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不当解雇の慰謝料とは?認められる場合や金額の相場を解説

不当解雇の慰謝料とは?認められる場合や金額の相場を解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

解雇された従業員が不当解雇だとして会社を訴えるケースが多くみられます。もし裁判所で不当解雇であると判断されてしまった場合、会社に支払いを命じられる可能性があるものとして、まず思い浮かぶのは慰謝料だと思います。

しかし、不当解雇と判断されたからといって必ず慰謝料の支払いを命じられるのかというとそうではありません。

不当解雇と判断された場面で会社が支払いを命じられる金銭には、「バックペイ」と「慰謝料」があり、このうち慰謝料が認められるのは、解雇された従業員がバックペイの支払でも補てんできないような精神的苦痛を負った場合に限定されます。

この記事では、どういった場合に慰謝料が認められるのかや慰謝料の相場、実際に慰謝料の支払いが認められた裁判例等について詳しく解説します。

この記事を読めば、不当解雇における慰謝料について正しく知ることができるはずです。

それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

従業員から不当解雇として訴えを起こされ、裁判所で不当解雇と判断されてしまうと、企業は従業員との雇用契約が継続していることを判決で確認されたうえ、解雇の時点にさかのぼって賃金を支払うことを命じられます。これはバックペイと呼ばれ、中小企業においても1000万円を超える多額にのぼることが珍しくありません。さらにこの記事で解説する慰謝料の支払いが命じられることがあります。

このように解雇は非常に大きなトラブルに発展する危険があるため、企業として解雇を検討するときは、必ず解雇の前に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。従業員の解雇について会社が弁護士に相談する必要性や弁護士費用などについて、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:従業員の解雇について会社が弁護士に相談する必要性と弁護士費用

 

また、咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っていますのでご利用ください。

 

▶参考情報:解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績をこちらでご紹介していますのでご参照ください。

 

▼不当解雇の慰謝料に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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1,不当解雇の慰謝料とは?

不当解雇の慰謝料とは?

不当解雇の慰謝料とは、違法な解雇によって従業員に重大な精神的苦痛を与えた場合に、企業が支払いを命じられる金銭をいいます。金額はケースによって異なるものの、50万円から100万円程度が相場となることが多く、従業員の精神的苦痛の程度が特に重大であったと評価される場合は100万円を超える慰謝料が命じられることもあります。

以下では、不当解雇の慰謝料について説明する前に、まず先に不当解雇とは何なのかについてご説明します。

 

(1)不当解雇とは?

不当解雇とは、労働基準法等の法律や就業規則などのルールに違反する解雇、あるいは労働契約法により無効とされる解雇のことを指します。その中でも主要な部分を占めるのが、以下の労働契約法第16条により無効とされる解雇です。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇はこの条文により無効とされ、これを「不当解雇」と呼ぶことが多いです。

 

▶参考:労働契約法第16条

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

・参照元:「労働契約法」の条文はこちら

 

不当解雇に当たるかどうかを最終的に判断するのは裁判所です。裁判所が不当解雇と判断した場合、その解雇は無効となり、解雇後も雇用契約が継続していることを判決で確認されることになります。

 

▶参考情報:不当解雇と正当な解雇との違いなどについては、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

不当解雇とは?正当な解雇との違いを事例付きで弁護士が解説

 

2,不当解雇が認められた場合に会社が支払う金銭

不当解雇が認められた場合に、会社に支払いが命じられる可能性のある金銭としては、主に以下の2つが挙げられます。

 

  • 解雇期間中に支払われるはずだった賃金(バックペイ)
  • 慰謝料

 

(1)解雇期間中に支払われるはずだった賃金(バックペイ)

不当解雇が認められ、解雇が無効だとされた場合、その従業員はまだ会社に雇用されていることになるため、企業は解雇期間中の未払賃金を支払う必要があります。

これを、バックペイといいます。このバックペイは、解雇してから従業員を復職させるまでの期間について発生するため、解雇から判決までの期間が長引けば長引くほど支払額が大きくなってしまいます。過去の裁判事例では、中小企業においても1000万円を超えるバックペイの支払いを命じられた事例も少なくありません。

 

▶参考情報:バックペイについて計算方法や目安となる相場など、以下の参考記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

バックペイとは?意味や計算方法、目安となる相場を解説

 

(2)慰謝料

違法な解雇によって従業員に重大な精神的苦痛を与えた場合に企業が従業員の精神的苦痛に対して支払いを命じられる損害賠償金のことです。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

