役員解任に伴う会社の損害賠償リスクについて解説!役員解任トラブルで1700万円を超える支払い命令の裁判例も!?

役員解任の際の注意点

「取締役と意見があわなくなり解任したい。」
「取締役の不正行為が発覚し解任したい。」

こういった取締役の解任の場面で、おさえておく必要があるのが、取締役を解任した場合の会社の損害賠償リスクです。
解任された取締役から会社に損害賠償を請求され、裁判所で損害賠償の支払いを命じられた事例として以下のものがあります。

事例1:
約850万円の損害賠償命令
(平成25年 5月30日東京地方裁判所判決)

事例2:
約1739万円の損害賠償命令
(平成22年10月29日東京地方裁判所判決)

事例3:
約1000万円の損害賠償命令
(平成23年 1月24日東京地方裁判所判決)

このように、役員解任は多額の損害賠償トラブルにつながることがあります。
今回は、役員解任に伴う会社の損害賠償リスクについてご説明したいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

●【重要】役員解任に関する基本的な法律上のルールについて
●損害賠償リスクについて!役員解任に伴い会社に損害賠償が命じられるケースとは?
●役員解任に伴う損害賠償請求トラブルの裁判事例
●【必ずチェック!】役員解任に伴う損害賠償トラブルを避けるための4つのポイント

 

【重要】役員解任に関する基本的な法律上のルールについて

役員解任に伴う損害賠償リスクについてご説明する前に、まずは、前提となる、役員解任に関する基本的な法律上のルールについてご説明したいと思います。

おさえておいていただきたい点は以下の2点です。

役員解任に関する基本的な法律上のルール

ルール1:
役員は株主総会の多数決で解任が可能である。

ルール2:
解任された役員は、解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求できる。

以下で順番に見ていきましょう。

ルール1:
役員は株主総会の多数決で解任が可能である。

「解任」とは、役員を任期の途中で株主総会の決議によりやめさせることをいいます。すべての役員には任期があり、任期の満了をまたずに、「任期の途中」でやめさせることが解任です。

定款に特別な定めがなければ、議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会で、出席株主の議決権の過半数が解任に賛成したときは、解任が可能です。

つまり、「過半数の出席」+「出席株主の過半数の賛成」があれば、株主総会の多数決で役員の解任が可能です。

このような条件による決議は法律上、「特殊普通決議」と呼ばれます。なお、解任される取締役自身が株主の場合、この取締役も株主総会の決議に参加することが可能です。

ルール2:
解任された役員は、解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求できる。

「ルール1」でご説明した通り、多数決での解任が可能ですが、正しい手続きで解任した場合であっても、解任について正当な理由がない場合は、解任された役員は会社に損害賠償を請求できることになっています。

その損害賠償の額は、過去の裁判例をみると、概ね、「解任された役員が、任期満了まで役員を勤めた場合に受領できたはずの役員報酬の総額」とされることがほとんどです。

具体的には、「解任時の役員報酬の月額」に、「解任から任期満了までの月数」を乗じて計算されます。

例えば、月額の役員報酬が100万円の役員について、任期満了まで1年の期間を残して解任する場合、「1200万円」が損害賠償の額となります。

但し、解任について正当な理由がある場合は、解任された役員は会社に対して損害賠償を請求できません。

 

以上の「ルール1」、「ルール2」については、「会社法339条1項」、「会社法339条2項」に定められていますので、念のため、法律の条文もご紹介します。

●会社法第339条の内容

1. 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2. 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

 

1項で「ルール1」が、2項で「ルール2」が定められています。

以上、役員解任に関する基本的な法律のルールについてご説明しました。

整理すると、「解任は正当な理由があってもなくても多数決で可能。」、「正当な理由なく解任したときは、役員から損害賠償を請求されれば会社は支払う必要がある。」という点が要点になりますので、おさえておきましょう。

 

損害賠償リスクについて!
役員解任に伴い会社に損害賠償が命じられるケースとは?

