こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
仕事中に腰痛やぎっくり腰を発症した場合、労災認定の対象になるでしょうか?
また、会社は、従業員が腰痛やぎっくり腰について労災保険の利用を希望した場合、これに応じる必要があるのでしょうか?
基本的には、腰痛を発症して医師により療養の必要があると診断された場合、「業務遂行性」と「業務起因性」が認められるときは労災の対象になります。
「業務遂行性」とは仕事中に起きた災害かどうか、「業務起因性」とは、仕事に原因がある災害かどうかを判断する基準です。
ただし、腰痛やぎっくり腰は、日常生活を送っているだけでも発症します。そのため、仕事中に発症したとしても、業務起因性があるかどうか(仕事に原因がある災害かどうか)の判断が難しいことがあります。そこで厚生労働省では、腰痛が業務上のものとして労災認定できるかどうかを判断するための認定基準を定めています。
この記事では、腰痛の労災認定基準や、従業員から腰痛について労災保険利用の希望があった場合の事業者側の対応について詳しく解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、腰痛について労災認定の見込みがあるかどうかや、事業者側の対応について正しく理解し、自信をもって対応できるようになるはずです。
それでは見ていきましょう。
▶参考:なお、労災全般についての基礎知識を最初に確認しておきたい方は以下をご参照ください。
腰痛が労災かどうかをめぐって、従業員と事業者の間で意見の食い違いが生じる場面は、その後労使紛争に発展し得ることを見据えて、弁護士に相談することをおすすめします。
特に従業員から労災申請の希望が出てきた最初の段階で会社側の対応を誤ってしまうと不信感から紛争が長期化するケースが多いです。紛争化する前の早い段階で労災に強い弁護士へのご相談をおすすめします。腰痛の訴えは訴訟トラブルになることがあり、腰痛が事業者の安全配慮義務違反によるものだとして、1000万円を超える賠償を命じる裁判例も存在します(東京地方裁判所判決令和2年8月25日等)。
労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安などは、以下の記事で解説していますので参考にご覧ください。
▶参考情報:労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
また、咲くやこの花法律事務所の労災トラブルに関する解決実績をご紹介しておりますので、こちらもご参照ください。
▼腰痛やぎっくり腰の労災対応について、弁護士の相談を相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,腰痛の労災認定基準とは?
- 2,認定要件
- 3,仕事中のぎっくり腰は労災の対象にならない
- 4,椎間板ヘルニアなどの既往症がある場合
- 5,腰痛の労災認定によって補償される内容、金額や補償期間
- 6,腰痛の労災申請に診断書は必要か?
- 7,腰痛に関する報告書
- 8,長時間のデスクワークによる腰痛で労災認定されるのか?
- 9,パートやアルバイトの腰痛やぎっくり腰は労災の対象になるのか?
- 10,保育士の腰痛
- 11,介護士の腰痛
- 12,テレワーク(在宅勤務)中の腰痛
- 13,業務上腰痛の認定事例
- 14,腰痛で労災に認定される割合はどのくらいか?
- 15,腰痛について従業員から労災である旨の報告を受けた場合の事業者側の対応
- 16,腰痛が業務によるものである場合の事業者の責任
- 17,業務による腰痛の予防について
- 18,腰痛での労災対応に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
- 19,まとめ
- 20,【関連情報】労災に関するお役立ち記事一覧
1,腰痛の労災認定基準とは?
