ある会社の社長さんから、「会社でやっている健康診断は会社にとってどういう意味があるんですか?」とご質問がありました。
このご質問にお答えするには、会社の労災リスク(特に過労死)についてお話しする必要があります。
当事務所の顧問先は、30代~40代の経営者の方が経営する会社が多く、従業員の年齢層も若い会社が多いのが特徴です。
しかし、従業員が若い会社も、労災のリスクと無縁ではありません。
20代、30代の従業員が突然、くも膜下出血や心不全で倒れ、遺族がこれを過労死として、会社に対し、裁判を起こす事件が増えています。
特に、最近は経営者の立場からすれば「これは本当に過労死なのか?」と首をかしげるような事案でも、 労働者保護の立場から過労死であると判断され、裁判上多額の賠償を命じられるケースが増えています。
たとえば、リクルート社の29歳の社員が突然のくも膜下出血で亡くなってた事件では、亡くなる直前1ケ月の残業時間が 39時間程度でしたが、裁判所はこれを過労死と判断しています。
このように、会社の労災リスクは、単に従業員に長時間の残業をさせないというだけでは防止しきれません。
月に40時間程度の残業をしている従業員が突然脳疾患や心臓疾患で死亡した場合、それが過労死であるとして、 会社に対し1億円を超えるような多額の損害賠償請求がされるリスクがあるのです。
労災保険に入っていても、労災による支払額を超えた部分は会社が負担しなければなりません。
v さて、本題に戻ります。
会社で行っている健康診断は会社にとってどういう意味があるのでしょうか?
実はこのような過労死、労災リスクを避けるために、会社で行っている健康診断に着目する必要があるのです。
過労死というのは、脳疾患あるいは心臓疾患が原因となった死亡について問題にされます。逆に言えば、 そのほかの部位の疾患については通常問題とはされません。
そこで、会社で毎年行っている健康診断で、従業員の脳や心臓の異常がないかを十分に確認しておくことが、 労災リスク防止の第一歩となります。
健康診断の結果が返ってきたら、特に脳や心臓の項目に注目して、結果をよく確認してください。
少しでも問題点が記載されている場合は、本人に伝えることはもちろん、 会社において、今後、その従業員の仕事の量や内容について配慮するなど、従業員の就業状況を再検討する必要があります。
会社としてこのような対応をしておくことが、万一の労災リスクを回避するのです。
会社で行う健康診断は労災リスク防止のために重要な役割を果たします。
特に、脳や心臓の項目に着目することがポイントです。
ぜひ、積極的に活用しましょう。