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労災隠しとは?罰則の内容や発覚する理由などを事例付きで解説

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  • 労災隠しとは?罰則の内容や発覚する理由などを事例付きで解説
    • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    • この記事を書いた弁護士

      西川 暢春(にしかわ のぶはる)

      咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
    • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

    こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

    労災隠しとは、どういった状況をいうのか、わからないで調べていませんか?

    労災隠しとは、報告が必要な労働災害が起きたにもかかわらず、労働基準監督署長に労働者死傷病報告を行わない、または虚偽の報告をすることをいいます。

    労働災害を隠す意図がなければ良いというわけではなく、労働者死傷病報告を期限内に提出するのを忘れる等、手続きに瑕疵があった場合も労働者死傷病報告義務違反として労働局から指導を受けたり、刑事罰の対象となってしまいます。

    労災隠しは、労働者からの内部告発や労働基準監督署の調査、あるいは労働者が受診した病院からの通報によって発覚することが多く、50万円以下の罰金が科されます。罰金の額自体は大きくありませんが、刑事罰を受けることにより、金融機関から融資を受けることができなくなったり、仕事を受注するための入札に加われなくなったりするなど、企業の存続にかかわりかねない影響が出ることがあります。

    この記事では、どういった行為が労災隠しに当てはまるのかといったことや、労災隠しについての罰則、労働者本人が労災申請を拒否する場合の対応等について詳しく解説します。この記事を最後まで読めば、労災隠しについて詳しく知ることが出来るはずです。

    それでは見ていきましょう。

    なお、労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。

     

     

    「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

    報告義務の対象となる労災が発生した際は、迅速に労働基準監督署長への適切な報告を行うのはもちろんのことですが、報告内容について、事実関係を誤認されないよう注意する必要があります。社内で事故等の内容を調査した結果、事故状況について会社として主張すべき点がある場合は、労働基準監督署の労災調査の場面で、会社の言い分をしっかりと伝えることが必要です。

    労災報告時の記載の不備や誤りによって労働基準監督署に事実関係を誤認されたり、初期対応の誤りによって被害者との関係がこじれて紛争化するケースも少なくありません。初期対応が重要ですので、自社の判断で行動せず、事故後、早い段階で労災に強い弁護士に相談して正しい対応を確認することが適切です。

    労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安などは、以下の記事で解説していますので参考にご覧ください。

     

    ▶参考情報:労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安

     

    ▼労災隠しに関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

    【お問い合わせについて】

    ※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

    「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

     

     

    1,労災隠しとは?

    労災隠しとは?

    労災隠しとは、労働安全衛生法により労働基準監督署長への報告が義務付けられる種類の労働災害が起きたにもかかわらず、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しない、または虚偽の内容を報告することをいいます。労災隠しは犯罪であり、50万円以下の罰金が課されます。

    労災が起きた場合、事業者は「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署長に提出する義務があります(労働安全衛生法第100条1項)。

    提出が必要な場合は、以下の4つのケースです(労働安全衛生規則第97条1項)。

     

    • 1.労働者が労働災害により、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
    • 2.労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
    • 3.労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
    • 4.労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき

     

    ▶参考:労働安全衛生法第100条

    第百条 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

    2 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、必要な事項を報告させることができる。

    3 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

    ・参照元:「労働安全衛生法」の条文はこちら

     

    ▶参考:労働安全衛生規則第97条

    第九十七条 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

    2 前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

    ・参照元:「労働安全衛生規則」の条文はこちら

     

    2,労働者死傷病報告の提出様式や提出期限

    上記の「労働者死傷病報告」は被災労働者について労災の治療のために必要となる休業日数によって提出様式や提出期限が異なります。

    具体的には「休業4日以上または死亡した場合」と、「休業4日未満の場合」とで分けられており、それぞれ以下のように報告義務が定められています(労働安全衛生法第97条2項)。なお、労災で怪我をしたが休業する必要がないといった場面では、労働者死傷病報告の必要はありません。

