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転勤を拒否する従業員への4つの対応!重要な注意点も解説

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  • 転勤を拒否する従業員への4つの対応!重要な注意点も解説
    • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    • この記事を書いた弁護士

      西川 暢春(にしかわ のぶはる)

      咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
    • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で300社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

    従業員に転勤を命じる転勤命令は、従業員とのトラブルが発生しやすい場面の1つです。

    転勤の拒否は、就業規則等で転勤に応じる義務が定められている会社では、就業規則違反として、懲戒処分解雇の理由になることが原則です。ただし、判例上、転勤を命じる業務上の必要性がない場合、転勤命令が不当な目的による場合、転勤による労働者の不利益が著しい場合には、転勤を命じることが違法となるとされていることに注意が必要です。

     

     

    このように判例上、転勤命令が違法となる場面があることから、従業員が転勤命令の無効を主張して会社に訴訟を起こしたり、転勤を拒否したことを理由に解雇された従業員が不当解雇であるとして会社に対して訴訟を起こすケースが多数にのぼっています。

    そして、転勤命令拒否を理由とする解雇が不当解雇と判断されると、会社は以下のように多額の金銭の支払いと解雇した従業員の雇用の継続を命じられます。

     

    判例1:
    メレスグリオ事件 東京高等裁判所平成12年11月29日判決

    転勤を拒否した従業員に対する懲戒解雇が不当解雇と判断され、3200万円を超える支払いを命じられたケース

     

    判例2:
    大阪地方裁判所平成28年2月25日判決

    転勤命令拒否による懲戒解雇は無効であるとして、会社が約270万円の支払いを命じられたケース

     

    判例3:
    フットワークエクスプレス事件 大津地方裁判所判決平成10年11月17日

    転勤拒否を理由に行った懲戒解雇は、無効であるとして、会社が約800万円の支払いを命じられたケース

     

    この記事では、労使間でトラブルになりやすい場面の1つである転勤を拒否する従業員への対応について4つの対応方法をご説明したうえで、上記のようなトラブルにならないための重要な注意点も解説します。

    この記事を最後まで読んでいただくことで、転勤を拒否する従業員に対する正しい対応手順や重要な注意点をご理解いただくことができます。

    それでは見ていきましょう。

     

    「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

    転勤命令に従わない従業員を安易に解雇すると、上記の事例のように不当解雇と判断され多額の金銭の支払いを命じられることがあります。解雇は会社にとってリスクの高い場面です。転勤命令を拒否する従業員への対応については、自己判断で進めず、できるだけ早く弁護士にご相談いただくことが必要です。

     

    ▶【参考情報】労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。

     

    ▶転勤拒否に関して、以下の関連記事もあわせてご覧ください。

    人事異動を拒否されたらどうすればいい?企業の対応を解説

     

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    1,育児や結婚、家族の事情などを理由とする転勤拒否は原則として認められない

    転勤を拒否する従業員への対応についてご説明する前に、まずは、転勤拒否に関する判例の基本的な考え方をご説明したいと思います。

     

    判例の基本的な考え方

    就業規則等で会社の転勤命令権が定められている場合は、従業員は、原則として、「家族から離れて単身赴任になる」とか、「通勤時間が長くなる」、「育児に支障が生じる」といった個人的理由で、会社からの転勤命令を拒否することはできない。

     

    このような判例の考え方は、東亜ペイント事件昭和61年7月14日最高裁判所判決で確立されました。

     

     

    このように日本では企業の転勤命令権を原則として尊重する考え方がとられているのは、以下の理由によります。

     

    理由1:

    日本では解雇による人員整理は簡単ではないため、従業員の適性や事業環境の変化にあわせて、会社が人事異動を行う権利を認めなければ、企業活動が成り立たないこと。

     

     

    理由2:

    就業規則等で会社の転勤命令権が定められていれば、従業員としても転勤があることを承諾して入社しているといえること。

     

