こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
解雇したい従業員がいるけど、解雇についての法律上のルールや制限に関する知識があいまいだったり、違法な解雇にならないか心配だったりして、対応に困っていませんか?
従業員の解雇には法律上のルールや制限があります。
会社が従業員を解雇する場面は、解雇した従業員から後日訴訟を起こされることがある等、企業経営の中でリスクの高い場面の1つです。
例えば、解雇についての最近の企業側敗訴事例として以下のものがあり、中小企業においても多額の金銭の支払いが命じられています。
裁判例1:株式会社大和クリエイト事件(東京地方裁判所判決令和4年3月23日)
会社が能力不足を理由としてした解雇が無効とされ、600万円を超える金銭の支払いを命じられ、あわせて雇用契約の継続を確認された事例
裁判例2:大阪地方裁判所令和4年4月12日
作業効率に問題があり、また他の従業員を萎縮させるような発言をする従業員についての解雇が無効とされ、約400万円の支払いを命じられたうえ、雇用契約の継続を確認された事例
このようなトラブルを起こさないためには、まず解雇についての法律上のルールと制限をよく理解することが大切です。
この記事では、解雇について法律によって定められたルールや解雇の制限について具体的にご説明します。この記事を最後まで読んでいたただくことで、解雇にあたりどのような点が問題になり、どういった点に気を付けなければならないのかを、よく理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
従業員の解雇は重大な労使トラブルに発展する危険性が高い場面の1つです。解雇が有効と認められるには、解雇が正当化されるような客観的な理由があることや、解雇理由について十分な証拠があること、解雇のための手続きが正しく行われていることなどが重要です。また、法律上解雇が制限される場面に該当しないことも必要です。
対応を誤ってしまうと後に大きな問題につながりますので、自社で判断せずに、解雇する前に弁護士にご相談いただくことをお勧めします。従業員の解雇について会社が弁護士に相談する必要性や弁護士費用などについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
▶参考情報:従業員の解雇について会社が弁護士に相談する必要性と弁護士費用
また、咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に強い弁護士へのご相談は以下もご参照ください。
▶参考情報:問題社員対応に強い弁護士への相談サービスはこちら
咲くやこの花法律事務所の解雇関連の解決実績は以下をご参照ください。
▶参考動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が「解雇制限とは?法律のルールを弁護士がわかりやすく解説」を動画で解説しています!
▼解雇制限や法律のルールに関して弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,法律による従業員の解雇のルール
- 2,解雇制限とは?
- 3,労災による休業の場合の解雇制限
- 4,妊娠中や育休明けの場合の解雇制限
- 5,解雇制限の例外
- 6,法律上特定の理由による解雇が禁止される例
- 7,アルバイト・パート従業員の解雇
- 8,契約社員など期間の定めがある従業員の解雇
- 9,従業員を解雇すると助成金の支給が制限される場合がある
- 10,解雇の制限や法律に関するよくある質問
- 11,解雇制限や解雇の法律について弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
- 12,咲くやこの花法律事務所の解決実績
- 13,まとめ
- 14,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
- 15,労働問題に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
- 16,【関連情報】解雇制限に関するお役立ち記事一覧
1,法律による従業員の解雇のルール
「解雇」とは、雇用契約を会社からの一方的な意思表示により解約することをいいます。
▶参考情報:解雇の全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
そして、解雇はいつでも自由に行えるものではなく、法律によって定められたルールに則って行う必要があります。