     

    (1)休業4日以上または死亡した場合

    労働者が労働災害により死亡、または4日以上の休業した際は、遅滞なく、様式第23号による報告書を労働基準監督署長に提出する必要があります。この「遅滞なく」の文言については、一律に何日以内であればよいといった解釈はなく、ケースバイケースで判断されます。基本的には被災労働者が4日以上休業し、医師の診断を受けたら速やかに提出するのが原則であり、合理的な理由が無い限りは、報告の遅れは許されません。

     

    (2)休業4日未満の場合

    労働者が、労働災害により休業し、その休業が4日未満だった場合は、各四半期(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)発生分について、それぞれの期間の最後の月の翌月末までに、様式第24号の報告書を所轄の労働基準監督署長に提出する必要があります。例えば、1~3月発生分の報告の場合、翌月の4月30日までに提出することになります。

    労災が発生した場合の報告義務の内容は以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

     

     

    3,労災隠しの事例

    次に、労災隠しの事例を見ていきましょう。

    労災隠しの事例としては、主に2つのパターンがあり、前述の労働者死傷病報告を提出しないケースと、労働者死傷病報告に虚偽の内容を記載して提出するケースがあります。刑事事件として書類送検されることも少なくありません。

    それぞれ実際に書類送検された事例を以下でご紹介します。

     

    (1)労働者死傷病報告を提出しないことにより書類送検されたケース

     

    ゴム製品製造業者が休業50日間の労働災害と休業2日間の労働災害の計2件を隠したとして書類送検された事例:

    工場に勤務する労働者が作業を行っていた台の上から降りようとしたところ、床の上の枕木を踏みつけて足を捻挫する事故が起こり、被災労働者は2日間の休業を余儀なくされました。会社側は提出期限までに労働者死傷病報告を提出しなければならなかったにもかかわらず、これを怠っていました。

    また、その後、別の労働者が足を骨折する事故が発生し、労働者は50日間休業しました。休業が4日以上の事故については遅滞なく労働者死傷病報告を提出しなければならないにもかかわらず、会社側はまたも報告を怠っていました。

    このことにより工場の職長2人と作業長1人が労働安全衛生法第100条1項(報告等)違反の疑いで、所轄の労働基準監督署により書類送検されました。

     

    (2)労働者死傷病報告に虚偽の内容を記載して提出するケース

     

    建設会社が住宅工事現場の死亡事故において、災害発生当時の現場の状況について虚偽の内容を記載したとして書類送検された事例

    住宅新築工事現場において、労働者が作業床を設けず、労働安全衛生法に違反する状態で作業を行ったため、約2メートル墜落し死亡する事故が発生しました。ところが、この事業主は社会保険労務士と共謀し、法令違反についての捜査を免れる目的で、作業床を設置した適法な状態での作業における労働災害であるという虚偽の内容を労働者死傷病報告を提出しました。

    事業主と社会保険労務士は、労働安全衛生法違反の疑いで書類送検されています。

     

    4,企業が労災隠しをしてしまう理由

    次に、企業が労災隠しをしてしまうのにはどのような理由があるのか見ていきましょう。

    一般的には、下記のような理由が考えられます。

     

    • 労働災害を報告したことをきっかけとして、労働基準監督署の調査等が入り、事故について法律違反が発覚したり、刑事責任を問われることを避けるため
    • 労働災害を報告したことをきっかけとして、労働基準監督署の調査等が入り、別にある何らかの法律違反の発覚(例えば加入義務のあるはずの労災保険に入っていない等)を恐れるため
    • 労働災害を報告した結果、報道され、企業イメージが損なわれる恐れがあるため

     

    また、特に労災隠しが起こりやすいとされる業種の1つが、建設業です。その理由として、以下のような建設業に特有の理由が挙げられます。

     

