みなさん、こんにちは。咲くやこの花法律事務所、弁護士の西川暢春です。
固定残業代とは、毎月の残業時間にかかわらず、定額の残業代を支払う制度をいいます。企業によって、みなし残業代、固定残業手当、みなし残業手当、定額残業代など様々な名称がつけられています。固定残業代はあくまで見込み額を支給するものですので、実際の残業時間に応じて計算した残業代が固定残業代の額を超えた場合は、企業はその超過額を支払う必要があります。
就業規則や賃金規程を改訂し、固定残業代(みなし残業代)の制度を設ける会社が増えています。
しかし、就業規則や賃金規程で固定残業代(みなし残業代)を設けていたのに、裁判所がこれを認めず、企業が多額の残業代の支払いを命じられるケースが相次いでいます。
たとえば、以下のような事例です。
事例1:サン・サービス事件(名古屋高等裁判所判決令和2年2月27日)
ホテル経営会社が設けていた固定残業代制度が裁判では認められず、残業代約577万円の支払いを命じられたケース
事例2:洛陽交運株式会社事件(大阪高等裁判所判決平成31年4月11日)
タクシー会社で設けていた固定残業代制度が裁判では認められず、残業代等約231万円の支払いを命じられたケース
事例3:リンクスタッフ事件(東京地方裁判所判決平成27年2月27日)
人材紹介会社で設けていた固定残業代制度が裁判では認められず、残業代等約770万円の支払いを命じられたケース
事例4:狩野ジャパン事件(長崎地方裁判所大村支部判決令和元年9月26日)
麺の製造などを事業とする会社で設けていた固定残業代制度が裁判では認められず、残業代等約261万円の支払いを命じられたケース
このように、固定残業代(みなし残業代)は、きちんとした制度設計をしなければ、従業員から未払い残業代の請求を受けたときに、企業は多額の残業代支払いを命じられることになります。
今回は、固定残業代(みなし残業代)を導入する際に必ず確認しておいていただきたい注意点や固定残業代の計算方法についてご説明します。
※この記事は残業代に関する「国際自動車事件最高裁判所判決(令和2年3月30日)」や「日本ケミカル事件最高裁判所判決(平成30年7月19日)」を踏まえたものです。
固定残業代(みなし残業代)を導入する際には、常に「裁判所で認められる内容になっているか」を確認することが必要です。
未払い残業代問題の裁判対応を常時行っている弁護士であれば、裁判で争われたときの裁判所の着眼点や企業側の守り方を知り尽くしており、最新の判例の傾向にあった裁判所でも通用する固定残業代(みなし残業代)を制度化することが可能です。
▶参考情報:残業や残業代に関する労働基準法のルールなど基本的な知識について詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。
・労働基準法における残業とは?残業時間の上限など時間外労働のルールを解説
・残業代とは?労働基準法のルールや計算方法、未払いのリスクについて
▶関連動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が「固定残業代制度の注意点について」について詳しく解説しています。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,固定残業代とは?
固定残業代とは、毎月の残業時間にかかわらず、定額の残業代を支払う制度をいいます。本来、残業代は実際の残業時間をもとに、毎月計算して支払うことが原則ですが、企業によっては毎月固定額としたほうが管理がしやすいなどのメリットがあることがあります。
そういった場合に、毎月、固定額を見込み額として支払うのが固定残業代(固定残業手当)の考え方です。実際の残業時間に応じて計算した残業代が固定残業代の額を超えた場合は、企業はその超過額を支払う必要があります。
(1)みなし残業代との違い
みなし残業代という用語には明確な定義がありませんが、実際の残業時間にかかわらず一定時間残業したものとみなすことにより、超過分を支払わない制度という意味で使用されることもあります。
つまり、「固定残業代」は、超過した場合は超過分を支払う制度であるのに対し、「みなし残業代」は、「〇時間就業した」などと「みなす」ことにより、超過分を支払わない制度という意味で使われることがあります。
このような超過分を支払わないタイプの「みなし残業代」制度は、「裁量労働制」や「事業場外みなし労働時間制」等、実際の労働時間にかかわらずあらかじめ労使間で取り決めた時間を労働時間とみなすことが労働基準法上認められている場面でのみ採用が可能であり、適用可能な範囲がきわめて限定されています。
「裁量労働制」については、デザイン考案や新商品の研究開発、情報システムの設計など限定された専門的業務に従事する従業員に対してのみ、労使協定を締結して適用することが可能ですし、「事業場外労働のみなし労働時間制」はテレワークなどの限定的な場面でのみ適用が可能です。
このような労働基準法上認められた場面以外で、実際の残業時間にかかわらず一定時間残業したものとみなすことにより、超過分を支払わない「みなし残業代」の制度を採用することは違法であることに注意が必要です。
裁量労働制や事業場外みなし労働時間制については以下もご参照ください。
過去の最高裁判所判決でも、固定残業代の制度自体は合法であるとされています。
・参考情報1:国際自動車事件最高裁判所判決(令和2年3月30日)
・参考情報2:日本ケミカル事件最高裁判所判決(平成30年7月19日)
2,固定残業代(みなし残業代)導入のメリットとデメリット
固定残業代(みなし残業代)導入のメリットとデメリットとしては以下の点があげられます。
(1)メリットについて
1,求人広告を出す際に給与が高いことをアピールしやすい
たとえば、初任給が20万円で残業代が月に5万円くらい発生することが通常の会社の場合の求人を例に考えてみましょう。
この場合、もし、固定残業代やみなし残業代がなければ、「月給20万円(別途残業代支給)」として求人することになります。しかし、残業代の見込み額を固定残業代とすることによって、「月給25万円(基本給20万円、固定残業代5万円)」という内容で求人を出すことができます。
