こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士の西川暢春です。
「バックペイ」について、わからないことがあり、調べていませんか?
解雇トラブルが訴訟に発展し、裁判所で解雇が無効(不当解雇)と判断されてしまうと、企業側は解雇以降の賃金を解雇の時点にさかのぼって支払うことを命じられます。これがバックペイです。
解雇は従業員の同意なく一方的に雇用を終了させるものであることから、解雇後にトラブルになることも多く、特に訴訟にまで発展してしまうと、企業としてその対応に多大な費用と時間、そして労力を費やすこととなります。多くのケースでは、訴訟に1年以上の期間を費やすこととなり、長期化してしまうと、その分、不当解雇と判断されたときに企業側が支払うバックペイの額も増えていきます。
この記事では、バックペイの計算方法や相場について、判例を踏まえながら詳しく解説しています。
この記事を最後まで読めば、訴訟で不当解雇と判断された場合のバックペイがどのように計算されるかを理解していただくことができるはずです。それでは見ていきましょう。
▶参考情報:なお、バックペイが問題になるのは、いわゆる「不当解雇」の場面です。「不当解雇」については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
この記事では、解雇トラブルの訴訟で企業が敗訴した場合に支払うバックペイについて説明しています。しかし、企業の人事労務において最も大切なことは、そもそも訴訟になるようなトラブルを起こさないことです。解雇については特に大きなトラブルに発展するリスクがあることから、必ず、事前に弁護士に相談したうえで、解雇のリスクの程度やリスク回避のための工夫について確認したうえで進めることが重要です。咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っていますので、お困りの際はご相談ください。
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解雇トラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決実績の一例を「10,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績」で紹介していますのでご参照ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,バックペイとは?
バックペイとは、従業員を解雇した後に裁判所の判決や労働委員会の救済命令で解雇が無効と判断された場合に事業者が支払を命じられる金銭です。事業者は、解雇の時点にさかのぼって事業者が解雇期間中、本来支払うべきであった賃金の支払を命じられます。「さかのぼって払う」の意味でbackpayと呼ばれます。
(1)バックペイが発生する場面と支払金額
労働契約法上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とされます(労働契約法16条)。
このルールにより無効とされる解雇が、いわゆる「不当解雇」であり、バックペイが発生する場面です。バックペイとして支払われるべき金額は、「労働者が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額」とされています。(菅野和夫著「労働法 第12版」803頁)
(2)バックペイの支払義務の根拠
では、解雇が無効と判断された場合、なぜ実際には働いていない期間についての賃金支払義務が発生するのでしょうか。
これは、民法536条2項に根拠があり、会社側が無効な解雇をして従業員が就労できなかったことについては、その責任は会社にあり、会社はその期間中の賃金を支払うべきであるとされているためです。
▶参考:民法536条2項
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
・参照元:「民法」の条文はこちら
上記の民法536条2項からどのようにしてバックペイの支払義務が導けるのでしょうか?
まず、会社側は従業員から労務の提供を受ける権利を有する「債権者」にあたります。そこで、民法536条2項により、「債権者」つまり会社の責任で従業員が労務の提供という債務を履行することができなくなったときは、会社は「反対給付の履行」つまり賃金支払義務の履行を拒むことはできないという結論が導かれます。不当解雇の場面にこの考え方をあてはめ、会社側がさかのぼって賃金の支払義務を負うのがバックペイです。
2,バックペイは解雇からいつまでの給与を支払う必要がある?
