従業員が仕事中にけがをして会社を休んだ場合、労働基準監督署にその報告をしなければなりません。
では、従業員が仕事でけがをしたと言っているけれども、会社としてはほんとに仕事が原因なのかどうかわからない、という場合はどうすればいいでしょうか?
たとえば、従業員は仕事中の作業が原因で腰を痛めたと言っているけれども、会社からしてみれば、本当に作業が原因なのかよくわからないということはよくあります。
このようなケースで従業員から「労災の申請がしたいので、事業主証明を書いてください」と頼まれることがあります。
「事業主証明」というのはなんでしょうか?
たとえば、休業補償を労災に請求するためには「8号様式」という書式を書いて労働基準監督署に提出しなければなりません。
http://www.rousai-ric.or.jp/Portals/0/data0/sample/pdf/pdf2-05.pdf
にその書式があります。
この書式の表面の下のほうに会社の署名欄があります。
これを「事業主証明」と言い、労災の申請をする従業員はここを会社に書いてほしいともってきます。
ここに会社が署名することはどういう意味があるのでしょうか?
8号様式には、労働者の職種や負傷の日時、負傷した経緯などを記載する欄があります。事業主証明の署名は、この労働者の職種や負傷の日時、負傷した経緯などの記載について、会社側が「そのとおりです」と証明することを意味します。
もちろん、労働者が仕事が原因で負傷したとわかっている場合は、会社は事業主証明の署名をしなければなりません。
しかし、本当に仕事が原因かどうかよくわからないの、従業員に頼まれたから署名するというのは絶対にしてはいけません。どうしても署名する場合は、「ただし、負傷の日時、経緯については会社はわからない」旨を必ず記載しましょう。
仕事が原因で負傷したのかどうかよくわからないのに、会社が「事業主証明」をしてしまうとどういう問題があるでしょうか?
たとえば、従業員のAさんが仕事中の作業が原因で腰痛になったといって会社に「事業主証明」を求めてきたとします。
本当に作業が原因かよくわからないのに、会社が署名してしまうと、あとで万一Aさんが会社を訴えてきたときに、会社としては、その腰痛が会社の作業で発生したことを争うことが難しくなります。
なぜなら、会社自身が労災の手続きで「腰痛は会社の作業が原因で発生しました」と証明しているからです。
よくあるのが、「労災の申請がとおれば従業員はそちらからお金をもらえるから、会社が訴えられることはない。だから従業員が労災の申請を出すんだったら、会社は協力してあげよう。」という勘違いです。
労災の申請がとおるのと、会社に対してその従業員が訴えてくるか来ないかは別問題です。
実際にも、労災から給付を受けた従業員が、会社が危険な仕事に就かせたためにけがをしたといって、会社に損害賠償請求する事件が頻発しています。
会社の好意があだとなることもあるので、毅然とした対応が必要です。