腰痛の労災認定基準とは、労働基準監督署長が腰痛が労災かどうかを判断する際の基準です。突発的に急激な力が作用する出来事による「災害性の原因による腰痛」と業務による腰への負担が長期間蓄積されたことによる「災害性の原因によらない腰痛」にわけて基準が設けられています。
腰痛はもともと慢性的に持病として抱えていたり、日常生活上の動作によって発症したりすることも多いため、仕事中に腰を痛めたからといって、それが業務に起因するものなのかを区別することが難しい症状です。
そのため、厚生労働省が腰痛を労災認定できるかどうかを判断するために認定基準を定め、労働基準監督署長の労災認定はこの基準に基づき行われています。
2,認定要件
前述の通り、腰痛の労災認定基準では、労災の対象となる腰痛を2種類に区分しています。「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」です。
以下で、それぞれの認定要件を見ていきましょう。
なお、労災認定の対象となる腰痛は医師により療養の必要があると診断されたものに限ります。症状の軽い腰痛はそもそも労災の認定対象にはならないので注意しましょう。
(1)災害性の原因による腰痛(仕事中の突発的に急激な力が作用するような出来事による腰痛)
「災害性の原因による腰痛」が労災として認定されるための要件は、次の「1」、「2」の両方を満たすことです。
- 1.腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
- 2.腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的にみとめられること
つまり、「災害性の原因による腰痛」とは、仕事中に何らかの拍子で腰に急激かつ強い負担がかかったことが原因で生じた腰痛のことを指します。
作業中に転倒する、高所から落下する、などの直接的に怪我の原因となる事故が起きた場合だけでなく、荷物の運搬中に足を滑らせそうになって踏ん張った拍子に腰を痛めてしまった場合なども含まれます。
具体例としては以下のようなケースです。
具体例1:
重量物の運搬作業中に転倒した場合や、重量物を2人で担いで運搬する最中にそのうち1人が滑って肩から荷をはずした場合のように、突然の出来事により急激な強い力がかかったことにより生じた腰痛
具体例2:
持ち上げる重量物が予想に反して、重かったり、逆に軽かったりする場合や、不適当な姿勢で重量物を持ち上げた場合のように、突発的で急激な強い力が腰に異常に作用したことにより生じた腰痛
(2)災害性の原因によらない腰痛(腰への負担が長時間蓄積されたことによる腰痛)
「災害性の原因によらない腰痛」の認定要件は、突発的な出来事が原因ではなく、腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるものであることです。
災害性の原因によらない腰痛は、発症原因によって以下の「1」と「2」に分けられます。これらにあてはまる場合は労災補償の対象となります。
1,筋肉等の疲労を原因とした腰痛
次のような業務に約3か月以上従事したことによる筋肉等の疲労を原因として発症した腰痛
・約20kg以上の重量物を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務
例)港湾荷役 など
・毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務
例)配電工による柱上作業 など
・長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を持続して行う業務
例)長距離トラックの運転 など
・腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務
例)車両系建設用機械の運転 など
2,骨の変化を原因とした腰痛
次のような重量物を取り扱う業務に約10年以上継続して従事したことによる骨の変化を原因として発症した腰痛です。
- 約30kg以上の重量物を、労働時間の3分の1程度以上に及んで取り扱う業務
- 約20kg以上の重量物を、労働時間の半分程度以上に及んで取り扱う業務
なお、骨の変化は加齢によっても生じるものです。そのため、骨の変化を原因とした腰痛が労災補償の対象と認められるには、通常の加齢による変化の程度を明らかに超える場合に限られます。また、「1,筋肉等の疲労を原因とした腰痛」の業務に約10年以上従事したことによる骨の変化を原因とする腰痛が生じた場合も労災補償の対象となります。
3,仕事中のぎっくり腰は労災の対象にならない
ぎっくり腰は、重いものを持ち上げようとしたときや、お辞儀をしたとき、立ち上がろうとしたときなど日常的な動作の中で生じるものなので、仕事中に発症したとしても、基本的には労災補償の対象にはならないとされています。
ただし、発症時の動作や姿勢の異常性などから腰への強い力の作用があったといえる場合は、ぎっくり腰の発症原因が業務上のものと認められて、労災補償の対象になる可能性があります。
4,椎間板ヘルニアなどの既往症がある場合
椎間板ヘルニアなどの既往症や持病がある労働者が、仕事が原因で腰痛が再発したり、重症化したりした場合も、「2,認定要件」で説明した要件を満たしていれば労災認定の対象になります。
ただし、仕事が原因で腰痛の症状が悪化した場合、労災で補償されるのは、悪化する前の状態に回復させる治療に限られます。そのため、既往症や持病があった場合は、腰痛が完全に治るまでずっと補償されるわけではありません。
5,腰痛の労災認定によって補償される内容、金額や補償期間
腰痛が労災に認定された場合には、以下のような補償給付を受けることが可能です。
(1)病院の治療費
労災保険によって病院の治療費が補償されます。治療費の他にも、薬代や入院料、通院交通費など、治療のためにかかった費用が「療養補償給付」として支給されます。
▶参考:労災の療養補償給付については以下で解説していますのでご参照ください。
治療費が補償されるのは、症状固定(医師の判断でこれ以上治療を続けていても症状が変わらないという状態)になるまでの期間です。
(2)整骨院の施術費
腰痛の場合、整形外科だけでなく整骨院に通院することもあるでしょう。
腰痛で労災に認定されると、整骨院の施術費も「療養補償給付」によって補償されます。
(3)休業補償
腰痛が労災認定されると、次の2つの要件を満たす場合に休業補償給付が支給されます。
- 腰痛のために労働することができない期間が4日以上であること
- 労働できないために、会社から賃金を受けていないこと
休業4日目から症状固定するまで、腰痛治療のために仕事を休んだ日について休業補償給付が支給されます。1日あたりの給付金額は、腰痛を発症する直前の3ヶ月間に支払われた賃金の総額をその期間の日数で割った1日あたりの金額の80%にあたる金額(休業特別支給金を含む額)になります。
▶参考:労災の休業補償給付については以下で解説していますのでご参照ください。
▶参考:また、労災の補償内容全般については以下の記事をご参照ください。
6,腰痛の労災申請に診断書は必要か?