では、バックペイとしていつまでの期間の賃金を支払う必要があるのでしょうか。
(1)原則として復職させるまでの期間について支払いが必要
バックペイは会社が従業員を解雇してから、解雇無効の判決が出て従業員を復職させるまでの期間について支払う必要があることが原則です。そのため、裁判が長引けば長引くほど、不当解雇と判断された場合のバックペイの支払額が高額になります。
ただし、以下の例外があります。
(2)私傷病により就業できなかった期間は支払不要
解雇期間中に、従業員が仮に解雇されていなくても就業ができなかったであろう期間については、会社はバックペイの支払義務を負いません。私傷病により就業できない状態であった期間等がその典型例としてあげられます。
(3)他社で就業していた期間については中間収入の控除が問題になる
自社が解雇した従業員が、解雇後、他社で就業していた期間がある場合でも、解雇が無効と判断されると、従業員が自社での就労の意思を失ったと認定されない限り、自社は他社で就業していた期間についてもバックペイの支払義務を負います。
ただし、他社での就業で得た収入は、一定の計算のもと、自社が支払うべきバックペイから控除されることになります。この点については、詳しくは「3,バックペイの計算方法について」の「(2)解雇の期間中に他社で収入を得ていた場合」で解説します。
(4)解雇された従業員が就労の意思を失った場合は以後のバックペイは支払不要
自社が解雇した従業員が、解雇後に、自社で就労する意思を失った場合、その後は、理論上、バックペイは発生しないことになります。バックペイの支払義務の発生は、従業員が解雇された会社での就労の意思を有していることを前提とするものだからです。
ただし、裁判例は、解雇された会社と同等以上の賃金条件で他社就業していたとしても、解雇された会社での就労の意思を失ったとはいえないとする例が多くなっています(東京地方裁判所判決 令和4年3月16日 ニューアート・テクノロジー事件等)。解雇後他社で就業していることを理由に、解雇された会社での就労の意思を失ったと判断される例は極めて限定されています。
3,バックペイの計算方法について
次に、バックペイの計算方法について見ていきましょう。
バックペイとして支払われるべき賃金は、「労働者が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額」とされています。(菅野和夫著「労働法 第12版」803頁)
一方で、解雇された従業員が、解雇から紛争解決までの期間中に他の会社で就業して収入を得ていた場合には、その他社からの収入は一定の計算式によってバックペイから控除されることとなります。この解雇期間中に得ていた他社からの収入は、「中間収入」と呼ばれます。
以下でご説明します。
(1)解雇の期間中に他社で収入を得ていない場合
自社が解雇した従業員が、解雇後に他社で収入を得ていない場合、解雇期間中の基本給、諸手当は、その全額をバックペイとして支払う必要があることが原則です。
この点に関して問題になるものとして、解雇期間中の「賞与」「残業代」「通勤手当」があります。
1,賞与について
賞与は、賞与額の決定方法によって、バックペイに含まれる場合と含まれない場合があります。
例えば、本庄ひまわり福祉会事件(東京地方裁判所判決 平成18年1月23日)では、賞与が従業員ごとに業務成績等を個別に査定したうえで決定され支給されていることを理由に、賞与分をバックペイに含めませんでした。これは、解雇期間中については、査定がされていない以上、賞与は発生しないという考えによるものです。
一方で、学校法人純真学園事件(福岡地方裁判所判決 平成21年6月18日)では、賞与について個別の査定が行われずに、理事会が決定した支給率を全職員に適用して賞与が支給されていたことから、バックペイにおいても賞与を支払うことを命じました。
このように、従業員ごとに個別に業務成績などを査定したうえで賞与の支給が決定されている場合は、賞与分はバックペイの算定から除外されやすく、一方で個別の査定が行われていない場合には賞与分もバックペイとして支払うことが命じられる傾向にあります。
2,残業代・通勤手当は含まれない
残業代については、現実に残業をして初めて発生するものであり、その性質からバックペイには含まれません。
ただし、固定残業代、みなし残業代など、毎月の残業時間に関わらず支給されていたものについては、解雇されていなければ支払を受けられたと考えられることから、バックペイから除外されません。
また、通勤手当については、通勤にかかった実費を補填する性質であり、解雇期間中は通勤の実費を負担してないことから、バックペイの対象にはなりません。
(2)解雇の期間中に他社で収入を得ていた場合
