こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士の西川暢春です。
出勤停止とは、会社が従業員に対して、一定期間就業を禁止する懲戒処分をいいます。出勤停止期間は給与は支給されません。出勤停止の期間について法律上の上限はなく、企業が就業規則において期間の上限を設けていることが通常です。企業によっては、「停職」、「懲戒休職」あるいは「自宅謹慎処分」と呼んでいるケースもあります。
出勤停止期間は、給与が支給されないため、従業員にとっては重い懲戒処分になります。
そのため、出勤停止処分を受けた従業員が会社に抗議し、外部の労働組合に加入して処分の撤回を求めたり、あるいは処分の無効を主張して訴訟を起こすということが少なくありません。
過去の裁判例でも以下のように会社がした出勤停止処分が裁判所で無効と判断されているケースがあります。
裁判例1:東京地方裁判所判決平成26年9月5日
職場のアルバイト従業員と交際しつつ、他のアルバイト従業員に頻繁に誘いのメールを送ったとして出勤停止5日の処分をしたことが無効と判断された事例。
裁判例2:金沢地方裁判所判決平成23年1月25日
学生に対するハラスメント行為を理由として大学の准教授に出勤停止6か月の懲戒処分をしたことが重すぎるとして無効と判断された事例
裁判例3:東京地方裁判所判決平成21年10月20日
病院が院内の省エネ活動に反対して抗議した准看護師に出勤停止14日の懲戒処分をしたことが重すぎるとして無効と判断された事例
会社の出勤停止処分が裁判所で無効と判断されると、会社は従業員に対し、その期間中の賃金の支払いや損害賠償の支払いを命じられることになります。
それだけでなく、会社の労務管理の一環として行った出勤停止処分が法的に否定されたことになり、処分対象者はもちろん、他の従業員に対しても示しがつきません。
そのため、出勤停止処分を行う場合は、その処分が後で無効と判断される危険がないかどうかを慎重に検討したうえで行うことが必要です。
この記事を読んでいただくことで、会社が出勤停止処分の内容や、手続きの流れ、処分期間中の賃金の扱い等について理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
出勤停止処分は、出勤停止期間中の賃金が支給されない重い処分です。従業員が処分に反発して、外部の労働組合に加入して団体交渉を申し入れて、処分の撤回を求めるケースや、前述のように処分の無効を主張して訴訟を起こすケースなど、様々な労務トラブルに発展するリスクがあります。
万が一、従業員から処分が無効であると主張されても十分反論できるように、出勤停止処分を行う前に、処分の対象となる事実について丁寧に証拠を確保したうえで、正しい手続きを踏んで処分に進むことが必要です。
後日の団体交渉や訴訟で処分を撤回させられるような事態を避けるためにも、問題社員対応に強い弁護士に事前相談のうえで、進めていただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に強い弁護士によるサポートや実績紹介については、以下をご覧ください。
▼【関連動画】西川弁護士が「出勤停止の懲戒処分とは?処分を行うべき場面や正しい手順【前編】」「出勤停止の懲戒処分について!期間の目安、実施時の注意点【後編】」について解説中!
▶出勤停止に関して弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
1,出勤停止とは?
