こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
技能実習や特定技能で就労している外国人労働者について、素行不良や無断欠勤、仕事をしないなどの問題があり、解雇したいというご相談を受けることがあります。このような外国人労働者についても、正当な理由があれば解雇が認められることは日本人と同じです。
ただし、外国人労働者特有の注意点もあります。例えば、技能実習制度について企業側に法令違反があった場合、技能実習計画の認定が取り消されて、全ての実習生の実習継続ができなくなることがあります。また、特定技能外国人についても、各種届出の義務違反は罰則の対象とされています。技能実習や特定技能の制度を十分理解して、法令を遵守して対応することが重要です。
また、技能実習生や特定技能外国人の解雇は、解雇により本人が帰国せざるを得なくなるケースもあり、そのため、解雇されることの負担は日本人以上に大きく、トラブルに発展する例があります。以下では、技能実習生や特定技能の外国人労働者を解雇する場合の注意点についてご説明します。
この記事では、技能実習生や特定技能の外国人労働者を解雇する場合の注意点についてご説明します。
素行不良や無断欠勤、仕事をしないなど、労働者の側に一定の問題がある場合であっても、解雇が認められるケースは限られています。ルールをしっかり理解したうえで、弁護士に事前に相談して対応を検討することが必要です。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,外国人の解雇のルールとは?日本人の解雇との違い
外国人技能実習生や特定技能により就労する外国人労働者の解雇も、日本人と同様に判断されることが原則です。外国人であることを理由に解雇するなどの差別的取扱は、労働基準法3条により禁止されています。
そして、日本では、解雇が認められるために必要な解雇理由の程度は、無期雇用の労働者か有期雇用の労働者かによって大きく異なります。
無期雇用の労働者の解雇は、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合」であることが必要とされています(労働契約法16条)。これに対し、有期雇用の労働者の解雇は、無期雇用の労働者の解雇よりもさらにハードルが高く、「やむを得ない事由がある場合」であることが必要です(労働契約法17条1項)。期間を定めて雇用される有期雇用の労働者は、その期間中は雇用保障を期待することが通常であることから、このように、無期雇用の労働者よりも、解雇が認められる場面が限定されています。
▶参照:労働契約法6条・17条1項の条文は以下をご参照ください。
(1)技能実習生や特定技能外国人は有期雇用が多い
そして、外国人技能実習生や特定技能により就労する外国人労働者は、在留期間に限りがあるため、有期雇用契約とされていることがほとんどです。その場合、前述の通り、「やむを得ない事由がある場合」でなければ、期間中の解雇はできないというのが法律上のルールです。この「やむを得ない事由」があるかどうかは、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由があるかどうかによって判断されます(東京地方裁判所判決令和4年9月12日・郵船ロジスティクス事件等)。
能力不足等の事情は、これに当たらないケースが多く、「やむを得ない事由」といえるケースの例として、以下の場合があげられます。
- 業務上の犯罪行為があった場合
- 私傷病で長期に渡り休業し就業できるようになる目途が立たない場合
- 経歴を詐称して雇用された場合
▶参考情報:この「やむを得ない事由」の判断については、「契約社員の解雇」に関する以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。
(2)妊娠や出産等を理由とする解雇は違法
また、妊娠や出産等を理由とする解雇は法律により禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項)。技能実習生や特定技能外国人についても同様です。
例えば、妊娠や出産等により、技能実習を継続できなくなったことを理由とする解雇は男女雇用機会均等法違反になります。日本で出産するか、帰国して出産するかにかかわらず、技能実習の中断により対応し、実習を継続できるようになった後に実習を再開することが可能です。