このような求人の出し方をすることにより給与が高い会社であることをアピールしやすいというメリットがあります。
2,未払い残業代問題を解決できる
いままで残業代を支払っていなかった企業が、残業代請求に対する対策のため、固定残業代(みなし残業代)の制度を利用するケースも多くみられます。
たとえば、基本給40万円の従業員について、給与の内訳を「基本給30万円、固定残業代10万円」と変更することによって、いままでの人件費の枠内で、残業代の不払いを解消しようとするケースです。
この場合、人件費を増やさないまま、未払い残業代問題を解決できるという点がメリットになります。
なお、この方法は基本給の減額を伴うことになる点が重要な注意点ですが、その点については後述します。
(2)デメリットについて
固定残業代制度やみなし残業代制度の導入のデメリットは、正しい制度設計をしたうえで正しい運用をしなければ、裁判所で残業代の支払いと認めてもらえないリスクがある点です。
冒頭で裁判例をご紹介した通り、就業規則や賃金規程で固定残業代やみなし残業代を設けていたのに、裁判所がこれを残業代支払いとは認めず、企業が多額の残業代の支払いを命じられるケースが相次いでいます。
裁判所で認められなければ、支給していた固定残業代やみなし残業代が基本給と同じように扱われ、残業代の単価を増やすだけの結果になります。
このように、固定残業代やみなし残業代は正しく制度設計しなければ、未払い残業代問題の解決どころか、むしろ未払い残業代を増やすだけの結果になるという重要な注意点があります。
このようなデメリットに陥らないようにするためには、固定残業代やみなし残業代の導入時に、労務問題について経験豊富な弁護士に相談して、就業規則や賃金規程を整備しておくことが重要です。
就業規則の作成については以下をご参照ください。
▶参考情報:就業規則の作成について!詳しい作り方や作成料金を弁護士が解説
また、もう1つのデメリットして、固定残業代やみなし残業代は、実際に残業代が発生したかどうかを問わずに支払うことになるので、企業の人件費負担を増加させる側面もあるということも踏まえておく必要があります。
3,ホワイト企業における導入事例
固定残業代やみなし残業代は、従業員の立場から見た場合、残業をしてもしなくても残業代が支給される制度です。
そのため、仕事をできるだけ早く終わらせ残業なしで退社しようという動機づけになり、仕事の効率化につながる場合があります。
このような仕事の効率化を目的として、優良なホワイト企業において、導入されるケースもあります。
例えば、2017年にはトヨタ自動車が30代の係長クラスを対象に、仕事の効率化を目指す目的で固定残業代制度を導入した事例があります。
報道では、残業時間にかかわらず、45時間分の残業代に相当する額を固定残業代として支払う内容とされています。
4,固定残業代(みなし残業代)の計算方法【45時間分はいくらになる?】
次に固定残業代(みなし残業代)の計算方法についてご説明したいと思います。
以下では、例として、月給制の従業員について、45時間分の固定残業代あるいはみなし残業代がいくらかということを計算する方法について見ていきたいと思います。
(1)まず、年間の所定労働日数を確認する
月給制の従業員について残業代の計算をする際には、月の平均所定労働日数(出勤日の数)を使用します。
「平均」の所定労働日数を採用するのは、月によって、土曜日日曜日の並びや祝日の有無などにより、出勤日の数が異なるためです。
そして、月の平均所定労働日数は、年間の所定労働日数を確認したうえで、12で割ることによって計算することができます。
年間の所定労働日数÷12=月の平均所定労働日数
(例)年間所定労働日数が252日の場合
252日÷12=21日
(2)次に、1時間あたりの賃金額を計算する
月給額を月の平均所定労働日数で割り、さらに1日の所定労働時間数で割ることにより、1時間あたりの賃金額を計算します。
この際、「家族手当」、「通勤手当」、「住宅手当」、「賞与」については、月給額に含めないで計算します(参照:労働基準法施行規則第21条)。
(例)月給40万円うち家族手当5万円、月の平均所定労働日数が21日、1日の所定労働時間8時間の場合
(40万円-5万円)÷21日÷8時間=2084円
ただし、厚生労働省の通達により、「家族手当」、「通勤手当」、「住宅手当」の支給内容によっては、これらの手当も月給額に含めて計算しなければならないケースもあります。
家族手当 | 残業代計算から除外できる場合 | 扶養家族の人数に応じて支給している場合 |
家族手当 | 除外できない場合 | 扶養家族の人数に関係なく、一律支給している場合 |
通勤手当 | 残業代計算から除外できる場合 | 通勤の費用に応じて支給している場合 |
通勤手当 | 除外できない場合 | 通勤の費用や距離にかかわらず、一律に支給している場合
(例)一律に1日あたり300円を支給 |
住宅手当 | 残業代計算から除外できる場合 | 家賃や住宅ローンなど住宅に要する費用に定率を乗じた計算式で支給している場合 |
住宅手当 | 除外できない場合 | 住宅の形態ごとに一律に定額支給している場合
(例)賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円などとしている場合 |
より詳しくは以下をご参照ください。
(3)割増率を確認する
次に割増率を確認します。
時間外労働については労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(参考:労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令 )により25%以上の割り増しが義務付けられています。
そのため、通常は割増率を25%としている会社が多いと思いますが、以下の点に注意してください。