出勤停止とは、就業規則違反 、業務命令違反などの規律違反があった従業員に対して、一定期間、就業を禁止する懲戒処分をいいます。期間中の賃金は支払われません。また、会社によっては、就業規則において、出勤停止処分の場合に、就業を禁止するだけでなく、始末書の提出を求めることを定めているケースもあります。
例えば、厚生労働省のモデル就業規則においても、出勤停止処分の内容として、「始末書を提出させるほか、〇日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。」と定められています。
多くの会社では、就業規則において、軽い順から以下の内容で懲戒処分を定めています。
このうち、降格処分は主に役職者を対象とする処分であり、役職のない一般社員には適用されないことが通常です。また、諭旨解雇や懲戒解雇は、従業員との雇用契約を終了させる懲戒処分です。
そのため、役職のない一般社員に対して、雇用契約を終了させる内容を含まない懲戒処分を行う場合、出勤停止処分が最も重い処分となります。
(1)出勤停止の期間の数え方
例えば出勤停止7日という場合、本来であれば出勤すべき日について7日間、就業を禁止され、その分の給与が支給されないことを意味します。
休日も含めて7日間ということではありません。
例えば、土日が休みの会社で、出勤停止7日の処分をする場合、月曜日から翌週の火曜日まで就業を禁止されることになります(東京地方裁判所判決平成15年7月25日)。
(2)処分の重さは出勤停止の期間によって大きく変わる
出勤停止処分は、出勤停止を命じる期間の長さによって、処分の重さが大きく変わるという特徴があります。
出勤停止3日なら、3日分の給与が支給されないのにとどまりますが、出勤停止90日なら、休みの日も入れれば約4か月間、給与が支給されないことになり、非常に重い処分になります。
そして、懲戒処分が問題行動の程度と比較して重すぎることは懲戒処分の無効の理由になります(労働契約法第15条)。
▶参考情報:労働契約法第15条
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
・参照元:「労働契約法」の条文はこちら
このルールは「懲戒処分の相当性のルール」と呼ばれます。
出勤停止処分を行うときは、処分の内容が問題行動の程度に照らして重すぎる内容にならないように、出勤停止を命じる日数にも十分注意する必要があります。
過去の判例上も、会社が懲戒休職6か月の処分をしたケースについて、重すぎるとして、3か月を超える部分について無効と判断された事例があります(盛岡地方裁判所一関支部判決平成8年4月17日)。
2,処分期間中の賃金の扱い
出勤停止期間中は賃金は支給されません。
ただし、賞与の支給日がたまたま出勤停止期間中に該当する場合に、出勤停止期間中であることを理由に賞与を支給しないことは、通常は認められません。
裁判例の中にも、首都高速道路公団が従業員に対して停職3か月の懲戒処分を科した際に、停職処分中に支給日が来る賞与を不支給としたことは違法と判断したものがあります(東京高等裁判所判決平成11年10月28日)。
3,処分期間中の有給休暇
出勤停止期間中に、処分を受けた従業員が有給休暇を取得することは認められません。
そもそも、有給休暇の取得は、従業員に就業義務がある日についてのみ認められるからです。
出勤停止期間中は従業員に就業義務がないため、仮に未消化の有給休暇が残っていたとしても、有給休暇を取得することはできません。
4,出勤停止処分を行うべき場面
どのような場面で出勤停止処分を行うかについては、就業規則に記載をする必要があります。
一般的には、以下のような場面で出勤停止処分が行われることが多くなっています。
- 頻繁な遅刻に対して戒告や譴責などの処分を科しても改善がされない場合
- 業務命令違反に対して戒告や譴責などの処分を科しても改善がされない場合
- セクハラやパワハラなどのハラスメント
- 私生活上で刑事犯罪を犯した場合
5,正しい手順を踏んで行うことが必要
出勤停止処分は、懲戒処分の一種であるため、懲戒処分のルールにのっとって手続を進めることが非常に重要です。
以下では手続の流れを順番にご説明したいと思います。
正しい手続で出勤停止処分を行っていない場合、後日、裁判所で処分が無効と判断される理由になりえますので、注意してください。
(1)出勤停止処分の理由となる項目に該当するかどうかを確認する
従業員に問題があって出勤停止処分を検討する場合、まずは就業規則の「懲戒」の項目を確認することが必要です。
