労働基準法第38条の2はこのように労働時間の把握が難しい場合を想定して「事業場外労働のみなし制」を定めています。
この制度は実際の労働時間に関係なく、会社の所定労働時間に相当する時間を働いたものとみなす制度です。
外回りの営業など、従業員を事業場外で仕事をさせる場合には、この制度を採用すれば時間外割増賃金は発生しないことになります。
しかし、どのような場合に「事業場外労働のみなし制」が適用できるのかを理解しておかないと、あとで従業員と残業代の支払いについてトラブルになってしまうことがあります。
東京高等裁判所の平成24年3月7日判決の「阪急トラベルサポート事件」は、海外ツアーの添乗員が、添乗業務には、みなし労働時間制は適用されないとして、残業代の支払いを求めた事件です。
裁判所は、判決の中で、事業場外のみなし労働時間制が適用できるのは、事業場外の労働について「使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され、客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合」のみであるとしています。
この事件で、会社は、添乗員に対して、添乗日報で出発時刻や到着時刻などを詳細に報告することが義務付けていました。
また、旅程の変更など重要な問題が発生した場合には添乗員が携帯電話で会社に報告し、指示を受けるようになっていました。
これらのことから、裁判所は添乗業務の労働時間は「客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合」あたらず、事業場外のみなし制が適用できる場合ではないと判断しました。そして、会社に実際の労働時間で計算した残業代の支払を命じました。
このように、事業場外労働のみなし制を採用する場合に注意しなければならないのは、この制度の採用は労働時間の把握が難しい時に限って認められているという点です。
たとえば、会社にいったん出勤した上で当日の業務の具体的な指示を受けた後外回りの業務をしてまた会社に戻ってくる場合や、携帯電話などで随時会社の指示を受けながら仕事をしている場合は、この制度の採用は認められません。
会社としては、社外で働く営業職などの従業員について「事業場外労働のみなし制」の採用を検討する場合は、この制度の適用が裁判所で否定される可能性がないかどうかよく検討する必要があります。
場合によっては、「事業場外労働のみなし制」を採用するのではなく、定額の残業手当をあらかじめ給与の中に組み入れるなどの対策を考える必要があります。
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