「無断欠勤」は社会人としてあるまじき行為の典型ともいえます。
しかし、実は、無断欠勤を理由に従業員を解雇した事例でも、会社が不当解雇であるとして訴えられて敗訴する事例は少なくありません。
例えば、「日本ヒューレット・パッカード事件」(平成23年 1月26日東京高等裁判所判決)では、会社が従業員を「無断欠勤」を理由に解雇したことが、裁判所で「不当解雇」と判断され、会社は「約1600万円」の支払いを命じられています。
では、無断欠勤社員を解雇しようとする場合、会社としてどのような注意が必要でしょうか?無断欠勤が始まったときの対応はどうすればよいのでしょうか?
今回は、「無断欠勤社員への対応と解雇する際の7つの注意点」について、企業の労働問題に強い咲くやこの花法律事務所の弁護士が解説します。
それではさっそく見ていきましょう。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,無断欠勤社員への対応の基本
社員が無断欠勤をした場合、まず最初の対応は電話して事情を聴くことになります。
では、電話での連絡がとれず音信不通のときはどうすればよいでしょうか?
無断欠勤社員と連絡が取れないときの対応は、無断欠勤の原因としてどのような理由が考えられるのか調査してみることが必要です。
単に仕事がいやになってこなくなるというケース以外に以下のようなケースが考えられます。
ケース1:自宅で急病で亡くなっている
1人暮らしの場合、自宅で亡くなっているという可能性もあります。
一度自宅に行ってみて確認することが必要です。
ケース2:逮捕された
何らかの事件を起こして逮捕されたという可能性もあります。
逮捕された場合は警察から家族に連絡が入ります。そのため、従業員の家族から会社に連絡があって逮捕されたことがわかるという場合が多いです。
ケース3:会社内のセクハラやパワハラ、いじめなどにより出勤が難しい状況にある
社内のハラスメントやいじめが無断欠勤の原因になっていることもあります。
ハラスメントやいじめがなかったか、本人の勤務状況を同僚や直属の上司に確認してみましょう。もし、ハラスメントやいじめがあったときは、まず、その問題を社内で解決し、本人が出勤できる環境を整えることが必要です。
ケース4:会社の命令に対する反発や感情的な対立が原因で無断欠勤になっている
会社の命令に対する反発や感情的な対立が原因で無断欠勤になっているケースもあります。
本人の勤務状況を同僚や直属の上司に確認してみましょう。確認の結果、会社の命令に対する反発や感情的な対立が原因で無断欠勤になっている場合で、本人の欠勤に正当な理由がないときは、文書で出勤を督促することも1つの方法です。
ケース5:うつ病などの精神疾患で欠勤の連絡ができない
従業員がうつ病などの精神疾患で連絡ができない状態にあるケースもあります。
同僚や直属の上司に本人に精神疾患の兆候が出ていなかったか確認してみましょう。精神疾患が疑われる場合は、医師の診断書を提出することを促す手紙を本人に送ることが必要です。
このように様々なケースがありますが、無断欠勤が続く時は、懲戒解雇を検討することになります。
参考情報:無断欠勤で連絡が取れない社員の対応については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
2,無断欠勤社員を解雇する際の7つの注意点
では、無断欠勤を理由に解雇する場合にどのような点に注意が必要でしょうか?
最初に結論として最も重要な「解雇する際の7つの注意点」についてまとめておきます。
- 注意点1:無断欠勤日数が何日で解雇が認められるか?
- 注意点2:無断欠勤でも解雇できない場合がある!
- 注意点3:無断欠勤の証拠はあるか?
- 注意点4:まずは退職届の取り付けをやってみることが必要。
- 注意点5:無断欠勤の場合も解雇通知を確実に行う
- 注意点6:無断欠勤の場合の解雇通知書の書き方の注意点
- 注意点7:無断欠勤社員が内容証明郵便を受け取らない場合の対処法
以下では最も重要な7つの注意点について詳しくご説明します。
注意点1:無断欠勤日数が何日で解雇が認められるか?
「無断欠勤日数が何日で解雇が認められるか?」
結論から言うと、2週間以上無断欠勤が続くことが、無断欠勤による解雇が、裁判所で正当と判断されるための目安です(東京地方裁判所平成12年10月27日判決など)。
たとえば、6日程度の無断欠勤で解雇した場合は、不当解雇と判断している裁判例がほとんどです(長野地方裁判所松本支部昭和54年6月13日判決、東京地方裁判所昭和48年12月7日判決、神戸地方裁判所昭和47年8月1日判決など)。
注意点2:無断欠勤でも解雇できない場合がある!
