こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
「地位確認請求」や「地位確認等請求事件」についてわからないことがあり調べていませんか?
「地位確認請求」の中でも「地位確認訴訟」は、最も深刻な労使紛争の1つです。会社側は、対応を誤れば、1000万円を超えるような支払いを命じられることも少なくありません。地位確認請求を受けたときは、早急に専門の弁護士に相談して対応する必要があります。
筆者も地位確認請求について会社側の立場で多くのご相談をお受けして解決してきました。この記事では筆者の経験も交えながら、地位確認請求について、根拠条文や訴訟になった場合の流れ、会社側がとるべき対応等について解説します。
それでは見ていきましょう。
会社が地位確認請求を受けるパターンとして、「労働者から口頭や文書などで不当解雇の主張がされるケース」「地位確認請求の労働審判や仮処分を起こされるケース」「地位確認等請求事件の訴訟を起こされるケース」などがあります。
これらの場面で会社側の対応を誤るとトラブルが深刻化し、会社が多額の支払を命じられたり、一度解雇した従業員の復職を認めることが必要になるリスクがあります。労働者から地位確認請求を受けたら、すぐに専門の使用者側弁護士にご相談いただくことが必要です。筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。
咲くやこの花法律事務所へのご相談は以下もご参照ください。
▶参考情報:労働問題に強い弁護士への相談サービスはこちら
また地位確認請求に対する会社側の対応についての咲くやこの花法律事務所の解決実績を以下でいくつかご紹介していますのでご参照ください。
▼地位確認請求に対する会社側の対応について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,地位確認請求とは?
地位確認請求とは、解雇等により雇用を終了された労働者が事業者に対して、雇用終了が無効であると主張して、現在も労働契約上の地位があること、つまり、現在も従業員であることの確認を求める請求をすることを言います。これらの請求は訴訟、労働審判、仮処分等の方法で行われることが多くなっています。
(1)地位確認請求が行われる場面
地位確認請求が行われる場面としては以下の例があげられます。
- 1.普通解雇あるいは懲戒解雇された労働者が不当解雇であるとして地位確認請求をするケース
- 2.雇止めをされた有期雇用の労働者が雇止め法理に基づき地位確認請求をするケース
- 3.私傷病による休職者が休職期間満了で退職扱いとなった後、雇用終了は不当であるとして地位確認請求をするケース
(2)地位確認請求についての重要判例
地位確認請求についての重要判例としてあげられるのが、以下の3つの最高裁判例です。
1,高知放送事件(最高裁判所判決昭和52年1月31日)
寝過しにより定時ラジオニュースを放送することができなかつたアナウンサーに対する解雇の効力が争われた事案において、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるも のではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理 であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇 の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」と判示したうえで、事案の結論としても解雇が無効であると判断しました。
▶参考情報:「高知放送事件(最高裁判所判決昭和52年1月31日)」の判決内容はこちら
2,東芝柳町工場事件(最高裁判所判決昭和49年7月22日)
有期の雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていた場合の雇止めの効力の判断について、「その実質にかんがみ、解雇に関する法理 を類推すべきである」と判示しました。
▶参考情報:「東芝柳町工場事件(最高裁判所判決昭和49年7月22日)」の判決内容はこちら
3,日立メディコ事件(最高裁判所判決昭和61年12月4日)
有期の雇用契約においても、雇用関係について継続が期待されていた場合は、「このような労働者を契約期間満了によつて雇止めにするに当たつては、解雇に関す る法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為など に該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかつ たとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契 約が更新されたのと同様の法律関係となる」と判示しました。
