咲くやこの花法律事務所では、多くのIT企業のお客様からご相談を受けています。
IT企業といってもさまざまですが、今回は、Webサイト制作、システム開発、ゲーム開発などの業種について、書きたいと思います。
これらの業種では、取引のトラブルが多くなりがちであり、契約書をきちんと作ることがほかの業種以上に重要です。
Webサイト制作やシステム開発、ゲーム開発を受託する場合の、契約書のポイントは、次の5つです。
1 著作権が誰に帰属するのか、契約書で明らかにしておくこと。
2 制作する目的物の仕様を、契約書で明確にしておくこと。
3 制作会社が目的物を完成させると、ユーザーがその目的物を検査することになるが、その検査の効果を契約書で明確にしておくこと。
4 制作した目的物について納品後に、第三者から知的財産権侵害のクレームが来た場合の対処法を明確にしておくこと。
5 システムのバグ、ダウンについて、原則として損害賠償責任を負わないことを明確にしておくこと。
の5つです。
今回は、これらの5つのポイントのうち、
「1」の「著作権が誰に帰属するのか、契約書で明らかにしておくこと」という点について、詳しく解説します。
ポイント2から5についても、次回から、順番に解説していきます。
Webサイトやシステムを制作してユーザーに提供した場合に、制作物の著作権が、制作会社に残るのか、ユーザーに移転するのか、必ず明確にしておかなければなりません。
きちんとされている方の中には「そんなことは当たり前だ」とおっしゃる方が多いと思います。
しかし、特に、Webサイト制作については、著作権がどちらに帰属するのか、契約書で明らかにされていないことが多いのが実情です。
制作会社がWebサイトを管理している場合には、著作権の帰属があいまいなままでもそれほど問題は起こりません。
しかし、ユーザーがなんらかの理由でWebサイトの管理を別の業者に変更したいと考えるようになると、このWebサイトの著作権が制作会社にあるのか、それともユーザーにあるのかが問題になります。
もちろん、著作権をユーザーに移してしまうこともできますが、できるならば、制作物の著作権は、制作会社に残すことにしておくべきです。
制作会社に著作権を帰属させておくことには、次のような、メリットがあるからです。
まず、第1に、
制作物の著作権の帰属先を制作会社としておけば、制作したWebサイトやシステム等の修正の依頼が制作会社に来ることとなり、継続的な受注が見込めるという点です。
著作権には、制作物を編集する権利が含まれます。
ですので、著作権者に無断で制作物に手を加えることはできません。
(ただし、著作権法47条の3という条文がありこれに配慮する必要があります)
著作権を制作会社に残しておけば、誰も、制作会社に無断で制作物に手を加えることはできませんので、修正の依頼も制作会社に来るようになる というわけです。
第2に
これはどちらかというとWeb制作よりもシステム開発にあてはまることですが、制作物の著作権の帰属先を制作会社としておけば、また別の会社に、類似のプログラムを提供することができます。
著作権には、著作物を編集する権利が含まれますので、制作会社が著作権をもっていれば、制作されたシステムに編集を加えて、類似のシステムを作成することができます。
ところが、著作権をユーザーに移してしまうと、類似のシステムを別の顧客に提供することは著作権侵害になってしまいます。
ユーザーの同意なしに類似のシステムを制作することを可能とするためにも、制作物の著作権の帰属先を、制作会社に残しておくべきなのです。
第3に
制作物の著作権の帰属先を制作会社としておけば、制作会社が、制作実績を公表できるという点です。
制作会社としては作ったWebサイトを制作実績として、自社サイトなどで公表したいということも多いでしょう。
著作権には、著作物をインターネット等で公開する権利が含まれます。
ですので、制作物の著作権者をユーザーにしてしまうと、制作会社といえども、ユーザーの同意がなければ、制作物をインターネットで公表することはできなくなってしまいます。
著作権の帰属先を制作会社としておけば、制作会社の判断で、制作物をインターネット上で公開することが出来ます。
このように、制作物の著作権を制作会社に残しておくことには、大きなメリットがありますので、是非とも制作物の著作権は、制作会社に残しておくべきなのです。
制作物の著作権を制作会社に残しておくためには、契約書に、次のような簡単な条項を入れるだけです。
第○条
本契約の納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)は、甲または第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、乙に帰属するものとする。
(注) ユーザーを甲、制作会社を乙としています。
このように、開発を開始する前に、必ず契約書で、できあがったWebサイトやシステムについてユーザーと制作会社のどちらが著作権をもつことになるのか、明記するようにしてください。
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