こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
残業時間の計算についてお困りではないでしょうか。
労働基準法では残業時間のうち時間外労働・休日労働について上限が設けられています。時間外労働は1年に720時間まで、単月では休日労働とあわせて100時間未満までという上限を超えて残業させることは違法です(労働基準法36条5項、6項)。違反した事業者は罰則の対象になります。また、時間外労働に対する割増賃金の支払いも義務付けられています(労働基準法37条1項)。こちらも違反した場合は罰則の対象になります。
このような残業時間の上限規制や割増賃金の支払いに適切に対応するには、まず、残業時間を正確に計算する必要があります。
今回は、残業時間の定義や残業時間の計算方法やエクセルや計算ツールを利用した場合の注意点について詳しく解説します。フレックスタイム制や変形労働時間制などの勤務形態でも残業時間を正しく計算できるよう、順番にみていきましょう。
咲くやこの花法律事務所では、残業時間の計算や残業規制への対応、未払残業代請求トラブルの解決について、事業者側の立場に立った専門的なサポートを提供しています。お困りの際はぜひ御相談ください。
▶参考情報:労働問題・労務の事件や裁判の「解決事例」
※この記事内で紹介している労働基準法の根拠条文については、以下をご参照ください。
▼残業時間の計算について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
1,残業時間とは?
残業時間とは、所定労働時間を超えて労働した時間のことをいいます。この所定労働時間とは、就業規則等で定める始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間のことです。残業時間には、時間外労働や休日労働にあたる部分と、1日8時間、週40時間を超えない範囲内で行われる「法内残業」があります。
労働基準法は、1日8時間、週40時間を法定労働時間と定め、法定労働時間を超える労働を「時間外労働」と呼んでいます(労働基準法32条)。また、労働基準法は毎週1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与えることを義務付けており、これは法定休日と呼ばれます。この法定休日における労働は「休日労働」と呼ばれます。
一方、例えば1日7時間を所定労働時間と定めている場合など、「法定労働時間」より「所定労働時間」が短い場合に、所定労働時間を超えて法定労働時間の範囲で残業した時間を「法内残業」といいます。
時間外労働・休日労働も法内残業も、いずれも残業ですが、労働基準法で割増賃金の支払いや上限規制が設けられているのは時間外労働と休日労働です。法内残業については割増賃金の支払いは義務付けられておらず、上限規制も対象外です。
そのため、時間外労働、休日労働と法内残業は分けて考える必要があります。
▶参考情報:割増賃金の支払義務や残業の上限規制については以下で解説していますのでご参照ください。
2,残業時間の計算方法
残業時間を計算するには、まず、その日の労働時間を計算します。始業時刻から終業時刻までの時間を計算し、そこから休憩時間を差し引いた時間がその日の労働時間となります。
その日の労働時間のうち、所定労働時間を超え、法定労働時間の範囲内の部分は法内残業の時間です。一方、法定労働時間を超える部分は時間外労働の時間になります。
所定労働時間が法定労働時間と同じ1日8時間、週40時間の場合は、法内残業は発生しません。
例えば、所定労働時間9~18時(土日祝休み)の従業員の1週間の残業時間を計算してみましょう。以下は水曜日に有給休暇を取得した場合を想定した例です。
▶参考:従業員の1週間の残業時間の計算例
この従業員のケースでは、法内残業が7時間、法定時間外労働が1時間50分、深夜労働が1時間、休日労働が10時間となります。
3,運送業の手待ち時間は残業時間に含まれるのか?