- 賃金規程などで25%よりも高い割増率を定めている会社ではそれに従う必要があります。
- 60時間を超える時間外労働については割増率が50%以上にすることが義務付けられています(参考:労働基準法第37条1項但書)。ただし、中小企業については令和5年3月までは適用を猶予されます。
(4)45時間分の金額を計算する
1時間あたりの賃金額に割増率をかけ、それに固定残業代やみなし残業代を支給する時間数をかけることにより、固定残業代あるいはみなし残業代の金額を計算することができます。
(例)1時間当たりの賃金額が2084円で割増率が25%の場合
2084円×1.25×45時間=117,225円
このようにこの例では、45時間分の固定残業代は11万7225円と計算することができます。
5,固定残業代の要件と導入時の注意点
ここでは、固定残業代に関する3つの要件を説明した上で、導入時の注意点について説明していきます。
(1)3つの要件
冒頭でご紹介した裁判例のように、固定残業代の制度を会社としては採用しているつもりでも、未払い残業代請求の訴訟になれば、裁判所で、残業代の支払いと認めてもらえずに、新たに残業代の支払いを余儀なくされているケースが少なくありません。
裁判所に固定残業代の制度による残業代の支払いが認められるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
1,明確区分性の要件
「残業代に相当する部分」と、「所定労働時間に対応する賃金に相当する部分」が明確に分かれていることが必要であるというのが、固定残業代についての確立した判例です。
例えば、「基本給40万円 残業30時間分含む」という雇用契約書の記載は、これを読むだけでは、残業代の相当する部分がいくらで、所定労働時間に対応する賃金がいくらなのかがわかりませんので、明確区分性の要件を満たしません。
2,対価性の要件
対価性とは、固定残業代が時間外労働の対価として支払われていることが明確になっていることを要求するものです。
例えば、「業務手当」という名称で固定残業代を設定する場合、それが時間外労働の対価であることが明確でなければ、この対価性の要件を満たしません。
3,固定残業代であることの合意
対価性の要件に関連する点として、その手当が残業代部分として支払われることについて、従業員と会社の間で合意があったことが必要です。
入社時には固定残業代の説明をせずに月給額のみを説明し、あとでその月給額に固定残業代部分が含まれているという説明をするようなケースでは、入社時に固定残業代の合意がなかったことを理由に、認められない可能性が高いです。
(2)制度導入時の注意点
上記のうち、特に「明確区分性の要件」や「対価性の要件」については、どの程度厳格にこれを求めるのかが、裁判例によってまちまちであることが実態です。
比較的緩やかな判断でこれらの要件を認めて企業を勝訴させた裁判例が存在する一方で、これらの要件を厳格に求めて固定残業代を残業代の支払いと認めなかった裁判例も多数存在します。
裁判官によって判断が異なるのが現状であり、どのような裁判官にあたっても、自社の固定残業代の制度を認めてもらうためには、以下の点に注意する必要があります。
- 基本給に含むタイプの固定残業代は不可(固定残業代の時間数だけでなく、「金額」を明示すること)
- 36協定を正しく締結すること
- 固定残業代の時間数は45時間を上限とすること
- 平均的な残業時間を確認すること(実際の残業時間と固定残業代の時間数の乖離を減らすこと)
- 基本給が最低賃金を下回らないように注意すること
- 制度導入後も労働時間を正しく把握し、超過分があるときは別途支給すること
- 深夜残業、休日残業については固定残業代とは別に支払をすること
- 就業規則、雇用契約書、給与明細に適切な表記をすること
- 制度導入にあたり、基本給部分を減額する場合は必要な同意を個別に得ること
- 求人広告で適切な表記をすること
以下でこれらの点を詳しく見ていきたいと思います。
1,基本給に含むタイプの固定残業代は不可
まず、固定残業代の「金額」を、それ以外の賃金項目(基本給や手当など)と分けて明記することが絶対的なルールです。
たとえば、「基本給には●時間分の残業代を含む」といった規定の仕方は、時間数は明示されていますが、固定残業代の「金額」がいくらなのかが明示されていません。
このようなケースでは、前述の「明確区分性の要件」を満たしません。
そのため、未払い残業代トラブルになれば、裁判所は、基本給の中に記載された時間分の残業代が含まれていたとは認めず、改めて残業代の支払いを企業に命じることが通常です。
裁判でも通用する制度にするためには、固定残業代の「金額」は、それ以外の賃金項目(基本給や手当など)と分けて明記してください。
- NG:「月給40万円(30時間分の残業代込み)」
- OK:「月給40万円(基本給32万円、固定残業代8万円)」
2,36協定を正しく締結する
そもそも、企業が従業員を残業させる場合は、36協定(正式名は「時間外労働・休日労働に関する協定」)と呼ばれる労使協定を締結したうえで労働基準監督署に届け出ることが必要です。
36協定が締結されていない場合、企業は従業員に残業を命じることができないため、前述の「対価性の要件」が否定されるとした裁判例も存在します(名古屋高等裁判所判決令和2年2月27日等)。
固定残業代の制度を導入している場合は、自社の36協定が正しく締結されて、届け出がされているかを確認しておきましょう。
36協定については以下で解説していますのでご参照ください。
3,時間数は40時間から45時間を上限とする
固定残業代を支給する際に、あまりに長時間の残業をこれに含ませることは、そもそも会社として、長時間労働が当然であるという建前をとっていると受け取られかねません。
このような観点から、平成20年代の後半には、「月45時間を超える固定残業代の制度は無効」と判断した判例が多くありました(東京高等裁判所判決平成26年11月26日マーケティングインフォメーションコミュニティ事件等)。
