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労働基準法における賃金のルールとは?定義や原則、計算方法などを解説

労働基準法における賃金のルールとは?定義や原則、計算方法などを解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
賃金については労働基準法によって様々なルールが定められています。

ルールに則って適切に賃金を支給しない場合、従業員との間で賃金トラブルになるリスクがあります。また、労働基準法違反として労働基準監督署から指導を受けたり、罰則を科されるおそれもあります。従業員を雇用する経営者は、賃金についての正しい知識を持っておくことが重要です。

この記事では、賃金の定義、賃金支払いの原則、計算方法、時間外労働に対して支払う割増賃金などについて具体的に解説します。この記事を最後まで読んでいたただくことで、労働基準法における賃金に関するルールをよく理解していただくことができます。

それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

賃金の支払については各事業者が賃金規程や雇用契約書で定めることができますが、労働基準法には全ての事業者が守るべき最低限のルールが定められています。事業者が定めたルールや賃金支払いの実態が労働基準法に違反していると、従業員との間で賃金未払いトラブルに発展する等、様々な問題につながります。労働基準法の規定を正しく理解し、適切な労務管理をすることが大切です。

咲くやこの花法律事務所では、人事労務分野に精通した弁護士が事業者側の立場に立って専門的なサポートを提供しています。お困りの際はご相談ください。咲くやこの花法律事務所の人事労務に関する事業者向けサポート内容は以下をご参照ください。

 

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1,労働基準法上の賃金とは?定義について

労働基準法上の賃金とは?定義について

労働基準法で定める賃金とは、賃金、給料、手当、賞与、その他どのような名称でも労働の対償として事業主が労働者に支払うもの全てをいいます(労働基準法11条)。手当等の名称は会社によって異なるため、賃金にあたるかどうかは名称ではなく、事業主が労働者に対して「労働の対償」として給付したものかどうかで判断します。基本給や残業に対して支払われる残業手当などは当然賃金です。

では、労働の対償ではない給付とはどのようなものがあるでしょうか。

行政の実務では、 以下の3つに該当するものは「労働の対償」にあたらないので賃金ではないと判断されています。

 

  • 任意的・恩恵的な給付
  • 福利厚生のための給付
  • 企業設備・業務費

 

順番に詳しくみていきましょう。

 

(1)任意的・恩恵的な給付は賃金ではない

任意的・恩恵的な給付とは、従業員の個人的な慶弔禍福の際に、使用者の裁量で支払われる金銭等のことをいいます。これは労働の対償ではないと判断されます。

たとえば、結婚祝金、病気見舞金、死亡弔慰金、災害見舞金などです。ただし、労働協約、就業規則、労働契約等によって支給条件が明確にされていて、使用者に支払義務があるものは、これらの給付でも労働の対償と認められ、賃金として取り扱われます(昭和22年09月13日発基第17号)。

退職金や賞与などの一時金も、それを支給するかどうかや支給する金額が使用者の裁量で決められる場合は任意的・恩恵的な給付といえるので、労働基準法上の賃金にはあたりません。これに対し、労働協約、就業規則、労働契約等であらかじめ支給基準や金額の決定方法が明確にされていて、使用者に支払義務がある退職金や賞与は、労働基準法上の賃金に該当します。

 

(2)福利厚生のための給付は賃金ではない

使用者が従業員の福利厚生のために支給するものは賃金ではないと判断されます。たとえば、資金貸付、社宅の貸与、給食などがこれにあたります。

一方、家族手当や住宅手当などの手当は、労働協約、就業規則、労働契約等であらかじめ支給基準や金額の決定方法が明確にされていて、使用者に支払義務がある場合は、労働基準法上の賃金に該当します。 また、所得税や健康保険料・厚生年金保険料などの本人負担分を使用者が労働者に代わって負担する場合、その使用者が負担する部分は賃金とみなされます。

 

(3)企業設備・業務費は賃金ではない

企業が業務遂行のために負担する企業施設や業務費は賃金ではないとされています。たとえば、作業服や作業用品代、社用交際費、出張旅費などがこれにあたります。ただし、通勤手当や通勤定期券の現物支給は、その支給基準が定められている場合は、業務費ではなく賃金に該当します。

また、労働基準法11条では、賃金とは「事業主が労働者に支払う」ものとされているので、旅館や飲食店で客が従業員に対して支払うチップは、原則として賃金ではありません。

