こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
労災の後遺障害について調べていませんか?
労災の後遺障害とは、労災によるケガや病気について治療をしても完治せず、治療後も、身体または精神に障害が残ってしまう場合をいいます。 例えば、労災事故で骨折して治療後も痛みやしびれが残ったり、パワハラや長時間労働に起因する精神疾患が完治せずに障害が残るなどのケースが典型例です。身体の障害と精神の障害の両方が労災による補償対象です。
このような場合に、労災において、後遺障害等級が認められれば、従業員は労災保険から後遺障害についての補償を受けることができます。
後遺障害に対する労災の補償は、障害補償給付と呼ばれ、以下のものがあります。
●後遺障害等級第1級から第7級に該当するとき:
障害補償等年金、障害特別年金、障害特別支給金
●後遺障害等級第8級から第14級に該当するとき:
障害補償等一時金、障害特別一時金、障害特別支給金
適正な後遺障害等級を認定してもらうためには、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、労働基準監督署長に、請求書を提出した後、調査官と面談をしたりと様々なステップを踏む必要があります。
この時、後遺障害等級について理解が不十分で、提出書類に不備があったり、請求できる期限が過ぎてしまったりすると、給付が受けられない可能性があります。
体に残った障害の程度に対して、適切な等級を認定してもらうためには、正しく手続きを行い、面談において症状を詳細に伝えるなどして、適切に対応することが必要です。
手続きは複雑に感じるかもしれませんが、しっかりと流れを理解して適切な補償を受けることができるようにすることが大切です。
この記事では、労災の後遺障害等級とその認定について詳しく解説したうえで、手続きの流れについて説明します。
この記事を最後まで読めば、労災の後遺障害について正しく理解し、手続きの流れやその際の注意点について理解いただけるはずです。
最初に労災の後遺障害をはじめとする労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、従業員との間の労災トラブルについてご相談を承っています。
労災によって後遺障害が残った場面では、その補償をめぐって従業員とトラブルになりやすい場面の1つです。企業の立場からも、従業員の既往症や従業員の過失について主張していく必要があります。
従業員から、労災による後遺障害について補償を求められた場面で、その対応にお困りのときは、早めに労災に強い弁護士にご相談いただきますようにお願い致します。
労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安などは、以下の記事で解説していますので参考にご覧ください。
▶参考情報:労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
また、労災トラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決事例の1つを以下で紹介していますので、こちらもご参照ください。
▼労災の後遺障害に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,労災による後遺障害とは?
- 2,後遺障害の等級とその認定について
- 3,等級ごとの金額
- 4,後遺障害の診断書について
- 5,後遺障害申請における面談について
- 6,支給決定通知について
- 7,しびれは12級か14級に該当することが多い
- 8,指の後遺障害について
- 9,後遺障害が認定されない場合
- 10,後遺障害を申請するタイミング
- 11,慰謝料・逸失利益など従業員からの損害賠償請求における会社の対応ポイント
- 12,労災の後遺障害に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人向け)
- 13,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
- 14,労災の後遺障害についてに関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
- 15,【関連情報】労災に関するお役立ち関連記事
1,労災による後遺障害とは?