判例上、会社は、就業規則で定められた懲戒事由に該当する場合にのみ、懲戒処分を従業員に科すことができるとされています(最高裁判所判決平成15年10月10日 フジ興産事件)。
懲戒事由については、以下の記事でも詳しく解説していますので参考にご覧ください。
これは、懲戒処分になりうることをあらかじめ就業規則で周知することにより、警告を与えておくことが必要であるという考え方によるものです。
出勤停止処分についても同様であり、就業規則に出勤停止処分の理由としてあげられている項目に該当する場合にのみ、出勤停止処分を従業員に科すことができます。
従業員の問題行動や就業規則違反に対して出勤停止処分を検討する場合、以下の点を確認する必要があります。
確認ポイント
- 自社の就業規則に「出勤停止」という処分が定められているか
- 就業規則の「懲戒」の項目で、懲戒処分を科そうとする従業員の問題点が出勤停止処分の項目としてあがっているか
- 自社の就業規則で「出勤停止」がどのような内容の処分として定められているか。特に出勤停止処分の上限日数がどのように定められているか。また、始末書の提出を命じる内容になっているかどうか。
上記の点に加えて、自社の就業規則が正しく周知されているかについても確認が必要です。
周知されていない就業規則は、裁判所で効力が認められないことが多く、出勤停止処分を行っても、その根拠となる就業規則が周知されていないときは、処分が無効と判断される可能性があります。
なお、就業規則の周知については、以下もご参照ください。
(2)処分理由についての証拠を収集する
懲戒処分を行う際は、処分の対象となる問題行動について証拠を収集することが必要です。
労働契約法第15条において、懲戒処分が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その懲戒処分は無効となるとされています。
従業員の問題行動や就業規則違反について、具体的な証拠がないのに出勤停止処分を行うことは、客観的に合理的な理由を欠く処分として、無効になるため、注意が必要です。
▶参考例:
例えば、私生活での飲酒運転など、犯罪を犯して逮捕された従業員に対して、出勤停止処分を行う場合、本人から事件の内容(飲酒の経緯や飲酒運転の動機、飲酒量、前科の有無など)を十分にヒアリングし、そのヒアリング内容について記録を残したうえで、出勤停止処分を科す必要があります。
単に逮捕されたという事実のみで、犯罪を犯したと断定して出勤停止処分を行った場合、出勤停止処分が裁判で争われれば、処分についての証拠が不十分であるとして、処分が無効と判断されるリスクがあります。
(3)告知聴聞の機会を与える
従業員に、出勤停止などの懲戒処分を行う場合は、従業員に対して、具体的にどのような問題について懲戒処分を予定しているかを告げたうえで、従業員の言い分を聴く手続を行う必要があります。
これを「弁明の機会の付与」あるいは「告知聴聞の機会の付与」といいます。
「告知聴聞」とは、どのような問題について処分を検討しているかを「告知」したうえで、従業員の言い分を聴く(聴聞)ということです。
この告知聴聞の機会を与えずに出勤停止処分をすると、万が一、出勤停止処分について訴訟になったときに、従業員側から「言い分も聴かずに懲戒処分をされた」と主張され、裁判所で出勤停止処分が無効と判断される理由になりますので注意してください。
出勤停止処分について、就業規則に弁明の機会を与える旨の定めがなくても特段の支障がない限り弁明の機会を与える必要があるとした裁判例として、東京地方裁判所判決令和3年3月26日があります。
告知聴聞の機会の付与の具体的な進め方としては、会社から本人に対して、まず、以下のような「弁明通知書」を交付して、どのような問題について懲戒処分を予定しているかを通知する必要があります。
そのうえで、本人から会社に「弁明書」を提出させ、その内容も踏まえて、処分の内容を決定することが必要です。「弁明書」のひな形は以下をご参照ください。
本人に反省を促すためには、このような手続をしっかり行い、本人に会社から処分を受けたことの重大性を理解させることが必要です。
そのためには、出勤停止処分を決してメールでの通知などですませてはいけません。
従業員を呼び出して、対面で説明を行い、書面を交付して手続を進めることで、手続に重みを持たせなければ、懲戒処分を受けたという重大性を理解させ、反省を促すことができません。
(4)懲戒処分を決定する
従業員による弁明の内容も踏まえて、最終的に会社として出勤停止処分をするかどうかを決定します。
弁明書が提出されてから直ちに処分に進むのではなく、弁明書に記載された従業員の弁明の内容を検討して、処分をするかどうか、どのような処分が適切かを慎重に判断するべきです。