▶参考情報:「日立メディコ事件(最高裁判所判決昭和61年12月4日)」の判決内容はこちら
これらの各判例は、現在では、「1,高知放送事件(最高裁判所判決昭和52年1月31日)」の最高裁判例が労働契約法16条として、「2,東芝柳町工場事件(最高裁判所判決昭和49年7月22日)」、「3,日立メディコ事件(最高裁判所判決昭和61年12月4日)」の最高裁判例が労働契約法19条として成文化されています。
2,地位確認請求の根拠条文
労働者による地位確認請求の根拠となる条文は、地位確認請求が行われる場面によって異なります。以下で順番に見ていきましょう。
(1)普通解雇あるいは懲戒解雇された労働者が不当解雇であるとして地位確認請求をするケース
これは、いわゆる「不当解雇の訴え」であり、労働契約法16条を根拠条文とするものです。
労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。
この条文を根拠に 「解雇は無効であり、現在も労働契約上の地位がある」というのが不当解雇の地位確認訴訟における労働者側の主張になります。
▶参考情報:不当解雇については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
(2)雇止めをされた有期雇用の労働者が雇止め法理に基づき地位確認請求をするケース
雇止めとは有期雇用の契約社員やパート社員、嘱託社員等について、契約期間満了のタイミングで、事業者側が契約の更新を拒否し、雇用契約を終了させることをいいます。
雇止めは「雇止め法理」により制限されており、一定の場合には雇止めが認められず、事業者は雇用契約の更新を強制されます。この「雇止め法理」は労働契約法19条で定められています。この条文を根拠に「現在も労働契約上の地位がある」というのが雇止めの場面での地位確認訴訟における労働者側の主張になります。
▶参考情報:雇止めと雇止め法理については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
▶参考:労働契約法19条
第十九条有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
(3)私傷病による休職者が休職期間満了で退職扱いとなった後、雇用終了は不当であるとして地位確認請求をするケース
事業者が、私傷病による休職者について、休職期間満了により退職扱いとした場面で、休職者が「復職は可能であり退職扱いは無効である」と主張して、労働契約上の地位の確認の請求をされる例があります。
労働契約法3条5項は、「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」と定めています。この場面での地位確認請求は、事業者による退職扱いは労働契約法3条5項により無効であるという主張であると理解されます。
▶参考情報:休職期間満了を理由とする退職扱いをめぐるトラブルについては以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
※この段落でご紹介している「労働契約法」について
3,バックペイの請求について
ここまでご説明したような「地位確認請求」は「バックペイの請求」とセットでされることが通常です。そのため、訴訟になれば、「地位確認等請求事件」などと事件名がつけられます。「等」というのは、地位確認請求だけでなく、バックペイの請求もあることを意味しています。
このバックペイとは、事業者が労働者を解雇した後、裁判所の判決により解雇が無効と判断された場合に、事業者が労働者に対して支払を命じられる解雇期間中の賃金のことをいいます。解雇の時点から判決日までの期間についてバックペイの支払いを命じられることが通常です。
このバックペイの請求は、下記の民法536条2項を根拠としています。無効な解雇により就業できなかったことは、事業者の「責めに帰すべき事由」によるものであり、労働者はその期間中の賃金を請求できることを根拠にするものです。
▶参考情報:民法536条2項
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
・参照元:「民法」の条文はこちら