労災によってケガや病気をしてしまった際は、その治療費や通院にかかる交通費などについて、療養補償給付を受け、かかった費用の補償を受けることができます。
そして治療を行った結果、「治ゆ」した時点で、その補償はストップされます。また、労災によるケガや病気で働けなかった期間について支給される「休業補償給付」も打ち止めとなります。
そして、ここでいう「治ゆ」とは、ケガや病気が完治した場合だけでなく、これ以上治療を受けても症状の改善が期待できないといった、「症状固定」も含まれます。
症状固定となり、仕事をする上で支障が出るような後遺障害が残った場合、労災によって「後遺障害等級」が認定されると、「障害補償給付」が支給されます。
障害補償給付には、年金として継続的に支給される「障害補償等年金」と、一時的に支給される「障害補償等一時金」があります。
この他にも、「障害特別年金」や「障害特別一時金」などが支給されます。
詳しくは、以下の「3,等級ごとの金額」でご説明いたしますので、ご参照ください。
障害補償等年金、障害補償等一時金は、業務によるケガや病気の後遺障害に対する補償です。
これに対して、通勤中の事故のケガによる後遺障害に対しては、障害等年金、障害等一時金が支給されますが、その内容は、障害補償等年金、障害補償等一時金と同様です。
なお、労災年金の制度の内容については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
2,後遺障害の等級とその認定について
労災によるケガや病気によって、治療後も従業員に障害が残った場合、障害補償給付の請求をすれば、その障害の内容や程度に応じて、「後遺障害等級」が認定されます。
そしてその等級が認定されるまでには、いくつかのステップを踏む必要があります。
(1)後遺障害の等級について
後遺障害等級は1級から14級まであり、数字が小さくなるほど重度な障害が認められたということになります。
最も重度な後遺障害等級1級に認定される場合は、「両目を失明した場合」や「両手の肘以上を切断した場合」などの、かなり重度な障害となります。
一方で、一番軽度な後遺障害等級14級となると、腰痛が残ったり、ケガをした部位にしびれが残っていたり、まつ毛の一部がはげている、などといった程度のものが認定されます。
各後遺障害の等級の内容は後遺障害の等級表として定められており、以下の通りです。
高い等級に認定されるほど、労災から支給される金額は高額になります。
▶参考:労災保険の障害等級表
等級 | 障害の内容 |
第 一 級 |
一 両眼が失明したもの 二 そしやく及び言語の機能を廃したもの 三 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 四 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 五 削除 六 両上肢をひじ関節以上で失つたもの 七 両上肢の用を全廃したもの 八 両下肢をひざ関節以上で失つたもの 九 両下肢の用を全廃したもの |
第 二 級 |
一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 の二 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 二 の三 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 三 両上肢を手関節以上で失つたもの 四 両下肢を足関節以上で失つたもの |
第 三 級 |
一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 二 そしやく又は言語の機能を廃したもの 三 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 四 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 五 両手の手指の全部を失つたもの |
第 四 級 |
一 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 二 そしやく及び言語の機能に著しい障害を残すもの 三 両耳の聴力を全く失つたもの 四 一上肢をひじ関節以上で失つたもの 五 一下肢をひざ関節以上で失つたもの 六 両手の手指の全部の用を廃したもの 七 両足をリスフラン関節以上で失つたもの |
第 五 級 |
一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの 一 の二 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 一 の三 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 二 一上肢を手関節以上で失つたもの 三 一下肢を足関節以上で失つたもの 四 一上肢の用を全廃したもの 五 一下肢の用を全廃したもの 六 両足の足指の全部を失つたもの |
第 六 級 |
一 両眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 そしやく又は言語の機能に著しい障害を残すもの 三 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 三 の二 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 四 せき柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 五 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 六 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 七 一手の五の手指又は母指を含み四の手指を失つたもの |
第 七 級 |
一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 二 の二 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 三 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 四 削除 五 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 六 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指を失つたもの 七 一手の五の手指又は母指を含み四の手指の用を廃したもの 八 一足をリスフラン関節以上で失つたもの 九 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 一 〇 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 一 一 両足の足指の全部の用を廃したもの 一 二 外貌に著しい醜状を残すもの 一 三 両側のこう丸を失つたもの |
第 八 級 |
一 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 せき柱に運動障害を残すもの 三 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指を失つたもの 四 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指の用を廃したもの 五 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの 六 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 七 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 八 一上肢に偽関節を残すもの 九 一下肢に偽関節を残すもの 一 〇 一足の足指の全部を失つたもの |
第 九 級 |
一 両眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 三 両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 四 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 五 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 六 そしやく及び言語の機能に障害を残すもの 六 の二 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 六 の三 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 七 一耳の聴力を全く失つたもの 七 の二 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 七 の三 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 八 一手の母指又は母指以外の二の手指を失つたもの 九 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの 一 〇 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの 一 一 一足の足指の全部の用を廃したもの 一 一の二 外貌に相当程度の醜状を残すもの 一 二 生殖器に著しい障害を残すもの |
第 一 〇 級 |
