こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
社内には、「ノウハウ」や「顧客情報」、「技術情報」など様々な種類の情報があると思います。しかし、そのすべてが不正競争防止法で保護される「営業秘密」にあたるわけではありません。
では、「営業秘密」にあたるためにはどのような要件が必要なのでしょうか?
また、営業秘密に当たった場合、漏洩や不正使用に対してどのような罰則が適用されるのでしょうか?
今回は、不正競争防止法の営業秘密にあたるための3つの要件と漏洩時の罰則について解説します。
この記事では主に営業秘密の日ごろの管理方法や持ち出し行為に対するペナルティについて解説しますが、不正な持ち出しや不正な利用が実際に行われた場面では早急に対応して被害を最小限におさえることが必要です。あわせて不正をした者に対する損害賠償請求や刑事告訴の検討も必要になります。できる限り早く弁護士にご相談ください。
【参考情報】労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。
▼【関連情報】不正競争防止法については、関連する情報として下記も合わせて確認してください。
顧客情報・顧客名簿の情報持ち出しから会社を守る正しい管理方法
退職者による機密情報、顧客情報の持ち出しで会社が取るべき対応とは?
秘密保持契約書(NDA)の作成方法を弁護士が解説!サンプル雛形あり
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,不正競争防止法の営業秘密とは?
不正競争防止法の「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています(不正競争防止法第2条6項)。
社内の情報を持ち出す行為は、通常は社内ルールに対する違反に過ぎません。
しかし、その情報が、不正競争防止法の「営業秘密」に該当する場合は、それを不正に持ち出す行為は、単なる社内ルールの違反ではすまず、犯罪に該当し、場合によっては懲役刑が科されます。
また、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合、それを不正に持ち出したり、あるいは不正に持ち出されたことを知って営業秘密を他人が使用する行為は、損害賠償請求の対象となることも定められています。
このように不正競争防止法の営業秘密に該当することにより、情報の持ち出しが単なる社内ルールの違反ですまず、法的なペナルティが科されることになります。
2,不正競争防止法の営業秘密の3つの要件
不正競争防止法の営業秘密にあたるのは、社内の情報のうち、以下の3つの要件を満たすもののみです。
(1)営業秘密の3つの要件
- 秘密管理性
- 有用性
- 非公知性
このように3つの要件を満たすものしか不正競争防止法の営業秘密に該当しないとされているのは、該当すれば懲役刑を含む重大なペナルティが科されることから社内の情報すべてを営業秘密とするのではなく、一定の重要なものに限定する必要があると考えられていることが理由です。
以下で不正競争防止法の営業秘密にあたるために必要な3つの要件について順番に見ていきたいと思います。
▶参考情報:営業秘密の3つの要件については以下のページもご参照ください。
2−1,秘密管理性
まず、不正競争防止法の営業秘密に該当するためには、「社内でその情報が秘密であることがわかるように管理されていること」が必要です。
これは不正競争防止法の営業秘密に該当すれば懲役刑を含む重大なペナルティが科されることから、その対象を、社内で明らかに秘密にすべきものとして管理されていることが明確になっている情報のみに限定する趣旨です。
これを「秘密管理性」の要件といいます。
企業としては、重要な情報については「秘密管理性」の要件を満たすように管理することが重要です。
営業秘密については不正競争防止法を踏まえて正しい管理をしておかなければ、持ち出し行為や不正使用があった場合に会社として適切な手段をとることができなくなります。普段から自社の営業秘密の管理状況に問題がないか弁護士に相談して確認しておかれることをおすすめします。
具体的にどのような管理をしておけば秘密管理性が認められるのかについては、以下の通りです。
(1)従業員が記憶している情報の秘密管理性
まず、従業員が記憶している情報については、その従業員が退職した際に、情報を利用して競業を起こしたり、顧客と連絡を取るなど、不正に利用される危険が高いです。
しかし、これらの情報についても、例えば以下のような管理方法により、その情報が秘密とすべきものであることを明確にしておけば、秘密管理性の要件を満たして法的な「営業秘密」と認めてもらうことができます。
方法1:
「秘密保持誓約書」を適切な内容で取得する
秘密保持誓約書を取得している企業は多くあり、この方法も適切に行えば有効な手段です。
ただし、ネット上のひな形を安易に利用して作成したような不適切なものは、いざというときに全く役に立ちません。
「秘密保持誓約書」は自社の内容に合わせた適切な内容に作りこんでおいて初めて意味を持ちます。
秘密保持誓約書の適切な作成方法については以下の動画や記事で詳しく解説していますのであわせてご確認ください。
▼【動画で解説】西川弁護士が「従業員の秘密保持誓約書について!安易な雛形利用は危険」を詳しく解説中!