このバックペイの理屈は、解雇の場面だけでなく、雇止めのケースにおける地位確認請求の場面や、休職期間満了による退職扱いのケースにおける地位確認請求の場面でも同様にあてはまります。事業者側が雇用を終了させたことが訴訟により無効であったと判断された場合、事業者は雇用を終了させた時点から判決日までの期間についてバックペイの支払いを命じられることが通常です。
▶参考情報:バックペイについては以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
4,地位確認等請求事件の訴訟の流れ
地位確認訴訟(地位確認等請求事件)の手続きの流れはおおむね以下の通りです。
- 1.労働者側が裁判所に訴状を提出して訴訟を提起する
- 2.事業者側に訴状が届く
- 3.事業者側から訴状に対する反論の答弁書を提出する
- 4.労働者側・事業者側双方から書面での主張、証拠等の提出を行う
- 5.裁判所から和解案の提示がされる
- 6.和解がまとまらなければ人証調べ(本人尋問、証人尋問)
- 7.判決
この流れを簡単に説明すると以下の通りです。
1.労働者側が裁判所に訴状を提出して訴訟を提起する
まず、訴訟の手続きは、労働者側による訴状の提出で始まります(上記の1)。
2.事業者側に訴状が届く
その後、裁判所から事業者側に訴状が送られてきます(上記の2)。
3.事業者側から訴状に対する反論の答弁書を提出する
これに対し、事業者側からは裁判所が指定する答弁書提出期限までに、訴状に対する反論の答弁書を提出する必要があります(上記の3)。
4.労働者側・事業者側双方から書面での主張、証拠等の提出を行う
そして、この後、しばらくの期間は労働者側・事業者側双方からお互いの主張や証拠を書面で出し合います(上記の4)。
5.裁判所から和解案の提示がされる
双方の主張がおおむね尽きた段階で、裁判所から、それまでの主張を踏まえた和解案の提示があることが通常です(上記の5)。
6.和解がまとまらなければ人証調べ(本人尋問、証人尋問)
和解がまとまればそれで訴訟が終了しますが、和解がまとまらなければ、当事者や証人を裁判所に呼んで尋問する人証調べが行われます(上記の6)。
7.判決
そのうえで判決により第一審の訴訟が終了します(上記の7)。
5,地位確認請求訴訟で和解する場合の事業者側の平均的な支払額
地位確認請求訴訟が判決に至るまでに、裁判所における和解により解決するケースは非常に多いです。そして、和解による解決をする場合は、事業者側がいくらかの金銭を支払うことと引き換えに訴訟を終了させるという内容になることがほとんどです。
この場合に、事業者側が支払う金銭(和解金)の額は、訴訟の中で事業者側が雇用契約を終了した理由を十分に主張、立証できたかに大きく左右されます。つまり、雇用契約終了の有効性を事業者側として十分に主張、立証できたケースでは、判決になった場合も事業者は勝訴する見込みということになり、和解するとしても少額の和解金ということになります。
一方、雇用契約終了の有効性を事業者側として十分に主張、立証できなかったケースでは、判決になった場合に事業者は敗訴する見込みということになり、和解により訴訟を終了させるためには多額の和解金を支払わなければ、労働者側の了解を得られないということになります。
そのため、地位確認請求訴訟における和解で事業者側が支払う和解金の額は、個別の事案によってバラバラであり、大きな差があります。ただ、平均的にどのくらいの額なのかということが気になる方もいらっしゃるでしょう。
地位確認訴訟における和解の場合に事業者が支払う和解金については、独立行政法人労働政策研究・研修機構が、令和2年から令和3年までの2年間に和解により終了した地位確認請求訴訟の事案を調査した調査結果が公表されています。それによると、事業者側が和解の際に支払った金額は、下の赤色棒グラフの通りの分布であり、20万円未満から2000万円以上まで非常に幅広いばらつきがあります。そして、和解金の額の平均値は約613万円であったという調査結果になっています。
▶参考:地位確認請求訴訟における事業者側が和解の際に支払った解決金額
・厚生労働省「解雇に関する紛争解決制度の現状と労働審判事件等における解決金額等に関する調査について」(pdf)
6,地位確認請求の管轄と訴額
では、地位確認請求訴訟(地位確認等請求事件)は、どこの裁判所で行われるのでしょうか。
この点については、地位確認等請求事件の管轄は、事業者の本店所在地を管轄する地方裁判所になることが通常です(民事訴訟法4条1項、4項)。また、労働者が解雇等の時点で本店所在地以外の事務所や営業所に勤務していた場合、労働者は、その事務所や営業所の所在地を管轄する地方裁判所に地位確認訴訟を提起することも可能です(民事訴訟法5条5号)。例えば、東京本社の会社の大阪支店で勤務していた労働者は、東京地方裁判所に地位確認訴訟を提起することも、大阪地方裁判所に地位確認訴訟を提起することも可能です。