一 一眼の視力が〇・一以下になつたもの 一 の二 正面視で複視を残すもの 二 そしやく又は言語の機能に障害を残すもの 三 十四歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 三 の二 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 四 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 五 削除 六 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの 七 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの 八 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの 九 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 一 〇 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
第 一 一 級 |
一 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 二 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 三 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 三 の二 十歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 三 の三 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 四 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 五 せき柱に変形を残すもの 六 一手の示指、中指又は環指を失つたもの 七 削除 八 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの 九 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
第 一 二 級 |
一 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 二 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 三 七歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 四 一耳の耳かくの大部分を欠損したもの 五 鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 六 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 七 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 八 長管骨に変形を残すもの 八 の二 一手の小指を失つたもの 九 一手の示指、中指又は環指の用を廃したもの 一 〇 一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの 一 一 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの 一 二 局部にがん固な神経症状を残すもの 一 三 削除 一 四 外貌に醜状を残すもの |
第 一 三 級 |
一 一眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 二 の二 正面視以外で複視を残すもの 三 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 三 の二 五歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 三 の三 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの 四 一手の小指の用を廃したもの 五 一手の母指の指骨の一部を失つたもの 六 削除 七 削除 八 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの 九 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの 一 〇 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの |
第 一 四 級 |
一 一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの 二 三歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 二 の二 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 三 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 四 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 五 削除 六 一手の母指以外の手指の指骨の一部を失つたもの 七 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの 八 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 九 局部に神経症状を残すもの 一 〇 削除 |
一 視力の測定は、万国式視力表による。屈折異常のあるものについてはきよう正視力について測定する。
二 手指を失つたものとは、母指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失つたものをいう。
三 手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(母指にあつては指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
四 足指を失つたものとは、その全部を失つたものをいう。
五 足指の用を廃したものとは、第一の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失つたもの又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第一の足指にあつては指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
▶引用元:厚生労働省「労働者災害補償保険法施行規則 別表第一 障害等級表」
(2)後遺障害の認定までの流れ
後遺障害の認定は、以下の流れで行われます。
- 1.主治医から症状固定との診断を受ける
- 2.後遺障害診断書を医師に作成してもらう
- 3.障害補償給付申請書を労働基準監督署長に提出する
- 4.労働基準監督署の調査官との面談
- 5.審査結果の通知
また、労働基準監督署の調査官との面談では、提出書類では確認できないことなどを中心に質問されます。
面談時のポイントについては、以下の「5,後遺障害申請における面談について」をご確認ください。
(3)提出する申請書類
障害補償給付の申請には、請求書を労働基準監督署長に提出して行います。
請求書は以下の決まった書式で提出する必要があります。
- 業務災害の場合:障害補償給付支給請求書(様式第10号)
- 通勤災害の場合:障害給付支給請求書(様式第16号の7)
これらの書式は、下記リンクの厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。
また、請求書の書き方等については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
また、請求書と一緒に、後遺障害があることを証明するため、以下の資料も提出しなければなりません。
- 後遺障害診断書
- レントゲン・MRIなどの検査結果の資料
(4)時効に注意
なお、後遺障害の認定の時効については、以下の通りです。
症状固定との診断を受け、その翌日から5年が経過すると、時効により障害補償給付の請求ができなくなってしまいますので注意してください。
3,等級ごとの金額
後遺障害等級が認定されると、労災から年金や一時金の支給を受けることができます。
支給される金額や補償の内容は等級によって異なります。
(1)後遺障害に対する補償内容
後遺障害に対する労災の補償には以下のものがあります。
●後遺障害等級第1級から第7級に該当するとき:
障害補償等年金、障害特別年金、障害特別支給金
●後遺障害等級第8級から第14級に該当するとき:
障害補償等一時金、障害特別一時金、障害特別支給金
補償には「年金」と「一時金」がありますが、これらは、毎年継続的に支給されるものか、一度だけ支給されるものかという点で異なります。
例えば、障害補償等年金や障害特別年金については、毎年支給されるもので、継続的に受け取ることができます。これらは、等級が1級から7級に認定された人が支給対象となります。
一方で、障害補償一時金、障害特別一時金及び障害特別支給金は、一度支給されるのみです。これらの支給対象となるのは、8級から14級ですが、障害特別支給金については、全ての等級の人に支給されます。
(2)「給付基礎日額」と「算定基礎日額」
ここまでご説明した補償について支給される金額は等級によって異なります。そしてその金額は、「給付基礎日額」または「算定基礎日額」に基づいて計算されます。
1,「給付基礎日額」とは?
「給付基礎日額」とは、「労災事故が発生した日から直前の3か月分の労働者に対して支払われた給料」を、「3か月分の日数」で割った額のことです。
例えば、給与が30万円の労働者が労災事故にあった場合、
となります。
2,「算定基礎日額」とは?