▶参照:技能実習生の妊娠・出産については、以下をご参照ください。
2,外国人の解雇に必要な手続
解雇に必要な手続きとしては以下の点が挙げられます。
(1)解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要
解雇は30日前に予告するか、予告なく解雇する場合は30日分の解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法20条1項)。例えば解雇日の10日前に予告した場合は20日分の解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法20条2項)。
▶参考:労働基準法20条1項・2項
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
・参照元:「労働基準法」の条文はこちら
(2)技能実習生の解雇は速やかに地方入国管理局に報告が必要
技能実習は、外国人技能実習機構が認定する計画に基づいて行なわれます。そして、技能実習の継続が不可能となった場合は、すみやかに地方入国管理局に報告することが義務付けられています。この点を怠った場合、技能実習生の受け入れが一定期間できなくなることがありますので注意してください(法務省「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」29ページ参照)。
また、受け入れ企業(実習実施機関)の倒産その他技能実習生に責任がない理由により解雇する場合は、受入れ企業は、公益財団法人国際研修協力機構(現:公益財団法人国際人材協力機構)等の関係機関の協力・指導等を受けるなどして新たな受入れ企業を探す必要があるとされています(法務省「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」29~30ページ参照)。
(3)特定技能により就労する外国人の解雇は受入れ困難届と終了届が必要
特定技能とは、人手不足が顕著な一定の産業分野について、一定水準以上の専門技能、日本語能力がある外国人に在留資格を与え、日本での就業を認める制度です。企業は特定技能により就労する外国人については、経営上の都合により解雇の予告をしたときや、重責解雇に該当するような事由が判明したことにより受入れの継続が困難になったときは、14日以内に、「受入れ困難に係る届出書」と「受入れ困難となるに至った経緯に係る説明書」で、地方入国管理局に特定技能の活動の継続が不可能となった事実とその対応策を届け出ることが必要です(出入国管理法19条の18第1項4号、同施行規則19条の17第6項1号)。
▶参照:「受入れ困難に係る届出書」と「受入れ困難となるに至った経緯に係る説明書」の様式は以下を参照してください。
また、実際に解雇により雇用契約が終了した場合は、雇用契約の終了日から14日以内に「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」で地方出入国管理局に届け出なければなりません(出入国管理法19条の18第1項1号)。
▶参照:「特定技能雇用契約の終了又は締結に係る届出書」の様式については以下を参照してください。
さらに、企業の倒産その他特定技能外国人に責任がない理由により解雇する場合は、その特定技能外国人に対し、特定技能での就業を継続する意思の有無を確認し、活動継続を希望する場合には、ハローワークや民間の職業紹介事業者の事務所へ案内するなどの転職の支援をしなければなりません(特定技能外国人受入れに関する運用要領108ページ等)。
(4)ハローワークには外国人雇用状況届の提出が必要
外国人の雇用環境の改善や、離職した外国人の再就職支援などの目的で、外国人雇用状況届出制度が設けられています。外国人が離職した場合、事業者は、翌月末までに、「外国人雇用状況届」でハローワークへの届出が必要です(労働施策総合推進法28条1項)。以下のサイトから届出が可能です。
(5)その他の解雇後の手続
その他の解雇後の手続は日本人と同じです。社会保険の手続、源泉徴収票の交付、住民税の特別徴収に関する手続、請求があった場合の解雇理由証明書の交付等が必要になります。
▶参考情報:解雇後の手続については以下で解説していますのでご参照ください。
3,解雇された外国人の在留資格(就労ビザ)はどうなるのか?
では、解雇された外国人の在留資格はどうなるのでしょうか?