バックペイについては1000万円程度になることも多いのに対し、慰謝料は通常50万円から100万円程度であり、かつ不当解雇と判断されても慰謝料の支払いが命じられるのは、後述の通り特別なケースに限られます。

このことから、不当解雇と判断された場合に会社が支払義務を負う金銭としては、バックペイが主要な部分を占めており、慰謝料だけが問題となるわけではないことに注意してください。

 

3,不当解雇の場面でも慰謝料請求は認められない場合が多い

不当解雇が認められた場合に会社が支払う金銭について、バックペイと慰謝料の2つをご説明しましたが、そのうちの慰謝料については、実際に請求が認められることは多くありません。

慰謝料は解雇による精神的苦痛に対して支払われるものですが、基本的にはバックペイが支払われることで解雇による精神的苦痛は慰謝されたとみなされるのが一般的だからです。

不当解雇において慰謝料が認められるのは、不当解雇が違法性を持っていた場合で、かつ解雇された従業員がバックペイの支払でも補てんできないような精神的苦痛を負った場合に限定されます。

例えば、東京地方裁判所判決平成29年7月3日では、不当解雇の慰謝料について下記のように述べています。

 

▶参考情報:東京地方裁判所判決 平成29年7月3日(シュプリンガー・ジャパン事件)

「解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。」

・参照元:「東京地方裁判所判決 平成29年7月3日(シュプリンガー・ジャパン事件)」の判決内容について詳しくはこちら

 

4,慰謝料が認められるのはどのような解雇の場合か?

では、具体的にはどのような場合に慰謝料が認められるのでしょうか。以下で実際に慰謝料の支払いを命じた裁判例をご紹介したいと思います。

 

(1)解雇について第三者に公表し、労働者の名誉を著しく毀損したケース

 

裁判例:
札幌地裁 平成15年5月14日判決(社会福祉法人当別長生会懲戒解雇事件)

従業員の懲戒解雇についての内容が書かれた貼り紙を誰でも見ることができる会社の入り口に掲載したことについて、慰謝料として50万円の支払いが命じられました。

これは貼り紙の内容が事実に反しており、これを掲示したことにより、懲戒解雇された従業員の名誉を侵害したと判断されたことによるものです。

 

 

(2)一人だけ別室に隔離する等の違法な退職勧奨を経て解雇に至ったケース

 

裁判例:
東京地方裁判所判決平成14年7月9日(国際信販事件)

従業員を退職させるために一人だけ資料置き場になっていた席に移動させるなどのいやがらせの末に解雇したことについて、慰謝料として150万円の支払いが命じられました。

従業員がこれらの嫌がらせ行為を受けて精神的不調に陥り、うつ病との診断をうけたことが、150万円という比較的高額の慰謝料が認められた理由になっています。

 

(3)妊娠や産休・育休の取得を契機に解雇を行うケース

 

裁判例:
東京高等裁判所判決令和3年3月4日(社会福祉法人緑友会事件)

育児休業後の復職を客観的合理的な理由なしに拒否して解雇したことについて、慰謝料として30万円の支払いが命じられました。

この事案では、解雇が男女雇用機会均等法9条4項に違反することや、従業員が育児休業後の復職のため子の保育所入所の手続を進め、入所が決まって法人に復職を申し入れたにもかかわらず、復職の直前に合理的理由なく復職を拒否されたために子の保育所入所も取り消されるという経緯をたどっており、従業員がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが考慮されています。

 

▶参考:男女雇用機会均等法9条4項

妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

・参照元:「男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)」の条文はこちら

 

5,不当解雇に基づく慰謝料の相場

不当解雇に基づく慰謝料の相場

不当解雇について慰謝料の支払いが命じられる場合、その金額は、それぞれのケースによって異なりますが、一般的には50万円~100万円程度とされることが多いです。

但し、労働者に著しい精神的苦痛を与えるような、特に強い違法性があると認められるような場合は、100万〜150万円程と高額になるパターンも見られます。

次の項目で具体的な裁判例をあげながら、慰謝料の額についても見ていきたいと思います。

 

6,50万円から100万円程度の慰謝料請求が認められた裁判例

50万円から100万円程度の慰謝料請求が認められた裁判例

まず、不当解雇について50万円から100万円程度の慰謝料の支払いを命じた事例からご紹介します。

 

(1)確たる理由もなく社内で売上金を盗んだと判断して産前休業直前に解雇したことについて慰謝料50万円の支払いを命じた事例

 

1,名古屋地方裁判所判決 令和2年2月28日(アニマルホールド事件)