一方で、「算定基礎日額」は、「労災事故以前の1年間に労働者に対して支払われた特別給与(ボーナスなど)」を、365日で割った金額を指します。
例えば事故日以前の1年間で50万円のボーナスを受け取っていた場合、
となります。
これらの額が何日分支給されるかが、等級ごとに定められています。
(3)等級ごとの支給額
「給付基礎日額」と「算定基礎日額」についてご説明いたしましたが、これらの日額が以下の通り各補償に適用されています。
1,後遺障害等級第1級から第7級に該当するとき
- 障害補償等年金については、給付基礎日額をベースに、以下の表に定める日数分の支給が毎年行われます。
- 障害特別年金については、算定基礎日額をベースに、以下の表に定める日数分の支給が毎年行われます。
- 障害特別支給金については、等級ごとに以下の表に定められた金額が1回のみ支給されます。
▶参考:後遺障害等級第1級から第7級に該当するときの支給額一覧
等級 | ①障害補償等年金 (給付基礎日額ベース) |
②障害特別年金 (算定基礎日額ベース) |
⑤障害特別支給金 |
1級 | 313日分 | 313日分 | 342万円 |
2級 | 277日分 | 277日分 | 320万円 |
3級 | 245日分 | 245日分 | 300万円 |
4級 | 213日分 | 213日分 | 264万円 |
5級 | 184日分 | 184日分 | 225万円 |
6級 | 156日分 | 156日分 | 192万円 |
7級 | 131日分 | 131日分 | 159万円 |
2,後遺障害等級第8級から第14級に該当するとき
- 障害補償等一時金については、給付基礎日額をベースに、以下の表に定める日数分の支給が1回のみ行われます。
- 障害特別一時金については、算定基礎日額をベースに、以下の表に定める日数分の支給が1回のみ行われます。
- 障害特別支給金については、等級ごとに以下の表に定められた金額が1回のみ支給されます。
▶参考:後遺障害等級第8級から第14級に該当するときの支給額一覧
等級 | ③障害補償等一時金 (給付基礎日額ベース) |
④障害特別一時金 (算定基礎日額ベース) |
⑤障害特別支給金 |
8級 | 503日分 | 503日分 | 65万円 |
9級 | 391日分 | 391日分 | 50万円 |
10級 | 302日分 | 302日分 | 39万円 |
11級 | 223日分 | 223日分 | 29万円 |
12級 | 156日分 | 156日分 | 20万円 |
13級 | 101日分 | 101日分 | 14万円 |
14級 | 56日分 | 56日分 | 8万円 |
4,後遺障害の診断書について
後遺障害を申請する際は、後遺障害診断書を提出する必要があります。
これは、医師に作成してもらう必要があり、費用は大抵5,000円~10,000円程になります。この時、診断書の作成について、労災保険から4,000円の補償を受けることができ、それを超えた分の費用は従業員の負担となります。
診断書作成にかかる料金は病院によって異なるため、事前に病院に確認してもよいでしょう。
以下では後遺障害の作成を医師に依頼する従業員の立場において知っておきたいポイントをご説明します。
(1)後遺障害診断書作成の依頼時のポイント
後遺障害診断書は、後遺障害を認定してもらう上でとても重要な資料となります。
これに不備があると、実際より低い等級に認定されてしまったり、そもそも後遺障害が認定されない、といったことになりかねません。
そのため、後遺障害診断書の作成を医師に依頼する際は、以下のポイントを意識しましょう。
- 1.自分の症状がどの等級に該当するのかをきちんと把握しておく
- 2.自分の症状を、可能な限り詳しく正確に医師に伝える
医師に症状を正確に伝えるために、できれば、事前に自分の症状についてメモにまとめ、それを医師に渡して、後遺障害診断書を作成してもらう際の参考にしてもらうのもよいでしょう。
(2)診断書の作成に前向きでない医師もいる
後遺障害診断書を作成してもらうよう医師に依頼する時、あまり作成に前向きでない医師も少なからずいます。
「治療をしたのに治らなかった」という証明をしなければならないのは、医師にとっても嬉しいことではないはずです。
しかしそういった場合でも、後遺障害診断書が等級の認定において、いかに重要であるかを説明し、真摯に作成を依頼する必要があります。
それでも作成してもらえない場合には、病院を変えるといった対応も検討する必要があります。
5,後遺障害申請における面談について
無事に障害補償給付請求書を労働基準監督署長に提出し、後遺障害の申請ができたら、次は労働基準監督署の調査官または地方労災医員とよばれる医師と面談をする必要があります。
ここでは、提出した後遺診断書などからでは判断できないことを中心に質問されます。
面談の際は、聞かれたことに対してしっかりと回答し、ここでも症状を詳細に伝えていくことが重要です。
6,支給決定通知について
後遺障害が認定されると、支給決定通知兼支払振込通知というハガキが従業員の自宅に届きます。
