こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
体調不良などを理由に欠勤することが多い従業員の対応に困っていませんか?
欠勤を繰り返す等、勤務状況に問題のある従業員がいると、業務の停滞や他の従業員の負担増を招きます。これは職場にとって良い状況とはいえません。
しかし、一方で、休みが多いからといってすぐに解雇してしまうと、不当解雇として訴えられる等の労使トラブルに発展するおそれがあります。処分にあたっては慎重な判断が必要です。欠勤を理由とする解雇が不当解雇(無効)と判断された例として、「最高裁判所判決平成24年4月27日(日本ヒューレット・パッカード事件)」があり、この事件では会社が約1600万円の支払いを命じられています。
このようなリスクを回避するためにも、欠勤が多い社員については、法的に問題がないかどうかを踏まえた正しい対処法を理解しておくことが重要です。
そこでこの記事では、欠勤や休みが多い社員への対応を解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、欠勤や休みが多い従業員に対して、トラブルのリスクを避けながら、適切に対処する方法を理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
従業員が体調不良や子供の用事などを理由に当日欠勤することは、ある程度はやむを得ません。しかし、欠勤があまりにも多い場合、事業者として何らかの対処をしたいと考えることが通常でしょう。
ただし、事業者側としての対応・判断を誤ると、労使トラブルに発展して会社が不利益を負うリスクもありますので、慎重に対応する必要があります。特に解雇について訴訟トラブルになり、裁判所に不当解雇であると判断されてしまうと、事業者は多額の金銭の支払いを命じられることになります。
▶参考情報:不当解雇については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
そのため、欠勤が多いことを理由とする処分や解雇は必ず弁護士に相談したうえで判断する必要があります。咲くやこの花法律事務所でも、欠勤や休みが多い社員への対応について、事業者側の立場に立ってご相談をお受けしていますのでご利用ください。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所へのご相談は以下もご参照ください。
▶参考動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が「欠勤が多い社員!指導方法や解雇についてを弁護士が解説」を動画で解説しています!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,欠勤とは?
- 2,「欠勤が多い」の基準とは?どれぐらい休むと「休みすぎ」といえるのか
- 3,欠勤が多い社員への対応方法
- 4,欠勤が多いことを理由に正社員を解雇できるのか?
- 5,休みがちな新入社員についての対応
- 6,欠勤が多いことを理由に減給できるのか?
- 7,完全月給制で働いてる従業員が欠勤した場合、欠勤控除は可能か?
- 8,休みが多い障がい者雇用の従業員への対応
- 9,休みが多い派遣社員についての対応
- 10,欠勤が多いと失業保険を受給できない場合がある
- 11,欠勤が多い従業員についてのよくある質問
- 12,欠勤が多い従業員の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら
- 13,まとめ
- 14,【関連情報】休みがちなど問題社員に関連したお役立ち記事一覧
1,欠勤とは?
