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うつ病の従業員を解雇する際に必ずさえておくべき注意点4つ

うつ病の従業員を解雇する際に必ずさえておくべき注意点4つ
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

うつ病になってしまった従業員への対応に困り、解雇したいというご相談をいただくことがよくあります。

仕事ができない状況であれば解雇は認められますが、おさえておくべき重要な注意点があります。十分に注意点を理解せずに解雇した結果、後で不当解雇として訴えられ、裁判所で敗訴しているケースが多くあります。

 

▶参考例:東芝事件(東京高等裁判所平成28年8月31日判決)

うつ病の従業員に1年8か月の休職後も復職できなかったため解雇

→不当解雇として訴えられ敗訴。約5200万円の支払いを命じられる。

 

このように不当解雇の裁判で敗訴すれば、解雇の日から従業員を復職させるまでの給与を支払うように命じられ、1000万円以上の支払いを命じられるケースも多くなっています。

今回は、うつ病の従業員を解雇する際に必ずおさえておくべき重要な注意点をご説明します。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

うつ病の従業員の解雇は、不当解雇として訴えられ敗訴すると、1000万円以上の支払いを命じられたうえでその従業員を復職させることを命じられることも少なくありません。会社としても非常にリスクの高い場面ですので、必ず弁護士に事前に相談するようにしてください。

従業員の解雇について会社が弁護士に相談する必要性や弁護士費用や、解雇トラブルの解決事例については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:従業員の解雇について会社が弁護士に相談する必要性と弁護士費用

▶参考情報:解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は、こちらをご覧ください。

 

▶【関連情報】うつ病の従業員の対応に関する情報はこちらの関連情報もあわせてご覧下さい。

「従業員の病気を理由とする解雇」について詳しく解説!

うつ病での休職!診断書や基準、期間、手続きの流れなど会社側の対応方法

うつ病による休職や退職はずるい?他の従業員からの不満への対応

従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の正しい対応方法!

病気休職者の復職面談。復職判定の7つの注意点を解説。

 

▼うつ病の従業員の解雇に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

 

1,うつ病の従業員の解雇に関する基本的な考え方

うつ病の従業員の解雇に関する注意点のご説明の前に、まず、前提となる基本的な考え方をご説明します。

 

(1)休職期間が経過しても復職できない場合にはじめて解雇が可能

従業員がうつ病にかかって仕事ができない場合、いきなり解雇するのではなく、まずは休職して治療させることが必要です。

大半の企業は就業規則に休職を認める期間が記載されていますので、まずはその期間休職させることになります。

そして、就業規則で定めた休職期間を経過しても、仕事に復帰できない場合は解雇することができます。

ただし、以下の場合は原則として解雇できません。

 

  • 従業員の主治医が復職可能であると診断している場合
  • うつ病発症の原因が、長時間残業やセクハラ、パワハラなど、業務に起因する場合

 

これらの場面で誤って解雇してしまうと不当解雇として訴えられると敗訴しますので注意してください。不当解雇トラブルについては以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧下さい。

 

 

以下では、この基本的な考え方を踏まえて、解雇時の注意点をご説明していきたいと思います。

 

2,注意点1:
医師が復職可としている場合は解雇できない

まず、最初におさえておきたい注意点が、医師が復職可としている場合は原則として解雇してはならないという点です。

 

▶参考例:キャノンソフト情報システム事件(大阪地方裁判所平成20年1月25日判決)

キャノンソフト情報システム事件(大阪地方裁判所平成20年1月25日判決)は、医師が復職可能としているのに会社が復職を認めずに休職期間満了により退職扱いとしたケースについて、不当解雇と判断し、約1100万円の支払いを会社に命じています。

 

復職が可能かどうかの判断はまずは医師の判断が尊重されます。

そのため、医師が復職可能と判断しているのに、解雇したり、自動退職扱いにすることは、あとで問題になれば不当解雇と判断される可能性が高いです。

従業員から復職の希望があり、復職が可能であるという医師の診断書が提出された場合は、原則として復職を認める必要があります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

主治医の診断がどう考えてもおかしいという場面では、別の医師に復職の可否について意見を聴いてみることが必要です。あわせて、本当に復職ができるのかどうかを試すために、従業員が本当に決まった時刻に出勤できるのかを確かめる「試し出勤」を行うことも必要になってきます。

 

3,注意点2:
完全に回復していなくても解雇はできない

次に、注意しておく必要があるのが、復職を希望している従業員が、休職前と同じだけのパフォーマンスで働けないときであっても、社内でできる別の仕事があるのであれば復職を認めなければならないという点です。

この点についても前述のキャノンソフト情報システム事件(大阪地方裁判所平成20年1月25日判決)が参考になります。

 

(1)参考例:
キャノンソフト情報システム事件(大阪地方裁判所平成20年1月25日判決)

事案の概要:

精神疾患で休職中の従業員について、医師は復職可能と判断したが、会社は、復職不可能と判断し、退職扱いとした事例です。

この事件では、従業員が配属されていた開発部門では、高性能・高機能・短納期のニーズに応えなければならないことを理由に、会社は復職不可能と判断していました。

 

裁判所の判断:

裁判所は、復職が可能であるのに退職扱いとしたことは不当解雇であると判断。「約1100万円」を従業員に支払うことを命じました。

 

判断の理由:

裁判所は、以下の点を指摘して不当解雇と判断しています。

 

  • 労働者は当然に残業の義務を負うものではなく、残業に耐えないことを理由に復職不可とすることはできない。
  • 復職当初は開発部門で就労することが困難であれば、しばらくはサポート部門に配置して負担を軽減することも可能であった。

 

このように、休職前と同じだけのパフォーマンスで働けないときであっても、社内でより負担の軽い部署に配置換えするなど、一定の配慮をすれば働けると判断できるときは、会社は復職を認めなければなりません。うつ病で休職中の従業員の復職については、以下の記事で詳しくご説明していますのであわせてご参照ください。

 

 

4,注意点3:
休職期間を使い切っているかをよく確認する

次に注意しておきたいのが、「休職期間を使い切っているかをよく確認する」という点です。

まだ休職期間を使い切っていないのに、うつ病の従業員を復職できなかったとして解雇したり自動退職扱いとすることは、不当解雇になります。

就業規則で、一定期間欠勤が継続した場合に初めて休職が開始する内容の条文になっているときに特に注意が必要です。

 

▶参考例:

例えば「業務外の傷病による欠勤が〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」に休職に入る内容となっている就業規則などがこれにあたります。

 

この点については、J学園うつ病解雇事件(東京地方裁判所平成22年3月24日判決)が参考になりますのでご紹介します。

 

(1)参考例:
J学園うつ病解雇事件(東京地方裁判所平成22年3月24日判決)

事案の概要:

国語の教師がうつ病で1年間休職後に復職したが、その後も欠勤が多く、学校がこの教師を解雇した事例です。

 

裁判所の判断:

裁判所は解雇は無効と判断し不当解雇と判断し、約300万円の支払いを命じました。

 

判断の理由:

この事例では、学校の就業規則は、90日間の欠勤があった場合に1年間の休職を認める内容になっていました。

つまり、「90日+1年間」の期間休むことを認める就業規則でした。

ところが、担当者が間違って90日の欠勤がないのに休職期間をスタートさせしまい、1年間しか休みを認めませんでした。

つまり、実際にはあと90日間は休職を認める内容の就業規則になっているのに、休職期間満了日について間違った案内をして復職させたとして不当解雇と判断されました。

このように「就業規則の休職期間を使い切っているかをよく確認する」ことが重要ですのでおさえておきましょう。

まだ休職期間を使い切っていない場合には、解雇するのではなく、休職期間が満了するまで休職を認めることが必要です。

 

5,注意点4:
会社に原因がある場合は解雇できない

最後に注意しておきたい点として、うつ病になったことについて会社に原因がある場合は解雇はできません。

例えば、長時間残業やセクハラ、パワハラなどが原因でうつ病を発症したと判断される場合は、うつ病で復職できないことを理由とする解雇は不当解雇となります。

例えば冒頭でご紹介した東芝事件(東京高等裁判所平成28年8月31日判決)では以下のように判断されています。

 

(1)参考例:
東芝事件(東京高等裁判所平成28年8月31日判決)

事案の概要:

東芝がうつ病の女性従業員に1年8か月の休職を認めたが復職できなかったため解雇した事例です。

 

裁判所の判断:

裁判所は解雇は無効と判断し不当解雇と判断し、東芝に約5200万円の支払いを命じました。

 

判断の理由:

裁判所は、休職直前6か月の時間外労働の平均が約70時間にのぼっており、うつ病の発症は長時間労働が原因であるとして、会社が長時間労働が原因となったうつ病で治療中の従業員を解雇することは不当解雇であると判断しました。

職場環境が原因でうつ病を発症したと判断されると、休職期間を経過して復職できなくても、解雇は不当解雇となります。

これは、労働基準法第19条で「労働者が業務上負傷または病気になり、その療養のため休業する期間及びその後30日間」は解雇が禁じられているためです。

うつ病の休職者が出ている場面では、会社の職場環境が原因でうつ病を発症したといわれる可能性がないか、慎重に検討しておくことが必要です。

 

なお、職場環境に原因があってうつ病になってしまった場合の対応としては、原則として従業員が復職できるまで待つことになります。

ただし、治療開始後3年を経過しても、病気が治らない場合は、会社から平均賃金の1200日分を打切補償として支払うことを条件に解雇が認められています(労働基準法第81条)。打切補償については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧下さい。

 

 