動物病院でトリマーとして勤務する従業員が、事実を客観的に裏付ける証拠が無いにもかかわらず、売上金と診療費明細書の控えを盗んだとして解雇された事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は会社が従業員を確たる証拠もなく窃取を理由に産前休業の直前に解雇したことと、解雇後に従業員が本件解雇による影響で体調を崩し通院していることから、バックペイでも償えない特段の精神的苦痛が生じたと認め、慰謝料として50万円が相当であると判断しました。

 

(2)既に退職しているにもかかわらず懲戒解雇しそれを全社員に通知したことについて慰謝料55万円の支払いを命じた事例

 

1,東京地方裁判所判決 平成14年9月3日(エスエイピー・ジャパン事件)

横領行為をした従業員からの退職申出を認めず、懲戒解雇したうえで全社員に横領行為と懲戒解雇の事実を公表したことに対し、従業員側が懲戒解雇無効の確認や慰謝料等を請求した事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、懲戒解雇事由はあるものの、懲戒解雇の時点で既に辞職の効力が生じていたことから懲戒解雇はできないとしたうえで、懲戒解雇に関する事実を公表したことは違法であると判断しました。また、懲戒解雇の事実を全社員に通知したことについて、本件企業の業界が特殊で狭い業界であることから、噂が広まり転職が困難になった等の事情を考慮したうえで、精神的苦痛に対する慰謝料として55万円が相当であると判断しました。

 

(3)根拠なく通勤手当の不正受給を理由に懲戒解雇したうえ大学内に公示したことについて慰謝料80万円の支払いを命じた事例

 

1,東京地方裁判所立川支部判決 平成31年3月27日(学校法人明海大学事件)

大学で勤務する教員が、定年退職直前に通勤手当の不正受給を理由に懲戒解雇され、その事実を大学内に公示されたことに対して、懲戒解雇無効の確認と慰謝料を請求した事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、不正受給に関して大学側の主張を裏付ける客観的な根拠がなかったことから、懲戒解雇を無効と判断し、懲戒解雇の事実を大学内に公示されていること等から、従業員に特段の精神的苦痛が生じたと認め、大学側に慰謝料として80万円の支払いを命じました。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

ここでは、50万円から100万円までの慰謝料の支払いが命じられた事例をご紹介しましたが、不当解雇と判断された場合に会社が支払いを命じられる金銭としてはバックペイが主なものであり、上記の事案についても慰謝料とは別に多額のバックペイの支払を命じているものがあることに注意してください。

 

7,100万円以上の高額な慰謝料の支払いを命じられた事例

次に、不当解雇について100万円以上の高額な慰謝料を認めた事例として以下のものがあります。

 

(1)従業員の正当な権利に基づく行動(労働基準監督署への相談)を理由に解雇したケースについて慰謝料100万円の支払いを命じた事例

 

1,東京自転車健康保険組合事件(東京地方裁判所 平成18年11月29日判決)

健康保険組合が事業の不振を理由に妊娠中の従業員を解雇した事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は不当解雇と判断し、バックペイのほかに慰謝料100万円の支払いを命じました。

裁判所はバックペイとは別に慰謝料の支払いを命じた理由として「解雇については事業の不振が本当の理由ではなく、従業員が退職金の減額に反対して労働基準監督署や労働局に相談したことが理由であると考えられること」をあげています。また、解雇当時、この従業員が妊娠しており、事業者側もこれを知っていたことも理由として挙げています。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

この事案では、労働基準監督署への相談を理由とする解雇であり違法性が強いうえに、従業員が妊娠中であり解雇による精神的苦痛の程度が大きかったことが、高額な慰謝料が命じられる理由になったと考えられます。

 

(2)根拠のない解雇理由を第三者に公表し、解雇された従業員の名誉を損なわせたケース

 

1,アサヒコーポレーション事件(大阪地方裁判所 平成11年3月31日判決)

十分な証拠がないのに従業員を横領を理由に懲戒解雇し、さらに、それを得意先等にも書面で通知した事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は不当解雇と判断し、バックペイのほかに慰謝料150万円の支払いを命じました。裁判所はバックペイとは別に慰謝料の支払いを命じた理由として、「十分な証拠がないのに軽率に懲戒解雇をし、それを得意先等にも通知していること」をあげています。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

この事案では、十分な証拠がないのに横領を理由に懲戒解雇し、それを社内だけでなく得意先にまで通知したことが、高額な慰謝料が命じられる理由になったと考えられます。

 