    東亜ペイント事件以降の裁判例でも、就業規則等で会社の転勤命令権が定められている場合に、従業員が育児や結婚などの個人的理由で転勤を拒否するケースでは、裁判所は「従業員は転勤命令に従う義務がある」と判断する例が多くなっています。

    また、従業員が転勤命令を拒否したことを理由とする解雇についても、正当な解雇理由であると認めた裁判例が多くなっています。

    主な裁判例として、たとえば以下のものがあります。いずれも企業側が勝訴しています。

     

    (1)新婚早々単身赴任になることを理由とする転勤拒否事例

     

    1,川崎重工事件(最高裁判所平成4年10月20日判決)

     

    事案の概要:

    従業員が「転勤に応じれば新婚早々単身赴任となる」などと主張して、神戸から岐阜への転勤を拒否したために解雇されたケースで、不当解雇として会社を訴えた事件。

     

    裁判所の判断:

    配偶者とともに転居することも可能であり、転勤拒否による解雇は正当であると判断しました。

     

     

    (2)高齢の両親との同居を理由とする転勤拒否事例

     

    1,ザ・チェース・マンハッタン・バンク事件(大阪地方裁判所平成3年4月12日決定)

     

    事案の概要:

    70代の両親と同居している独身の従業員が、「他に兄弟がおらず、従業員が両親の唯一の扶養者であるという事情があり、かつ実母は糖尿病で通院中のため転居が困難である」として、大阪支店から東京支店への転勤を拒否した事件。

     

    裁判所の判断:

    実母の病状が特に重いというわけではなく、従業員は、単身赴任するかあるいは、東京に両親とともに転居して転勤命令に従う義務があると判断しました。

     

    (3)育児への支障を理由とする転勤拒否事例

     

    1,ケンウッド事件(最高裁判所平成12年1月28日判決)

     

    事案の概要:

    目黒区から八王子への転勤を命じられた育児中の女性従業員が、「通勤時間が長くなり、保育園への子の送り迎えができなくなる」として、転勤を拒否したため、懲戒解雇した事件。

     

    裁判所の判断:

    八王子に転居すれば子は八王子の保育園に通園することが可能であり、転勤命令に従う義務があると判断し、懲戒解雇も適法と判断しました。

     

     

    このように、裁判所も、「就業規則等で会社の転勤命令権が定められている場合は、従業員が個人的理由で会社からの転勤命令を拒否することは、原則として認められない。」という考え方をとっていますので、おさえておきましょう。

     

    2,転勤拒否に正当な理由があると認められるケースとは?

    一方で、判例は以下の場合には、従業員側に転勤を拒否する正当な理由があると認めていることに注意が必要です。

     

    • 転勤を命じる業務上の必要性がない場合
    • 転勤命令が不当な目的による場合
    • 転勤による労働者の不利益が著しい場合

     

    具体的には、以下のようなケースが該当します。

     

    (1)意に沿わない従業員を退職させることなど不当な目的による転勤命令

    会社が意に沿わない従業員を退職させる目的で遠隔地への転勤を命じたり、あるいは、会社が労働組合の活動を妨害する目的で活動の中心人物を転勤させたりといったことは許されません。

    従業員はこのような不当な目的による転勤命令を拒否することができます。

     

    (2)重度の病気や障害のある家族を介護する立場の従業員に対する転勤命令

    前述の通り、従業員は家族の病気や、育児への支障といった個人的事情で転勤を拒むことは原則としてできません。しかし、従業員側の支障の程度が特に大きく転勤が困難な事情があるときは、裁判所でも例外的に転勤命令を違法と判断しています。

    具体的には、家族に重度の病気や障害があり、その介護をしている従業員については、裁判所も従業員側の事情を考慮して転勤命令を違法と判断するケースがあります。

    転勤命令に関する企業側敗訴事例として以下で3つの裁判例をご紹介します。

     

    1,北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地方裁判所平成9年7月23日決定)

     

    事案の概要:

    妻と3人の子と同居する従業員が帯広から札幌への転勤を命じられ、これを拒否した事件。

    従業員の長女が躁うつ病、次女が精神運動発達遅延の状況にあり、また、従業員の自宅隣接地に居住する両親も足が不自由あるいは体調が不良で、従業員が農業を手伝い、両親を支えているという事情がありました。

     

    裁判所の判断:

    裁判所は、従業員の家庭の事情を踏まえると、従業員が一家で札幌に転居することも、単身赴任することも困難であり、一方で会社としては他の従業員を転勤させることが可能であったとして、会社の転勤命令は違法であると判断しています。

     

     

    2,ネスレ日本事件(大阪高等裁判所平成18年4月14日判決)

     

    事案の概要:

    老齢で徘徊癖のある母親と同居している従業員が姫路工場から霞ヶ浦工場への転勤を命じられ、これを拒否した事件。

    昼間は従業員の妻が従業員の母親の見守りや介助を行い、夜間は従業員自身が母親の見守りや介助を行っていたという事情がありました。

     

    裁判所の判断:

    従業員が単身赴任した場合には、昼夜ともに従業員の妻が従業員の母親の見守り、介助を行わなければならないが、それは実際上不可能であり、従業員が母親を連れて一家で転居することも困難であるとして、会社の転勤命令は違法であると判断しています。

     

     

    3,NTT東日本事件(札幌高等裁判所平成21年3月26日判決)

     

    事案の概要:

    老齢の両親と同じ苫小牧市内に住み、両親の介護をしていた従業員が、苫小牧から東京への転勤を命じられ、これを拒否した事件。

    従業員の父親に重度の視力障害があり、従業員の母親には左膝関節に障害があり、従業員が両親と同じ苫小牧市内に住んで、介護を行ってきたという事情がありました。

     

    裁判所の判断:

    従業員が単身赴任した場合には、従業員の妻らが両親の介護をするほかないが、従業員の妻と従業員の両親の関係からそれは困難であるうえ、従業員が両親を連れて東京に転居することも困難であるとして、会社の転勤命令は違法であると判断しています。

     

     

    このように家族や育児中の子に重度の障害や病気があり、その介護をしている従業員が、転勤を命じられることにより勤務を続けることが著しく困難になるときは、企業の転勤命令は違法であると判断されています。

     

    (3)転勤が従業員本人の病気に悪影響を与える場合

    転勤が従業員本人の病気に悪影響を与える場合も、転勤命令が違法とされるケースがあります。

    例えば、以下の裁判例があります。

     

    1,NTT西日本事件(大阪高等裁判所平成21年1月15日判決)

     

    事案の概要

    糖尿病で食事療法や運動療法が必要な従業員について、新幹線通勤または転居が必要になる転勤を命じた事件。

     

    裁判所の判断

    裁判所は「長時間の通勤によるストレスを受けるとともに,自宅で生活することのできる時間が短縮され,食事を規則正しく間隔を空けて摂ることや,運動療法に充てる時間等に,相当程度の制約を受け,また,医療機関を受診するのにも不便な状態となったものと認められる」として、転勤命令を違法であるとしています。

     

     

    3,転勤命令トラブルを防ぐための正しい転勤命令の手順

    転勤命令トラブルを防ぐための正しい転勤命令の手順

    転勤拒否に対する正しい対応をするためには、転勤命令の正しい手順を把握して実行することが必要不可欠です。

    転勤拒否者に対する対応のご説明の前提にもなる、転勤命令の正しい手順として以下の流れをおさえておきましょう。

     

    転勤命令の主な手順
    • 1,雇用契約書、就業規則の確認
    • 2,転勤の内示
    • 3,単身赴任手当、社宅の提供等の配慮を検討する
    • 4,従業員に対する説明、説得
    • 5,辞令交付

     

    以下で順番に説明していきたいと思います。

     

