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うつ病での休職!診断書や基準、期間、手続きの流れなど会社側の対応方法

うつ病での休職!診断書や基準、期間、手続きの流れなど会社側の対応方法
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

うつ病での休職についてわからないことがあり、困っていませんか?

厚生労働所の令和3年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス不調により1か月以上休業した従業員または退職した従業員がいる事業所の割合は10.1%にのぼっています。また、仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄があると回答した労働者の割合は53.3%にのぼっています。(▶出典元:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況」pdf

うつ病による休職は、このようなメンタルヘルス不調による休職の典型例の1つと言えるでしょう。そして、従業員がうつ病で休職する場面で、企業としての対応を誤り、以下のような重大な訴訟トラブルに発展するケースも少なくありません。

 

●事例1:休職を認める判断が遅れたことがうつ病悪化の原因であるとして会社側に約150万円の支払いを命じたケース(名古屋地方裁判所 平成20年10月30日判決)

●事例2:うつ病の休職者に対して、休職期間について就業規則の解釈を誤って説明したことが原因の1つとなって、学校法人が行った解雇が不当解雇と判断され約300万円の支払いを命じられたケース(東京地方裁判所 平成22年3月24日判決 J学園うつ病事件)

●事例3:休職した従業員を解雇したことが不当解雇と判断され、会社が約1100万円の支払いを命じられたケース(大阪地方裁判所 平成20年1月25日判決)

 

今回は、うつ病での休職について、上記のような裁判トラブルを避けるためにも、知っておくべき、休職に入る段階での対応、休職の期間、休職期間中の給与や手当の扱い、休職期間満了時の対応等についてわかりやすくご説明します。この記事を読んでいただければ、うつ病で休職する休職者への対応について、重要なポイントを理解できます。

それではさっそく見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

休職者についての対応の誤りの結果、上記のように重大なトラブルを抱えるケースも少なくありません。この記事では、休職開始のタイミング、休職期間中、復職また退職のタイミングのそれぞれについて注意すべき主な点を解説しますが、個別の事情に基づく注意点については弁護士に相談しながら対応することが必要です。筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っていますのでご利用ください。

 

▶【参考情報】労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。

 

▼【動画で解説】西川弁護士が「うつ病で休職する従業員への対応方法」を詳しく解説中!

 

▼うつ病で休職する従業員の対応について今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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1,うつ病を理由とする休職とは?

うつ病を理由とする休職とは?

うつ病を理由とする休職とは、うつ病で就業ができず回復に期間を要する従業員について、一定期間、就業を免除または禁止し、療養に専念させることをいいます。うつ病が業務と無関係に発症した私傷病である場合、うつ病で就業ができないことは本来、普通解雇事由にあたります。休職はこの解雇を一定期間猶予し、療養の機会を与える制度ということができます。このような制度は私傷病休職制度と呼ばれます。

私傷病休職制度の内容については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

企業は私傷病休職制度を設けることを義務付けられているわけではありませんが、就業規則において休職制度を定めた場合は、それが労働条件の内容となり、就業規則に従って対応する義務を負うことになります。私傷病休職制度は、私傷病で就業できなくなった従業員の回復を待つことで有意な人材の離職を防ぐ効果をもつ一方で、私傷病で就業できない従業員に配慮の措置を講じることで最終的に休職期間満了として雇用を終了する場合もトラブルに発展させずに円満な雇用終了を実現する機能をあわせもつ制度ということができます。

 

「弁護士 西川暢春からのワンポイント解説」

この記事では、うつ病が業務と無関係に発症した私傷病である場合について解説します。これに対して、うつ病が長時間労働やパワハラといった業務に起因するものの場合は、法的な扱いが異なり、解雇制限の適用を受けます。業務に起因するうつ病で休業する従業員についての解雇制限については以下の記事の解説を参照してください。

 

▶参考情報:解雇制限とは?法律上のルールについて詳しく解説します

 

2,うつ病の休職期間はどのくらい?平均的な休職期間は?