前述のとおり、解任について「正当な理由」があったかどうかが、会社が解任した役員に対しての損害賠償義務を負うかどうかの分かれ目になります。

では、損害賠償リスクについての重要なポイントとして、「どのような場合に正当な理由があったといえるのか」についてご説明します。

これについては、平成25年 5月30日東京地方裁判所判決が以下のように述べています。

平成25年 5月30日東京地方裁判所判決の判示内容

会社法339条2項にいう「正当な理由」が存在する場合とは、当該取締役の職務の執行にあたり、①不正の行為や定款又は法令に違反する行為があった場合、②取締役が経営に失敗して会社に損害を与えた場合、③当該取締役の経営能力の不足により客観的な状況から判断して将来的に会社に損害を与える可能性が高い場合には認められるが、単に株主と取締役との間で経営方針が異なるというだけでは、認められない。

 

これを整理すると以下の通りです。

1,役員の不正行為や法律違反を理由に解任する場合

「正当な理由」が認められ、会社は損害賠償責任を負いません。

2,役員による経営の失敗あるいは経営能力の不足、株主との経営方針の相違を理由に解任する場合

経営の失敗や経営能力の不足、経営方針の相違が、実際に会社に損害を与えた場合、あるいは、客観的な状況から判断して将来的に会社に損害を与える可能性が高い場合でなければ「正当な理由」とは認められず、会社が損害賠償責任を負担します。

 

実際の裁判例をみても、「1,役員の不正行為や法律違反を理由に解任する場合」については、「正当な理由」が認められて会社が勝訴しているケースが多くなっています。

一方、「2,役員による経営の失敗あるいは経営能力の不足、株主との経営方針の相違を理由に解任する場合」については、「損害は発生していないし、将来的にも損害を与える可能性が高いとはいえない」として、「正当な理由」が認められず、会社が敗訴するケースが多く見られます。

単に経営能力が不足しているとか、株主との経営方針との相違があるとかいった事情だけで、損害が発生しておらず、将来的にも損害を与える可能性が高いとはいえないときは、解任について会社は損害賠償を覚悟しなければならない点に注意が必要です。

それでは次の項目で、実際の裁判事例を見ていきましょう。

 

役員解任に伴う損害賠償請求トラブルの裁判事例

以下では、「役員解任に伴う損害賠償請求トラブルの裁判事例」についてご紹介していきます。

まず、「取締役の不正行為や法律違反を理由とする解任」の事例を3つご紹介し、その後に、「経営の失敗、経営能力の不足、経営方針の相違を理由とする解任」の事例を3つご紹介します。

1,取締役の不正行為や法律違反を理由とする解任の事例

取締役の不正行為や法律違反を理由とする解任の事例としては、以下の3つの裁判例がありますが、いずれも解任について「正当な理由」を認めています。

裁判例1:
会社に対する架空請求を理由とする取締役解任事例
(平成25年12月24日東京地方裁判所判決)

裁判例2:
粉飾決算を理由とする取締役解任事例
(平成25年11月26日東京地方裁判所判決)

裁判例3:
会社財産の私物化などを理由とする解任の事例
(平成24年 5月14日東京地方裁判所判決)

 

詳細は以下の通りです。

裁判例1:
会社に対する架空請求を理由とする取締役解任事例

(平成25年12月24日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

製造業を事業とする会社において、取締役が会社に対して架空の請求をして支払わせ、最終的に自身にその金銭を還流させていたことなどを理由として、解任した事例。

裁判の結論:

裁判所は、解任には「正当な理由」があったとして、会社を勝訴させ、解任された取締役からの損害賠償請求を認めませんでした。

裁判例2:
粉飾決算を理由とする取締役解任事例

(平成25年11月26日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

食材の販売を事業とする会社において、代表取締役が融資やスポンサーの獲得を目的に粉飾決算をしていたことなどを理由として、代表取締役を解任した事例。

裁判の結論:

裁判所は、解任には「正当な理由」があったとして、会社を勝訴させ、解任された代表取締役からの損害賠償請求を認めませんでした。

裁判例3:
会社財産の私物化などを理由とする解任の事例

(平成24年 5月14日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

情報提供サービスを事業とする会社において、代表取締役が、友人が設立した会社で使用するパソコンについて会社名義でリースを組んだり、代表取締役の私用の車について会社名義でリースを組むなどしたことを理由として、代表取締役を解任した事例。

裁判の結論:

裁判所は、解任には「正当な理由」があったとして、会社を勝訴させ、解任された代表取締役からの損害賠償請求を認めませんでした。

 

このように、取締役の不正行為や法律違反を理由とする解任は、不正行為や法律違反行為さえ立証できれば、解任には「正当な理由」があると判断され、損害賠償請求を認めない判決内容となることが通常です。