欠勤とは従業員が会社所定の労働日に出勤しないことを指します。欠勤は休暇とは異なり従業員の権利ではありません。そのため、従業員が欠勤する場合、会社の承認を得ることが必要です。一方、会社は、欠勤した日について賃金を支払う必要がないことが原則です。
(1)欠勤と休業との違い
欠勤とは病気、怪我、家庭の事情などの従業員側の都合によって本来出勤するべき日に勤務を休むことをいいます。機械の故障や生産量の調整などの会社側の都合による休業は、欠勤には含まれません。また、従業員側の都合であっても、年次有給休暇や産前産後休業、育児休業、介護休業等の法律や就業規則の定めによる休暇や休業は、従業員に権利として認められるものであり、「欠勤」にはあたりません。
(2)欠勤した日の賃金は支払う必要がない
民法624条1項は「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」と定めています。そのため、従業員は従業員の都合で欠勤した日について、会社に賃金を請求することはできません。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。
この原則から、通常の月給制の会社では、従業員が欠勤した日の賃金をその月の給与から控除することができます。これを「欠勤控除」といいます。欠勤控除の具体的な計算方法については法律上明確な定めがありません。就業規則や賃金規程で、控除額の計算方法等について具体的に規定しておくことが必要です。
2,「欠勤が多い」の基準とは?どれぐらい休むと「休みすぎ」といえるのか
欠勤があまりにも多い従業員がいると、業務に支障が生じたり、他の従業員の負担が増え、そのことで不満が溜まる等、職場にさまざまな悪影響を及ぼします。会社としては、休みすぎな従業員に対して何らかの対応をしたいと考えるところでしょう。
では、一般的にどの程度、欠勤すれば「休みすぎ」と言えるのでしょうか。
これについては、法律上の明確な定義はありません。ただし、労働基準法39条1項で出勤率が8割以上の労働者に対する有給休暇の付与が義務付けられていることから、出勤率が8割以上かどうかが、「休みすぎ」といえるかどうかの1つの目安といえるでしょう。特に、体調不良等の正当な理由がある欠勤により、解雇等を検討する場合は、この「8割」は1つの目安になります。
▶参考情報:労働基準法第39条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
一方で、正当な理由のない欠勤について、会社が十分な指導をし、懲戒等の対応をしても、欠勤が減らない場合、出勤率が8割以上でも解雇が認められています。出勤率8割というと、週5日勤務の労働者が毎週1日欠勤している状態であり、業務への支障の程度も大きいでしょう。正当な理由なく休みがちな従業員がいる場合は、そこまで勤怠が悪化する前に、こまめに指導・懲戒等の対応をしていくことが重要になります。
3,欠勤が多い社員への対応方法
欠勤が多く勤務状況に問題がある社員に対しても、最初から解雇などの厳しい処分はできません。段階を踏んで適切な対応をしていくことが重要です。
また、欠勤が多い社員に対応するためには、あらかじめ、その根拠となる会社のルールを就業規則等で定めておく必要があります。特に、欠勤の届出・承認についての規定や、承認がない欠勤についての懲戒処分の規定の整備が重要になります。
▶参考情報:就業規則の作成については以下で解説していますのでご参照ください。
(1)欠勤の理由を確認する
欠勤が多い社員への対応として、まずは欠勤の理由を欠勤のたびに本人に確認して記録することが大切です。欠勤の理由によってその後に会社がとるべき対応が変わります。体調不良による欠勤なのか、単なる寝坊や私用などによる欠勤なのかを聞き取りましょう。
そのほかにも、以下の点を毎回確認して、記録することが大切です。
- 欠勤について本人から連絡があった日時
- 連絡なく欠勤した場合は、それについて本人が説明する事情
- 欠勤について就業規則に基づく手続きがされていない場合は、それについて本人が説明する事情
- 欠勤について会社側から指導したときはその内容とそれに対する本人の応答
なお、欠勤の理由として、本人が職場内でハラスメント被害を受けているという主張をする場合は、その事実関係の調査をすることが法律上事業者に義務付けられています。事実関係の調査を行い、ハラスメントの事実があったかどうかについて、事業者としての結論をだすことが必要です。
▶参考情報:ハラスメントの調査については、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(2)欠勤理由が体調不良の場合は具体的な病状を確認する
体調不良を理由に欠勤を繰り返している従業員についてメンタルヘルス不調がうかがわれる場合は、事業者として、単に体調を聴くだけにとどめず、病院名、診断名、服薬の有無、薬品名等を尋ねて不調の程度を具体的に把握する義務があります。
東京高等裁判所判決平成27年2月26日(ティーエムイーほか事件)がこの点を判示しています。
医師の診断を受けるようにすすめ、就業の可否についての診断書を提出するように求めましょう。具体的な病名や症状、回復の見込みなどを会社が把握しておくことで、ある程度、今後の勤務状況の予想ができます。また、担当業務を変更したり、業務量を減らすなど、会社が健康状態の改善のための配慮をすることも検討する必要があります。就業が難しい状況が続く場合は、休職を命じることも考えられます。
最高裁判所判決平成24年4月27日(日本ヒューレット・パッカード事件)で、最高裁判所は、 精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、会社は精神科医による健康診断を実施するなどした上で、必要な場合は治療を勧め、休職等の処分を検討すべきであるとしています。
▶参考情報:従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の正しい対応方法については以下の記事もご参照ください。
(3)欠勤が正当な理由によるものでない場合は注意指導する
欠勤の理由が、単なる寝坊やさぼり等で、正当な理由とはいえない場合は、従業員に対して注意指導を行いましょう。口頭で注意しても改善がみられない場合は、注意・指導を書面で行い、始末書や誓約書の提出を命じて記録に残すことが必要です。それでも、正当な理由のない欠勤が繰り返される場合は、次の段階として懲戒処分を行います。
懲戒処分は、はじめは最も軽いけん責、戒告等の処分から行い、問題が改善されない場合は、徐々に減給、出勤停止などと、処分を重くしていくことが適切です。ただし、懲戒処分をするためには、従業員の行為が就業規則で定めた懲戒事由に該当する必要があります。就業規則に懲戒事由として「正当な理由なく欠勤したとき」等の規定を設けておく必要があります。
▶参考情報:懲戒処分については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
4,欠勤が多いことを理由に正社員を解雇できるのか?