    (1)労災事故を報告することによる元請会社との関係の悪化を恐れるため

    建設業の労災保険においては、一般の企業とは違い、現場ごとにおいて下請会社は元請会社と一体とみなされ、工事に参加する企業すべてが一つの事業体として取り扱われます。

    そのため、工事現場で労災事故が起きた場合、下請会社であっても元請会社が加入する労災保険で補償されることになります。労災事故が起こると労災保険の保険料が上がる、指名停止をされる等のデメリットがあるため、元請会社に迷惑をかけることを恐れ、下請会社が労災隠しを行う場合が多くみられます。

     

    (2)労働安全衛生法違反による刑事責任の追及を恐れるため

    建設業の工事現場では、効率を重視するあまりしかるべき安全措置を取らず、労働安全衛生法違反の状態で工事を進める企業も少なくありません。

    そのような状態で労災事故が発生した場合、労働基準監督署に労災発生を報告して、工事現場に災害調査が入れば、労働安全衛生法違反が発覚してしまいます。労働安全衛生法に違反した場合、刑罰が科せられるため(労働安全衛生法第115条の3~第123条)、それを恐れて労災隠しが行われる場合が多くみられます。

     

    ▶参考情報:労働安全衛生法違反については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

    労働安全衛生法違反の刑事責任と必要な対応を事例をもとに解説

     

    5,企業の労災隠しは違法!罰則の対象に

    どのような理由があれ、労災隠しは違法です。もし労災隠しが判明した場合、企業は罰則の適用を受けることになります。

    労働安全衛生法120条第5号では、労働者死傷病報告の提出をしなかったり、虚偽の報告をした場合には50万円以下の罰金に処される旨が規定されています。

     

    ▶参考情報:労働安全衛生法120条第5号

    第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
    五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

    ・参照元:労働安全衛生法の条文はこちら

     

    6,労災隠しはなぜばれるのか?

    労災隠しはなぜばれるのかという質問をする方もおられます。

    これについては、労災隠しの結果、労災保険からの補償を受けられないことに不満をもった被災労働者が労働基準監督署に通報(内部告発)することにより発覚する例が多いです。労災隠しをすることを決めた当初は、治療費や休業中の給与等を事業主が負担して被災労働者の不満がでないようにしている例が多いですが、休業期間が長引くと、事業主としてもだんだんとこれらの費用の負担ができなくなり、それを不満に思った被災労働者が内部告発するパターンです。

    また、次にご説明するように、被災労働者が治療を受けた医療機関が、不審に思って、労働基準監督署に通報し、それにより労災隠しが発覚する例もあります。

    なお、当然のことですが、ばれなければよいという考え方はもちろん誤りであり、発覚するか否かにかかわらず、労災隠しは許されません。

     

    7,労災隠しに対する病院の通報等の対応

    病院では、業務が原因の怪我や病気については、労災保険を使用する必要があり、健康保険を使用することは出来ません。診察の過程で、患者の負傷の原因が労災であると判明した場合、病院が労働基準監督署に通報するケースがあります。

    この点については、古い資料ですが、大阪府医師会の労災部会が平成7年に大阪府下の労災指定医療機関を対象として行った「労災隠しに関するアンケート調査結果」が参考になります。

    この調査結果を見ると、「明らかに業務上の負傷であるにもかかわらず事業主が5号あるいは16号の3の用紙を患者に交付しないで、貴医療機閲と患者、事業主との間でトラブルが起きた経験はありますか。」といった設問に対して、しばしばあると回答した医療機関の割合は2.6%、ときどきあると回答した医療機関の割合が35.5%となっています。

    次に、「患者または事業主が労災での取扱いを拒んだ場合、どう対処されましたか。」といった設問に対しては、以下のような回答結果となっています(重複回答を含む)。

     

    • 患者に説明をし、労災請求用紙の提出を求めた:81.6%
    • 事業主に労災の手続きを取るよう連絡した:33.7%
    • 患者の判断に任せた:35.3%
    • 労働基準監督署に通報した:3.9%

     