    (1)雇用契約書、就業規則の確認

    従業員に転勤の話をする前に、雇用契約書あるいは就業規則に「企業の転勤命令権」に関する規定があるかを確認しましょう。

    会社が従業員に対して転勤を命じることができるためには、「雇用契約書、就業規則等に転勤命令権の規定があること」が前提となります。

    例えば、雇用契約書や就業規則に下記のような規定があれば、会社には転勤命令権があると考えることができます。

     

    ▶参考例:企業の転勤命令権を定めた規定例

    『会社は、業務上必要がある場合に、配置換え、転勤または出向を命じることができ、従業員はこれを拒むことはできない。』

     

    1,就業規則は周知されているかを確認

    注意していただきたいポイントとして、「従業員に周知されていない就業規則」は裁判所で無効と判断されることがあります。

    そのため、雇用契約書に転勤命令権に関する記載がなく、就業規則のみに規定がある場合に、就業規則の周知が十分になされていないときは、転勤命令権が認められない恐れがありますので注意が必要です。

    就業規則の周知については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

     

     

    2,採用時の特別な約束の有無を確認

    雇用契約書や就業規則に転勤命令権の記載がある場合でも、採用時に転勤をさせないことや転勤を一定の範囲にとどめることを約束して採用しているケースでは、採用時の約束に反する転勤命令は違法となることがあります。

    例えば、日本レストランシステム事件(大阪高等裁判所平成17年1月25日判決)は、採用面接の際に長女の病状を述べて関西地区以外の勤務に難色を示し、関西地区における管理職候補者として現地採用された従業員について、会社が就業規則の配転命令権の規定を根拠に東京への転勤を命じた事例について、配転命令は違法であると判断しています。

    そのため、採用時に転勤を制限するような約束を従業員との間でしていないかどうかを確認することも必要です。

     

    (2)転勤の内示

    雇用契約書、就業規則で転勤命令権を確認した後に、従業員と個別に面談し、会社が転勤命令を予定していることを伝えます。

    その際に、転勤に対する従業員の意向を確認し、従業員側の個人的事情として転勤が困難な事情がないかも確認することが必要です。

    前述の通り、転勤が従業員本人の病気に悪影響を与える場合や、従業員が重度の障害や病気がある家族を介護しており転勤が困難な場合は、転勤命令が違法となりますので、これらの事情がないかを確認することが重要です。

    従業員側に転勤が著しく困難な事情があることが判明した場合は、転勤を撤回する必要があります。

    そのため、この段階では、「転勤を決定事項として伝えるのではなく、あくまで予定として伝えること」がポイントとなります。

     

    (3)単身赴任手当、社宅の提供等の配慮を検討する

    転勤にあたり、従業員の転居が必要な場合は、従業員の生活の変化の内容に応じて、会社として必要な配慮を行うことが必要です。

    具体的には、以下のような配慮を検討すべきでしょう。

     

    1,従業員が単身赴任する場合の配慮例

    • 1,生活費の負担増を考慮して単身赴任手当を支給する。
    • 2,週末の帰宅のための交通費を会社が負担する。
    • 3,単身赴任先として社宅を提供する。

     

    2,従業員が家族を連れて転居する場合の配慮例

    • 1,地方から都会への転勤の場合は、生活費の負担増を考慮して給与の増額を行う。
    • 2,転居先として社宅を提供する。

     

    裁判例の中にも、「使用者は労働者に対して転居を伴う転勤を命ずるに際しては、信義則上、労働者の不利益を軽減、回避するために社会通念上求められる措置をとるよう配慮すべき義務がある」としたものがあります。(帝国臓器製薬事件 東京地方裁判所平成5年9月29日判決)

     

    また、転勤命令に関する多くの企業側勝訴判例でも、転勤命令を適法と判断する理由の1つとして、「会社が転勤する従業員に対して一定の配慮をしていること」があげられています。

    従業員が、転勤に単身赴任する方法で応じるのか、家族を連れて転居する方法で応じるのかを確認したうえで、会社として配慮できる内容を検討しましょう。

     