(5)出勤停止処分通知書を交付する
出勤停止処分をすることを決めたら、従業員に出勤停止処分の理由を記載した処分通知書を交付します。
出勤停止処分通知書には以下の項目を記載することが適切です。
出勤停止処分通知書の記載事項
- 処分の日付
- 出勤停止処分とする旨
- 出勤停止の期間と日数
- 就業規則の根拠条文
- 就業規則に基づき始末書を提出させるときは、その提出期限
(6)始末書の提出を命じる
就業規則において、出勤停止処分を受けた場合に始末書の提出を命じることを定めている場合は、期限を決めて従業員に始末書の提出を命じる必要があります。
そのため、始末書の提出期限を出勤停止処分通知書に記載しておくことが適切です。
(7)公表は名誉棄損に注意
従業員に対して出勤停止処分を行った場合は、それを社内で公表します。
譴責処分や減給処分とは違い、出勤停止処分の場合、通常は出勤停止期間中の業務の代替などが必要になりますので、社内での公表はほぼ必須といえるでしょう。
また、そもそも、懲戒処分には、社内に、懲戒処分を受けた従業員の問題行動が好ましくない行為であることを明確にし、会社は問題行動に対して適切な処分をすることを示すことで、企業秩序を維持するという目的があります。
この意味からも、出勤停止処分を社内で公表することが適切です。
ただし、懲戒処分の公表については、のちに裁判トラブルに発展し、その中で、公表が名誉棄損にあたるとして、会社に損害賠償が命じられているケースも存在します。
そのため、以下の点に注意して公表を行うようにしてください。
社内公表時の注意点
- 客観的事実のみを公表し、証拠がないことを公表したり、推測による公表をしない
- 社内の規律維持という観点から必要な範囲での公表にとどめ、懲戒対象者の氏名は公表しない。また、詳細にわかる公表は控える。
- 社内での公表にとどめ、社外には公表しない
- 社内の掲示板などで公表する場合は、長期間になりすぎないようにする
出勤停止処分の場合、通常は出勤停止期間中の業務の代替などが必要になり、社内向けに一定の説明が必要になります。
しかし、その場合も、業務の代替に必要な指示を必要な範囲で行うにとどめて、社内で出勤停止処分の対象者の氏名を公表することは避けることが望ましいです。
参考判例:
東京地方裁判所判決平成19年4月27日
掲示板での公表については、東京地方裁判所判決平成19年4月27日が、懲戒休職6か月の処分を社内の掲示板で掲示して公表した事例について、1日のみの掲示であったことなどを指摘して、名誉棄損にはあたらないとしており、参考になります。
懲戒処分の公表については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
就業規則において、懲戒処分の公表についての規定を事前に設けておくことも、社内での公表が違法とされないための重要なポイントになります。
自社の就業規則をチェックしておきましょう。就業規則での具体的な規定方法については、以下の記事を参考にご覧ください。
▶参考情報:就業規則とは?義務や作成方法・注意点などを弁護士が解説
6,出勤停止処分の期間の目安
出勤停止処分については、その期間が重要であるということをご説明しました。
以下では、処分期間を決める際の目安として、過去に出勤停止処分が適法とされた判例をご紹介します。
(1)陰湿なセクハラ発言を繰り返していた社員への出勤停止処分
●出勤停止10日
最高裁判所判決平成27年2月26日
事案の概要
大阪の水族館「海遊館」に勤務する男性管理職が、女性派遣社員に対して、自分の不倫相手の話をし、不倫相手とその夫との間の性生活の話をする等、性的な冗談や下ネタなどの「言葉によるセクハラ」を続けていた事例です。
裁判所の判断
出勤停止10日の懲戒処分を有効と判断しました。
この裁判例については以下で判例ニュースとしても詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
(2)女性に対するつきまとい行為を理由とする懲戒休職処分
●懲戒休職6か月
東京地方裁判所判決平成19年4月27日
事案の概要
放送局に勤務する従業員が、看板番組の制作過程で知り合った女子学生に対し、嫌がるにもかかわらず抱きしめてキスするなどし、自分の要求が叶わない場合には何らかの危害を加えることもあり得るかのような発言をした事例です。
裁判所の判断
懲戒休職6か月の懲戒処分を有効と判断しました。
(3)社内で暴力をふるった社員への対応としての出勤停止処分
●出勤停止3日
