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人員削減とは?会社側の立場から注意点を解説

人員削減とは?会社側の立場から注意点を解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

会社の人員削減の進め方について困っていませんか?

人員削減は方法によっては法的なリスクを伴いますので、細心の注意をして進める必要があります。裁判に発展したトラブル事例も多く、以下のように裁判所で多額の支払を命じられているケースも存在します。

 

事例1:NTTマーケティングアウト事件(平成29年12月25日岐阜地方裁判所判決)

人員削減を目的とする契約社員の雇止めが無効とされ、契約社員4名について2年分の給与にあたる合計約2000万円の支払を命じられました。

 

事例2:日本通信事件(平成24年2月29日東京地方裁判所判決)

不採算部門従業員の整理解雇について不当解雇と判断され、従業員3名に対して合計約3000万円の支払いを命じられました。

 

今回の記事では会社が人員削減を行うメリット・デメリットや具体的な進め方についてご説明します。

 

▶【関連情報】人員削減に関する情報は、以下の関連情報もあわせてご覧下さい。

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1,人員削減とは?

人員削減とは、企業が従業員を減らすことを言います。景気後退局面での企業の収支を回復するために従業員を減らすケースや、不採算事業の廃止のために従業員を減らすケースのほか、企業の競争力を高めるために業務の自動化や工場の自動化を進めて従業員を減らすケースのように積極的な企業戦略として人員削減を進めるケースなどがあります。

英語ではStaff reductionと呼ばれます。

 

2,人員削減が必要になる場面と理由

人員削減が必要になる理由としては以下のようなものがあります。

 

(1)景気後退局面での企業の収支の回復を目的とする人員削減

経営難にある企業が、人件費を削減して収支を回復することを目的として人員削減を行うケースです。

景気後退局面では多くの人員削減が行われますが、他企業でも求人が減るため従業員としても転職が困難な状況になり、その結果、従業員から退職についての同意を得にくく、トラブルになりやすいという特徴があります。

そのため、人員削減を行う必要がある場合は早めに決断し、他企業に遅れないことが重要です。

 

(2)不採算事業の廃止に伴う人員削減

不採算事業を廃止するために、その事業に配属されている従業員を中心に削減の対象とするケースです。

普段、事業を横断して従業員の配置転換が行われている企業では、人員削減のタイミングでたまたま不採算事業に配属されている従業員を削減の対象とすることについて法的な観点、経営の観点から問題がないかを検討する必要があります。

 

(3)企業の効率化、合理化のための人員削減

企業の収支に問題がない場面であっても、企業は常に筋肉質な経営体質であることが理想です。

企業の戦略として、AIや産業用ロボットを導入して、業務の自動化、工場の自動化を図る場面で、従業員の人員削減が必要になることがあります。

 

3,人員削減のメリットとデメリット

以下では企業の立場から見た場合の人員削減を行うメリットとデメリットについてご説明します。

 

(1)人員削減のメリット

企業が人員削減を行うメリットとしては以下の点があげられます。

 

  • 人件費を下げることにより、企業の収支を改善することができる
  • これまで人がしていた仕事を自動化する場合は、自動化の精度を高めていくことで、ヒューマンエラーの発生によるロスや、労災の問題を減らすことができる

 

(2)人員削減のデメリット

一方、人員削減のデメリットは以下の通りです。

 

  • 正社員の整理解雇や契約社員の雇止めについては労使紛争の法的リスクを伴う
  • 希望退職の募集については割増退職金の出費が必要になる
  • 人員削減をきっかけに従業員の経営陣に対する信頼が失われるケースがある

 

4,具体的な人員削減の方法

人員削減の具体的な方法としては、「新規採用の停止」、「派遣契約の終了」、「契約社員、パート社員の雇止め」、「希望退職の募集」、「整理解雇」などの手段があります。

以下で具体的に説明したいと思います。

 

(1)新規採用の停止

人員削減を行う場合にまず検討するべきことは新規採用の停止です。

新規採用を停止して、退職による自然減で人員削減ができるケースでは、法的なリスクはありません。また、希望退職者の募集や整理解雇を行わなければならないようなケースでも、原則として新規採用は停止しておくべきです。

希望退職者を募集する一方で新規採用を行うことは従業員の理解を得ることが難しいことが多いです。

 

(2)派遣契約の終了

派遣社員がいる会社では、正社員の希望退職者の募集や整理解雇を検討する前に、まず、派遣社員を削減することが原則です。

具体的には、派遣契約の期間満了のタイミングで、派遣先との契約を終了させることを検討することになります。期間満了を待たずに、派遣契約を期間途中で解除することについては、派遣元との合意が必要になりますので注意してください。

 

(3)契約社員、パート社員の雇止め

判例上、有期雇用の非正規社員の雇用については、「正社員に対する解雇に比し、使用者側の事情による雇用の打切りがより広範に認められる」(平成27年3月26日東京高等裁判所判決)とされています。

また、判例では、正社員を整理解雇する前には、まず、それ以外の手段による人員削減の努力(解雇回避努力)をするべきとされています。

そして、正社員の解雇の前に、有期雇用の非正規従業員(契約社員や有期雇用のパート社員)の雇用を終了することも、必要な解雇回避努力義務の1つに挙げられることが多いです。