    (4)従業員に対する説明、説得

    内示の後、従業員が、正当な理由なく、転勤に難色を示す場合は、会社として、転勤の必要性、転勤対象者を選定した基準等について十分な説明を行い、転勤に応じるように説得の努力を行いましょう。

    また、転勤した後の勤務条件がどのようになるのかという点も十分説明し、説得にあたる必要があります。

    従業員に説明すべき項目は具体的には以下の通りです。

     

    転勤にあたり、従業員に説明すべき項目

    • 項目1:転勤が必要となった理由
    • 項目2:転勤対象者を選定した基準
    • 項目3:転勤後の勤務場所
    • 項目4:転勤後の職務内容
    • 項目5:転勤後の勤務条件
    • 項目6:単身赴任手当、社宅の提供等、転勤にあたり会社として行うことを予定する配慮の内容
    • 項目7:転居を伴わない転勤の場合は、転勤後の通勤所要時間、通勤経路

     

    これらの項目について、まず、従業員との個別面談で説明を行い、内容を明確にするため書面でも交付しておくことが必要です。

    この「従業員への説明」については、従業員を転勤拒否を理由に懲戒解雇した事件に関する裁判例で、「会社側で転勤命令にあたり従業員に必要な説明を行っていなかったことを理由に、不当解雇と判断したケース(メレスグリオ事件 平成12年11月29日東京高等裁判所判決)」がありますので、注意が必要です。

     

    この裁判例で、裁判所は、「会社は、配転後の通勤所要時間、経路等、従業員において本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていない」と指摘しています。

    そして、裁判所は会社に従業員を復職させることを命じたうえで、従業員が解雇されていた期間中の賃金の支払いとして、冒頭でご紹介したように、「3200万円」を超える金銭の支払いを会社に命じています。

    このような裁判例もあることを念頭において、従業員への説明を十分に行うことが必要です。

     

    (5)辞令交付

    従業員に対する説明、説得をしたうえで、従業員に転勤の辞令を交付します。

    辞令は「文書で交付すること」をおすすめします。

    文書で交付することは、後日、転勤の拒否などのトラブルが発生した場合に、会社として正式に転勤命令をしたことを明確にするためにも重要です。

    辞令には、「転勤の日付」と「新しい勤務場所(住所を含む)」を明記しましょう。

     

    このように、「内示の段階での従業員側の事情の確認」と、「転勤に難色を示す従業員への説明、説得」を行った後に辞令を交付するという流れをおさえておきましょう。

     

    4,従業員が転勤を拒否する場合の4つの対応

    それでは、ここまでご説明した判例の状況や転勤命令の正しい手順を踏まえて、「従業員が転勤を拒否する場合に会社がとるべき対応」をご説明したいと思います。

    会社が十分な配慮と説明をしても、なお、従業員が正当な理由なく、転勤を拒否する場合、会社として従業員に対し、なんらかの処分をしなければならないことが多いでしょう。

    転勤を拒否する従業員を放置していたのでは、会社の転勤命令に応じる従業員がいなくなり、会社運営に支障が生じることがあるためです。

    具体的には以下の4つ対応のいずれかを検討することが考えられます。

     

    転勤命令を拒否する従業員への対応の例
    • 1,懲戒解雇処分とする。
    • 2,退職勧奨により退職してもらう。
    • 3,降格処分とする。
    • 4,従業員と話し合いの上、勤務地限定の従業員として雇用を継続する。

     

    以下で順番に説明していきたいと思います。

     

    (1)懲戒解雇処分とする

    転勤命令拒否に対して会社が行うことが想定される最も重い処分が懲戒解雇処分です。

     

    具体的な手続きの流れは以下の通りです。

     

    1,就業規則の懲戒解雇事由にあたることを確認する

    転勤命令に対する拒否が就業規則の懲戒解雇の理由として定められていることを必ず確認してください。

    判例上、懲戒解雇は、就業規則に書かれている懲戒解雇事由に該当しない限りできないことが原則です(最高裁判所平成15年10月10日判決)。

     