労働者が実作業に従事していないものの使用者から指示があった場合にすぐに作業に取り掛かれる状態で待機することが義務付けられている時間のことを手待ち時間といいます。運送業のトラック運転手が、荷物の積み下ろし待ちや配送先の台数の制限による順番待ちをしている時間は、通常はこの「手待ち時間」にあたります。
そして、労働基準法の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいいます(三菱重工長崎造船所事件・最高裁判所平成12年3月9日判決)。つまり、作業をしていない手待ち時間であっても、会社の指揮命令下に置かれていると客観的に認められる場合は労働時間に含まれます。そのため、作業開始時刻が決まっておらず、使用者から指示があったときにすぐに作業を始められるよう待機していなければならない手待ち時間は労働時間にあたります。
通達においても「定期路線貨物業者において、トラック運転のほか貨物の積卸を行わせることと し、出発時刻の数時間前に出勤を命じているような場合において、荷物の積込み 以外全く労働の提供がない場合でも、当該手待時間は労働時間であること。また、 トラックの運転を二人体制とし、往路と復路で運転者を交代させる場合に、万一 事故発生の際は交代運転、故障修理を行うものであるので、交代運転手の乗降時間も労働時間である。」とされています(昭 33.10.11 基収第 6286 号)。
労働時間にあたるかどうかが問題になるケースは運送業以外の業種でも発生します。
例えば、制服への着替え時間や自宅に持ち帰って残業した時間、自己研鑽の時間などがその典型例です。残業時間を正しく把握するためには、これらの時間が労働時間かどうかを正しく判断する必要があります。
▶参考情報:労働時間にあたるかどうかの判断については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
4,エクセル(Excel)やGoogleのスプレッドシートで計算する場合
従業員の残業時間を計算する方法として、エクセル(Excel)やGoogleのスプレッドシートで作成した勤怠管理のシートを使うという方法があります。
会社のパソコンにエクセル(Excel)がインストールされていれば、初期費用なしで簡単に導入することができます。エクセル(Excel)やスプレッドシート等を使用して、自社の就業規則に合わせた計算シートを作成すれば、手計算よりも速く正確に残業時間を計算することが可能になります。
サンプルとして、固定労働時間制に対応した勤怠管理表のExcelテンプレートを作成しましたので、ご参考にしてみてください。
(1)参考:固定労働時間制に対応した「勤怠管理表テンプレート」(エクセル版)
・「勤怠管理表テンプレート」(エクセル版)ダウンロードはこちら
※本ファイルはあくまでサンプルです。実際の利用にあたっては、所定労働時間や法定休日等を踏まえた調整が必要です。本ファイルの利用に関しては一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
1.勤怠管理表テンプレートの使い方
- ①まず、A1セルに年月を、U1セルに勤怠管理する従業員の氏名を入力します。
- ②次に、A列の日付をB列の曜日に合わせて整え、その月のカレンダーを完成させます。
※なお、このテンプレートは1週間の労働時間の起算曜日を日曜日にしています。
※起算曜日が日曜以外である場合は、曜日も修正しましょう。 - ③休日を指定しましょう。
※C列に法定休日、所定休日を選択できるようにしています。 - ④D列に所定労働時間を入力します。これで1か月分の勤怠管理表が完成です。
- ⑤E列に始業時刻、F列に終業時刻、G列に休憩時間を正確に入力していきます。
※自動的に労働時間、法内残業、法定時間外労働、深夜労働、休日労働の時間が計算されます。
※なお、このテンプレートは休憩は5時から22時までの間に取ることを想定しています。深夜労働の時間帯に休憩する場合は、関数を修正する必要があります。 - ⑥最下行に1か月の合計時間がそれぞれ自動で計算されます。
※このテンプレートでは時間外労働、深夜労働、休日労働の合計時間にまるめ処理を適用していない単純な合計時間です。まるめ処理を適用する場合は、端数を四捨五入できるように修正しましょう。
※また、週の途中で月をまたぐ場合、前月の数字を入力することで、その週の労働時間が40時間を超えた分について計算することができます。ただし、その場合、合計労働時間などにも他の月の時間数が加算されてしまいますので、注意が必要です。
ここではシンプルな形式の勤怠管理表をご紹介しました。法定休日や所定休日にも日付をまたいで勤務することがある場合は、計算式を修正する必要が生じます。
エクセル(Excel)やGoogleのスプレッドシートを利用する場合、関数式に誤りがあると残業時間が正しく計算できません。エクセル(Excel)を使用して勤怠管理を行う場合は、テンプレートの設計に誤りがないようにしっかり確認することが重要です。
インターネット上には様々なウェブサイトで勤怠管理に使える形式のテンプレートが公開されていますので、自社のニーズに合ったものを探して活用してみると良いでしょう。
5,アプリやサイト上の無料ツールで計算する場合
固定労働時間制で休憩時間も決まっている場合など、単純な勤務形態の場合は上で説明したようにエクセル(Excel)やGoogleのスプレッドシート等で残業時間を計算することができます。一方、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制や、変形労働時間制を採用していたり、管理の必要な従業員の数がかなり多かったりすると、エクセル(Excel)等で勤怠管理することが難しく感じることがあるでしょう。
