みなさんは、「高齢者雇用安定法」という法律をご存知でしょうか?
「高年法」
と略されるこの法律は、高齢化が進んでいる現状を踏まえて、
高齢者労働力を活用するために、会社に労働者を65歳まで(平成25年3月31日までは、64歳まで)雇用を確保する措置を取ることを義務付けたものです。
これまで、多くの会社では、定年は60歳とされてきました。
しかし、高齢者の割合の増加に伴って、平成25年には年金支給開始年齢が65歳に引き上げられます。
このような状況の中で、会社に、60歳を超える従業員の雇用確保を義務付けた高年法が施行されています。
高年法上、会社は、
65歳まで(平成24年3月31日までは、64歳まで)の従業員の雇用を確保するために、
次の①から④のうち、どれか一つを選ばないといけません。
①定年を、65歳以上に引き上げる。
②定年した従業員は、希望した者全員が働き続けられるようにする。
③そもそも、定年制を廃止する。
④定年した従業員のうち、全員に65歳まで働いてもらうのではなく、65歳まで継続して働いてもらう従業員を会社が選別する。選別の基準は、あらかじめ定めておく。
①、②、③を選んだ場合、会社は、就業規則にそのことを定める必要がありますが、それ以上の手続きは必要ありません。
ただ、多くの会社で定年が60歳とされている現実の中で、定年を65歳にしたり、定年後も、65歳までは希望者全員が働けるようにしたり、定年を廃止したりすることは、到底無理という経営者も多いことでしょう。
そこで、多くの会社では、
④の、定年を超えて働いてもらう従業員を、あらかじめ定めた基準にそって選別するという措置が選ばれています。
ただ、就業規則に定めただけでは、④の措置を取ることはできません。
④の措置を取る場合には、60歳を超えて65歳まで働いてもらう従業員を選別する基準を、
(1)会社に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合
(2)そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者
との間で、書面で合意しておく必要があります。
労働組合との書面による合意は、いわゆる
「労働協約」
のことです。
つまり、60歳を超えて働いてもらう従業員の選別基準は、経営陣の一存では決められず、労働組合または労働者代表との合意で決めておく必要があるということです。
65歳まで継続して働いてもらう従業員の選別基準を就業規則に定めただけで安心して、選別基準について労働組合や労働者代表と合意していない会社はたくさんあります。
しかし、これでは、高年法上の義務を果たしたことにはなりません。
高年法上の義務を果たしていない会社に対しては、厚生労働大臣から指導・助言がなされることになります。
これだけならまだよいのですが、
65歳まで継続して働いてもらう従業員の選別基準を就業規則で定めただけで、労働組合や労働者代表との合意で定めていなかった会社において、定年後、選別基準に達していないということで継続雇用されなかった従業員が、会社に対して、自分の従業員としての地位の確認を求めた裁判で、従業員としての地位を認めた例もあります。
つまり、選別基準をきちんと労働組合や労働者代表との合意で定めておかないと、
選別基準を何も定めていないものとみなされて、希望者全員を65歳まで雇用しなければいけない
ことになりかねないのです。
このような観点から、高年法の義務を守ることは会社を守るためにも必要なことです。
他方で、高年法は、60歳を超えた従業員を、今までと同じ待遇で雇用することまで会社に義務付けているわけではありません。
もちろん限度はありますが、60歳を超えた従業員については、60歳までの従業員にくらべて勤務時間を短くしたり、賃金を低くすることとしておいて、従業員がそれに納得できない場合には、続けて働いてもらわずに辞めてもらうことになっても、基本的には問題ありません。
また、
「60歳を超えた後の雇用については、1年間の有期契約とする。65歳になるまでは原則としてこれを毎年更新するが、能力が足りない従業員については、更新しない場合もある。」
と就業規則に定め、60歳以降の雇用については更新制としておくことも考えられます。
年齢だけを理由として、契約更新を行わないことには問題がありますが、能力が低いことを理由として雇用契約を更新しないことは許されるのです。
ただし、その場合も、
能力が低くて契約を更新できなかったということについて、後日争いになったときにきちんと説明できるように、記録を残しておくことが大切です。
60歳を超えて継続して働いてもらう従業員の選別基準の定め方がわからない
選別基準に達しなかった従業員が、定年後、会社に継続雇用を求めてきた
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