    2,弁明の機会を付与する

    懲戒解雇の処分については、必ず、事前に、本人に対して懲戒処分を予定していることを伝えたうえで、弁明の機会を付与し、そのうえで、懲戒解雇の処分をすることが必要です。

    弁明の機会の付与とは、懲戒処分をする前に本人の言い分を聴く機会を与える手続であり、懲戒解雇処分を正しく行ううえで非常に重要です。

    裁判例でも、懲戒免職、懲戒解雇の処分については、「懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると,特段の事情のない限り,処分の理由となる事実を具体的に告げ,これに対する弁明の機会を与えることが必要である」などとし、弁明の機会を与えずに行った懲戒解雇を無効としたものが多くなっています(京都市北部クリーンセーター事件 大阪高等裁判所平成22年8月26日判決)。

     

    3,懲戒解雇通知書を作成する

    懲戒解雇を従業員に伝える前に、解雇日や懲戒解雇理由を明記した解雇通知書を作成しておきます。

     

    4,従業員に懲戒解雇を伝える。

    従業員を個室に呼び出して懲戒解雇を伝えます。

     

    5,解雇後の手続きをする

    解雇後は、解雇対象者が雇用保険を受給するために必要になる離職票の送付や、国民健康保険への加入に必要となる資格証明書の送付をスムーズに行うことが重要です。

    これが遅れると解雇対象者とのトラブルの原因になりますので注意してください。解雇後の手続きについては以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。

     

     

    また、懲戒解雇処分の流れや注意点についての詳細も以下の記事で解説していますので併せてご参照下さい。

     

     

    (2)退職勧奨により退職してもらう

    前述の懲戒解雇は、会社からの一方的な通知により、転勤を拒否する従業員を解雇する手続です。

    転勤拒否については多くの裁判例で、懲戒解雇処分も有効とされていますが、中には以下のように、懲戒解雇が不当解雇と判断され多額の金銭の支払いを命じられているケースも存在します。

     

    判例1:
    メレスグリオ事件東京高等裁判所平成12年11月29日判決

    転勤を拒否した従業員に対する懲戒解雇が「転勤命令時の説明不足」を理由に不当解雇と判断され、会社が「3200万円」を超える支払いを命じられたケース

     

    判例2:
    大阪地方裁判所平成28年2月25日判決

    就業規則に転勤命令権の規定があるが、採用時に従業員との間で転勤をさせない旨の合意があったと認定され、転勤命令拒否による懲戒解雇は無効であるとして、会社が約270万円の支払いを命じられたケース

     

    判例3:
    フットワークエクスプレス事件 大津地方裁判所判決平成10年11月17日

    くも膜下出血で通院中の妻と知的障害者の弟と同居する従業員に単身赴任せざるを得ない転勤を命じ、それに応じないことを理由に行った懲戒解雇は、無効であるとして、会社が約800万円の支払いを命じられたケース

     

    このように、懲戒解雇は、企業にとって重大なリスクを伴います。

    そのため、転勤を拒否する従業員についても話し合いをして退職に向けた説得を行い、懲戒解雇を避けて、合意による退職を実現することが重要です。

    従業員を退職に向けて説得し、合意による退職を目指すことは「退職勧奨」と呼ばれます。

    転職拒否者に対する退職勧奨では、転職を拒否する従業員に対し、再度、会社として転勤の制度が必要な理由や、個人的な事情で転勤を拒否できないことを説明し、会社の転勤命令に従えないのであれば退職するべきことを伝え、説得することになります。

    また、転勤命令後も従業員が異動先に出勤しないときは、以後の給与は支給せずに、退職に向けた話し合いを行うことが適切です。

    退職勧奨の具体的な進め方については、以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。

     

     