これらの判例理論から、人員削減の際は、正社員の雇用に手を付ける前に、まずは、有期雇用の非正規従業員の雇止めを検討することが必要です。

「雇止め」とは、契約社員や有期雇用のパート社員など、期間を決めて雇用している従業員について、契約期間の終了のタイミングで契約を終了させることをいいます。雇止めについての全般的な解説は、以下の記事で詳しく説明していますのでご参照ください。

 

 

1,雇止め法理に注意

ただし、有期雇用の非正規従業員について、契約期間が終われば無条件で契約を終了させることができるわけではなく、法律上、「雇止め法理」というルールにより、雇止めが制限されています。

特に、雇用契約の更新の手続きが正しくされておらずルーズになっているケースや、非正規従業員を臨時的な業務ではなく恒常的な業務に従事させているケースでは、合理的な理由がない限り、雇止めが無効とされる傾向にありますので注意が必要です。

雇止め法理については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

(4)希望退職の募集

新規採用の停止、派遣契約終了による派遣社員の削減、非正規従業員の雇止めなどを行った後も、さらに人員削減が必要になるときは、正社員から希望退職者を募集することが通常です。

希望退職者の募集は、割増退職金の支給など金銭的な提示をしたうえで、社内全体または社内の特定部門で退職者を募集することにより、従業員との合意により雇用契約を解消する人員削減の手段です。

希望退職者の募集による人員削減は、従業員との合意により雇用契約を終了させる方法であることから、法的なリスクが小さいことが大きなメリットです。

一方で、合意による退職であるため必要な人数が集まらなかったり、あるいは、今後の事業に必要な従業員が退職してしまうといった結果になるリスクがあります。

このようなリスクを回避するためには、従業員に対する面談を行って、その面談の中で、辞めてもらいたい人に辞めてもらい、辞めてほしくない人には残ってもらえるように、希望退職への応募者をコントロールしていくことが必要です。

 

▶参考情報:希望退職者の募集については、以下の記事や動画で詳しく解説していますのでご参照ください。

希望退職の募集方法!進め方や面談の注意点5つをわかりやすく解説

 

▶参考動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が「希望退職の募集方法!事業を復活、成功させるためには?弁護士が解説」を詳しく解説中!

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
前述の通り、希望退職者の募集は法的なリスクが比較的低い人員削減手段です。

しかし、希望退職者が十分に集まらずに整理解雇に進まざるを得ない場合は、希望退職の募集条件が不十分であったことなどを理由に整理解雇が不当解雇とされているケースがみられます。

実質給与月額1ケ月分程度の割増退職金を提示しての希望退職者の募集は解雇を回避するための措置としては不十分であるとして、希望退職募集後の整理解雇を不当解雇とした裁判例として、平成18年5月31日名古屋高等裁判所金沢支部判決(ホクエツ福井事件)があります。

 

(5)退職勧奨

希望退職者の募集が、退職者を募集する形式をとるのに対し、退職勧奨は、特定の従業員に対して個別に退職に向けた説得活動を行い、会社との合意により退職してもらうことを目指す方法です。

人員削減のために退職勧奨を行うことは適法とされていますが、その方法によっては、違法な退職強要になってしまうことに注意が必要です。

退職勧奨の結果、いったん退職の合意に至っても、その後に退職強要であるとして合意を無効と判断した判例も多く出ています。

そのため、適法な退職勧奨と違法な退職強要の分かれ目や、退職勧奨の注意点をよく理解したうえで、進めることが必要です。

また、退職勧奨を行った結果、従業員が外部の労働組合に加入して団体交渉を求めるというケースもありますので、注意が必要です。

 

▶参考情報:退職勧奨の進め方や注意点については、以下の記事や動画で解説していますのでご参照ください。

退職勧奨(退職勧告)とは?方法や進め方の注意点を弁護士が解説

 

▶関連動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が『「問題社員の退職勧奨」違法にならないための注意点と進め方を弁護士が解説』を詳しく解説中!

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

退職勧奨は、希望退職者の募集と異なり、社内で情報をオープンにして実施するわけではないため、会社にとって必要な人材が辞めてしまうリスクを負担しなくてすむというメリットがあります。

判例上も、小規模な会社や従業員の資格や職種が特殊で代替性の低い従業員で成り立っている会社では、希望退職の募集ではなく、退職勧奨で人員削減をすることも合理的であるとしたものがあります(平成13年9月18日大阪地方裁判所堺支部決定等)。

一方で、退職勧奨は、希望退職者の募集とは異なり、情報がオープンになっていないため、退職勧奨を受ける者が、自分が提示されている退職の条件面が適正なものなのかをめぐって疑心暗鬼になりやすいという側面があります。

そのため、会社から提示する条件について、その根拠をどのように説明するかが課題の1つになります。

 