私傷病休職については、各事業主の就業規則において休職が可能な上限期間が定められ、期間内に復職可能となれば復職させる内容とされていることが通常です。そして、このような上限がある中での実際の休職期間は、病状等によって様々です。

少し古いものですが、平成27年10月に大阪産業保健総合支援センター所長らが、大阪府下の従業員数260名以上の事業所に対して行ったアンケート調査では、以下の結果が公表されています。これによると、精神疾患病名での休職期間は、6割以上が6か月以内にとどまっている一方で、全体の2割程度は1年を超えて長期化していることがわかります。

 

▶参考データ:精神疾患病名での休職期間調査(平成27年10月に大阪産業保健総合支援センター所長らが、大阪府下の従業員数260名以上の事業所に対して行ったアンケート調査より)

精神疾患病名での休職期間調査データ

精神疾患病名での休職期間調査一覧まとめ

  • 2週間以内:6%
  • 2週間 – 1ヶ月:11%
  • 1ヶ月 – 3ヶ月:27%
  • 3ヶ月 – 6ヶ月:19%
  • 6ヶ月超過 – 1年:18%
  • 1年超過:19%

 

・出典元:「精神障害による休職からの職場復帰の現実と課題 ~10年前との比較検討を含めて~」より

 

3,うつ病での休職や退職はずるい?他の従業員の不満への対応

うつ病での休職等は、休職者の業務を他の従業員が分担しなければならなくなるという点で、職場内の同僚らに負担をかける側面があることも事実です。うつ病で休職したり、あるいは休職期間を経ても復職せずに退職することについて、他の同僚らから不満の声が上がることも少なくありません。

そのような場面でも、企業としては、プライバシーに配慮しながらも休職者の立場を上手に説明し、周囲の従業員の理解と協力を得る必要があります。

「うつ病での休職や退職はずるい!」というような他の従業員からの不満への対応については、以下の参考記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

 

 

4,医師の診断書を確認する

医師の診断書を確認する

 

(1)うつ病で休職を命じるかどうかの基準

うつ病での休職を命じるかどうかの基準については、就業規則と裁判例のルールの両方を検討する必要があります。

 

1,就業規則のルールについて

まず、就業規則において、休職事由(自社においてどのような場面で休職を命じるか)が定められているはずですので、それを確認する必要があります。就業規則における休職事由の定め方のパターンとしては大きくわけて2通りあります。

1つは「業務外の傷病による欠勤が〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」というように、欠勤が一定期間続いた後もまだ就業ができない場合に休職を命じる制度設計です。これに対し、もう1つは、「業務外の傷病により通常の労務の提供ができず、その回復に期間を要すると見込まれるとき」というように必ずしも欠勤がなくても通常の労務の提供ができない状態が続くことが見込まれるときは休職を命じることができる制度設計です。

前者のように「業務外の傷病による欠勤が〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」とされている場合は、欠勤が定められた期間を超えなければ休職を命じることはできないことに注意を要します。

 

2,裁判例のルールについて

就業規則に定めた休職開始事由に該当し、本人も自宅療養を要する旨の主治医の診断書を提出して休職を希望する場合は、休職を命じて問題ないと考えることができます。

一方で、休職期間中は通常は給与が支給されないなどの不利益を伴うため、本人が休職を希望せず、就業を希望することもあります。その場合は、形式的には就業規則における休職事由に該当したとしても、判例上、無給での休職を命じることができない場面もあることに注意する必要があります。

最高裁判所は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」としています(最高裁判所判決 平成10年4月9日片山組事件)。

 

▶参考情報:片山組事件最高裁判所判決の判旨は以下をご参照ください。

「片山組事件最高裁判所判決」の内容はこちら

 

この片山組事件の判旨を踏まえると、職種等を限定せずに採用された従業員については、現在の担当業務で就業できない場合も、現実的に配置の可能性のある他の業務であれば就業可能であり、本人もそれを申し出ている場合は、無給での休職を命じることはできません。