 (3)その他

後述する「東京地方裁判所判決 平成21年1月30日(ニュース証券事件)」も、証券会社が自ら勧誘して競合他社を退社させて採用した従業員を営業不振を理由に3か月で解雇した事案について慰謝料150万円の支払いを命じています。

これについては、「10,試用期間中の解雇の場合」で解説していますのでご参照ください。

 

8,不当解雇に基づく慰謝料請求が認められなかった裁判例

次に、不当解雇に基づく慰謝料請求が認められなかった事例についていくつかご紹介します。

 

(1)会社が勤務継続困難と判断したことも理解できる面があるとして慰謝料を認めなかった事例

 

1,大阪地方裁判所判決 令和4年4月12日

障害等級1級程度のてんかんや、骨盤にボルトを入れており足が思うように動かせないといった障害のある従業員が、作業ペースの遅さや協調性の欠如を理由に解雇された事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、事前に従業員側から障害についての説明があり、作業速度に相応の制約があることを前提として雇用していたことや、従業員の作業ペースや他の従業員とのコミュニケーションには改善の見込みがあったことから、解雇は無効(不当解雇)と判断しました。

しかし、慰謝料については、裁判所は、会社がこの従業員について勤務継続困難と判断したことにも理解できる面があるとしたうえで、従業員側も自身に非があった点を認めていたこと等の事情も指摘し、請求を認めませんでした。

 

(2)慰謝料請求が認められるほどの違法性はないとされた事例

 

1,東京地方裁判所判決 平成25年2月22日(エヌエスイー事件)

有期雇用されていた従業員が、雇用期間満了前に退職意思を十分検討することなく解雇されたことに対し、雇用期間満了日までの未払賃金(バックペイ)と、不当解雇による慰謝料の支払いを求めた事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、従業員が退職届の提出を拒否していたことから、従業員は退職に合意していたという会社側の主張は認められず、解雇は無効だと判断しました。

しかし、慰謝料については、退職意思を慎重に確認しないまま解雇した問題はあるものの、バックペイが支払われることとなることを踏まえれば、慰謝料請求を認めるべき程の違法性があるとまでは認められないとして、請求を認めませんでした。

 

(3)高額のバックペイが認められることなどを指摘して慰謝料を認めなかった事例

 

1,東京地方裁判所判決 平成24年5月25日(ジャストリース事件)

元役員が退任後に従業員として勤務していたところ、協力義務違反や不当に高額な給与を受給している等の理由で解雇されたことに対し、不当解雇として未払賃金(バックペイ)と慰謝料の支払いを求めた事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、会社側が主張する解雇理由は、いずれも客観的に合理的な理由に該当せず、十分な解雇回避努力も行われていないことから解雇を無効と判断し、未払賃金(バックペイ)の請求を認めました。

しかし、慰謝料については、突然、雇用の機会を奪われ、一定の精神的苦痛を被ったといえなくもないとしつつも、解雇時にさかのぼって月額125万円の高額な賃金請求権(バックペイ)が認められたことなどを指摘して、請求を認めませんでした。

 

9,妊娠や産休・育休の取得に関連した解雇の場合

では、妊娠や産休・育休の取得に関連した解雇は慰謝料の対象になるのでしょうか?

以下で見ていきたいと思います。

 

(1)妊娠や出産、それに伴う休業を理由とする解雇は法律上禁止されている

前提として妊娠や出産をしたこと、あるいはそれに関連して休業をしたことを理由として、従業員に対し、解雇などの不利益な取り扱いをすることは法律「男女雇用機会均等法第9条3項」や「育児介護休業法第10条」で禁止されています。

具体的な法律の条文は以下の通りです。

 

▶参考:男女雇用機会均等法第9条3項

第九条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

・参照元:「男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)」の条文はこちら

 

▶参考:育児介護休業法第10条

第十条(不利益取扱いの禁止)
事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

・参照元:「育児介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)」の条文はこちら

 

(2)妊娠や育児休業取得とは別の理由で解雇する場合

前述のように妊娠や育児休業の取得等を理由とする解雇は、法律によりはっきりと禁じられています。そのため、企業の中には、実際は妊娠等を理由とする解雇であっても、外形的には妊娠等とは異なる別の解雇理由を主張する例もあります。

しかし、妊娠等以外の解雇理由を企業側が主張しさえすれば解雇が違法でないとしてしまうと、先程ご紹介したような法律がある意味がなくなってしまいます。

そこで、解雇が妊娠等に近接して行われている場合、外形上の解雇理由が客観的に合理的なものと認められなければ、上記の男女雇用機会均等法9条や育児介護休業法10条等に違反したとみなし、慰謝料の支払いを命じる例があります。