    (3)降格処分を行う

    従業員に対して退職まで求める必要がないと判断する場合でも、特に役職者が転勤命令を拒否する場合には、社内でけじめをつける意味で、降格等の処分を行うことが考えられます。

    降格については、懲戒処分としての降格と、会社の人事権行使としての降格の2つがあり、それぞれ適用されるルールが異なります。

     

    懲戒処分としての降格

    懲戒処分としての降格は、企業が転勤という業務命令に違反した従業員に対して、制裁として降格の処分を科すことを意味しています。

     

     

    会社の人事権行使としての降格

    これに対して、会社の人事権行使としての降格は、転勤を拒否する従業員を役職にとどめることは適切ではないという会社の判断から、役職を下げることを意味します。

     

    どちらも役職を引き下げるという意味では同じですが、懲戒処分としての降格についてはその適法性について厳格な基準で判断されるのに対し、人事権行使としての降格は誰を役職者とするのが適切かという点についての会社の判断が尊重される傾向にあり違法になりにくいという違いがあります。

    降格された従業員が降格処分が違法であるとして会社に対して訴訟を起こすこともありますので、企業のリスクを避ける意味では、違法になりにくい人事権行使としての降格を採用することが適切なことが多いです。

     

    (4)従業員と話し合いの上、勤務地限定の従業員として雇用を継続する

    転勤については、共働き世帯の増加にともなって、見直しが必要になってきていることも事実です。

    転勤に応じることができないことのほかは、特段の問題がない従業員が転勤を命じられたことをきっかけに退職してしまうことは会社にとっても損失です。

    この点については、平成29年3月厚生労働省から「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」が公開されており、その中で、「育児や介護等の事情がある従業員について転勤を免除する仕組みを検討すること」や「転勤のない雇用区分を設けること」なども提言されています。

     

     

    転勤については、今後、家庭生活との両立という観点からの見直しを加えていくことが、人材の確保という観点から重要になってくると考えられますので、従業員と話し合いの上、給与を減額するなど勤務条件を引き下げることを合意したうえで、勤務地限定の従業員として雇用を継続することも検討するべきです。

     

    5,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「転勤命令拒否の場面でこんなサポートができます」

    咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

    最後に咲くやこの花法律事務所における企業向けサポート内容をご説明したいと思います。

    咲くやこの花法律事務所では、企業の経営者、担当者から以下のご相談、ご依頼を承ってます。

     

    • 転勤命令の進め方についてのご相談
    • 転勤命令を拒否する従業員への対応方法に関するご相談
    • 転勤命令を拒否する従業員への弁護士による懲戒手続きの実施
    • 転勤命令を拒否する従業員への退職勧奨や解雇の際の面談の立ち合い
    • 転勤困難者の雇用を継続するための勤務地限定従業員の雇用区分について制度設計

     

    企業の転勤命令については、この記事でも解説したように、判例上、制約を受ける場面も多く、転勤命令の拒否に対して解雇や懲戒処分を行うことについては慎重な判断が必要です。

    対応を誤ったり、説明が不十分であると、後日、不当な懲戒処分、不当な解雇であるとして訴訟を起こされ、裁判所で多額の支払を命じられるリスクがあります。必ず、弁護士にご相談いただいたうえで、方針を決めていただくことをおすすめします。

    また、転勤を拒否する従業員に対して、実際に、懲戒処分をしたり、あるいは退職勧奨や解雇を進める際は、問題社員対応に強い弁護士が立ち会うことで、自信をもって、間違いのない手続ですすめることが可能です。

     

    ▶参考情報:問題社員対応に強い弁護士への相談はこちらをご参照ください。

     

    咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に強い弁護士へのご相談料

    ●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

     

    6,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

    問題社員の対応でお困りの企業様は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の「労働問題に強い弁護士」がサポートさせていただきます。

    今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

    【お問い合わせについて】

    ※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

    「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

     

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    記事作成弁護士:西川暢春
    記事更新日:2021年03月25日

     

     

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