解雇期間中に、従業員が他の会社に就職して収入を得ていた場合、その収入を得ていた期間に当たる給与のバックペイの計算において他社での収入が控除されることになります。
ただし、この控除は、控除後のバックペイが解雇前3か月間の平均賃金の6割を下回らない範囲でのみ認められます。
少しむずかしく聞こえるかもしれませんが、以下で分かりやすく解説いたします(なお、以下では説明をわかりやすくするため、解雇前3か月間に賃金の変動や残業がなく、解雇時の賃金額が解雇前3か月間の平均賃金の額と一致するケースを例に説明しています)。
1,控除される期間は他企業で収入を得ていた期間のみ
以下の図は、自社が解雇した従業員が、解雇期間中に他企業で就業し、解雇無効の判決を得て自社に復職する前に、他企業を退職した場合を想定したものです。
この場合、解雇後に他企業から収入を得ていない期間(水色の部分)については、その期間中に解雇されなければ支払われるはずだった給与の全額をバックペイとして支払うことになります。
一方で、他企業から収入を得ていた期間中(緑色の部分)については、他企業で得ていた収入をバックペイの計算にあたって控除することが可能です。ただし、控除できるのは、解雇した企業における解雇前3か月間の平均賃金の6割に至るまでの部分に限られるというルールが採用されています。
ここで注意が必要なのが、バックペイの総額が100万円で、中間収入の総額が30万円であった場合であっても、100万円から30万円を控除し70万円を支払えば良い、というわけではないということです。「中間収入を得ていた期間に該当する賃金」から、解雇前3か月間の平均賃金の6割に至るまでを限度に控除の計算をする必要があり、中間収入を得ていた期間とは別の期間のバックペイから中間収入を控除することはできません。
では、この「平均賃金の6割に至るまで」とはどういうことでしょうか。以下でご説明致します。
2,控除できるのは控除後の額が平均賃金の6割に至るまで
他社から収入を得ていた場合、バックペイの計算にあたってその期間中に自社から支払われるはずだった賃金から、他社での収入分を控除することができます。ただし、解雇前3か月間の平均賃金の6割分は、いわば最低保障額として、必ずバックペイに算入されることになります。
この60%という数字は、労働基準法26条により「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。(▶参照元:労働基準法の条文)」とされていることに由来するものです。
参考例:
解雇前の給与が月30万円で、解雇後に中間収入があった場合の計算方法
例えば、解雇前の給与が月30万円で、解雇後に中間収入があった場合は、バックペイの計算にあたって中間収入を控除することができますが、中間収入が多くても、給与の6割相当額である月18万円は必ずバックペイに含めることになります。
つまり、中間収入の額が月10万円であった場合は、そのままの額を控除することとなり、30万円-10万円=20万円で、バックペイとして支払う額は月20万円となります。一方で、中間収入が月20万円であった場合は、中間収入全額を控除すると月10万円になりますが、これでは最低保障額を下回るため、バックペイとして支払う額は月18万円となります。
3,控除しきれなかった分は賞与から控除可能
では、中間収入の額を全部控除しようとすると、最低保障額を下回ってしまう場合、控除できなかった分の中間収入はどうなるのでしょうか。
支払うべきバックペイに賞与が含まれており、その賞与の支払時期が他社から収入を得ていた期間にある場合は、賞与分のバックペイからも中間収入を控除することが可能です。
上の「図1 給与分のバックペイから中間収入を控除する場合の計算方法」で言うと、緑色の部分の期間中に賞与が支給されるはずであり、賞与分のバックペイの支払義務がある場合、この部分からの中間収入控除が可能となります。
つまり、先ほどの例のように、中間収入の額が月20万円であるのに、控除できる額が月12万円であった場合は、以下の「図2 賞与分のバックペイから中間収入を控除する場合の計算イメージ」のように、控除しきれなかった残りの月8万円は賞与のバックペイから控除されることになります。
ここで注意が必要なのが、中間収入の控除の対象とできる賞与は、他社から収入を得ていた期間中に支払われるはずであった賞与のバックペイのみであるという点です。つまり、例えば、解雇期間中に7月から他社で就労し始めた場合、その前月の6月に支払われる予定であった賞与のバックペイからは控除することはできません。
ここでご説明したバックペイの計算方法は、いずみ福祉会事件最高裁判決(最高裁判所判決 平成18年3月28日)などで判示されています。以下をご参照ください。
4,判決で敗訴した場合のバックペイについての事例
では、具体的にはバックペイの額はどのくらいになることが多いのでしょうか?
