がどのような計算で支給されるかという点については、以下で解説していますのであわせてご参照ください。
また、休業補償給付に関して全般的に詳しく解説した記事や、請求手続きについては厚生労働省ホームページも参考になりますので、以下もご参照ください。
▶参考情報:労災の休業補償とは?わかりやすい解説まとめ
業務による怪我や病気で従業員が仕事を休む時も、労災からの休業補償給付は休業4日目から支給されます。休業3日目までは待期期間と呼ばれ労災からの給付はありませんが、事業主の負担で休業補償をする必要があります(労働基準法76条)。
労災の休業補償の会社負担分については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
3,障害補償給付請求の流れ(後遺障害認定手続きの流れ)
労災による怪我や病気の症状が、一定以上の障害を残したまま、これ以上治療しても良くなる見込みがない症状固定の状態になった場合、障害補償給付を請求できます。
業務災害の場合は障害補償給付、通勤災害の場合は障害給付と呼ばれますが、支給の内容は同じです。
主治医の作成した後遺障害の診断書と請求書を労働基準監督署長に提出し、後遺障害の認定手続きをすることになります。
調査の結果、後遺障害等級が決定すれば障害補償給付が支給されます。
後遺障害に関する等級認定をはじめ金額や具体的な手続きについては、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
▶参考:障害補償給付請求の流れ(後遺障害認定手続きの流れ)フロー図
・参照元:厚生労働省「労災保険 請求(申請)できる保険給付等」(pdf)
障害補償給付の請求手続きは以下もご参照ください。
(4)誰が手続きをするのか?
労災については、被災者が直接労働基準監督署長に請求書を提出して手続きする方法と、会社を通じて労働基準監督署長に請求書を提出して手続きする方法があります。
1,被災者が直接労働基準監督署長に請求書を提出して手続きする方法
労災の申請手続きは、原則として、被災した従業員本人、従業員が亡くなっている場合はその遺族が労働基準監督署長に直接、請求書を提出して行います。
2,会社を通じて手続きする方法
労災の申請手続きを会社が代行することもでき、実際にも多くの会社で労災手続きは会社を通じて行われています。
また、法律上も、被災した従業員本人が労災請求の手続きをすることが難しい場合、会社は従業員の労災申請をサポートすることが義務付けられています(助力義務。労災保険法施行規則23条1項)。
この場合、会社の人事担当者等が労働基準監督署長に請求書を提出することになります。
3,派遣労働者、アルバイト、日雇い労働者の労災申請
アルバイトや日雇いの従業員も会社と雇用契約を結んでいれば労災保険の補償対象です。正社員と同様に、被災従業員本人か会社が代行して申請手続きを行います。
一方、派遣労働者の場合は、本人もしくは派遣元の会社が代行して申請手続きを行います。派遣先ではなく、雇用関係にある派遣元の会社で労災保険の適用を受けるからです。
ただし、派遣先にも労働基準監督署長への報告義務がありますので、派遣元は派遣先にも労働災害があったことを報告する必要があります。
4,公務員の労災申請
公務員は労災保険の対象ではなく、「公務員災害補償制度」の対象となります。
(5)どこに申請するのか?
労災の申請書類は、管轄の労働基準監督署長に提出します。
ただし、労災病院や労災指定病院で治療を受けた場合の治療(療養補償給付)については、労働基準監督署長ではなく病院へ申請書類を提出します。
労働基準監督署の管轄については、以下をご参照ください。
3,労災申請手続きから給付までにかかる期間
労災申請してから給付までにかかる期間の目安は給付の種類ごとに異なります。
給付の内容 | 支給までにかかる期間の目安 |
療養補償給付・療養給付 | 1か月程度 |
休業補償給付・休業給付 | 1か月程度 |
障害補償給付・障害給付 | 3か月程度 |
遺族補償給付・遺族給付 | 4か月程度 |
いずれもあくまで目安の数字であり、実際にはこれ以上の期間を要する場合もあります。
特に、精神疾患の労災請求や、過労死、過労自殺の労災請求については、認定基準も複雑で調査に期間を要する傾向にあります。
これらの労災請求は支給までにおおむね6か月以上かかります。
4,労災申請の必要書類
次に、労災申請の必要書類についてみていきましょう。
(1)申請様式の入手方法
労災申請に必要な書類は、所定の様式で作成された請求書です。
申請様式は、労働基準監督署もしくは厚生労働省のホームページから入手することができます。
申請様式は給付の内容ごと、また業務災害か通勤災害かによって異なります。
(2)療養補償給付・療養給付の申請に必要な書類
給付の内容 | 申請様式 |
療養補償給付(業務災害) ※労災(指定)病院で診療を受けた場合 |
様式第5号 |
療養給付(業務災害) ※労災(指定)病院で診療を受けた場合 |
様式第16号の3 |
療養補償給付(通勤災害) ※労災(指定)病院以外で診療を受けた場合 |
様式第7号 |
療養給付(通勤災害) ※労災(指定)病院以外で診療を受けた場合 |
様式第16号の5 |
病院変更の届出 | 様式第6号 |
(3)休業補償給付・休業給付の申請に必要な書類
給付の内容 | 申請様式 |
休業補償給付(業務災害) | 様式第8号 |
休業給付(通勤災害) | 様式第16号の6 |
(4)障害補償給付・障害給付の申請に必要な書類
給付の内容 | 申請様式 |
障害補償給付(業務災害) | 様式第10号 |
障害給付(通勤災害) | 様式第16号の7 |
5,必要書類の書き方(申請様式の記入例)
以下では、必要書類の書き方について、申請様式の記入例をご紹介していきます。
1,様式第5号、様式第16号の3