腰痛やぎっくり腰で労災申請する場合も、必要書類は基本的に他の怪我や病気で労災申請するときと同じです。
治療費や休業補償給付の請求時に診断書を提出する必要はありません。ただし、申請後に追加で医師の意見書などの提出を求められる場合があります。
また、休業補償給付を請求するための「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」や「休業給付支給請求書(様式第16号6)」には、病院に記入を依頼する必要のある「診療担当者の証明」欄があります。この欄に、療養のために仕事ができない状態であったことについて、医師の証明を受ける必要があります。このように、診断書ではなく、請求書の所定の欄に、傷病名などを医師が記入する形式となっています。
▶参考:労災申請の必要書類については以下の参考記事をご参照ください。
7,腰痛に関する報告書
腰痛やぎっくり腰で労災申請した場合、労働基準監督署長から「腰痛に関する報告書」や「災害発生状況等報告書」という書類を提出するよう求められることがあります。
これは労働局が腰痛が業務上の原因によるものかどうかを判断するための資料になるもので、腰痛を発症したときの現場の状況や、作業中の姿勢、取り扱っていた物の重さなどの詳細を記入します。
報告書の様式は管轄の労働局によって異なりますので、提出するよう指示されたときに個別に確認しましょう。
▶参考:大阪労働局の「災害発生状況報告書」の書式
・参照元:大阪労働局「災害発生状況報告書」
▶参考:大阪労働局の「災害発生状況報告書」のワード形式の書式は、以下よりダウンロードしていただけます。
8,長時間のデスクワークによる腰痛で労災認定されるのか?
長時間椅子に座って同じ姿勢で仕事をしていると、腰痛を発症したり悪化したりすることがあります。こういった場合、業務上の原因による腰痛として労災が認定されるのでしょうか。
この点については、「2,認定要件」の「(2)災害性の原因によらない腰痛」でご説明したとおり、以下に該当する業務による腰痛は労災の対象になります。
- 毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を取ったまま行う業務
- 長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を持続して行う業務
しかし、通常考えられるデスクワークは不自然な姿勢とはいえず、また、いくら長時間の勤務であったとしても、途中で立ち上がって姿勢を変えたり、腰を伸ばしたりすることも十分可能です。そのため、デスクワークによる腰痛で労災認定されるケースは、多くありません。
9,パートやアルバイトの腰痛やぎっくり腰は労災の対象になるのか?