この点は、うつ病の休職においても妥当し、例えば残業が多い部署では業務がこなせなくても、残業がない部署に配置換えすることで就業が可能で本人もそれを希望する場合は、無給での休職を命じることはできないと考える必要があります。ただし、この場合、配置換えすれば就業が可能であることについては、主治医の診断書等により確認したうえで、就業にあたり配慮すべき点などについて主治医に確認しておくことが必要です。

 

(2)診断書の提出を求める

休職を命じる場合は、「(1)うつ病で休職を命じるかどうかの基準」に照らして、休職を命ずべき場面であることを確認する必要があります。そのためには、従業員から主治医の診断書を提出させなければなりません。

この場合の医師の診断書は、「うつ病」とか「うつ状態」といった病名、症状名が記載されているだけでなく、例えば、「今後、●か月間の自宅療養を要する。」など、一定期間、休業の必要性が続くことが記載されたものであることが必要です。

 

「弁護士 西川暢春からのワンポイント解説!」

休職者の対応でご相談いただくケースの中には、診断書をまだ取得できていないケースもありますが、うつ病などの私傷病を理由に休職を命じるためには、医学的な根拠が必要です。そのためにも、主治医の診断書は休職制度の適用を決める前に本人から提出させることが原則です。

 

5,手当や給料はどうなる?休職を命じる前の確認事項

 

(1)就業規則の規定や有給休暇の残日数を確認する

会社として「(1)うつ病で休職を命じるかどうかの基準」に照らして、従業員を休職させるべきと考えた場合は、すみやかに休職を命じることが必要です。休職すべき状態であるにもかかわらず、休職命令が遅れるとうつ病が悪化する危険があります。ただし、休職を命じる前に以下の点を確認しておきましょう。

 

1,就業規則の規定を確認する

就業規則の規定を確認する

以下の7点に特に注意し、自社の就業規則の規定を確認してください。

 

1,休職開始事由がどのように定められているか?

休職事由の定め方として、2つのパターンがあることは前述したとおりです。自社の就業規則でどのように定められているかを必ず確認しましょう。

「業務外の傷病による欠勤が1か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」というように休職事由が定められているのに、間違って、1か月欠勤する前に休職を命じてしまうケースがありますが、このような間違いのもとで休職を命じ、休職期間満了時に自動退職の扱いをすると、休職者から自動退職扱いが無効であるとして訴えられたときに会社側が敗訴する原因となります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

休職事由が「業務外の傷病による欠勤が1か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」などと定められている場合、仮に従業員本人の同意があっても欠勤が1か月を超えない段階で休職を命じることはできません。就業規則には最低基準効(労働契約法第12条)と呼ばれる効力があり、就業規則よりも不利な内容は従業員が同意しても、その同意は無効となるためです。

 

▶参考:労働契約法第12条

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

「労働契約法第12条」の条文はこちら

 

2,休職期間がどう定められているか?

休職期間が就業規則でどのように定められているかを確認しておくことも必要です。

従業員の勤務年数によって異なる休職期間を設定している会社が多くなっています。従業員の勤続年数を確認したうえで、休職期間を確認しましょう。

 

3,休職期間中の給与についてどう定められているか?

休職中は通常は無給ですが、就業規則や賃金規定に休職中も給与を支給する旨の規定があれば給与を支払う必要があります。

この点も、確認しておきましょう。

 

4,社会保険料の負担についてどのように定められているか?

休職期間中の社会保険料のうち本人負担分については、休職中も本人が負担することになります(事業主負担分は会社が負担することになります)。

就業規則で、社会保険料の本人負担分を会社から本人に請求する場合の方法や支払期日について記載されているケースがありますので内容を確認しておきましょう。

 

5,休職期間中の会社との連絡について規定があるか?

会社によっては、休職者に対して休職期間中の定期連絡や定期的な診断書の提出を義務付けているケースもあります。

就業規則の規定を確認しておきましょう。

 

6,復職する場合の手続きがどのように定められているか?