▶参考情報:裁判所の管轄区域については以下を参照してください。
また、訴訟を提起する場合、裁判所に手数料を納付する必要があります。この手数料は「訴額」を基準に決まります。そして、地位確認請求訴訟の訴額は160万円と定められています。ただし、同じ訴訟内で、地位確認請求とあわせてバックペイなどの金銭請求がされる場合に、金銭請求の額が160万円を超えることがあります。その場合は、金銭請求部分の訴額がその事件の訴額になります。
▶参考情報:訴額に応じた申立手数料の額の計算方法については以下を参照して下さい。
7,地位確認請求における訴状
次に、地位確認請求訴訟における訴状について説明したいと思います。
訴状には、「請求の趣旨」と「請求の原因」が記載されています。「請求の趣旨」とは、労働者がその訴訟で事業者に対して請求する内容を記載したものです。そして、「請求の原因」は、請求内容を特定する内容や請求を理由づける事実を記載したものです。
そして、労働者側からは、訴状とあわせて、訴状記載の内容に関する書証(証拠)もあわせて提出されることが通常です。
労働者が事業者に地位確認等請求訴訟を起こした場合、訴訟が起こされてから3週間から4週間ほどで、裁判所から事業者宛に訴状やそれにあわせて提出された書証類が送付されます。事業者側としては、訴状を受け取ったら、その内容をよく確認することが大切です。
訴状の中で、まず確認する必要があるのは、「請求の趣旨」の部分です。ここに労働者がその訴訟で事業者に対して請求している内容が書かれています。典型的には以下のような内容が書かれています。
- 1,原告が、被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
- 2,被告は、原告に対し、●●●●●円およびこれに対する本訴状送達日の翌日から支払い済みまでの年6分の割合による金員を支払え。
- 3,被告は、原告に対し、毎月●日限り●●●●円およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
- 4,訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第2項、第3項について仮執行の宣言を求める。
この場合、地位確認請求訴訟を起こした労働者は、事業者に対して4つの請求をしています。まずは、労働者が何を請求しているのかを正確に理解することが大切ですので、以下では上の例で挙げた4つの請求の意味を順番に説明します。
(1)第1項:原告が、被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
これが「地位確認請求」です。例えば解雇された労働者である場合は「解雇は無効だから、現在も自分は従業員としての権利があることを確認してください。」という意味の請求です。
(2)第2項:被告は、原告に対し、●●●●●●円およびこれに対する本訴状送達日の翌日から支払い済みまでの年6分の割合による金員を支払え。
これは「バックペイの請求」です。「解雇は無効なので解雇後に支払われなかった賃金は、解雇時までさかのぼって支払ってください」という内容です。
(3)第3項:被告は、原告に対し、毎月●日限り●●●●円およびこれらに対する各支払日の翌日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
これは、「将来の賃金請求」です。「解雇は無効で自分は今も従業員だから、訴訟を起こした後は、毎月給料日に解雇以前と同様に給与を支払ってください」という請求です。
(4)第4項:訴訟費用は被告の負担とする。
最後は、「訴訟費用の請求」です。これは「訴訟のために労働者が裁判所に納めた申立手数料などの費用は事業者に負担させてください」という請求です。
このうち、訴状を確認する際に特に注目していただきたいのは、第1項の「地位確認請求」が含まれているかどうかです。「地位確認請求」は、要するに復職を求める請求です。従業員がすでに別の職についているなどの事情により復職を求めない場合は、「第1項」の「地位確認請求」はされないことが通常です。「地位確認請求」がされている場合は、単にお金の問題ではなく、「敗訴すれば従業員の復職を認めなければならなくなる」という点を理解して訴訟に対応していく必要があります。
8,地位確認訴訟に対する会社側の対応
では、地位確認訴訟を起こされた場合、会社側はどのように対応すればよいのでしょうか?