労災保険は雇用形態に関係なく全ての労働者が対象です。つまりパートやアルバイトの従業員も労災の対象になります。
「2, 認定要件」で説明した認定要件を満たしていれば、パートやアルバイトの従業員でも腰痛で労災補償を受けることができます。また、ぎっくり腰は、前述の通り、通常は労災認定の対象とはなりませんが、発症時の動作や姿勢の異常性などから腰への強い力の作用があったといえる場合は、労災補償の対象になる可能性があります。
10,保育士の腰痛
保育士は、仕事中に園児を繰り返し抱き抱えたり、園児の身長にあわせて中腰や前傾の姿勢になりがちであったりするため、日常的に腰に大きな負担がかかり、腰痛やぎっくり腰を発症しやすい職業です。
保育士が腰痛等を発症したことについて業務との因果関係があると裁判で認められた例もあります(大阪地方裁判所判決 平成10年2月16日)。
ただし、基本的には、「2,認定要件」の「(1)災害性の原因による腰痛」にも「(2)災害性の原因によらない腰痛」にも当たらないことが多く、ぎっくり腰や日常的な腰への負担による腰痛で労災が認定されることは多くありません。
11,介護士の腰痛
介護士も、利用者の車いすやベッドへの移動介助や入浴介助などの業務によって腰痛やぎっくり腰を発症しやすい職業です。
しかし、腰の疲労の蓄積による腰痛やぎっくり腰は、加齢や筋力不足などの業務以外の原因も考えられ、労災が認定されるケースは多くありません。
12,テレワーク(在宅勤務)中の腰痛
コロナ禍以降、テレワーク(在宅勤務)が急速に広がりました。テレワーク(在宅勤務)中の腰痛についても、災害性の原因による腰痛、災害性の原因によらない腰痛のそれぞれについて、「2,認定要件」でご説明した要件を満たせば、労災認定の対象になります。
厚生労働省は、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の別紙2の労働者用チェックリストにおいて、「作業等を行うのに十分な空間が確保されているか。」「無理のない姿勢で作業ができるように、机、椅子や、ディスプレイ、キーボード、マウス等について適切に配置しているか。」といった腰痛防止のためのチェック項目も設けています。事業主としても留意することが必要です。
13,業務上腰痛の認定事例
では、どのような場合であれば、労災認定されるのでしょうか?
腰痛についての労災認定事例としては、以下の例があげられます。
事例1:
事務職員に発生した災害性の腰痛
会社の倉庫内から約10kgの荷物を運び出そうとした事務職員が、倉庫内に狭い空間しかなかったために不自然な姿勢で荷物を持ち上げたところ、腰に激しい痛みを覚え、そのまま動けなくなり、病院に搬送され、腰部捻挫の診断を受けた事例です。
荷物に囲まれて身動きがとりづらい状態の倉庫内で、腰に無理のかかる姿勢で目的の荷物を持ち上げたことによって、強い力が腰の筋肉に作用して腰痛が発症したとみられるため、災害性の腰痛として労災認定されました。
事例2:
電気工事労働者に発生した非災害性の腰痛
電柱に上って作業する業務に約3年従事した電気工事会社の作業員が腰痛を発症し、医師から筋・筋膜性腰痛と診断された事例です。
この作業員は、毎日3時間程度電柱の上で作業していました。作業中に腰部にとって不自然かつ無理のかかる姿勢を保持する必要があることから、腰部の筋肉に継続的な負担がかかり、それが原因で腰痛が発症したと認められて労災認定されました。
14,腰痛で労災に認定される割合はどのくらいか?
腰痛で労災に認定された割合は公表されていません。
令和4年度中に非災害性腰痛で労災の支給が決定した人数は64人でした。
・参照元:厚生労働省「令和4年度 業務上疾病の労災補償状況調査結果 (全国計)」(pdf)
15,腰痛について従業員から労災である旨の報告を受けた場合の事業者側の対応
次に、腰痛について従業員から労災申請の希望があった場合の事業者側の対応についてみていきたいと思います。
(1)事業者としても業務による腰痛であると考える場合
事業者としても業務による腰痛であると考える場合は、従業員の労災申請手続に協力するとともに、腰痛による休業がある場合は労働基準監督署長への報告が義務付けられていることにも注意する必要があります(労働安全衛生規則第97条)。
▶参考:労災の申請手続や労働基準監督署長への報告義務については以下で解説していますのでご参照ください。
なお、事業者としても業務による腰痛であることがわかっているにもかかわらず、労災保険の申請をしないことを従業員にすすめ、労災保険の申請を断念させることは、適切な診療を受けることを妨げる安全配慮義務違反とされることがあります(東京地方裁判所判決令和2年8月25日)。
また、従業員が、労災申請を希望しない場合であっても、事業者は労働基準法に基づき、治療費や休業期間中の賃金等の補償をする義務を負うことに注意してください(労働基準法第75条から第77条)
▶参考:労働基準法第75条から第77条
(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。
(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