正当な理由のない欠勤が多い従業員に対して注意指導を重ねても改善がみられない場合や、体調不良などの理由を述べているもののあまりにも欠勤が多い場合は、解雇を検討することになります。
ただし、正当な理由のない欠勤については、まずは書面による注意・指導、懲戒処分により改善を促す必要があり、そのような手順を踏まずに解雇してしまうと、裁判になった場合に不当解雇と判断されて解雇が無効になるリスクが高くなります。また、体調不良等の場合は、休職を経ずに解雇することが認められるかを検討する必要があります。
欠勤が多い従業員を解雇する場合は、懲戒解雇と普通解雇の2種類が考えられます。それぞれの解雇のルールについて順番にみていきましょう。
(1)懲戒解雇
正当な理由のない欠勤や無断欠勤が続くことを懲戒解雇事由として就業規則に定めている場合、そのような従業員について、注意指導を重ねても改善が見られないときは、懲戒解雇を検討することも可能です。
ただし、労働契約法では、従業員の行為が就業規則の懲戒事由に当てはまる場合でも、客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性がなければ懲戒権の濫用に該当し、その処分は無効になると規定しています(労働契約法15条)。懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処分ですので、就業規則の懲戒解雇事由に該当する場合でも、欠勤の頻度や悪質性がよほど高くなければ懲戒解雇までは重すぎるとして、懲戒解雇が無効と判断されてしまうおそれがあります。まずは戒告や譴責などの軽い懲戒処分から、徐々に処分を重くし、それでも無断欠勤や不合理な理由による欠勤が続く場合にはじめて懲戒解雇に進むことが必要です。
▶参考情報:労働契約法15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
▶参考情報:懲戒解雇については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
欠勤が体調不良等による場合は、懲戒解雇により対応することは、通常適切ではありません。また、精神的な不調が欠勤の原因であるときは、最高裁判所判決平成24年4月27日(日本ヒューレット・パッカード事件)の判示を踏まえた対応をする必要があります。この事件で最高裁判所は、 精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、正当な理由のない無断欠勤として扱うべきではなく、会社は精神科医による健康診断を実施するなどした上で、必要な場合は治療を勧め、休職等の処分を検討すべきであるとしています。
(2)普通解雇
欠勤が多い従業員について、懲戒解雇ではなく普通解雇により対応することも考えられます。懲戒解雇は普通解雇よりも、厳しい判断基準が適用されますので、会社としては、懲戒解雇より普通解雇を選択した方が安全です。
欠勤が多すぎる従業員は、会社に対して十分な労務を提供できていない、労働契約上の債務不履行の状態にあり、普通解雇事由があるといえます。これは体調不良等の理由による場合も同じです。
ただし、労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、解雇権の濫用として無効であると定めています(労働契約法16条)。これは普通解雇にも適用される規定です。そのため、例えば、以下のような事情がある場合、解雇をめぐって従業員との紛争になったときは、裁判所で解雇が無効(不当解雇)と判断されることがありますので注意が必要です。
- 正当な理由のない欠勤であっても、それについて会社からの注意・指導や懲戒処分を経ずに普通解雇した場合