方法2:
就業規則の秘密保持に関する規程を整備する。
多くの会社の就業規則には秘密保持の条文が入っていると思います。
しかし、これについても一般的なひな形を安易に利用して作成したような抽象的なものは、いざというときに全く役に立ちません。
就業規則の秘密保持の条文は自社の内容に合わせた適切な内容に作りこんでおいて初めて意味を持ちます。
就業規則の作成については以下の記事でも詳しく解説していますのであわせてご確認ください。
方法3:
秘密管理規程を整備する。
秘密管理規程を整備して、どの情報が秘密とすべきかや、営業秘密に該当する場合の情報使用のルールを明確にしておくことも、秘密管理性の要件を満たして法的な「営業秘密」と認めてもらうために有用な手段の1つです。
(2)紙媒体で情報を保管する場合の秘密管理性
次に、社内で紙媒体で保管されている情報について、法的な保護を受けられる「営業秘密」と認めてもらうためには、以下のような管理方法により、その情報が秘密とすべきものであることを明確にしておくことが必要です。
方法1:
個別の文書に「マル秘」などの表示を入れる。
方法2:
秘密として扱うべき紙媒体をファイルして、ファイルに「マル秘」などの表示を入れる。
方法3:
顧客情報・顧客名簿を施錠可能なキャビネットや金庫に保管し、閲覧できる人を限定する。
営業秘密のより具体的な管理方法については以下の記事でもご説明していますので合わせてご参照ください。
(3)情報をデータで保管する場合の秘密管理性
データで保管されている情報については、例えば以下のような管理方法により、その情報が秘密とすべきものであることを明確にしておくことが必要です。
方法1:
電子ファイル名に秘密である旨を付記する
方法2:
記録媒体に保管する場合は、記録媒体にマル秘表示を貼り付ける
方法3:
電子ファイルやフォルダにパスワードを設定する
方法4:
ドキュメントのヘッダーにマル秘表示を付記する
(4)外注先や委託業者に開示する情報の秘密管理性
外注先や委託業者に開示する情報についても、外注先や委託業者が不正に自社の利益のために利用される危険があります。
また、「ベネッセコーポレーション事件」では、委託業者に派遣されていた派遣社員が、顧客情報を名簿業者に転売しており、外注先や委託業者の従業員等が個人的な利益のために情報を持ち出すリスクについても対策をしておく必要があります。
▶参考情報:「ベネッセコーポレーション事件」について詳しくはウィキペディアの記事も参考にご覧ください。
これらのリスクについての基本的な対策は、適切な内容の秘密保持契約書を作成することがまず第一です。
秘密保持契約書の適切な作成方法については、以下の記事で詳細に解説していますのであわせてご確認ください。
ここまでご説明したように、秘密とすべき情報について社内できっちり管理して、秘密管理性の要件をクリアすることが、その情報を法的な営業秘密と認めてもらうために、まず必要になります。
2−2,有用性
次に、不正競争防止法の営業秘密に該当するための、2つ目の要件として、「事業活動のために有用な情報であること」が必要です。
ありふれたノウハウや、社内の人員配置に関する情報などは、事業活動のために有用な情報とはいえず、不正競争防止法の営業秘密にはあたりません。
2−3,非公知性
最後に、不正競争防止法の営業秘密に該当するための、3つ目の要件として、「一般に知られている情報でないこと」が必要です。
これを非公知性の要件といいます。
既にインターネット上に掲載されていたり、書籍に掲載されているノウハウ等は、非公知性がなく、不正競争防止法の営業秘密にはあたりません。
以上の3つの要件をすべて満たす情報のみが、不正競争防止法の営業秘密として、その持ち出し行為などについて法的な制裁を科すことができます。
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3,営業秘密漏えい時の罰則
それでは、不正競争防止法の営業秘密に該当する場合、その持ち出しについてどのような制裁が科されるのでしょうか?