次に、2週間以上無断欠勤が続いても解雇できない場合があることに注意が必要です。
具体的には以下の場合は解雇できません。
ケース1:無断欠勤の原因が職場環境にある場合
例えば、職場内でのセクハラやパワハラが原因で無断欠勤になっているときは、解雇はできません。
このようなケースで無断欠勤であるとして解雇した事例では、裁判を起こされた場合は、不当解雇と判断されて裁判所が企業側が多額の金銭支払いを命じられています。
ケース2:無断欠勤の原因が精神疾患である場合
従業員が出勤できなかったり、欠勤の連絡ができない事情として、精神疾患が原因であると推測できるケースがあります。
このような場合には、従業員を休職させて治療に専念させることが必要であり、無断欠勤と扱って解雇することは不当解雇となります。
冒頭でご紹介した「日本ヒューレット・パッカード事件」(平成23年 1月26日東京高等裁判所判決)でも、裁判所は、従業員に被害妄想的な発言があらわれるなど精神疾患の兆候が出ていたことに着目し、会社がこの従業員を無断欠勤を理由に解雇したことは不当解雇であると判断しています。
なお、精神疾患の兆候にどのようなものがあるか、またその対応方法については、以下の記事にまとめていますので参照してください。
注意点3:無断欠勤の証拠はあるか?
無断欠勤を理由に解雇する場合は、無断欠勤をしていたことについて会社が立証する必要があります。通常は出勤簿やタイムカードで立証します。
会社の労務管理がずさんで出勤簿やタイムカードなどの出勤の記録をとっていないケースでは、無断欠勤の証拠がないとして会社側が敗訴している裁判例もあり、注意が必要です。
注意点4:まずは退職届の取り付けをやってみることが必要
ここまでの「注意点1」から「注意点3」を確認し、無断欠勤が2週間以上になっており、かつ「注意点2」でご説明した職場環境や精神疾患が原因の可能性がなく、かつ無断欠勤の証拠もそろっているときは、解雇に進むことになります。
ただし、解雇する前にまずは退職届の取り付けをやってみることが必要です。これは、従業員から退職届を取得すれば、解雇の場合と違い、後日「不当解雇だ」として訴えられる危険がほぼなくなるためです。
無断欠勤社員に退職届の用紙を送って提出を促しましょう。
注意点5:無断欠勤の場合も解雇通知を確実に行う
退職届の提出がないときは、解雇に進むことになります。
解雇の通知は確実にその社員に届ける必要があります。解雇通知を送っても届かず返送されてきたり、解雇通知を相手が受け取ったことを証明できないときは、裁判所では解雇は成立しておらず雇用関係が続いているものと扱われてしまいますので注意が必要です。
「解雇通知書を確実に届けること」と「届いたことを立証できるようにしておくこと」の2点を意識しておきましょう。解雇通知書が届いたことを立証できるようにするためには、解雇通知書は「内容証明郵便」で送ることが必要です。
参考情報:内容証明郵便の書き方や出し方などについては、以下の記事をご覧ください。
注意点6:無断欠勤の場合の解雇通知書の書き方の注意点
無断欠勤の場合の解雇通知書の注意点として、解雇通知書に記載する「解雇日をいつにするか」ということがポイントとなります。
基本的には、以下の2つのパターンのどちらかを選択することが必要です。
パターン1:「解雇通知書を従業員が受けとった日に解雇する」として記載する方法
この方法をとる場合、「労働基準法」で定められている「解雇予告手当のルール」に注意する必要があります。
従業員が解雇通知を受けとった日に解雇する場合は、原則として30日分の給与を解雇予告手当として支払うことが法律上義務付けられています。
ただし、2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し出勤の督促に応じないときは、労働基準監督署に「除外認定」という手続きを取って解雇予告手当が不要であることを国に認めてもらう制度があります。解雇予告手当を支払わないで「解雇通知を従業員が受けとった日に解雇する」場合は、この除外認定の手続きをとる必要があります。
参考情報:除外認定の制度について、詳しくは以下の記事で解説していますのでご参照ください。
パターン2:「解雇通知書を受けとった日から30日が経過した日に解雇する」と記載する方法
従業員が解雇通知を受け取った日から30日以上たった日を解雇日とする場合は、法律上、解雇予告手当を支払う必要がありません。
ただし、この場合、解雇日が先になりますので、その期間の分の社会保険料の負担が会社に発生することになります。
除外認定手続きの手間を避けたい場合は、「解雇通知を受け取った日から30日が経過した日に解雇する」と記載する方法がおすすめです。
注意点7:無断欠勤社員が内容証明郵便を受け取らない場合の対処法
最後に、無断欠勤社員が内容証明郵便を受け取らない場合の注意点をご説明しておきたいと思います。まず、内容証明郵便を受けとならない理由としては以下の2つのパターンがあります。
- 1.送った住所に住んでいるけれども受け取らない場合
- 2.送った住所に住んでいない場合
以下で、それぞれのパターンごとに解説していきます。
1.住んでいるけれども受け取らない場合は、普通郵便で再送する。
まず、送った住所に住んでいるけれども受け取らない場合については、普通郵便で再送することが必要です。普通郵便であれば相手が受け取らなくてもポストに投函されますので、必ず相手に届きます。
ただし、普通郵便については、発送した事実や従業員が受け取った事実を立証できないという問題点があります。