以下で見ていきたいと思います。
(1)早急に専門の弁護士に相談することが必要
裁判所から届けられた訴状の封筒には、「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」という書面が同封されています。この書面に、以下の内容などが記載されています。
- 1,出廷しなければならない裁判所の名前
- 2,第1回の裁判期日の日時
- 3.答弁書の提出期限
「答弁書」とは、「訴状に対する反論書面」のことです。会社側は「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」に書かれた「答弁書の提出期限」までに、裁判所に「答弁書」を提出しなければなりません。訴状の内容を確認したら、地位確認請求訴訟の対応に精通した企業側弁護士に相談に行きましょう。答弁書の提出期限までに、内容の充実した答弁書を提出できるように、訴状が届いたらできる限り早く弁護士に相談することがベストです。
弁護士への相談の際、資料として、以下の書類をもって弁護士に相談することをお勧めします。
- 1,地位確認請求訴訟を提起した従業員の履歴書
- 2,従業員との雇用契約書または労働条件通知書
- 3,就業規則、賃金規程
- 4,従業員の雇用を終了した直前の給与明細
- 5,雇用の終了やその経緯に関する資料(例えば、解雇の場合は、解雇通知書、解雇理由書や、解雇理由に関連する指導書、始末書、懲戒処分通知書等)
その他、入社から雇用終了に至るまでの経緯について、簡単に時系列でまとめたものを持参すると、相談がスムーズです。
(2)訴状に対する反論のポイント
訴状に対する反論のポイントは、地位確認請求が、普通解雇に関するものか、懲戒解雇に関するものか、雇止めに関するものか、あるいは休職期間満了による退職扱いに関するものかによって異なります。以下で順に見ていきましょう。
1,普通解雇した従業員から地位確認請求があった場合の対応
普通解雇した従業員から地位確認請求訴訟を起こされた場合は、解雇について十分な理由があり、解雇が妥当であったということを会社側から主張して反論する必要があります。どのような理由があり、どのような条件を満たせば、普通解雇が認められるかは、解雇理由ごとに異なります。
この点については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
また、普通解雇については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
▶参考情報:普通解雇とは?わかりやすく徹底解説
2,懲戒解雇した従業員から地位確認請求があった場合の対応
懲戒解雇した従業員から地位確認請求訴訟を起こされた場合は、会社側から懲戒解雇の有効性を主張して反論する必要があります。懲戒解雇が有効と認められるためには、まず、就業規則が正しく従業員に周知されており、かつその就業規則に定められた懲戒解雇事由に該当する行為があったことを会社側から主張することが必要です。そのうえで、懲戒解雇について十分な理由があり妥当であるということを、会社側から主張する必要があります。
懲戒解雇が有効と認められる条件等については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
3,雇止めした従業員から地位確認請求があった場合の対応
雇止めした従業員から地位確認請求訴訟を起こされた場合は、まず、「雇止め法理が適用される場面ではないこと」を会社側から主張し、次に、「仮に雇止め法理が適用されるとしても雇止めについて十分な理由があり、雇止めが妥当であること」を会社側から主張する必要があります。このように2段階の主張が必要になり、主張すべきことも多くなります。このうち1段階目の「雇止め法理が適用される場面ではないこと」については、主に以下の点のうち主張できるものを主張していくことになります。
- 期間満了後の更新の手続が正しく行われており無期雇用の契約と同視できるような事情がないこと
- 雇用契約の更新回数が少ないこと
- 業務の内容が臨時的なものであるなどの事情があり、労働者に更新についての合理的な期待があったとはいえないこと
- 社内において有期雇用者の雇止めが行われてきた実例があったり、更新についての上限が定められている等の事情から、労働者に更新について合理的な期待があったとはいえないこと
そのうえで、2段階目の「雇止めについて十分な理由があり、雇止めが妥当であること」を主張することになります。この2段階目の主張については、基本的に「1,普通解雇した従業員から地位確認請求があった場合の対応」でご説明した普通解雇の有効性の主張と同様の内容になります。
4,私傷病休職の休職期間満了により雇用を終了した従業員から地位確認請求があった場合の対応
私傷病休職の休職期間満了により雇用を終了した従業員から地位確認請求があった場合は、まず、会社から休職命令が有効に出されていることを主張する必要があります。そのうえで、従業員が休職期間満了の時点で復職可能な状態であったとはいえないことを会社側から主張して、訴状に反論していく必要があります。
