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労働条件の明示義務とは?労働基準法15条の明示事項やルール改正を解説

労働条件の明示義務とは?労働基準法15条の明示事項やルール改正を解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

労働基準法第15条1項により、すべての事業者は従業員を採用する際にその従業員に労働条件を明示することが義務付けられています。この義務の内容を正しく理解し、正しく実施することは労務トラブルを防ぐために非常に重要です。筆者自身、この義務を正しく実施できていれば防げたであろうトラブル事例のご相談を数多く経験してきました。明示をいつすべきか、就業規則との関係はどうなるのかなどについても、誤解が多いと感じます。

この記事では、労働条件の明示義務の具体的な内容や明示の方法について詳しく解説します。記事を最後まで読めば、義務を正しく履行して、労務トラブルの危険を減らすことができます。

それでは見ていきましょう。

 

この記事は、令和6年4月の労働基準法施行規則改正に対応しています。改正の内容の詳細は以下もあわせてご参照ください。

▶参考情報:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

令和6年4月の労働基準法施行規則改正により、労働条件の明示が義務付けられる項目が追加されました。改正前の労働条件通知書や雇用契約書のひな形は見直しが必要です。そして、この追加された明示義務にどのような方法で対応するかは、解雇や雇い止めの効力、私傷病休職からの復職、同一労働同一賃金ルールや無期転換ルールへの対応といった幅広い場面に影響します。自己流で対応するのではなく、人事労務に精通した専門家のサポートを受けて対応することをおすすめします。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。

 

▼労働条件の明示義務について今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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1,労働条件の明示義務とは?

労働条件の明示義務とは?

労働条件の明示義務とは、使用者が労働契約を締結する際に、労働者に対し、賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならない義務のことをいいます。労働基準法第15条1項により定められています。正社員だけでなく、パート・アルバイト等の非正規雇用者も含む全ての労働者が対象です。

多くの企業において、労働条件通知書を交付するか、雇用契約書を作成する方法で、この労働条件の明示義務に対応しています。

 

▶参考情報:雇用契約書については以下の記事で解説していますのでご参照ください。

雇用契約書とは?正社員用の書き方など作成方法を弁護士が解説【雛形テンプレート付】

 

2,労働基準法第15条とは?違反したらどうなる?

労働基準法第15条は、労働条件の明示義務について定める条文です。使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないことを定めています。

 

(1)労働基準法第15条の根拠条文

労働基準法第15条のうち第1項が労働条件の明示について定める部分です。

 

▶参考情報:労働基準法第15条

① 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

(2)労働基準法第15条に違反した場合の罰則

使用者が明示すべき労働条件を明示しない場合や、法令上義務付けられた方法で明示しない場合には、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第120条第1号)。

 

▶参考情報:労働基準法第120 条第1 号

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第十四条、第十五条第一項若しくは第三項、第十八条第七項、第二十二条第一項から第三項まで、第二十三条から第二十七条まで、第三十二条の二第二項(第三十二条の三第四項、第三十二条の四第四項及び第三十二条の五第三項において準用する場合を含む。)、第三十二条の五第二項、第三十三条第一項ただし書、第三十八条の二第三項(第三十八条の三第二項において準用する場合を含む。)、第三十九条第七項、第五十七条から第五十九条まで、第六十四条、第六十八条、第八十九条、第九十条第一項、第九十一条、第九十五条第一項若しくは第二項、第九十六条の二第一項、第百五条(第百条第三項において準用する場合を含む。)又は第百六条から第百九条までの規定に違反した者

・参照元:「労働基準法」の条文はこちら

 

3,労働条件の明示はいつしなければならないか?

労働条件の明示が義務付けられるタイミングは、労働基準法第15条1項により「労働契約の締結」の際であると定められています。そして、裁判例上、多くのケースでは、従業員に採用の内定を出した時点で労働契約の締結と評価されます。そのような場合は、内定時に労働条件の明示義務が発生します。厚生労働省の通達においてもこの点が示されています(平成29年12月20日 基監発1220第1号)。入社後ではなく内定の段階で労働条件を明示することはトラブル防止のためにも重要です。

 

 

(1)有期雇用契約を更新する場合

労働基準法15条1項にいう「労働契約の締結に際し」には、新しく従業員を採用する場合だけでなく、有期雇用契約の期間満了に伴い、契約を更新する場合も含みます。使用者は、有期雇用契約の更新の際にも、従業員に対して、更新後の労働条件を明示する義務を負います。

 

(2)定年後再雇用の場合

労働基準法15条1項にいう「労働契約の締結に際し」には、正社員として雇用していた従業員が定年に達した後、再雇用する場合も含みます。使用者は、定年後に従業員を再雇用する際にも、従業員に対して、再雇用後の労働条件を明示する義務を負います。