(1)技能実習生
技能実習生が専ら技能実習生側の都合により、転職することは認められていません。「実習先の変更」は、受入れ企業の経営上・事業上の都合・受入れ企業の法令違反等による実習認定の取消し、労使間の諸問題・暴行等の人権侵害行為や対人関係の諸問題等、現在の受入れ企業の下で技能実習を続けさせることが、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護という趣旨に沿わないと認められる事情による場合にのみ認められます(技能実習制度運用要領276ページ等)。このような実習先の変更が認められない場合は、技能実習生は在留資格を失い、帰国することになります。
(2)特定技能で就業する外国人
特定技能外国人は、在留カードと共に交付される指定書において、その就業先(特定技能所属機関)が指定されています。そのため、転職により指定書に記載された就業先を変更する場合は、在留資格変更許可を受けなければなりません。出入国在留管理局へ在留資格変更許可申請を行うことで許可が得られれば、新しい在留カードと指定書が発行され、別の会社で働くことが可能です。
▶参照:在留資格変更許可申請については以下を参照してください。
在留資格のことを「ビザ」と呼んでいるケースもありますが、厳密にはビザは入国にあたって必要になるものであり、在留資格とは別のものです。解雇された外国人は既に入国済みですので、解雇された場合に問題になるのは、ビザではなく、在留資格です。
4,外国人解雇のトラブル事例
外国人技能実習生の解雇トラブルについての公表されている裁判例は必ずしも多くありません。
(1)富山地方裁判所判決平成25年7月17日(フルタフーズ・食品循環協同組合事件)
その中で、富山地方裁判所判決平成25年7月17日(フルタフーズ・食品循環協同組合事件)は、富山の水産加工会社が、会社の実名を挙げて会社の社会的評価を低下させる内容の記者会見を開くなどした中国籍の技能実習生を解雇し、訴訟トラブルに発展した事案です。裁判所はこの事案について、懲戒解雇事由もなく、普通解雇事由もないとして、解雇を無効と判断しました。そのうえで、雇用契約上の地位が継続していることを判決で確認したうえで、解雇後に支払われなかったバックペイ約300万円の支払いを会社に命じています。
▶参考情報:バックペイについては以下で解説していますのでご参照ください。
5.解雇の際は弁護士への事前相談が必要
素行不良や無断欠勤、仕事をしないなど労働者の側に一定の問題がある場合であっても、ルールを守って、対応することが必要です。
特に、技能実習制度について企業側に法令違反があった場合、技能実習計画の認定が取り消されて、全ての実習生の実習継続ができなくなることがあります。また、特定技能外国人についても、各種届出の義務違反は罰則の対象とされています。技能実習や特定技能の制度を十分理解して、法令を遵守して対応することが重要です。
企業において、これらの制度について全てのルールを正確に確認することは現実的に困難なことも多く、解雇等を検討する場合は、必ず、弁護士に事前に相談するようにしてください。
▶参考情報:解雇に関して事前に弁護士に相談すべき理由がよくわかる記事を以下で紹介しておきますのであわせてご参照ください。
6,外国人労働者の解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、外国人労働者の雇用について、企業側の立場で以下のようなご相談をお受けしています。
- 外国人労働者の無断欠勤や勤務態度不良、業務上の指示に従わない等の問題への対応
- 外国人労働者との間の労災トラブル、賃金トラブル、ハラスメントトラブル等の問題への対応
- その他、技能実習制度や特定技能による雇用に関するご相談
- 顧問弁護士サービスによる労務管理のサポート
咲くやこの花法律事務所の労働問題・労務トラブルに強い弁護士への相談サービスは以下をご参照ください。
また、顧問弁護士サービスについては以下をご参照ください。
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7,まとめ
この記事では、技能実習生や特定技能外国人の解雇の注意点についてご説明しました。
まず、法律上のルールとして、有期雇用の場合は「やむを得ない事由」がなければ解雇は認められず、解雇のハードルが特に高くなっていることに注意してください。技能実習生や特定技能外国人は在留資格の関係で、有期雇用となっているケースが多いです。次に、解雇に必要な手続として、日本人と同様の手続のほか、外国人特有の点として、以下の点に注意してください。
- 地方入国管理局への報告や届出
- 外国人に責任のない理由による解雇の場合は転職の支援
- ハローワークへの届出
さらに、外国人解雇のトラブル事例をご紹介したうえで、解雇を検討する際は弁護士への事前相談が必要であることについてご説明しました。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。
8,【関連情報】解雇に関するお役立ち記事一覧
この記事では、「技能実習生や特定技能外国人の解雇のルールや注意点を解説」について、わかりやすく解説しました。外国人労働者や日本人労働者において、解雇を検討する場面では、前提として解雇ができるかどうかの判断をはじめ、初動からの正しい対応方法など全般的に理解しておく必要があります。そのため、他にも解雇に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大な解雇トラブルに発展してしまいます。以下ではこの記事に関連する解雇のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
解雇の基礎知識関連のお役立ち記事一覧
・正当な解雇理由とは?15個の理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説
・労働基準法による解雇のルールとは?条文や解雇が認められる理由を解説
・懲戒解雇とは?事例をもとに条件や進め方、手続き、注意点などを解説
記事更新日:2024年2月14日
記事作成弁護士:西川 暢春
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