一方で、月45時間を超えていても固定残業代の制度を有効とした裁判例(平成31年3月28日東京高等裁判所判決等)もあり、裁判例はわかれています。
このように裁判官によって判断が異なる状況ですが、そもそも、一般企業における通常時の時間外労働は、月45時間までとすることが法律で義務付けられています(労働基準法第36条4項)。
それにもかかわらず、60時間分、70時間分の固定残業代を設定することは、制度が裁判所で認められない原因となり得ますので、固定残業代の時間数は45時間までにとどめておくことが安全です。
労働法の権威である菅野和夫名誉教授(東京大学)は、著書の中で「2018年労基法改正による時間外労働の上限の設定の結果、月間45時間を超える時間外労働を想定した固定残業代の約定は許されない」と記載されています。
4,従業員の平均的な残業時間を確認する
日本ケミカル事件という事件では、会社が「業務手当」という名称で支給していた定額残業代が残業代の支払いにあたるかどうかが問題になりました。
「業務手当」、「職務手当」といった、名称からは残業代であることが読み取れない手当については、特に「対価性の要件」(時間外労働の対価として支払われているかどうか)が問題になる傾向にあります。
この事件について、高等裁判所は、残業代の支払いと認められないと判断しましたが、最高裁判所は、残業代の支払いにあたると認めて、企業側を勝訴させました(最高裁判所判決平成30年7月19日)。
その中で、最高裁判所は、定額残業代の設定にあたり、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であることは必須ではないなどとしたうえで、定額残業代が残業代の支払いにあたるかどうかの判断にあたって、定額残業代の対象時間数が実際の時間外労働の状況と大きく乖離しないかを考慮するとしています。
この判決以降、固定残業代の判断にあたり、固定残業代の対応時間数が、その従業員の実際の平均的な残業時間数と大きく乖離していないかどうかに注目する裁判例が増えており、乖離が大きいことを理由に固定残業代を残業代の支払いと認めない裁判例もでています(名古屋高等裁判所判決令和2年2月27日等)。
そのため、以下の点に注意することが必要です。
注意点1
36協定で残業時間の上限について月45時間よりも少ない時間、例えば、月30時間までとした場合は、法律上その時間までしか残業が認められないため、固定残業代もおよそ30時間分までの額を目安とすることが合理的です。
36協定で設定した残業の上限時間を超えて、固定残業代を付けている場合は、実際の残業時間との乖離が指摘される危険があります。
注意点2
その従業員の平均的な残業時間も確認したうえで、平均的な残業時間と大きく乖離しないように固定残業代を設定することが適切です。
5,基本給が最低賃金を下回らないように注意する
従来の人件費負担を増やさずに制度を導入しようとする場合は、従業員の基本給やそれまで支給してきた手当を減額して、減額分を固定残業代やみなし残業代に振り替えることがよく行われます。
その場合、基本給と諸手当(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除く手当)など「所定労働時間に対応する賃金に相当する部分」の合計額が、最低賃金を下回らないかチェックしておきましょう。
6,労働時間を把握し超過分を別途支給する
固定残業代を支払っていても、労働基準法上支払わなければならない残業代の額が固定残業代の額を上回る場合は、超過分を別途支給することが必要です。
実態として超過分が支払われていないような固定残業代の制度は、そもそも残業代の支払いとは言えず、「対価性の要件」を欠いているとして、固定残業代が残業代であったことを認めない裁判例も存在します(東京地方裁判所判決平成27年2月27日、名古屋高等裁判所判決令和2年2月27日等。なお、反対の裁判例として東京高等裁判所判決平成31年3月28日等)。
制度を採用する場合であっても、労働時間を正しく把握し、超過分がある場合は、必ず支払いをする体制を作る必要があります。
労働時間の把握については以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
7,時間数も明示がベスト
固定残業代を設定する場合に、それが何時間分の残業代に該当するのかを明示することが必要かどうかについては、時間数の明示は必要ないと判断した裁判例も多数存在します(東京高等裁判所判決平成28年1月27日、東京地方裁判所判決平成29年8月25日、東京地方裁判所判決平成29年9月26日等)。
しかし、一方で、固定残業代が何時間分の残業代であるかを明示していなかったことを1つの理由として、固定残業代を残業代の支払いと認めなかった裁判例(東京地方裁判所判決平成24年8月28日等)も存在するため、何時間分の残業代に該当するかを明示しておくことがベストです。
なお、職業安定法では、固定残業代制度を導入している会社が求人媒体や自社サイトに求人情報を掲載する際は、固定残業代に対応する残業時間数を明示することを義務付けています(職業安定法指針第三の一(三)ロ)。
対応時間数の明示が必要かどうかについて明確に判断した最高裁判決は存在しません。一方、労働法の権威である菅野和夫名誉教授(東京大学)は、著書の中で「何時間分の時間外労働をカバーするのかを明示することが必要」と記載されています。
8,休日出勤手当や深夜手当は別に出すのがベスト
前述したように、固定残業代が何時間分の残業代であるかを表記するためには、休日出勤手当や深夜手当は固定残業代に含めずに、別途支払うことが必要です。
休日労働や深夜労働については、通常の時間外労働と割増率が異なるため、休日労働や深夜労働も含めて固定残業代を設定しようとすると、固定残業代が何時間分の残業代であるかを明示することができなくなるためです。
そのため、固定残業代は時間外労働に対応する賃金に充てるものとし、休日残業や深夜残業については、別途支給とすることがベストです。
9,就業規則や雇用契約書の作成についての注意点