 

▶参考情報:定年後再雇用における労働条件の注意点については以下の記事をご参照ください。

【再雇用契約書ひな形付き】定年後再雇用や嘱託社員の労働条件の注意点

 

(3)在籍出向の場合

従業員を自社に在籍させたまま他社に出向させる在籍型出向のケースでは、下図のように出向先と出向者の間でも労働契約が成立することになります。そのため、出向先は出向を受け入れるにあたり、労働基準法15条1項に基づき、出向者に対して労働条件を明示する義務を負います。

 

▶参考:在籍型出向の法律関係

在籍型出向の法律関係

 

4,労働条件の明示が義務づけられる事項(労働条件通知書の記載事項)

前述の通り、多くの企業において、労働条件通知書を交付するか、雇用契約書を作成する方法で、労働基準法第15条1項の明示義務に対応しています。そのため、労働条件通知書や雇用契約書を作成する際は、労働基準法第15条1項により明示が義務付けられる事項を意識して、これらが網羅的に記載されたものを作成する必要があります。

労働基準法15条1項により明示が義務付けられている事項は、労働基準法施行規則第5条1項に規定されています。具体的な明示事項は以下の通りです。

 

(1)労働条件の明示事項

  • ①労働契約の期間に関する事項
  • ②有期労働契約については更新する場合の基準に関する事項(上限の定めがある場合はその内容を含む)
  • ③就業の場所及び従業すべき業務に関する事項(雇用期間中の変更の範囲を含む)
  • ④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
  • ⑤賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • ⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  • ⑦退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  • ⑧臨時に支払われる賃金、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  • ⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • ⑩安全及び衛生に関する事項
  • ⑪職業訓練に関する事項
  • ⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • ⑬表彰及び制裁に関する事項
  • ⑭休職に関する事項
  • ⑮契約期間内に無期転換申込権が発生する場合は、無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件の内容

 

上記の項目のうち、①と③~⑦が全ての場合に必ず明示しなければならない絶対的明示項目です。⑦~⑭については、使用者がこれらの点について定めをする場合にのみ明示が求められます。また、②については、有期雇用契約の場合にのみ明示が求められます。⑮については、有期雇用契約でかつ契約期間内に無期転換申込権が発生する場合にのみ明示が求められます。

 

▶参考情報:労働基準法施行規則第5条1項

使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約(以下この条において「有期労働契約」という。)であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間(労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十八条第一項に規定する通算契約期間をいう。)又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項

・参照元:厚生労働省「令和5年3月30日厚生労働省令第39号」(pdf)

 

5,労働条件の明示は口頭ではなく書面でしなければならないことが原則

上記の「(1)労働条件の明示事項」でご説明した明示事項のうち、 「①労働契約の期間に関する事項」~「⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)」の事項(「⑤賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」の事項のうち昇給に関する事項を除く)については、原則として書面の交付により明示しなければなりません(労働基準法施行規則第5条4項)。

書面の様式について特に決まりはありませんが、厚生労働省のモデル労働条件通知書を利用することで、漏れのない明示が可能です。厚生労働省のモデル労働条件通知書は、以下からダウンロードが可能です。

 

 

ただし、例外として労働者が希望する場合は、書面の交付ではなく、メールやFAXで明示することも可能です(労働基準法施行規則第5条4項但し書き)。

 

▶参考情報:労働基準法施行規則第5条4項

法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

・参照元:「労働基準法施行規則」の条文はこちら

 

6,就業規則のコピーの交付による労働条件の明示も可能

労働条件の明示義務を果たす方法としては、労働条件通知書や雇用契約書によらずに、就業規則のコピーを交付することによって明示することも可能であるとされています。ただし、就業規則のコピーの交付により明示義務を果たすためには、その労働者に適用する部分を明確にしたうえで交付しなければなりません(▶参考情報:厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律の施行について(◆平成11年01月29日基発第45号) 」の通達の第二の四参照)。

一般的には、就業規則のコピーを交付されるだけでは、賃金の具体的な額等はわかりませんので、それだけでは労働条件の明示義務を果たしたとはいえません。個別に労働条件通知書や雇用契約書を作成する必要がある場合がほとんどです。

 

7,労働条件明示ルールの改正内容(令和6年4月の労働基準法施行規則改正)

4,労働条件の明示が義務づけられる事項(労働条件通知書の記載事項)」でご説明した明示事項の一部は、令和6年4月の労働基準法施行規則改正により、新たに明示が義務付けられた項目です。

以下でこの点について説明します。

 