このため、解雇通知の内容証明郵便を送る際は、「受け取りがない場合に備えて普通郵便でも同内容の文書を送付します」と記載しておき、内容証明郵便発送時に普通郵便でも同じ文書を発送しておくことがおすすめです。
このようにすれば内容証明郵便が返送されてきたときでも、「普通郵便を別に発送しこれはポストに投函されている」ということを証拠として残すことができます。
2.送った住所に住んでいない場合は、住所の調査が必要。
次に、送った住所に住んでいない場合については、住所の調査が必要です。弁護士に依頼すればその従業員の現在の住民票上の住所を調べることが可能です。新しい住所が判明したときは、新しい住所に解雇予告通知書をを送りなおすことが必要になります。
一方、転居について住民票の届が出されておらず、新しい住所が判明しないこともあります。この場合は、「公示送達」という手続きが必要です。
参考情報:公示送達とは?
公示送達というのは、従業員が行方不明で解雇の通知ができない場合に、裁判所に申請をして、裁判所の掲示板に解雇通知の文書をはりだしてもらう制度です。
この制度を利用した場合、裁判所の掲示板にはりだしてから2週間たてば実際には従業員に文書が届いてなくても、法律上届いたものと扱ってもらうことが可能です。
3,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、解雇に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例
4,無断欠勤をする従業員の対応について弁護士に相談したい方はこちら
最後に、咲くやこの花法律事務所における、無断欠勤社員への対応についてのサポート内容をご説明したいと思います。
(1)無断欠勤社員への対応方法、解雇のご相談
今回の記事でご説明した通り、特に無断欠勤社員の解雇の場面では慎重な検討が必要です。
不当解雇と判断された場合は会社側のダメージが大きいことから、できる限り解雇前にご相談いただくことをおすすめします。
企業の労働問題の分野で実績が豊富な咲くやこの花法律事務所の弁護士がこれまでの経験を踏まえ、ご相談の中で、御社にとってベストな解決策をご提案します。
(2)無断欠勤社員の解雇トラブルに関する交渉、裁判、労働審判
すでに解雇して裁判や労働審判などトラブルになってしまっている場合、早急に弁護士に相談し、適切な対応する必要があります。自社の考えで対応することは非常に危険なので、必ず労働問題に強い弁護士にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所では、トラブルの交渉、裁判、労働審判のいずれについても常時ご相談を承っています。交渉や裁判、労働審判について、咲くやこの花法律事務所の経験豊富な弁護士がご依頼を受けて対応し、企業にとってベストな解決を実現します。
無断欠勤への対応についてお困りの企業様は気軽に咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
5,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士のサポート内容は「労働問題に強い弁護士への相談サービス」をご覧下さい。
また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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7,【関連情報】無駄欠勤など問題社員対応に関するお役立ち記事一覧
今回の記事では、「無断欠勤社員の対応と解雇における注意点」についてご説明しました。このような問題社員のトラブルに関しては、無断欠勤以外にも発生する様々なトラブルが発生する可能性があります。そのため、以下では他にも問題社員のトラブルに関するお役立ち情報をまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
・欠勤が多い社員を解雇できる?体調不良などで休みがちな従業員への対応
・正当な解雇理由とは?解雇理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説
・従業員を即日解雇する場合に会社が必ずおさえておくべき注意点
・正社員を解雇するには?条件や雇用継続が難しい場合の対応方法を解説
・契約社員を解雇するには?絶対におさえておくべき重要な注意点
問題社員の対応をしなければならないケースでは、「正しい対応方法や注意点」を事前に把握しておくことはもちろん、万が一「重大なトラブル」などが発生した際は、スピード相談が早期解決の重要なポイントです。
問題社員については、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から自社の労務環境の整備を行っておく必要があるために「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。
顧問弁護士の具体的な役割や必要性、また費用の相場感などは、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
参考情報:顧問弁護士とは?その役割、費用と相場、必要性について解説
また、労働問題に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスについては、以下をご参照ください。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年9月27日