まずは、法律による解雇のルールを順番に見ていきましょう。
(1)解雇権濫用法理
解雇について最も重要なルールとして、解雇権濫用法理があります。
これは、労働契約法第16条に以下の通り定められています。
どのような場面で解雇が権利濫用にならないか(逆に言えばどのような場合であれば正当な解雇理由といえるか)については、解雇理由ごとに具体的に裁判例などを調べて検討していくことが必要です。
例えば、能力不足だからといってそれだけで従業員を解雇することは通常認められておらず、「まずは使用者から労働者に対して、使用者が労働者に対して求めている能力と労働者の業務遂行状況からみた労働者の能力にどのような差異があるのかを説明し、改善すべき点の指摘及び改善のための指導をし、一定期間の猶予を与えて、当該能力不足を改善することができるか否か様子をみた上で、それでもなお能力不足の改善が難しい場合に解雇をするのが相当である」とされています(Zemax Japan事件 東京地方裁判所判決 令和3年7月8日)。
以下の記事で、解雇理由ごとに解雇条件・解雇要件を解説していますのでご参照ください。
(2)解雇予告のルール
次に、解雇については、少なくとも30日前に予告、それを行わないときは30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが法律上義務づけられています(労働基準法第20条1項)。
解雇日の30日前を過ぎて解雇予告する場合は、不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払って、予告期間の日数と予告手当の日数を合計して30日以上としなければなりません(労働基準法第20条2項)。
例えば、解雇日の10日前に予告した場合は、20日分の平均賃金を支払うことになります。
▶参考:解雇予告手当の計算方法
「その従業員の平均賃金」 ×「 解雇予告期間(30日)に足りない日数」
※平均賃金の計算方法は、「直近3か月間の賃金の合計」÷「3か月の総暦日数」です。
なお、解雇予告や解雇予告手当の支払が不要なケースもあります。
まず、以下の場合に労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けると、解雇予告を行ったり、解雇予告手当を支払ったりする必要はなくなります(労働基準法第20条1項但書)。
- 天災等のやむを得ない事情により事業の継続が不可能となった場合:火災による焼失や地震による倒壊など
- 従業員の責に帰すべき理由による解雇の場合:横領や傷害事件を起こした場合、2週間以上の無断欠勤をした場合など
次に、日雇いや契約期間が2か月以内の労働者等は、解雇予告の規定の対象外です(労働基準法第21条)。
ただし、それぞれ、下記の解雇予告が不要な期間を超えて引き続き雇用されている場合は、解雇予告の規制の対象になります。
解雇予告規制の対象外の労働者 | 解雇予告が不要な期間 |
日雇い労働者 | 1か月間 |
契約期間が2か月以内の労働者 | その契約期間 |
4か月以内の季節労働者 | その契約期間 |
試用期間中の労働者 | 14日間 |
この段落で解説してきた「労働基準法第20条1項」「労働基準法第20条2項」「労働基準法第20条1項但書」「労働基準法第21条」などの労働基準法の条文について詳しくは以下をご参照ください。
また、解雇予告や解雇予告手当については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
▶参考情報:解雇予告とは?わかりやすく徹底解説
(3)特に懲戒解雇や諭旨解雇は就業規則に解雇事由の明示が必要
就業規則の作成義務がある常時10名以上の従業員がいる事業場では、会社は、どのようなときに従業員が解雇されるかを、あらかじめ就業規則に定める必要があります(労働基準法第89条3号)。
特に、懲戒解雇と諭旨解雇については、予め就業規則に定められた懲戒解雇事由や諭旨解雇事由に該当しない限り、行うことができないことに注意が必要です。
この点は、最高裁判所 平成15年10月10日判決(フジ興産事件)において、「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」として判示されています。
一方、普通解雇については、就業規則で普通解雇事由を定めることは必要であるものの、これに該当しない場合でも普通解雇は認められ得るとした裁判例があります(東京地方裁判所決定 平成12年1月21日 ウエストミンスター銀行事件)。
以下では、上記の3つのルールに加えて、法律上解雇が制限される場面について解説します。
2,解雇制限とは?