育児休業からの復帰のタイミングでした不当解雇について慰謝料の支払いが認められた事例として、以下のような裁判例があります。

 

1,東京地方裁判所判決 平成29年7月3日(シュプリンガー・ジャパン事件)

従業員が育児休業後に職場復帰を求めたところ、企業側は人員が既に充分なため子会社への移籍か部署移動しかないなどと説明し、それを拒否した従業員に対し退職勧奨の後、解雇を行った事案です。

 

裁判の判断

裁判所は、企業側が主張する解雇理由に客観的な裏付けがなく、社会通念上相当とは認められないとして、解雇を無効だと判断しました。

また、本件解雇は外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、解雇が妊娠等に近接して行われ、実質的に見れば男女雇用機会均等法や育児介護休業法の規定に反しており、かつ従業員に大きな精神的苦痛を与えたとして企業側に慰謝料50万円の支払いを命じました。

 

10,試用期間中の解雇の場合

次に、試用期間中の解雇の場合の慰謝料についてご説明します。

試用期間中の解雇は、一般的に通常の解雇よりも広い範囲で解雇が認められており、解雇のハードルは低いものと捉えられがちです。

しかし、試用期間中の解雇の場合においても、不当解雇と判断された場合は慰謝料の支払いを命じられることがあります。試用期間中の解雇が不当解雇と判断され、慰謝料の支払いが認められた事例として、以下のような裁判例があります。

 

(1)試用期間中の従業員に対する解雇前の退職勧奨について慰謝料の支払いを命じられた事例

 

1,東京地方裁判所判決 令和2年9月28日(明治機械事件)

会社と試用期間のある労働契約を締結した従業員が、延長された試用期間中に本採用を拒否されたことに対し、従業員側が解雇は無効である旨を主張した上で、違法な退職勧奨により精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求めた事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、会社側が試用期間を3回延長したことについて、やむを得ない事情や調査を尽くす目的があったとは認められず、また就業規則の最低基準効に反することから、試用期間の延長は無効であるとしました。

そのうえで、本件解雇は解雇事由が存在しないことから、解雇権の濫用であり無効だと判断しました。また、会社側が労働者を一人会議室に隔離し自習させ続けるなどしたことについて、精神的苦痛を与えることで退職勧奨に応じさせようとしたことが認められるため、不法行為にあたると判断し、慰謝料として50万円の支払いを命じました。

 

(2)証券会社が自ら勧誘して競合他社を退社させて採用した従業員を営業不振を理由に3か月で解雇した事案について慰謝料の支払いを命じた事例

 

1,東京地方裁判所判決 平成21年1月30日(ニュース証券事件)

7年間の営業経験を持つ中途採用者に対し、証券会社が営業成績に問題があるとして、試用期間の満了を待たずに解雇したことについて、従業員側が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、未払給与と慰謝料の支払を求めた事案です。

 

裁判所の判断

裁判所は、勧誘に応じて競合他社を退社して入社した従業員を試用期間の満了を待つことなくわずか3か月ほどで成績不振を理由に解雇した会社の対応は性急にすぎること、突然の解雇により顧客の信頼も損なわせたことなどを指摘して、150万円の慰謝料の支払いを命じました。

 

▶参考情報:試用期間中の解雇については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

試用期間中の解雇についておさえておくべき注意点を解説

 

11,不当解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

ここまで、不当解雇の慰謝料についてご説明しました。

咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、解雇トラブルに関する相談をお受けしています。具体的なサポート内容は以下の通りです。

 

(1)解雇前の事前相談

解雇は企業にとってリスクのある場面です。弁護士に相談せずに自社の判断で安易に解雇を行ってしまうと、訴えを起こされた場合に不当解雇と判断されてしまい、雇用継続や多額のバックペイの支払等、企業として非常に大きな負担を背負う恐れがあります。

咲くやこの花法律事務所では、解雇前に行っておくべき証拠収集や、解雇を進めるにあたっての具体的な注意点、解雇の手続きの進め方、解雇以外の手段の検討について、企業の立場からのご相談を承っています。上記のようなリスクを回避するためにも、できるだけ解雇前に弁護士に相談することをおすすめします。

 

咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに強い弁護士への相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(2)解雇後の従業員とのトラブルに関する交渉・裁判