- 体調不良等を理由とする欠勤の場合に、欠勤の日数が多いとは言えなかったり、欠勤の期間が短いものであるのに、普通解雇した場合
また、病気などで欠勤が続く場合は、いきなり解雇するのではなく、まずは就業規則で定めた休職を認めることが必要です。就業規則に休職の規定があるにもかかわらず、休職させずにいきなり解雇すると、解雇が無効と判断される可能性が高くなります。
▶参考情報:労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
▶参考情報:普通解雇についてはこちらの記事で詳しく説明しています。ぜひご覧ください。
(3)欠勤を理由とする普通解雇を有効とした裁判例
欠勤を理由とする普通解雇を有効とした裁判例として以下の例が挙げられます。参考例として紹介します。
1,大阪地方裁判所判決令和4年7月22日
10か月で27回の遅刻、欠勤をし、これを理由にけん責処分を受けた際に、その始末書に「事前に遅刻や欠勤の理由を伝えて、貴社の承認を得た上でのことなので、反省することない。」と従業員が記載したことを受けて、この従業員を普通解雇した事案です。裁判所は「度重なる遅刻及び欠勤につき、改善の見込みがない」として普通解雇を有効と判断しました。
なお、この事案で、従業員は「遅刻はうつ病に伴う不眠症が原因で酌むべき事情がある」と主張しましたが、裁判所は、仮に精神疾患のために寝坊が多くなっていたとしても、当該疾患が業務起因である証拠はない以上、事前の連絡なく遅刻を繰り返していた点につき酌むべき事情はないとして、従業員の主張を退けています。
5,休みがちな新入社員についての対応
ここまでご説明した点は、欠勤が多い新入社員についても同様にあてはまります。ただし、新入社員が試用期間中である場合、試用期間満了後に本採用しないことは、通常の解雇よりも緩やかな基準で認められます。
例えば、日本コンクリート工業事件(津地方裁判所決定昭和46年5月11日)は、2か月の試用期間中において、欠勤8回、うち朝寝坊による無断欠勤1回という事案において、本採用の拒否(解雇)を有効と判断しています。一方で、試用期間中の従業員の本採用拒否が無条件で認められるわけではありません、試用期間3か月の間に事前に承認を得た欠勤が4回あったにすぎない事案については解雇は無効とされています(福島地裁いわき支部決定昭和50年3月7日)。
▶参考情報:試用期間中の従業員の本採用については、以下で解説していますのでご参照ください。
6,欠勤が多いことを理由に減給できるのか?
正当な理由のない欠勤や無断欠勤を、懲戒処分としての「減給」の事由として就業規則に規定している場合、従業員に対して、賃金を減額する「減給」の処分を行うことができます。
ただし、減給の懲戒処分は無制限には認められておらず、労働基準法91条で以下のとおり限度額が定められています。
- 減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
- 1か月の減給の総額が1か月の給与額の10分の1を超えてはならない
▶参考情報:労働基準法91条
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
▶参考情報:懲戒処分としての減給については以下の記事で詳しく説明していますので、あわせてご参照ください。
従業員が欠勤した日の賃金を給与から控除すること(欠勤控除)は懲戒処分ではありません。そのため、上記の通り減給の懲戒処分をした場合も、これとは別に、欠勤日について欠勤控除をすることが可能です。
7,完全月給制で働いてる従業員が欠勤した場合、欠勤控除は可能か?
