会社が就業規則で「従業員が勤務時間中に投票することや証人として裁判所に行くとき,有給にします」と定めた場合,後でこの就業規則を削除することはできるのでしょうか。
東京地方裁判所の平成23年7月15日判決の「全日本会手をつなぐ育成会事件」は,社会福祉法人の職員が東京都の労働委員会に証人として出席した時間分の給料の支払を求めた裁判です。
この社会福祉法人は,もともと,投票や証人としての出頭などの公民権行使のための欠席等については給与を支給する内容の就業規則を設けていました。
しかしその後,この社会福祉法人は,人件費削減の必要から、この就業規則を変更し、従業員が投票や証人としての出頭などで欠席した場合はその時間分の給料をカットすることにしました。
裁判では,この就業規則の変更が適法かどうか争われました。
裁判所は,この就業規則の変更は
「高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない」
として、公民権行使のための欠席について給与の支給を廃止した就業規則の変更を認めませんでした。
勤務時間中の投票や証人としての出頭などを公民権の行使といいますが、労働基準法第7条は「労働者が労働時間中に公民権行使のために必要な時間を請求した場合、使用者はこれを拒んでならない」としています。
しかし、従業員が勤務時間中に公民権行使のために仕事を抜ける場合に、その時間について会社が給与をあたえなければならないわけではありません。
むしろ、仕事をしていない時間は賃金は支払われないのが大原則であり(ノーワークノーペイの原則)、公民権の行使の時間は仕事をしていない以上給与は支払わないとするのは正しい労務管理と言えます。
しかし、裁判所は、いったん会社が公民権行使の時間中も給与を払うとした以上、それを支払わないと変更するのは就業規則の不利益変更になり、合理的な内容とはいえず、無効であると判断しました。
このように、裁判所は、賃金についての不利益変更については特に厳しく判断しており、たとえ減額分がわずかでも、賃金総額を減少させる不利益変更を認めることはまずありません。
裁判所は賃金額の減少については厳しい姿勢をとっていますが、だからといって経営者としては賃金について全く手をつけられないということになるとあまりにも硬直的になり正しい労務管理ができなくなる恐れがあります。
裁判所はこのような判断であるということを踏まえた上で、経営上の判断として賃金についても必要に応じて変更を加えることは、正しい労務管理を実現する上でやむを得ないと言えます。
その場合に従業員には根気強く変更の必要性を説明して、できる限りの納得、了解を得るようにしなければなりません。
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