勤務形態が複雑になると、計算用のシートを正しく作成することがまず難しくなります。
また、エクセル(Excel)に詳しい担当者がシートを作成したものの、担当者の退職後に会社の就業ルールが変わったときにシートを適切に修正できる者がいない、というような事態に陥るなどのリスクもあります。多数の従業員をエクセル(Excel)で管理していてエクセルの計算シートに誤りが発覚した場合、修正するのにも非常に労力がかかります。
そこで、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制や変形労働時間制などの複雑な勤務形態を採用している企業や従業員数の多い企業で、エクセル(Excel)やGoogleのスプレッドシートでの勤怠管理に不安がある場合は、アプリなどによる勤怠管理システムの導入を検討することをおすすめします。
勤怠管理システムとは、アプリやウェブサイト上のツールで、従業員の始業時刻や終業時刻など必要な情報を入力すると、自動的に労働時間や残業時間などを計算して記録してくれるシステムのことです。
大半の勤怠管理システムは有料サービスですが、無料の試用期間を設けている業者も多いので、それらを利用して使いやすいサービスを探すのが良いでしょう。
6,残業時間の計算の注意点
残業時間を正確に計算できていないと、気付かないうちに残業の上限規制に違反してしまったり、未払い残業代が生じたりしてしまいます。正しく計算するために注意すべき点について確認しましょう。
(1)15分単位や30分単位ではなく原則として1分単位で計算する
労働基準法24条1項で「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定められていることから、労働時間は1分単位で計算することが原則です。これを「賃金全額払いの原則」と言います。
▶参考情報:労働基準法24条については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
労働時間を15分や30分などのまとまった時間で区切り、端数を切り捨てることは原則として違法です。違反した場合、30万円以下の罰金という刑事罰も設けられています(労働基準法120条1号)。残業時間も原則として1分単位で計算しなければなりません。
ただし、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間の計算には、事務を簡便化する目的から例外として端数のまるめ処理が認められています。
ここでいう端数のまるめ処理とは、1か月における時間外労働、休日労働および深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることです(▶参考情報:「昭和63年3月14日付通達 基発第150号「労働基準法関係解釈例規について」(pdf))。このように1か月単位で集計した時間についての切り捨て、切り上げは認められていますが、1日ごとに端数を切り捨てるなどの処理は認められていません。
(2)休憩時間は残業時間に含まない
労働基準法は、使用者は、労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を労働時間の途中で与えなければならないと定めています(労働基準法34条1項)。
休憩時間は労働時間には含まれないので、労働時間や残業時間を計算する際には、休憩時間を除いて計算することになります。
残業によって労働時間が増えた場合、与えなければならない休憩時間の長さが変わるときがあるので注意が必要です。
参考例:週休2日制で所定の勤務時刻が9時~17時(所定労働時間:7時間15分、休憩時間:45分間)の労働者が、19時まで残業する場合
残業によって1日の労働時間が8時間を超えるため、追加で15分間以上の休憩を与えることが必要です。17時から19時までの間に15分間の休憩を与えた場合、残りの1時間45分が残業時間となります。
このうち、時間外労働と法内残業の時間は、それぞれ以下の計算のとおりです。
●時間外労働:
この日の総労働時間 = 所定労働時間 7時間15分 + 残業 1時間45分 = 9時間
9時間-法定労働時間 8時間 = 1時間
●法内残業:
法定労働時間 8時間-所定労働時間 7時間15分 = 45分間
休憩時間のルールについては以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(3)遅刻や早退は、その日の労働時間から差し引いて残業代を計算する
遅刻した場合は、その日の労働時間から遅刻分を差し引いて残業時間を計算します。
参考例:所定の勤務時間が9時から18時まで(休憩1時間)の労働者が、1時間遅刻して19時以降まで残業した場合
●19時まで残業した場合
その日の労働時間(19時-9時-休憩1時間)-遅刻1時間=8時間
→この場合、1日の労働時間が所定労働時間と同じ8時間なので、残業代は発生しません。
●20時まで残業した場合
その日の労働時間(20時-9時-休憩1時間)-遅刻1時間=9時間
9時間-法定労働時間8時間=時間外労働1時間
→この場合、時間外労働1時間分の残業代(割増賃金)の支払いが必要です。
なお、遅刻についても、労働時間と同様に1分単位で計算します。遅刻時間を切り上げ処理して、例えば1時間50分遅刻した場合に2時間遅刻と扱うことはできませんので注意しましょう。
7,固定労働時間制以外の勤務形態の場合の残業時間の計算方法
ここまで1日8時間以内、週40時間以内の法定労働時間をベースとした働き方である固定労働時間制(固定時間制)での残業時間の計算について説明してきました。
