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労働基準法に定められた退職のルールについて詳しく解説

労働基準法に定められた退職のルールについて詳しく解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

従業員が退職する場合のルールについて正しく理解できていますか。退職には大きくわけて、以下の2つがあります。

 

  • 会社の承諾を得て退職する場合(合意退職)
  • 会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)

 

このどちらにあたるかによって適用されるルールも異なります。

そして、このうち、会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)については、労働者の権利が保障されています。退職のルールについて正しく理解せずに対応してしまうと、退職妨害やパワハラと評価されてしまい、後にトラブルに発展してしまうことがあります。退職についての法律上のルールをしっかり確認しておくことが大切です。

この記事では、退職に関して会社が守らなければならない法律上のルールや退職に伴う労働者の義務などについて解説しています。この記事を最後まで読んで、ルールを正しく理解し、退職時のトラブルを防いでいきましょう。

 

【弁護士西川暢春のワンポイント解説】

退職は従業員の権利であり、会社側が従業員の退職を認めないことは原則としてできません。会社としては、新人の教育に多大な時間と費用をかけていたり、人員不足などの事情があったりして、従業員の退職に納得が行かないケースもあるでしょう。

そういった場合も、自社で対応する前に、弁護士からのアドバイスをもらうことが大切です。退職時は労使トラブルが起こりやすい場面ですので、トラブルを防止するため、またはトラブルを拡大させないために、まずは労務問題に精通した弁護士に相談してください。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士へのご相談についての詳細は以下をご参照ください。

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1,労働基準法に定められた退職のルールとは?

冒頭でご説明したように退職には大きくわけて、以下の2つがあり、このどちらにあたるかによりルールも大きく異なります。

 

  • 会社の承諾を得て退職する場合(合意退職)
  • 会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)

 

(1)会社の承諾を得て退職する場合(合意退職)

従業員が退職を申し出て会社の承諾を得て退職をするのが合意退職(合意解約)です。通常の退職はこれにあたります。この合意退職は、会社と従業員の合意により雇用契約を終了させるものであり、労働基準法や民法に特別なルールが定められているわけではありません。

ただし、就業規則の作成義務がある会社では、合意退職についてのルールを就業規則に定めることが必要です(労働基準法89条3号)。例えば、以下のような規定がおかれることが多いです。

 

▶参考:合意退職に関するよくある就業規則例

「従業員が退職日の30日以上前に退職を願い出て会社がこれを承諾したときは、退職とする。」

 

※退職についてのより適切な規定例は以下の書籍で解説していますのでご参照ください。

書籍「労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック」

 

(2)会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)

合意退職とは違い、会社の承諾なく、従業員からの一方的な通知により退職するのが辞職です。いわゆる退職代行サービスを利用した退職はこれにあたることが多いでしょう。この辞職(一方的な退職)についてのルールは、労働基準法ではなく民法によって定められています。その内容は以下の通りです。

 

1,雇用期間を定めずに雇用された無期雇用の従業員の場合(正社員など)

労働者はいつでも辞職(一方的な退職)の通知をすることができ、その場合、2週間後に雇用契約が終了して退職となります(民法第627条1項)。

 

2,雇用契約を定めて雇用される有期雇用の従業員の場合(契約社員、嘱託社員、有期パート社員など)

労働者は、雇用契約の期間中は原則として辞職(一方的な退職)をすることができません。

ただし、「やむを得ない事由」があるときは、雇用期間中であっても直ちに辞職(一方的な退職)をすることができます(民法第628条)。この「やむを得ない事由」が労働者の過失によって生じた場合は、会社は従業員に損害賠償を請求することができます(民法第628条)。一方、有期雇用の期間が1年を超えるときは、雇用契約の初日から1年が経過すれば、期間の途中であってもいつでも辞職(一方的な退職)をすることができます(労働基準法附則第137条)。

会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)についてのルールをまとめると以下の通りです。

退職に関する法律上のルール

 

(3)合意退職と辞職の区別

このように合意退職か辞職かで適用されるルールが異なります。合意退職については会社が就業規則で自由にルールを決めることができるのに対し、辞職については民法のルールに従う必要があります。

そこで合意退職か辞職かの区別の方法が問題になりますが、この点については、会社の承諾の有無にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる意思が客観的に明らかな場合に限り、辞職の意思表示として扱い、それ以外は全て合意退職の申し込みであると扱われます。つまり、合意退職の申し込みが原則です。この点について述べた裁判例として例えば以下のものがあります。

 

参考:大阪地方裁判所判決平成10年7月17日(大通事件等)