6,解雇または退職扱いとする場合の進め方

ここまで読んでいただいて、うつ病の従業員について解雇ができる場面とできない場面があることをご理解いただけたのではないかと思います。

最後にうつ病の従業員について解雇または退職扱いとする場合の進め方についてご説明しておきたいと思います。

この点については、就業規則で病気の従業員が復職できない場合の扱いについてどのように規定されているかによって異なります。

 

パターン1:
就業規則に「休職期間を満了しても復職できない場合は退職扱いとする。」と書かれているケース

この場合、「貴殿の休職期間は平成〇年〇月〇日に満了し、就業規則第〇条〇項により、〇月〇日付で退職扱いとなりましたので、通知します。」という内容の通知書を送ります。

 

パターン2:
就業規則に「休職期間を満了しても復職できない場合は解雇する。」と書かれているケース

この場合、「貴殿の休職期間は平成〇年〇月〇日に満了しました。弊社は貴殿を就業規則第〇条〇項により、〇月〇日付で解雇しますので、通知します。」という内容の通知書を送ります。

 

解雇の際の通知書については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧下さい。

 

 

これらの点についてはより詳しくは以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

7,【補足】正社員・契約社員・アルバイトなどによる対応方法の違い

ここまで正社員として雇用した従業員がうつ病になった場合のケースを解説しました。

これに対し、契約社員や契約期間を定めて雇用した有期雇用のアルバイトについては、契約期間中の解雇は、労働契約法第17条1項により、「やむを得ない事由」がある場合でなければできない、とされている点に注意が必要です。

これは契約期間を定めて雇用した場合は、その期間中は雇用を保障するべきという考え方によるものです。

 

 

使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

そのため、契約社員や契約期間を定めて雇用したアルバイトについては、原則として、契約期間中の解雇は避け、契約期間が終了したタイミングで雇用を終了することにより対応する必要があります。

この点については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

8,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績

咲くやこの花法律事務所では、解雇に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。

咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。

 

成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例

解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の金銭支払いで解決をした事例

元従業員からの解雇予告手当、残業代の請求訴訟について全面勝訴した事案

 

9,うつ病の従業員の解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に、咲くやこの花法律事務所において行っているうつ病の従業員の対応についてのサポート内容をご紹介したいと思います。

咲くやこの花法律事務所におけるサポート内容は以下の通りです。

 

(1)うつ病の従業員の解雇や退職扱いに関するご相談

咲くやこの花法律事務所では休職中の従業員の退職や解雇に関する企業からのご相談をお受けしています。

休職中の従業員を退職扱いあるいは解雇する場面で、企業としての対応を誤ると、重大な訴訟トラブルをかかえることになります。退職扱いあるいは解雇する前の段階でご相談いただくことがトラブル防止のための重要なポイントです。また、すでにトラブルになってしまっているケースでは、弁護士が窓口となって従業員との交渉にあたり、トラブルを早期に解決します。

 

咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●解雇トラブルに関する交渉:着手金20万円程度~
●解雇トラブルに関する裁判:着手金40万円程度~

 

(2)うつ病の従業員の復職に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では休職中の従業員から復職の申し出があった場合の対応についても企業からのご相談をお受けしています。「復職を認めるかどうかの判断」や、「復職の手順」についてお困りの企業様は早めに咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(3)従業員の休職に関する就業規則の整備に関するご相談

従業員の休職にまつわるトラブルを予防するためには、日ごろの就業規則の整備も重要なポイントです。就業規則の整備に不安がある方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。労務に強い弁護士が、日ごろの裁判経験も踏まえ、実際にトラブルになったときにも通用する就業規則を整備します。

 

咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●就業規則のリーガルチェック:10万円+税~(スタンダードプラン以上の顧問契約締結の場合は無料)
●就業規則の作成:20万円+税~

 

10,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

咲くやこの花法律事務所の解雇の対応については、「労働問題に強い弁護士への相談サービス」をご覧下さい。

お問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

11,うつ病の従業員対応に関連するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)

うつ病の従業員対応に関するお役立ち情報について、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や「咲くや企業法務.TV」のYouTubeチャンネルの方でも配信しております。

 

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12,まとめ

今回はうつ病の従業員の解雇について、まず、基本的な考え方として、「休職期間が経過しても復職できない場合にはじめて解雇が可能」という点をご説明し、そのうえで、以下の注意点をご説明しました。

 

  • 注意点1:医師が復職可としている場合は解雇できない
  • 注意点2:完全に回復していなくても解雇はできない
  • 注意点3:休職期間を使い切っているかをよく確認する
  • 注意点4:会社に原因がある場合は解雇できない

 

うつ病の従業員の解雇は、不当解雇として訴えられ敗訴すると、1000万円以上の支払いを命じられたうえでその従業員を復職させることを命じられることも少なくありません。

会社としても非常にリスクの高い場面ですので、必ず弁護士に事前に相談するようにしてください。

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年6月13日

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
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