次に、経営の失敗、経営能力の不足、経営方針の相違を理由とする解任の事例を見ていきましょう。

2,経営の失敗、経営能力の不足、経営方針の相違を理由とする解任の事例

経営の失敗、経営能力の不足、経営方針の相違を理由とする解任の事例としては、以下の3つの裁判例がありますが、いずれも解任について「正当な理由」を認めず、会社に対し損害賠償請求を命じています。

裁判例1:
経営能力、経営方針の相違を理由とする取締役解任事例
(平成25年 5月30日東京地方裁判所判決)

裁判例2:
銀行との融資交渉の失敗などを理由とする取締役解任事例
(平成22年10月29日東京地方裁判所判決)

裁判例3:
金融機関とのリスケジュールの交渉失敗を理由とする取締役解任事例
(平成23年 1月24日東京地方裁判所判決)

 

詳細は以下の通りです。

裁判例1:
経営能力、経営方針の相違を理由とする取締役解任事例

(平成25年 5月30日東京地裁判決)

事案の概要:

派遣会社が代表取締役を任期途中で解任したのに対し、解任された取締役が会社に損害賠償を請求した事例です。

裁判の争点:

大口取引先の破産に伴い、一定の対策を打ち出すことが必要な状況であったにもかかわらず、解任された取締役が従前からの経営方針を維持しようとした点が、主な解任理由となっており、この点が「正当な理由」といえるかが争点になりました。

裁判の結論:

裁判所は、会社に対し、解任された取締役への「約850万円」の損害賠償の支払いを命じました。

判断の理由:

裁判所は、「大口取引先の破産に伴い、一定の対策を打ち出すことが必要であったものの、株主の意向により起こした新たな事業について、解任された取締役が反対していたという事情もなかったのであるから、取締役の地位にとどまったからといって会社に損害が発生する可能性が高かったとはいえない。」などとして、解任に正当な理由があるとは認めませんでした。

裁判例2:
銀行等の融資交渉の失敗などを理由とする取締役解任事例

(平成22年10月29日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

エレベーターの製作、保守等を事業とする会社が取締役を任期途中で解任したのに対し、解任された取締役が会社に損害賠償を請求した事例です。

裁判の争点:

会社は、解任された取締役が独断で銀行との融資交渉を行い、その結果、会社が追加の担保提供を余儀なくされ、返済期間も短く設定され、利率も高くなった等の点を、主な解任の理由として主張し、この点が解任の「正当な理由」といえるかが争点になりました。

裁判の結論:

裁判所は、会社に対し、解任された取締役への「約1739万円」の損害賠償の支払いを命じました。

判断の理由:

裁判所は、会社は融資交渉の段階ですでに銀行からの信用を失っており困難な交渉であったうえ、会社が主張する交渉方法を採用してもよい結果が得られたとは限らないなどとして、融資交渉の失敗は解任の「正当な理由」に当たらないと判断しました。

裁判例3:
金融機関とのリスケジュールの交渉失敗を理由とする取締役解任事例

(平成23年 1月24日東京地方裁判所判決)

事案の概要:

ビデオレンタルなどを事業とする会社が取締役を任期途中で解任したのに対し、解任された取締役が会社に損害賠償を請求した事例です。

裁判の争点:

会社は、解任された取締役が、金融機関とのリスケジュールの交渉を担当していたところ、交渉失敗により金融機関から有利な条件を引き出すことができなかったことを主な解任理由として主張し、この点が解任の「正当な理由」といえるかが争点になりました。

裁判の結論:

裁判所は、会社に対し、解任された取締役への「約1000万円」の損害賠償の支払いを命じました。

判断の理由:

裁判所は、「解任された役員の能力不足でリスケジュールの交渉に重大な支障が生じたり、会社にとって不利な条件をのまざるを得なくなったりしたことを認めるに足りる証拠はない」などとして、リスケジュールの交渉の失敗は解任の「正当な理由」に当たらないと判断しました。

 

そして、これらの裁判例はいずれも、解任時から解任された取締役の任期満了までの期間の役員報酬と役員賞与に相当する額を、解任により取締役に発生した損害と判断し、会社に損害賠償の支払いを命じています。

このように、 取締役の不正行為や法律違反を理由とする解任の事例については「正当な理由」が認められている裁判例が多い一方、経営の失敗、経営能力の不足、経営方針の相違を理由とする解任の事例では、損害や損害発生のおそれが生じていないこと、あるいは損害の発生が取締役自身の責任とはいえないことを理由に、解任の「正当な理由」とは認めず、損害賠償を命じている裁判例が多くなっています。