休職後の復職の手続きについて休職者から質問を受けることもありますので、就業規則で内容を確認しておきましょう。

「復職の際は医師の診断書の提出が必要なこと」や、「会社が行う主治医に対するヒアリングに休職者が協力しなければならないこと」などが就業規則に定められていることが通常です。

 

7,復職できない場合の手続きがどう定められているか?

休職期間中に復職できない場合は、解雇あるいは自動退職としている就業規則が多くなっています。休職者への説明のためにも事前に確認しておきましょう。

 

2,従業員の有給休暇の日数を確認する

休職期間中は無給になりますので、休職者にとっては、まず有給休暇を消化したうえでそれでも体調が戻らない場合に休職に入るのが最も有利です。会社側でも有給休暇の日数を確認しておきましょう。

また、従業員の勤務年数によって段階的に休職可能期間を設定している会社では、有給休暇の残日数が休職可能期間に影響するケースもあることに注意が必要です。

例えば勤続1年未満であれば休職可能期間3か月、勤続1年以上であれば休職可能期間6か月とされている場合に、勤続1年が経過する直前で休職を命じられれば休職可能期間は3か月となりますが、休職前に有給休暇を消化することによって消化期間中に勤続1年以上となった場合は休職可能期間は6か月となります。

 

「弁護士 西川暢春からのワンポイント解説!」

休職に関する就業規則の規定をきっちり守ることは会社のリスクをなくすために非常に重要です。自己判断をすると思わぬところで失敗を犯してしまうことがよくあります。うつ病に限らず、休職者対応については必ず弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

 

(2)うつ病で休職を命じる場合の手続きと本人への説明

次に休職を命じる場合の手続きと本人への説明について見ていきたいと思います。

 

1,休職は文書で命じる

休職は会社が休職を命じることによって開始します。休職を命じたことを明確にするために、就業規則のどの条文を根拠に、いつから休職を命じるのかを記載した休職命令の文書を従業員に交付することが適切です(休職を命じることが明確になっていればメール等でも可)。

従業員が休み始めれば自動的に休職が始まるのではなく、会社が休職命令を出して初めて休職期間がスタートすることに注意してください。

過去の裁判例では、私傷病で欠勤が続く従業員を休職期間満了で退職扱いにする場合、就業規則通り休職を命じていることが前提になるとして、会社から明確な休職命令が出されていないことを理由に退職扱いを認めなかったものも存在します(大阪地方裁判所判決平成25年1月18日)。

休職命令の出し方と注意点については以下の記事で詳しく解説していますので参照してください。

 

 

2,うつ病で休職する従業員に休職制度の内容を正しく説明する

従業員に休職を命じる場面では、休職制度の内容を従業員に正しく説明することが必要です。

以下の項目を説明しましょう。

 

項目1:休職がいつまで可能か?

就業規則で認められる休職の期間を就業規則で確認し、うつ病で休職する従業員に説明しましょう。

診断書に「今後、●か月間の自宅療養を要する。」と記載されていることもありますが、この期間はあくまで目安です。会社としては、診断書の期間ではなく、就業規則上、最長いつまで休職が認められるのかを説明しておくことが必要です。

また、休職事由が「業務外の傷病による欠勤が1か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」というように定められているケースでは、欠勤が始まってから1か月+就業規則で定められた休職可能期間が経過したときに、休職期間満了となることに注意してください。

 

項目2:休職期間中の給与

休職中の給与についても就業規則に基づき説明しておきましょう。

 

項目3:傷病手当金に関する事項

休職中に給与を支給しない場合、従業員は健康保険から傷病手当金を受給できるケースがあります。

この傷病手当金は、病気が原因で「4日」以上仕事を休んだ場合に、最長で「1年6か月」の間、給与額のおよそ「3分の2」にあたる金額が健康保険から支給される制度です(ただし、傷病手当金には上限額の設定があり)。