以下の表は、解雇のトラブルで解雇無効と判断され企業側が敗訴した過去の裁判例について、企業が支払を命じられたバックペイの額を計算したものです(ただし、表の支払額には、厳密にはバックペイだけでなく、慰謝料や弁護士費用、未払残業代等も含まれています)。
事件名 | 解雇から判決までの 期間 |
支払額 |
①日本アイ・ビー・エム事件 東京地方裁判所判決平成28年3月28日 |
3年8か月 | 原告A:約2240万円 |
3年6か月 | 原告B:約2000万円 | |
3年6か月 | 原告C:約2600万円 | |
②大王製紙事件 東京地方裁判所判決平成28年1月14日 |
2年10か月 | 約1370万円 |
③東京メトロ(諭旨解雇・本訴)事件 東京地方裁判所判決平成27年12月25日 |
1年7か月 | 約730万円 |
④野村證券事件 東京地方裁判所判決平成28年2月26日 |
3年7か月 | 約2230万円 |
⑤日本航空(客室乗務員)事件 大阪地方裁判所判決平成27年1月28日 |
4年 | 約1140万円 |
⑥サカキ運輸ほか(法人格濫用)事件 長崎地方裁判所判決平成27年6月16日 |
1年8か月 | 約1090万円 |
⑦甲野堂薬局事件 東京地方裁判所立川支部判決平成24年3月28日 |
2年1か月 | 約750万円 |
⑧弁護士法人レアール法律事務所事件 東京地方裁判所判決平成27年1月13日 |
1年6か月 | 約610万円 |
⑨日本ボクシングコミッション事件 東京地方裁判所判決平成27年1月23日 |
2年9か月 | 約1130万円 |
⑩ヒューマンコンサルティング事件 横浜地方裁判所判決平成26年8月27日 |
4年3か月 | 約580万円 |
⑪アメックス(休職期間満了)事件 東京地方裁判所判決平成26年11月26日 |
1年11か月 | 約1040万円 |
⑫WILLER EXPRESS西日本事件 大阪地方裁判所判決平成26年10月10日 |
1年6か月 | 原告A:約850万円 |
3か月 | 原告B:約390万円 |
この表から分かるように、バックペイの金額は事案によって様々ですが、差はあるにしろ高額の支払いが命じられています。
特に、「①日本アイ・ビー・エム事件」では、解雇された従業員が3名いたこと、従業員らが解雇前に高額の給与を受け取っていたこと、そして裁判が長期にわたったことなどから、3名合計で約6800万円以上もの非常に多額の支払いを命じられることになりました。
つまり、以下のような場合は、バックペイが高額になりやすい傾向にあると言えます。
- 解雇した従業員の給与が高額である(毎月発生するバックペイが高額化する)
- 解雇前に賞与が毎回決まった金額で支給されている(賞与もバックペイの対象となる)
- 裁判が長引いている(バックペイの支払期間が長期化する)
- 元従業員が解雇後に他社で就労していない(中間収入を控除できない)
- 解雇されてバックペイの支払を求めている従業員が複数名いる
5,労働審判や訴訟で和解した場合のバックペイの相場
「4,判決で敗訴した場合のバックペイについての事例」では、解雇後に会社に対して訴訟が起こされ、判決でバックペイの支払が命じられた事例をご紹介しました。
しかし、実際の解雇トラブルの中には、訴訟が起こされても判決にまでは至らずに和解で解決するケースが多いのが実情です。また、解雇後に訴訟ではなく、労働審判が申し立てられて、その手続の中で調停又は審判による解決がされることも多くなっています。
▶参考:労働審判について、制度内容など全般的な解説は以下の参考記事をご参照ください。
では、このように、解雇後に起こされた労働審判で調停又は審判による解決がされた場合や、解雇後に訴訟が起こされ労働者側と和解した場合のバックペイについては、どの程度の支払いがされているのでしょうか?
この点については、バックペイそのものの調査ではありませんが、厚生労働省が令和4年に行った調査結果が参考になります。
(1)解決金の支払額の相場について
調査結果によると、労働審判の調停または審判により解決した事件において事業者側から支払われた解決金の額の平均額は、「285万2637円」であったとされています。
一方、訴訟が起こされ和解により解決した事件において事業者側から支払われた解決金の平均額は、「613万4219円」であったとされています。
この解決金の額には、未払い残業代や慰謝料など、バックペイ以外も含まれていることに注意する必要がありますが、バックペイが多くの部分を占めると考えてよいでしょう。
調査結果から、労働審判の場合に比べ、訴訟で和解となった場合のほうが、解決金の金額が高額になる傾向にあることが読み取れます。これは、労働審判は平均70日で終了するのに対し、訴訟は和解する場合でも長期化する傾向があり、その分、バックペイの支払期間が長期化しやすいことが影響していると考えられます。
▶参考:厚生労働省の調査結果の詳細は以下をご参照ください。
(2)解決金の月収表示について
以下は、同じ厚生労働省の調査結果において、解決金の額を、給与の何か月分かという視点で整理したものです。
・参照元:厚生労働省「解雇に関する紛争解決制度の現状と 労働審判事件等における解決金額等に関する調査について(pdf)」の11ページ
これを見ると、労働審判と訴訟での和解における解決金の額で一番多いのが、どちらも「6か月分以上9か月未満」となっています。つまり、解雇前の月収の6か月~9か月分の解決金の支払いで解決している事例が最も多いということになります。
一方、平均値では、労働審判の場合は「6.0か月分」、訴訟による和解の場合は、「11.3か月分」となっており、2倍近い差があります。また、訴訟による和解の場合は、月収「24か月分以上」が約11%にものぼっているのに対し、労働審判の場合は0.9%と非常に少なくなっています。