【令和6年4月の改正により新たに明示が義務づけられた事項】

  • 就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲
  • 更新上限の有無と内容
  • 無期転換申込機会
  • 無期転換後の労働条件

 

以下でご説明します。

 

(1)就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示

従業員を新たに採用する場合や、有期雇用の従業員との雇用契約を更新するタイミングで、雇い入れ直後の就業場所と業務の内容に加え、「就業場所や業務の変更の範囲」の書面による明示が義務づけられました(労働基準法施行規則第5条1項1号の3)。

就業場所の変更(転勤)や業務の変更(配置転換)について従業員に労働契約締結時に予測可能性を与え、トラブルを予防することが目的です。正社員だけでなく、有期契約労働者(契約社員やアルバイトなど)を含む全ての労働者が対象です。以下で労働条件通知書等における具体的な記載例をご説明します。

 

1,就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合

就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合は、「変更の範囲」の箇所にすべての就業場所・業務を記載する必要があります。

以下の方法があります。

 

  • 具体的に全ての就業場所や業務の内容を記載する方法
  • 「会社の定める就業場所」「会社の定める業務」と記載する方法
  • 変更の範囲を一覧表等で別紙として添付する方法

 

▶参考記載例:就業場所や業務の変更の範囲に限定を設けない場合

就業の場所 (雇入れ直後)大阪支店 (変更の範囲)海外(アメリカ・中国・マレーシアの3か国)及び全国(東京、名古屋、大阪、福岡)への転勤あり
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)広告営業 (変更の範囲)会社の定める業務

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

上記の記載例のように就業の場所の変更の範囲を具体的にすべて記載する場合は、現在存在する拠点等だけでなく、将来新設されうる拠点等も含む記載にしておく必要があることに留意してください。

例えば、「海外(アメリカ・中国・マレーシアの3か国)及び全国(東京、名古屋、大阪、福岡)、その他今後新設される拠点を含む会社の定める就業場所への転勤あり」などと明示することも考えられるでしょう。

 

2,就業場所や業務の変更が一定の範囲に限定されている場合

就業場所や業務の変更が一定の範囲に限定されている場合は、その範囲が明確になるよう記載する必要があります。

 

▶参考記載例:変更が一定の範囲に限定されている場合

就業の場所 (雇入れ直後)阿波座出張所 (変更の範囲)大阪府内
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)運送 (変更の範囲)運送及び運行管理

 

3,就業場所や業務の変更が想定されていない場合

就業場所や業務の変更が想定されていない場合は、下記のような記載になります。あるいは、「変更なし」、「雇い入れ直後に従事すべき業務と同じ」といった記載でも問題ありません。

 

▶参考記載例:就業場所や業務の変更が想定されていない場合

就業の場所 (雇入れ直後)梅田センター (変更の範囲)梅田センター
従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)運送 (変更の範囲)運送

 

(2)更新上限の有無と内容の明示

更新上限の有無と内容についても明示が義務付けられました(労働基準法施行規則第5条1項1号の2)。有期で雇用される従業員に、契約の更新について労働契約締結時に予測可能性を与え、トラブルを予防することが目的です。こちらはアルバイトや契約社員、定年後再雇用された従業員などの有期雇用の労働者のみが対象です。

有期雇用契約の更新について年数や回数の上限を設定する場合は、有期雇用契約を最初に締結する際や契約更新のタイミングで、更新上限の内容を明示する必要があります。記載の方法として、契約の当初から数えた更新回数または通算契約期間の上限を明示し、その上で、現在が何回目の契約更新であるか等を併せて示すなどの方法があります。

 

▶参考記載例:

  • 「契約の更新回数は●回までとする(本契約の更新で更新回数●回目)」
  • 「契約期間は通算●年を上限とする(本契約は通算●年目)」  など

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

最初の契約の際に更新上限を設けていなかった従業員について更新上限を新たに設けるときや、一度設けた更新上限を短縮しようとするときは、更新上限の新設・短縮をする前に「更新上限を新設・短縮する理由」を従業員に説明する必要があります。下記の「有期雇用契約の締結、更新、雇止めに関する基準」第1条でこの点が義務付けられています。

説明の際は、文書を交付した上で個々の労働者ごとに面談等を実施して説明を行うことが基本ですが、説明資料の交付や、説明会で複数人に対し同時に説明する方法でも問題ないとされています。

 

▶参考情報:厚生労働省「令和5年3月30日厚生労働省告示第114号」

 

(3) 無期転換申込機会の明示

労働契約法第18条で、雇用契約が更新されて通算の契約期間が5年を超えた有期雇用の従業員から無期の雇用契約への転換の申込みがあれば、事業者は無期の雇用契約への転換を強制されるというルールが定められています。無期転換ルールなどと呼ばれます。