従業員が休職中に経済的に困ると、無理に早期の復職を希望するなどしてトラブルの原因になりますので、傷病手当金の制度を案内し、会社も申請に協力しましょう。

傷病手当金制度については詳しくは以下をご覧ください。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

休職者に給与が支給されない場合、休職者は給与のおよそ3分の2相当額の傷病手当金を健康保険から受給できますが、一方で、社会保険料の本人負担分を負担する必要があり、休職前の額面給与のおよそ半額程度での生活設計が必要になることが通常です。

 

項目4:休職中の社会保険料の負担に関する事項

本人負担分の社会保険料について毎月会社に支払ってもらう必要があることや支払方法を説明します。

 

項目5:休職期間中の会社との連絡方法

休職期間中も休職者と定期的に連絡を取って病状を把握することは、休職者との信頼関係を維持してトラブルを防ぐためにも、また、復職に向けて必要な支援をする意味でも、さらには経過を把握して復職可否の判断において適切な判断をするためにも重要です。

会社側の連絡担当者を決めて、従業員に伝えておきましょう。また、就業規則に休職者に定期的に診断書の提出を義務付ける規定があれば、診断書の提出についても説明しておきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

休職者に診断書の提出等を義務付ける場合は、その情報の取扱にも注意が必要です。うつ病の診断名等に関する情報は特にセンシティブな個人情報として扱う必要があります。個人情報保護法第20条2項の「要配慮個人情報」及び労働安全衛生法第104条の「心身の状態に関する情報」としての扱いを受けることに留意してください。

 

項目6:復職する場合の手続き

うつ病が緩解した場合の復職に関する就業規則の規定の内容を説明しましょう。特に、復職については本人の希望だけでなく、主治医の診断内容等を踏まえて、会社が復職可能と判断することが復職の条件となることを説明しておくことが必要です。

 

▶参考情報:「うつ病や適応障害で休んでいた従業員を復職させるときの正しい方法」について以下の記事も参考にご覧下さい。

うつ病や適応障害で休んでいた従業員を復職させるときの正しい方法

 

項目7:休職期間が満了しても復職できない場合の手続き

休職期間が満了しても復職できない場合は自動退職あるいは解雇になることも説明が必要です。

 

以上ご説明した7点については、口頭だけでなく、文書でも説明しておくことが適切です。特に、休職できる期間や休職期間が満了しても復職できない場合の手続きについては、説明不足や説明の誤りがトラブルの原因になることも多いため、文書で説明しておきましょう。

 

3,休職者の業務の引継ぎの段取りを決める

休職制度について説明した後は、休職者の業務の引継ぎの段取りをする必要があります。医師から休むように指示を受けた場合は、できるだけすみやかにその従業員を休ませるべきです。

休職に入るのが遅れるとうつ病が悪化する危険があり、会社も責任を問われることになります。休職者が担当していた業務の後任者を早急に決めて、要点をおさえた引継ぎができるように工夫しましょう。

また、休職が長期になる場合は、その期間、何らかの方法で人員を補充するかを検討する必要があります。例えば、派遣社員の派遣を受ける、業務の一部を外注する、他部署から人員を補充するなど、休職期間中にスムーズに仕事が回るように段取りをしておきましょう。

 

(3)休職者による有給消化は認める必要があるか?

休職を命じる前に休職者から年次有給休暇取得の届出があった場合は、会社として取得を認めなければなりません。また、休職を命じた期間についても、その期間中に休職命令前にすでに届出ていた有給休暇取得日があるときは、その日については有給休暇として扱う必要があります(東京地方裁判所判決 令和4年2月9日)。

一方、会社が休職命令を発令した後は、休職期間中の日については就業義務が失われるため、休職命令発令後にその期間中の日について年次有給休暇を取得することはできないと考えることができます(昭和31年2月13日基収第489号)。

 

6,うつ病での休職中の従業員の過ごし方と対応について

 

(1)会社は過ごし方についてどのくらい指導できるか?