昨今は勤務形態の多様化が進んでおり、就業規則や労使協定で定めることによって、固定時間制だけではなく、フレックスタイム制や変形労働時間制などの様々な労働時間制度を導入することができます。
主な制度ごとに残業時間の計算方法について見ていきましょう。
(1)フレックスタイム制の場合
フレックスタイム制とは、あらかじめ定めた一定の期間(「清算期間」といいます)に、一定の時間数働くことを雇用契約の内容とし、労働者が⽇々の始業時刻・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることができる制度です。労働基準法32条の3により認められています。
フレックスタイム制を採用した場合、1⽇8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働しても、ただちに時間外労働とはなりません。以下では、清算期間が1か月以下のフレックスタイム制と、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制に分けて、時間外労働時間の計算方法をご説明します。
ア:清算期間が1か月以下の場合
清算期間が1か月以下の場合、まず、「清算期間における法定労働時間の総枠」を次のとおり計算します。
清算期間における法定労働時間の総枠=
1週間の法定労働時間(40時間)× 清算期間の暦⽇数/7⽇
そのうえで、清算期間中のこの枠を超えた時間数が時間外労働の時間数になります。
具体的な例をあげて時間外労働の時間数を計算してみると以下の通りです。
参考例1
- 清算期間 4月1日~4月30日
- 実労働時間 220時間の場合
●清算期間における法定労働時間の総枠=
1週間の法定労働時間40時間 × 清算期間の暦日数30日/7日 =171.4時間
●時間外労働の時間数=
清算期間の実労働時間190時間 - 清算期間の法定労働時間の総枠171.4時間 =48.6時間
イ:清算期間が1か月を超える場合
フレックスタイム制の清算期間は3か月を上限として設定することができます。ただし、清算期間が1か月を超える場合には、清算期間中の実労働時間が清算期間の法定労働時間の枠内におさまっていても、1か月ごとに週平均50時間を超えた労働時間は時間外労働になるというルールが設けられています(労働基準法32条の3第2項)。そのため、時間外労働の時間の計算方法がやや複雑になります。
清算期間が1か⽉を超える場合の時間外労働の計算手順は以下のとおりです。
①清算期間の最終月以外
その月の実労働時間が 週平均50時間を超過しているかどうかを確認する。
・超過している場合、超過時間をその月の時間外労働としてカウントする。・・A
②清算期間の最終月
最終月の実労働時間が 週平均50時間を超過しているかどうかを確認する。
・超過している場合、超過時間を最終月の時間外労働としてカウントする。・・B
③ 清算期間を通じた総実労働時間から1か月ごとの週平均50時間を超過した時間の合計(A+B)を差し引いた時間が、清算期間における法定労働時間の総枠を超過しているかどうかを確認する。
・超過している場合、超過時間を最終月の時間外労働としてカウントする。・・C
最終月の時間外労働の時間数は、「B」と「C」の合計になります。
具体例をみてみましょう。
参考例2
- 清算期間:4月1日~6月30日
- 実労働時間:4月 220時間、5月150時間、6月190時間 合計560時間の場合
①4月の時間外労働の時間数:
週平均50時間となる1か月ごとの労働時間 = 50時間 × 4月の暦日数30日/7日 = 214.2時間
4月の実労働時間220時間 - 214.2時間 = 5.8時間
・4月の時間外労働は5.8時間
②5月の時間外労働の時間数:
50時間 × 5月の暦日数31日/7日 = 221.4時間
5月の実労働時間150時間 < 221.4時間 なので、
・5月の時間外労働はなし
③6月の時間外労働の時間数:
50時間 × 6月の暦日数30日/7日 = 214.2時間
6月の実労働時間190時間 <214.2時間 なので週平均50時間を超過する時間外労働はなし
清算期間を通じた総実労働時間560時間 - 1か月ごとの週平均50時間を超過した時間の合計
=560時間 - 5.8時間 =554.2時間
清算期間における法定労働時間の総枠=
1週間の法定労働時間40時間 × 清算期間の暦日数91日/7日 =520時間
554.2時間 - 清算期間の法定労働時間の総枠520時間 = 34.2時間
・6月の時間外労働は34.2時間
フレックスタイム制における時間外労働の計算方法は、以下の厚生労働省のリーフレットも参照してください。
(2)変形労働時間制の場合
変形労働時間制とは、一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です(労働基準法32条の2、32条の4、32条の5)。変形労働時間制の場合は、あらかじめ定められた所定労働時間を超える労働が毎日の残業時間となります。一方、残業時間のうち時間外労働の時間数の計算方法はやや複雑です。
以下では、1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の変形労働時間制のそれぞれについて、時間外労働の時間数の計算方法をみていきましょう。
1,1か月または1年単位の変形労働時間制
時間外労働の時間数は1日ごと、1週間ごと、対象の変形期間(1か月または1年)ごとに、それぞれ計算します。
●1日の時間外労働の計算方法
・所定労働時間を8時間を超える時間に設定している日の時間外労働=
その日の実労働時間 - その日の所定労働時間
・所定労働時間を8時間以内に設定している日の時間外労働=
その日の実労働時間 - 8時間
●1週間の時間外労働の計算方法
・所定労働時間を週40時間を超える時間に設定している週の時間外労働=