    アンケート結果を見ると、病院側の対応としては労災保険を利用するための用紙の提出を求めたり、事業主に労災の手続きを取るよう連絡するといった対応にとどまっている例が多いですが、労働基準監督署に通報したと回答した医療機関もあり、病院からの通報により労災隠しが発覚する例があることがわかります。

    上記の「労災隠しに関するアンケート調査結果」の内容について、詳しくは以下をご覧ください。

     

     

    8,被災労働者本人が労災申請を拒否する場合

    大ごとにしたくない、自分のミスによるものだからといった理由で被災した労働者本人が労災申請を拒否する場合があります。また、労災保険への請求手続きが面倒だからといった理由で労働者本人が労災保険を使いたがらないこともあります。

    労災保険による補償を受けるかどうかは労働者の自由ではあるため、労災申請しないことも可能です。ただし、労働者本人が労災申請を拒否していたとしても、事業者側の「労働者死傷病報告」の提出義務が無くなるわけではありません。

    従業員が労災保険を利用するかどうかと、事業者が労災について報告義務を負うかは、別問題です。従業員から労災にしたくないと希望があったからといって、事業者が労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しないと労災隠しになってしまうため、注意が必要です。

     

    9,労災隠しをした場合の本人のデメリット

    企業が労災隠しをしてしまうと、被災労働者にも以下のようなデメリットがあります。

     

    (1)医療費が全額自己負担になる

    労働災害の場合は、健康保険を使うことはできません(健康保険法第55条1項)。

    労働災害については、本来、労災保険で治療を受けることができ、被災労働者本人には治療費の負担はありません。しかし、労災隠しのため労災申請を行わない場合、労災保険の補償をうけないこと自体はを労働者本人の自由ですが、その場合も労災による病気やけがに健康保険を使うことはできないため、医療費全額を自己負担する必要があります。

     

    (2)休業補償給付等の生活費の給付が受けられない

    労災保険からは治療関係の給付だけではなく、怪我で働けない場合にもらえる休業補償給付や、傷病補償給付、後遺障害が残った場合の障害補償給付等の手厚い給付があります。労災申請ができないとこれらの給付が受けられなくなってしまい、生活苦に陥ることが考えられます。

    休業の場合の給付や後遺障害が残った場合の給付については以下をご参照ください。

     

     

    このように、労災隠しによって労働者も金銭面で負担を受けることからも、労災隠しはあってはならないことがわかります。

     

    10,労災隠しについての内部告発があった場合の流れ

    労災隠しについては、上記のように金銭面での負担を強いられることになった労働者による労働基準監督署への内部告発によって発覚する場合があります。もし労基署に告発が行われた場合、企業に対してどのような対応がなされるのかについてご説明します。

     

    (1)調査の実施

    労働者により労基署へ告発が行われると、労基署の判断により、事業所への立ち入り調査や取り調べが行われます。この立ち入り調査は原則として予告なく行われます。

     

    (2)令状請求

    事業者が証拠を廃棄したり、隠ぺいする等の悪質な行動をとり、証拠の任意提出が望めない場合、証拠を確保するために捜索や差押え(いわゆるガサ)等の強制捜査を行う事があります。捜索や差押え等の強制捜査を行う場合は裁判官の発する令状が必要になるため(憲法第35条1項、刑事訴訟法第218条1項)、強制捜査を行う場合労基署から裁判所に令状が請求されます。

     

    (3)内偵

    捜索や差押え等をする前に、捜索対象場所や関係者の行動(何時ごろ自宅を出るか等)を確認するため、労基署の監督官が張り込みや尾行を行うことがあります。

     

    (4)捜索・差押え

    労基署の監督官が被疑者の自宅や事業所へ出向き、関係者に令状を見せ、捜索や差押えの実行を告げた後、捜査が開始されます。書類やノートパソコン等の証拠品が見つかった場合、押収されます。

     