 

【必ずチェック!】
役員解任に伴う損害賠償トラブルを避けるための4つのポイント

最後に、「役員解任に伴う損害賠償トラブルを避けるためのポイント」をご紹介しておきたいと思います。

ご紹介しておきたいポイントは以下の4つです。

役員解任に伴う損害賠償トラブルを避けるための4つのポイント

ポイント1:
任期満了まで待てないかを検討する。

ポイント2:
役員の辞任により対応できないかを検討する。

ポイント3:
解任する場合は、解任の理由についての資料を収集する。

ポイント4:
使用人兼務役員の場合は、不当解雇トラブルのリスクにも注意が必要。

以下で順番に見ていきましょう。

ポイント1:
任期満了まで待てないかを検討する。

役員の解任に伴う損害賠償請求のトラブルは、任期の途中で解任することにより起こるトラブルです。

「任期満了を待って、再任しないという方法をとれば、損害賠償請求のトラブルは起こりません。」

任期満了が近い場合は、任期満了まで待って、再任しないことで対応できないか検討してみましょう。

ポイント2:
役員の辞任により対応できないかを検討する。

役員の解任に伴う損害賠償請求のトラブルは、株主総会の多数決で、本人の意思によらずに解任することにより起こるトラブルです。

「本人の意思による辞任という方法をとれば、損害賠償請求のトラブルは起こりません。」

本人が辞任という方法に応じてくれる可能性があるのであれば、辞任してもらうことにより対応できないか検討してみましょう。

ポイント3:
解任する場合は、解任の理由についての資料を収集する。

任期満了まで待つことも、辞任により対応することも難しいときは、解任せざるを得ません。

この場合は、損害賠償請求のトラブルに備えて、「解任に正当な理由があったことを立証する資料を収集しておくことが必要」です。

役員の能力の問題で解任する場合は、能力不足により実害が生じたことや、取引の機会を逃したことなどの資料を収集しておきましょう。

また、場合によっては、役員の職務に不正行為や法律違反がなかったかどうかを調査することも必要です。

ポイント4:
使用人兼務役員の場合は、不当解雇トラブルのリスクにも注意が必要。

取締役が従業員としての地位も兼ねているケースを「使用人兼務役員」と言います。

「使用人兼務役員」の場合は、取締役を解任することは多数決により可能ですが、従業員としての地位も失わせるためには、別途、「解雇」等が必要になります。

この点にも注意して、「役員解任後に、従業員としての雇用は継続するのか、それとも解雇するのか」も検討しておきましょう。

以上、役員解任に伴う損害賠償請求トラブルを避けるためのポイントとして4つのポイントをおさえておいてください。

 

まとめ

今回は、役員解任の際の会社の損害賠償リスクについて、まず、役員解任に関する基本的な法律上のルールをご説明しました。

そのうえで、役員解任に伴い損害賠償請求を命じられるケースにはどのようなものがあるかについて、実際の裁判事例もまじえてご説明しました。

そして最後に、「役員解任に伴う損害賠償トラブルを避けるための4つのポイント」として、以下の点をご説明しました。

ポイント1:
任期満了まで待てないかを検討する。

ポイント2:
役員の辞任により対応できないかを検討する。

ポイント3:
解任する場合は、解任の理由についての資料を収集する。

ポイント4:
使用人兼務役員の場合は、不当解雇トラブルのリスクにも注意が必要。

役員解任については損害賠償リスクが大きく、ポイントを踏まえた対応ができるようにおさえておいてください。

「もし今、自社で役員解任に関するトラブルが発生しそう」、「既に自社で役員解任についてトラブルが発生している」などのケースがありましたら、なるべく早い段階で役員解任トラブルの相談経験と解決実績が豊富な咲くやこの花法律事務所までご相談下さい。

 

企業法務におけるお悩みは、企業法務に強い弁護士へ。「咲くやこの花法律事務所」へご相談下さい。

同じカテゴリの最新記事

平成29年個人情報保護法の改正の企業の取扱い注意点について
一般競争入札の入札参加資格に関する法律のルールとトラブル時の対応ポイント
顧客情報・顧客名簿の情報持ち出しから会社を守る正しい管理方法
広告で返金保証をうたう場合に注意すべき景品表示法とは
企業法務におけるお悩みは、企業法務に強い弁護士へ。「咲くやこの花法律事務所」へご相談下さい。