② 使用者は、前項の規定により休業補償を行つている労働者と同一の事業場における同種の労働者に対して所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの各区分による期間(以下四半期という。)ごとの一箇月一人当り平均額(常時百人未満の労働者を使用する事業場については、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における当該事業場の属する産業に係る毎月きまつて支給する給与の四半期の労働者一人当りの一箇月平均額。以下平均給与額という。)が、当該労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた日の属する四半期における平均給与額の百分の百二十をこえ、又は百分の八十を下るに至つた場合においては、使用者は、その上昇し又は低下した比率に応じて、その上昇し又は低下するに至つた四半期の次の次の四半期において、前項の規定により当該労働者に対して行つている休業補償の額を改訂し、その改訂をした四半期に属する最初の月から改訂された額により休業補償を行わなければならない。改訂後の休業補償の額の改訂についてもこれに準ずる。
③ 前項の規定により難い場合における改訂の方法その他同項の規定による改訂について必要な事項は、厚生労働省令で定める。
(障害補償)
第七十七条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治つた場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。
・参照元:「労働基準法」の条文はこちら
(2)事業者としては業務による腰痛ではないと考える場合
この記事でもご説明してきた通り、腰痛は日常生活や加齢でも発症します。また、腰痛の発症は、転倒などで発症する事例を除けば、外部の第三者から見えるものではなく、事業者として本当に業務による腰痛なのかわからないことも多いでしょう。
事業者としては業務による腰痛ではないと考える場合であっても従業員は労働基準監督署長に直接労災の請求書を送る等の方法により、労災の請求をすることは可能です。
その場合、事業者としては、労働基準監督署長に対して意見申出書を提出するなどの方法によって、業務による腰痛ではないと考えている旨を、その根拠とともに労働基準監督署長に伝え、誤った労災認定がされないように活動していく必要があります。労災保険法施行規則第23条の2に意見申出書の制度が定められています。
▶参考:労災保険法施行規則第23条の2
第二十三条の二 事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害に関する保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる。
2 前項の意見の申出は、次に掲げる事項を記載した書面を所轄労働基準監督署長に提出することにより行うものとする。
一 労働保険番号
二 事業主の氏名又は名称及び住所又は所在地
三 業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害を被つた労働者の氏名及び生年月日
四 労働者の負傷若しくは発病又は死亡の年月日
五 事業主の意見
なお、労災保険法施行規則23条第2項は、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」としていますが、これについては、事業主が労災該当性を争っているときにまで 、 証明をする義務を事業者に課すものではありません。大阪地方裁判所判決 平成24年2月15日(建設技術研究所事件)等でこの点が判示されています。
▶参考:労災申請があった場合の会社側の対応の注意点を以下で解説していますのでご参照ください。
16,腰痛が業務によるものである場合の事業者の責任
腰痛が業務を原因とするものである場合、事業者は業務に起因して腰痛を発症させたことについて安全配慮義務違反があるときは、労働者に対して損害賠償責任を負います。
この損害賠償責任が多額なものになることもあり、過去の裁判例でも、例えば、腰痛を原因とする約1年半の休職と治療後も残る後遺障害について、1300万円を超える賠償を命じた例もあります(東京地方裁判所判決 令和2年8月25日)。
また、労働基準法第19条1項により、従業員が、業務を原因とする腰痛の治療のために休業する期間及びその後30日間は、労働者保護の観点から、解雇が禁止されることになります。
この点については、以下で解説していますのでご参照ください。
▶参考:労働基準法第19条1項
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
・参照元:「労働基準法」の条文はこちら
17,業務による腰痛の予防について
労働契約法により、事業者には、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする事が義務付けられています(労働契約法第5条)。また、従業員が腰痛を発症すると、痛みにより仕事がはかどらず、事業にも影響が出てきます。
これらの観点から、厚生労働省も、「職場における腰痛予防対策指針」により、事業者に対策を求めています。
(1)厚生労働省が求める対策の例
- 作業台の高さは肘の曲げ角度がおよそ90度になる高さとすること
- 低温は腰痛を悪化させ、または発生させやすくするので、作業場内の温度を適切に保つこと
- 腰部に著しい負担のかかる作業に常時従事する労働者に対し、腰痛予防体操を実施させること
- 重量物取扱い作業等に従事する労働者については、当該作業に配置する際及びその後必要に応じ、腰痛予防のための労働衛生教育を実施すること
- 腰痛の発生に関与する要因のリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいて適切な予防対策を実施していくという手法を導入すること