「辞職の意思表示は、生活の基盤たる従業員の地位を、直ちに失わせる旨の意思表示であるから、その認定は慎重に行うべきであって、労働者による退職又は辞職の表明は、使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合に限り、辞職の意思表示と解すべきであって、そうでない場合には、雇用契約の合意解約の申込みと解すべきである。」

 

2,何日前から退職の予告が必要?2週間ルールについて

何日前から退職の予告が必要?2週間ルールについて

ここまでご説明した通り、会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)については、無期雇用の従業員か有期雇用の従業員かで、法律上のルールが異なります。以下で順番にご説明します。

 

(1)正社員など無期雇用の従業員の場合は2週間の予告期間が必要

正社員など無期雇用の従業員が会社の承諾なく一方的に退職する場合は、2週間の予告期間が必要となります(民法第627条1項)。

この民法の規定は、使用者による不当な人身拘束を防ぐ趣旨のものであり、会社が就業規則等で2週間より長い予告期間を定めることはできません(福岡高等裁判所判決平成28年10月14日等)。そして、会社が退職を承諾しない場合であっても、辞職の通知から2週間経てば雇用契約は終了します。

一方で、従業員が辞職の通知をした後に2週間の経過を待たずに職場を離脱した場合、有給休暇等の権利の行使によるときなどを除き、会社に対する損害賠償責任が発生することがあります。

 

▶参考:民法第627条1項

「第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」

・参照元:「民法」の条文はこちら

 

(2)契約社員、嘱託社員、有期パート社員など有期雇用の従業員の場合

一方で、有期雇用の従業員が会社の承諾なく一方的に退職する場合は、予告期間は不要であり、直ちに辞職することができます(民法628条)。ただし、雇用契約の途中での一方的な退職は「やむを得ない事由」がある場合に限られます。

この「やむを得ない事由」とは、約束された契約期間があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに退職させざるを得ないような特別の重大な事由をいうと理解すべきでしょう。具体的には、会社側の給与未払いがあったり、重大なパワハラといった事情があれば、これに該当することがあると考えられます。

 

▶参考:民法628条

「第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」

・参照元:「民法」の条文はこちら

 

ただし、有期雇用の期間が1年を超えるときは、雇用契約の初日から1年が経過すれば、「やむを得ない事由」がなくても、従業員はいつでも辞職(一方的な退職)をすることができます(労働基準法附則第137条)。

 

▶参考:労働基準法附則137条

「第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。」

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

(3)就業規則で3か月前に申入れが必要と定めている場合

では、就業規則で「退職する際は3か月以上前に申入れが必要」などと定めている場合はどうでしょうか。

前述の通り、民法の辞職の規定は、使用者による不当な人身拘束を防ぐ趣旨のものであり、会社が就業規則等で2週間より長い予告期間が必要であると定めることはできません。そのため、上記のように就業規則で定めても、就業規則より民法627条1項が優先され、辞職の通知をしてから2週間たてば雇用契約は終了します。

ただし、民法627条1項は辞職(一方的な退職)について適用される規定であり、通常の退職である合意退職には適用されません。そのため、合意退職について、引継ぎ等に要する期間も踏まえて「退職する際は3か月以上前に申入れが必要」などと定めることは特に問題ありません。

 

3,退職時の有給休暇の扱いについて

従業員が退職する際に有給休暇の権利が残っている場合、退職日までの残りの日数で有給休暇を消化したい、と言われることがあります。引継ぎなどに支障がでてしまう場合に会社がこれを拒否することは可能なのでしょうか。

 

(1)退職日までの間の有給休暇申請は拒否はできない

退職の申入れから退職日までの期間において有給休暇を申請された場合、会社は原則として拒否することができません。

これは、労働基準法上、会社が従業員の有給休暇の取得を拒めるケースは、会社が時季変更権を行使できる場合に限られるためです。

時季変更権とは、従業員から指定された日に有給休暇を取得されると事業の正常な運営に支障が生じるといった場合に、会社が従業員の有給取得日を変更することができる権利です。労働基準法第39条5項において「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」として時季変更権が定められています。

この時季変更権の行使は、他の日に有給休暇を取得させることができることが前提です。退職前の有給消化の場面では、退職後に有給休暇を取得することはできないので、時季変更権の行使はできません。つまり、十分に引継ぎの日数がなかったとしても、退職する従業員から有給休暇の申請があった場合、会社は拒否できないのです。

 

▶参考情報:労働基準法上の有給休暇のルールや時季変更権については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

有給休暇とは?労働基準法第39条に基づく付与日数や繰越のルールなどを解説

有給休暇の時季変更権とは?わかりやすく解説

 

(2)退職時に有給休暇を買い取ることは可能

有給休暇は現実に与えなければならず、買い取りは、原則として認められていません(労働基準法第39条1項)。

 

▶参考:労働基準法第39条1項

第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

ただし、従業員が退職する際に、消化しきれなかった有給休暇を買い取ることについては、有給休暇の権利を妨げるものではなく、問題ありません。一方で、有給休暇の買い取りは義務ではありませんので、従業員から買い取ってほしいと言われた場合でも、会社側は拒否することができます。

 

4,退職時の引き止めは可能?