これらの点は、厚生労働省の下記の通達で定められています。

 

▶参考情報:労働基準法の施行に関する件(◆昭和22年09月13日発基第17号)

1 労働者に支給される物又は利益にして、次の各号のーに該当するものは、賃金とみなすこと。
(1)所定貨幣賃金の代りに支給するもの、即ち、その支給により貨幣賃金の減額を伴うもの
(2)労働契約において、予め貨幣賃金の外にその支給が約束されているもの
2 右に掲げるものであっても、次の各号のーに該当するものは、賃金とみなさないこと。
(1)代金を徴収するもの。但しその代金が甚だしく低額なものはこの限りではない。
(2)労働者の厚生福利施設とみなされるもの。
3 退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。但し、退職金、結婚手当等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。

・参照元:厚生労働省「労働基準法の施行に関する件」はこちら

 

2,労働基準法の賃金支払いの5原則とは?

労働基準法24条は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない、と定めています。この賃金支払いに関する5つのルールを、「賃金支払いの5原則」といいます。

「賃金支払いの5原則」の内容は以下の通りです。

 

(1)通貨払いの原則

賃金は通貨で支払う必要があります。現物支給や小切手での支給は原則として禁止されています。通勤定期券の現物支給も同様です。ただし、労働組合との間で労働協約を締結した場合は現物支給も認められます。

 

▶参考情報:労働協約については以下をご参照ください。

労働協約とは?企業側の重要な4つの注意点も解説!

 

(2)直接払いの原則

賃金は労働者本人に直接支払う必要があります。代理人等に支払うことはできません。

 

(3)全額払いの原則

賃金はその全額を労働者に支払う必要があります。法令で定められた社会保険料や税金など以外を、賃金から天引きすることは原則としてできません。

 

(4)毎月1回以上払いの原則

賃金は毎月必ず1回以上支払う必要があります。年俸制の場合も、分割して毎月支給しなければなりません。ただし、臨時に支払われる賃金や賞与はこの原則の対象外です。

 

(5)一定期日払いの原則

賃金は一定の期日を定めて支払う必要があります。ただし、臨時に支払われる賃金や賞与はこの原則の対象外です。

賃金の支払いに不備があると労使トラブルの原因になります。特に、全額払い原則については、長年ルールの理解に誤りがあって、寮費の違法な天引きや振込手数料の違法な天引きをしてしまっている例があります。その場合、裁判で過去にさかのぼって天引き分の支払いを命じられるおそれもあり、注意が必要です。

賃金支払いの5原則については以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

 

 

3,最低賃金とは?

最低賃金とは?

最低賃金制度とは、国が最低賃金法に基づいて賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない、とする制度です。

使用者と労働者との間で合意があっても、国が定めた最低賃金額より低い賃金額を設定することは原則としてできません。そのような合意をした場合でも、最低賃金額を支払う必要があります(最低賃金法4条)。

 

▶参考情報:最低賃金法4条

第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
3次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
4第一項及び第二項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。

・参照元:「最低賃金法」の条文はこちら

 

(1)最低賃金の規制対象となる賃金の範囲

最低賃金の規制対象となる賃金は、通常の労働時間、労働日に対応する賃金に限られます(最低賃金法4条3項)。

具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除いたものが最低賃金の規制対象になります。

 

  • 1.臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  • 2.賞与等の1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 3.残業代など、通常の労働時間または労働日の賃金以外の賃金
  • 4.精皆勤手当、通勤手当および家族手当

 

(2)地域別最低賃金と特定最低賃金

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。

 

1,地域別最低賃金

産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金を「地域別最低賃金」といいます。地域別最低賃金は、都道府県ごとに金額が定められています。

 

▶参考情報:都道府県の令和5年度地域別最低賃金額の一覧はこちらです。

厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」はこちら

 

使用者が労働者に支払う賃金額が地域別最低賃金額を下回る場合、50万円以下の罰金が科されます(最低賃金法40条)。

 

2,特定最低賃金

特定の産業について設定されている最低賃金を「特定最低賃金」といいます。最低賃金審議会が、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定める必要があると認めた産業について設定されています。

 

▶参考情報:都道府県別に設定されている特定最低賃金額の一覧はこちらです。

厚生労働省「令和5年度 特定最低賃金の審議・決定状況」(pdf)