休職期間中に従業員が会社に提出した診断書や会社から主治医に対して医療照会した際の回答書、復職の可否についての産業医の意見書、従業員がリワークプログラムを利用していた場合はその資料、主治医のカルテ等が、反論にあたって確認すべき重要な資料になります。また、休職が私傷病ではなく、業務に起因する傷病によるものであるとの主張が従業員からされる例もあります。業務に起因する傷病については休職期間満了による退職扱いが認められません。
そのため、そのような主張が出ている場合は、会社側から、休職は私傷病によるもので業務に起因するものではないということを主張して反論していく必要があります。
(3)会社側は訴訟になる前に対応するのがベスト
ここまで地位確認請求についてご説明しました。会社側として重要なことは、解雇された労働者から「不当解雇である」と主張された場面で、訴訟になるのを待たずに、弁護士に相談して、示談による解決を目指すことです。地位確認請求が訴訟になってしまうと、会社側も1年以上にわたる訴訟対応に労力と費用をかけなければならず、その負担は大きいです。また、専門の弁護士に事前に相談せずに安易に解雇してしまっているようなケースについては、敗訴リスクも高く、敗訴した場合に会社が支払いを命じられるバックペイ、その他会社の負担は非常に大きなものになってしまいます。
訴訟になる前に弁護士に依頼して、「不当解雇」などとする労働者側の主張に対するしっかりとした反論することが適切です。そのうえで、訴訟になれば敗訴リスクがあるような事案については、適切な落としどころを検討し、いくらか金銭を支払ってでも解決しておくことが、結局は会社のメリットになることが多いです。そして、このことは、雇止めした労働者から「不当な雇止めである」と主張された場面や、私傷病休職期間満了で雇用を終了した労働者から「退職扱いは不当である」と主張された場面でも同じです。
(4)地位確認請求の時効
地位確認請求の時効について気になる人もいるのではないかと思います。
労働者としての地位というのは、長期間たつと時効になるという性質のものではありません。そのため、地位確認請求については時効がありません。ただし、賃金請求権の時効は3年であることから、バックペイについては3年で時効になります(労働基準法附則143条3項)。
9,労働審判や仮処分による地位確認請求もある
地位確認請求については、訴訟ではなく、労働審判により請求される例もあります。また、訴訟に前後して仮処分を起こされる例もあります。以下でご説明します。
(1)地位確認請求の労働審判について
労働審判は、裁判所で行われる手続きという意味では、訴訟と同じですが、地位確認請求訴訟よりも簡単な手続きで紛争解決を目指す制度です。地位確認請求訴訟が一般に1年以上の期間がかかるのに対し、労働審判は約80日という短期間で行われます。地位確認請求の労働審判を申し立てられた場合も、会社側において対応すべき内容は基本的には地位確認請求訴訟と同じです。ただし、労働審判は短期間で行われるタイトな手続きであるため、短期間に十分な主張を行うことが重要になります。
▶参考情報:労働審判については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
(2)地位保全仮処分、賃金仮払仮処分について
地位確認請求の訴訟に前後して仮処分が起こされる例もあります。仮処分は、地位確認請求の訴訟により解雇について最終的な解決がされるのを待たずに、緊急に仮の裁判を求める必要がある場合に認められる手続きです。「地位保全仮処分」と「賃金仮払仮処分」があります。
このうち「地位保全仮処分」は、労働者側が解雇されたことにより失われた社会保険の被保険者資格を回復することを目的として、仮の裁判をすることを求める手続きです。一方、「賃金仮払仮処分」は、労働者が解雇されたことにより労働者の生計が成り立たなくなることを防ぐために、会社に対して賃金の仮払いを命じる仮の裁判をすることを求める手続きです。
10,地位確認請求の会社側の対応に関する弁護士のサポート内容と弁護士費用について
ここまで地位確認請求についてご説明しました。咲くやこの花法律事務所では、地位確認請求をされた場面での会社側の対応について、専門的なサポートを提供し、多くの事件を解決してきた実績があります。以下で、地位確認請求の会社側対応についての咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。
(1)地位確認請求の訴訟・労働審判に対する対応
咲くやこの花法律事務所では、解雇や雇止め、私傷病休職期間満了による退職扱い等を行った後に、従業員から地位確認請求の訴訟や労働審判を起こされた場合の対応について常時ご相談をお受けしています。このような地位確認等請求事件の対応の結果は、どの弁護士に依頼するかによって大きく変わってくることも多いです。咲くやこの花法律事務所には、地位確認請求の対応に精通した弁護士がそろっています。これまでの事務所としての多くの経験も踏まえて、会社側からの主張を尽くすことで、会社側の主張が十分反映された解決を実現します。お困りの方は、早めに「咲くやこの花法律事務所」までご相談下さい。