東京地方裁判所判決平成23年11月9日
事案の概要
保険会社の従業員が人事考課の面談中に、上司の首をつかみ、上司のメガネをとりあげて投げるなどの暴行を加えた事例です。
裁判所の判断
3日間の出勤停止処分を有効と判断しました。
(4)出張命令の拒否を理由とする出勤停止処分
●出勤停止9日
静岡地方裁判所昭和46年8月31日判決
事案の概要
静岡工場勤務の板金工が神戸工場への3か月間の応援出張命令を拒否した事例です。
裁判所の判断
9日間の出勤停止処分を有効と判断しました。
(5)職務の放棄を理由とする出勤停止処分
●出勤停止7日
パワーテクノロジー事件(東京地方裁判所平成15年7月25日判決)
事案の概要
ソフトウェア開発会社に勤務して顧客企業のオフィス内に常駐する業務に従事するように業務命令を受けていた従業員が、勤務先に相談することなく、体調が悪く作業を終了したい旨を顧客の社員に対して伝えた結果、顧客から契約を打ち切られた事例です。
裁判所の判断
業務命令に対する違反を理由とした7日間の出勤停止処分を有効と判断しました。
出勤停止の期間を決めるときは、同種事案についての過去の判例だけでなく、これまでの同種事案に対する自社の対応とのバランスも踏まえて、判断する必要があります。
期間が長すぎると、処分に関するトラブルが裁判になった場合に、重すぎる懲戒処分として、裁判所で処分が無効とされ、期間中の賃金の支払いを命じられることになりますので、必ず弁護士にご相談ください。
7,適法な懲戒処分をするための注意点
出勤停止処分や懲戒休職、停職などの処分はいずれも懲戒処分の一種であり、処分を行う際は、懲戒処分についての法律・判例上のルールを守ることが必要です。
以下の点に注意してください。
(1)一事不再理の原則
すでに懲戒処分を科した問題行動に対して、再度の懲戒処分の対象とすることはできません。
このルールは「二重処罰の禁止」あるいは「一事不再理の原則」と呼ばれます。
懲戒処分歴がある従業員に対してさらに出勤停止処分をする場合は、以前すでに懲戒処分を科した問題行動を今回の処分の理由とすることがないように注意が必要です。
(2)過去の会社の対応との公平性にも注意が必要
懲戒処分については、以前、他の従業員が同様の問題行動をした場合に会社がとった対応との公平性も問題になります。
形式的には就業規則違反になるけれどもこれまで会社として黙認していた行為や、以前は懲戒処分を科していなかった行為を、今回はじめて懲戒処分の対象とする場合、過去の対応との公平性を欠くことを理由に、後日、裁判所で懲戒処分が無効と判断される可能性があります。
以前は黙認していた行為や以前は懲戒処分を科していなかった行為を懲戒処分の対象とすることは、今後そのような行為は懲戒処分の対象となることを社内で明確に伝えた後にのみ許されると考える必要があります。
(3)就業規則の規定を守る
就業規則で出勤停止処分の上限日数を定めている場合は、その上限を守ることが必要です。
また、就業規則によっては、「懲戒処分をする際は懲戒委員会で審議する」などの規定を設けているケースもあります。
そういった場合は、就業規則の規定どおり、懲戒委員会で審議を行う必要があります。
懲戒委員会について、正しい進め方など詳しい解説は以下の記事を参考にご覧ください。
また、懲戒処分をする際の注意点については、以下の記事や動画でも詳しく解説していますので参考にご覧ください。
▼【動画で解説】西川弁護士が「問題社員に対する懲戒処分!法律上のルール」を弁護士が詳しく解説中!
出勤停止の期間については、法律上の上限はありませんが、通常は就業規則で上限が決められています。
30日程度の比較的短い期間を上限日数と定めている就業規則も多いですが、それでは、重い処分をするべき場合に、適切な処分を科すことができなくなるという問題点があります。
過去の判例では、90日や180日の出勤停止処分を有効とした事例もあり、就業規則で規定を設ければ比較的長期の出勤停止処分も有効とされる余地があります(東京地方裁判所判決平成19年4月27日等)。
8,退職金の扱い
多くの会社の退職金規程で、懲戒解雇の場合には、退職金を減額したり、あるいは不支給とすることが定められています。
では、出勤停止処分を受けた従業員の退職金はどのように扱われるのでしょうか?
まず、退職金規程で、出勤停止処分を受けた場合に退職金の減額や不支給の扱いを定めていない場合は、出勤停止処分を受けたことを理由に退職金を減額したり、不支給とすることは認められません。
次に、退職金規程で出勤停止処分を受けた場合に退職金の減額や不支給の扱いを定めていた場合はどうでしょうか?