解雇制限とは、業務上の怪我や病気の治療のために休業する期間とその後30日間、及び女性社員の産前産後の休業期間とその後30日間について法律上原則として解雇が禁止されていることを指します。この点は労働基準法第19条1項で定められています。期間中は従業員に重大な非違行為があるなどの事情があったとしても解雇はできません。
以下で場面ごとに解雇制限についてご説明します。
3,労災による休業の場合の解雇制限
まず、労働者が業務上負傷したり、病気になった場合に、その療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇できません(労働基準法第19条1項)。
これはこのような期間に従業員が解雇されれば、解雇後の就職活動に支障をきたすことを理由とするものです。休業期間中だけでなく、その後30日間についても労働能力の回復に必要な期間として解雇が禁止されています。
ただし、解雇制限の対象になるのは労災の中でも業務災害のみです。通勤災害については解雇制限の対象になりません。通勤中の事故による休業は、私傷病としての扱いを受けることになります。
また、業務上の怪我や病気の治療中でも休業していない場合や、ひととおりの治療が済んだ状態(症状固定)になった後30日を経過後も休業を続けている場合は、解雇は制限されません。
労災で休業中の従業員の解雇について詳しくは以下の記事をご覧ください。
4,妊娠中や育休明けの場合の解雇制限
妊娠中や育休明けの女性については法律によって解雇が制限されています。
(1)労働基準法による解雇制限
労働基準法第65条は、妊娠中の女性に産前に6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後に8週間の休業を認めています。この休業期間中及びその後30日間は解雇が禁止されています(労働基準法第19条1項)。
これはこのような期間に従業員が解雇されれば、解雇後の就職活動に支障をきたすことを理由とするものです。産前産後休業の期間中だけでなく、その後30日間についても労働能力の回復に必要な期間として解雇が禁止されています。
▶参考情報:労働基準法第65条1項、2項
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
・参照元:労働基準法の条文はこちら
(2)男女雇用機会均等法、育児・介護休業法による解雇制限
男女雇用機会均等法では、妊娠・出産等を契機とした解雇を禁止しています。
これは、雇用の分野における男女の均等な機会や待遇の確保を図るためには、女性特有の問題である妊娠・出産が原因で、女性労働者が解雇などの不利益な取扱いを受けないようにする必要があるからです。
▶参考情報:男女雇用機会均等法第9条
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
また、育児・介護休業法では、育児休業を契機とした解雇を禁止しています。これは、労働者が職業生活と家庭生活とを両立できるようにするためのものです。
原則として、妊娠・出産、育児休業等が終わったときから1年以内にされた解雇は、妊娠・出産、育児休業等を契機としているとみなされ、違法になります。
▶参考情報:育児・介護休業法第10条
第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
また、厚生労働省ホームページで公開されている『「妊娠したから解雇」は違法です』のページも参考にご覧ください。
5,解雇制限の例外
上記の解雇制限については例外があり、解雇制限の期間中であっても、次の場合は解雇することができます(労働基準法19条1項)。
- 使用者が打切補償を支払った場合
- 天災等のやむを得ない事情により事業が継続不可能となった場合
(1)打切補償を支払った場合
打切補償とは、業務上の怪我や病気の治療のために休業している従業員が、治療開始後3年が経過しても治療が終わらないときは、会社がその従業員の平均賃金の1200日分を支払うことで、補償を終了することができるという制度です。
この打切補償を支払うと、解雇制限の対象から除外されます(労働基準法第81条)。
また、従業員が治療開始後3年以上経過した時点で、労災から傷病補償年金を受給している場合も、会社が打切補償を支払ったものと同じ扱いになり、解雇制限の対象外となります。
▶参考情報:労働基準法第81条
第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
・参照元:労働基準法の条文はこちら
打切補償については以下で解説していますのでご参照ください。
また、労災の傷病補償年金については、以下をご参照ください。
(2)天災等のやむを得ない事情により事業が継続不可能となった場合
地震等の天災や火事による社屋の消失等のやむを得ない事由によって事業の継続が不可能になった場合は、解雇制限の対象から除外されて解雇できるようになります。
ただし、この場合、その事由について労働基準監督署長の認定を受ける必要があります(労働基準法第19条2項)。
6,法律上特定の理由による解雇が禁止される例
この他にも、さまざまな労働関係法規により、特定の事由による解雇が禁止されています。
この「特定の事由」は大きく分けると、「差別」、「従業員が会社の法令違反を通報したこと」、「従業員が法律で認められている権利を行使したこと」の3種類です。
具体的には以下のような理由による解雇が禁止されています。
(1)差別禁止の観点から解雇が禁止されるケース
まず、差別禁止の観点から、以下の解雇が禁止されています。