咲くやこの花法律事務所の弁護士費用例
- 初回相談料:30分5000円+税
- 弁護士による裁判対応着手金:45万円+税程度~
(2)地位確認請求について訴訟になる前の交渉対応
この記事でもご説明してきたとおり地位確認請求については、訴訟になる前に弁護士に交渉を依頼し、解決することが、会社の利益にかなうことが多いです。咲くやこの花法律事務所では、地位確認請求を受けた場合の交渉対応について会社側から多数のご依頼をお受けし、そのほとんどの事案で訴訟になる前の解決を実現してきました。訴訟になる前に会社側から労働者の主張に対し網羅的な反論を加えることで、会社側の主張が十分反映された解決を実現します。お困りの方は、早めに「咲くやこの花法律事務所」までご相談下さい。
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- 弁護士による交渉対応着手金:30万円+税程度~
(3)顧問弁護士サービスによるサポート
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特に問題社員対応の取り組みは、まずは日々の指導や就業規則の整備が重要です。顧問弁護士がいれば、問題社員に対する具体的な指導方法、対応方法についてのご相談、その他労務管理に関する日々のご相談や、労務トラブルが発生した場合の対応など、日頃から幅広いサポートを受けることが可能です。
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(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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11,咲くやこの花法律事務所の地位確認請求に対する会社側の解決実績
地位確認請求に対する会社側の対応についての咲くやこの花法律事務所の解決実績を以下でいくつかご紹介していますのでご参照ください。
(1)正社員等無期雇用社員の解雇をめぐる地位確認請求に対応して解決した事例
・試用期間満了後に本採用せずに解雇した従業員から復職を求める労働審判を起こされたが退職による解決をした事例
・パワハラを繰り返す社員を解雇したところ、不当解雇であると主張されたが、弁護士が交渉して退職合意をし、訴訟回避した事例
・不当解雇を主張する従業員との間で弁護士立ち合いのもと団体交渉を行ない合意退職に至った事例
・解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の金銭支払いで解決をした事例
(2)契約社員等有期雇用社員の雇止めをめぐる地位確認請求に対応して解決した事例
・雇止め無効を主張する契約社員から起こされた復職を求める労働審判に対応し、復職を認めない内容での和解を成立させた事例
・契約社員に弁護士から解雇ではなく期間満了による労働契約の終了であると説明して紛争解決した事案
12,まとめ
この記事では地位確認請求についてご説明しました。
地位確認請求とは、解雇等により雇用を終了された労働者が事業者に対して、雇用終了が無効であると主張して、現在も労働契約上の地位があること、つまり、現在も従業員であることの確認を求める請求をすることを言います。そして、このような「地位確認請求」は「バックペイの請求」とセットでされることが通常です。そのため、訴訟になれば「地位確認等請求事件」などと呼ばれます。
地位確認訴訟(地位確認等請求事件)の手続きの流れはおおむね以下の通りです。
- 1.労働者側が裁判所に訴状を提出して訴訟を提起する
- 2.事業者側に訴状が届く
- 3.事業者側から訴状に対する反論の答弁書を提出する
- 4.労働者側・事業者側双方から書面での主張、証拠等の提出を行う
- 5.裁判所から和解案の提示がされる
- 6.和解がまとまらなければ人証調べ(本人尋問、証人尋問)
- 7.判決
会社側としては、早急に訴状を確認したうえで、訴状に対する反論をしていくことになります。ただし、訴訟は時間と労力がかかりますので、可能であれば訴訟になる前に弁護士に交渉を依頼し、労働者側の主張に対して十分な反論を加えたうえで、解決することがベストです。その他、地位確認請求の労働審判や仮処分についてもご説明しました。
地位確認請求のトラブルは、労使間のトラブルの中でも慎重な対応が必要になるトラブルの1つです。会社が地位確認請求をうけたときは、早急に専門の弁護士に相談して正しい対応をすることが大切です。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでお困りの際はぜひご相談ください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2024年10月29日
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