労災病院または労災指定の医療機関を受診した場合の治療に関する給付を請求するための様式です。
受診した医療機関に提出します。
2,様式第7号、様式第16号の5
労災(指定)病院以外の医療機関を受診した場合の治療費を請求するための様式です。受診した医療機関に提出します。
3,様式第6号 病院変更の届出
通院中の労災指定病院や薬局から、別の労災指定病院や薬局に変更するときに提出する様式です。病院を変更するときだけではなく、複数の病院に通院するときにも提出が必要です。変更後の医療機関に提出します。
「1~3」の記入例は以下をご参照ください。
4,様式第8号、様式第16号の6
休業に関する給付を請求するための様式です。労働基準監督署長に提出します。
5,様式第10号、様式第16号の7
障害に関する給付を請求するための様式です。労働基準監督署長に提出します。
労災の必要書類、書き方などについては、以下の記事で詳しく解説していますのでこちらをご参照ください。
6,申請手続きの期限
次に、労災申請手続きには時効があるため、期限に注意する必要があります。
以下では、労災請求の時効期限に関して具体的な説明と、申請期限を過ぎてしまった場合どうなるのか?について解説いたします。
(1)労災請求の時効
労災請求には時効があります。
給付の種類ごとに時効の起算日と期限が異なりますので注意しましょう。
1,療養補償給付の時効
- 時効期限:2年
- 起算日:治療費など療養に関する費用を支払った日ごとにその翌日
2,休業補償給付の時効
- 時効期限:2年
- 起算日 :賃金の支払いを受けない日ごとにその翌日
3,障害補償給付の時効
- 時効期限:5年
- 起算日 :症状固定(治ゆ)した日の翌日
(2)申請期限を過ぎてしまった場合
労災申請の時効期間を過ぎてしまうと遡って請求することはできません。
時効が成立した分については、労災保険の給付を受けられなくなるので、できるだけ速やかに請求の手続きを進めましょう。
7,労災申請をしたくない場合
ここまでは労災の申請に関して手続きや流れについて解説してきましたが、一方で、被災者本人が労災申請したくない場合や、会社側が労災申請を拒否したい場合はどのように対応すればよいでしょうか?
以下では、被災者本人が労災申請をしたくない場合の対応方法や労災申請しないデメリット、また会社側が労災申請を拒否することができるかどうかについて解説します。
(1)被災者本人が労災申請をしたくない場合
労災申請の手続きがよくわからない、労災を使って会社に嫌がられると困る、などの理由で従業員が労災申請を望まない場合があるかと思います。
労災の申請をするかどうかは本人が決めることなので、本人が申請したくない場合は申請しないことは可能です。ただし、本人が労災を使わない場合も、一定の場合、会社には労災事故の発生を労働基準監督署長に報告する義務があります。
これを怠ると会社がいわゆる「労災隠し」となり、罰則の適用があります(労働安全衛生法第100条違反として50万円以下の罰金)。
そのため、刑事事件として捜査され、書類送検されることもあります。また、会社が公共事業を行っている場合には指名停止となる可能性もあります。
本人が労災を使いたくない場合でも、労災事故が発生したときは必ず会社に報告するように従業員に指導しましょう。また、本人が労災を使用しない場合でも、会社が労災発生を認識したときは、労働基準監督署長への報告が必要ないかを確認することが重要です。
どのような場合に報告が必要になるかや、どのように報告すればよいかについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(2)労災申請をしない場合のデメリット
労災申請をしない場合、従業員と会社双方にデメリットが生じる可能性があります。
まず、従業員のデメリットは労災からの給付を受けることができないことです。
また、労働災害による怪我や病気の治療のための通院には、労災保険を使わない場合であっても、健康保険を使うことができません。そのため、被災者が治療費全額を自己負担することになります。
次に、従業員が労災申請をしない場合の会社のデメリットは、従業員から労災について損害賠償請求をされた場合に賠償額が高額化することです。
従業員は、業務が原因で怪我をしたり、病気になった場合、労災申請しなくても、会社に対し、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求をすることができます。
その際に労災申請をしていれば、労災から支給された治療費等は賠償の対象にはなりません。しかし、労災申請をしていない場合は、本来、労災から支給されるはずの部分も含めて会社に賠償請求されることになります。
労災の損害賠償請求の算定方法は以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(3)労災申請を会社が拒否することはできるのか
労災申請をすることは、従業員の権利であり、会社がこれを拒否することはできません。たとえ、会社が労災には当たらないと考えていても、従業員は労災申請をすることが可能です。
また、会社には従業員の労災申請を助ける義務があります。
労災保険法施行規則は、「保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」としています(労災保険法施行規則23条1項)。
さらに、労災保険法施行規則は、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」としています(労災保険法施行規則23条2項)。
これを事業主証明といいます。
しかし、従業員は労災だと主張しているが、会社としては労災ではないと考えるときは、従業員が求める事業主証明にそのまま対応すべきではありません。
このような場合の会社の対応については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