    (5)送検

    労基署が送致書、捜査書類、証拠品などをまとめて、事件記録一式を検察庁へ送ります。被疑者を逮捕しないまま事件を検察庁に送る場合を一般に「書類送検」と呼び、労災隠しの刑事事件の場合、ほとんどはこの書類送検となります。

     

    (6)検察庁での事情聴取

    送検後、検察庁で関係者から再度事情聴取が行われ、調書が作成されます。

     

    (7)起訴・不起訴の決定

    検察官が事件を起訴するか不起訴にするかを決定します。起訴の場合は「略式命令」という手続きにより50万円以下の罰金刑が課されることが通常です。不起訴の場合は刑事責任が問われないため、刑事手続きは終了となります。

     

    (8)逮捕される場合

    上記の通り、逮捕しないまま捜査が進められることが通常ではありますが、被疑者が関係者や被災労働者に事故について話さないよう脅す等の証拠隠滅行為を行うといった事情があり、被疑者を逮捕しなければ証拠隠滅を防げないと判断される場合、労災隠しの捜査においても、被疑者が逮捕されることがごく稀にあります。

    この場合は労基署から裁判所に逮捕令状が請求され、令状が発せられた後は内偵の後、被疑者は逮捕されます。逮捕された後、さらに身柄拘束して捜査を続ける必要があると判断された場合は、裁判所に勾留請求がされます。その後は検察庁での取り調べの後、略式命令により罰金が科されることが通常の流れになります。

     

    11,労災隠しの時効

    労災隠しの時効については、以下の通りです。

     

    (1)刑事事件としての時効は3年

    犯罪としての労災隠しの時効は3年です(刑事訴訟法第250条2項)。

    3年を過ぎてから発覚した労災隠しについては、罪に問われることはありません。労災隠しについての罰則は50万円以下の罰金と定められているため(労働安全衛生法120条第5号)、刑事訴訟法第250条第2項6号により時効3年となります。

     

    ▶参考情報:刑事訴訟法第250条第2項6号

    第二百五十条

    ② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
    一~五 略
    六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
    七 略

    ・参照元:「刑事訴訟法」の条文はこちら

     

    (2)民事の損害賠償請求の時効は5年が原則

    一方、被災労働者が労災事故や労災隠しについて事業者に対し、民事上の損害賠償を請求するケースもあります。この場合、事故発生日が2020年4月1日以降であれば、消滅時効は5年となります(民法第166条1項1号)。

     

    ▶参考情報:民法第166条1項

    第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

    一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
    二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

    ・参照元:「民法」の条文はこちら

     

    12,建設業等では特に注意が必要

    4,企業が労災隠しをしてしまう理由」でもお伝えしたように、建設業は労災隠しが発生しやすい業種の1つと言われています。

    事業者としては、労災事故を把握できずに必要な報告が漏れてしまうという事態も防ぐ必要があります。労災事故が発生した場合は直ちに会社に報告するように、日頃から現場労働者や現場責任者に指導を徹底する必要があります。

    労災隠しが発覚し、起訴されて有罪になった場合、国や自治体の入札に参加している建設業者においては入札の指名停止処分を受けるのが通常です。指名停止処分を受けてしまうと、特に公共事業を主とする中小規模の建設業者にとっては死活問題になります。また、実名が報道された場合、企業のイメージダウンは避けられないため、今後の受注が激減する等の恐れがあります。

    建設業は、もともと労働災害が発生しやすいという業務の性質に加え、下請業者が元請業者との関係悪化を恐れたり、入札停止処分を避けたいといった理由から、労災隠しが発生しやすい事情があります。しかし、労災隠しをした場合に企業が受けるペナルティは甚大です。こういった処分を受けることの無いよう、日頃から法令を遵守することが必要です。

     

    13,労災隠しは営業停止処分の理由になるか?