- 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇(労働基準法第3条)
- 組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法第7条)
- 性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第6条)
- 通常の労働者と同視すべき短時間労働者の解雇(パートタイム・有期雇用労働法第9条)
- 障害者であることを理由とする不当な解雇(障害者雇用促進法第35条)
(2)従業員が会社の法令違反を通報したことを理由とする解雇を禁止するケース
次に、従業員が会社の法令違反を通報したことを理由とする解雇として、以下の解雇が禁止されています。
- 労働基準監督官等に法違反を申告したことを理由とする解雇(労働基準法第104条2項、労働安全衛生法第97条2項、最低賃金法第34条2項、賃金支払確保法第14条2項)
- 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法第3条)
- 労働者派遣法違反等の事実を労働局に申告したことを理由とする解雇(労働者派遣法第49条の3第2項)
(3)法律上の権利行使を理由とする解雇を禁止するケース
- 育児介護休業法上の権利行使を理由とする解雇(育児介護休業法第10条、16条、18条の2、20条の2、23条の2)
- 裁判員の職務を行うために休暇を取得したこと等を理由とする解雇(裁判員法第100条)
- 企画業務型裁量労働制の適用の同意をしなかったことを理由とする解雇(労働基準法第38条の4)
- 高度プロフェッショナル制度の適用の同意をしなかったことを理由とする解雇(労働基準法第41条の2第1項8号)
- 男女雇用機会均等法上の紛争解決援助を求めたこと、調停を申請したことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法第17条2項、18条2項)
- 障害者雇用促進法上の紛争解決援助を求めたこと、調停を申請したことを理由とする解雇(障害者雇用促進法第74条の6第2項、74条の7第2項)
- 個別労働紛争解決促進法上の紛争解決援助を求めたこと、あっせんを申請したことを理由とする解雇(個別労働紛争解決促進法第4条3項、第5条2項)
- ハラスメントの相談をしたことを等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第11条の2項、11条の3第2項、育児介護休業法第25条2項、第52条の4第2項)
7,アルバイト・パート従業員の解雇
アルバイトやパート従業員についても、正社員の解雇と同様に、解雇権濫用法理が適用され、正当な理由なく一方的に解雇することはできません。
また、懲戒解雇や諭旨解雇が就業規則で定められた解雇事由に該当する場合に限られること、労災による休業、産前産後休業の場合の解雇制限の適用を受けることも正社員と同じです。
ここでは、アルバイトやパート従業員を解雇するときの注意点をご紹介します。
(1)有期雇用契約の場合に期間途中で解雇することは難しい
アルバイトやパート従業員の場合、期間を定めて雇用していることが多くあります。これを有期雇用契約と言います。
そして、労働契約法第17条は、期間の定めのある労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で従業員を解雇することができないと規定しています。
▶参考情報:労働契約法第17条1項
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
・参照元:労働契約法の条文はこちら
訴訟になった場合、「やむを得ない事由」があると認められるのは非常に難しく、有期労働契約の期間の途中で従業員を解雇した多くのケースが不当解雇にあたると判断されています。
そのため、有期労働契約を結んでいるアルバイト従業員をやめさせたいときは、解雇するのではなく、契約期間満了時に契約を更新しない「雇止め」の方法を取るのが良いでしょう。
ただし、期間満了時の「雇止め」についても、雇止め法理の適用がありますので、安易に考えるべきではありません。
雇止め法理については、詳しくは「 8,契約社員など期間の定めがある従業員の解雇」で解説していますのでご覧ください。
(2)解雇予告手当の計算では最低保障額に注意する
解雇予告手当の計算方法は、上でも説明したとおり、「平均賃金 × 解雇予告期間(30日)に足りない日数」です。
平均賃金は、通常、3か月間の賃金の合計額を総歴日数で割る方法で計算されます。
しかし、勤務日数が少ないアルバイトやパート従業員の場合、この計算方法では、平均賃金の額がかなり低くなることがあります。
そのため、日給制や時給制で賃金が支払われている従業員の場合は、最低保障額が設けられており、以下の2通りの方法で計算して金額の高い方を平均賃金とすることになっています。
- 通常の計算方法:「直近3か月間の賃金の合計」÷「直近3か月の総暦日数」
- 最低保障額:「直近3か月間の賃金の合計」÷「直近3か月間の実労働日数」× 60%
8,契約社員など期間の定めがある従業員の解雇
1年契約など、期間の定めを設けて雇用した従業員を「契約社員」と呼んでいる会社も多いと思います。
契約社員についても、前項でも述べたとおり、契約期間の途中で従業員を解雇することは「やむを得ない事由」がない限りできません(労働契約法第17条1項)。