咲くやこの花法律事務所では、解雇した従業員とのトラブルに関する交渉や裁判のご依頼も常時承っています。

解雇した従業員から不当解雇であるとして復職を求められたり、金銭を請求されることは珍しいことではありません。

このような場合はなるべく早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめします。弁護士が従業員との交渉を企業に代わって行うことで、裁判にまで発展することを回避し、企業にとってより望ましい結果を導くことができます。

さらに、解雇によるトラブルが、労働審判や解雇訴訟に発展した場合も、これまでの豊富な経験を生かしてベストな解決に導きます。解雇トラブルに関してお困りの際は、咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに強い弁護士への相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●弁護士による交渉の着手金:30万円+税程度
●弁護士による裁判対応着手金:45万円+税程度~

 

(3)労務管理全般をサポートする顧問弁護士サービス

咲くやこの花法律事務所では、企業の労務管理全般をサポートするための、顧問弁護士サービスも提供しております。

トラブルが起こったときの正しい対応、迅速な解決はもちろんのことですが、平時からの労務管理の改善によりトラブルに強い会社を作っていくことがなによりも重要です。

顧問弁護士サービスでは、予約なしにいつでも顧問弁護士にご相談いただくことができます。日ごろから顧問弁護士の助言を受けながら、労務管理の改善を進めていきましょう。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。

 

 

12,解雇トラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決実績

咲くやこの花法律事務所は多くの企業から解雇トラブルに関するご相談を受け、解決してきました。咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。

 

問題のある従業員を解雇したところ不当解雇の主張があったが、交渉で金銭支払いなしで退職による解決をした事例

元従業員から不当解雇として労働審判を起こされ最低限の支払いで解決をした事例

元従業員からの解雇予告手当、残業代の請求訴訟について全面勝訴した事案

 

13,まとめ

この記事では、不当解雇に基づく慰謝料についての相場や、どのような場合に慰謝料が認められるのか等についてご説明しました。

不当解雇に基づく慰謝料の相場は、一般的には50万円~100万円程度です。

ただ、不当解雇と判断された場合でも、実際に慰謝料が認められる場合は少なく、多くの場合はバックペイの支払により解雇による精神的苦痛は慰謝されたと判断されます。

慰謝料が認められるのは、労働者にバックペイだけでは補てんしきれないような特段の精神的苦痛が生じた場合に限られます。具体的には以下のようなケースが挙げられます。

 

  • 虚偽の解雇理由を第三者に公表し、労働者の名誉を著しく毀損したケース
  • 一人だけ別室に隔離する等の違法な退職勧奨の後に解雇に至ったケース
  • 妊娠や産休・育休の取得を契機に解雇を行うケース
  • 労基署への相談等、正当な権利行使を理由に解雇を行うケース

 

従業員を解雇して、後日裁判所で不当解雇と判断されると、企業は従業員を復職させることを余儀なくされるうえ、バックペイや慰謝料の支払いまで命じられ、非常に大きな負担を負うことになります。解雇を検討される場合は、早い段階から弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

 

14,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに関するサポート内容は、「労働問題に強い弁護士への相談サービス」のこちらをご覧下さい。

また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

 

15,不当解雇トラブルなど解雇に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)

不当解雇トラブルなど解雇に関するお役立ち情報について、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や「咲くや企業法務.TV」のYouTubeチャンネルの方でも配信しております。

 

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16,【関連情報】不当解雇に関する解雇のお役立ち記事一覧

この記事では、「不当解雇の慰謝料とは?認められる場合や金額の相場を解説」について詳しく説明してきました。社内で解雇トラブルが発生した際は、不当解雇かどうかの判断はもちろん、解雇を検討する初動の段階からの正しい対応方法を全般的に理解しておく必要があります。

そのためにも今回ご紹介した不当解雇に関する知識をはじめ、他にも解雇に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する解雇のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

解雇とは?わかりやすく弁護士が徹底解説【まとめ】

正当な解雇理由とは?解雇理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説

解雇制限とは?法律上のルールについて詳しく解説します

解雇の種類にはどんなものがある?わかりやすい解説

懲戒解雇とは?事例をもとに条件や進め方、手続き、注意点などを解説

普通解雇とは?わかりやすく徹底解説

整理解雇とは?企業の弁護士がわかりやすく解説

正社員を解雇するには?条件や雇用継続が難しい場合の対応方法を解説

問題社員を円満に解雇する解雇方法を弁護士が解説

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事更新日:2023年8月1日
記事作成弁護士:西川 暢春

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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
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    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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