このルールにより、従業員に無期転換申込権が発生する場合は、無期転換申込権が発生することの明示が義務づけられました(労働基準法施行規則第5条第5項、6項)。雇用契約が更新されて通算の契約期間が5年を超えることになる有期契約労働者のみが対象です。無期転換申込権が発生した後に、従業員が無期転換申し込みをせずに契約期間が満了し、契約更新する場合は、更新の都度、無期転換申込機会について明示する必要があります。例えば1年契約の有期雇用であれば5回目の更新で無期転換申込権が発生しますが、従業員が無期転換申込権を行使しないまま6回目以降の更新をする場合も、更新の都度、無期転換申込機会について明示する必要があります。

 

▶参考記載例:

「本契約期間中に無期労働契約締結の申込みをしたときは、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる」 など

 

▶参考情報:無期転換ルールについては以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

無期転換ルールとは?わかりやすい解説まとめ

 

(4)無期転換後の労働条件の明示

上記の無期転換申込機会の明示にあわせて、無期転換後の労働条件についても、無期転換申込権が発生するタイミングごとに、書面により明示する必要があります(労働基準法施行規則第5条5項、6項)。

無期転換後の労働条件についての具体的な明示事項は、「4,労働条件の明示が義務づけられる事項(労働条件通知書の記載事項)」でご説明した、労働基準法施行規則第5条1項に規定されている事項と同じです。

明示方法としては、主に以下のような方法があります。

 

1,無期転換後の労働条件について労働条件通知書を作成して事項ごとに明示する方法

厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」からダウンロードできる「(令和6年4月1日以降)労働条件通知書(無期転換後の労働条件)」を使用して明示する方法等があります。

 

2,無期転換後の労働条件の変更の有無について明示した上で、変更がある場合はその内容を明示する方法

無期転換後も労働条件の変更がない場合は「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」などと明示します。一方、無期転換後には労働条件が変更される場合は「無期転換後は、労働時間を○○、賃金を○○に変更する。」などと明示します。

 

▶参考情報:明示事項を追加した労働基準法施行規則改正の詳細は以下をご参照ください。

厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」

 

8,労働条件明示義務についてのQ&A

厚生労働省は、令和6年4月の労働基準法施行規則改正に際し、労働条件明示義務についてのQ&Aを公開しています。以下でそのうち、重要なものをご紹介します。

 

(1)有期雇用契約の場合の「変更の範囲」の明示方法について

Q 就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示について、「変更の範囲」とは、当該労働契約の期間中における変更の範囲を指すと解してよいか。例えば、直近の有期労働契約の期間中には想定されないが、契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務について、明示する必要はないという理解で良いか。

 

A 就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲とは、当該労働契約の期間中における変更の範囲を意味する。 このため、契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務については、改正労基則において明示が求められるものではない。もっとも、労働者のキャリアパスを明らかにする等の観点から、更新後の契約期間中における変更の範囲について積極的に明示することは考えられる。

 

(2)有期雇用契約の場合の更新の上限の明示方法について

Q 有期労働契約の更新回数の上限とは、契約の当初から数えた回数を書くのか、残りの契約更新回数を書くのか。また、通算契約期間の上限についてはどうか。

 

A 労働者と使用者の認識が一致するような明示となっていれば差し支えない。 なお、労働者・使用者間での混乱を避ける観点からは、契約の当初から数えた更新回数又は通算契約期間の上限を明示し、その上で、現在が何回目の契約更新であるか等を併せて示すことが考えられる。

 

(3)更新の上限がない場合の明示義務について

Q 厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書には、「更新上限の有無(無・有(略))」という欄があるが、更新上限がない場合にも上限がない旨の明示を必ずしなければならないか。

 

A 有期労働契約の更新上限を定めている場合にその内容を明示することが求められており、更新上限がない場合にその旨を明示することは要しない。 他方で、有期労働契約の更新上限の有無を書面等で明示することは労働契約関係の明確化に資するため、モデル労働条件通知書では更新上限がない場合にその旨を明示する様式としている。

 

(4)無期転換後の労働条件の明示義務について

Q 有期労働契約の更新時に「無期転換後の労働条件」として示した労働条件と、書面で明示した事項には変更がないが、口頭で明示した事項には変更がある場合、「無期転換後の労働条件として○月○日に明示したものと同じ」旨の明示をすることで済ますことは許容されるか。

 