このように月収表示を基準にしても、労働審判の場合に比べ、訴訟で和解となった場合のほうが、解決金の金額が高額になる傾向がうかがえます。
6,労働委員会の救済命令とバックペイについて
「3,バックペイの計算方法について」でご説明した通り、解雇期間中に従業員が他社で収入(中間収入)を得ていた場合は、バックペイから中間収入を一定のルールのもと控除することが認められています。ただし、これは裁判所の基準です。
労働組合員を解雇した場合、労働組合員が、労働審判や訴訟を起こして裁判所で解雇の無効を主張する例のほか、解雇が不当労働行為であるとして、労働委員会に救済申し立てをする例も存在します。
組合員であることや労働組合に加入したことを理由に解雇することは、不当労働行為の典型例であり、労働組合員はこれに対して、国や都道府県に設置された労働委員会に救済申し立てをすることができます。
▶参考情報:不当労働行為については以下の参考記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
そして、労働委員会が不当労働行為の救済命令として、事業者にバックペイの支払いを命じる場合には、裁判所による判断とは異なり、解雇された従業員が解雇期間中他社で就業していても、通常、中間収入の控除は認められません。
(1)このように裁判所と労働委員会で判断が異なるのはなぜでしょうか?
労働委員会の救済命令には、「① 解雇された従業員個人に対する救済」と、「② 組合活動一般に対する侵害についての救済」という両方の側面があります。
つまり、不当労働行為と認められる場合は、解雇されたことによって被った不利益に対する救済のみならず、組合活動を侵害したことに対する救済の面もあわせて総合的に考慮し、中間収入の控除を認めるべきか、認められる場合はどの範囲で認めるかが判断されます。
このような観点から、労働委員会は、合理的な裁量の範囲内であれば、中間収入の控除をしないでバックペイの支払を命じることも許されるとされています。
労働委員会から救済命令を出された会社はこれを訴訟で争うことができ、救済命令が労働委員会の合理的な裁量の範囲を超えると認められた場合は、裁判所の判決によって救済命令が取り消されます。
中間収入を控除せずにバックペイの支払を命じた労働組合の救済命令を、解雇後比較的短期間のうちに同業他社で解雇前と同水準の賃金を得ていることなどを指摘して、労働委員会の合理的裁量を超えると判断し、取り消した例として、最高裁判所判決昭和52年2月23日(第二鳩タクシー事件)があります。詳細は以下をご参照ください。
7,バックペイを払う必要がない場合
では、会社側がバックペイを支払う必要がないのは、どういった場合でしょうか?
それは、解雇が有効と判断された場合です。
バックペイは、「1,バックペイとは」でご説明した通り、無効な解雇をしたという、会社側の責めに帰すべき事由により就業ができなかったことを根拠とするものです。解雇に正当な理由があり、解雇が有効である場合は、それによって雇用契約が終了します。従って、バックペイは支払う必要はない、ということになります。
▶参考情報:どのような場合に、解雇に正当な理由が認められるかについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
8,バックペイなどの解雇トラブルに関して弁護士に相談したい方はこちら
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9,まとめ
この記事では、解雇が無効と判断された場合に会社側が支払うバックペイについて解説致しました。
会社側はバックペイとして、「労働者が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額」を支払う必要があります。
実際の金額は、事案によって様々ですが、中小企業でも1000万円を超えることも少なくありません。特に、以下のような場合は高額となる傾向があります。
- そもそも給与が高額である
- 解雇前に賞与が毎回決まった金額で支給されている
- 裁判が長引いている
- 元従業員が解雇後に他社で就労していない
- 解雇されてバックペイの支払を求めている従業員が複数名いる
解雇が後日、不当解雇と判断されて多額のバックペイを支払うことになる事態を回避するためにも、解雇をする前に、解雇の進め方や解雇理由の証拠収集について弁護士に相談したうえで慎重に判断することが必要です。
解雇に関しては、以下の参考記事で基礎知識や弁護士に相談する必要性について詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
10,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
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咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
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▶解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の金銭支払いで解決をした事例
▶元従業員からの解雇予告手当、残業代の請求訴訟について全面勝訴した事案
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記事作成日:2023年3月28日
記事作成弁護士:西川暢春