この点については、「懲戒解雇の場合に退職金の不支給は違法か」について、判断した裁判例を参考にすることができます。
裁判所は、退職金は在職中の賃金の後払いとして支給される側面があり、たとえ懲戒解雇の場面であっても、在職中の功労をすべて抹消してしまうほどのものとはいえない場合は、退職金を不支給とすることは適当ではないとして、退職金の一部については支払いを命じたものが多いことに注意する必要があります。
このような裁判例を踏まえると、懲戒解雇よりも軽い出勤停止処分を受けた従業員の退職金を減額することは、もし仮に裁判で争われれば、認められない可能性が高いといえるでしょう。
9,転職時の履歴書への記載について
出勤停止処分を受けた従業員が、転職・再就職のための採用面接の場面で、履歴書に記載するなどして、前職で出勤停止の懲戒処分を受けたことを申告する義務を負うかどうかについては、明確な裁判例がありません。
過去の判例上、前職での懲戒解雇歴を隠して就職した場合、そのことは、転職先において正当な解雇理由になると判断しているケースが多くなっています(名古屋高裁昭和51年12月23日判決、大阪地裁昭和62年2月12日決定、横浜地裁川崎支部昭和48年11月21日判決など)
しかし、出勤停止処分は懲戒解雇等よりは軽い処分であることを踏まると、出勤停止処分についてまで、従業員は転職先の会社に申告する義務まで負うものではないと考えることが妥当でしょう。
10,【補足】インフルエンザなど感染症に関連する出勤停止について
この記事では懲戒処分としての出勤停止についてご説明しました。
これに対して、インフルエンザやはやり目、おたふくかぜ、ノロウィルスなどの感染症を理由に、会社が従業員に出勤停止を命じるケースもあります。
このような感染症の拡大防止のための出勤停止は、懲戒処分ではありませんので、この記事での解説とは別のルールが適用されます。
感染症に関連する出勤停止については、以下をご参照ください。
また、新型コロナウィルス感染症に関連した、就業制限については、以下をご参照ください。
11,問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、問題社員対応に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。
咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
▶業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例
▶不正をした従業員について、弁護士が責任追及をし、退職してもらった事案
▶成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例
12,出勤停止処分に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
咲くやこの花法律事務所では、問題社員への具体的な対応方法や問題社員に対する懲戒処分について、企業側から多くのご相談をお受けしてきました。
以下では、出勤停止処分等の懲戒処分の場面における咲くやこの花法律事務所における企業向けサポート内容をご紹介します。
(1)出勤停止処分に関する事前相談
出勤停止処分は従業員にとっては重い処分です。そのため、処分をめぐって、従業員と労務トラブルに至ることは少なくありません。
出勤停止処分の撤回を求めて、外部の労働組合に加入した従業員が団体交渉を申し入れたり、訴訟を起こされたりする可能性があります。
出勤停止処分を科すときは、後日、このようなトラブルになっても対応できるように、まず、処分の理由について十分な証拠を確保しておくことが重要です。
さらに、出勤停止処分を科すまでの手続についても、十分注意して、正しく進めることが必要です。
会社の担当者だけで、証拠の収集や懲戒処分の手続を正しく行うことは難しいことが多く、出勤停止処分の前に専門家である弁護士に相談していただくことが不可欠です。
咲くやこの花法律事務所では、労務トラブルに強い弁護士が、懲戒処分に関する事前相談を承り、個別の事情に応じて適切な処分の内容や行うべき手続の手順、確保しておくべき証拠等について具体的にアドバイスします。
処分をした後で、ご相談いただいても対応が難しいケースもあり、弁護士に相談せずに処分を行った結果、外部の労働組合などから抗議されて、処分を撤回せざるを得ない事態になることもあります。
問題社員に対する出勤停止処分を検討されている企業の方は、事前にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の労務トラブルに強い弁護士への相談料の例
●初回相談料:30分5000円+税
(2)出勤停止処分後のトラブルへの対応
咲くやこの花法律事務所では、出勤停止処分の後に従業員とトラブルになり、裁判を起こされた場合の対応や、外部の労働組合から団体交渉を申し入れられた場合の対応についても多くの実績があります。
裁判所で出勤停止処分が無効と判断されたり、団体交渉で出勤停止処分を撤回する事態に至ると、社内の規律を維持できません。裁判や団体交渉に発展してしまった場合でも、懲戒処分に関するトラブルに精通した弁護士に相談しながらベストな解決をする必要があります。
処分に関するトラブルが生じたときは、咲くやこの花法律事務所に対応をご相談ください。労務トラブルに強い弁護士が迅速に対応し、適切な解決を実現します。
咲くやこの花法律事務所の労務トラブルに強い弁護士による弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税
13,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
問題社員の対応でお困りの企業様は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の「労働問題に強い弁護士」がサポートさせていただきます。弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
14,出勤停止に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
出勤停止など懲戒処分のお役立ち情報について、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や「咲くや企業法務.TV」のYouTubeチャンネルの方でも配信しております。
(1)無料メルマガ登録について
上記のバナーをクリックすると、メルマガ登録ページをご覧いただけます。
(2)YouTubeチャンネル登録について
上記のバナーをクリックすると、YouTubeチャンネルをご覧いただけます。
記事作成弁護士:西川暢春
記事更新日:2024年11月1日