固定残業代制度やみなし残業代制度については、就業規則あるいは雇用契約書に必ず規定を設ける必要があります。
就業規則あるいは雇用契約書に規定せず、口頭で「月給には〇〇時間分の残業代が含まれている」などと説明していただけでは、万が一、残業代請求の訴訟等が起きた場合に、裁判所で、「月給の中に残業代を含めて支給していた」と認められることはほとんどありません。
そして、制度について就業規則あるいは雇用契約書に規定を設ける際のポイントは以下の3つです。
- ポイント1:固定残業代またはみなし残業代が、割増賃金の支払いの趣旨で支給されるものであることを明確に規定する。
- ポイント2:固定残業代を上回る割増賃金が発生した時は、超過分を支払うことを明確に規定する。
- ポイント3:固定残業代が時間外割増賃金の支払いにのみ充てられるのか、それとも、深夜割増賃金や休日割増賃金にも充当されるのかを明確に規定する。
順に詳しくみていきましょう。
ポイント1:
固定残業代またはみなし残業代が、割増賃金の支払いの趣旨で支給されるものであることを明確に規定する。
固定残業代やみなし残業代が残業代の支払いとして認められるためには、「固定残業代が割増賃金の支払いの趣旨で支給されるものであること」が明確に就業規則あるいは雇用契約書に書かれていることが大前提になります。
まずはこの点を確認しておきましょう。
ポイント2:
固定残業代を上回る割増賃金が発生した時は、超過分を支払うことを明確に規定する。
裁判例の中にも、超過分の支払いについて就業規則等で明示されておらず、また実際にも残業時間を管理する体制がとられていなかったことを1つの理由として、固定残業代の制度が無効であると判断したものがあります(東京地方裁判所判決平成25年2月28日 イーライフ事件等)。
固定残業代を上回る割増賃金が発生したときは超過分を支払う旨の規定を就業規則や雇用契約書に明記しておきましょう。
明記することによって、固定残業代として支給する手当が残業代であることがより明確になります。
ポイント3:
「固定残業代が時間外割増賃金の支払いにのみに充てられるのか」、それとも、「深夜割増賃金や休日割増賃金にも充てられるのか」を明確に規定する。
残業代には、法律上以下の3種類があります。
- (1)「時間外割増賃金」:1日8時間、週40時間を超えた場合に支払われる割増賃金
- (2)「深夜割増賃金」:午後10時以降の残業について支払われる割増賃金
- (3)「休日割増賃金」:法定休日の就業について支払われる割増賃金
ファニメディック事件(東京地方裁判所判決 平成25年7月23日)では、固定残業代が「(1)時間外割増賃金」に宛てられるのか、それとも「(2)深夜割増賃金」、「(3)休日割増賃金」の支払いにも充てられるのかが、明確になっていなかったことが、制度が無効と判断された理由の一つになっています。
前述の通り、固定残業代の制度を作る場合は、「時間外割増賃金」のみの支払いに充てられる制度とし、休日労働や深夜労働については別途支払うことが望ましいです。
そのため、固定残業代は「時間外割増賃金」のみの支払いに充てられること、「深夜割増賃金」や「休日割増賃金」は別に支払うことを、就業規則や雇用契約書で明確にしておきましょう。
▶参考情報:なお割増賃金について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。
●就業規則や雇用契約書での記載例
就業規則あるいは雇用契約書に固定残業代の規定を設ける際は、ここまで述べたポイントをおさえた規定にすることが必要です。
たとえば、下記のような条文を盛り込んでおくとよいでしょう。
▶参考情報:固定残業代に関する就業規則や雇用契約書での記載例
第〇条(固定残業手当)
1 従業員には時間外労働に対する賃金及び時間外労働割増賃金の支払いに充てるものとして毎月定額の固定残業手当を支給することがある。
2 会社が固定残業手当を支給するときは、1ヶ月の時間外労働に対する賃金及び時間外労働割増賃金の合計額が固定残業手当の金額を超えた場合に限り、超過額を別に支給する。また、深夜労働、休日労働に対する賃金が発生したときは、固定残業手当と別にこれを支給する。
3 会社は従業員の時間外労働に対する賃金及び時間外労働割増賃金の合計額が固定残業手当の金額を下回る期間が続いたときは、固定残業手当を減額し、または廃止することができる。
就業規則あるいは雇用契約書の固定残業代に関する規定が適切に定められているかは、裁判でもよく問題になる大変重要な点ですので、必ずチェックしておきましょう。
固定残業代を導入する場合の雇用契約書のひな形
雇用契約書に固定残業代の金額を入れて記載する場面での記載方法は、以下の記事から雇用契約書のひな形をダウンロードできますのでご参照ください。
10,給与明細での表記方法
固定残業代やみなし残業代の制度では、「金額」の明示が重要です。
毎月の給与明細にも必ず固定残業代やみなし残業代の金額を明記しておきましょう。
固定残業代やみなし残業代に「業務手当」、「職務手当」などの名称を付けることも可能ですが、必ず就業規則に記載されている手当の名称と同じ名称で、給与明細に金額を表記してください。
11,厚生労働省も注意喚起!求人広告での表記について
求人広告での表記についても注意が必要です。
平成29年に職業安定法という法律が改正され、企業が固定残業代を導入している場合は、求人情報の掲載にあたり、その内容を明示することが企業に義務化されました。
制度を導入している会社が求人媒体や自社サイトに求人情報を掲載する際は以下の点を明示することが必要です。
(1)明示が必要な内容
- 1,金額
- 2,対象となっている残業時間数
- 3,計算方法
- 4,固定残業代を除外した基本給の額
- 5,固定残業代の対象となる時間数を超える残業の場合は残業代を支払うこと
このように固定残業代の内容の明示が義務付けられたのは、制度を採用し、固定残業代も含めた月給が「30万円」という場合でも、求人情報では単に「月給30万円」などと表示されているケースがあったためです。