逆に、後遺障害が認定されなかった場合は、不支給決定通知が届きます。
(1)審査請求の期限は3か月
支給決定通知書には、認定された後遺障害等級が記載されています。または、不支給決定通知により、後遺障害が認定されなかった旨が知らされます。
この通知に対して、不服がある場合は、通知されてから3か月以内に審査請求を行う必要があることに注意が必要です。
以前は、この期限は1か月と定められていましたが、3か月に引き延ばされました。まず、審査請求書のみを提出し、証拠等の提出は後から行うことも可能です。
7,しびれは12級か14級に該当することが多い
後遺障害として、体にしびれが残っている場合は、「神経症状の障害」として、以下の等級に該当する可能性があります。
- 12級12号:「局部にがん固な神経症状を残すもの」
- 14級9号:「局部に神経症状を残すもの」
12級と14級の差は、しびれの症状が「がん固」か否かという点にあります。
これは、しびれの症状を確認できるMRIやCTなどの画像所見(他覚所見)があるかという点で区別されています。
他覚所見があれば12級12号が認定され、他覚所見がなくても症状が続いている場合は14級9号が認定されます。
なお、しびれの程度によっては、より高い後遺障害等級が認定されることもあります。
8,指の後遺障害について
労災の事故によって、指を負傷し、以前のように曲がらなくなってしまった場合は、以下の通り等級が認定される可能性があります。
▶参考:指の後遺障害の等級認定一覧
等級 | 症状 |
第4級の6 | 両手の手指の全部の用を廃したもの |
第7級の7 | 一手の五の手指又は母指を含み四の手の用を廃したもの |
第8級の4 | 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指の用を廃したもの |
第9級の9 | 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの |
第10級の6 | 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの |
第12級の9 | 一手の手指、中指又は環指の用を廃したもの |
第13級の4 | 一手の小指の用を廃したもの |
第14級の7 | 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの |
この「用を廃したもの」というのは、「中間指節間関節又は近位指節間関節(母指については指節間関節)の可動域が健側の角度の2分の1以下に制限されるとき」を指します。
つまり分かりやすく言うと、「指の付け根の関節、あるいは第2関節(親指の場合は第1関節)が、健康な指に比べて半分以上曲がらない場合」に、「用を廃したもの」とされます。
この時、指が曲がらない場合でも、その角度が半分以上制限されていない場合は、「用を廃した」とは認められないため、等級が認定されないことに注意が必要です。
具体的には以下のイメージです。
- 1.両手の全ての指が半分以上曲がらなくなった:後遺障害等級第4級の6
- 2.親指の動きが半分になった:後遺障害等級第10級の6
- 3.親指以外のいずれかの指の第1関節がほとんど動かなくなった:後遺障害等級第14級の7
上記の通り、一番重度な場合は後遺障害等級4級が認定されます。一方で、小指の第1関節が曲がらない等の軽度なものには、後遺障害等級14級が認定されます。
9,後遺障害が認定されない場合
労災で後遺障害を申請しても後遺障害として認定されないケースもあります。
特に、痛みやしびれについては、MRIなどで痛みやしびれの原因が確認できないことがあります。
そのような場合でも、継続的に通院が続けられ、一貫した症状を訴えているときは後遺障害が認定されますが、通院が途切れたり、症状が一貫していないときは後遺障害が認定されない傾向になります。
また、後遺障害の等級表に該当しないような後遺症については、後遺障害として認定されません。
例えば、上肢に残った傷あとなど(醜状痕)については「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」が14級3号の後遺障害とされており、手のひらの大きさより小さい傷跡等については、後遺障害認定されません。
10,後遺障害を申請するタイミング
後遺障害を申請するタイミングは、主治医に確認することが適切です。
主治医がひととおりの治療が終わり、症状固定したと判断したタイミングで申請することが適切です。
11,慰謝料・逸失利益など従業員からの損害賠償請求における会社の対応ポイント
会社としては、労災で後遺障害が残った場合、後遺障害についての補償の問題が出てきます。
労災では、後遺障害が残ったことによる慰謝料や逸失利益(将来想定される減収による損害)の補償はされませんので、こういった損害について、従業員から損害賠償請求を受けることがあります。
その場合、まず、会社としては本当に後遺障害が労災が原因なのかどうか、労災が原因だとしても病気や怪我について従業員の過失があることを主張できないのかといった点を検討すべきでしょう。