では、従業員から退職の申入れがあった際に、会社側が退職の引き止めをすることは問題ないのでしょうか。

結論から言えば、退職を妨害することにならない範囲で、従業員に会社に残るように説得したり、退職日を先にするように交渉することは可能です。ただし、「2,何日前から退職の予告が必要?2週間ルールについて」で説明したとおり、無期雇用の従業員については、法律上、会社の承諾なく退職することができることに注意してください。

なお、「退職するのであれば損害賠償を請求する」と告げたり、「懲戒解雇する」などと脅すことは当然違法です。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

従業員から退職を申し出られた場合に、会社に残ってもらえるように交渉する(慰留する)ことは違法ではありません。中には、従業員が退職を申し出た場合に一度は慰留することが通常という考え方で対応されている会社もあります。しかし、退職を引き止めようとすることは、仮にそれが「交渉」であっても、従業員から見た場合に「退職を認めてもらえない」と受け止められる例が少なくなく、それが退職代行サービスの流行の背景にもなっています。筆者としては、従業員が退職を申し出ている以上、引き止めるというのは時代にあっていないと考えます。

 

5,試用期間中に退職されたときの対応について

では、試用期間中に退職の申入れがあった場合は、どのように対応するべきでしょうか

 

(1)試用期間中であっても退職のルールは同じ

試用期間中であっても、退職のルールは同様です。原則は合意退職であり、これについては就業規則のルールに沿って対応することになります。

これに対し、会社の承諾なく従業員からの一方的な通知により退職する辞職については、前述の民法第627条1項が適用されます。無期雇用の従業員は、試用期間中であっても、退職申入れから2週間が経過すれば退職することができます。一方、試用期間中は有期雇用となっている場合は、理屈上は、期間中は会社の承諾なく退職できません。ただし、やむを得ない事由があれば直ちに退職することが可能です(民法628条)。

 

(2)試用期間中の退職の申入れがあった時の対応について

試用期間中に退職の申し入れがあった場合、会社としては、試用期間中の教育にかかった費用や労力が無駄になってしまい、損害賠償の請求をしたいと考えてしまうこともあるかもしれません。

しかし、前述した通り、特に無期雇用の従業員については、退職は労働者の自由であり、原則として損害賠償請求は認められません。会社としては、試用期間中の退職が続くような場合には、新人従業員の教育方法について再度見直しをしたり、新しく入社した人が定着しやすい環境作りをするなどの改善を検討することが必要です。

 

6,退職に関する従業員の義務

退職については従業員も、退職にあたって会社の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負います。退職に関する従業員の義務として以下の点があげられます。

 

(1)予告義務

無期雇用の従業員が会社の承諾なく一方的に退職する場合は、2週間前の予告が必要です。予告をせずに職場離脱し、会社に損害を与えた場合、会社に対する損害賠償責任が発生します。

 

参考裁判例:福岡地方裁判所判決平成30年9月14日

運転手がトラック内に退職する旨の書き置きを残して失踪したため、会社が失踪により被った損害の賠償を求めた事案です。運転手は過重労働やパワハラに耐えかね緊急避難的に失踪したから責任を負わないと反論しましたが、裁判所は、事前に退職の意思を伝えることができないほどの緊急性はなかったと判断し、運転手に賠償を命じました。

 

(2)引継ぎの義務

従業員は退職に際し、自分が担当していた業務について退職後に支障が生じないように適切な引継ぎをする義務を負います。例えば、それまでの成果物の引渡しや業務継続に必要な情報の提供などを行う義務があります。このような義務を負うことは、従業員が退職代行を利用して一方的な通知により退職しようとする場合でも同様です。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

退職の場面における従業員の義務について、知財高等裁判所判決平成29年9月13日は以下の通り判示しています。

 

▶参考裁判例:知財高等裁判所判決平成29年9月13日

「雇用契約において、労働者は、使用者に対し、上記労務提供義務に付随して、当該労務の提供を誠実に行い、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負うものといえるところ、このような労働者の誠実義務からすれば、被控訴人が職を辞して労務の提供を停止するに当たっては、使用者である控訴人に対し、所定の予告期間を置いてその旨の申入れを行うとともに、自らが担当していた控訴人の業務の遂行に支障が生じることのないよう適切な引継ぎ(それまでの成果物の引渡しや業務継続に必要な情報の提供など)を行うべき義務を負っていたものというべきである。」