その週の実労働時間 - その週の所定労働時間
・所定労働時間を週40時間以内に設定している週の時間外労働=
その週の実労働時間 - 40時間
ただし、1日ごとの基準ですでに時間外労働として算定済みの時間は除外します。
●対象変形期間(1か月または1年)の時間外労働の計算方法
・対象変形期間の時間外労働=
対象期間中の実労働時間 - 対象期間の上限労働時間
ただし、1日ごと、1週間ごとの基準で時間外労働として算定済みの時間は除外します。
この上限労働時間の計算方法は次のとおりです。
上限労働時間=40時間 × 対象期間の暦日数/7日
変形労働時間制における時間外労働の計算方法は以下もご参照ください。
2,1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制では、週の所定労働時間を40時間以下になるように定めます。
40時間を超えて労働させた時間が時間外労働となります。
(3)裁量労働制の場合
裁量労働制とは、実際の勤務時間を個人の裁量に任せ、実際の勤務時間にかかわらずあらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。企画業務型裁量労働制と専門業務型裁量労働制の2種類があります。
このうち企画業務裁量労働制では労使委員会において決議された時間がみなし労働時間となります(労働基準法38条の4第1項)。一方専門業務型裁量労働制では、労使協定でみなし労働時間を定めることが通常ですが、労使委員会の決議によりみなし労働時間を定めることもできます(労働基準法38条の3第1項、労働基準法38条の4第5項)。
たとえば、1日のみなし労働時間を9時間と定めた場合、実際の労働時間にかかわらず1日あたり1時間の時間外労働が発生することになります。
裁量労働制については以下の厚生労働省のホームページもご参照ください。
▶参考情報:厚生労働省「裁量労働制の概要」
8,残業時間の労務管理について弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では残業時間の計算をめぐるトラブルや従業員から未払い残業代を請求されるトラブルの解決について事業者側からのご相談をお受けし、事業者向けに専門的なサポートを提供してきました。以下で咲くやこの花法律事務所におけるサポート内容をご紹介します。
(1)残業時間の計算についてのご相談
咲くやこの花法律事務所では、残業時間の計算に不安のある企業からご相談を承っています。事務所は、労務問題について企業からのご相談を長年お受けしており、事務所内にこの分野のノウハウ、経験が蓄積されています。現行の残業規制への対応についても労務問題に強い弁護士がご相談を承ります。
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▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の未払い残業代トラブルに関するサポート内容や解決実績については以下もご参照ください。
(3)顧問弁護士サービスによるサポート
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▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下の動画もご参照ください。
(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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9,まとめ
今回の記事では、残業時間の計算方法についてご説明しました。
残業時間には、「時間外労働」、「休日労働」と「法内残業」があります。法定労働時間を超えた労働時間が「時間外労働(法定外残業)」で、法定労働時間の範囲内ではあるものの所定労働時間を超えた労働時間を「法内残業」です。時間外労働は割増賃金の支払いが必要であったり、上限規制が設けられていたりするので、法内残業とは分けて正しく時間を管理する必要があります。
残業時間を計算するときは、まず、その日の労働時間から計算します。休憩時間は労働時間には含まれません。また、計算は15分単位や30分単位ではなく原則として1分単位で行います。
清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制や変形労働時間制などの勤務形態を導入している場合は、残業時間の計算が複雑になってきますので、勤怠管理システムのアプリやウェブツールなどを導入してみることも有効です。
咲くやこの花法律事務所でも、残業時間の計算、その他労務管理全般について企業からのご相談をお受けしていますので、お困りの際はぜひご利用ください。
10,【関連】残業時間に関するその他のお役立ち記事
この記事では、「残業時間の計算方法とは?エクセルやツールでの計算の注意点について」について、わかりやすく解説しました。残業時間など残業に関する労務管理ついては、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連する残業のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・残業代とは?労働基準法のルールや計算方法、未払いのリスクについて
・固定残業代(みなし残業代)とは?導入メリットや計算方法・注意点を解説
・新しい残業規制とは?残業の上限と違反時の罰則について解説!
記事作成日:2024年11月26日
記事作成弁護士:西川 暢春
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