こんな方に
おすすめの書籍です
事業を経営していると、労働者との間で法的なトラブルを抱えてしまうことがあります。
職場内のハラスメントのトラブル、残業代のトラブル、病気になってしまった労働者の休職や復職をめぐるトラブルなどその内容は様々です。
そのような問題が起きたときに訴訟に発展させずに、円満に上手に解決する方法を知りたい全ての方、
特に経営者の方、人事労務担当者の方、そして社会保険労務士の先生方におすすめの書籍です。
この書籍について
「職場内のパワハラなどのハラスメント」「私傷病休職からの復職可否をめぐるトラブル」
「退職者からの残業代請求トラブル」など、
難しい労使トラブルの事案でもあきらめずに正しい方法で話合いをすることで
訴訟を回避して円満に解決できること、そしてそのための進め方を理解していただくことができます。
本書では、第1章でハラスメントトラブルの円満解決、第2章で私傷病休職からの復職可否をめぐるトラブルの円満解決、
第3章で未払い残業代トラブルの円満解決についてとりあげました。
これらのテーマについて、実践的な内容にするため、各章でそれぞれ以下の設例を設定しています。
設例
上司のパワハラにより精神疾患を発症したとして従業員が休職し、
関係者全員のヒアリングを求めているケース
私は歯科クリニックを経営しています。先日、女性職員から、パワーハラスメントを受けているという相談がありました。女性職員が訴えているパワーハラスメント被害の内容は主に以下の3点です。
- 仕事を覚えるために業務中にメモをとっていたところ、男性医師から、繰り返し、「メモをとるな」「できる人はメモをとらない」などと言われて、不合理に叱責されたこと
- 男性医師に書類の見方を教えてほしいと頼んだ際に、「社会人は自分で学んでいくもの」「ここは学校ではないんだから」などと言われたこと
- 男性医師から「3か月たったら、皆の迷惑になるから、早くできるようにならないとダメ」と叱責され、指導が理解できないため退職する意向であると告げると、「俺に対して失礼だと思わないのか」とさらに叱責されたこと
女性職員は、その後、退職の意向は撤回しましたが、適応障害の診断を受けて休職しています。いまは女性職員の弟がクリニックとの連絡窓口になり、クリニックに対して、関係者全員をヒアリングして、問題の男性医師によるパワーハラスメントの有無について調査をして欲しいと要望しています。どのように対応したらよいのでしょうか。
設例
休職前から協調性や勤務態度に問題があった従業員が、
メンタルヘルス不調による休職を経て復職を求めているケース
弊社は不動産業を営む従業員40名の会社です。1年前に、前職で経理業務の経験が長かった女性社員を即戦力として採用し、経理部のチームリーダーに任命しました。しかし、入社後の女性社員のパフォーマンスは低調なものでした。また、女性社員には協調性に欠ける言動が目立ち、度々、周囲とトラブルを起こしていました。
対応に悩んでいたところ、この女性社員が集中力の低下や動悸といったうつ症状を訴えるようになりました。そのため、弊社は女性社員に対し、休職して治療に専念するように命じました。弊社の就業規則によれば、この女性社員について認められる休職期間は最大6か月間で、この期間中に復職できない場合は自然退職になるとされています。
休職中も女性社員の体調はあまり回復していないようでした。そのため、弊社としては、このまま休職期間満了まで復職できず、自然退職になるだろうと思っていました。ところが、休職期間満了の直前になって、女性社員が就労可能と記載された主治医の診断書を提出し、復職を希望しました。女性社員と面談した人事担当者は、女性社員の様子について「ボーっとしていて話を聴いていないことも多く、回復しているようには見えなかった」と言っています。
女性社員は休職期間中に復職できず自然退職となってしまうことを避けるため、主治医に無理を言って就労可能という診断書を書いてもらったのではないでしょうか。この女性社員は休職する前から、能力不足や協調性の欠如といった問題で周囲とトラブルを起こしてきました。弊社としてはできれば復職せずに辞めてほしいというのが本音です。今後どのように対応したらよいでしょうか。
設例
管理監督者として扱っていた役職者が
退職後に弁護士をつけて残業代を請求してきたケース
弊社はスーパーマーケットを多店舗経営しています。弊社で長年勤務し、大規模店の店長をしていた従業員を業績の問題で降格させたところ、その者が退職しました。退職後に、この元店長の代理人弁護士から、弊社に対して、約330万円の残業代を請求する内容証明郵便が届いています。
この店長は、弊社在職中、アルバイトも含めると従業員40名以上が勤務する大規模店をまかされていました。大規模店のトップとして、店舗を管理し、その損益目標を達成する職責を担っていました。そのため、弊社はこの店長を管理監督者として扱い、残業代を払っていませんでした。このことは本人も了解していましたし、会社も残業代がつかないことを踏まえて高い給料を払ってきました。
さらに、会社は、この店長が就業規則で義務付けられている転勤を拒んだときも、育児の事情を考慮して寛容に受け止め、配慮してきました。それなのに、いまさら残業代を請求するなんて、会社や共に働いた仲間に対する裏切り行為であり、許せない気持ちです。会社としては一銭も支払う気はありません。今後どのように対応したらよいでしょうか。
これらのケースについて、それぞれ訴訟に発展させずに話合いで解決するために、
何から取り組んでどう進めればよいかを筆者らの実体験をもとに解説しました。
著者からのメッセージ
筆者らはいわゆる「使用者側弁護士」として、労使トラブルについて事業者からご相談を受けて、問題を解決することを専門としてきました。その中で、特に事業者として負担の大きい訴訟を避け、話し合いで円満に解決することに取り組んできました。裁判になってからご相談に起こしいただくお客様もいらっしゃいますが、これは訴訟になった場合の事業者の負担や敗訴のリスクを考えると、大変もったいないことです。
そこで、もっと話し合いによる解決に取り組んでほしいという想いから、労使トラブルが起きた場面における話し合いの進め方をわかりやすく示すことを目指したのが本書です。「難しく見えるトラブルもあきらめずに正しい方法で話し合いをすれば解決できる」ということが本書のテーマです。労使トラブルについての書籍は、これまで裁判例の解説や、トラブルを防止するための予防策の解説といった内容のものが多かったように思います。それらの解説は、必ずしも「実際にトラブルになった場面」で「労働者とどのように話し合いをして解決していくべきか」を教えてくれるものではありません。本書では「実際に労使トラブルになってしまった場面で労働者とどのように話し合いをして解決していくべきか」という点の解説に注力し、話し合いに臨む際の指針となる書籍を目指しました。