(6)整理解雇

希望退職者の募集や退職勧奨によっても、必要な人員削減を達成できないときは、整理解雇を検討することになります。

整理解雇とは、従業員を会社側からの一方的な通知により解雇する、人員削減の手段です。

整理解雇は、後日、不当解雇であるとして、解雇した従業員から訴訟あるいは労働審判を起こされるケースが少なくありません。

 

 

また、最近では、解雇された従業員が外部の労働組合に介入して団体交渉を求めるケースも増えています。

 

 

冒頭でも判例をご紹介した通り、整理解雇が、訴訟で不当解雇と判断された場合は、会社は多額の金銭の支払いを命じられることになります。

整理解雇は、非常に法的なリスクが高い手続になりますので、人員削減の最後の手段と位置付け、できる限り、整理解雇以外の手段(希望退職者の募集や退職勧奨)により、人員削減を済ませることを目指すべきです。

どうしても整理解雇をせざるを得ない場合は、後日、裁判等になったときには、以下の4つの要素から整理解雇の正当性が判断されることを踏まえて万全の対応が必要です。

 

整理解雇の正当性の判断要素(整理解雇の4要素)

  • 人員削減の必要性が客観的に認められるか否か
  • 整理解雇以外の手段(役員報酬の減額、非正規社員の雇止めや希望退職の募集など)をすでに講じているか
  • 解雇の対象者が合理的な基準で選ばれているか
  • 対象者や労働組合に対して十分に説明し、協議をしたか(手続の相当性)

 

整理解雇については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

5,コロナ禍での人員削減

新型コロナウィルス感染症により、収益性に問題が生じて、人員削減をしなければならないケースもあると思います。

コロナ禍のもとで企業の苦境が報道されていますので、人員削減が必要になることについて従業員の納得を得やすい反面、景気後退が進むと退職者が転職先を探すのが難しくなり希望退職者の募集などに応じにくくなってきます。

このような局面では、景気後退が進む前のできるだけ早い段階で人員削減に着手することが重要なポイントです。また、できる限り、希望退職者の募集または退職勧奨で人員削減を達成し、整理解雇は避けるべきです。

コロナ禍のもとでは雇用調整助成金の給付が充実していることから、仮に整理解雇をして不当解雇として訴えられた場合には、雇用調整助成金の給付を受けても整理解雇が必要であったことを説明できなければ、不当解雇と判断されて敗訴する危険があることに注意が必要です。

 

6,最近のニュース

2020年は新型コロナウィルス感染症の問題に関連して、多くの企業が人員削減を行ったことがニュースで報道されました。

 

●タクシー会社「ロイヤルリムジングループ」の全員解雇事件

説明不十分のまま解雇したとして労働組合との団体交渉に発展し、また、従業員らが東京地方裁判所に従業員としての地位の確認を求める仮処分を申し立てたことが報道されました。

 

●アパレルブランド「CECIL McBEE」の全店閉鎖に伴う人員削減

570人ほどの正社員を約70人まで縮小し、事業の再構築を行うことが報道されました。

同時に、できる限り手厚い再就職支援を行い、退職金も条件通り出すことが社長のコメントとして報道されています。

 

●クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」運行会社日本法人の解雇紛争

一部の従業員を解雇したことをめぐり、「整理解雇の要件を満たしておらず、不当な解雇だ」とするユニオンとの団体交渉に発展し、ユニオン側が東京都労働委員会に不当労働行為の救済申立てを行ったことが報道されました。

 

●飲食チェーン運営会社「東京美々卯」の解雇紛争

全店閉店と会社解散に伴う従業員の解雇に対して、従業員9名が訴訟を起こして、合計6822万円の支払を求めていることが報道されました。

 

7,咲くやこの花法律事務所なら「こんなサポートができます。」

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に咲くやこの花法律事務所における企業向けのサポート内容をご説明します。

 

(1)人員削減に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、企業の人員削減に関するご相談を承っています。

人員削減は対応を誤ると法的な紛争に発展する会社としてもリスクの高い場面です。必ず事前に弁護士にご相談いただき、具体的な進め方や手順に問題がないかをご確認いただきますようにお願いいたします。

 

咲くやこの花法律事務所の労務トラブルに精通した弁護士へのご相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

(2)人員削減のトラブルに関する対応

咲くやこの花法律事務所では、非正規社員の雇止めに関するトラブル、正社員の解雇に関するトラブル、希望退職者の募集や退職勧奨に関するトラブルについて、企業側からのご相談をお受けしています。

これらのトラブルは、裁判に発展してしまうと深刻化しますので、裁判前に交渉により解決することが重要です。できる限り早いタイミングでご相談いただくにより、問題をこじらせず、良い解決につなげることができます。

咲くやこの花法律事務所では、労働問題に強い弁護士が、問題解決に向けて相手と直接交渉し、裁判前の解決を目指します。もし、お困りの際は、早めのご相談をおすすめします。

 

(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

お問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年8月8日

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
    池内 康裕 弁護士
    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
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    片山 琢也(かたやま たくや)
    大阪弁護士会/京都大学法学部
    堀野 健一 弁護士
    堀野 健一(ほりの けんいち)
    大阪弁護士会/大阪大学
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    書籍出版情報


    労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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