休職期間中も、会社が解雇を猶予し、事業主負担分の社会保険料等を負担して雇用を維持している以上、休職者に対し、他社での就業等を禁じ、療養に専念することを義務付けるべきです。ただし、会社としては休職者の私生活に過度に目くじらを立てるべきではありません。

「東京地方裁判所判決 平成20年3月10日(マガジンハウス事件)」が、うつ病や不安障害で私傷病休職中の従業員が、オートバイで頻繁に外出したり、宿泊を伴う旅行をしたりしていた事案について、「うつ病や不安障害といった病気の性質上、健常人と同様の日常生活を送ることは不可能ではないばかりか、これが療養に資することもあると考えられていることは広く知られている」として、これらの行動を療養専念義務違反として問題視するべきではないとしています。

 

(2)休職中のメール返信等を義務付けることができるか?

うつ病での休職期間中は、休職者を療養に専念させるべきであり、業務上のメール返信を休職者に義務付けることは適切ではありません。休職期間中の休職者の業務上のメールは、他の担当者において確認、対応すべきでしょう。

一方、会社がうつ病で就業ができない期間に限り休職を認めている以上、休職期間中も休職者の病状等について会社から確認することは必要です。そのため、会社からの病状等に関する質問について、休職者にメール返信等を義務付けることは可能であると考えられます。

ただし、うつ病等の精神疾患での休職では、主治医から会社担当者による休職者に対する連絡を控えるように指示されることがあります。その場合は、主治医の指示を守る必要があり、休職者との連絡が必要になるときは、主治医を通じて休職者と連絡を取るなどの配慮をすることが必要です。

休職者について、主治医から会社関係者との接触を控えるべきと指示された場合に、上司から休職者に対して連絡したり、面談の実施を求めたりすることは、仮に休職者が面談の実施を承諾したとしても、事業主の安全配慮義務違反にあたるとした裁判例もあり、注意が必要です(京都地方裁判所判決 平成28年2月23日ワコール事件)。

 

7,うつ病による休職からの復帰について

 

(1)復職に向けた手順

休職者が復職を考える段階になった場合、会社からも必要に応じて、復職に向けたリワークプログラムを案内する等、スムーズな復職に向けた支援を行うことが望ましいでしょう。リワークプログラムは、うつ病等の精神疾患による休職者に対し、職場復帰に向けた支援を行うプログラムです。クリニック等において実施されるもの、地域障害者職業センターが実施するものなどがあります。

そのうえで、休職者が復職を希望する段階に至れば、復職可能であることを示す主治医の診断書を提出させたうえで、試し出勤の結果やリワークプログラムでの状況等を踏まえながら、復職の可否、方法を判断していきます。

復職の判定については以下の記事で解説していますので参照してください。

 

 

なお、うつ病による休職からの復職の場面で参照すべき指針として、厚生労働省から「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が公開されていますのであわせて参照してください。

 

 

(2)うつ病での休職を繰り返す従業員への対応

うつ病休職を繰り返す従業員への対応に悩む企業も少なくありません。2回目以降の休職については制限を設け、休職が際限なく繰り返されることにより、業務に支障が生じないようにすることも必要になるでしょう。

休職が何度も繰り返されることによる支障への対応として、以下のような制度設計が考えられます。いずれも就業規則で規定を設け、制度化しておく必要があります。

 

  • 同一または類似の傷病での休職は期間を問わず1回までとする制度設計
  • 同一または類似の傷病での休職期間は再休職までの期間を問わず通算し、前回休職分を控除した残りの期間についてのみ休職を認める制度設計
  • 例えば1年以内に休職を繰り返す場合の再度の休職期間は前回休職分を控除した残りの期間とする制度設計(傷病の同一性や類似性を要件としない設計も可能)
  • 例えば3か月以内に同一または類似の傷病での再休職が必要になった場合は、復職を取り消して、前回の休職の続きとして扱う制度設計