制度が採用されている場合、残業をしても固定残業代の範囲内であれば別途残業代は支給されません。
そのため、「残業をした場合は基本給30万円とは別に残業代がつく」と考えて応募している求職者と企業の間で、求人トラブルが発生するおそれがありました。
このような経緯から、求人の際にも固定残業代の内容の明示が義務付けられたましたので、注意してください。
なお、職業安定法で定められている求人のルールについては以下の記事で詳しくご説明していますのであわせてご参照ください。
(2)入社時に固定残業代の金額を説明しなかったことが原因で敗訴した事例
さらに、裁判所でも、固定残業代の金額を入社時までに説明しなかったことを理由に固定残業代の有効性を否定して、残業代の支払いを命じる判例が複数でています。
▶裁判例:京都地方裁判所判決 平成28年9月30日
例えば、京都地方裁判所判決平成28年9月30日は、賃金規程に固定残業代制度を定めたうえで、給与明細で月給25万円のうち6万2000円が固定残業代であることを給与明細に表示して支給していました。
しかし、入社時の雇用契約書には、「月給250,000円残業含む」と総額が記載されているのみであり、入社時に固定残業代の額が説明されていなかった事案です。
裁判所の判断
この事件で、裁判所は「労働契約時に月額給与の中に含まれている固定残業代部分の金額または時間外労働時間数が明確にされていることが必要」と判断し、企業側を敗訴させています。
その他、同様の判断をしたものとして、東京地方裁判所判決平成30年4月18日(PMKメディカルラボ事件)があります。
このように裁判でも、入社前に固定残業代の金額を従業員に伝えていない場合、それだけで制度が無効と判断される原因になりますので注意が必要です。
厚生労働省ホームページにも「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」というような参考資料が公開されていますので、参考にご覧下さい。
(3)【補足】「固定残業代なし」などと書く必要はない
会社で固定残業代の制度を設けない場合に、求人広告で「固定残業代なし」などと書く必要はありません。
前述の、職業安定法では、固定残業代がある場合にその内容を明示することが義務付けられていますが、固定残業代がない場合に、「ないこと」を記載しなければならないわけではありません。
「固定残業代なし」などと書くと、求職者によっては、残業代がでない企業なのではないかと誤解したり、疑心暗鬼になるケースもあるため、あまり適切な記載とはいえないでしょう。
固定残業代制度を設けないこと自体は全く問題ありませんが、その場合に、従業員が残業をしたときは、管理監督者に該当する場合など法律上残業代の支払いの対象外になるケースを除き、残業時間に応じた残業代の支払いが必要です。
6,導入にあたり基本給を減額する場合について
総人件費の負担を増やさないまま固定残業代やみなし残業代を導入するケースでは、基本給を減額することが必要になります。
そして、基本給を減額するためには、各従業員一人ずつの同意が必要になります。基本給の減額に同意する書面を作成し、従業員に署名、捺印して提出してもらう手続きが必要になります。
このような手続が必要になることから、基本給を減額しなければならない場合は、制度の導入の成否は、社長ないしは経営陣が、従業員に対し、基本給を減額することについて理解を求め、納得を得ることができるかにかかっています。
「これまでは残業代の支給ができていなかったが、今後は、残業代はきちんと支払う制度にしたい。ただ、残業代を今の基本給のまま支給すると、会社の人件費負担が増えすぎるので、基本給の減額を了解してほしい。」などと率直に従業員に話をして理解を得ることが必要です。
各従業員からの同意の書面をもらっておかないと、従業員から減額前の基本給との差額を請求された場合に、請求に応じざるを得なくなりますので、注意しましょう。
このように、固定残業代やみなし残業代の導入時に基本給を減額する場合は、各従業員一人ずつから書面で同意してもらう必要があることを、おさえておきましょう。
固定残業代やみなし残業代の導入に伴い、基本給を減額することは、「労働条件の不利益変更」に該当し、従業員への説明の方法や同意の取り方について慎重な対応が必要です。
労働条件の不利益変更については、以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
7,違法と判断される場合について
ここまでご説明してきたように、以下のようなケースでは固定残業代(みなし残業代)が違法と判断される危険があります。
- 固定残業代を基本給に含む形式で設定している場合
- 36協定を正しく締結していない場合
- 固定残業代の時間数と、実際の残業時間数の乖離が大きい場合
- 36協定による残業の上限を上回る固定残業代を支給している場合
- 45時間分を超える固定残業代を支給している場合
- 固定残業代導入に伴い基本給を減額した結果、最低賃金を下回っている場合
- 固定残業代を上回る超過分の支払いがされていない場合
- 固定残業代が割増賃金の支払いの趣旨で支給されるものであることが就業規則や雇用契約書に明確に規定されていない場合
- 固定残業代が時間外割増賃金の支払いにのみ充てられるのか、それとも、深夜割増賃金や休日割増賃金にも充当されるのかについて、就業規則や雇用契約書に明確に規定されていない場合
- 毎月の給与明細に、固定残業代の金額が記載されていない場合
- 固定残業代導入に伴い基本給を減額したが、基本給の減額について従業員への十分な説明による合意や、同意書の取得ができていない場合
- 求人広告に固定残業代の金額その他固定残業代制度の内容についての記載がない場合
すでに制度を導入済みの場合は、これらの点を十分チェックしておいてください。
8,制度運用に関するよくある質問
以下では固定残業代制度導入後の運用面に関してよくある質問についてご説明したいと思います。
(1)残業しない従業員にも固定残業代の支払は必要?