8,労災事故の虚偽報告について
労災事故の発生状況などについて虚偽の内容で、労働基準監督署長に報告すると、労働安全衛生法違反として、罰則を科されます(労働安全衛生法第100条違反として50万円以下の罰金)。
また、労災申請にあたっても、特に災害の発生原因について、正しい申請をすることが求められます。
▶参考:虚偽報告の送検事例
・フォークリフトを無資格者に運転させていた際に発生した労働災害について、無資格運転を隠すために、被災者が移動中に転んだなどと虚偽の労働者私傷病報告を提出したとして送検された事例(令和4年4月11日送検 群馬・高崎労働基準監督署)
・取引先との関係悪化を防ぐために、取引先工場内で起きた労災を、自社の車庫内で起きたと発生場所を偽って労働者私傷病報告を提出したとして送検された事例(令和3年12月9日送検 神奈川・横浜西労働基準監督署)
9,パワハラによるうつ病などの精神疾患での労災申請手続き
パワハラによるうつ病などの精神疾患も労災認定の対象です。他の傷病と同様の手続きで労災申請をし、労災に認定されれば給付を受けることができます。
うつ病など精神疾患の労災についての基礎知識は、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
ただし、従業員はパワハラによって精神疾患になったと主張している場合でも、会社としてはパワハラはなかったと考える場合は、会社の見解を意見書として、労災の調査を担当する労働基準監督署に伝えていくことが必要です。
弁護士に意見書の作成を依頼することも適切です。
会社の見解を労働基準監督署に伝える努力を怠ると、従業員の誤った報告により、会社としては不本意な労災認定がされてしまう危険があります。
パワハラの労災請求についての会社の対応については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
10,労災申請に関する企業側の対応について弁護士に相談したい方はこちら
最後に、労災申請の場面での咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご説明します。
なお、咲くやこの花法律事務所は、企業側の立場でのみご相談をお受けしており、一般の従業員からのご相談はお受けしておりません。
(1)労災申請についての企業側の対応のご相談
労災が発生したときは、会社は速やかに適切な対応をすることが求められます。初期対応を誤ると、被災者との関係が悪化し、紛争、訴訟に発展することがあります。
一方で、被災者の労災請求について、会社としては労災ではないと考える場合は、会社の見解を意見書という形で整理して労働基準監督署に伝え、誤った労災認定がされないようにすることも必要です。
対応の誤りによるトラブルを防ぐためには、初期段階で、弁護士に正しい対応、必要な対応を確認しておくことが重要です。咲くやこの花法律事務所では、労災申請について企業側の立場から以下のようなご相談をお受けしています。
- 労災申請の手続きについての対応方法のご相談
- 労災申請書類の記載方法や提出に関するご相談
- 労働基準監督署長による調査への対応に関するご相談
- 会社として労災ではないと考える場合の労災申請への対応に関するご相談
労災申請に精通した弁護士へのご相談費用
- 初回相談料 30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(2)労務管理全般をサポートする顧問弁護士サービス
咲くやこの花法律事務所では、企業の労務管理全般をサポートするための、顧問弁護士サービスも提供しております。
トラブルが起こったときの正しい対応、迅速な解決はもちろんのことですが、平時からの労務管理の改善によりトラブルに強い会社を作っていくことがなによりも重要です。日ごろから顧問弁護士の助言を受けながら、労務管理の改善を進めていきましょう。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
11,咲くやこの花法律事務所の労災トラブルに関する解決実績
最後に、咲くやこの花法律事務所における労災トラブルに関する企業向けのサポートの解決実績の一部を以下でご紹介しております。
あわせてご参照ください。
・労災事故の後遺障害の認定結果を覆し、請求約1930万円を1/7以下に減額した解決事例
12,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
労災の申請に関する相談などは、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
13,労災に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
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14,【関連情報】労災に関するお役立ち関連記事
この記事では、「労災の申請の方法とは?手続きの流れについてわかりやすく解説」についてご紹介しました。労災に関しては、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しく知識を理解しておかねければ対応方法を誤ってしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・労災事故とは?業務中・通勤中の事例を交えてわかりやすく解説
・ぎっくり腰は労災にならない?仕事で発症した腰痛の労災認定について
・労災の休業補償の期間は?いつからいつまで支給されるかを詳しく解説
注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2024年8月20日