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

就業規則を変更して、上記のように休職の繰り返しを制限する規定を新たに置く場合は、就業規則の不利益変更となり、その合理性が問われることになります(労働契約法第10条)。3か月以内の再休職は休職期間を通算する旨の就業規則を変更し、6か月以内の再休職、または同一ないし類似の事由による再休職は休職期間を通算するとした就業規則変更について、メンタルヘルス等による欠勤者の急増への対応の必要があり、過半数組合も異議がないとしている旨を指摘して、合理性ありと判断した裁判例として、「東京地方裁判所判決 平成20年12月19日(野村総合研究所事件)」があります。

就業規則の変更については以下の記事で解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:就業規則の変更方法は?手続きと不利益変更・同意書取得などの注意点を解説

 

(3)休職者の視点から理解することも大切

休職者対応を円滑に進めるためには、休職者の立場、状況をできる限り理解することも大切です。「(1)復職に向けた手順」で紹介した厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、以下の2つの事例が掲載されており、こういった事例も参考にするとよいでしょう。

 

1,抑うつ状態と診断され、22か月にわたる長期の休職の後、試し出勤を経て復職した事例

 

抑うつ状態と診断され、22か月にわたる長期の休職の後、試し出勤を経て復職した事例

・出典元:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」8ページ(pdf)

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

この事例では休職後、服薬やカウンセリングにより次第に回復し、主治医に復職を申し出たものの、主治医からもう少し回復してから復職するように指導され、それに従った経緯があったことに言及されています。うつ病等の精神疾患では、回復不十分な段階での早すぎる復職は、再発して休職を繰り返すことになる危険が高く、適切ではありません。会社としては主治医に復職後の業務内容や就業時間、業務による負荷の程度を伝えながら、主治医と協力して復職の時期が適切なものになるように調整していくことも必要です。

 

2,うつ病と診断されて休職後、3か月のリワークプログラム、6か月の短時間勤務等を経て、通常勤務に復帰した事例

 

うつ病と診断されて休職後、3か月のリワークプログラム、6か月の短時間勤務等を経て、通常勤務に復帰した事例

・出典元:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」9ページ(pdf)

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

この事案では、地域障害者職業センターのリワークプログラムを利用し、ストレスに関する教育や認知行動療法を含めたプログラムを12週間休むことなく受けたことで、どのようにしてメンタルヘルス不調に至ったのかについて理解ができたことに言及されています。このようにリワークプログラムで生活のリズムを整えながら、環境に対応する力をつけ、自身の病気についての理解を深めることも、復職後にうつ病を再発させないために検討すべき方法の1つです。

 

8,休職期間満了後の解雇や退職について

就業規則上認められる休職期間が満了しても、復職できない場合は、解雇または退職扱いとする旨が就業規則で定められていることが通常です。

就業規則で「解雇」と定められている場合は、労働基準法20条1項により解雇を30日以上前に予告したうえで、解雇通知書を従業員に交付又は送付することが必要です。一方、就業規則で「退職扱い」になる旨が定められている場合は、そのような手続は不要ですが、従業員に退職の効力が生じたことを「休職期間満了通知書」などの書面で休職者に通知することが通常です。

休職期間満了後の解雇や退職扱いについては以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

ただし、休職期間満了の場面でも、できる限り、会社からの一方的な通知で解雇または退職扱いとすることは避け、休職者から退職届を出してもらうことにより、合意により雇用を終了することが、トラブル回避の観点からは適切です。

 

9,うつ病で休職する従業員への対応に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、うつ病などの精神疾患を理由とする休職について多くの企業経営者や人事担当者からご相談をお受けし、その都度、個別の事情も踏まえながら、適切な対応をし、解決してきました。

最後に、咲くやこの花法律事務所において行っている、従業員の休職に関するご相談やトラブル対応についてのサポート内容をご紹介したいと思います。

咲くやこの花法律事務所におけるサポート内容は以下の通りです。

 