完全月給制とは、毎月の給与額が固定されていて、欠勤、遅刻、早退等があった場合も賃金控除が行われない給与形態のことをいいます。法律によって定義された制度ではありませんが、欠勤等があっても固定給から賃金控除しない給与形態のことを一般にこのように呼んでいます。これに対して、通常の月給制は、毎月固定の基本給の金額から、欠勤や遅刻があったときにはノーワーク・ノーペイの原則に基づいて賃金控除を行う給与形態です。
完全月給制の場合は、欠勤控除はできません。従業員が欠勤した場合は欠勤控除をしたいと考えているのであれば、完全月給制ではなく通常の月給制にして、就業規則などで欠勤控除について規定しておくようにしましょう。
8,休みが多い障がい者雇用の従業員への対応
障がい者雇用の従業員に対しては、障がいの内容や程度に応じた配慮をすることが会社に求められます(障害者雇用促進法36条の3、36条の4)。 そのため、障がいのある従業員の解雇の判断にあたっては、通常の解雇の条件に加え、従業員の障がいの内容や程度に応じた配慮が行われているかどうかも重要なポイントになります。
一方で、障がい者雇用だからといって、懲戒処分や解雇ができないわけではありません。障がいの内容や程度に応じた配慮をした上で、それでも欠勤が多すぎることについて改善ができないという場合、要件を満たしていれば、懲戒処分や解雇の対応をすることができます。
例えば、富士ゼロックス事件(東京地方裁判所判決平成26年3月14日)は、直腸障害等の身体障害があり、障がい者雇用の求人に応募して採用された従業員が、無断欠勤や遅刻、その他の問題行動や度重なるミスを理由に解雇された事案です。裁判所は、この事案において、会社が研修や注意・指導等を行っても問題が改善しておらず、解雇は有効であると判断しています。
▶参考情報:障害者雇用の従業員の解雇については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
9,休みが多い派遣社員についての対応
では、自社に派遣されている派遣社員の欠勤が多く、戦力にならないという場合はどのように対応すればよいのでしょうか?
派遣先が派遣社員を懲戒したり、解雇したりすることはできないので、派遣社員の欠勤が多く業務に支障が生じている場合は、派遣元に派遣社員の交代を求めたり、派遣先との派遣契約を終了させることによって解決することになります。
以下で具体的にみていきましょう。
(1)派遣社員の欠勤が多い理由を確認する
派遣社員の欠勤が多い場合、まず、欠勤の理由が派遣社員の個人的な事情なのか、それとも自社の職場環境等に問題があるのかを確認しましょう。たとえば、パワハラやセクハラがあったり、長時間労働によって体調を崩しているなど、欠勤の原因が会社側にある場合は、それらの問題を改善しなければなりません。
(2)派遣元に派遣社員の交代を要請する
欠勤の原因が職場環境などではなく派遣社員自身の個人的な問題である場合は、派遣元に交代要員を要請してみましょう。体調不良などの理由があったとしても、欠勤が多く業務に支障が生じている場合はその旨を説明して適切な人材を派遣してもらうよう要請すると良いでしょう。
(3)派遣契約を終了させる
適当な交代要員を派遣してもらえない場合は、派遣契約終了等による解決も検討することになります。
派遣契約の期間満了が近い場合は、期間満了のタイミングで派遣契約を更新しないことにより、契約を終了させることができます。また、同じ派遣元から複数の派遣社員が派遣されている場合、その派遣元との派遣契約を終了させなくても、派遣人数を1人減らして更新することで、欠勤の多い派遣社員を派遣対象から外すことが考えられます。
一方、派遣契約の期間満了がまだ先で、期間満了を待てない場合は、派遣契約を途中で解除することを検討することになります。これについては、派遣元とのトラブルを避けるため、契約解除の具体的な根拠を説明して合意により派遣契約を解除することが適切です。派遣先による派遣契約の解除については厚生労働省の以下の指針にも留意する必要があります。
また、同じ派遣元から複数の派遣社員が派遣されている場合、その派遣元との派遣契約を解除しなくても、合意により派遣人数を1人減らすことで、欠勤の多い派遣社員を派遣対象から外すことが考えられます。
10,欠勤が多いと失業保険を受給できない場合がある
従業員は、退職後、次の就業先が決まるまでの間、要件を満たせば、雇用保険の基本手当(失業手当)を受給することができます。
ただし、退職前の職場で欠勤が多かった場合は、基本手当の受給に必要な要件のうち、「被保険者期間」の要件を満たさず、基本手当(失業手当)を受給できないことがあります。
以下でご説明したいと思います。