企業としては、残業しない従業員について固定残業代の支払いをしたくないと考えることもあるでしょう。
就業規則や賃金規程で、会社が固定残業代を設定するかどうかを従業員ごとに判断できる制度として固定残業代を設けている場合は、残業しない従業員にだけ固定残業代を支払わないことも可能です。
前述の記載例のように「毎月定額の固定残業手当を支給することがある。」などとしている場合は、会社は残業しない従業員には固定残業代を支給しないことも可能であると考えることができます。
(2)固定残業代は日割りで欠勤控除できるか?
固定残業代を日割りで欠勤控除できるかどうかについては、自社の賃金規程や就業規則を確認する必要があります。
多くの会社において、欠勤控除について、賃金規程や就業規則に定めがあり、それに記載された計算式に従って欠勤控除する必要があります。そのため、賃金規程や就業規則で、固定残業代も欠勤時に日割り計算する旨の規定があれば、日割り計算することが可能です。
一方で、賃金規程や就業規則で、固定残業代について、欠勤時に日割り計算する旨の規定を設けていない場合は、日割り計算はできないと考える必要があります。
(3)固定残業代の廃止は不利益変更か?
いったん設けた制度を廃止して、残業代を毎月の実際の残業時間に応じて計算して支払うように変更することは不利益変更に該当するのでしょうか?
この点については、固定残業代を廃止することにより、残業時間が少ない月については、従業員への支給額が減ることになりますので、不利益変更に該当します。
そして、労働条件の不利益変更は従業員本人の同意が必要なことが原則です(労働契約法第9条)。
ただし、変更の内容が合理的なものであれば、就業規則変更により、個別の同意を得ずに進めることも可能です(労働契約法第10条)。
固定残業代を廃止する就業規則の変更を合理的なものと認めてもらえるかどうかについては、制度を導入された経緯や現在の就業規則や雇用契約書での記載の仕方によって異なります。
固定残業代制度が別の手当を振り替える形で設定されたものではなく、就業規則上も制度が廃止されることもある旨の記載があるのであれば、就業規則を変更して制度を廃止することの合理性は比較的認められやすいでしょう。
その場合も、従業員の過半数代表や労働組合に対して、廃止の必要性を十分に説明したうえで廃止を進めることや、変更後の就業規則を従業員に周知することが必要です。
一方で、以下のような場合は、制度を廃止することは、従業員の個別の同意を得なければ困難です。
- 就業規則や雇用契約書で固定残業代が廃止されることもある旨の規定が設けられていない場合
- 基本給や役職手当など所定労働時間に対応する賃金を振り替えて固定残業代の原資とした経緯があり、その固定残業代を廃止しようとする場合
労働条件の不利益変更や就業規則の不利益変更の進め方や注意点については以下をご参照ください。
就業実態に特段の変更がないにもかかわらず、固定残業代の減額が行われ、従業員から見れば実質的な給与の減額になる場合は、個別に書面による承諾を得ていたとしても、「自由な意思に基づく承諾」とはいえないとして、減額を認めず、減額分の支払いを企業に命じた裁判例も存在しますので注意が必要です(東京地方裁判所判決令和2年9月25日)。一方、割増賃金は労働基準法37条の金額を下回らない限りどのような方法で支払おうとも自由であることを理由に、固定残業代の廃止や減額は労働者の同意等を要しない旨判示した裁判例として東京地方裁判所判決令和3年11月9日(インテリム事件)があります。
9,固定残業代の重要判例
固定残業代に関する裁判例は非常に多いですが、以下の最高裁判例が重要です。
(1)最高裁判所判決平成24年3月8日(テックジャパン事件)
月給41万円の基本給に一定時間分の割増賃金が含まれていることを内容とする雇用契約について、「通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」として、割増賃金の支払いがされているとは認めませんでした(企業側敗訴)。
(2)最高裁判所判決平成29年7月7日(医療法人社団康心会事件)
医療法人は、年俸制の病院医師(年俸1700万円)について、残業代が年俸の中に含まれているとの取扱いをしていましたが、裁判所は「通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」として、割増賃金の支払いがされているとは認めませんでした(法人側敗訴)。
(3)最高裁判所判決平成30年7月19日(日本ケミカル事件)
最高裁判所は、定額残業代として支給されていた業務手当が何時間分の時間外手当にあたるのかが伝えられていないことなどを理由に残業代の支払いがされているとはいえないとした控訴審判決を破棄し、この事案における業務手当の支給は残業代の支払にあたると判断しました(企業側勝訴)。
この事件で最高裁判所は「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである。」としています。
(4)最高裁判所判決令和2年3月30日(国際自動車事件)
タクシー会社が採用していた、残業代に充当される賃金を支給する一方で、その全額を歩合給から差し引く賃金制度について、最高裁判所は「割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでない」として、割増賃金の支払いがされているとは認めませんでした(企業側敗訴)。
(注)国際自動車事件は、残業代は固定額で支払われておらず、厳密には固定残業代の事案ではありません。
10,残業代トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、残業代トラブルに関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
11,固定残業代・みなし残業代に関して弁護士に相談したい方はこちら
「咲くやこの花法律事務所」では、固定残業代制度の導入や固定残業代に関するトラブルについて企業のご相談者のために以下のサポートを行っております。
(1)固定残業代やみなし残業代導入に伴う制度設計、就業規則作成のご相談
この記事でもご説明した通り、固定残業代やみなし残業代の制度を導入してもそれが裁判所で認められず、多額の残業代支払いを命じられる裁判例が相次いでいます。