 

使用者が労働者に支払う賃金額が特定最低賃金額を下回る場合は、30万円以下の罰金が科されます(労働基準法24条1項違反。労働基準法120条1号)。

 

4,時間外労働・休日労働・深夜労働に対しては割増賃金の支払いが必要

事業者が労働者に、時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた場合、通常の賃金に割増しをした「割増賃金」を支払う必要があります(労働基準法37条)。割増率については労働基準法37条で以下のとおり基準が設けられています。

 

  • 時間外労働 → 通常の賃金の25%以上
  • 時間外労働のうち月60時間を超える部分 → 通常の賃金の50%以上
  • 休日労働 → 通常の賃金の35%以上
  • 深夜労働 → 通常の賃金の25%以上

 

割増賃金を適切に支払わない場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条1号)。さらに、従業員との労使トラブルに発展するリスクもありますので、ルールを正しく理解して適切に割増賃金を支払わなければなりません。

 

▶参考情報:割増賃金については以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

割増賃金とは?労働基準法第37条や時間外・休日・深夜の計算方法を解説

 

▶参考情報:労働基準法37条

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
②前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
③使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
④使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
⑤第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

5,労働基準法で定められた賃金の計算方法とは?

賃金計算の際に注意すべきルールの1つが、労働基準法24条で定められた「全額払いの原則」です。また、賃金の計算については、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項です(労働基準法89条2号)。そのため、就業規則で定められた賃金の計算方法に違反しないようにすることも必要です。

賃金の計算方法について注意すべき点をみていきましょう。

 

(1)残業代は1分単位で計算する

例えば15分未満の残業時間を切り捨てて計算することは、労働基準法24条の賃金全額払いの原則に違反します。労働時間は1分単位で計算するのが原則です。労働者が1分でも残業した場合は、その分の残業代を計算して支給する必要があることが原則です。

 

▶参考情報:残業代の計算方法については以下の記事もご参照ください。

残業代とは?労働基準法のルールや計算方法、未払いのリスクについて

 

(2)遅刻・早退・欠勤時は不就労時間分の賃金を控除できる

遅刻や早退、欠勤によって、労働者が所定労働時間や所定労働日の一部を働かなかったときは、使用者はその分の賃金を支払わないことができます。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。この「ノーワーク・ノーペイの原則」は、「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」とする民法624条1項から導かれます。

たとえば、所定労働時間が午前9時から午後6時までの従業員が1時間遅刻してきた場合、会社は、給料から1時間分の賃金を控除することができます。控除できるのは、あくまでも遅刻・早退・欠勤などで実際に就労しなかった時間分の賃金です。控除する金額を計算する際も、労働時間を1分単位で計算することが通常です。また、「遅刻5回で欠勤1日扱いとする」等の扱いは全額払いの原則に違反するため、認められません。

遅刻早退控除や欠勤控除の計算方法については、労働基準法上の規定は特にありません。明確なルールが無いと給与計算の際に困りますので、就業規則等で賃金の計算方法を定めておく必要があります。

一般的には次のように計算することが多いです。

 

▶参考:遅刻や早退控除の場合
(基本給+諸手当)÷ 1か月の平均所定労働時間 × 不就労時間

 

▶参考:欠勤控除の場合
(基本給+諸手当)÷ 1か月の平均所定労働日数 × 不就労時間

 

※就業規則におけるより詳細な規定方法や注意点については、筆者の以下の書籍で解説していますのでご参照ください。

労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

 

(3)休業・休暇の場合

休業や休暇にも、基本的にはノーワーク・ノーペイの原則が適用されます。

産前産後休業や育児休業、介護休業、子の看護等休暇など、法律で定められた休暇や休業であっても、基本的に賃金を支払う必要はありません。ただし、就業規則などでこれらの休暇を有給と定めることもできます。就業規則で有給とした場合は、賃金を支払う義務が生じます。

これに対し、ノーワーク・ノーペイの原則の例外となるのが、以下の3つの場合です。

 

1,年次有給休暇

年次有給休暇(有給休暇)とは、6か月以上継続勤務した従業員に対して付与される、賃金が支給される休暇のことをいいます(労働基準法39条)。有給休暇の日の賃金の支給については、法律上認められる3つの方法から1つを選択して就業規則等で定める必要があります(労働基準法39条9項)。