A 許容されない。施行通達の記の第1の1⑴ウ④のとおり、有期労働契約の更新時に書面で明示した事項・口頭で明示した事項の別を問わず改正労基則5条1項に基づく明示事項の全てに変更がない場合に限り、変更がない旨の明示によることが許容されるものであり、当該「変更がない旨の明示」は改正労基則5条1項に基づく明示事項の全てに変更がない旨の明示とする必要がある。

 

▶参考情報:厚生労働省のQ&Aについては以下をご参照ください。

「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A」(pdf)

 

9,労働条件の明示義務の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所では、多くの事業者から人事労務分野についてのご相談をお受けし、事業者側の立場にたってサポートしてきました。以下では、咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。

 

(1)労働条件通知書や雇用契約書、就業規則等の作成・整備

咲くやこの花法律事務所では、労働条件通知書や雇用契約書、就業規則等の作成・整備についてのご依頼を承っています。採用時に従業員に対してどのように明示するかは、解雇や雇い止め、私傷病休職からの復職、同一労働同一賃金ルールや無期転換ルールへの対応といった幅広い場面に影響する非常に重要な事項です。自己流で対応するのではなく、人事労務に精通した専門家のサポートを受けることをおすすめします。

 

咲くやこの花法律事務所の人事労務分野に精通した弁護士へのご相談費用

●初回相談料 30分5000円+税(顧問契約締結の際は無料)

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所における人事労務分野に関するサポート内容は、以下で詳しくご紹介していますので、ご参照ください。

労働問題に強い弁護士への相談サービス

 

(2)顧問弁護士サービス

咲くやこの花法律事務所では、労働条件の明示義務への対応はもちろん、その他の分野でも、事業者の人事労務をサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。日頃から顧問弁護士と相談しつつ、法令にあわせた整備を進めていくことで、トラブルに強い会社を作ることができます。また、万が一のトラブル発生時も、すぐに顧問弁護士に相談して正しい対応をすることで、自己流の対応による失敗を防ぎ、迅速な解決をすることができます。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下で詳しく説明しておりますのでぜひご覧ください。

 

 

また、咲くやこの花法律事務所の人事労務分野における解決実績を以下でご紹介していますので、ご参照ください。

 

 

(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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10,まとめ

この記事では、労働条件の明示義務の具体的な内容や明示の方法など、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務について詳しくご説明しました。

労働条件の明示義務とは、使用者が労働者に対し、賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならない義務のことをいいます。労働条件の明示は、「労働契約の締結」の際であると定められており、有期雇用契約の更新や定年後再雇用、在籍出向といった場合も「労働契約の締結の際」に含まれます。

具体的な明示事項は以下の通りです。なお、①~⑥の事項(⑤の事項のうち昇給に関する事項を除く)については、原則として書面の交付により明示する必要があります。

 

【労働条件の明示事項】

  • ①労働契約の期間に関する事項
  • ②有期労働契約については更新する場合の基準に関する事項(上限の定めがある場合はその内容を含む)
  • ③就業の場所及び従業すべき業務に関する事項(雇用期間中の変更の範囲を含む)
  • ④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
  • ⑤賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • ⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  • ⑦退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  • ⑧臨時に支払われる賃金、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  • ⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • ⑩安全及び衛生に関する事項
  • ⑪職業訓練に関する事項
  • ⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • ⑬表彰及び制裁に関する事項
  • ⑭休職に関する事項
  • ⑮契約期間内に無期転換申込権が発生する場合は、無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件の内容

 

トラブルを未然に防ぐためにも、労働条件通知書や雇用契約書の内容について、労働条件明示義務に正しく対応できているかどうか、弁護士によるリーガルチェックを受けることをおすすめします。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。

 

11,【関連】労働条件の明示義務など労働基準法に関するその他のお役立ち記事

この記事では、「労働条件の明示義務とは?労働基準法15条の明示事項やルール改正を解説」について、わかりやすく解説しました。労働基準法には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する労働基準法のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

就業規則と労働基準法の関係とは?違反する場合などを詳しく解説

割増賃金とは?労働基準法第37条や時間外・休日・深夜の計算方法を解説

労働基準法で定められた休日とは?年間休日の日数は最低何日必要か?

労働基準法34条の休憩時間!必要な時間など法律上のルールを解説

有給休暇とは?労働基準法第39条に基づく付与日数や繰越のルールなどを解説

労働基準法違反とは?罰則や企業名公表制度について事例付きで解説

アルバイトやパートも労働基準法の適用あり!労働時間や有給などルールを解説

労働基準法について弁護士に相談すべき理由とは?わかりやすく解説

 

記事作成日:2024年4月24日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
    池内 康裕 弁護士
    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
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    片山 琢也(かたやま たくや)
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    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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