    労災隠しを理由に営業停止処分を受ける可能性があるのかについて、ご質問いただくこともあります。

    労災隠しについての罰則を定めた労働安全衛生法には、労災隠しを理由とする営業停止についての規定はありません。そのため、労災隠しが発覚した場合に営業停止処分になるかどうかは、各業種の行政処分基準を確認する必要があります。

    例えば、建設業では、以下のように建設業法に基づく監督処分基準が定められていますが、労災隠しを理由とする営業停止処分は定められていません。

     

     

    14,労災隠しは現場監督など責任者の懲戒事由にもなる

    労災事故が発生したにもかかわらず、現場監督などの責任者がこれを会社に報告しない例もあります。事故発生を報告すれば労働基準監督署の調査が入って業務に支障が生じることや、自身の社内での成績評価において不利益を受けることなどが、その動機となり得ます。

    このように現場監督などの責任者が労災を会社に報告せずに隠ぺいするケースでは、責任者に対する懲戒処分も検討する必要があります。

    過去の裁判例においても、労災事故の発生を隠ぺいした工事事務所所長に対する諭旨退職処分について、当該事案においては、企業秩序侵害の程度や企業における実害の大きさを考慮すれば処分が重すぎるとはいえないと判断した例があります(東京地方裁判所判決平成26年2月20日)。

    現場監督などの責任者が労災を会社に対して隠ぺいした場面では、会社としては決して労災隠しを許さないという態度を明確に示すことが必要になります。そうでなければ会社も労災を把握しつつ隠ぺいしていたのではないかという誤解をうけかねません。そのためにも、現場監督などの責任者に対する懲戒処分を検討するべき必要性は高いでしょう。

    ただし、判例上、懲戒処分は、就業規則にあらかじめ定めた懲戒事由に該当しなければ行うことができません(フジ興産事件 最高裁判所判決 平成15年10月10日)。そのため、特に労災発生率が高く、労災対応が重要になる建設業、製造業、運送業等の業種においては、就業規則において、労災事故の隠ぺいを懲戒事由として定めておくべきでしょう。

    懲戒処分の種類や進め方、懲戒事由についての解説は以下をご参照ください。

     

     

    15,労災隠しを防止するための対策

    企業として労災隠しを防止するための対策としては、以下の措置を検討するべきです。

     

    • 休業を要する業務災害は労働基準監督署長への報告が必要であることを社内で周知・徹底する
    • 労働基準監督署長への報告を担当する報告責任者を明確にする
    • 業務災害発生時の社内の報告・連絡体制を明確にし、労働基準監督長への報告を担当する報告責任者への連絡が確実に行われるようにする
    • 現場従業員に対しても、業務災害は必ず上司に報告するべきこと、業務災害では軽微な怪我であっても健康保険を利用できず労災保険を利用する必要があることを周知する
    • 従業員に対して業務災害発生時の会社への報告を就業規則で義務付ける
    • 就業規則において、労災隠しが現場責任者の懲戒事由であることを明確にする
    • 労災隠しに対しては現場責任者にも刑事罰が科されることを社内で周知する

     

    16,労災隠しに関わる労災事故に関して弁護士に相談したい方はこちら(使用者側専用)

    咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

    咲くやこの花法律事務所では、労災事故が発生した場合の手続きの対応についてのご相談を企業側の立場で承っております。咲くやこの花法律事務所の企業向けのサポート内容についてご説明致します。

     

    (1)労災事故発生時のご相談

    咲くやこの花法律事務所では、労災事故が発生した場合の対応について、企業の担当者の方から、以下のようなご相談を承っております。

     

    • 労災事故が発生した場合の労働基準監督署長への報告についてのご相談
    • 従業員からの労災申請に関する対応のご相談
    • 従業員からの労災に関する損害賠償請求についてのご相談
    • 労災死亡事故後の遺族対応についてのご相談
    • 労働基準監督署や警察による調査、捜査についてのご相談
    • 労働基準監督署からの指導や是正勧告に関するご相談
    • 労災関連の刑事事件の不起訴に向けた活動についてのご相談

     