 

▶参考情報:有給休暇について詳しくは以下の記事をご覧ください。

有給休暇とは?労働基準法第39条に基づく付与日数や繰越のルールなどを解説

 

2,会社の都合による休業

材料の調達ができずに工場の製造ラインが止まった等、会社の都合による休業が発生した場合は、無給とすることはできません。この場合、会社は平均賃金の6割以上の金額を休業手当として支払う必要があります(労働基準法26条)。

 

▶参考:労働基準法26条

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

3,会社の責に帰すべき事由による就労不能

従業員が働けなかった理由が会社の責任によるものである場合は、民法536条2項により、会社は賃金全額の支払い義務を負うことが原則です。

例えば、会社に責任がある業務災害やハラスメントで従業員が働けなかった期間については、ノーワーク・ノーペイではなく、賃金を支払う義務があります。

 

6,賃金不払いの場合にどんな罰則があるのか?

賃金不払いについては労働基準法で罰則が定められています。

 

(1)賃金不払いについての罰則

賃金の不払いは、賃金支払いの5原則の1つである「全額払いの原則」に対する違反となり、30万円以下の罰金の対象となります(労働基準法120条1号)。

たとえば、法律で定められた手続きを経ずに、賃金の一部として自社の商品を渡すことで現物支給とした場合や、会社の備品を壊した従業員の給料から修理費を天引きした場合なども、同様に賃金支払いの5原則(労働基準法24条)違反になります。

賃金の不払いが発生していても、長期間にわたり多額の不払いがあったり、労基署の調査や是正勧告に従わなかったりする等の悪質なケースでなければ、いきなり刑事罰を受けることはあまり無いといえます。

労基署の調査や是正勧告を受けてしまった場合は、速やかに適切に対処する必要があります。

 

▶参考情報:労基署の調査や是正勧告への対応は以下で解説していますのでご参照ください。

労働基準監督署の調査と是正勧告を乗り切る2つのこつを弁護士が解説

 

(2)休業手当の不払いについての罰則

会社の都合による休業の際は休業手当を支払う義務があり(労働基準法26条)、休業手当の不払いは、30万円以下の罰金の対象となります(労働基準法120条1号)。

 

(3)割増賃金の不払いについての罰則

割増賃金の不払いについては、他の賃金の不払いと比較して特に重い罰則が定められています。使用者が割増賃金を正しく支給していない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が罰則として科されます(労働基準法119条1号)。

 

7,未払賃金の請求権の時効

未払いの賃金がある場合、労働者は使用者に対して賃金の支払いを請求することができます。ただし、賃金請求権については労働基準法で時効が定められており、賃金支払期日の翌日から3年で時効にかかります(労働基準法115条、附則143条3項)。

従来は、この時効期間が2年でしたが、2020年4月1日施行の労働基準法改正で、5年に延長されました。ただし、当分の間は、退職金請求権のみ5年の時効期間で、その他の賃金請求権の時効期間は3年とされています(労働基準法附則143条3項)。

 

賃金の種類 請求権の消滅時効期間
支払期日が2020年4月1日より前の賃金 2年間
支払期日が2020年4月1日以降の賃金 3年間
退職金 5年間

 

時効期間が経過した賃金については、事業者が時効の完成を主張すれば、原則として支払義務はなくなります。時効の期間については、労働基準法改正による変更も議論されており、今後の動向に留意が必要です。

 

▶参考情報:労働基準法改正に関する動向については以下もご参照ください。

【2024年最新版】労働基準法の改正の一覧!年別に詳しく解説

 

▶参考情報:労働基準法115条

第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

 

▶参考情報:附則143条3項

第百四十三条
(省略)
③第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

8,賃金は減額できる?労働基準法の減給のルール

賃金の減給については、「労働条件の不利益変更による減給」と「懲戒処分としての減給」にわけてそれぞれルールを解説します。

 

(1)労働条件の不利益変更

使用者が労働者の賃金を減額することは、「労働条件の不利益変更」の1つであり、一定のルールのもと認められます。適法に賃金を減額することができるケースとして以下の例をあげることができます。

 

  • 従業員ごとに個別に同意を得て不利益変更を行う場合
  • 就業規則を変更することにより労働条件の不利益変更を行う場合
  • 労働組合との間で労働協約を締結し、労働条件の不利益変更をする場合
  • 人事考課に基づく等級の引き下げにより給与を減額する場合
  • 降格に伴い従業員の給与を減額する場合