そのため、契約社員の雇用を終了するには、雇用契約期間が終了したときに契約を更新しない雇止めの方法を取ります。
ただし、雇止めもどんな場合でも認められるわけではありません。
形式上は契約社員でも、実質的には期間の定めのない従業員と同様の取扱いを受けている等、従業員に次回も契約が更新されるであろうと期待させるような事情がある場合は、雇止め法理による制限があります。
このようなケースでは、客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めが認められません。
契約社員の解雇や雇止めについて詳しくは以下の記事で解説していますのでご覧ください。
9,従業員を解雇すると助成金の支給が制限される場合がある
従業員の雇い入れや人材育成を目的とした雇用関係の助成金の多くは、一定の期間内に会社都合による解雇をしていないことを支給要件の1つにしています。
たとえば、トライアル雇用助成金、キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金等は、それぞれの起算日から6カ月以内に、同じ事業所で会社都合による解雇を行った場合は不支給となります。
また、会社都合による解雇をしていないことが支給要件になっている助成金の受給中に従業員を解雇すると、受け取った助成金を返還する必要が生じる場合があります。
ここでいう会社都合による解雇には、天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったことを理由とする場合や、従業員の責に帰すべき理由による場合は含まれません。
なお、助成金の支給要件を満たすために、解雇した事実を偽ると不正受給になります。不正受給と判断されると、その処分が下りた日から3年間は助成金の申請ができなくなりますので注意しましょう。
10,解雇の制限や法律に関するよくある質問
上記のとおり、解雇には法律によって様々なルールや制限があります。
では、具体的に以下のような場合は解雇できるのでしょうか、よくある質問をまとめました。
(1)試用期間中に解雇できますか?
試用期間中の従業員の解雇は通常の従業員よりも緩やかな基準で判断されます。
ただし、緩やかな基準といっても、客観的な合理性のない理由や、社会通念上正当と認められない理由で、一方的に解雇することはできません。裁判所で試用期間中の解雇が無効と判断され、企業が敗訴している例も非常に多いです。
試用期間中の従業員を解雇するときも、まず、就業規則に明示された解雇事由に適合しているかを確認したうえで、正当な解雇理由があるといえるかどうかについて、必ず弁護士に事前に確認することが必要です。
なお、試用期間中の従業員を、試用開始から14日以内に解雇する場合は解雇予告等は不要です(労働基準法第21条)。試用開始から14日を過ぎて解雇する場合は、30日以前に解雇予告をするか、解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法第20条1項)。
試用期間中の解雇については詳しくはこちらの記事をご覧ください
(2)タトゥーを理由に解雇できますか?
従業員を解雇するには、客観的に合理性があると判断される理由があり、かつ、個別具体的な事情を踏まえても解雇が社会通念上相当であると認められる場面であることが必要です(労働契約法第16条)。
タトゥーを入れたことが解雇の理由として認められるかどうかについては、会社の業種や労働者の担当している業務内容、タトゥーの位置や大きさ、内容などが影響するでしょう。
たとえば、接客業や営業職の従業員が明らかに目立つ場所にタトゥ―を入れている場合、それが原因で会社の印象に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
しかし、工場内での勤務のみの従業員や、服を着ていれば見えない位置にタトゥ―が入っている場合など、特に業務に支障がない場合は、タトゥ―を理由に解雇することはできません。
また、タトゥ―によって業務に支障が出るような場合でも、発覚後ただちに解雇することはできません。衣服で隠したりするよう注意指導したり、顧客や取引先の目につかないような職務に配置転換するなど、解雇する前にまず対策を検討する必要があります。
この点について参考になり得る裁判例として、大阪市交通局がひげを禁止し、ひげをはやしている職員について人事評価において不利益を課したことについて、個人的自由に属する事柄であり、不利益を科すのは違法であると判断した裁判例があります(大阪高等裁判所判決令和元年9月6日)。
タトゥ―についても、基本的には個人的自由に属する事柄であることから、解雇が認められる場面は限定されると考えるべきでしょう。
11,解雇制限や解雇の法律について弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
最後に、従業員の解雇についての咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご説明します。
なお、咲くやこの花法律事務所は、企業側の立場でのみご相談をお受けしており、一般の従業員からのご相談はお受けしておりません。
(1)解雇前の事前相談
咲くやこの花法律事務所では、従業員の解雇を検討されている企業の経営者の方、あるいは人事担当者の方から、解雇前の事前のご相談を承っています。
具体的には以下のような項目について、各企業からご相談をいただいています。
- 解雇した場合のリスクに関するご相談
- 解雇の具体的な方法、手続きに関するご相談
- 解雇予告手当に関するご相談