まず、刑事上の罰則としては、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金あるいはその両方が科されます。
実際に営業秘密の持ち出しや不正使用で実刑判決を受けた事例として、以下のような事例があります。
裁判例1:
技術情報持ち出しについて実刑を命じた事例(東芝事件)
事案の概要:
東芝の提携企業の技術者が、東芝の研究データを不正に持ち出し、転職先の韓国企業に提供した事件です。
裁判の結論:
懲役5年、罰金300万円の実刑判決
裁判例2:
顧客情報持ち出しについて実刑を命じた事例(ベネッセコーポレーション事件)
事案の概要:
ベネッセコーポレーションのグループ企業に派遣されていた派遣社員が同社の顧客情報を不正に持ち出した事件です。
裁判の結論:
懲役2年6か月、罰金300万円の実刑判決
このように営業秘密の持ち出しや不正利用については罰則が適用されるため、被害にあった企業としては刑事告訴して警察に捜査を依頼するなどの対応を検討することになります。
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4,営業秘密漏えい時の損害賠償についての判例
次に、営業秘密を不正に持ち出したり、不正に持ち出された営業秘密であることを知ってその情報を使用した者に対して、損害賠償請求をすることが可能です。
実際に多額の損害賠償を命じた裁判例として以下のようなものがあります。
裁判例1:
顧客情報持ち出しについて損害賠償を命じた事例
(大阪地方裁判所平成25年4月11日判決)
事案の概要:
中古車販売会社の従業員が退職直前に顧客情報を持ち出して同業他社に転職し、持ち出した顧客情報を利用して、自動車の販売を行ったケースです。
裁判の結論:
約1億3000万円の損害賠償命令
裁判例2:
技術情報持ち出しについて損害賠償を命じた事例
(福岡地方裁判所平成14年12月24日判決)
事案の概要:
製造業の常務取締役らが退職直前に技術情報を持ち出して同業他社を設立し、持ち出した技術情報を自社の製造販売に利用したケースです。
裁判の結論:
約4億円の損害賠償命令
このように営業秘密の持ち出しや不正利用については、損害賠償の請求も可能です。
5,咲くやこの花法律事務所なら「営業秘密についてこんなサポートができます。」
最後に、営業秘密に関する咲くやこの花法律事務所における企業向けサポート内容をご紹介しておきたいと思います。
(1)営業秘密が持ち出された際の緊急対応
退職者や外注先が営業秘密の不正に持ち出すという事態が発生したときは、早急に適切な対応をすることが必要です。
咲くやこの花法律事務所では、営業秘密持ち出しの場面においてこれまでから多くのご相談をお受けしており、弁護士は営業秘密持ち出し時の緊急対応に精通しています。
できるかぎり早くご相談いただき、内容証明による警告、刑事告訴、損害賠償請求など適切な対応をとることが重要です。
咲くやこの花法律事務所の弁護士による相談料
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
営業秘密が持ち出された際の緊急対応については以下の記事でも詳しくご説明していますので合わせてご参照ください。
(2)営業秘密の管理方法のご相談
営業秘密の持ち出しを防ぐためには日ごろの管理方法の整備が重要です。
日ごろ適切な管理がされていないと、この記事でもご説明したように不正競争防止法の「営業秘密」に該当しなくなり、不正に使用されても法的なペナルティを科すことが難しくなります。
咲くやこの花法律事務所では、企業の経営者、担当者からの営業秘密の管理方法についてご相談をお受けしています。
営業秘密の管理方法に不安がある場合はぜひご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の弁護士による相談料
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(3)営業秘密管理規程や秘密保持誓約書、就業規則の整備
営業秘密の管理の場面では、営業秘密管理規程や秘密保持誓約書、あるいは就業規則など各種社内規則の整備も非常に重要です。
営業秘密の管理は、このような社内規則を整備して、従業員に対して、どのような情報を秘密にしなければならないかを明確にルールとして示すことから始まります。
咲くやこの花法律事務所でもこれらの社内規定の作成、整備のご相談をお受けしております。
営業秘密の管理方法に不安がある場合はぜひご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の弁護士による相談料
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
また、実際に従業員を雇用されている会社では、営業秘密の対応をしなければならないケースがあります。そのため、「正しい対応方法」を事前に把握しておくことはもちろん、万が一のトラブルなどが発生した際は、スピード相談が早期解決の重要なポイントです。
今回の記事のテーマにもなっている「不正競争防止法の営業秘密」については、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から就業規則など自社の労務環境の整備を行っておくために「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。
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不正競争防止法に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるサポート内容については「労働問題に強い弁護士のサポート内容」のページをご覧下さい。
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記事作成日:2019年6月19日
記事作成弁護士:西川 暢春