 

▶参考情報:このような労働条件の不利益変更による賃金の減額についてのルールの詳細は以下で解説していますのでご参照ください。

労働条件の不利益変更とは?5つの方法と注意点を解説

 

(2)懲戒処分としての減給

また、従業員に非違行為があった場合、従業員に対する懲戒処分の1つとして、賃金を減額する「減給」の処分を行うことができます。

懲戒処分として減給を行うためには、就業規則に減給処分の内容や減給処分の対象となる懲戒事由を、あらかじめ定めておく必要があります。また、減給の懲戒処分は無制限にできるのではなく、労働基準法91条で以下のとおり限度額が定められています。

 

  • 減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
  • 1か月の減給の総額が1か月の給与額の10分の1を超えてはならない

 

▶参考情報:懲戒処分としての減給については以下の記事で説明していますのでご参照ください。

減給とは?法律上の限度額は?労働基準法上の計算方法などを解説

 

9,賃金トラブルに関して弁護士に相談したい方はこちら【事業者向け】

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に咲くやこの花法律事務所における賃金についてのトラブルの対応に関する事業者向けサポート内容をご紹介させていただきたいと思います。

 

(1)賃金トラブルに関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、賃金に関し、以下のような様々なご相談を事業者から承っています。

 

  • 就業規則や賃金規程などの作成・見直し
  • 従業員や退職者からの未払賃金請求、未払い残業代請求に関する相談・対応
  • 問題社員への減給処分や降格、賃金減額に関する相談・対応

 

特に未払い残業代請求に関するトラブルや、問題社員対応に関するトラブルは、対応が長期化するほど事業者の負担が大きくなります。早い段階で専門の弁護士にご相談いただき、訴訟など大きなトラブルになる前に解決することが事業者の利益になります。咲くやこの花法律事務所は、労働問題の専門家として、事業者側の立場でこれらの分野の相談対応、交渉対応、訴訟対応を行ってきた豊富な実績があります。お困りの際は咲くやこの花法律事務所に早めにご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労務分野に強い弁護士への相談費用

  • 初回相談料 30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
  • 未払い残業代トラブルの際の従業員との交渉:着手金15万円程度+税~

 

(2)顧問弁護士サービス

咲くやこの花法律事務所では、人事労務全般について事業者をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しています。

賃金の支払いに関する労使トラブルを未然に防ぐためには、就業規則の整備や、労働時間管理・労務管理の整備を日頃から進める必要があります。

咲くやこの花法律事務所の人事労務に強い弁護士に日頃からご相談いただくことで、適切なサポートを受けながら、労使紛争の起きにくい、トラブルに強い企業体制作りを進めることができます。

顧問契約ご検討の事業者様には、咲くやこの花法律事務所の弁護士が面談・Zoom・電話等により、顧問契約によるサポート内容を無料で直接ご案内しております。お気軽にお問い合わせください。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下で詳しく説明していますのでご参照ください。

 

 

(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

 

10,まとめ

労働基準法で定める賃金とは、賃金、給料、手当、賞与、その他どのような名称でも労働の対償として事業主が労働者に支払うもの全てをいいます(労働基準法11条)。

賃金は、毎月1回以上の一定の期日に、その全額を通貨で直接労働者に支払わなければならないと労働基準法で定められており、これに違反すると罰金刑の対象になります。

また、賃金の支払い額が国が定める最低賃金に満たない場合や、時間外労働や休日・深夜労働をさせたのに割増賃金を適切に支払っていない場合等には、従業員から未払賃金を請求されてトラブルになるおそれがあります。

こういったトラブルは企業にとって大きな負担となりますので、日頃から労務管理を適切に行うことが重要です。咲くやこの花法律事務所では、賃金トラブルへの対応や賃金トラブルを防ぐための労務管理の整備について専門的なサポートを提供しています。お困りの際はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

11,【関連】賃金など労働基準法に関するその他のお役立ち記事

この記事では、「労働基準法における賃金のルールとは?定義や原則、計算方法などを解説」について、わかりやすく解説しました。労働基準法には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する労働基準法のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

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記事作成日:2024年8月20日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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    発売日:2023年11月19日
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    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
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