(1)うつ病などの精神疾患により休職中の従業員の退職や解雇に関するご相談

咲くやこの花法律事務所ではうつ病などの精神疾患により休職中の従業員の退職や解雇に関する企業からのご相談をお受けしています。

休職中の従業員を退職扱いあるいは解雇する場面で、企業としての対応を誤ると、重大な訴訟トラブルをかかえることになります。退職扱いあるいは解雇する前の段階でご相談いただくことがトラブル防止のための重要なポイントです。

また、すでにトラブルになってしまっているケースでは、弁護士が窓口となって従業員との交渉にあたり、トラブルを早期に解決します。

 

咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談料

  • 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
  • 解雇トラブルに関する交渉:着手金20万円程度~
  • 解雇トラブルに関する裁判:着手金40万円程度~

 

(2)うつ病などの精神疾患により休職中の従業員の復職に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では)うつ病などの精神疾患により休職中の従業員から復職の申し出があった場合の対応についても企業からのご相談をお受けしています。

「復職を認めるかどうかの判断」や、「復職の手順」についてお困りの企業様は早めに咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談料

  • 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(3)従業員の休職に関する就業規則の整備に関するご相談

従業員の休職にまつわるトラブルを予防するためには、日ごろの就業規則の整備も重要なポイントです。就業規則の整備に不安がある方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。労務に強い弁護士が、日ごろの裁判経験も踏まえ、実際にトラブルになったときにも通用する就業規則を整備します。

 

咲くやこの花法律事務所の労務に強い弁護士への相談料

  • 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
  • 就業規則のリーガルチェック:10万円+税~(スタンダードプラン以上の顧問契約締結の場合は無料)
  • 就業規則の作成:20万円+税~

 

(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

うつ病で休職する従業員に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるサポート内容については「労働問題に強い弁護士への相談サービス」のページをご覧下さい。

また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

10,まとめ

今回は、うつ病を理由とする休職について、休職を命じるべきかどうかの基準や、休職を命じる場合の手続の流れや有給休暇の扱い、休職中の過ごし方、復職や休職期間満了による退職等の注意点について会社がおさえておくべきポイントをご説明しました。

うつ病などの精神疾患による休職者の対応は、神経を使う注意を要する場面の1つです。休職者との間のトラブルも増えており、会社側の説明に誤りがあったり、間違った対応をすると、あとで会社の責任を問われることになります。心身の不調をかかえる休職者に配慮しつつ、トラブルにならないような正しい説明、正しい対応をこころがけましょう。

 

11,【関連情報】休職に関連したその他のお役立ち記事

今回は、「うつで休職する従業員への対応として会社がおさえておくべき5つのポイント」について詳しくご説明いたしました。うつで休職する従業員への正しい対応方法に関しては、今回の記事でご理解いただけたと思います。うつ病や適応障害など精神疾患の従業員に関する対応は、方法を誤ると重大なトラブルにつながることも多いです。

ここでは、今回の記事とは別に、その他にも知っておくべき関連情報もご紹介しておきますので、合わせて確認しておきましょう。

 

従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の対応方法

 

実際に従業員を雇用されている会社では、うつ病や適応障害など精神疾患になった従業員の対応をしなければならないケースがあります。そのため、対応方法を事前に理解して対策しておくことはもちろん、万が一、休職トラブルなどが発生した際は、弁護士へのスピード相談が早期解決の重要なポイントです。

従業員の休職に関する対応やトラブルについては、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から就業規則など自社の労務環境の整備を行っておく必要があり、これらは「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。

顧問弁護士の具体的な役割や必要性、相場などの費用については、以下の記事を参考にご覧ください。

 

▶参考情報:顧問弁護士とは?その役割、費用と相場、必要性について解説

 

また、労働問題に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスについては、以下をご参照ください。

 

▶参考情報:【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら

▶参考情報:大阪で顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約)をお探しの方はこちら

 

記事更新日:2024年10月6日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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    発売日:2023年11月19日
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    著者:弁護士 西川 暢春
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    出版社:株式会社日本法令
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