「被保険者期間」の要件の判断にあたっては、その退職者が雇用保険の被保険者であった期間のうち離職日から1か月ごとに区切った期間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または、賃金支払いの基礎となった労働時間数が80時間以上ある月を、1か月として数えます。ここでいう賃金支払基礎日数とは、賃金の支払の対象となっている日数のことをいいます。遅刻や早退にかかわらず、その日に1時間でも出勤していれば「1日」と数えます。そして、基本手当(失業手当)を受給するために必要な被保険者期間は、いわゆる自己都合退職か会社都合退職かによって異なり、下表のとおり定められています。
表からもわかるように、たとえば、一般の自己都合退職の場合、離職日までの2年間に、1か月のうちに11日未満または80時間未満しか勤務しなかった月が12か月以上ある場合、基本手当(失業手当)を受給することができません。このように、欠勤が多い労働者は、退職後に基本手当(失業手当)を受給できないことがあります。
▶参考:基本手当(失業手当)を受給するために必要な被保険者期間
離職理由 | 基本手当受給に必要な被保険者期間の要件 |
自己都合退職(一般の離職者) | 離職の日以前2年間に、被保険者期間(賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または、賃金支払いの基礎となった労働時間数が80時間以上ある月)が通算して12カ月以上あることが必要 |
正当な理由による自己都合退職 (特定理由離職者※) |
離職の日以前1年間に、被保険者期間(賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または、賃金支払いの基礎となった労働時間数が80時間以上ある月)が通算して6カ月以上あることが必要 |
会社都合退職 (特定受給資格者※2) |
※ 特定理由離職者とは、退職の理由が、病気や家族の介護等の自分の意思によらない正当な理由であると認定された離職者のことをいいます。
※2 特定理由受給資格者とは、倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた離職者のことをいいます。
11,欠勤が多い従業員についてのよくある質問
以下では、欠勤が多い従業員への対応についてのよくある質問を見ていきたいと思います。
(1)シングルマザー等子育て中の従業員の欠勤が多い場合の対応
子育て中の従業員については、子供の病気や学校行事で欠勤が増えることがあります。これについては育児・介護休業法により、小学校入学前の子を育児する従業員について、子の体調不良等を理由とする「子の看護休暇」の権利を認められており、この点に留意した対応が必要です。子の看護休暇の取得は法律上の権利であり、このような休暇の取得を欠勤として扱うことはできませんので注意して下さい。
令和7年4月以降、子の看護休暇は、「子の看護等休暇」と名称変更され、その対象者も小学校3年生までの子を育てる従業員に拡大されます。また、看護休暇を認める必要のある場面も拡大され、感染症に伴う学級閉鎖の場合や、子の入園式や卒園式、入学式などへの参加を理由とする場合についても、申出があれば休暇を認めることが義務付けられます。
▶参考情報:育児・介護休業法改正の詳細については、厚生労働省のホームページも参考にしてください。
(2)妊婦の従業員の欠勤が多い場合の対応
妊娠中の従業員については、体調不良や妊婦検診等により欠勤が増えることがあります。妊娠を原因とする体調不良による欠勤や、妊婦検診による欠勤を理由に従業員を解雇を示唆したり、いやがらせ等の言動をすることは、いわゆるマタハラにあたり、違法とされていますので注意してください(男女雇用機会均等法施行規則第2条の3第3号、第5号)。妊娠中に欠勤が増えることはやむを得ないことと考えて対応する必要があります。
▶参考情報:マタハラについては、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
(3)休みが多い従業員の有給休暇
入社後6か月目の有給休暇の付与は、入社後6か月間の出勤率が8割以上であることが条件となっています(労働基準法39条1項)。また、入社後1年6か月目以降の有給休暇の付与は、直近1年間の出勤率が8割以上であることが条件となっています(労働基準法39条2項)。そのため、欠勤が多く、これらの条件を満たさない場合は、有給休暇を認める必要はありません。一方で、これらの出勤率の条件を満たす場合は、欠勤が多くても有給休暇の取得を認める必要があります。
12,欠勤が多い従業員の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら
ここまで欠勤や休みが多い従業員への対応についてご説明しました。咲くやこの花法律事務所では、従業員の労務管理や解雇について、事業者側の立場からのご相談を常時承っています。以下で、咲くやこの花法律事務所の事業者向けサポート内容をご紹介します。
(1)欠勤が多い従業員の懲戒処分や退職勧奨・解雇に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、欠勤の多い従業員への懲戒処分や退職勧奨、解雇を検討されている事業者から多くのご相談をお受けし、解決してきました。
懲戒処分や退職勧奨、解雇などは従業員とのトラブルに発展するリスクが高い場面です。欠勤が多いといった理由で従業員を解雇したが、訴訟で不当解雇と判断され、事業者側が多額の支払いを命じられる例も少なくありません。咲くやこの花法律事務所に事前にご相談いただくことで、トラブルのリスクを大幅に減らし、解決することができます。欠勤が多い従業員について懲戒処分や解雇等を検討されている場合はご相談ください。
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(2)解雇後のトラブルに関する交渉、裁判
咲くやこの花法律事務所では、解雇後の従業員とのトラブルに関する交渉や労働審判、訴訟対応のご依頼も常時承っています。
解雇した従業員が、不当解雇にあたるとして復職を求めたり、事業者に金銭を請求したりしてきた場合は、咲くやこの花法律事務所の弁護士が事業者にかわって従業員との交渉を行います。また、解雇トラブルが労働審判や訴訟に発展した場合も、咲くやこの花法律事務所の弁護士が事業者側の立場に立って解決に導きます。トラブルでお困りの方は、できるだけ早い段階で、咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談下さい。
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(3)欠勤が多い従業員の対応に関するご相談
欠勤が多い従業員に適切に対応するためには、就業規則で欠勤について会社の承認を要する旨の規定や、賃金の欠勤控除に関する規定、懲戒事由や解雇事由についての規定などを適切に整備しておくことが重要です。従業員とのトラブルに発展することを防ぐために、人事労務に精通した弁護士に相談して整備しましょう。咲くやこの花法律事務所では、事業者からのご相談を多くお受けし、雇用契約書・就業規則等の整備に取り組んできました。ご不安な点がある場合はぜひご相談ください。
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(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
13,まとめ
今回の記事では欠勤が多い従業員への対応についてご説明しました。
欠勤が多い従業員については、以下のような内容が基本的な対応になります。
- (1)欠勤の理由をその都度確認する
- (2)欠勤理由が体調不良の場合は具体的な病状を確認する
- (3)欠勤が正当な理由によるものでない場合は注意指導する
また、欠勤が多いことを理由に従業員を解雇することは可能ですが、解雇については後日従業員から訴訟を起こされることがあります。会社からの注意・指導や懲戒処分を経ずに解雇した場合は、欠勤が多くても不当解雇と判断されて会社が敗訴するリスクがあります。解雇の判断は必ず事前に弁護士に相談することが必要です。
その他、完全月給制で働いている従業員の欠勤控除や、障がい者雇用の従業員が欠勤を繰り返す場合の対応、派遣社員の休みが多い場合の対応についてもご説明しました。
欠勤が多い従業員の対応に困っている場合は、できるだけ早い段階で専門の弁護士に相談して、トラブルなく解決することが大切です。咲くやこの花法律事務所でも、欠勤や休みが多い従業員への対応について専門的なサポートを提供しています。お困りの際はご相談ください。
14,【関連情報】休みがちなど問題社員に関連したお役立ち記事一覧
今回の記事では、「欠勤が多い社員を解雇できる?体調不良などで休みがちな従業員への対応」のご説明をしました。欠勤が多いなどの従業員に関しては、正しい対応を行わなければ重大なトラブルにつながります。万が一、従業員とのトラブルが発生した際は、多額の支払いが発生することも多いです。そのため、今回の記事テーマ以外にも知っておくべき重要な情報が幅広くあります。
この記事内でご紹介していない記事を以下で記載しておきますので、合わせてご覧下さい。
・無断欠勤で連絡が取れない社員への対応方法をわかりやすく解説
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年11月20日
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