    ご相談が遅れると、とれる手段が限られてしまいますので、ご不安がある場合は早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

     

    弁護士へのご相談費用

    • 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

     

    ▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談は以下をご参照ください。

    労働問題に強い弁護士への相談サービスはこちら

     

    (2)労務管理全般をサポートする顧問弁護士サービス

    咲くやこの花法律事務所では、企業の労務管理全般をサポートするための、顧問弁護士サービスも提供しております。

    トラブルが起こったときの正しい対応、迅速な解決はもちろんのことですが、平時からの労務管理の改善によりトラブルに強い会社を作っていくことがなによりも重要です。日ごろから顧問弁護士の助言を受けながら、労務管理の改善を進めていきましょう。

    咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。

     

     

    17,労災についての咲くやこの花法律事務所の解決実績

    最後に、咲くやこの花法律事務所における労災トラブルに関する企業向けのサポートの解決実績の一部を以下でご紹介しております。あわせてご参照ください。

     

    労災事故の後遺障害の認定結果を覆し、請求約1930万円を1/7以下に減額した解決事例

     

    18,まとめ

    この記事では、労災隠しについてご説明しました。

    まず、労災隠しとは、報告すべき労働災害が起きたにも関わらず、労働基準監督署長に労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の内容を記載して提出することをいいます。

    労災隠しを行ってしまうと、労働安全衛生法120条第5号に基づき、50万円以下の罰金が科されます。

    また、建設業では特に受ける影響が大きく、指名停止処分が科されたり、金融機関から融資を受けることが困難になるといったことが起こります。そのため、労働災害の報告を適切に行うように日頃から法令順守を意識して対応する必要があります。

    労災隠しをしないのはもちろんのことですが、報告の手続きに瑕疵が無いよう注意することも重要です。もし労災事故が発生した際、手続きや対応にお困りの場合は早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

     

    19,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

    労災隠しなど労働問題に関するご相談は、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

    【お問い合わせについて】

    ※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

    「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

     

    20,労災に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)

    労災隠しなど労災に関するお役立ち情報について、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や「咲くや企業法務.TV」のYouTubeチャンネルの方でも配信しております。

     

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    21,【関連情報】労災に関するお役立ち記事一覧

    この記事では、「労災隠しとは?罰則の内容や発覚する理由などを事例付きで解説」について、わかりやすく解説いたしました。労災隠しについては、違法で罰則の対象になることや、労災隠しをした場合の本人のデメリットなどご理解いただけたかと思います。

    では、実際に労災が発生した際の対応方法などはどうすればよいのか?等、実際に労災トラブルが発生した際は、労災かどうかの判断をはじめ、初動からの正しい対応方法など全般的に理解しておく必要があります。

    そのため、他にも労災に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

    以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

     

    労災保険とは?保険料の金額や加入条件、手続きなどを徹底解説

    労災の補償制度とは?補償内容や金額、支払われる期間を詳しく解説

    労災保険から支給される金額はいくら?わかりやすく徹底解説

    労災年金とは?種類別にもらえる場合や給付金額などを解説

    労災事故とは?業務中・通勤中の事例を交えてわかりやすく解説

    労災認定基準とは?わかりやすく徹底解説

    怪我が労災になる場合とは?知っておくべきことの解説まとめ

    労災の申請の方法とは?手続きの流れについてわかりやすく解説

    労災の必要書類とは?書き方や提出先についてわかりやすく解説

    労災で労基署からの聞き取り調査!何を聞かれるのか?

    労災認定されると会社はどうなる?会社側弁護士が解説

    会社の対応はどうする?労災申請があった場合の注意点について

    労災事故がおきたときの慰謝料、見舞金の必要知識まとめ

    労災の損害賠償請求の算定方法をわかりやすく解説!

    労災病院のメリットと手続き、支払いについてわかりやすく解説

     

    注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

     

    記事作成日:2023年1月17日
    記事作成弁護士:西川暢春

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    出版社:株式会社日本法令
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