▶参考:厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」の詳細は以下をご参照ください。
厚生労働省は腰痛を発症しやすい業種などを対象に業種ごとの腰痛予防対策動画を公開するなどして腰痛の予防を呼びかけています。これらの情報も踏まえ、事業者として、業務による腰痛の防止に取り組んでいくべきでしょう。
▶参考:厚生労働省の「腰痛予防対策」の詳細は以下をご参照ください。
18,腰痛での労災対応に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
咲くやこの花法律事務所では、従業員が仕事が原因で腰痛を発症した場合の対応あるいはそのように主張された場合の対応について、企業側の立場からご相談を承っています。
(1)従業員からの腰痛やぎっくり腰についての労災主張に対する対応のご相談
従業員が業務が原因で腰痛やぎっくり腰を発症したと主張しているが、事業者側が労災とは考えていない場合は、慎重な対応が必要です。
まず、従業員が業務で取り扱う重量物の重量や形状重量、作業姿勢や作業時間、またその作業に従事した期間等は認定上の客観的な条件になりますので、正確に把握し、労災の調査を行う労働基準監督署に伝えることが重要です。
また、事業者が業務起因の腰痛とは考えない場合は、従業員の労災請求について事業主証明をせずに、「事業主証明をしないことについての理由書」を労働基準監督署長宛に提出したり、意見申出制度(労災保険法施行規則23条の2)を活用して、従業員の主張に疑問があることを労働基準監督署に伝えていく等、対応に工夫が必要です。
そこで、咲くやこの花法律事務所では以下のようなご相談を企業からお受けしています。
- 従業員からの労災主張への対応方法についてのご相談
- 従業員から事業主証明を求められた場合の対応に関するご相談
- 労働基準監督署からの事情聴取に関するご相談
- 労働基準監督署長への事業者側弁護士による意見書提出のご相談
咲くやこの花法律事務所の労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(2)従業員から慰謝料を請求された場合の対応の相談
業務が原因で発症した腰痛については、会社に安全配慮義務違反があったとして、従業員から慰謝料や損害賠償を請求される場合があります。
反論すべきところはしっかりと反論し、実際に安全配慮義務違反があった場合も、慰謝料や損害賠償の相場を理解して、適切な金額を提示していくことが大切です。
咲くやこの花法律事務所では、慰謝料、損害賠償を請求された際の対応についての相談もお受けしております。労災に精通している経験豊富な弁護士が対応いたしますので、是非ご相談ください。
労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(3)顧問弁護士サービス
咲くやこの花法律事務所では、事業主の労務管理全般をサポートするための、顧問弁護士サービスも提供しております。
トラブルが起こったときの正しい対応、迅速な解決はもちろんのことですが、平時からの労務管理の改善によりトラブルに強い会社を作っていくことがなによりも重要です。日ごろから顧問弁護士の助言を受けながら、労務管理の改善を進めていきましょう。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
腰痛に関する労災についてのご相談は、下記から気軽にお問い合わせください。弁護士の相談を相談したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
19,まとめ
この記事では、腰痛の労災認定基準や、従業員から腰痛について労災申請の希望があった場合の事業者側の対応についてご説明しました。
仕事中に発症した腰痛は、「災害性の原因による腰痛」と「災害性の原因によらない腰痛」の2つに大きく分けられ、それぞれの認定基準を満たしていれば労災に認定されます。
ただ、実際の腰痛は複合的な理由で発症することも多く、仕事中に腰痛が発生したというだけで、労災が認定されるわけではありません。
また、従業員から腰痛について労災申請の希望があった場合に、事業者として仕事が原因で腰痛が発生したことを確認できない場合は、事業主証明はするべきではないことに注意してください。
20,【関連情報】労災に関するお役立ち記事一覧
この記事では、「ぎっくり腰は労災にならない?仕事で発症した腰痛の労災認定について」について、わかりやすく解説いたしました。
労災については、基本的な制度内容はもちろん、実際に腰痛やぎっくり腰などの労災トラブルが発生した際は、労災かどうかの判断をはじめ、初動からの正しい対応方法など全般的に理解しておく必要があります。
そのため、他にも労災に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・労災事故とは?業務中・通勤中の事例を交えてわかりやすく解説
・労災隠しとは?罰則の内容や発覚する理由などを事例付きで解説
・労災保険とは?保険料の金額や加入条件、手続きなどを徹底解説
・労災病院のメリットと手続き、支払いについてわかりやすく解説
注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年11月20日
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