・参照:「知財高等裁判所判決平成29年9月13日」の判決内容はこちら

 

(3)会社の正当な利益を不当に侵害しない義務

以下のような行為は会社の正当な利益を不当に侵害するとして、退職者が会社に損害賠償責任を負う理由となりえます。

 

  • 虚偽の引継ぎ資料を作ったり、退職にあたりこれまでの成果物を削除するなどして、会社の業務を妨害する行為
  • 会社に損害を被らせる目的で、一斉に退職する行為
  • 退職にあたり会社の機密情報を持ち出す行為

 

また、退職時に電子データや電子メールを一斉に削除する行為は、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)に該当することがあります。

 

▶参考:刑法234条の2

(電子計算機損壊等業務妨害)
第二百三十四条の二 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

 

7,引継ぎなしの退職によるトラブルについて

退職時のトラブルとして多いのが、従業員が引継ぎを十分にせずに退職してしまうパターンです。ここでは、退職時の引継ぎに関するトラブルについて、裁判例を2つご紹介します。

 

(1)引継ぎもなく突然失踪した従業員に対して、480万円の損害賠償請求が認められた事例

 

裁判例:知財高等裁判所判決平成29年9月13日

 

●事案の概要

ソフトウェア開発会社にプログラマ―として入社した従業員が、会社の社長から仕事の内容について注意をされたことで、自分が管理していた開発データを持ち出し、引継ぎを行うことなく失踪し、他の競業企業に就職したという事案です。これを受けて、会社はこの従業員に対して損害賠償を請求しました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、従業員は退職の際には所定の予告期間をおいて申し入れ、担当していた業務の遂行に支障が生じないように適切に引継ぎを行う義務を負っていたところ、これらをせずに失踪して会社に連絡もしなかったことは、労務提供義務違反および誠実義務違反であるとして、480万円の損害賠償を命じました。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

この裁判例では、会社がこの従業員の退職後に実態調査のためにこの従業員に貸与していたパソコンの調査を外注した際の調査費用などについて、従業員の損害賠償責任を認めています。このような事案で会社側が引継ぎがなかったことを理由に損害賠償を請求する場合は、引継ぎがなかったことで発生した金額を具体的に計算し、従業員の義務違反との因果関係を証明する必要があります。

 

(2)引継ぎなく退職したとして従業員に1270万円の損害賠償を請求した会社が、逆に慰謝料110万円の支払を命じられた事例

 

裁判例:横浜地方裁判所平成29年3月30日・プロシード元従業員事件

 

●事件の概要

システムエンジニアとして勤務していた従業員が、躁うつ病を理由に退職したことについて、会社が躁うつ病は捏造であり、引継ぎも行わなかったとしておよそ約1270万円の損害賠償を請求した事件です。従業員はこれに対して、会社による訴訟の提起により精神的苦痛を受けたとして、会社に330万円の損害賠償を請求する反訴を提起しました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、躁うつ病が捏造されたとは認めず、また、業務の引継ぎがなかったことによる会社の損害も認められないとして、会社側の請求を認めませんでした。一方で、従業員からの反訴については、会社側は、この従業員の退職によって会社が主張するような損害が生じ得ないことが分かっていたにもかかわらず、従業員の年収の5年分にも相当する約1270万円もの金額を請求しており、これは不法行為にあたるとして、会社に慰謝料110万円の支払を命じました。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

この裁判例では、会社による損害賠償請求が認められなかったにとどまらず、損害がないと分かっていながら多額の損害賠償請求の訴訟を提起したこと自体が不法行為と判断されています。こういったことにならないためにも、引継ぎトラブルが発生した際に会社として従業員に対する損害賠償請求等を検討している場合は、必ず弁護士に相談し、感情的にならず冷静に判断することが必要です。

 

8,パート・アルバイトの退職について

パートやアルバイトであっても、退職のルールは同様です。

また、パート・アルバイトにも有給休暇の権利はあるため、有給休暇の申請があった場合は、使用者側がこれを拒むことはできません。

 

▶参考:週の所定労働日数が4日以下のアルバイトやパート社員の有給休暇の日数

週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
雇入れ日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
4日 169日~216日 7 8 9 10 12 13 16
3日 121日~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日 73日~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日 48日~72日 1 2 2 3 3 3

 

 