- 解雇予告通知書などの作成についてのご相談
- 解雇後の手続きに関するご相談
従業員の解雇はトラブルに発展するリスクが高く、また、トラブルになった場合の会社への負担が大きくなる可能性も高い案件です。そのため、解雇する前にしっかりと検討する必要があります。
自社でよく検討したつもりでも、思わぬところに落とし穴があることが常ですので、弁護士に事前に相談していただくことをおすすめします。
労働問題に強い弁護士への相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税
(2)解雇後のトラブルに関する交渉、労働審判、裁判
咲くやこの花法律事務所では、解雇した従業員とのトラブルに関する交渉や労働審判、裁判のご依頼も承っています。
解雇後のトラブル対応について、解決実績と経験が豊富な弁護士がそろっております。
お困りのことがございましたら、お早目に咲くやこの花法律事務所までご相談ください。
解雇トラブルに強い弁護士への相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税
- 弁護士による交渉の着手金:30万円+税程度~
- 弁護士による裁判対応着手金:45万円+税程度~
(3)顧問弁護士契約
咲くやこの花法律事務所では、従業員についてのトラブル等を日ごろから弁護士に相談するための、顧問弁護士サービスを事業者向けに提供して、多くの事業者をサポートしてきました。
顧問弁護士サービスを利用することで、問題が小さいうちから気軽に相談することができ、問題の適切かつ迅速な解決につながります。また、日ごろから労務管理の改善を進め、トラブルに強い会社をつくることに取り組むことができます。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスは以下をご参照ください。
12,咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所の解雇に関連する解決実績を以下でご紹介していますので併せて御覧ください。
・下請業者に自宅の建築工事を格安で請け負わせるなどの不正をしていた社員を懲戒解雇処分とし、約200万円の支払をさせた事例
・不当解雇を主張する従業員との間で弁護士立ち合いのもと団体交渉を行ない合意退職に至った事例
・解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の金銭支払いで解決をした事例
13,まとめ
ここまで説明した通り、従業員の解雇には法律上のルールや制限があります。
正しい手続きを踏まなかったり解雇が制限されるケースに該当するのに解雇してしまったりすると、後日大きなトラブルに発展する恐れがあります。
解雇が有効、適法と認められるために、この記事でおさえておいていただきたいポイントや注意点は以下のとおりです。
1.解雇に客観的に合理的な理由があること
解雇権を濫用していると判断されてしまうと解雇は無効になります(労働契約法第16条)。
2.解雇のための手続きが正しく行われていること
解雇については、少なくとも30日前に予告、それを行わないときは30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが法律上義務づけられています(労働基準法第20条1項)。また、特に懲戒解雇や諭旨解雇については、就業規則に予め解雇事由を明示しておく必要があります。
3.解雇制限される場合に該当しないこと
業務上の怪我や病気によって休業している従業員は、休業中とその後30日間は解雇できません。また、妊娠中や育休明けの女性についても法律によって解雇が制限されています。さらに、労働基準法以外にも、様々な法律によって、特定の理由による解雇が禁止されています。
このように、解雇には様々なルールや制限があり、会社が十分にルールを理解しないまま、安易に解雇に踏み切ると、後で重大なトラブルになってしまうことが少なくありません。
解雇を検討しているときは、自社で判断せず、事前に必ず弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
正社員だけでなく、アルバイトやパート従業員、契約社員等についても、解雇規制が適用されますので、安易な解雇はすべきではありません。
14,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
解雇など問題社員トラブルに関するご相談は、下記から気軽にお問い合わせください。弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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16,【関連情報】解雇制限に関するお役立ち記事一覧
この記事では、「解雇制限とは?法律上のルールについて詳しく解説します」について、わかりやすく解説いたしました。
解雇については、実際に従業員を辞めさせたい場面になった際、解雇ができるかどうかの判断をはじめ、初動からの正しい対応方法や手続きの流れなど全般的に理解しておく必要があります。
そのため、他にも解雇に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大な解雇トラブルに発展してしまいます。
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記事更新日:2024年12月17日
記事作成弁護士:西川暢春