また、後遺障害等級が何級と認定されるかによって、従業員に対する損害賠償額が大きく変わってきます。
労災の後遺障害認定において誤って高い等級が認定されているときは、従業員から損害賠償請求を受けた際に、会社側の立場で正しい等級を主張していくことが重要になります。
労災では後遺障害11級が認定されたものの、会社側の立場で反論した結果、裁判所では後遺障害は14級と判断され、大幅に損害賠償額を減額させるに至った事例を以下でご紹介していますのでご参照ください。
また、労災において会社が負担する損害賠償額の計算方法については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
12,労災の後遺障害に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人向け)
咲くやこの花法律事務所では、労災についてのご相談を企業側の立場でお受けしております。
具体的なサポート内容は、以下の通りです。
(1)労災事故発生時の対応のご相談
労災事故が発生した際は、初期の段階から正しい対応をする必要があります。
労災申請にかかる書類については、事業主証明に適切に対応し、従業員の主張が過大であるといった場合には、労働基準監督署長への意見申出制度をしっかり活用して、会社側の見解を労働基準監督署の調査に反映することが大切です。
これらの点は、労働基準監督署による調査中に行わなければなりませんので、労災事故発生後できるだけ早い段階でご相談いただくことをおすすめします。
早くご相談いただければその分だけ会社の主張を労災の調査に反映させることができます。咲くやこの花法律事務所では労災対応に精通した弁護士がご相談に対応致します。
労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
労災申請があった場合の会社側の対応については以下でも解説していますのでご参照ください。
(2)従業員からの損害賠償請求への対応
従業員から、発生した労災事故について安全配慮義務違反や、使用者責任等の損害賠償を請求されることがあります。こういった場合にも、誤った対応をしてトラブルを拡大してしまう前に、初期の段階で専門の弁護士に相談することが大切です。咲くやこの花法律事務所では労災対応に精通した弁護士がご相談に対応致します。
早い段階で専門の弁護士に相談することにより、従業員の過失や怪我の程度など、反論すべきところはしっかり反論しつつ、迅速な解決を実現していくことができます。
労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(3)労務管理全般をサポートする顧問弁護士サービス
咲くやこの花法律事務所では、労災トラブルの場面はもちろん、その他の場面においても、企業の労務管理全般をサポートするための、顧問弁護士サービスも提供しております。
トラブルが起こったときの正しい対応、迅速な解決はもちろんのことですが、平時からの労務管理の改善によりトラブルに強い会社を作っていくことがなによりも重要です。日ごろから顧問弁護士の助言を受けながら、労務管理の改善を進めていきましょう。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
13,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
労災の後遺障害についてなど労働問題に関するご相談は、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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15,【関連情報】労災に関するお役立ち関連記事
この記事では、「労災による後遺障害とは?等級認定や金額、手続きなどを解説」についてご紹介しました。労災に関しては、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ対応方法を誤ってしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・労災保険とは?保険料の金額や加入条件、手続きなどを徹底解説
・労災事故とは?業務中・通勤中の事例を交えてわかりやすく解説
・労災の申請の方法とは?手続きの流れについてわかりやすく解説
・労災の補償制度とは?補償内容や金額、支払われる期間を詳しく解説
・労災の休業補償の期間は?いつからいつまで支給されるかを詳しく解説
・労災が発生した際の報告義務のまとめ。遅滞なく届出が必要な場合とは?
・ぎっくり腰は労災にならない?仕事で発症した腰痛の労災認定について
・労災病院のメリットと手続き、支払いについてわかりやすく解説
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記事更新日:2023年5月23日
記事作成弁護士:西川暢春