9,従業員の退職に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

ここまで従業員の退職についてのルールを説明しました。咲くやこの花法律事務所では、人事労務のトラブルや日頃の労務管理について、企業側の立場で多くのご相談をお受けして、顧問先企業をサポートしてきました。最後に咲くやこの花法律事務所のサポート内容についてもご紹介します。

 

(1)退職時のトラブルに関するご相談

咲くやこの花法律事務所では退職時のトラブルについて企業側の立場で常時ご相談をお受けしています。退職時は労使間でトラブルが起こりやすい場面です。こういった場面で初動の対応を誤ってしまうと、防げたかもしれないトラブルが拡大してしまい、最悪は訴訟トラブルに発展するおそれがあります。そうなると、会社として、多大な費用や時間、労力を消費することになります。退職時のトラブルはなるべく早い段階でご相談ください。咲くやこの花法律事務所の弁護士がこれまでの経験を生かしてご相談をお受けし、サポート・解決します。

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(2)顧問弁護士によるサポート

咲くやこの花法律事務所では、企業向け、事業者向けに顧問契約サービスを提供しています。顧問弁護士を依頼することで、退職トラブルを防止するための就業規則の作成などの日頃からの労務管理や、いざトラブルが発生した際の対応など、幅広くサポートを受けることができます。

咲くやこの花法律事務所では顧問弁護士サービスを検討されている企業、事業者の方向けに、弁護士が事業の実情をお聴きして顧問契約の内容を説明する無料面談を行っています。事務所にお越しいただいて実際に弁護士に会っていただいてご説明することも可能ですし、電話やzoomで弁護士からご説明することも可能です。顧問弁護士を検討している企業様は、気軽にお問い合わせください。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下で詳しく説明していますので、ご覧ください。

 

 

(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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10,まとめ

この記事では、退職における法律上のルールについて解説しました。退職には大きくわけて、以下の2つがあります。

 

  • 会社の承諾を得て退職する場合(合意退職)
  • 会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)

 

このうち、会社の承諾なく一方的に退職する場合(辞職)のルールは、民法によって以下の通り定められています。

 

●期間の定めのない雇用契約の場合

労働者はいつでも退職の申入れをすることができ、申入れから2週間たてば、使用者の承諾がなくても雇用契約が終了する(民法第627条1項)。

 

●期間の定めのある雇用契約の場合

労働者は、やむを得ない事由があるときに限り、期間満了前に退職することができる(民法第628条)。ただし、雇用契約の初日から1年経過した日以降は、労働者はいつでも退職することができる(労働基準法附則第137条)。

 

また、試用期間中であっても、退職のルールは同様となるので、新人教育にかかった費用などを損害賠償請求することは原則としてできません。

退職時は労使間トラブルが非常に起こりやすい場面です。すこしでも不安な点があったり、実際にトラブルが発生した際は、労使トラブルに精通した弁護士に相談することをおすすめします。咲くやこの花法律事務所でも人事労務トラブルに精通した弁護士がご相談をお受けしますのでご利用ください。

 

11,【関連】退職など労働基準法に関するその他のお役立ち記事

この記事では、「労働基準法に定められた退職のルールについて詳しく解説」について、わかりやすく解説しました。労働基準法には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する労働基準法のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

労働基準法違反とは?罰則や企業名公表制度について事例付きで解説

試用期間とは?労働基準法におけるルールや注意点を詳しく解説

労働基準法第24条とは?賃金支払いの5原則について詳しく解説

就業規則と労働基準法の関係とは?違反する場合などを詳しく解説

労働条件の明示義務とは?労働基準法15条の明示事項やルール改正を解説

労働基準法について弁護士に相談すべき理由とは?わかりやすく解説

労働基準法施行規則とは?2024年4月の改正についても詳しく解説

休日出勤とは?割増賃金の計算、回数の上限など労働基準法のルールについて

残業代とは?労働基準法のルールや計算方法、未払いのリスクについて

割増賃金とは?労働基準法第37条や時間外・休日・深夜の計算方法を解説

労働基準法で定められた休日とは?年間休日の日数は最低何日必要か?

労働基準法34条の休憩時間!必要な時間など法律上のルールを解説

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2024年6月26日

 

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    遅刻が多い勤怠不良の従業員を解雇できる?重要な注意点を解説

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    企業法務に強い弁護士紹介

    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
    池内 康裕 弁護士
    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
    片山 琢也 弁護士
    片山 琢也(かたやま たくや)
    大阪弁護士会/京都大学法学部
    堀野 健一 弁護士
    堀野 健一(ほりの けんいち)
    大阪弁護士会/大阪大学
    所属弁護士のご紹介

    書籍出版情報


    労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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