そのため固定残業代・みなし残業代に関する制度の設計や就業規則、賃金規程の作成は必ず弁護士のチェックを受けておく必要があります。
咲くやこの花法律事務所では、実際に固定残業代トラブルの裁判対応を企業側で行っている弁護士が、制度設計、就業規則作成、賃金規程作成のご相談を承ります。そのため、万が一の裁判の際に裁判所が着目する点をおさえた制度設計が可能です。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)未払い残業代トラブルに関する弁護士へのご相談
固定残業代やみなし残業代を導入していても、それが無効だと主張され、残業代を請求されるケースが少なくありません。
咲くやこの花法律事務所では未払い残業代の請求を受けてお困りの企業様からのご相談を承っております。
未払い残業代問題について実績の豊富な弁護士がご相談を受けたうえで、「支払いが必要か否かについて」や「必要な支払額について」判断し、お客様の未払い残業代トラブルについての解決の道筋をしめします。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(3)未払い残業代に関する従業員との交渉
咲くやこの花法律事務所では、裁判になる前の段階から、従業員からの未払い残業代請求について、弁護士への交渉の依頼を承っております。
ご依頼いただいた後は、弁護士が企業側の立場で従業員からの請求に対して反論して従業員と交渉し、未払い残業代トラブルを解決します。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●未払い残業代トラブルの際の従業員との交渉:着手金15万円程度+税~
(4)未払い残業代に関する団体交渉、労働審判、労働裁判への対応
未払い残業代の問題が団体交渉や労働審判、労働裁判に発展するケースもあります。
咲くやこの花法律事務所では、これらの団体交渉への同席や、労働審判の対応、労働裁判の対応に豊富な実績があり、企業のお客様からのご依頼を積極的に承っております。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●未払い残業代トラブルの際の団体交渉対応:着手金30万円程度+税~
●未払い残業代トラブルの際の労働審判対応・裁判対応:着手金45万円程度+税~
▶参考動画:咲くやこの花法律事務所の「残業代トラブルに強い弁護士への企業向け相談サービス」については、以下の解説動画で詳しくご覧いただけます。
(5)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方(労働者側)からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
12,まとめ
今回は、最近、トラブルが急増している「固定残業代(みなし残業代)」について、必ず確認しておきたい注意点をご説明しました。
中小企業の経営者も残業代対策として固定残業代の制度導入をしている企業も増えてきておりますが、固定残業代の制度は、最近、裁判所で無効と判断する判決が相次いでおり、安易な制度導入は大変危険です。
実際に咲くやこの花法律事務所の企業法務トラブルで相談数が多い未払い残業代トラブルの問題で、きちんと対策ができていなかったために多額の残業代を支払わなければならないという結果になることも少なくありません。
固定残業代の制度を導入する際は、今回ご説明した注意点をきっちりと確認しておきましょう。
また、少しでも現在の就業規則や賃金規定に不安がある場合は、労務問題に強い弁護士がそろっている咲くやこの花法律事務所までお気軽にご相談下さい。
残業代の制度設計や従業員との残業代トラブルについては、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から雇用契約書や就業規則など自社の労務環境の整備を行っておくために「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。
顧問弁護士の具体的な役割や必要性、また相場などの費用については以下の記事を参考にご覧ください。
▶参考情報:顧問弁護士とは?その役割、費用と相場、必要性について解説
また、労働問題に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスについては、以下をご参照ください。
▶参考情報:【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
▶参考情報:大阪で顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約)をお探しの方はこちら
13,【関連情報】残業代に関するお役立ち関連記事
この記事では、「固定残業代(みなし残業代)とは?導入メリットや計算方法・注意点」について、わかりやすく解説いたしました。固定残業代など残業の制度設計に関しては、固定残業代以外にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しく知識を理解しておかねければ残業代トラブルに発展してしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連する残業代のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・従業員から未払い残業代を請求されたら!会社側の反論方法を弁護士が解説
記事更新日:2024年11月2日
記事作成者弁護士:西川 暢春
「企業法務に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)」固定残業代制度についてなど残業代に関するお役立ち情報については、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や、咲くやこの花法律事務所の「YouTube公式チャンネル」の方でも配信しておりますので、以下より登録してください。
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